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"メルボルン規約" に向けた提案 VII(2010.09.03) これまで紹介してきた国際植物命名規約の改正案の中で, ラテン語記載不要論では学名の正式発表におけるラテン語記載/判別文の義務規定の撤廃が提案されました。 しかし実際の提案の中では非化石藻類と化石植物に関する条文改正が含まれていなかったため, Williams & Brodie (2010) は追加の改正案を提案しています。 前述の提案ではウィーン規約の 36.1 条の改正のみが提案され,非化石藻類のラテン語発表を義務づけた 36.2 条や化石植物のラテン語または英語発表を義務づけた 36.3 条の改正は提案していませんでした。 これらを除外する理由は見あたらないことから Williams & Brodie (2010) は非化石藻類に関わる 36.2 条を改正し, 非化石藻類についても記載/判別文の言語を限定しないことを提案しています。 36.1 条が改正される場合,これは当然の帰結と言えるでしょう。もちろん化石植物のみ言語を限定する理由はないはずですので, 実際の改正に際してはまだ提案されていない 36.3 条の改正も必要になるでしょう(36.1 条の改正が可決されればですが)。 Williams, D. M. & Brodie, J. (170) Proposal to eliminate the Latin requirement for the valid publication of names of non-fossil algae. Taxon 59, 1296 (2010). 過去の関連記事 |
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ペプチド合成の原始型発見か(2010.09.01)(→分子細胞学) |
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"メルボルン規約" に向けた提案 VI(2010.08.30) 引き続き国際植物命名規約の改正案についてですが("メルボルン規約" に向けた提案 I, II,III,IV,V), 今回は,Silva (2010) による藻類に関する提案を含む 3 つの提案を紹介いたします。 まず最初の提案は,藍藻類の「出発点」に関する改正案です。国際植物命名規約においては 1753 年 5 月 1 日(Linnaeus の Species Plantarum, 1st Edn.)以前に発表された学名は対象としないことになっています。 このような日付は出発点(starting point)と呼ばれ,生物群によっては 1753 年よりも後に出発点を持つものも規定されています。 非化石藻類の場合,ネンジュモ科(Nostocaceae)の Homocysteae は 1892 年 1 月 1 日,同科の Heterocysteae は 1886 年 1 月 1 日, チリモ科(Desmideae)が 1848 年 1 月 1 日,サヤミドロ科(Oedogoniaceae)が 1900 年 1 月 1 日とそれぞれ例外扱いされています (その他は 1753 年)。著者はこの内,ネンジュモ科に関する例外を撤廃するよう提案しています。 著者は過去にも同じ提案を繰り返してきたそうですが,今回新たに種名リストの問題を指摘しています。 ネンジュモ科 Homocysteae と Heterocysteae の出発点となる文献には調査された種名のリストが含まれていたそうで, このリスト中の学名が出発点に出版されたことになるのかどうかが曖昧になっているとのことです。 しかも藍藻類はシアノバクテリアとして原核生物の命名規約(国際細菌命名規約)で扱う立場もあり,混乱を来しています。 実は 2004 年に同様の提案をしたことを受けて特別委員会が設立されたそうですが,現状結論が提出されていないようなので, 今回再提案したとのことです。 次の提案は藻類の門,亜門の学名語尾に関する提案です。タイプに基づく門,亜門,綱,亜綱,目,亜目の学名の語尾は, 勧告 16A と 17.1 条で規定されています。菌類以外の門,亜門の語尾はそれぞれ "-phyta","-phytina" とすることになっていますが, 著者はこれらの修正を求めています。これらの語尾は元々ギリシャ語の "phyton"(植物)に由来しており, 狭義の植物とは系統的に異なる藻類にまでこの語尾を充てるのは不適切だとのことです。代わりに著者は藻類を意味する "phykos" に基づき,門と亜門の学名語尾を "-phycota" と "-phycotina" とすることを提案しています。 しかしこれは命名規約精神に照らすと不要な変更とも思われます。国際植物命名規約の前文 1 には,「(学名)を与える目的は, その群の特徴や由来を示すのではなく,その群を引用することの手段を与え,またその群の分類学上のランク(分類階級) を示すことである」とあります。この精神に基づけば,藻類が系統的に植物と区別されるとする「由来」の問題で語尾を変更することは, 検索エンジンなどを使ってその群を「引用する」手段を阻害することになりかねず,好ましくないと思われます。 最後に著者は付則の追加を提案しています。原則的に同じ綴りを持つ学名(同名)はより早く発表されたもののみが合法名になりますが, 極めて紛らわしい(近縁な分類群で,しかも綴りが酷似している)学名も同名として扱われることになっています(第 53 条)。 このような場合には,国際植物学会議で「両者が同名である」という,拘束力を持つ判断を得ることが出来ます。 ウィーン規約では 53 条の実例 8,17,18 にそのような同名が掲載されていますが,現状ではその完全なリストはありません。 そこで著者は,新たに付則 VIII としてこれらの拘束力のある同名をリストすることを提案しています。 確かにこのようなリストがあると便利ですが,もしあまり多数でないのであればわざわざ付則にする必要なく, 当面は実例として全ての判断を掲載してもよさそうな気がします。この点については命名規約の編集上の問題であり, あまり規約の本筋に関わる問題ではないでしょう。 Silva, P. C. (165-167) Miscellaneous proposals to amend the Code. Taxon 59, 1294 (2010). 過去の関連記事 |
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密度高く動物の基盤に迫る(2010.08.27) 基盤的な後生動物の系統関係を巡って多数の遺伝子を用いた系統解析が行われていますが, その中に後生動物の最初の分岐が有櫛動物であるとした研究がありました(動物系統を大量データで解析)。 これを否定する解析も出版されてきましたが(海綿もクラゲも単系統!?), 今回 Pick et al. (2010) は同じ配列データに多数の分類群を加えて再解析し, 後生動物の基部が有櫛動物ではなく海綿動物であることを示しました。 Dunn et al. (2008) は後生動物 71 分類群(または不安定な枝を除いた 58 分類群)150 遺伝子の系統解析を行い, 有櫛動物が後生動物の基部で分岐したことを示唆しました。この研究は分類群の数,遺伝子の数, 有櫛動物の系統的位置のいずれについても驚くべきものでした。しかし基盤的な後生動物の分類群数は乏しく, 例えば平板動物が含まれておらず,海綿動物にも石灰海綿や六放海綿が含まれていませんでした。 そこで Pick et al. (2010) は基盤的な後生動物のデータを大幅に追加して Dunn et al. (2008) の結果を検証しました。 今回の解析で追加されたのは海綿動物 12 種(主要な 4 系統群全てを含む),平板動物 1 種,有櫛動物 1 種,刺胞動物 5 種で, 基盤的な後生動物のかなりの系統が網羅されました。一方で著者らは遠い外群を用いることに反対の立場で, 菌類やアメービディウム類などを解析から除外し,襟鞭毛虫類のみを外群に含めました。 なお,Dunn et al. (2008) の解析で不安定とされた枝も除外されています (なので分類群は元々の 58 に新規 19,外群 3 を足した計 80)。 系統解析の結果,後生動物の最初の分岐は単系統の海綿動物であることが弱く支持され,有櫛動物が基部に来る樹形は棄却されました。 海綿動物の中では普通海綿と六放海綿が互いに近縁で,残る石灰海綿と同骨海綿の系統関係は解けませんでした。 有櫛動物,刺胞動物の単系統性はそれぞれ強く支持されましたが,平板動物も含めた 3 系統群と左右相称動物の関係は解けていません。 この結果は大筋でこれまでの系統解析と矛盾していません(動物基部の確かな系統群 前編, 後編)。さらに外群に菌類などを戻した系統解析でも今回の樹形が得られています(ただし支持率は異なる)。 一方,分類群を増やした今回の解析でも基盤的な後生動物の間の系統関係には未解決な部分が多く残されています。 著者らはこの原因として,Dunn et al. (2008) の用いた遺伝子のアミノ酸置換が飽和している可能性を検討しました。 ほぼ同じ著者らによる過去の系統解析のデータセット(海綿もクラゲも単系統!?)との比較から, Dunn et al. (2008) のデータは明らかに多重置換が進んでおり,系統解析のための情報が不足していることが示唆されます。 さて,データを改善したことで有櫛動物の位置が変化したことから,Dunn et al. (2008) の結果は不十分な分類群と不適切な遺伝子を用いたことによる誤りだったと考えられます。 著者らは系統解析に際して注意すべき問題として,多重置換,長枝誘引(long branch attraction),モデル選択, 外群選択などを挙げていて,後生動物の初期系統の解明に向けても分類群の充実と,これらの問題への慎重な検証が必要としています。 しかし既にこれまでの系統樹には主要な動物の系統群のゲノム規模の情報が反映されており, 系統解析の方法も改善の余地はそうありません。動物の初期系統関係が解決するまでに全く異なる方法論の開発も必要かもしれません。 Pick, K. S. et al. Improved phylogenomic taxon sampling noticeably affects nonbilaterian relationships. Mol. Biol. Evol. 27, 1983-1987 (2010). Dunn, C. W. et al. Broad phylogenomic sampling improves resolution of the animal tree of life. Nature 452, 745-749 (2008). 過去の関連記事 |
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植物の根源に近い原生動物発見?(2010.08.23) 一次共生植物の起源を巡っては様々な議論が展開されていますが, その一因として一次共生を行った原生動物の正体が全くわかっていないことが挙げられます。 そんな中で Yabuki et al. (2010) は一次共生植物またはハプト藻,クリプト藻などの系統に近縁な新規の原生動物 Palpitomonas bilix を報告し,一次共生の起源に迫る道を拓きました。 多くの二次共生藻類では近縁な非光合成性の原生動物が知られており,そこから祖先的な原生動物の姿が類推できます。 一方で一次共生植物(灰色植物,紅色植物,緑色植物)の系統はいずれも色素体を持った生物のみからなり, 姉妹群も特定されていません。一説にはハプト藻類やクリプト藻類などを含むハクロビア系統群(Hacrobia; 新種カタブレファリス類とハプト・クリプト生物群)が一次共生植物の姉妹群とも言われていますが, これは系統解析に用いられた EF-2 の水平遺伝子移動が原因とも指摘されています (二次共生藻の起源と進化を求めて 2)。 一方で著者らは,これまでに系統的位置が調べられていない原生動物に着目し,新たな培養株の収集を通じてこの問題に迫っています。 今回著者らが報告したのは 2 本の長い(約 20 µm)鞭毛を持った小型(径 3-8 µm)の捕食栄養性の原生動物で, 新属新種の Palpitomonas bilix と名付けられました。本種はパラオ共和国(赤道付近,ミクロネシア地域の島国) の沿岸で採集され,細菌を餌にして培養されています。光学顕微鏡観察によると,2 本の鞭毛は細胞の側面から生え, 前方の鞭毛が推進力を生み出しているようです。また本種は形態的に,ヒツジやヤギの排泄物から報告された Kamera lens と言う原生動物に似ているそうです。 詳細な電子顕微鏡観察から鞭毛根の構造に一部の緑色植物と似た点も見つかりましたが, 鞭毛と基底小体の境目には緑藻類に固有の星形構造はありませんでした。一方で前方の鞭毛には一列に並んだ二部構成の小毛 (mastigoneme)が付属しており,同様に二部構成の小毛を持つクリプト藻綱と対比されます (なおクリプト藻綱の姉妹群であるゴニオモナス綱は二部構成の管状小毛を持たない;Kugrens et al., 1987)。 ただしクリプト藻類の場合は長鞭毛に 2 列,短鞭毛に 1 列の管状小毛を持つ点で Palpitomonas とは異なります。 またミトコンドリアのクリステは板状で,この点でも一次共生植物やクリプト藻類と共通しています (なお,クリプト藻類以外のハクロビア系統群は管状のクリステを持つ)。 さて肝心の分子系統解析ですが,SSU rDNA 単独の分子系統解析では系統的位置が特定されませんでした。 興味深いことにこれまで報告されていた環境配列の中にも Palpitomonas に近縁なものはなく, 全く新しい系統群だったそうです。著者らはさらに SSU rDNA,LSU rDNA,α-チューブリン,β-チューブリン, HSP90,EF-2 の 6 遺伝子を用いた系統解析も行いました。その結果,Palpitomonas は一次共生植物とハクロビア系統群の構成する単系統群に含まれることが支持されています。 しかしこの系統群内部での系統的位置については EF-2 配列の有無などの影響を受けて変化し, AU 検定によっても明確な結論が得られていません。 正確な系統的位置が決定されなかったとは言え,Palpitomonas が系統的に極めて重要な生物であることは間違いありません。 本種の系統的位置が特定されれば,鞭毛の小毛,鞭毛根の構造, ミトコンドリアのクリステ,色素体の獲得などの進化順序について大きな手がかりとなるはずです。 そのためにはさらに多数の遺伝子を用いた系統解析が不可欠です。また Palpitomonas が色素体を祖先的に持たないのか, それとも二次的に失ったのかも気になるところであり,本種が藻類由来の遺伝子をどの程度持っているのかも問題です。 これらの疑問に答えるためには Palpitomonas のゲノム解析が期待されるところです。 Yabuki, A. Inagaki, Y. & Ishida, K. Palpitomonas bilix gen. et sp. nov.: A novel deep-branching heterotroph possibly related to Archaeplastida or Hacrobia. Protist 161, 523-538 (2010). Kugrens, P., Lee, R. E. & Andersen, R. A. Ultrastructural variations in cryptomonad flagella. J. Phycol. 23, 511-518 (1987). |
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"メルボルン規約" に向けた提案 V(2010.08.20) "メルボルン規約" に向けた提案 I,II, III,IV と来て,国際植物命名規約(ICBN)の改正案紹介第 5 弾です。 今回も前回と同じく菌類の命名に関わる提案で,菌類に限って学名の登録を義務づけることが提案されました (Hawksworth et al., 2010)。これは今回の改正案の中でも特に重要な提案と言えます。 現行のウィーン規約では学名を発表するために登録作業は必要ありません。 基本的には有効発表の要件を満たした出版物に正式発表の要件を満たして発表されれば, 学名として認められることになっています。そのため無名な出版物で公表された学名の周知が遅れることもあり, 最新の学名の一覧を作るのは必ずしも容易ではありません。 そこで特定のデータベースに学名の登録を義務づけることがこれまでも提案されてきました。 今回著者らは,2002 年の国際菌学会議(オスロ)で議論され,2004 年から稼働している MycoBank への事前登録を菌類の学名の正式発表の必要条件とすることを提案しました。 MycoBank は国際菌学会の運営する菌類の新学名を登録するオンライン上のシステムで,学名にまつわる文献情報,異名, 原記載文,タイプ情報などが登録できます。登録された学名はやはりオンライン上のデータベースである Index Fungorum と互換性のある固有の番号を振られ, 管理されることになります。新規に MycoBank に登録された学名情報は Index Fungorum にも自動的に転送されるため, Index Fungorum には古い学名情報と合わせてあらゆる学名の情報が蓄積されることになっています。 MycoBank は学名の登録制を見越して作られました。2005 年には発表された学名の 19% が登録されただけでしたが, この割合は年々上昇し,2007 年以降は 5 割以上の新学名が MycoBank に登録されているそうです。 また既に代表的な菌類学の専門誌では MycoBank への事前登録を論文受理の条件としており, 登録制に向けた下準備が出来ています。また 2007 年に 3 箇所の学会で行われた投票では 85% の菌学者が, MycoBank への登録を菌類の学名の正式発表の要件とすることに賛成したそうです。 著者らはこれらを背景として今回の提案をしています。具体的には,メルボルン会議の規約改正が発効する 2013 年 1 月 1 日以降,菌類として扱われる生物の新学名の正式発表の条件に, 原発表に MycoBank の番号を含めることを追加しようと提案しています。 なお著者らによると,データベースへの学名の登録に投稿原稿の提出が必要なくなった点と, 新学名の登録が著者によってしかできなくなった点で,以前の提案と異なっているそうです (2013年より前の学名をデータベースに登録するのは誰でも出来る)。 注意点としては MycoBank への登録は正式発表の必要条件ではあっても,十分条件にはならないこと, つまりこれまでの正式発表の要件は依然として満たさなければならないということです。 また有効出版の日付も登録日とは関係なく,出版物の流通日となります。 さらに今回の改正案では著者が登録作業を怠った,ないし偽った場合の扱いには言及されていません。 この場合,第 3 者が登録・論文発表を行おうとした場合や, それと最初の著者が競合した場合などに混乱が生じる恐れがあり,規約上整理する必要性を感じます。 ともあれ菌類の学名を登録制に移行させる場合,学名の管理や新学名の把握が非常に簡単になるでしょう。 一方で登録「だけ」されていない裸名が乱立する怖れもあり,命名規約の存在意義が問われる可能性もあります。 将来的に全生物の学名を単一の命名規約で扱えるようにするためには学名の登録制は不可避だと思われ (さもないと膨大な例外規定が必要になる), 他の植物の学名についても登録制を再検討するきっかけになるかもしれません (2000 年のセントルイス会議で 1 度否決されている)。 Hawksworth, D. L. et al. (117-119) Proposals to make the pre-publication deposit of key nomenclatural information in a recognized repository a requirement for valid publication of organisms treated as fungi under the Code. Taxon 59, 660-662 (2010). 過去の関連記事 |
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群体性への道もう一つ(2010.08.16)(→藻類学) |
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"メルボルン規約" に向けた提案 IV(2010.08.13) "メルボルン規約" に向けた提案 I,II, III に続く国際植物命名規約(ICBN)の改正案紹介の第 4 弾です。 今回は菌類を巡る 2 つの提案を紹介したいと思います(Hawksworth et al., 2009; Redhead et al., 2009)。 いずれも重要な改正案で,命名法のあり方に関わる内容です。 まず Hawksworth et al. (2009) は命名規約の名称変更と,規約改正への菌学会の関与を求めています。 現在の国際植物命名規約は「伝統的に植物として扱われる全生物」が対象となっており,類縁性とは関係なく, 系統的には動物に近縁な菌類も含まれています。また ICBN の改正は国際植物学会議における採択によってのみなされます。 しかし近年の菌類学者は国際植物学会議よりも国際菌学会議に出席する傾向が強く, ICBN を巡る議論への関与も減っているそうです。そのため菌類学者の間では菌類の命名規約を独立させる意見も出ており, 著者らは ICBN を改正することで妥協を目指しています。 提案されたのは主に 2 点で,まずは ICBN の正式名称を "International Code of Botanical Nomenclature" から "International Code of Botanical and Mycological Nomenclature"(国際植物・菌類命名規約)へと変更し, 規約中の表現も「植物」から「植物および菌類」などへと変更することを求めています。 2 点目として,常設命名法委員会のうち菌類委員会を国際植物分類学連合(IAPT)の下から国際菌学会 (International Mycological Association)の下に移管し,菌類にのみ関わる提案を, 国際菌学会の命名法部会における投票によって採択できるようにすることを求めています。 著者らは国際菌学会を代表して提案しており,これが受け入れられない場合に ICBN から独立して菌類独自の命名規約を設立することも仄めかしています。 学名の一元的な管理のために全ての生物を統一した命名規約が求められている一方で, 異なる学会が扱う生物について異なる規約を設定することにも合理的な部分があります。 ICBN には菌類のためだけの規定が多数存在しており,そのせいで複雑化している部分も否めません。 ここで著者らの提案を呑むか否かは,今後の生物命名法のあり方全体に問題を提起することになるでしょう。 命名規約の対象が特に問題になるのは,複数の命名規約の対象にまたがる生物や,歴史的に所属が変化した生物群です。 特に問題となったのが,これまで原生動物として扱われてきた微胞子虫類で, これは近年になって真菌類の一群であることが示されていました。そこで微胞子虫類は ICBN の対象になりましたが, 微胞子虫類の研究者が菌学者になったわけではありません。 彼らは結局のところ微胞子虫類を国際動物命名規約の下で扱っており,ICBN で扱うことは混乱の元でしかありません。 そこで著者らは微胞子虫類を明示的に ICBN の対象から除外することを提案しています。 ただし一度は ICBN の管轄に置かれたこともあり,微胞子虫類と同名となる植物の学名は引き続き非合法とされています。 微胞子虫類を巡る提案も極めて例外的な提案です。 これまで規約の条文には対象となる生物を明示的に除外するものはありませんでした。 確かに微胞子虫類を巡る混乱を回避するためには最も明確な方法ですが, 今後同様の問題が生じたときに個別に除外規定を作らなければならないとすれば返って厄介とも言えます。 全生物を統一した命名規約の実現が最も望ましい解決法ではありますが,これにはまだ時間がかかるでしょう。 これもどのような決着を迎えるのか注目したい提案です。 Hawksworth, D. L. et al. (016-020) Proposals to amend the Code to make clear that it covers the nomenclature of fungi, and to modify its governance with respect to names of organisms treated as fungi. Taxon 58, 658-659 (2009). Redhead, S. A., Kirk, P. M., Keeling, P. J. & Weiss, L. M. (048-051) Proposals to exclude the phylum Microsporidia from the Code. Taxon 58, 669 (2009). 過去の関連記事 |
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世にも稀なる病原性藻類(2010.08.11)(→藻類学) |
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"メルボルン規約" に向けた提案 III(2010.08.06) "メルボルン規約" に向けた提案 I,IIに続いて, 国際植物命名規約に対する改正案の紹介です。今回は代替名と呼ばれる特殊な学名を巡る改正案を紹介します (Alfarhan et al. (2010)。 植物の科名は原則として属名の語幹に "-aceae" を加えたもの,亜科の学名は "-oideae" を加えたもの, としてそれぞれ定められています(第18.1,19.1条)。しかし 9 科 1 亜科の学名については例外として, 伝統的に使用されてきた代替名を正式に発表された科名として使用することが認められています(第18.5,18.6,19.7)。 具体的にはキク科(Asteraceae/Compositae),アブラナ科(Brassicaceae/Cruciferae),イネ科(Poaceae/Gramineae), オトギリソウ科(Clusiaceae/Guttiferae),シソ科(Lamiaceae/Labiatae),ヤシ科(Arecaceae/Palmae), セリ科(Apiaceae/Umbelliferae),広義マメ科(Fabaceae/Leguminosae)とその中のマメ亜科 (Faboideae/Papilionoideae),あるいは広義マメ科を分割して亜科を科に格上げした場合の狭義マメ科 (Fabaceae/Papilionaceae)が代替名として認められています。ちなみに Papilionaceae は一見正しい語尾に見えますが, 語幹が属名に基づいていません。 しかし同じ科を指す学名が 2 つ以上(マメ科の場合には分類体系によって 3 つ)存在することは好ましくありません。 さらに APG III を初めとする近代的な分類体系では基本的に属名+ "-aceae" の科名が使われており, 代替名を認める必要性はかなり減少しています。そこで著者らはこの例外規定を撤廃し, 「Asteraceae ("Compositae")」のように括弧付きでのみ使えるようにすることを提案しています。 ウィーン規約には例外を規定する様々な条文があり,このことが規約を複雑にしています。 代替名についてはこれを排除することによって学名の適用に混乱が生じるとは考えにくく, 著者らの改正案は受け入れても良いように思われます。 ただし今まで正式に認められていた学名を遡って否定することはあまり好ましくありません。 代替名の場合にも本当に混乱が生じないのか慎重な検討が必要でしょう。 Alfarhan, A. H., Sivadasan, M., Thomas, J. & Samraoui, B. (110-114) Proposals to delete Articles 18.5, 18.6 and 19.7, replacing them with three Notes, and to provide consequent changes to App. IIB and to Articles 10.6, 11.1, 18.1, and 19.4. Taxon 59, 658-659 (2010). 過去の関連記事 |
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"メルボルン規約" に向けた提案 II(2010.08.04) "メルボルン規約" に向けた提案 Iに引き続き, タイプの指定に関わる改正案を 3 本紹介したいと思います(Mottram & Gorelick, 2008; Pathak & Bandyopadhyay, 2008; Kumar et al. 2009)。 現行の国際植物命名規約(ウィーン規約)において新種の学名が正式に発表されるためには, 原則として学名のタイプ標本がハーバリウム(植物標本館/植物標本室)などに保存されなければなりません (第37条など)。さらにウィーン規約の第37.7条には,正式発表されるために 「タイプが保存されている 1 つのハーバリウム,コレクション,または研究機関を明記しなければならない」 とあります。ところが研究者によっては論文が受理される前に標本を寄託することを嫌って, 論文の公開後まで(時に論文の公開後も)標本の現物をハーバリウムに送らないことがあります。 そこで Mottram & Gorelick (2008) は前述の第 37.7 条に, 「2012年1月1日以後,このタイプは新分類群の有効出版の以前に,特定された通りに預けられなければならない」 という文章を追加し,タイプの寄託が厳格になされることを求めています。 一方で Pathak & Bandyopadhyay (2008) の提案では強制力のある条文ではなく, 勧告の形でホロタイプを(予め寄託していない場合には)有効出版後に速やかに寄託することを求めています。 前者の場合,タイプ寄託の日付が学名の正式発表の可否を左右することになり,幾つかの問題が生じます。 まずタイプが送付された日付は論文の出版の日付に比べて確認しづらいため,正式発表の判断が難しくなります。 またウィーン規約では,タイプの寄託が論文の出版に遅れたとしてもタイプが寄託された時点で正式発表されますが, 前者の改正案の下ではタイプが寄託されても正式出版されず,改めて論文を出版する必要が生じます。 しかもその論文は元の論文の内容を単純に再掲するだけのものとなるため,単純に無駄です。 これらの点に注目すると,より弱い勧告の形をとっている後者の改正案の方が妥当に思われます。 次に Kumar et al. (2009) ではタイプ標本の寄託を義務づけていることの問題を指摘しています。 ウィーン規約では微小な藻類または微小菌類の場合を除いて, 新種または新種内分類群のタイプは標本でなければならない,と規定されています(第37.4条)。 ところが,保全上の目的などから植物体の採集が法的に規制される場合と, 図解のみが残され現物が再発見できない絶滅植物の場合には,新分類群であることが明らかであっても標本が残せません。 著者らはこのような場合にも学名の正式発表が出来るように, これらの場合には図解をタイプとして認めることを提案しています。 確かに著者らの指摘は当を得ており, 実際に動物の場合には保全上の観点から写真を基に新種の霊長類を記載した例があります (精霊が隠していた新種の猿)。 せっかくの新種であっても法規制のために記載できないのはあんまりですし, 新種記載で種の存続を脅かすのも本末転倒ですから,この提案は基本的に実現するべきでしょう。 タイプの指定は国際植物命名規約の根幹をなす重要な概念ですが,実務上の混乱も非常に多い部分です。 命名規約の改定によってより明確で厳密なタイプの取り扱いを規定することも重要ですが, 規約が複雑になり過ぎても混乱が生じます。そこである程度は研究者の裁量に任せることも必要になるため, 研究者の側からも規約に制限されている以上に誠意と慎重さを持って学名の記載取り扱いをすることが重要です。 Mottram, R. & Gorelick, R. (001) Proposal to require prior deposition of types. Taxon 57, 314 (2008). Pathak, M. K. & Bandyopadhyay, S. (005) Proposal to add a new Recommendation 37B. Taxon 57, 315-316 (2008). Kumar, P., Rawat, G. S. & Veldkamp, J. F. (038) Proposal to broaden the scope of Art. 37.5 allowing an illustration as a type when it is “impossible” to preserve a specimen. Taxon 58, 664-665 (2009). 過去の関連記事 |
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稀産クロロモナスと変わったピレノイド(2010.08.02)(→藻類学) |
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"メルボルン規約" に向けた提案 I(2010.07.26) ラテン語記載不要論で紹介したように, 国際植物命名規約(ICBN)の改正が来年に迫っています。 これまでに軽微なものから抜本的なものまで 154 の条文改正案が提案されていますが, その中で Nakada (2010) は培養株をタイプとして指定する場合の望ましい手続きについて提案しました。 (本論文は筆者が執筆したものです) 微細藻類の証拠保全で紹介したように, ICBN ウィーン規約(現行)の第 8.4 条では,藻類と菌類,それも「代謝的に不活性な状態」 で保管されている場合に限って培養株を新種などのタイプとして指定することを認めています。 一方で生きた状態で維持されている培養株はタイプして指定することは認められません。 タイプを正しく指定することは新分類群の記載において義務づけられているため, 仮に誤って生きた培養株をタイプに指定した場合,新分類群が正式に記載されない可能性があります。 ところが現状ではタイプとして指定された株が代謝的に不活性な状態で保存されているのか, それとも生きた状態で維持されているのかは明記する必要がありません。 その結果,単に株名のみを引用してタイプ指定した場合, 読者はその株の保存状態を保存機関や著者に直接確認しない限り,タイプ指定の有効性や, 引いては新分類群の正式性も判断できなくなります。 そこで著者は,藻類や菌類の株をタイプとして指定する場合, その保存状態を明記するように勧告することを提案しました。 この場合,保存状態が明記されていなくても保存状態を確認する手段がなくなるわけではありませんから, 条文の形で義務化する提案はしていませんが,強制力のない勧告として提示することによって, タイプ指定をする著者の指針として役に立つと思われます。 この提案が採択されるかどうかはまだわかりませんが, タイプ指定の際にその正当性を保証・宣言するのは論文の著者の責任であることに違いはありません。 もし今後,代謝的に不活性な株をタイプ指定する場合には, 是非とも保存状態を明記するように配慮して欲しいものです。 Nakada, T. (138) A proposal on the designation of cultures of fungi and algae as types. Taxon 59, 983 (2010). |
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ラテン語記載不要論(2010.07.07) 国際植物命名規約(ICBN)では,非化石植物の新分類群を命名する際に, ラテン語による記載または判別文を伴うことが義務づけられています(ウィーン規約[現行規約]第 36 条)。 しかし Figueiredo et al. (2010a) はこの規定に関して様々な問題点を指摘し, 併せて次回の規約改正においてラテン語規定を撤回する提案をしています (Figueiredo et al., 2010b)。 植物学(菌類や藻類も含む)で扱われる学名は ICBN に基づき管理されています。 ICBN は 6 年ごとに開催される国際植物学会議の場で改正されることになっており, 次回は 2011 年にオーストラリア・メルボルンで開催される予定です。 これに向けて様々な改正提案が提出されており,中には大きな変更を伴う提案もなされています。 ラテン語記載を巡る提案は中でも重要な提案の一つですが, これまでにも繰り返し提案と否決を繰り返してきた課題でもあります。 最近では 2005 年開催のウィーン会議においてもラテン語規定を撤廃する主旨の提案がなされ, 事前のメール投票で棄却されたそうです。 著者らによれば,過去の提案においてはラテン語規定の代わりに何らかの新たな規制が提案されていたため, これが改正案の採択の障害となっていたようです。例えばウィーン規約における提案では, ラテン語規定を撤廃する代わりに図の添付と新分類群である旨の明言が義務づけられていました。 特に図を義務づけることが好まれなかったと,著者らは指摘しています。 さらに著者らはこれまでに言われていたラテン語規定を擁護する見解をまとめ,個別に反論しています。 具体的には,1. 植物学の古典がラテン語で書かれており,ラテン語との接点を残す必要がある; 2. 代わりの言語を指定するのが難しい;3. マイナーな言語の記載文は読解が困難になる; 4. ラテン語は安定な言語で好ましい;5. ラテン語規定により安直な新分類群記載が防げる; 6. ラテン語なら民族を問わず平等に苦労する;7. 国際共同手段として必要,という見解を紹介しています。 反論として,ラテン語の知識が事実上不要になっていること(→1,7), 翻訳ソフトの発展により特定の言語を義務づける必要がなくなっていること(→2,3), そもそも植物学のラテン語は安定ではなく(→4),ラテン語の制限は返って植物学の発展の障害となること (→5,6)などが指摘されています。また国際動物命名規約では記載文の言語に制限がありませんが, そのことによる深刻な問題はないようなので,植物だけで必要性を訴えるのも無理があります。 そこで著者らはラテン語規定を撤廃し,代わりの言語も義務づけないことを提案しました。
この改正が通れば新種記載の速度も速まり,植物の多様性記載が進むことが期待されます。
ただし著者らは 筆者も研究上様々な言語の文献を訳す必要に迫られるのですが, ほとんどの言語の文献はウェブ上の無料翻訳プログラムで英語に訳せています (Google 翻訳など)。 これまで唯一ウェブ上で有用なプログラムが見つからなかったのがラテン語というのも,皮肉な話です。 Figueiredo, E., Moore, G. & Smith, G. F. Latin diagnosis: Time to let go. Taxon 59, 617-620 (2010a). Figueiredo, E., Moore, G. & Smith, G. F. (115-116) Proposals to eliminate the Latin requirement for the valid publication of plant names. Taxon 59, 659-660 (2010b). |
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ヒラタヒゲマワリの新種(2010.05.20)(→藻類学) |
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微細藻類の証拠保全(2010.05.11)(→藻類学) |
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中国における新種コナミドリムシ属の記載(2010.04.30)(→藻類学) |
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訃報 Armen Leonovich Takhtajan 博士死去(2010.04.27)(→その他) |
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雪上藻 47 年の謎に迫る(2010.04.22)(→藻類学) |
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新種ヤリミドリと進化の道筋(2010.04.20)(→藻類学) |
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被子植物の分類体系再編 III(2010.04.16) 被子植物の最新分類体系である APG III は植物学者が利用するために作られたもので, 合わせて綱〜上目の分類体系も発表されました(被子植物の分類体系再編 I, II)。 さらに Haston et al. (2009) は APG III に沿って植物資料などを並べる順序を提唱しています。 植物標本庫などにおいては植物資料を順に並べて管理する必要があります。 通常は植物資料を科ごとにまとめるため,科をどのような順で並べるのかが問題となりますが, この際にある程度類縁関係を反映した並び順であれば資料の探索や活用が容易になります。 一方で大量の植物資料を頻繁に並び替えるのは重労働であり,また機関ごとに並び順が異なるのも不便なため, 標準的な分類群の並び順が求められていました。 そこで著者らは系統樹に基づき,近縁な科同士が近傍に並ぶような科の配列を提唱しました。 著者らの配列ではアンボレラ科(Amborellaceae)からセリ科(Apiaceae/Umbelliferae)までの 413 科が番号付で並べられています。なお,近縁な科が近傍に並んでいるとは言え, 近傍に並んでいる科が必ずしも互いに近縁とは限らないことには注意が必要です。 例えば 1〜4 番は順に,アンボレラ科,ヒダテラ科(Hydatellaceae),ハゴロモモ科(Cabombaceae),スイレン科 (Nymphaeaceae)ですが,アンボレラ科(アンボレラ目)は他の被子植物全ての姉妹群と見られ, 隣のヒダテラ科から見ると最も類縁性の離れた科になります。一方でヒダテラ科,ハゴロモモ科, スイレン科は互いに近縁(同じスイレン目)であり,確かに近い位置に配置されています。 分類群に付けられた番号は原則として変更しないものとされ, 例えば 145 と 146 の間に新科などを挿入したい場合には "145a" や "145.01" といった合成数(composite number) を用いることが推奨されています。もっとも,後から合成数を追加するのは個々の機関ごとの判断になるでしょうから, この場合には統一性が無くなるかもしれません。 このような配列は科学的知見としてではなく実務上重要なもので, 大勢が利用することで初めて意味が出てくるものです。とは言え植物資料が大量にあるかぎり, 何らかの配置で並べなければならないことに違いはなく,APG III に合わせて速やかに発表されたことは重要です。 日々の研究においても,何かの名前を並べる際には標準的な並べ方がないか,あるいは最適な並べ方とは何か, と言うことを考えてみるのも面白いでしょう。 Haston, E., Richardson, J. E., Stevens, P. F., Chase, M. W. & Harris, D. J. The Linear Angiosperm Phylogeny Group (LAPG) III: A linear sequence of the familie in APG III. Bot. J. Linn. Soc. 161, 128-131 (2009). |
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被子植物の分類体系再編 II(2010.04.12) 被子植物の分類体系再編 I では被子植物の最新分類体系である APG III の概要を紹介しました。APG III では目〜科の分類のみを扱い, より上位の階級については対象外になっていましたが, APG III に対応するより上位のリンネ式分類体系は Chase & Reveal (2009) として同時に発表されました。 リンネ式分類体系では階級を用いて分類群の規模や系統的独立性を示すことが出来る反面, 階級の充て方に客観性が乏しく,階級も数が少ないために系統を反映しにくいことも指摘されています。 近年では Doweld (2001),Thorne & Reveal (2007),Takhtajan (2009) などが被子植物のリンネ式分類体系を発表していますが,いずれも単系統でない分類群を認めており, APG 分類体系に沿った系統分類体系は発表されていませんでした。 著者らによれば APG II で未確定だった系統関係の多くが APG III で解決したため, 今回初めてリンネ式の APG 分類体系を上位分類群に拡張できたそうです。 著者らの新しい分類体系は極めて革新的で,単系統群のみを分類群として認めています。 また全ての陸上植物をトクサ綱にまとめ,従来門〜綱とされてきた被子植物はモクレン亜綱に格下げされました。 被子植物の大部分は 16 上目に整理され,単子葉類に相当するユリ上目も他の双子葉類の上目と並列に扱われました。 基盤的な被子植物も例えばアンボレラ上目やスイレン上目として他の系統群と同等に扱われています。
特に印象的なのは,陸上植物をトクサ綱という低い階級に置いたことです。 これは近縁な藻類の分類の階級に配慮した結果のようです。著者らは緑色植物の分類として Lewis & McCourt (2004) の総説を引用しましたが,ここでは陸上植物を有胚植物綱(Embryophyceae)とし, 近縁な車軸藻綱や接合藻綱,コレオケーテ綱などと並べていました。著者らはこれに従ったわけですが, "Embryophyceae" は正式に記載されていないため,タイプに基づいた学名として今回はトクサ綱を採用しました。 陸上植物をトクサ綱とすると,被子植物を含む下位分類群は綱から目の間の階級で整理されることになります (目〜科の分類体系は APG III)。特に被子植物内部の主要な系統群の階級が問題になりますが, 一つの方法として,被子植物を分類群として認めず,7 つの亜綱(表中の真正双子葉類と, これに含まれない 6 上目に対応)に分割する案も議論されています。 しかしこの体系では 4 亜綱が各 1 目しか含まず,真正双子葉類にはさらに上目の分類が必要になるとしています。 著者らはこのような偏りのある体系は混乱を招くとして,被子植物をモクレン亜綱としてまとめ, 上目の分類を被子植物の最上位の内部分類とすることを選択しました。 しかし被子植物の目を上目のみでまとめた結果,真正双子葉類やマメ群,アオイ群,シソ群, キキョウ群といった系統群が分類体系に反映されなかった点には注意が必要です。 今回の分類体系はこれまでの分類体系と余りに異なるため,しばらくは議論の的になりそうです。 特に藻類の分類体系は未だに不安定であり,これを根拠に被子植物を亜綱にまで下げるのは乱暴です。 また今回の分類体系では前述の通りいくつかの系統群が分類群から除外されましたが, 被子植物を綱より上の階級で扱えば,綱,亜綱,上目などの分類階級を用いて表現することも可能になります。 著者らは内部分類群の数が偏ることを問題視しましたが,系統群ごとに多様性が異なるのは事実であり, 多様性の偏りを反映した分類体系こそ自然であるようにも思われます。 いずれにせよ今回の分類体系は単系統群のみを認めた被子植物の分類体系として革新的であり, 当面はこれを基準に分類体系の(特に階級の)修正がなされていくことになるでしょう。 Chase, M. W. & Reveal, J. L. A phylogenetic classification of the land plants to accompany APG III. Bot. J. Linn. Soc. 161, 122-127 (2009). Doweld, A. Prosyllabus Tracheophytorum (GEOS, Moscow, 2001). Lewis, L. A. & McCourt, R. M. Green algae and the origin of land plants. Am. J. Bot. 91, 1535-1556 (2004). Takhtajan, A. Flowering Plants, 2nd Edn. (Springer, 2009). Thorne, R. F. & Reveal, J. L. An updated classification of the class Magnoliopsida (“Angiospermae”). Bot. Rev. 73, 67-182 (2007). | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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被子植物の分類体系再編 I(2010.03.18) 近年,被子植物の標準的な分類体系とされているのが,通称 APG II と呼ばれる体系です。 これは被子植物の分類学者が作る国際グループ(the Angiosperm Phylogeny Group)による体系の第 2 段でしたが, その第 3 段となる APG III が出版されました(The Angiosperm Phylogeny Group, 2009)。 前回の APG II は 2003 年に発表され(The Angiosperm Phylogeny Group, 2003), 6 年間に渡って標準的な分類体系として参照されてきました。 ただし当時は分子系統が未研究の分類群も少なくなく,その後の分子系統解析により修正が進められていました。 APG III ではこれらを反映して,目と科の分類,そして系統仮説の改訂が行われました。 著者らは単系統群のみを分類群として認める系統分類体系の確立を目指しています。 その実現に向けて,1) 公式の分類群は単系統であること,2) 既に確立した分類群は維持すること, 3) 分類群の大きさにも配慮すること,そして 4) 分類群の変更が最小限であること,を原則として APG II の修正を行いました。そして大きく分けて以下の 5 点の修正が施されました。 第 1 に,これまでの APG 分類体系で一部の科に認められていた広義と狭義の二重定義が撤廃されました。 これまでいずれの定義を採用するかは利用者に委ねられていましたが,このことが返って混乱をもたらしていました。 そこで APG III では Mabberley (2008) などの標準的な文献を参考に,主に広義の定義に統一しました。 第 2 に,これまで所属不明だった科の系統的位置がここ数年で明らかになったため, 新たな目(センリョウ目やピクラムニア目など)が認められるようになりました。 ちなみに APG II では 15 属と 3 科の植物が位置不明とされていましたが, APG III ではアポダンテス科(Apodanthaceae),シノモリウム科(Cynomoriaceae),Gumillea, Petenaea,Nicobariodendron の 2 科と 3 属のみが位置不明とされています。 第 3 に,やはり分子系統解析の進展に基づき,幾つかの属や科の配置が修正されました (例えばヒダテラ科がイネ目からスイレン目に移された;ヒダテラに脚光を)。 第 4 に,研究者の評価が変化した幾つかの科について,その範囲が変更されました。 そして最後に,APG II で提唱された科の範囲が実際の用例に即していなかった場合,修正が加えられました。 例えば広義のアブラナ科(Brassicaceae)が,アブラナ科,フウチョウソウ科(Cleomaceae),フウチョウボク科 (Capparaceae)の 3 科に分割されました。 論文中には分類体系の背景となる系統仮説も提示されています。APG II の系統仮説と大きく異なる点としては, 単子葉植物と近縁だと考えられていたモクレン群(magnoliids)とセンリョウ目/科が, 被子植物の中でより基部に位置することが認められた点,単子葉植物の内部の系統関係の解明が進んだ点, 中核真正双子葉類(core eudicots)のメギモドキ科(Berberidopsidaceae),アエクストキシコン科 (Aextoxicaceae),ビワモドキ科(Dilleniaceae),ナデシコ目,ビャクダン目などの系統的位置が特定された点, 同様にバラ群(rosids)のクロッソソマ目,フウロソウ目,フトモモ目がアオイ群(malvids)に含められた点, などが挙げられます。また APG II で第 1,第 2 真正バラ群(eurosids I,II),第 1,第 2 真正キク群 (euasterids I,II)などと番号で呼ばれていた群が,それぞれマメ群(fabids),アオイ群,シソ群(lamiids), キキョウ群(campanulids)と植物の名称に基づく群名に改められました。 -------------------------------------------------------アンボレラ目| | ----------------------------------------------------スイレン目 ------| | | | -------------------------------------------------アウストロバイレヤ目 ---| | | | -------モクレン群 ---| ---------------------------------------| | | -------センリョウ目 | | ---| -------------------------------------------単子葉植物 | | | | ----------------------------------------マツモ目 ---| | | | -------------------------------------キンポウゲ目 ---| | | | ----------------------------------アワブキ科 | | | ---| |---------------------------------ヤマモガシ目 真正双子葉類 | | | | -------------------------------ツゲ目 ---| | | |------------------------------ヤマグルマ目 | | | | ----------------------------グンネラ目 ---| | | | -------マメ群(旧第 1 真正バラ群) | | バラ群 ---| | | ---| -------アオイ群(旧第 2 真正バラ群) ---| | | 中核真正双子葉類 | ------------| ----------ブドウ目 | | | | | -------------ユキノシタ目 | | ---|------------------------ビワモドキ科 | | ----------------------ベルベリドプシス目 | | ---| -------------------ビャクダン目 | | ---| ----------------ナデシコ目 | | ---| -------------ミズキ目 | | ---| ----------ツツジ目 キク群 | | ---| -------シソ群(旧第 1 真正キク群) ---| -------キキョウ群(旧第 2 真正キク群) このように細かい点では多数の修正が施されていますが,根本的な方針そのものは APG II から引き継がれており, 直ぐにでも受け入れられることでしょう。むしろ問題なのは本論文で扱われていない,目より上位の分類体系です。 この論文と同時に公開された 2 本の論文では APG III に基づく分類体系や科の配置案が提案されていますので, 次回はそれらの論文を紹介したいと思います。 The Angiosperm Phylogeny Group. An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG III. Bot. J. Linn. Soc. 161, 105-121 (2009). Mabberley, D. J. Mabberley's Plant-Book: A Portable Dictionary of Plants, their Classification and Uses, 3rd Edn. (Cambridge University Press, Cambridge, 2008). The Angiosperm Phylogeny Group. An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG II. Bot. J. Linn. Soc. 141, 399-436 (2003). |
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鞭毛の付け根が離れる進化(2010.03.11)(→藻類学) |
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新種カタブレファリス類とハプト・クリプト生物群(2010.01.28)(→藻類学) |
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続報:謎のキャビア寄生虫の正体(2010.01.19) 謎のキャビア寄生虫の正体ではチョウザメ類の卵に細胞内寄生する Polypodium hydriforme という動物の分子系統解析を紹介しました。ところがこの研究で用いられた 28S rDNA の配列が刺胞動物門ヒドロ虫綱の Obelia 属の配列の汚染であったことがわかったそうです (Evans et al., 2009)。 著者らによると,一部の実験に使った試薬が汚染されていたそうで,Polypodium の 28S rDNA 配列以外には問題はなかったそうです。特に 18S rDNA は 2 つの実験室で別々の試薬を用いて解析されており, 過去に発表された配列とも類似していたことから汚染の恐れはないとしています。 元の論文では 2 遺伝子の系統解析から Polypodium がヒドロ虫綱レプトテカータ目に含まれる可能性が 示唆されていましたが,これは Obelia(レプトテカータ目)の配列が原因と思われます。 18S rDNA の結果については訂正の必要はなく,粘液胞子虫類を除いた解析で Polypodium は水母亜門, 少なくとも刺胞動物には含まれていました(ただしブートストラップ値は 83%)。 一方で誤った 2 遺伝子解析とは異なり,ヒドロ虫綱からは 100% のブートストラップ値で除外されていましたので, Polypodium を独自のポリポディウム綱(Polypodiozoa)に位置づける分類も再び支持されそうです。 DNA の汚染により定説を覆すような結果が導かれ,長年これが発覚しないことは少なからず起こっています (例えば珍渦虫の衝撃)。純粋培養が困難で入手が難しい動物の場合, 特に汚染が起こりやすいようです。また注目を集める生物であれば検証も進みますが, あまり有名でない生物の場合,しかも配列の一部が誤っている場合などは発見がさらに遅れる恐れがあります (オオヒゲマワリの配列全部解析)。 実験の際に汚染に注意し,違和感のある結果が得られたときには再解析もためらわず行うと共に, データベース上の配列を利用する側も誤った配列が登録されている可能性を常に念頭に置くべきでしょう。 Evans, N. M., Lindner, A., Raikova, E. V., Collins, A. G. & Cartwright, P. Correction: Phylogenetic placement of the enigmatic parasite, Polypodium hydriforme, within the Phylum Cnidaria. BMC Evol. Biol. 9, 165 (2009). 過去の関連記事 |
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緑藻類の殻の進化(2010.01.13)(→藻類学) |
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命名規約の二重性問題 後編(2010.01.11) 前編では,動物規約の下で後続同名となる多数の鞭毛藻類に対して, 新置換名を提案した研究を紹介しました(命名規約の二重性問題 前編)。 しかし Nakada (2010) はこれらの後続同名と新置換名のうち ambiregnal names について, 植物規約の下で記載された学名を含めた総合的な見直しを行いました。(本論文は筆者が執筆したものです) Özdikmen (2009) が指摘した後続同名のうち,14 属と 1 科は ambiregnal names でした。 そこで著者は,提唱された新置換名の扱いを動物規約と植物規約それぞれの下で整理しました。 まず 11 属については動物規約の下で確かに新置換名が必要でしたが,先行同名となる植物は存在せず, 植物規約の下では元の学名が維持されることが確認されました。一方で Goniodoma / Yesevius, Normandia / Zugelia,および Dinema / Elifa の 3 属では状況が異なりました。 Özdikmen (2009) は渦鞭毛虫(藻)類の Goniodoma Stein, 1883 を Goniodoma Zeller, 1849 の後続同名であるとして Yesevius という新置換名を提唱しました。 しかし Goniodoma Stein のタイプ種 G. acuminatus は Loeblich, Jr & Loeblich III (1966) によって Heteraulacus Diesing, 1850 のタイプとして後から指定されました。 これによって Goniodoma Stein は Heteraulacus の異名となってしまいました。 Heteraulacus については動物規約の下でも同名にはならないことから,動物・植物いずれの規約の下でも, Goniodoma Stein や Yesevius(当然タイプ種は Y. acuminatus)は異名として扱われ, Heteraulacus だけが正しい学名となります。 しかも状況はさらに混乱していました。Goniodoma Stein に含まれた藻類の一部は,現在 Triadinium Dodge, 1981 に移されています。これは植物規約の下では正名でしたが,動物規約の下では Triadinium Fiorentini, 1890 の後続同名でした。Özdikmen (2009) は Triadinium Dodge を Goniodoma / Yesevius の異名とみなして注目していませんでしたが, Triadinium を別属とするなら動物規約の下での新置換名が必要になります。 そこで Nakada (2010) は動物規約の下での学名として Pyrrhotriadinium を提案し,問題を解決しました。 次に,Normandia Pic, 1900 の後続同名とされた Normandia Zügel, 1994(渦鞭毛虫) に対して,Özdikmen (2009) は新置換名の Zugelia を提案していました。 面白いことに,Normandia Zügel は植物規約の下でも Normandia Hooker, 1872 (双子葉植物アカネ科)に対して後続同名となり,植物規約の下でも新置換名が必要だったことがわかりました。 Zugelia は植物規約の下でも使用できるため,期せずして両方の規約の下で正しい学名となります。 最後に,Dinema Perty, 1852(ユーグレナ類)も,動物規約の下で Dinema Fairmaire, 1849 (昆虫類甲虫目)の後続同名である上に,植物規約の下で Dinema Lindley, 1831(単子葉植物ラン科) の後続同名であることが指摘されました。Özdikmen (2009) は動物規約にのみ着目して新置換名 Elifa を提案しましたが,実は藻類学者の Silva (1960) が新名 Dinematomonas を提唱していました。 この学名は動物規約の下でも新置換名の役割を果たすため,Özdikmen (2009) による Elifa の提唱は必要なかったことがわかりました。 一つの生物が命名規約ごとに異なる学名を持つという問題が解決されるためには命名規約の改正や統一が必要となり, 当面は実現しそうにありません。しかし新たな混乱をもたらさないために,これから新属を記載する分類学者は, 動物,植物を問わず同名の有無を慎重に確認しなければなりません。 その一方で,今回の研究のように同名関係を整理する地道な仕事もまだまだ必要でしょう。 Nakada, T. Nomenclatural notes on some ambiregnal generic names (comments to Özdikmen, 2009). Mun. Ent. Zool. 5, 204-208 (2010). Loeblich, Jr., A. R. & Loeblich III, A. R. Index to the genera, subgenera, and sectioons of the Pyrrhophyta. Studies in Tropical Oceanography 3, 1-94 (1966). Özdikmen, H. Substitute names for some unicellular animal taxa (Protozoa). Mun. Ent. Zool. 4, 233-256 (2009). Silva, P. C. Remarks on algal nomenclature. III. Taxon 9, 18-25 (1960). 過去の関連記事 |
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命名規約の二重性問題 前編(2010.01.08) 生物の学名は国際的な命名規約に基いて管理されています。 例えば異なる生物が同じ学名を持つこと(同名)は各命名規約により禁じられており, 後からつけられた同名には代わりの学名がつけられることになっています。 例えば Krell & Shabakin (2008) や Özdikmen (2009) は原生生物に見つかった同名を整理しています。 生物の命名規約としては現在,国際植物命名規約(ICBN;以下「植物規約」),国際動物命名規約(ICZN; 以下「動物規約」),国際細菌命名規約(ICNB;以下「細菌規約」)の 3 つの命名規約が存在しています。 いずれの規約も同名を禁じていますが,植物規約と動物規約は独立で,動物と同じ学名の植物や, その逆も許されています。ここでややこしいのが動物学者と植物学者の双方が研究する生物です。 例えばミドリムシの仲間(ユーグレナ類)は原生動物の鞭毛虫とされることもあれば, 鞭毛藻類として植物扱いされることもあります。このような 2 つの命名規約にまたがって管理される学名は "ambiregnal names" と呼ばれ,しばしば命名規約上の混乱を引き起こします。 Krell & Shabalin (2008) は,カイアシ類(節足動物門甲殻類)の寄生虫である Parastasia Michajłow, 1972(ユーグレナ類)が動物規約の下では甲虫の仲間の Parastasia Westwood, 1841 の後続同名であることを指摘しました。Parastasia Michajłow を動物として扱う場合, この学名は動物規約の下で無効名となります。そこで著者らは本属を動物として扱うために, 新置換名 Michajlowastasia を提案し,本属に含まれる 17 種 1 変種の学名を組み換えました。 この結果,本属を動物として扱うならば Michajlowastasia が正しい学名となり, 植物(藻類)として扱うならば Parastasia が正しい学名ということになりました (同じ学名の植物はこれまで記載されていないため)。 Özdikmen (2009) は動物規約の下で同名となる原生動物をさらに大規模に探索しました。 この論文では 46 属と 2 亜属の原生動物が後続同名であることがわかり,その全てと, 関連する 3 科 1 亜科に対して新置換名が提案されました。 その多くは原生動物としての扱いが定着しているため特に問題はありませんが, 14 属と 1 科の学名は植物規約でも扱われる ambiregnal names でした(渦鞭毛虫類;Durotrigia → Baileyella,Edwardsiella → Novedwardsiella,Fentonia → Neofentonia, Gippslandia → Neogippslandia,Goniodoma → Yesevius,Herdmania → Dodgeia,Normandia → Zugelia,Suessia → Baserus,Suessiidae → Baseridae,Wanneria → Belowius,ディクティオカ藻類;Hannaites → Akbuluta, クリプト藻類;Hanusia → Phia,緑藻類;Lundiella → Yildizia, ユーグレナ藻類;Dinema → Elifa,Metanema → Semihia)。 このように多数の学名が訂正を必要とした原因としては,分類研究者,特に藻類学者が, 動物の学名に十分配慮せずに学名をつけたことがあるのかもしれません。 現在では学名のデータベースも充実してきており,またインターネット上で単純に検索するだけでも, 同じ学名が既に記載されているかどうか簡単に調べることができます。 特に注意を要する分類群としては,植物と動物の両規約で扱われる鞭毛藻類やアメーバ性の藻類, 二次的に光合成能を失った藻類,粘菌類など,そして植物と細菌の規約で扱われるシアノバクテリア(藍藻類) が挙げられます。これらの分類群の研究者は特に注意が必要でしょう。 さて藻類学者だけでなく,ambiregnal names を扱う動物学者もまた植物との同名関係に注意が必要です。 Özdikmen (2009) は動物学者として鞭毛藻類の学名に新置換名を提案しましたが, 彼は植物規約の下での学名には言及していません。特に 2 つの学名(Goniodoma / Yesevius, Dinema / Elifa)については新置換名が不要であることを,そして別の学名 (Normandia / Zugelia)については植物規約の下でも訂正が必要だったことを見落としていたようです。 そこで後編ではこれらの問題の詳細について紹介したいと思います。 Krell, F.-T. & Shabalin, S. Michajlowastasia nom. nov. for the parasitic euglenoid genus Parastasia Michajłow, 1972 (Euglenozoa: Eugleoidina: Astasiidae). Syst. Parasitol. 71, 49-52 (2008). Özdikmen, H. Substitute names for some unicellular animal taxa (Protozoa). Mun. Ent. Zool. 4, 233-256 (2009). 過去の関連記事 |
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灰色藻・ハプト藻の本当の居場所(2010.01.06)(→藻類学) |
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クラミドモナスの種の境界(2009.12.25)(→藻類学) |
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謎の粘菌の分子系統 II(2009.11.20) 所属不明の粘菌とされていた Semimorula の分子系統について最近紹介しましたが (謎の粘菌の分子系統 I),細胞が凝集して子実体を形成する細胞性粘菌の 1 種, Fonticula alba の分子系統もまた最近になって明らかにされました(Brown et al., 2009)。 そして Fonticula は既知のいずれの細胞性粘菌とも異なる後方鞭毛類の仲間であることが示されました。 細胞性粘菌にはこれまで大きく 2 つの系統群が認められてきました。一つがタマホコリカビ類(dictyostelids)で, もう一方がアクラシス類(acrasids)です。タマホコリカビ類がアメーバ動物類の一群であるのに対して, アクラシス類はエクスカヴァータ類のヘテロロボセア類(Heterolobosea)に含まれます。 Fonticula alba は 1979 年に記載されて以降,発見例のない極めて稀な細胞性粘菌で, アメーバ細胞が糸状擬足を持つ点でタマホコリカビ類に似ていますが, 移動体を作らない点やミトコンドリアクリステが盤状である点,子実体の形態がアクラシス類と似ているため (タマホコリカビ類は管状のミトコンドリアクリステを持つ)その所属が定かではありませんでした。 そこで著者らは原記載時の培養株の分子系統解析を初めて行い,その系統的位置を調べました。 SSU rRNA の塩基配列とアクチン,β-チューブリン,EF1α,Hsp70c の系統解析から, F. alba は糸状擬足を持つアメーバの Nuclearia と近縁であることが強い支持率で示されました。 両者の近縁性は糸状擬足とミトコンドリアの盤状クリステの存在によって既に指摘されており(Cavalier-Smith, 1993), 同一の亜綱(Cristidiscoidia;Cavalier-Smith, 1993),綱(Cristidiscoidea;Cavalier-Smith, 1998), 亜門(Cristidiscoidia;Cavalier-Smith, 2009)などにまとめられてきました。 また 4 種 6 配列の Nuclearia の SSU rRNA 配列を含んだ系統解析からは,F. alba が Nuclearia から派生したのではなく,その姉妹群となることが示されました。 このクリスティディスコイデア綱は真菌類の姉妹群となり,後方鞭毛類に含まれました。 F. alba の EF1α が後方鞭毛類に固有とされる 12 アミノ酸の挿入配列を持っていることからも, 本種の後方鞭毛類への所属は裏付けられています。F. alba の系統的位置は AU 検定によっても検証されましたが, 後方鞭毛類の中での位置は完全には解けませんでした。しかし事後確率やブートストラップ値などからは, クリスティディスコイデア綱の単系統性や,この綱の真菌類との姉妹群関係が強く支持されているため, 著者らはこの系統関係が正しいと考え,真菌類とクリスティディスコイデア綱を合わせて Nucletmycea 系統群と呼ぶことを提案しています。 -------Fonticula alba-------| -------| -------Nuclearia | | ------| --------------真菌類 | ---------------------Holozoa(後生動物,近縁な襟鞭毛動物類など) 著者らはこれらの結果を受けて,Fonticula alba が後方鞭毛類の中で独自の多細胞化を実現した生物として, 特に注目しています。後方鞭毛類の中では胚発生による後生動物の多細胞化,菌糸形成による真菌類の多細胞化, そして群体形成による襟鞭毛虫類の多細胞化が知られていましたが,細胞が凝集して子実体形成する多細胞化は, F. alba が最初の例になるそうです(これを多細胞と呼べるか疑問はあるとしても)。 一方で子実体形成を行うアメーバ類,すなわち粘菌類としても変形菌類,タマホコリカビ類, アクラシス類に続く第 4 の例として注目されます。全く異なるアメーバの系統で子実体形成が繰り返し進化したことは, 子実体形成に大きな利益があることを示唆しています。この利点は未だ十分に議論されたとは思えませんが, F. alba の研究が手がかりを与えてくれるかもしれません。 Brown, M. W., Spiegel, F. W. & Silberman, J. D. Phylogeny of the “forgotten” cellular slime mold, Fonticula alba, reveals a key evolutionary branch within Opisthokonta. Mol. Biol. Evol. 26, 2699-2709 (2009). Cavalier-Smith, T. Kingdom Protozoa and its 18 phyla. Microbiol. Rev. 57, 953-994 (1993). Cavalier-Smith, T. in Evolutionary Relationships among Protozoa (eds. Coombs, G. H., Vickerman, K., Sleigh, M. A. & Warren, A.) 375-407 (Chapman & Hall, London, 1998). Cavalier-Smith, T. Megaphylogeny, cell body plans, adaptive zones: Causes and timing of eukaryote basal radiations. J. Eukaryot. Microbiol. 56, 26-33 (2009). 過去の関連記事 |
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全生物の分類(2009.11.17) 生物の分類体系とは,各生物群を扱った研究,あるいは大系統の研究を集約した成果となるべきものです。 様々な生物群で形態に基づく伝統的な分類体系が分子系統に基づく体系へと刷新されていく中で, これをまとめ上げた生物全体の分類体系もまた刷新が進められています。 Shipunov (2009) は近年の分子系統分類体系を独自の視点で整理し,全生物の界から綱までの分類体系を提唱しています。 現在でも用いられている界〜種のような階層的な分類体系はリンネによる「自然の体系(Systema Naturae)」 の初版によって確立されました(Linnaeus, 1735)。そして著者はこれまで現代版の「自然の体系」をまとめ, ウェブ上で公開してきました(Systema Naturae)。このサイトでは著者の分類体系が更新され続けていますが, 2009 年 4 月に公開された 5.8020 版が今回の論文として出版されました。 著者の体系では現生の細胞生物全てが対象となっており,可能な限り最新の情報を取り入れて構築されています。 この体系では最上位の分類階級として界(kingdom)が採用されており,モネラ界(Monera),植物界(Vegetabilia), 原生生物界(Protista),動物界(Animalia)の 4 界に分類されています。一方でドメイン(domain) を最上位とする分類も代替的な分類として示されています。この場合,モネラ界は真正細菌ドメイン(Bacteria) と古細菌ドメイン(Archaea)の 2 ドメインに対応し,原生生物界のうち植物界に近縁なものと植物界を合わせた系統群, すなわちバイコンタ類は "汎植物ドメイン"(Panplantae)に,動物界に近縁な原生生物界と動物界を合わせた系統群, すなわちユニコンタ類(アメーバ動物類も含む)は "汎動物ドメイン"(Pananimalia)に分類されるそうです。
全体的な傾向としては,この体系は他の多くの分類体系と同様に形態分類と分子系統の折衷的な体系となっています。 やや特徴的な点としては全ての分類群を記号的に扱おうとしていることが挙げられます。 著者は全ての分類群を「designator(上付)+タイプ属名」だけで表記する方法も提案し,これを併記しています。 Designator とは,個体を 0,種を 1,属を 2,科を 3,などとして最上位の界を 7 とする数字で, 二次的な階級には少数値を与えています(例えば上科は 3.2,亜科は 2.8,下科は 2.5 など)。 この記法ではモネラ界はタイプ属とされた Bacillus を基に "7Bacillus" と表記されます。 ただ直感的にはわかりにくく,この記法が定着するかどうかは疑問です。 またタイプ属が必ずしも命名規約に従っていないことも問題です。 今回の分類体系には際だって独自の部分はなく,その割に定番の分類体系や命名規約などを無視している点も多いため, 実用性には疑問もあります。特に著者がそれぞれの分類体系を採用し,あるいは改変した根拠が詳細に議論されていないため, 単純に著者の体系に従うわけに行かないという問題点も指摘できるでしょう (膨大な参照文献は前述のウェブサイトに挙げられている)。 一方で新たな系統仮説や分類体系が日々提唱され続けている中ではウェブ上で即応できる分類体系を維持することも重要です (というか本サイトでも分類表を更新し続けている)。著者の分類体系を受け入れるかどうかはともかくとして, 生物の分類体系を俯瞰する便利な資料として注目には値するでしょう。 Shipunov, A. B. Systema Naturae or the outline of living world classification. Protistology 6, 3-13 (2009). Linnaeus, C. Systema Naturae sive Regna Tria Naturae Systematice Proposita per Classes, Ordines, Genera, & Species (Haak, Leyden, 1735). 過去の関連記事 |
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謎の粘菌の分子系統 I(2009.11.12) アメーバ細胞で運動し,子実体を作る生物を粘菌と総称しますが, この中には系統的に様々な生物が含まれます。しかしその分子系統学的研究は遅れており, 中には所属が謎に包まれた粘菌も存在しました。Fiore-Donno et al. (2009) はそんな謎の粘菌 Semimorula の分子系統を初めて解析し,この粘菌が変形菌(真正粘菌)の中のハリホコリ目に属することを示しました。 Semimorula liquescens は Haskins et al. (1983) によってエゾミソハギ(Lythrum salicaria) やアキノキリンソウ属(Solidago)の一種の果実序から分離され, 変形菌か原生粘菌に近縁な新属として記載されました。S. liquescens は原変形体と呼ばれる微小な変形体を作り, ここから柄のない半球状の子実体を生じます。子実体は 0.05mm と非常に小型で,通常 20-30 個の胞子を含みます。 胞子は走査電子顕微鏡で見ても平滑で,発芽の時に胞子壁が割れたり穿孔せず,溶解することが最大の特徴です。 本種は非常に小型なため報告例はほとんどありませんが,最初に報告されたアメリカ, ワシントン州のカークランドとシアトルからは繰り返し分離されているそうで,培養株も確立されています。 そこで著者らは培養株より SSU rRNA と EF-1α の配列を決定し,系統解析を行いました。
分子系統解析の結果,S. liquescens は明らかに変形菌類に属しました。 S. liquescens の生活史や微細構造も変形菌類であることを支持しているそうですが, 胞子の発芽時に胞子壁が溶解する種は変形菌としては初めてになります。 変形菌類にはこれまで 5-6 目が知られていましたが,その中で S. liquescens はハリホコリ目(Echinosteliales) に属していました。ハリホコリ目にはこれまで 3 属が含まれていましたが, いずれも微小な原変形体と子実体を作る点で S. liquescens と共通しています。 その一方で他のハリホコリ目は子実体が柄を持っている点や胞子の表面に修飾構造(いぼ状構造) を持っている点で S. liquescens と異なっています。 今回の解析ではハリホコリ目からはハリホコリ属(Echinostelium)の 3 種(タイプ種のハリホコリ E. minutum,E. coelocephalum,カワハリホコリ E. arboreum)のみが含められ,ハリホコリと E. coelocephalum が互いに姉妹群となりました。S. liquescens はこれらと近縁となり, カワハリホコリは他のハリホコリ属とは分かれました。カワハリホコリはハリホコリ属の中では例外的に子嚢壁が残存性で (子実体が成熟しても子嚢壁に包まれる),将来はハリホコリ属から分けられるかもしれません。 さて,S. liquescens はハリホコリ目としては初めて柄のない種類となりました。 これは本種が子実体の柄を形成する能力を喪失した種であることを示唆しており, 子実体の形態形成を考える好例となるかも知れません。 Semimorula は変形菌か原生粘菌か謎の生物として記載されました。しかし培養株は維持されており, 最近まで分子系統が調べられていなかったことが不思議でもあります。様々な生物において興味深い生物の分子系統が, 容易に調べられるにもかかわらず放置されていることは少なくなく,今回の研究のようなまめな研究が望まれています。 Fiore-Donno, A. M., Haskins, E. F., Pawlowski, J. & Cavalier-Smith, T. Semimorula liquescens is a modified echinostelid myxomycete (Mycetozoa). Mycologia 101, 773-776 (2009). Haskins, E. F., McGuinness, M. D. & Berry, C. S. Semimorula: New genus with myxomycete and protostelid affinities. Mycologia 75, 153-158 (1983). |
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海綿単系統への異論(2009.11.05) 海綿動物が単系統であるか側系統であるかは議論が続いている重要な問題です。 海綿もクラゲも単系統!?では海綿動物が単系統になるとの説を紹介しましたが, Sperling et al. (2009) は異なる遺伝子情報を用いて海綿動物が側系統になるとの異説を推しています。 水溝系を用いて餌を取り込む海綿動物独自の捕食様式が海綿動物の共有派生形質なのか あるいは後生動物の祖先形質なのかは,海綿動物が単系統か側系統かによって解釈が変わってきます。 海綿もクラゲも単系統!?で紹介した研究では,全ての基盤的な後生動物について EST 情報などを含めた 128 遺伝子の系統解析を行いました。一方で今回の著者らは特に核コードのハウスキーピング遺伝子のアミノ酸配列に着目し, 7 遺伝子の系統解析を行いました。また著者らは 29 種類の海綿動物を複数遺伝子で初めて解析した点を強調しています (Sperling et al., 2007 から種数を拡大したもの;動物基部の確かな系統群 前編)。 なお,海綿動物の主要な 4 系統は全て 2 種以上含んでいますが,有櫛動物は解析に含まれていません。 著者らは様々なアミノ酸置換モデルの下でベイズ法による系統解析を進めました。 その結果,刺胞動物か平板動物が左右相称動物の姉妹群となり,同骨海綿類がこれに近縁となりました。 石灰海綿や普通海綿,六放海綿類の関係は必ずしも全ての解析で一致していませんが, 海綿動物が単系統になることはありませんでした。 -------左右相称動物| -------|------刺胞動物 | | ---?--| -------平板動物 | | | --------------同骨海綿 | ------|--------------------石灰海綿 | |--------------------普通海綿 | ---------------------六放海綿 問題は海綿動物の系統関係に関わる統計的支持率,特に同骨海綿類と平板動物,刺胞動物, 左右相称動物が単系統となる支持率ですが,これは必ずしも強くは支持されていません。 特に全ての種,全ての座位を含めた解析では極めて弱い支持率から高い支持率まで統計値が定まっていません。 しかし不安定な系統的位置を示す六放海綿類や石灰海綿類などを除外した場合には, 同骨海綿類の位置はモデルにかかわらず高い支持率で前述の位置に特定されました。 同骨海綿類と海綿動物以外の後生動物は真の上皮組織や精子の先体構造を共有していることが知られており, 今回の系統解析の結果は形態的にもおかしくはありません(ただし海綿動物が単系統となってもおかしくはない; 動物基部の確かな系統群 前編を参照)。 しかし最大の問題は,海綿もクラゲも単系統!?で紹介した系統樹が, より大規模なデータセットに基づいて海綿動物の単系統性を支持していることです。 著者らは今回の研究の方が海綿動物の種数が多い点を強調していますが,今回の研究の優位性を主張するには弱い気がします。 依然として大規模な挿入欠失のような強い証拠がない以上,海綿動物の単系統性も側系統性も互いに一定の説得力を持ちますし, さらなる研究が求められていることは間違いありません。 著者らは海綿動物の系統的評価以外にも,後生動物の初期進化を巡って様々な議論を提示しています。 ここでは特に同骨海綿類の位置に着目しましたが,多遺伝子の系統解析に使われる海綿動物の種数が増えるにつれて, 海綿動物の内部進化についても,また海綿動物以外の後生動物の初期進化についても知見が集まってくるでしょう。 Sperling, E. A., Peterson, K. J. & Pisani, D. Phylogenetic-signal dissection of nuclear housekeeping genes supports the paraphyly of sponges and the monophyly of Eumetazoa. Mol. Biol. Evol. 26, 2261-2274 (2009). Sperling, E. A., Pisani, D. & Peterson, K. J. in The Rise and Fall of the Ediacaran Biota (eds. Vickers-Rich, P. & Komarower, P.) 355-368 (The Geological Society, London, 2007). 過去の関連記事 |
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余計なチロシンは要らない(2009.10.30) 後生動物においてはチロシンのリン酸化が重要なシグナル因子として活用されています。 Tan et al. (2009) はチロシンのリン酸かが発達した結果,複雑な体制を持った後生動物では, チロシンがタンパク質の構成アミノ酸として相対的に少なくなっていることを見出しました。 タンパク質中のチロシン残基をリン酸化するチロシンキナーゼは細胞内または細胞間のシグナル伝達などに関与し, 複雑な体制を持った動物ほど多くのチロシンキナーゼを持つとされています。 ではリン酸化を受ける側のチロシン残基はどうなのかを著者らは調べました。 その結果,体制が複雑な(細胞種の多い)後生動物ほどむしろタンパク質中のチロシン残基が少ないことが示されました。 同時にチロシンキナーゼドメインが少ない動物ほどチロシン残基が多いことも示されています。 さらに著者らは標準的なチロシンキナーゼを持たない出芽酵母(>Saccharomyces cerevisiae) とヒトのタンパク質を比較し,より多くのタンパク質で酵母の方がチロシン残基を多く含むことを示しました。 この傾向はヒトにおいてチロシン残基がリン酸化を受けないタンパク質について,一層顕著でした。 著者らの見解では,仮に本来リン酸化を受けないタンパク質が誤ってリン酸化を受けた場合に, 誤ったシグナルが伝達される可能性があり,これを防ぐために不要なチロシン残基が除去されたと考えられています。 著者らはチロシン残基の減少がチロシンキナーゼの数よりもむしろリン酸化チロシンと結合する (つまりリン酸化の情報を受容する)タンパク質ドメインの数と負の相関関係にあることも示しており, この説明を補強しています。 チロシンが単純に「高価な」(合成にエネルギーを要する)ために忌避されたという可能性も議論されていますが, 同様に生合成にコストのかかるトリプトファンでは複雑な後生動物でも含有量が減ることはなく, フェニルアラニンでもチロシンほど顕著な傾向は見られなかったため,著者らはこの可能性に否定的です。 やや本筋からは外れる議論ですが,著者らはさらに幾つかの興味深い観察を示しています。 一つは単細胞生物の襟鞭毛虫類(Monosiga brevicollis)において, 後生動物とは独立にチロシンキナーゼの多様化が起こっており,この場合でもチロシン残基の減少が認められたことです。 すなわち,チロシン残基の割合の変化を多細胞化という巨視的な進化と対比するよりも, タンパク質の多様化という細胞内の現象として解釈するべきなのかもしれません。 次にチロシンキナーゼではなくセリン/スレオニンキナーゼついても比較をしたそうですが, スレオニン残基の数はキナーゼの数と負の相関関係にありましたが,セリン残基の数は影響されませんでした。 これはチロシン残基についての議論が単純過ぎる可能性を示唆しているように見えます。 本研究からは生物の細胞が新しい情報処理系を導入する進化過程が見えてくるようで, 単なる分子進化の研究以上に示唆に富んだ研究と評価できます。 またこの研究の中核はゲノム情報の解析であり,インフォマティクスの鏡とも言えるかもしれません。 Tan, C. S. H. et al. Positive selection of tyrosine loss in metazoan evolution. Science 325, 1686-1688 (2009). Collins, M. O. Evolving cell signals. Science 325, 1635-1636 (2009). |
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オオヒゲマワリの仲間はパンゲアで生まれた?(2009.09.30)(→藻類学) |
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新門シネルギステス門と原核生物の「門」記載(2009.09.25) 原核生物は培養が困難な種が少なくないために分類が大きく遅れています。 と同時に近年の分類の進展も著しく,幾つかの新門の記載も行われています。そんな中で Jumas-Bilak et al. (2009) はこれまで複数の分類群に散らばっていたグラム陰性細菌が新門シネルギステス門 (Synergistetes)にまとめられることを示しました。 Synergistes はヤギの第一胃から分離された嫌気性のグラム陰性細菌で, ギンネムの含有するミモシンというアミノ酸から作られる有毒物質の 3-hydroxy-4(1H)-pyridone を分解する微生物として報告されました。既に Hugenholtz et al. (1998) は Synergistes が独自の門となる可能性を示唆していましたが,近年は暫定的にデフェリバクター門(Deferribacteres) に分類されていました(Garrity & Holt, 2001b)。最近になるとグラム陽性細菌のシントロフォモナス科 (Syntrophomonadaceae)の一部と Synergistes の近縁性も指摘されていたため, 著者らは Synergistes とその近縁種の分類を見直しました。 デフェリバクター門やシントロフォモナス科に含まれた配列や Synergistes に近縁な配列を集めた系統解析では, Synergistes と他 7 属が強く支持される単系統群を構成しました。 この系統群はデフェリバクター門やグラム陽性菌門とは独立の系統で,姉妹群も解けていません。 また様々にデータセットを変更した場合でも Synergistes 系統群の独立性は支持されたそうです。 デフェリバクター門の主なメンバーは電子受容体として三価の鉄などを用いますが, Synergistes についてはそのような特徴は知られておらず,デフェリバクター門から区別できそうです。 また 2 系統に分割された形のシントロフォモナス科も微細構造に大きな違いがありました。 グラム陽性細菌とグラム陰性細菌はグラム染色法によって簡易的には区別されますが, 両者の細胞表層は大きく異なっています。グラム陽性細菌は細胞膜の外側にしばしば分厚いペプチドグリカン壁を持ちます。 一方でグラム陰性細菌はペプチドグリカン壁が薄く,その外側に外膜と呼ばれる特殊な膜構造を持つのが特徴です(下図)。 Synergistes を含む系統群は典型的なグラム陰性細菌の細胞壁を持つのに対して, 本来のシントロフォモナス科は外膜を持たないグラム陽性細菌の細胞壁を持ちました。 ただし後者のペプチドグリカン壁は薄かったため,グラム染色では陰性となり,これが混乱の元となっていたようです。 それにしても両系統の細胞壁の違いは歴然としており,これまで混同されていたことの方が驚きです。
著者らはこれらの証拠と Hugenholtz et al. (1998) による原核生物の「門」の概念を採用して, Synergistes の系統群を新門シネルギステス門としました。 Hugenholtz et al. (1998) は真正細菌の多様性を議論した総説の中で,真正細菌の門を系統関係のみから議論し, 「2 つ以上の 16S rRNA 配列からなる系統で,再現性よく単系統となり, 真正細菌ドメインを構成する他の全ての門レベルの関係群に所属しないもの」としています。 しかし Hugenholtz et al. (1998) の出版当時には門レベルの分類体系は整っておらず, この定義は便宜的なものでしかありませんでした。 後に Bergey's Manual of Systematic Bacteriology の第 2 版の中で Garrity & Holt (2001a) により門以下のリンネ式階層分類が確立されたため,この定義も実用的な意味を持つようになりました。 真核生物の研究者から見ると,純粋に系統的な観点から新門を記載することには違和感があるかもしれませんが, 共有派生形質を見出すことが事実上不可能な分類群で多様性を記述するためには必要な方法かと思います。 一応シネルギステス門の記載には「ヒトや動物,陸生や海生の生育環境から分離される, 嫌気性でグラム陰性の桿菌を含む。アミノ酸を分解する細菌」とありますが,他の細菌にも同様な形質は見られそうですし, シネルギステス門の細菌がさらに追加されれば例外も出てくるでしょう。 Jumas-Bilak, E., Roudière, L. & Marchandin, H. Description of ‘Synergistetes’ phyl. nov. and emended description of the phylum ‘Deferribacteres’ and of the family Syntrophomonadaceae, phylum ‘Firmicutes’. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 59, 1028-1035 (2009). Garrity, G. M. & Holt, J. M. in Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn, Vol. 1. (eds. Boone, D. R., Castenholz, R. W. & Garrity, G. M.) 119-166 (Springer, New York, 2001a). Garrity, G. M. & Holt, J. M. in Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn, Vol. 1. (eds. Boone, D. R., Castenholz, R. W. & Garrity, G. M.) 465 (Springer, New York, 2001b). Hugenholtz, P., Goebel, B. M. & Pace, N. R. Impact of culture-independent studies on the emerging phylogenetic view of bacterial diversity. J. Bacteriol. 180, 4765-4774 (1998). 過去の関連記事 |
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二次共生藻の起源と進化を求めて 2(2009.09.23)(→藻類学) |
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二次共生藻の起源と進化を求めて 1(2009.09.15)(→藻類学) |
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カメの個性の発生(2009.09.04)(→発生学) |
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続報:新綱シンクロマ藻綱と不思議な色素体(2009.07.23)(→藻類学) |
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珪藻のゲノムに潜む緑藻の影(2009.07.17)(→藻類学) |
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海綿もクラゲも単系統!?(2009.07.13) ゲノムや EST 解析から得られた大量の遺伝子情報を用いた系統解析によって, 動物の初期進化の順序も明らかになると期待されてきました。 しかしこれまでの解析には幾つかの基盤的系統が欠落していたため,曖昧な議論しかなされてきませんでした。 Philippe et al. (2009) は議論のある動物の初期系統群を全て含めた多数遺伝子の系統解析を初めて行い, 動物の初期進化に迫りました。 基盤的な動物,すなわち左右相称動物以外の動物の系統関係は近年の大きな研究課題ですが, 全ての主要な系統群を含めた多遺伝子の系統解析はこれまで行われてきませんでした。 近年の研究から,海綿動物は 4 系統に,腔腸動物は刺胞動物と有櫛動物に分けて考える必要が指摘されていました (動物基部の確かな系統群 前編,後編)。 そこで著者らはこれらの全ての代表種を含んだ 128 遺伝子 30,257 アミノ酸座位の系統解析を行いました。 この際,各系統群について可能ならば複数の種を含め(多様性の低い同骨海綿類と既知種が 1 種の平板動物は除く)。 また座位ごとの平衡アミノ酸頻度の違いを考慮する CAT モデルの導入,外群の検証なども行っています。 これらの努力の結果,よく解けた系統樹が得られています。海綿動物,腔腸動物(刺胞動物と有櫛動物) がそれぞれ単系統となり,また腔腸動物と左右相称動物が互いに姉妹群となりました。 なお,この結果は外群に襟鞭毛虫類のみを含め,菌類,イクチオスポレア類,Capsasporea を除いた場合により強く支持されました。 --------------同骨海綿| |-------------石灰海綿 -------| | | -------六放海綿 | -------| | -------普通海綿 ------| |--------------------平板動物 | | -------有櫛動物 | -------| -------| -------刺胞動物 | --------------左右相称動物 この系統樹はこれまで議論されていた可能性と基本的に矛盾しませんが,興味深くもあります。 近年の分子系統樹では海綿動物は側系統になることが多く,その特徴は後生動物の祖先形質と見られていました。 海綿動物の特徴としては,水溝系や表皮を覆う扁平細胞層が知られています。 水溝系は呼吸と摂食に働く構造で,襟細胞の鞭毛が起こす流れによって, 体表全体に散在する小孔から入った水を,胃腔を経て大孔から排出する仕組みです。 しかしこれらの特徴は底性生活に特殊化した形質とも見られ,海綿動物の派生形質と考えられたこともありました。 この点で海綿動物を単系統とする今回の結果は自然な結果とも言えます。 刺胞動物と有櫛動物の近縁性については,今のところ強く支持する形態形質は知られていません。 逆にこれを否定する形質も知られていないことから,今後,形態や発生学的形質の再検証が求められるところです。 刺胞動物と有櫛動物が左右相称動物により近縁であることは,特に意外ではありません。 これらの動物群は神経系や筋肉系(そしておそらく中胚葉)を持つ点で海綿動物や平板動物よりも派生的です。 加えて刺胞動物にも遺伝子発現のレベルで左右相称性が備わっていることが指摘されています (ただし有櫛動物については不明;密かに準備された左右相称性)。 今回の結果は,近年の分子系統解析の中では最もよく練られており,その結果も形態・発生学と符合します。 とは言え他の研究者も別の立場で系統解析を検証すると思われますので, まだ基盤的動物の系統関係が解明されたとは言い切れないでしょう。Telford (2009) でも指摘しているように, 単純な系統解析の他に,ゲノム上の稀な変異などの証拠が積み重なることが望まれます。 これは今回系統的位置の確定しなかった同骨海綿や平板動物の位置推定にも有効かもしれません。 しかし系統樹はあくまで生物間の関係を示すだけのものです。 発生過程の比較,特に遺伝子発現などがよく調べられることによって初めて, 動物の初期進化の過程でどのような変化が起こったのかが明らかにされることでしょう。 Philippe, H. et al. Phylogenomics revives traditional views on deep animal relationships. Curr. Biol. 19, 706-712 (2009). Telford, M. J. Animal evolution: Once upon a time. Curr. Biol. 19, R339-R341 (2009). 過去の関連記事 |
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ピコ藻類ゲノムの比較で何がわかる?(2009.07.09)(→藻類学) |
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二次共生で逆行したヌクレオチド代謝(2009.06.26)(→藻類学) |
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第 2 の色素体の浅くない歴史(2009.06.22)(→藻類学) |
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剪定するとエクスカヴァータは単系統?(2009.06.15) ミドリムシやランブル鞭毛虫などを含んだエクスカヴァータ類と呼ばれる原生生物の一群が存在します。 この群は腹部に捕食溝(feeding groove)と特徴的な細胞骨格系を持っていますが,分子系統解析では単系統性が疑われています。 Hampl et al. (2009) は多数のタンパク質配列を用いて系統解析を行い,エクスカヴァータ類の単系統性を検証しました。 エクスカヴァータ類は真核生物の 6 大系統群の一つとされており(原生生物の「公式」分類体系), エクスカヴァータ類が単系統であるか否かは真核生物の形態進化を考察する上でも重要な意味を持っています。 少なくとも形態的には単系統性が支持されていて,ゲノム情報からの裏付けも求められていましたが, 分子系統からは多系統性が支持される傾向があり,結論が出ていませんでした。 そこで著者らは 143 タンパク質 48 分類群の巨大なアミノ酸データについて, 特に進化速度の違いを考慮した解析を行い,エクスカヴァータ類の単系統性を検証しました。 さて,著者らはエクスカヴァータ類に 5 つの系統群,Preaxostyla(アナエロモナダ亜門と同義:オキシモナス類など), Fornicata と副基体類(トリコゾア亜門と同義:ディプロモナス類など), ユーグレナ動物+ヘテロロボセア類+ジャコバ類からなる系統群,Malawimonas,そして Andalucia を認め, それぞれ少なくとも 1 種を解析に含めています。まず,全てのデータを含めた系統解析からは, Malawimonas を除く他のエクスカヴァータ類の単系統性が支持され,ユーグレナ動物,ヘトロロボセア類,ジャコバ類と Andalucia の単系統性(Discoba 類と名付けられた),Preaxostyla とトリコゾア類の単系統性(メタモナーダ門に相当) もまた支持されています。Malawimonas についてはバイコンタ類の根元に位置しました。 問題はエクスカヴァータ類全体が単系統なのか否かですが,著者らは進化速度の速い生物同士が誤って近縁になる長枝誘引現象 (LBA: Long Branch Attraction)を疑い,5 通りの対策を実行しました。具体的には (i) 機能が近いアミノ酸を同じものとして扱う, (ii) 進化速度の速い座位を順に除外する,(iii) 遺伝子ごとに異なる速度を仮定する個別解析(separate analysis)を行う, (iv) 長枝の分類群を順に除外する,(v) 長枝のタンパク質配列を順に除外する,と言う方法をとったそうです。 なお,(i)〜(iii) の結果ではエクスカヴァータ類はやはり単系統とはならず,(iii) でわずかに単系統となる支持率(50% 未満) が上昇したそうです。 一方で,(iv),(v) の対策では一定の成果が得られており, (iv) の場合には 3 分類群を除いた時点でエクスカヴァータ類を単系統とするブートストラップ値が 50% を超え, 14 分類群を除いた時点で 90 % の支持率を得ています。なお,14 分類群を除いた場合にはエクスカヴァータ類には Malawimonas と Discoba 類しか含まれていません。(v) の場合には,1750 配列を除外した場合に単系統性の支持率が最大となりますが, 54% しかありません。ただし Malawimonas をバイコンタ類の根元に位置づける支持率は著しく減少します。 ちなみに分類群や配列を削った解析では,エクスカヴァータ類以外のバイコンタ類の単系統性,一次共生植物の非単系統性, リザリア類+ストラメノパイル類+アルベオラータ類の単系統性が支持されています。 -----------------------------------後方鞭毛類| |----------------------------------アメーバ動物類 | | -------Malawimonas | -------------? | | -------メタモナーダ類 ------| | | ------? -------Andalucia | | | -------| | | | | -------ジャコバ類 | | -------| | | | -------ヘテロロボセア類 -------| -------| | -------ユーグレナ動物 | | ---------------------一次共生植物+ハプト藻類? | | -------| --------------リザリア類 | | -------| -------ストラメノパイル類 -------| -------アルベオラータ類 進化速度が特に速い分類群や遺伝子を除外するのは合理的な作業なので,その場合にエクスカヴァータ類の単系統性が支持されるのは 正しい系統を反映しているのかもしれません。しかし今回の研究では,どのような条件で単系統性が支持されるのかを調べていて, 実際にエクスカヴァータ類が単系統かどうかの研究としては恣意的とも言えます。 むしろエクスカヴァータ類を多系統とした解析の問題点を明らかにしたことが評価されるでしょう。 Hampl, V. et al. Phylogenetic analyses support the monophyly of Excavata and resolve relationships among eukaryotic "supergroups". Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106, 3859-3864 (2009). 過去の関連記事 |
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動物基部の確かな系統群 後編(2009.06.11) 動物基部の確かな系統群 前編では動物の初期進化における 海綿動物の系統の問題を紹介しました。後編では引き続き,腔腸動物や古典的な意味での中生動物の系統にまつわる問題と, これらの系統関係から導かれる左右相称動物の起源を巡る仮説について紹介したいと思います。 刺胞動物と有櫛動物は口から肛門まで繋がった消化管を持たず,併せて腔腸動物と呼ばれてきました。 刺胞動物が海綿動物よりも左右相称動物に近いと言う仮説は現在でも有力ですが, 有櫛動物の系統的位置には定説がありません。古典的には刺胞動物の姉妹群と見られましたが, 中胚葉の存在が指摘されると,むしろ左右相称動物に近い可能性が支持されました。 しかし刺胞動物にも中胚葉に相当する組織が指摘され, 分子系統からは刺胞動物の方が左右相称動物に近いとの結果も出ているそうです(Minelli, 2009)。 より混乱を煽るように,有櫛動物と刺胞動物が姉妹群,あるいは有櫛動物が海綿よりも以前に分岐した動物, との分子系統解析も報告されています(動物系統を大量データで解析, 混迷の動物初期進化)。 中生動物と総称される動物群も,古くは原生動物と後生動物の中間と考えられてきました。 中生動物は主に菱形動物(二胚虫類)と直泳動物に分けられますが,この他にも平板動物,Salinella salva, Buddenbrockia,そして幾つかの渦鞭毛虫類(Lohmannella,Amoebophrya,Haplozoon) などが中生動物に含まれてきたそうです(古屋, 2007)。これらは多系統と考えられ,原生生物の渦鞭毛虫類を除いても, 菱形動物と直泳動物は左右相称動物に,平板動物は後生動物の初期分岐に,Buddenbrockia は刺胞動物に (刺胞動物から湧き出た蠕虫類),それぞれ離れていることがわかっています。 問題は Salinella ですが,本種は 1 種のみで一胚葉動物門(Monoblastozoa)に分類されることもありますが (Brusca & Brusca, 2003; 古屋, 2007),本種は 19 世紀の原記載以来報告がなく,実在も疑われています。 菱形動物と直泳動物については寄生性で単純な体制を持つことと,初期の分子系統が長枝誘引の影響を受けていたため, 系統的位置の特定が遅れていました。しかし発生学的な特徴や分子系統からは, 左右相称動物の中でも冠輪動物に含まれる可能性が支持されてきています(Minelli, 2009)。 しかし両者とも(特に直泳動物)多数の遺伝子に基づく系統解析は行われておらず,今後の研究が待たれます。 平板動物は極めて単純な体制を持つことから(4 種の細胞しか知られていない),最も原始的な動物とも言われます。 一見してクラゲ類のプラヌラ幼生に似ていたため,退化した刺胞動物,特にクラゲ類だと考えられたこともありましたが, 現在ではミトコンドリアゲノムの構造などに基づいて否定されています。 Minelli (2009) では有櫛動物,刺胞動物,左右相称動物の作る単系統群の姉妹群と考えられており, ゲノム情報に基づく系統樹からも支持される有力な仮説となっています (ゲノム解読で深まる平板動物の謎)。 ただし平板動物は後生動物の中でも最も遺伝子数の多いミトコンドリアゲノムを持つことなどから, 海綿動物よりも早く,後生動物の根元で分岐した可能性も考えられています。 なお最近になって,平板動物,海綿動物,腔腸動物が単系統群を形成し, 左右相称動物の姉妹群になるという仮説が提唱されています(混迷の動物初期進化)。 この仮説については検証が待たれますが,発生学的な証拠などが乏しいようです。 系統解析の混乱には,まだ十分な分子情報が調べられた動物群が限られていることが背景にあります。 有櫛動物のゲノム情報やさらに多くの種の海綿動物,刺胞動物のゲノム情報が追加されれば, 系統仮説が絞り込まれてくると期待されます。また発生学の見直しもより重要かもしれません。
Brusca, R. C. & Brusca, G. J. Invertebrates, 2nd Edn. (Sinauer, Sunderland, 2003). 古屋秀隆 in シリーズ 21 世紀の動物科学 2: 動物の多様性 (片倉晴雄 および 馬渡峻輔 編) 11-36 (培風館, 東京, 2007). Minelli, A. Perspectives in Animal Phylogeny and Evolution (Oxford University Press, Oxford, 2009). 過去の関連記事 |
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第 2 の色素体になる過程(2009.05.29)(→藻類学) |
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身近な田沼の新属藻類(2009.04.13)(→藻類学) |
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動物基部の確かな系統群 前編(2009.04.09) 後生動物の根元付近の系統樹は現在非常に流動的で,古典的な進化仮説が揺らいでいます。 しかも古典的な分類群の単系統性が否定された結果,確かに単系統と言える分類群がいくつあるのかすら, 一部の専門家にしか理解できなくなっています。そこで混乱の背景を整理するために, この記事では基盤的な動物を一度単系統群にまで細分し,相互の系統関係に関する仮説を紹介したいと思います。 まず前編では海綿動物の系統について議論します。 海綿動物の現在最も包括的なモノグラフである "Systema Porifera" では海綿動物門を普通海綿綱 (尋常海綿:Demospongiae),石灰海綿綱(Calcarea),六放海綿綱(Hexactinellida)の 3 綱に分類しています (Hooper et al., 2002)。各綱は骨片の特徴で大きく異なり,普通海綿と六放海綿は珪質の骨片を, 石灰海綿は炭酸カルシウムの骨片を持ちます(六放海綿はガラス状の外観を持つためガラス海綿とも呼ばれる)。 それぞれの単系統性は Borchiellini et al. (2001) による 18S rDNA の系統解析で支持されていますが, 同じ研究で海綿動物が側系統群となることが指摘されています。 しかしこの研究では六放海綿が 2 種しか含まれておらず,また普通海綿綱に分類される同骨海綿目 (Homosclerophorida;しばしば同骨海綿亜綱 Homoscleromorpha とされる;Hooper et al., 2002) という重要な分類群が含まれていませんでした(以下,普通海綿は同骨海綿以外のものを指す)。 同骨海綿は他の海綿とは異なり,真の上皮組織や精子の先体構造を持つ点で刺胞動物,有櫛動物, 左右相称動物(合わせて Epitheliozoa と呼ばれる)の系統に近い可能性が議論されています。 ミトコンドリアゲノムの研究からは同骨海綿と普通海綿の類縁性が支持されましたが, ミトコンドリアゲノムは進化速度のばらつきが大きく,解析された種数が少ないなど問題もありました (海綿のミトコンドリアゲノム追加)。 最近になって Sperling et al. (2007) は 7 タンパク質を用いた系統解析により, 後生動物の中で最初に普通海綿が,次いで石灰海綿,そして同骨海綿と Epitheliozoa が分岐することを示しました。 すなわち同骨海綿と普通海綿を区別する重要性を再確認しています。 六放海綿については深海性の種が多いことから分子系統の研究が遅れていましたが, 昨年になって Dohrmann et al. (2008) が多数の六放海綿のリボソーム RNA 3 遺伝子の配列を解析しました。 この研究では六放海綿の単系統性,普通海綿と六放海綿の類縁性, 同骨海綿と普通海綿が系統的に離れることなどが示されています。 現在議論されている海綿動物の主要な系統仮説は Minelli (2009) や Brocks & Butterfield (2009) でよく整理されています。海綿動物を単系統と見るか側系統と見るかが最大の論点で, 側系統とする仮説では普通海綿よりも石灰海綿の方が Epitheliozoa に近いとされます。 六放海綿の系統的位置は普通海綿の姉妹群(合わせて Silicea と呼ばれる)との説が有力ですが, 普通海綿より基部,または普通海綿と石灰海綿の間で分岐したとの仮説も消滅していないようです。 同骨海綿についても普通海綿とまとめられる可能性と Epithelia の姉妹群となる可能性などが対立しています。
このように海綿動物の系統を巡っては議論が錯綜していますが,海綿動物の単系統性に疑問があることが問題です。 後生動物の基部の進化系統を議論するのであれば,全ての系統を含めて解析すべきですが, 最近の系統解析でも六放海綿と石灰海綿(動物系統を大量データで解析), 普通海綿以外の海綿(ゲノム解読で深まる平板動物の謎), あるいは同骨海綿(混迷の動物初期進化)がそれぞれ含まれていませんでした。 今後は海綿の 4 系統(普通海綿,六放海綿,石灰海綿,同骨海綿)を全て含んだ大規模データの系統解析により, 海綿と他の後生動物の関係を明らかにすることが望まれます。 Borchiellini, C. et al. Sponge paraphyly and the origin of Metazoa. J. Evol. Biol. 14, 171-179 (2001). Brocks, J. J. & Butterfield, N. J. Early animals out in the cold. Nature 457, 672-673 (2009). Dohrmann, M., Janussen, D., Reitner, J., Collins, A. G. & Wörheide, G. Phylogeny and evolution of glass sponges (Porifera, Hexactinellida). Syst. Biol. 57, 388-405 (2008). Hooper, J. N. A. & Van Soest, R. W. M. eds. Systema Porifera: A Guide to the Classification of Sponges (Kluwer Academic, New York, 2002). Minelli, A. Perspectives in Animal Phylogeny and Evolution (Oxford University Press, Oxford, 2009). Sperling, E. A., Pisani, D. & Peterson, K. J. in The Rise and Fall of the Ediacaran Biota (eds. Vickers-Rich, P. & Komarower, P.) 355-368 (The Geological Society, London, 2007). 過去の関連記事 |
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鞭毛進化の鍵を握るアメーバ(2009.04.07) 真核生物はしばしばユニコンタ類(unikonts;アメーバ動物類,襟鞭毛動物類,菌類,動物類) とバイコンタ類(bikonts;植物類や藻類,多くの原生動物など)に分けられますが, 所属不明の原生動物も少なからず知られています。 Breviata anathema という鞭毛アメーバもそんな所属不明の真核生物とされていましたが,Minge et al. (2009) は 78 の遺伝子配列の系統解析を行い,本種がアメーバ動物の一員であることを明らかにしました。 B. anathema はもともと Mastigamoeba invertens と誤同定されていた株に基づいています。 本種は Mastigamoeba の別種を含む他のアメーバ類とは系統的に離れていたことから Cavalier-Smith et al. (2004) によって新綱ブレヴィアータ綱(Breviatea)新目ブレヴィアータ目(Breviatida) に移されました。さらに Walker et al. (2006) によって誤同定が明らかにされ,綱名目名に基づいて新属新種 Breviata anathema とされました。 この研究により,本種は系統的位置不明の真核生物として注目されるようになりました (謎の鞭毛アメーバは新種だった)。 本種はまた明確なミトコンドリアを持たず,ミトコンドリア獲得以前の真核生物の生き残りの可能性すら考えられました。 そこで著者らは本種の cDNA ライブラリを作成し,4000 クローン以上の中から系統解析に使える 78 遺伝子を選択, 系統解析を行いました。 系統解析の結果,本種は強い支持率でアメーバ動物類と単系統群を形成しました。 特に進化速度の速い座位を除いた解析では,Breviata がミトコンドリアを持たない他のアメーバ動物類 (アーケアメーバ類)と近縁になったそうです。この系統関係が正しければ,Breviata とアーケアメーバは, 共通の祖先でミトコンドリアを喪失した仲間と考えられます。著者らはさらにミトコンドリア由来の遺伝子として cpn60 と tim17 の 2 遺伝子を報告しています。 Breviata にはミトコンドリアの痕跡のような微細構造も報告されていたため,これが裏付けられた形になります。 逆に言えば Breviata がミトコンドリア獲得以前の生物という可能性は否定されたことになります。 Breviata にまつわるもう一つの関心は,その鞭毛の数です。 真核生物をユニコンタ類とバイコンタ類に大別する考えが近年流行しており,前者は祖先的に単一の鞭毛を, 後者は祖先的に 2 本の鞭毛を持っていたとされています。そしてバイコンタ類のより明確な特徴として, 鞭毛の基底小体の世代交代が知られています。 2 本鞭毛の種類では 2 つの基底小体のうち後方のものが細胞分裂前の親細胞から引き継がれたもので, 前方の基底小体は娘細胞で新規に形成されたものと決まっています(下図)。
アメーバ動物類はユニコンタ類とされ,祖先的に 1 本の鞭毛を持つと考えられていましたが, 今回の一部の系統樹では 2 本の鞭毛を持つ Breviata がアメーバ動物類の基部に来たことから, アメーバ動物類が祖先的に 2 鞭毛性だった可能性も改めて議論されています(Roger & Simpson, 2009)。 実際には Breviata の基底小体がバイコンタ類と同様の世代交代を行っているのかは不明で, バイコンタ類とは独立に 2 鞭毛性を獲得した可能性もありますが,祖先的な真核生物の鞭毛構造を理解するために Breviata の研究はこれから注目されることでしょう。 なお,しばしば真核生物の根がユニコンタ類とバイコンタ類の間にあることが前提にされますが, ユニコンタ類の単系統性の証拠と言われているものは既に否定されていたり (アメーバの系統的位置は再び藪の中へ),証拠としては不十分であるなど (ミオシンの構造が真核生物の進化を示す?)問題があります。 アメーバ動物類が真核生物の基部で分岐した可能性やアメーバ動物類とバイコンタ類が姉妹群となる可能性もあり, 真核生物の起源にまつわる研究を調べる際にはこの点にも留意する必要があります。 Minge, M. A. et al. Evolutionary position of breviate amoebae and the primary eukaryote divergence. Proc. R. Soc. B 276, 597-604 (2009). Cavalier-Smith, T., Chao, E. E.-Y. & Oates, B. Molecular phylogeny of Amoebozoa and the evolutionary significance of the unikont Phalansterium. Eur. J. Protistol. 40, 21-48 (2004). Roger, A. J. & Simpson, A. G. B. Evolution: Revisiting the root of the eukaryote tree. Curr. Biol. 19, R165-R167 (2009). Walker, G., Dacks, J. B. & Embley, T. M. Ultrastructural description of Brebiata anathema n. gen., n. sp., the organism previously studied as "Mastigamoeba invertans". J. Eukaryot. Microbiol. 53, 65-78 (2006). 過去の関連記事 |
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別種にまぎれていたアノマロカリス(2009.04.03)(→古生物学) |
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混迷の動物初期進化(2009.04.01) 後生動物の初期進化を巡る定説では,動物の中で海綿類が最初に分岐し, 次いで腔腸動物が枝分かれして後に左右相称動物が出現したとされています。 しかし Schierwater et al. (2009) は Diploblasta(二胚葉動物)と総称された左右相称動物(=三胚葉動物) 以外の動物が単系統群を形作るとの結合系統解析を元に,定説とは異なる動物の進化仮説を提示しています。 動物の初期進化をめぐる研究では海綿類やクラゲの仲間(刺胞動物)など,よく知られた動物が用いられてきました。 しかし最近になってクシクラゲの仲間(有櫛動物)やセンモウヒラムシ(Trichoplax adhaerens;平板動物) などの小さな群の重要性が理解され始め,センモウヒラムシのゲノム解読や (ゲノム解読で深まる平板動物の謎), 有櫛動物の EST 情報を用いた系統解析が進められています(動物系統を大量データで解析)。 著者らは後生動物を左右相称動物,刺胞動物,有櫛動物,海綿動物,平板動物の 5 群にまとめ, その間の系統関係として有力な 6 候補を挙げています(下図)。著者らはこれらの系統関係のいずれが正しいのか, 形態形質,リボソーマル RNA 遺伝子,分子形態,核コードタンパク質の情報を合わせた 17,669 形質を用いて系統解析を行いました。
得られた系統樹では定説に反して左右相称動物以外の動物(二胚葉動物)が単系統となっています (図右下段)。平板動物は二胚葉動物の最初の分岐となり,次いで海綿と腔腸動物が分岐しています。 これまでにもミトコンドリアゲノムの系統解析でしばしば二胚葉動物は単系統となるため (左右相称動物の配列異常が原因か?;遺伝子いっぱい平板動物のミトコンドリア, 海綿のミトコンドリアゲノム追加),今回もミトコンドリア配列の影響が疑われましたが, データ区分ごとの解析からは核遺伝子の情報も樹形を大筋で(二胚葉動物の単系統性も) 支持していることが示されました。 この系統樹に基づき,著者らは平板動物様の生物が後生動物の原型だったとするプラクラ(placula) 仮説を引き合いに出しています。プラクラ仮説では腹側で捕食を行う平板動物のような生物が動物の祖先で, これが腹部を陥入させて腸を形成し,腔腸動物のような動物へと進化したと考えます。 この場合,平板動物の腹部は刺胞動物の腔腸に対応しますが,実際に著者らは Hox/ParaHox 様遺伝子の Trox-2 が平板動物の背腹の境界で発現し,相同遺伝子と見られる Cnox-1 と Cnox-3 が刺胞動物の外胚葉と内胚葉の境界,すなわち体表と腸の境界で発現していることを指摘しています (下図。なお海綿は Hox/ParaHox 様遺伝子を持たない模様)。 また左右相称動物の祖先は海綿や腔腸動物とは独立に前後軸を獲得したことになりますが, この点では著者らはあまり説得力のある議論を展開できていないようです。
著者らの研究は,これまでになく多様で大量のデータを幅広い系統について十分な種数で解析したものとして重要です。 しかし左右相称動物と腔腸動物は筋肉や神経系,左右相称性 (密かに準備された左右相称性)などの重要な特徴を共有しており, 両者が系統的に離れていることは容易には信じられません。現生の後生動物の祖先が刺胞動物程度に複雑な体制を持ち, 平板動物や海綿動物が退化した体制を持っているという説明も考えられますが,これはプラクラ仮説とは相容れません。 そこで改めて系統樹を見直してみると,後生動物に近縁な外群は襟鞭毛虫と真菌類のみで(他は大きく離れた系統), 外群が不十分です。さらに最尤法のブートストラップ値では二胚葉動物内部の系統関係は解けておらず, 適切な外群が解析されれば全く異なる系統樹が得られる可能性もあり,研究の行方を注意して見守りたいところです。 Schierwater, B. et al. Concatenated analysis sheds light on early metazoan evolution and fuels a modern "urmetazoon" hypothesis. PLoS Biol. 7, 36-44 (2009). Blackstone, N. W. A new look at some old animals. PLoS Biol. 7, 29-31 (2009). 過去の関連記事 |
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ミドリムシの緑の源(2009.03.02)(→藻類学) |
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酵素から見える好気呼吸の起源(2009.02.24) 生物,特に原核生物は極めて多様な代謝系をもっていますが,各代謝系がいつ, どの系統で出現したのかについては一部でしか明らかになっていません。Brochier-Armanet et al. (2009) は好気呼吸の起源を明らかにするために,多起源と考えられる dioxygen reductase(酸素分子を還元する酵素) の系統関係と系統分布を見直し,好気呼吸が古細菌と真正細菌の共通祖先において既に出現していたと推測しています。 細胞における呼吸という現象は,膜に結合した電子伝達系を介して電子を最終電子受容体に移動させることです。 酸素分子を最終電子受容体に用いる,すなわち酸素分子を還元するのが好気呼吸となります。 この酸素分子を還元する反応を触媒するのが膜タンパク質の dioxygen reductase(O2Red)です。 O2Red は大きくチトクローム bd(Cyt-bd)とヘム-鉄スーパーファミリーに分けられ, 後者は A,B,C の 3 つのファミリーからなります。特に A-O2Red は真正細菌や古細菌, ミトコンドリアに幅広く知られ,最もよく研究されています。また同じタンパク質スーパーファミリーには D,E,F,G,H のファミリーも報告されていますが,著者らはこれらが特殊化した B-O2Red であると推定しています。 好気呼吸の起源にはいずれかの O2Red の出現が関わっていると考えられますが, この遺伝子は様々な原核生物に知られており,その起源は単純には探れませんでした。 そこで著者らは 2008 年 4 月時点で公開されている 673 の原核生物の全ゲノム情報(真正細菌 13 門と古細菌 3 門) を探索し,各 O2Red の詳細な系統分布をからその起源を特定しようと試みました。 まず Cyt-bd はほとんどの真正細菌の門と一部の古細菌で認められました。しかし個々の門についてみると, 祖先的に Cyt-bd を持っていたのは放線菌門と PVC グループ(プランクトミセス目,ヴェルコミクロビウム門, クラミジア目)の 2 群のみで,他のグループは水平遺伝子移動により Cyt-bd を獲得したと考えられました。 なお真正細菌内での Cyt-bd の起源は不明です。 A-O2Red は真正細菌および古細菌のほぼ全ての門に見つかり, さらにその内の大部分の門で祖先的に A-O2Red が存在したものと推定されました。 古細菌ではユリアーケオタ門の祖先が A-O2Red を持っていたのか定かではありませんが, クレンアーケオタ門やタウモアーケオタ門では祖先的に持っていたようなので,古細菌の祖先も持っていた可能性が高く, 著者らは古細菌と真正細菌の共通祖先も A-O2Red を持っていたと推測しています。 B-O2Red については様々な原核生物の門に散見されるものの, 祖先的に持っていたのはクレンアーケオタ門のみで,ここから真正細菌へと水平遺伝子移動したものと考えられました。 C-O2Red についても系統的分布は限られており,真正細菌でのみ見つかり,その起源はプロテオバクテリア門で, ここから水平遺伝子移動で他の真正細菌に移ったと見られます。 好気呼吸のための酸素分子はシアノバクテリアの出現によって大気中に蓄積したと考えられています。 従って A-O2Red のような好気呼吸のための酵素がシアノバクテリアよりも遙か前に出現していたのは驚きです。 A-O2Red が他の分子の還元に働いていた可能性や(著者らは NO の可能性も議論しているが,否定的), 酸素分子も含めた複数種の分子の還元に働いていた可能性, そして最初期の生命に酸素分子を供給した未知の酸素発生源があった可能性などを検討する必要があるでしょう。 特に原始地球における酸素分子の発生源は地質学的に興味深い問題です。 今回の解析のような綿密な系統推定と水平遺伝子移動の検証は祖先的な代謝系の推定に有効な方法のようです。 しかしゲノムが解読された生物は生物の多様性から比べるとまだごく一部であり, さらに多くの微生物のゲノムが解読され,正確な推定が進められる必要があるでしょう。 Brochier-Armanet, C., Talla, E. & Gribaldo, S. The multiple evolutionary histories of dioxygen reductases: Implications for the origin and evolution of aerobic respiration. Mol. Biol. Evol. 26, 285-297 (2009). |
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デボン紀のアノマロカリスみたいな何か(2009.02.19)(→古生物学) |
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最古の海綿の残滓(2009.02.13)(→古生物学) |
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小さな小さな新属藻類(2009.02.12)(→藻類学) |
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羽に見えない羽毛の原型(2009.02.09)(→古生物学) |
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ショウジョウバエの名は誰のもの(2009.02.04) ショウジョウバエと言えば,多くの生物学者はキイロショウジョウバエ (Drosophila melanogaster)を思い浮かべるはずです。D. melanogaster は遺伝学的な研究を通じて分子生物学の発展に大きく寄与し,ゲノムの解読も完了しました。 ところが最近,キイロショウジョウバエがショウジョウバエ属(Drosophila)に属さない可能性が指摘され, その学名の扱いが議論されているそうです(Dalton, 2009)。 ショウジョウバエ属は 1823 年に記載され,現在では 2000 種以上が記載されているとも言われます。 このような巨大な属はキイロショウジョウバエの分子生物学における重要性とは別に, 分類学的にも重要な見直しの対象となります。そこでショウジョウバエ属の分子系統解析などの研究が進められてきましたが, この中で大きな問題が浮上してきました。まず容易に予想できたこととして, ショウジョウバエ属が多系統群(互いに近縁でない系統からなる群)であることが示されました。 現在,主流の分類学においては,全ての分類群は単系統群へと分割/統合されるべきだと考えられています。 ショウジョウバエ属についてはおそらく複数の単系統属へと分割していくべきだと考えられます。 ある属を分割/統合する場合に,どの生物(群)がどの属名を保持するのかは, 国際動物命名規約(現行は第 4 版)のもとで,タイプと先取権に基づいて決められます。 例えばある属が 2 属に分割される場合,元の属名はタイプ種を含んだ属に残されることになります。 一方で 2 属が 1 つの属に統合される場合,原則として先に記載された方の(先取権を持つ)属名が統合後の属名になります。 ショウジョウバエ属の場合,タイプ種は D. funebris と呼ばれる 1787 年に記載された種で, 属が分割されるときには D. funebris を含む属が Drosophila との属名を保持することになります。 キイロショウジョウバエの場合,分子系統からは D. funebris とは異なる系統に属し, Sophophora melanogaster として別属に移される可能性が議論されているそうです。 しかしキイロショウジョウバエが多方面で利用されていることを踏まえると, 学名の変更は甚大な影響をもたらすおそれがあります。そこで Kim van der Linde を初めとする一部の研究者らは, キイロショウジョウバエの学名を D. melanogaster のまま維持するため,ショウジョウバエ属のタイプを D. funebris から D. melanogaster に変更することを提案しています。 このような変更は原則としては許されませんが,動物命名法国際審議会にはその権限があるため, Kim van der Linde らはこの提案を審議会に提出しました (http://tinyurl.com/999mep)。 この提案を巡っては当然ながら意見の対立が起こっています。そもそも命名法の安定性などの目的からは, 安易に Drosophila のタイプを変更するべきでないことや,ショウジョウバエ属のモデル生物は キイロショウジョウバエだけではないため,これだけを特別扱いするのは不適切であるなどの意見もありますが, 一方で教育上や実用上の有益性を重視し,また今回の提案を採択した場合の悪影響が一部の分類学に限定されるとして, D. melanogaster の学名を維持する主張もあります。審議会の結論が出るにはまだ数年かかると見られていますが, いずれにしてもショウジョウバエ属の分類には大きな影響が出るはずです。 筆者としてはいずれの結果が出ても,その結果が明確であれば構わないと思いますが, やはり先取権の原則を堅持するのが望ましいでしょう。 一見すると重大ごとに聞こえる教科書の書き換えの方がおそらく容易であり(教科書の内容の修正はありふれたことです), それを無理に回避する方が混乱を拡大するような気がします。 同様の議論は今後しばらくの間,動物分類学者の間で進められると思われますので, ショウジョウバエを扱っている研究者は念頭に置いておくといいでしょう。 Dalton, R. A fly by any other name. Nature 457, 368 (2009). |
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網の目を行くアメーバの進化(2009.01.30) ラビリンチュラ類は海産の原生動物の一群で,アメーバ状の細胞を形成することと細胞外に外質網 (ectoplasmic network)を形成して消化酵素を分泌し,吸収栄養を行うことが特徴です。 外質網は細胞の付着や細胞外消化に用いられ,種によっては外質網の内部を通路として滑走運動するものも存在します。 Tsui et al. (2009) はラビリンチュラ類の系統解析を進め,その系統的位置と進化について議論しています。 ラビリンチュラ類(ラビリンチュラ門ラビリンチュラ綱ラビリンチュラ目)は滑走運動を行うラビリンチュラ科 (Labyrinthulaceae)と栄養細胞が不動性のヤブレツボカビ科(Thraustochytriaceae)に分けられます。 またラビリンチュラ類はストラメノパイル類に所属し,もしクロモアルベオラータ仮説 (渦鞭毛藻三次共生起源説など参照)が正しければ, 過去に色素体を持っていた可能性もあります。そこで滑走性/不動性栄養細胞の進化や色素体の喪失の真偽を巡って, ラビリンチュラ類の系統的位置や内部の系統関係を明らかにすることが望まれています。 著者らは 4 遺伝子を用いた系統解析によりこれらの問題に迫りました。 系統解析の結果,ラビリンチュラ類はストラメノパイル類の中で単系統群を作り, Bicosoeca という鞭毛虫と姉妹群になることが示されました。両者はストラメノパイル類の中で最初に分岐し, 次いで卵菌類と光合成性のオクロ植物類が分岐しています。ただし検定の結果からは, ラビリンチュラ類がストラメノパイル類の中で最初に分岐した可能性も棄却されないようです。 ストラメノパイル類が祖先的に色素体を持っていたとすると,系統樹上では色素体の喪失が 2 回独立に, 仮にもう一つの樹形が正しかったとすると 3 回独立に起こったことになります。 一応,Labyrinthula の 1 種で色素体の痕跡とも言われる眼点構造が報告されているそうですが, 色素体ゲノムなど遺伝的な証拠は得られていません。 -------ラビリンチュラ類(色素体なし。眼点?)-------| | -------ビコソエカ類(色素体なし) ------| | -------卵菌類(色素体なし。ゲノムに藻類遺伝子?) -------| -------オクロ植物門(色素体あり) ラビリンチュラ類の内部では大きく 2 つの系統群が認められました。片方にはヤブレツボカビ科のメンバーのみを含まれ, もう一方の系統にはラビリンチュラ科とヤブレツボカビ科の Oblongichytrium が含まれました。 ヤブレツボカビ科はラビリンチュラ科に対して側系統になり, 外質網の内部を滑走する能力はラビリンチュラ科の共有派生形質と推定されました。 ラビリンチュラ類の祖先はビコソエカ類のように捕食栄養性だったと思われ, 一部の種では一時的なアメーバ期に細菌を捕食消化できるものもいるそうです。 このような祖先が基質への付着と細胞外消化の場として外質網を獲得し, さらにラビリンチュラ科の祖先にて外質網が滑走の足場として利用されるようになったと考えられます。 --------------ヤブレツボカビ科 1(ヤブレツボカビ,Aurantiochytrium,Schizochytrium,| Japonochytrium,Parietichytrium) ------| | -------ヤブレツボカビ科 2(Oblongichytrium) -------| -------ラビリンチュラ科(Labyrinthula,Aplanochytrium) 今回ラビリンチュラ類とビコソエカ類の姉妹群関係が支持されたことは,これらを併せたビギラ門(Bigyra) と言う分類群を支持しています(ただしビギラ門のオパリナ類や無殻太陽虫類が解析に含まれていない)。 またクロモアルベオラータ仮説の下では,今回の系統樹上で色素体が 2 回失われたと推定されましたが, 実際にはビギラ門の単系統性が未検証であり,また Developeyella やサカゲツボカビ類などの 非光合成ストラメノパイル類(卵菌類と近縁な可能性あり)も含まれていません。 得られる系統樹によっては色素体の喪失を 4-5 回も仮定する必要が出てくるかも知れず, クロモアルベオラータ仮説自体が破綻する可能性もあるでしょう。 多遺伝子解析の手法も様々な原生生物で行われるようになってきており, 今後はより解像度の高い系統樹が様々な原生動物で発表され, クロモアルベオラータ仮説の真偽にも決着がつくかも知れません。 Tsui, C. K. M. et al. Labyrinthulomycetes phylogeny and its implications for the evolutionary loss of chloroplasts and gain of ectoplasmic gliding. Mol. Phylogenet. Evol. 50, 129-140 (2009). 過去の関連記事 |
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続報:足跡を残す巨大原生動物(2009.01.28)(→古生物学) |
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似非繊毛虫の正しい所属(2009.01.27) Stephanopogon(シュードキリアチダ目: Pseudociliatida)は繊毛虫とよく似た原生動物で, 系統的位置が謎のままになっていました。 Yubuki & Leander (2008) は微細構造と分子系統の両面から,Stephanopogon がエクスカヴァータ類の中の, ヘテロロボセア類に含まれることを示しています。また前後して Yoon et al. (2008) や Cavalier-Smith & Nikolaev (2008) も Stephanopogon を含めた分子系統解析から同様の結果を示しています。 繊毛虫は無数の繊毛(鞭毛)に覆われ,大核と小核と呼ばれる異型の 2 核を持つ捕食性の原生動物です。 Stephanopogon はやはり縦に並んだ繊毛を持ちますが,同型の 2 核を持つ点で繊毛虫とは区別されます。 古くは Stephanopogon が繊毛虫の祖先的な系統と考えられたこともありましたが, 後に微細構造の研究からユーグレナ動物類(エクスカヴァータ類)との類似が指摘され, さらにヘテロロボセア類(エクスカヴァータ類)やアメーバ鞭毛虫類(リザリア類)との類縁も提唱されてきました。 Yubuki et al. (2008) はこの問題を解決するため,カナダの沿岸で採集された Stephanopogon minuta の微細構造と分子系統を調べました。
Stephanopogon は種によって前端の突起(barb)の数や鞭毛の列の数が異なっています。 S. minuta では突起が 3 個,鞭毛の列が 8 本で,30 μm 程度のサイズで, 細胞の前方に捕食用の細胞口が開いています。微細構造の特徴としては,典型的なゴルジ体を持たず, ミトコンドリアのクリステが円盤状であるというヘテロロボセア類の特徴を有していました。 SSU rRNA 遺伝子の系統解析からも S. minuta はヘテロロボセア類に属することが裏付けられました。 中でも Percolomonas と呼ばれる 4 鞭毛性の原生生物と近縁で,しかも Percolomonas cosmopolitus の 2 配列の内一方に特に近縁となりました。これをそのまま解釈すると,Stephanopogon が P. cosmopolitus の生活環の一部であるか,P. cosmopolitus からごく最近派生したことになるでしょう。 ただし Percolomonas も Stephanopogon も SSU rRNA 遺伝子の進化速度が速く, 正しい系統解析が行えていない可能性も否定できません。Cavalier-Smith & Nikolaev (2008) による別の研究でも Stephanopogon minuta と思しき別株の SSU rRNA 遺伝子の系統解析が行われており,こちらの研究では 2 株の P. cosmopolitus は単系統で,Stephanopogon はその姉妹群となる可能性も示唆されています。 なお,Yoon et al. (2008) は Stephanopogon apogon と呼ばれる別種の配列も解読しており, Cavalier-Smith & Nikolaev (2008) の解析では S. minuta らしき株と近縁であることが示されています。 Stephanopogon の配列はほぼ同時に 3 株が独立に解読されたため,3 株全てを含めた解析はなされていませんが, いずれの研究もこの属がヘテロロボセア類に属することを示しています。 これは同時に繊毛の列と多核性が繊毛虫とは独立に進化したことも意味しています。Cavalier-Smith & Nikolaev (2008) は P. cosmopolitus が 10 μm もないことを踏まえて, Stephanopogon の多数の繊毛は細胞の大型化に伴って進化したものと議論しています。 原生生物の中には系統的位置が明らかでないものが多数知られています。中には原記載以来再発見されていないような, 実在すら怪しいものもありますが,繰り返し見つかっている種類にも系統解析がまだ行われていないものは残されています。 Stephanopogon については 3 つのグループが前後して解析する事態になりましたが, 他の未解析の原生生物の系統解析もまだまだ行われていくことでしょう。 Yubuki, N. & Leander, B. S. Ultrastructure and molecular phylogeny of Stephanopogon minuta: An enigmatic microeukaryote from marine interstitial environments. Eur. J. Microbiol. 44, 241-253 (2008). Cavalier-Smith, T. & Nikolaev, S. The zooflagellates Stephanopogon and Percolomonas are a clade (class Percolatea: phylum Percolozoa). J. Eukaryot. Microbiol. 55, 501-509 (2008). Yoon, H. S. et al. Broadly sampled multigene trees of eukaryotes. BMC Evol. Biol. 8 14 (2008). |
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発芽の様子がオオヒゲマワリの分類を助ける?(2009.01.23)(→藻類学) |
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真核生物は一種の古細菌(2009.01.21) 真核生物と古細菌が互いに近縁だとする説は,分子系統解析から得られた最も重要な発見の一つです。 しかし真核生物と古細菌が互いに姉妹群関係にあるのか,それとも真核生物が古細菌の中から派生したのかは 未だに解明されていない疑問です。Cox et al. (2008) はこれまでに累積されたゲノム情報を元に 改めて系統解析を行い,真核生物が古細菌の中でも特にクレンアーケオタ門に近縁であることを示しています。 古細菌が単系統になるのか,それともクレンアーケオタ門(エオサイト類)が真核生物と特に近縁なのかは 1980 年代より議論されてきました。近年は古細菌を古細菌ドメイン(domain Archaea)として扱う分類が定着していますが, エオサイト仮説を否定する決定的な証拠が得られているわけではありませんでした。 真核生物の系統的位置が絞り込めなかったのは,真核生物の基部において遺伝子の進化速度が極端に速くなっていて, 正確な系統解析が行えなかったためとも見られています。そこで著者らは系統ごとの塩基,アミノ酸組成のばらつきや, 枝ごとに進化速度が異なることを考慮した進化モデルを取り入れ,より正確な系統推定を目指しました。 解析には大小のリボソーム RNA 配列と多数のタンパク質配列が用いられました。 リボソーム配列ではやはり GC 含量が系統ごとに異なっており,これを考慮したモデルではエオサイト仮説が支持され, 逆に塩基組成を均質と仮定する従来のモデルでは古細菌の単系統性が支持されたそうです。 また 3 ドメイン全てに存在する 51 タンパク質の個別の解析では微妙に矛盾する結果が得られています。 具体的には RNA ポリメラーゼ I の最大のサブユニットの配列が例外的に古細菌の単系統性を強く支持し, 他の多くのタンパク質では古細菌の側系統性が弱く支持されました。 しかし 45 タンパク質の結合解析では,エオサイト仮説が強く支持されたそうです。 一方で,やはり多数のタンパク質で個別の系統解析を行った別の研究では, エオサイト仮説を支持するタンパク質よりも古細菌の単系統性を支持するタンパク質の方が目立って多かったとされています (Yutin et al., 2008)。Cox et al. (2008) は Yutin et al. (2008) がアミノ酸組成の均質を仮定した単純なモデルを用いた点と,結合系統解析を行っていない点を指摘していますが, Yutin et al. (2008) は挿入欠失に着目しても,より多数のタンパク質が古細菌の単系統性を支持するとしています (古細菌の単系統性を支持する挿入が 4,エオサイト仮説が 1,ユリアーケオタ門と真核生物の類縁を支持する挿入が 1)。 ただ指摘された挿入欠失の多くは 1-2 アミノ酸で,エオサイト仮説を支持する伸長因子 1α の 11 アミノ酸の挿入 (Baldauf et al., 1996; なぜか Yutin et al., 2008 は挙げていない)に比べると証拠能力が弱いでしょう。 唯一,L-アスパラギナーセ / 古細菌型 Glu-tRNA Gln アミドトランスフェラーゼ サブユニット D に見つかった 7 アミノ酸の挿入が古細菌の単系統性を明確に支持していますが,この遺伝子が水平遺伝子移動していないかどうか, より詳細な検証が望まれます。 Cox et al. (2008) と Yutin et al. (2008) の結果を見る限り, 少なくとも古細菌が単系統であるかエオサイト仮説のいずれかが正しいようです。 特に Cox et al. (2008) はエオサイト仮説に改めて注目を集める研究となるでしょう(Archibald, 2008)。 最近ゲノムが解読されたタウモアーケオタ門やコルアーケア類と真核生物の関係などは今回検討されておらず, 早急に再解析を行う必要があります(海を統べる古細菌のゲノム, 深窓の古細菌にゲノムのメスを)。 これらの基盤的な古細菌の情報は今後さらに蓄積すると期待されるため, 真核生物の起源についても遠からずより精密な議論ができると期待したいところです。 Cox, C. J., Foster, P. G., Hirt, R. P., Harris, S. R. & Embley, T. M. The archaebacterial origin of eukaryotes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 20356-20361 (2008). Yutin, N., Makarova, K. S., Mekhedov, S. L., Wolf, Y. I. & Koonin, E. V. The deep archaeal roots in eukaryotes. Mol. Biol. Evol. 25, 1619-1630 (2008). Baldauf, S. L., Palmer, J. D. & Doolittle, W. F. The root of the universal tree and the origin of eukaryotes based on elongation factor phylogeny. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 7749-7754 (1996). 解説記事: 過去の関連記事 |
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生命は水の中で産まれ,湯の中で育った(2009.01.16) 地球生命の誕生した温度環境を明らかにするために,これまで様々な研究が行われ, 生物は好熱菌由来とも中温性菌由来とも言われてきました。 ところが Boussau et al. (2008) は最新の進化モデルを用いて,真正細菌や古細菌それぞれの最後の共通祖先と, 全生物の最後の共通祖先(LUCA: last universal common ancestor)が異なる温度環境に適応しており, 非超好熱性の LUCA から一度好熱性の生物を経て 3 ドメインが分化したという仮説を提唱しています。 LUCA の生息温度を推測する研究では,例えば好熱菌の系統樹上の分布や LUCA のゲノムの推定 GC 含量, 祖先的な配列を持ったタンパク質の熱安定性などが調べられてきました。 最近では真正細菌の祖先タンパク質配列の推定とその熱安定性の測定から,真正細菌の最後の共通祖先が好熱性 (至適生育温度が 50-80℃)だったと推定されました(生命の樹の根は熱かった)。 しかし高温下での生物の誕生を疑問視する見解もあり,氷上で生物が誕生したとする説すらあります (生命は氷の上で生まれた?)。そこで著者らは LUCA の形質を推定するにあたって, 枝ごとの進化速度の変化をモデル化した最尤法やベイズ法の解析を行い, 祖先的な rRNA 配列やタンパク質配列の推定を見直しました。 祖先生物の生息温度は(アミノ酸配列が原核生物とは顕著に異なる)真核生物を除く生物全体で推定され, rRNA とタンパク質のいずれからもよく似た結果が得られました。まず,今回の結果からは LUCA は超好熱性(至適温度が 80℃ 以上)ではなく,むしろ中温性(至適温度 50℃ 以下)から好熱性と推定されました。 ところが真正細菌ドメインと古細菌ドメインの最後の共通祖先は好熱性から超好熱性と,より高温を好んだと推定され, 真正細菌ドメインの内部では再度生息温度が低下して多くの現生の中温性種が出現したと推定されました。 著者らは樹形の誤差や解析に好熱性菌を含めたかどうか,モデルの誤差など幾つかの潜在的な問題を検討し, 今回の結果がこのような問題によって偏向している可能性を否定しています。 また真正細菌ドメインの中で生息温度が低下傾向にあったことは最近の別の研究とも一致します (生命の樹の根は熱かった)。さらに誕生したときには中温性〜好熱性だった生物が, 真正細菌と古細菌の系統で独立に超好熱菌に進化したという,一見奇妙な結果もこれまでの幾つかの仮説と符合します。 例えば生物が冥王代に誕生していたとして,38-40 億年前の後期重爆撃(late heavy bombardment: 最後の大規模な天体衝突のピーク)によって超好熱菌以外の生物が淘汰されたとの議論はこれまでもありました。 今回の研究は,分類群の偏りを考慮している点なども含めて, これまでの祖先配列の推定の中では最も正確を期しているように見えます。 一見矛盾するように見えた先行研究の結果を上手く説明できる点でも興味深いと言えます。 今回のデータでも rRNA とタンパク質による LUCA の推定生息温度には開きがあり, rRNA のデータでは好熱性の LUCA(約 60℃)が,タンパク質のデータでは中温性の LUCA(約 20℃)が支持されました。 一応,誤差が大きいためと説明されていますが,20℃ と 60℃ ではかなりの差であり,今後の改善が必要でしょう。 Boussau, B., Blanquart, S., Necsulea, A., Lartillot, N. & Gouy, M. Parallel adaptations to high temperatures in the Archaean eon. Nature 456, 942-945 (2008). 過去の関連記事 |
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菌類の系統解析,その最難関に挑む(2009.01.13) 子嚢菌門に含まれる分裂酵母(Schizosaccharomyces)の系統 (タフリナ菌亜門シゾサッカロミセス綱シゾサッカロミセス目)は子嚢菌の中でも特に進化速度が速く, 他のタフリナ菌亜門との類縁が十分に示されていませんでした。Liu et al. (2009) は 多数の遺伝子と最新の進化モデルを取り入れて系統解析の見直しを行い, 分裂酵母が確かにタフリナ菌亜門に含まれることを示しました。 遺伝子やタンパク質の配列から生物の系統関係を探る研究は今では日常的に行われており, その解析方法も年々進歩しています。しかし分子進化の速度が特に速い生物の系統解析は未だに難しい問題です。 分裂酵母の系統もやはり解析が困難で,解析によってタフリナ菌亜門に含まれたり, サッカロミセス亜門に近縁になることもありました。サッカロミセス亜門も分子進化速度が速い一群として知られたため, 分裂酵母とサッカロミセス亜門の類縁性は長枝誘引(long branch attraction)による誤りとも指摘されていました。 まず,33 種類の子嚢菌の 113 核タンパク質を用いた系統樹では分裂酵母はタフリナ菌亜門に含まれましたが, 13 のミトコンドリアタンパク質の解析では分裂酵母とサッカロミセス亜門が姉妹群になりました。 両者が矛盾した原因としては, ミトコンドリアゲノムにおいて分裂酵母とサッカロミセス亜門の間で長枝誘引が起こっているためと推測されました。 著者らは長枝誘引を検証するため,いくつか追加の解析を行いました。 分子進化速度の速いサッカロミセス亜門を除いたミトコンドリアの解析では,分裂酵母はタフリナ菌亜門に移動しました。 さらに進化速度の速い座位を調べ,これを除いた解析を行ったところ,サッカロミセス亜門っを含んだ解析においても, 分裂酵母はタフリナ菌亜門に含まれることが裏付けられました。 -------子嚢菌門チャワンタケ亜門-------| -------| -------子嚢菌門サッカロミセス亜門 | | ------| --------------子嚢菌門タフリナ菌亜門(Schizosaccharomyces,Pneumocystis, Taphrina,Saitoella など) | ---------------------担子菌門 核データが強くタフリナ菌亜門の単系統性(分裂酵母を含むこと)を支持したことと, ミトコンドリアのデータで長枝誘引が起こっているらしいことを考え合わせると, 分裂酵母がタフリナ菌亜門に含まれることは正しい系統関係を反映していると考えてよさそうです。 この研究では長枝誘引の問題を解決するために様々な手法を用いています。 長枝誘引により系統的位置が決まっていない系統群は多数知られていますが, それぞれ今回と同様の研究を進める必要があるでしょう。 特に多数の核遺伝子のデータを多くの種で蓄積することが重要なようです。 Liu, Y. et al. Phylogenetic analyses support the monophyly of Taphrinomycotina, including Schizosaccharomyces fission yeasts. Mol. Biol. Evol. 26, 27-34 (2008). 過去の関連記事 |
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クシクラゲあれこれ(2009.01.08)(→その他) |
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原核生物のゲノム的種概念とは(2009.01.05) 原核生物の種を分ける方法として,水平遺伝子移動に対してどの程度の障壁があるのかを基準にする, 「ゲノム的種概念」(genomic species concept)が考えられています。Costechareyre et al. (2008) はこの概念が真核生物における生物学的種概念(生殖隔離に基づく)と同等のものなのかどうか検証しています。 「種とは何か」という問いは分類学においてしばしば登場する最も重要で困難な問題です。 動物など有性生殖を行う生物においては,有性生殖を介した遺伝子交換が起こっているかどうか, すなわち生殖隔離の有無によって種の範囲を定義する「生物学的種概念」が唱えられています。 しかし原核生物は有性生殖を行わないため,代わりに水平遺伝子移動が種の範囲を決めているとの考えが出てきました。 水平遺伝子移動が起こる際に,生物間の配列の分化が進んでいると相同組み換えは起こりにくくなります。 仮に一定程度の配列差が相同組み換えの障壁になるならば,この障壁を種の境とするのが適当です。 実際に,11-15% の違いにより「ゲノム的種」(genomic species)を定義する見解もありますが, ゲノム間での組み換えの障壁が実在するのか,そして生物学的種と対比可能なものなのかは定かではありません。 そこで著者らは研究の進んでいる Rhizobium radiobacter(=Agrobacterium tumefaciens) のゲノム的種の間で,相同組み換えの頻度を詳細に調べました。 実験では 10 のゲノム的種について,植物への感染に必要なため全ての野生株が持っているものの,培養かでは必須でない chvA 遺伝子が調べられました。これらのゲノム的種は AFLP(増幅断片長多型)で認められた差異を基準にしていて, 種内の差異が約 11% 未満なのに対して種間の差異は常に 15% 以上となっています (差異が 11-15% の間に断絶がある)。ところが chvA 遺伝子の分化には同様の断絶はなく, 種を分ける境界は約 4.5% の差異に相当していました。 肝心の相同組み換えの頻度についても種内と種間で明確な断絶はなく,生殖隔離の指数で比較すると, 最も組み換えが起こりにくい種内間の組み合わせと,最も起こりやすい種間の組み合わせでは, 生殖隔離は 1.13 倍しか増加していませんでした。 これらの結果は,ゲノム的種の分化が相同組み換え頻度の極端な低下によって起こるという予測を否定しています。 しかしゲノムレベルでは,差異が 11% を超えたところで急激に分化が進んでいることは事実です。 その原因としては,単に chvA 遺伝子がゲノム全域を代表するには不適切だった可能性が考えられます。 例えばゲノムの差異が主として非遺伝子領域の差によるならば, より保守的な遺伝子領域では組み換え頻度の低下は起こりにくいはずです。 この場合,遺伝子領域での組み換え頻度の差は配列分化が一層進んだ段階で起こると思われます。 別の原因としては,ゲノム的種の形成が相同的組み換えとは無関係に, 生態的分化などによって起こっている可能性も考えられていますし,他にも色々な原因が考えられるでしょう。 著者らは今回の結果をもって原核生物のゲノム的種と真核生物の生物学的種は対応しないと議論していますが, 一遺伝子の結果だけで結論が導けるものかどうかは若干疑問ではあります。特に異なるゲノム的種とされている株間で, 実際にゲノムのどのような領域に差があるのか,あるいはゲノム全域に均等に変異がたまっているのかは, 直接ゲノムを解読することにより比較する必要があるでしょう。 いずれにせよ重要なのは,それが形態的,生態的あるいは遺伝的なものでも,集団間の断絶の有無を調べることであり, もし断絶が存在するならばそれが形成された原因を理解することです。 普遍的な種の定義を議論するのはそれからの課題でしょう。 過去の関連記事 |
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続報:ゲノム解読で深まる平板動物の謎(2008.12.19) 最近,最も単純な体制を持った動物とも言われるセンモウヒラムシ(Trichoplax adhaerens; 平板動物門)のゲノムが解読され,予想外に複雑な発生関連の遺伝子を持つことが指摘されました (ゲノム解読で深まる平板動物の謎)。これを受けて Miller & Ball (2008) は 動物進化においてどの程度の体制の単純化が起こったのか議論しています。 近年,動物のゲノム解読は活発に行われており,左右相称動物以外の動物(や近縁な原生生物)として, 襟鞭毛虫,平板動物,刺胞動物の代表種のゲノムが解読され,また間もなく海綿動物(普通海綿の 1 種) のゲノムも公開されるそうです。これらの解析から,動物の複雑な体制の進化過程の解明が期待されていますが, 実際には謎が深まった側面もあり,例えば今回の著者らは動物の体制の進化仮説を見直すことも提唱しています。 平板動物のゲノムが解読され,一番問題になったのが体制と遺伝子組成の齟齬です。 わずか 4 種の細胞しか持たないとされた平板動物に複雑な発生関連の遺伝子が見つかったため, 有性生殖過程など,より複雑な生活史が見落とされている可能性も指摘されています。 平板動物が実際にはより複雑な動物であるとすれば,平板動物の系統的位置も見直す必要があるかも知れません。 近年想定されている系統樹では,平板動物は左右相称動物に対して海綿動物の次に分岐したと見られていますが(図左; Nielsen, 2008 など,ゲノム解読で深まる平板動物の謎), 分子系統からは異なる結果も出ており(遺伝子いっぱい平板動物のミトコンドリア), 刺胞動物より左右相称動物に近い可能性すらあります。 そこで著者らは平板動物において神経系や筋肉系などが退化した可能性を考えています。 その可能性を裏付けるように,神経系や筋肉系を持ち左右相称動物の姉妹群と考えられていた有櫛動物が, 海綿より以前に分岐したとの分子系統樹が提出されており(図右;動物系統を大量データで解析), 海綿動物(側系統と見られる)すら神経系,筋肉系が退化した動物である可能性が出てきたのです。
著者らは有櫛動物が Hox-like 遺伝子や,ParaHox 遺伝子を欠いているらしいことも紹介しています。 さらに動物においては単に原始的な動物が複雑な遺伝子組成を持っているのみならず,現生の動物全てが, 実は有櫛動物のようなある程度複雑化した動物から進化していたのではないかと主張しています。 確かに動物において形態の著しい退化が起こった例はしばしば報告されています(例えば 珍渦虫の衝撃 も参照)。しかし側系統と思われる海綿の全ての系統(おそらく 3 系統程度) で同じような退化が起こったと考えるのは不自然に聞こえます。 有櫛動物の位置にしても現時点では系統解析に使われる遺伝子数が比較的少ない状態で(ゲノム未解読), 配列情報が追加されれば系統樹が覆る可能性は十分にあります。 そもそも動物の体制と遺伝子の複雑性を語るのであれば,単に成体の作りや遺伝子数だけを議論するのでは不十分です。 本来ならば発生過程の複雑さやその過程での遺伝子発現の様子に基づいて議論するべきで, 著者らの考える形態の単純化という仮説は空想に過ぎません。今,まさに解読が進んでいる様々な動物のゲノム情報と, 原始的な動物の進化発生学的な研究からこそ真実が見えてくると期待したいところです。 Miller, D. J. & Ball, E. E. Animal evolution: Trichoplax, trees, and taxonomic turmoil. Curr. Biol. 18, R1003-R1005 (2008). Nielsen, C. Six major steps in animal evolution: Are we derived sponge larvae? Evol. Dev. 10, 241-257 (2008). 過去の関連記事 |
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亜硝酸古細菌は深く潜れず(2008.12.17)(→その他) |
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足跡を残す巨大原生動物(2008.12.15)(→古生物学) |
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続報 5:もう一つの葉緑体(2008.12.10)(→藻類学) |
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はじめに口があった(2008.12.08)(→発生学) |
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亀の生まれは海か陸か(2008.12.05)(→古生物学) |
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色素体を盗むにはまず遺伝子から(2008.11.28)(→藻類学) |
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ヒヨケザルの亜種は種に相当(2008.11.26) ヒヨケザルはムササビのように滑空する哺乳類ですが,霊長類に近縁であることが知られ, 独自の目(皮翼目)に分類されています。ところが皮翼目にはフィリピンヒヨケザル(Cynocephalus volans) とマレーヒヨケザル(Galeopterus variegatus;Cynocephalus 属にまとめられることもある)の 2 種のみしか含まれていませんでした。Janečka et al. (2008) はマレーヒヨケザルの亜種を再検討し, マレーヒヨケザルの中に少なくとも 3 つの遺伝的に分化した種がある可能性を指摘しました。 マレーヒヨケザルはインドシナ半島南部からマレー半島,スマトラ島,ボルネオ島,ジャワ島などに分布し, 地理的分布を踏まえて 4 亜種が現在認められているそうです。そこで著者らはこれらの亜種の分化程度を調べるため, マレー半島産(G. variegatus peninsulae),ボルネオ産(G. v. borneanus)およびジャワ産 (G. v. variegatus)の 3 亜種のミトコンドリアゲノムと核ゲノムより,それぞれ 1,442 塩基対と 4,291 塩基対に及ぶ配列を解読し,比較しました。 ミトコンドリア遺伝子の系統解析からはジャワ産亜種が最初に分岐し, マレー産亜種とボルネオ産亜種が姉妹群となりました。しかし問題は分岐年代で, フィリピンヒヨケザルとマレーヒヨケザルの分岐を 1400-2700 万年前とすると, ジャワ産亜種は 380-730 万年前に他の亜種から分岐し,他の 2 亜種が 280-530 万年前に分岐した計算になるそうです。 著者らが挙げている他の哺乳類(霊長類,食肉類)の例では,種分化は 110-260 万年前に起こっており, これと比較するとマレーヒヨケザルの各亜種は種レベルの分化を十分に果たしていると言えます。 実際にこれらの 3 亜種(および未検証のスマトラ産亜種:G. v. temminckii) を独立種に格上げするには形態学的な検証が重要になりますが,著者らも頭骨のサイズ(長さと幅)の比較を各亜種 3-5 個体ずつ行っており,それぞれの亜種で異なっているようには見えます。しかし比較数が少ないのも事実で (遺伝子についても各亜種 1-3 試料のみ),今後の一層詳細な分類学的再検討が望まれます。 同一種とされた生物の中に複数の種レベルで異なる個体群が報告されることは時々あります。 これは生物保全の観点で問題になることが多く,各個体群ごとの保全が求められることになります。 マレーヒヨケザル全体については特に絶滅の危機は指摘されていませんが,今回の結論は亜種ごと, 個体群ごとの保全の重要性に焦点を当てるものとなります。このような研究は様々な動物について求められており, 様々な生物で進行しています。有名なところでは同一種に分類されていたアフリカゾウ(Loxodonta africana; 主にサバンナに生息)とマルミミゾウ(L. cyclotis;主に森林に生息)が遺伝的には明らかにに分化しており, 別種に相当するとした研究が思い出されます(Roca et al., 2001)。 このような研究が生物多様性の維持に貢献するのはもちろんですが,種とは何か,種分化とは何か, という答えのでない問題に迫る足場にもなることでしょう。 Janečka, J. E. et al. Evidence for multiple species of Sunda colugo. Curr. Biol. 18, R1001-R1002 (2008). Roca, A. L., Georgiadis, N., Pecon-Slattery, J. & O'Brien, S. J. Genetic evidence for two species of elephant in Africa. Science 293, 1473-1477 (2001). 過去の関連記事 |
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隠れた巨大分類群(2008.11.20) 微生物の中には培養が困難なために記載されていない種が無数に存在します。 アシドバクテリウム門(Acidobacteria)の真正細菌も土壌を中心とする幅広い環境に見られるにも関わらず, これまでわずかに 5 属 6 種しか記載されていませんでした。しかし Fukunaga et al. (2008) はこの門に属する新属新種を記載し,多様性を反映した綱〜目の分類体系を提唱しました。 アシドバクテリウム門は当初,環境中の 16S rRNA からは極めて多様な生物を含む群として認識されました (Hugenholtz et al., 1998)。当時は 3 属のみしか記載されていませんでしたが,配列レベルの多様性では 真正細菌の中でも最も多様な群の一つであるプロテオバクテリア門に匹敵すると見られていました。 また土壌中に普遍的に見られる生物であることとも合わせて,培養研究が望まれる群の一つでした。 一方で著者らは海産無脊椎動物に生息する真正細菌の研究過程でアシドバクテリウム門に属する新規生物を発見し, その分類学的研究を進めました。 著者らはヒザラガイ(Acanthopleura japonica)から新属新種 Acanthopleuribacter pedis を分離・培養しました。本種は系統的にアシドバクテリウム門に含まれることが示され,Holophaga や Geothrix と呼ばれる淡水性の嫌気性細菌と姉妹群になりました。しかし Acanthopleuribacter は海産の好気性細菌であり,運動性や利用できる炭素源の違いなどによって区別されています。 もともと系統的にアシドバクテリウム門には 8 つの系統群が認められていましたが (Hugenholtz et al., 1998),これまでの分類では全てアシドバクテリウム門アシドバクテリウム綱 (Acidobacteria)アシドバクテリウム目(Acidobacteriales)にまとめられてきました。 しかし同様の多様性を持つプロテオバクテリア門が現在 5 綱 40 目に分けられていることを踏まえると, アシドバクテリウム門を単一の目にまとめるのは多様性の観点からは著しく均衡を欠くことになるでしょう。 そこで著者らは Holophaga を含んだ系統群(subdivision 8)をホロファガ綱(Holophagae) としてアシドバクテリウム綱から区別しました(ホロファガ目:Holophagales とアカントプレウリバクター目: Acanthopleuribacterales の 2 新目を含む)。仮に Hugenholtz et al. (1998) の分けた subdivision のそれぞれを綱の階級で分類するならば,アシドバクテリウム綱は subdivision 1 に相当し, Acidobacterium,Terriglobus,Edaphobacter の 3 記載属を含むことになります (Edaphobacter は著者らの系統樹には含まれていないが,最近 subdivision 1 の新属として記載された; Koch et al., 2008)。 アシドバクテリウム門にはこの他にも 6 つの未記載の系統群が残されています。 最近になって,全く新規の光合成細菌がこの門に含まれていることも明らかにされており (未知の光合成細菌発見;Hugenholtz et al., 1998 による subdivision 4 に属する。 Fukunaga et al., 2008 では subdivision 4 と 5 が入れ替わっている), 進化的な興味からも生態的な重要性からも,アシドバクテリウム門の研究の進展が切望されます。 プロテオバクテリア門の記載種が 2003 年には 500 属 2000 種以上に達していた(Garrity et al., 2005) ことを考えると,アシドバクテリウム門の多様性を記述するには遥か長い道のりが目の前広がっているようです。 それでも全ての分類群は 1 種 1 種の記載の積み重ねによって作られてきたわけであり, 今後も細菌学者の地道な研究こそ必要とされるでしょう。 Fukunaga, Y., Kurahashi, M., Yanagi, K., Yokota, A. & Harayama, S. Acanthopleuribacter pedis gen. nov., sp. nov., a marine bacterium isolated from a chiton, and description of Acanthopleuribacteraceae fam. nov., Acanthopleuribacterales ord. nov., Holophagaceae fam. nov., Holophagales ord. nov. and Holophagae classis nov. in the phylum ‘Acidobacteria’. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 58, 2597-2601 (2008). Garrity, G. M., Bell, J. A. & Lilburn, T. in Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn, Vol. 2. (eds. Brenner, D. J., Krieg, N. R. & Staley, J. T.) 159-220 (Springer-Verlag, New York, 2005). Hugenholtz, P., Goebel, B. M. & Pace, N. R. Impact of culture-independent studies on the emerging phylogenetic view of bacterial diversity. J. Bacteriol. 180, 4765-4774 (1998). Koch, I. H., Gich, F., Dunfield, P. F. & Overmann, J. Edaphobacter modestus gen. nov., sp. nov., and Edaphobacter aggregans sp. nov., acidobacteria isolated from alpine and forest soils. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 58, 1114-1122 (2008). 過去の関連記事 |
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オオヒゲマワリと北国の夜(2008.11.17)(→藻類学) |
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緑藻の化石は幾億年遡る?(2008.11.10)(→古生物学) |
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後生動物の隣人の系譜(2008.11.07) 後生動物の姉妹群は襟鞭毛虫類という,単細胞または群体性の原生動物であると考えられています (動物の形,擬足の形)。 しかし襟鞭毛虫類の系統進化についてはこれまでほとんど調べられてきませんでした。 Carr et al. (2008) は培養株の得られている襟鞭毛虫類について 4 遺伝子の系統解析を行い, 後生動物や襟鞭毛虫類などの進化系統について論じています。 これまで襟鞭毛虫類の系統解析は,少数の種について SSU rRNA 遺伝子のみを用いて行われてきたのみでした。 そのため襟鞭毛虫類の分類は主に形態に基づいており,最近の原生動物の図説の分類(Leadbeater & Thomsen, 2000) に準拠すれば,襟鞭毛虫目(Choanoflagellida)はコドシガ科(Codosigidae;Codonosigidae は不適切な綴り), サルピンゴエカ科(Salpingoecidae)とアカントエカ科(Acanthoecidae)の 3 科に分けられます。 主な区別点は細胞外被で,外被がない(光学顕微鏡では認められない)ものがコドシガ科,顕著な鞘状の殻(theca) を持つものがサルピンゴエカ科,そして基条(costa)と呼ばれる肋骨状構造がかご状に編み込まれてできた被甲 (lorica)を持つものがアカントエカ科に分類されてきました。著者らは 3 科全ての種を含んだ, 培養株が手に入るほぼ全ての種(11 属 16 種 17 株)について系統解析を行いました。
まず,後方鞭毛類の中で襟鞭毛虫類は単系統となり,同じく単系統となった後生動物の姉妹群になりました。 すなわち後生動物が襟鞭毛虫類から派生した可能性も,後生動物が退化して襟鞭毛虫類になった可能性も否定されました。 襟鞭毛虫類の内部では,アカントエカ科(細胞外被が珪質)の単系統性が支持された一方で, コドシガ科とサルピンゴエカ科は互いに混ざり合って単系統となりました(細胞外被が有機質の系統群)。 また,海綿との類似性が指摘されていた群体性の種は,コドシガ科とサルピンゴエカ科からなる単系統群に散逸しました。 一方で解析に含まれた淡水性の 3 種(他は海産)コドシガ科とサルピンゴエカ科の系統群内で単系統になっていて (なお,アカントエカ科の既知種は全て海産か汽水産),海産の祖先から淡水に進出したことが示唆されました。 著者らは系統樹と形質分布に基づいて,襟鞭毛虫類の祖先形質と形質進化を推定しています。 襟鞭毛虫の祖先は,有機質の細胞外被(糖衣:glycocalyx)を持った海産の付着性生物が推定されました (被甲を持つ種でもその内側に糖衣があるとのこと)。群体を形成する能力も襟鞭毛虫に広く見られることから, 襟鞭毛虫が群体性の祖先から繰り返し単細胞化した可能性すら考えられています。 基盤的な後生動物とされる普通海綿の仲間が,海産で珪質の骨片を持つ多細胞性の付着性生物であることと比較すると, 両者の祖先も海産の群体性付着性生物だったと考えるのが妥当でしょう。 アカントエカ科の珪質の被甲と普通海綿の骨片が相同である可能性も考えて良いでしょう。 しかし著者ら自身が認めているように,調べられた襟鞭毛虫類は,襟鞭毛虫全体の多様性のごく一部に過ぎません (全体で約 45 属 250 種)。アカントエカ科は独特な被甲を持つため系統的にも良くまとまると思われますが, コドシガ科やサルピンゴエカ科とされてきた種の中には未知の系統に属する種も含まれる可能性もあり, 現時点で襟鞭毛虫類などの祖先型質を推定するのは未だ早計かもしれません。 また今回,形態的に定義されたコドシガ科やサルピンゴエカ科,そして幾つかの属が単系統とはなりませんでしたが, さらに多数の属や種の系統解析と共に,分類学的な見直しも進められることが望まれます。 後生動物の起源に迫るため,襟鞭毛虫類の研究は今後益々進展していくことでしょう。 Carr, M., Leadbeater, B. S. C., Hassan, R., Nelson, M. & Baldauf, S. L. Molecular phylogeny of choanoflagellates, the sister group of Metazoa. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 16641-16646 (2008). Leadbeater, B. S. C. & Thomsen, H. A. in The Illustrated Guide to the Protozoa, 2nd Edn. (eds. Lee, J. J., Leedale, G. F. & Bradbury, P.) 14-38 (Society of Protozoologists, Lawrence, 2000). 過去の関連記事 |
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黄色藻の新綱は変わり者(2008.11.05)(→藻類学) |
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赤雪の首謀者は何種類?(2008.10.30)(→藻類学) |
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続報 2:ヒゲマワリの男の紋章(2008.10.27)(→藻類学) |
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行列をなすカンブリア紀の動物(2008.10.16)(→古生物学) |
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タマヒゲマワリの「ようなもの」の同定と分類(2008.10.14)(→藻類学) |
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続報:高度好塩菌の種の問題(2008.09.19) 高度好塩菌の種の問題では高度好塩細菌の分類の論文を紹介しました。 その論文中では好塩菌の学名に関する議論もなされていましたが,これは命名規約を無視した問題のある提案でした。 Oren (2008) はこの学名に関する問題点を別の雑誌上で指摘しています。 DasSarma & DasSarma (2008) は Halobacterium の種分類についてその問題点を指摘すると同時に, その学名が不適切であると主張しました。特に Halobacterium は現在,真正細菌(Bacteria)ではなく古細菌 (Archaea)に分類されるため,"-bacterium" という語尾を修正して,"Haloarchaeum" とすることを提案しています。この提案が不適切であることは既に 高度好塩菌の種の問題 で批判しましたが,Oren (2008) も同様の批判を展開しています。 Oren (2008) は,そもそも学名とは「タクソンを表示する手段」(タクソン=分類群)であって 「性状もしくは来歴を示す」ものではないとする国際細菌命名規約の原則 4 を引用しています (国際細菌命名規約 1990 年版翻訳委員会, 2000)。さらに Halobacterium の語源はギリシア語で, "hals, halos"(「海,塩」)と "bakterion"(「小さな棒」)を合わせた語だそうです。 つまり Halobacterium の原意には「真正細菌」という意味は元々含まれておらず, むしろ好塩性の桿菌の特徴を捉えている学名と紹介しています。 DasSarma & DasSarma (2008) は種の学名の混乱を問題視していますが,一方で Oren (2008) は, DasSarma & DasSarma (2008) による "Haloarchaeum" の提案こそ一層の混乱を招くと批判しています。 命名規約の原則 1(1) には,命名において「名の安定を目標にする」ことが明言されており, 不適切な名前の変更は避けなければなりません。Oren (2008) の批判は全く正当であり,DasSarma & DasSarma (2008) の「学名」が今後使用されないよう,強く求められるところです。 なお,Oren (2008) は学名の混乱に対して,Euzéby による LPSN や Halobacteriaceae の分類を扱う委員会による Correct names of taxa within the family Halobacteriaceae というデータベースを紹介しています。 両者を参照することで高度好塩菌の最新の学名や学名の履歴を容易に調べることができますので, 学名の変更や修正による混乱は現在では解決しているといえるでしょう。 Oren, A. Nomenclature and taxonomy of halophilic archaea - comments on the proposal by DasSarma and DasSarma for nomenclatural changes within the order Halobacteriales. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 58, 2245-2246 (2008). DasSarma, P. & DasSarma, S. On the origin of prokaryotic "species": The taxonomy of halophilic Archaea. Saline Syst. 4, 5 (2008). 国際細菌命名規約 1990 年版翻訳委員会 編 国際細菌命名規約(1990 年改定) (菜根出版, 東京, 2000). 過去の関連記事 |
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氷雪性 4 鞭毛藻の起源(2008.09.16)(→藻類学) |
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ウイルスにもファージ(2008.09.12)(→その他) |
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一次共生植物にしかない遺伝子(2008.09.10) 緑色植物,紅藻類,灰色藻類からなる一次共生植物の単系統性は未だに立証されていません。 むしろ一次共生植物が側系統的になるとの系統解析結果もあり(続報: 巨大な植物界),双方の立場から証拠の探索が続いています。Elias (2008) はグアニンヌクレオチド交換因子 (GEF)と呼ばれる一群のタンパク質の中に,それぞれ一次共生植物のみ,後方鞭毛類(オピストコンタ類) のみに存在するものを発見し,一次共生植物や後方鞭毛類の単系統性を支持する証拠として挙げています。 一次共生植物の単系統性を巡っては多数の遺伝子を用いた系統解析が行われています (真核生物の大系統,植物界が一つにまとまる時, 巨大な植物界,続報)。 しかしその結果は一致しておらず,単純な系統解析で解決するのは困難な問題とも思われます。 そこで配列の挿入欠失や遺伝子の有無のような質的な情報も探索されており,今回の著者はゲノム中の GEF タンパク質の有無を比較・検討しました。 現在,かなりの真核生物のゲノム情報が明らかになっており,真核生物の 6 大グループ(後方鞭毛類, アメーバ動物類,エクスカヴァータ類,リザリア類,クロモアルベオラータ類,アーケプラスチダ類=一次共生植物; 原生生物の「公式」分類体系)のうちリザリア類以外の 5 群でゲノム情報が得られています。 この中で Sec2 タンパク質はオピストコンタ類の大部分に見つかる一方で,他のグループには存在しませんでした。 後方鞭毛類は複数の証拠から既に単系統性が示されており(例えば 好塩性古細菌は見た! 〜 結びつく動物と菌類),Sec2 タンパク質は後方鞭毛類の祖先で獲得された共有派生形質と考えられました。 なお,Sec2 が見つからなかった後方鞭毛類は微胞子虫類(菌類の 1 系統)とハエ目(昆虫類)のみだったため, この 2 群で二次的に失われたものと見られています。 同様に,最近被子植物で発見された PRONE ドメインが他の緑藻類や紅藻類で発見されました。 PRONE ドメインを持ったタンパク質は他のグループではみつからず,一次共生植物の共有派生形質の可能性があります。 一次共生植物の中ではオオヒゲマワリ目で未発見ですが,PRONE と相互作用する RHO GTPase も見つからないことから, RHO GTPase を用いたシグナル伝達系そのものがオオヒゲマワリ目で失われたと解釈されています。 問題は,PRONE ドメインの存在が一次共生植物の単系統性を示す決定的な証拠となりうるのかどうかです。 まず注意が必要なのは灰色藻類で PRONE ドメインが見つかっていないことです。 灰色藻類のゲノムはまだ解読が終了していないため,今後の探索での検証が必要でしょう。 また,真核生物の 6 大グループのうちのリザリア類や,クリプト藻類,ハプト藻類など, 系統的に重要な群のゲノムも未解読のままです。これらのゲノム中に PRONE ドメインが含まれているかも知れず, そもそも各 GEF 遺伝子が二次的に失われた例が複数あるわけですから, タンパク質の有無のみで最終的な結論は出せないでしょう。 ただし,一次共生植物のみに存在する遺伝子が他にもないのか(他の例: 真核生物の大系統を水平に切る),逆に一次共生植物の側系統性を支持する遺伝子がないのか, 改めて検討することは有益だと思います。 Elias, M. The guanine nucleotide exchange factors Sec2 and PRONE: Candidate synapomorphies for the Opisthokonta and the Archaeplastida. Mol. Biol. Evol. 25, 1526-1529 (2008). 過去の関連記事: |
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ゲノム解読で深まる平板動物の謎(2008.09.03)(→その他) |
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謎の甲殻類の人工変態(2008.09.01)(→発生学) |
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ゴムノキに棲むクロレラ(2008.08.27)(→藻類学) |
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続報:色素体の名残 II(2008.08.22)(→藻類学) |
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甲殻類。キーワードは多様性(2008.08.21)(→その他) |
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どこから来たのか? 原生動物の植物型遺伝子(2008.08.14) 光合成を行わず,色素体の存在も知られていない原生動物において, 色素体遺伝子がしばしば報告されています。その進化的起源については水平遺伝子移動(LGT:lateral gene transfer) や細胞内共生体からの遺伝子移動(EGT:endosymbiotic gene transfer)が考えられていましたが, 両者は明確に区別できていませんでした。Maruyama et al. (2008) はそのような遺伝子の一つ, gnd 遺伝子について詳細な系統解析を行い,その進化について考察しています。 gnd 遺伝子は酸化的ペントースリン酸経路の酵素である 6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼを コードしていて,真核生物には 2 つの異なる系統の遺伝子が知られています。 一つは動物や菌類などの細胞質で働くことが知られ,真核生物の生来の遺伝子と考えられています。 もう一方はシアノバクテリアに近縁で,例えば色素体の一次共生と共に後から獲得された遺伝子と考えられていますが, 光合成生物以外にもいくつかの原生動物から見つかっており,その起源は明らかになっていません。 そこで著者らは幾つかの原生動物において新たに gnd 遺伝子の配列を決定し,詳細な系統解析を行いました。 まず真核生物の遺伝子はこれまでの知見と同様にシアノバクテリア型と真核生物の祖先型に分かれました (アメーバ動物類の位置には若干問題あり)。紅藻類は両者の遺伝子を同時に持っていることからも, 各遺伝子の起源が異なることが示唆されます。エクスカヴァータ類については,シアノバクテリア型を持つ系統と, 真核生物祖先型を持つ系統に分かれています。 --------------緑色植物| | -------ユーグレナ藻類(非光合成種も含む;エクスカヴァータ類) -------|------| | | -------ストラメノパイル類(卵菌類,不等毛藻類) | | -------| --------------灰色藻類 | | | | -------ヘテロロボセア(エクスカヴァータ類) -------| ------?------| | | -------紅藻類 | | | ----------------------------シアノバクテリア類 | | 他の真正細菌,アメーバ動物類, -----------------------------------ディプロネマ類(エクスカヴァータ類) 紅藻類,オピストコンタ類(動物,菌類) この系統樹では一次共生植物が互いに離れていることも特徴です。 二次共生に伴う EGT によって遺伝子が移動したとも考えられますが,奇妙な点もあります。 例えば緑藻類を二次共生させたユーグレナと,紅藻類を二次共生させたストラメノパイル類が姉妹群となっています。 また,ヘテロロボセア類の植物型遺伝子については,これまでユーグレナ藻類と同じ緑藻由来と思われていました (つまり両者とも二次共生藻の子孫との仮説があった)が,今回の解析ではヘテロロボセア類の遺伝子は ユーグレナ藻類とも緑藻類とも離れており(KH,AU 検定でも確認された), むしろ紅藻類と近縁な可能性が示唆されています。同様に非光合成性のストラメノパイル類であるエキビョウキン (Phytophthora;卵菌類)の植物型遺伝子も,不等毛藻類との共通祖先が紅藻由来の二次共生色素体から 引き継いだものと考えられていました。しかし紅藻類とストラメノパイル類の gnd 遺伝子も離れてしまいました。 では非光合成のユーグレナ藻類,ストラメノパイル類,そしてヘテロロボセア類の gnd 遺伝子はどこから来たのでしょうか。まず考えられるのは LGT が繰り返し起こった可能性です。 樹形を考えると,少なくとも 1 回は LGT が起こっているようです。 しかし全てを LGT で説明するには,多数の LGT を仮定しなければなりません。 一方,gnd 遺伝子が一次共生を行った祖先から引き継がれた可能性も考えられています。 Nozaki et al. (2007) などは,一次共生植物(灰色藻類,紅藻類,緑色植物類)は側系統群で, ストラメノパイル類やハプト藻類,エクスカヴァータ類などは色素体を失った一次共生植物の子孫であると考えています (続報:巨大な植物界など)。確かに gnd 遺伝子の系統関係は Nozaki et al. (2007) の系統樹とよく似ています(LGT の可能性のあるユーグレナ藻類は除く)。 原生動物の gnd 遺伝子が度重なる LGT の証拠なのか,それとも祖先の一次共生の証拠となるのか, 残念ながら現状では区別できません。さらに多くの gnd 遺伝子が解析され, 例えばヘトロロボセア類と紅藻類の gnd 遺伝子が互いに単系統群となるのか, などが調べられれば gnd 遺伝子の進化の経緯がより精密にわかるかも知れません。 Maruyama, S., Misawa, K., Iseki, M., Watanabe, M. & Nozaki, H. Origins of a cyanobacterial 6-phosphogluconate dehydrogenase in plastid-lacking eukaryotes. BMC Evol. Biol. 8, 151 (2008). 過去の関連記事: |
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色素体の名残 II(2008.08.01)(→藻類学) |
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色素体の名残 I(2008.07.30)(→藻類学) |
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卵菌の理解に大切な生き物 II(2008.07.23) 卵菌の理解に大切な生き物 Iでは卵菌類の初期分岐の一つ, フクロカビモドキ属(Olpidiopsis)の 1 種の分子系統と微細構造の研究を紹介しました。 同じ筆頭著者らはフクロカビモドキ属よりも初期に分岐した Eurychasma dicksonii の研究も出版しています (Sekimoto et al., 2008)。 Eurychasma はフクロカビモドキ属と同様に,海産の単細胞全実性の内部寄生菌類で, 褐藻類に寄生することが特徴です(紅藻に寄生する類似種は Eurychasmidium に移された; Dick, 2001)。 本属には現在 E. dicksonii 1 種のみが認められていて(Dick, 2001;他未記載種 1 種も知られる), 分子系統解析から最初に分岐した卵菌類とも見られていました (卵菌の理解に大切な生き物 I)。この系統的な重要性にもかかわらず, これまで微細構造の研究はほとんど行われていなかったそうで,著者らはシオミドロ(Ectocarpus siliculosus) とピラエラ(Pylayella littoralis)に寄生する株(それぞれ Eury05 = CCAP 4018/1,Eury96 = CCAP 4018/2) を用いて生活史を通じた観察を行いました。 培養下では 2 週間程度で生活史が回っていると見られ,著者らはそのほとんどについて微細構造を報告しています。 Eurychasma の寄生は二次遊走子が藻体に付着して二次シストを形成する所から始まります。 二次シストは発芽して宿主細胞に細胞壁を破りながら侵入し,無壁で多核の菌体を形成します。 宿主側の細胞はこれに伴って拡大と液胞化が進み,「異常肥大」した状態になります。 やがて菌体は発達して細胞壁を作り,内部は高度に液胞化して「泡沫状」段階に進みます。 ここから一次シストの形成が起こりますが,これまでは細胞が分裂して多数の一次遊走子が形成され, これが細胞壁(遊走子嚢壁)に付着して一次シストになるとされていました。 しかし著者らの観察では一次遊走子は認められず,泡沫状細胞から直接一次シストが生じる可能性が指摘されています。 いずれにせよ一次シストは遊走子嚢壁の内側表面にびっしりと形成され,そこから二次遊走子が放出されると, 一次シストの壁のみが遊走子嚢に残って独特の網目模様を呈します(net sporangium)。
著者らはこの主要な生活環の他に,泡沫状細胞がさらに液胞が発達した状態と, 逆に細胞質が凝集した状態にも変化することを見出しています。これらから別の生活史段階への移行は確認されておらず, 異常な状態なのか,それとも未知の段階,例えば卵形成の段階なのかは明らかにはなりませんでした。 原始的な卵菌類では有性生殖が知られていませんから,この点は興味深い今後の課題と言えるでしょう。 分子系統は SSU rRNA と COII について行われ,これまで SSU rRNA の系統解析から指摘されていたように, 卵菌類の初期分岐となっていました。COII の解析では他の卵菌類よりもビコソエカ門の鞭毛虫 Cafeteria に近縁になりましたが,これは両者の進化速度が速いための誤りと見られています。 また SSU rRNA の結果からは Eurychasma は単独で卵菌類の根元にくるわけではなく, 線虫に寄生する卵菌類の仲間,Haptoglossa と姉妹群になる可能性が示唆されています。 Haptoglossa は主に土壌から分離される点で他の基盤的な海産全実性卵菌類とは異なっていますが, 海産の報告例もあるそうです(Dick, 2001)。 今回明らかになった微細構造などの特徴では,Eurychasma の藻体への付着構造が Haptoglossa などの付着構造に似ている一方で,Eurychasma では宿主への侵入直後は無壁の状態になりますが, Haptoglossa では常に細胞壁に覆われているという違いもあるそうです。 いずれにせよ卵菌類の初期分岐についてはまだ多数の未研究の属が残されていると見られ, 現状では微細構造の情報が不足していると言わざるを得ません。引き続き情報が蓄積し, 卵菌類がどのような姿,生態の祖先から進化してきたのかが明らかになるよう期待されます。 Sekimoto, S. et al. The development, ultrastructural cytology, and molecular phylogeny of the basal oomycete Eurychasma dicksonii, infecting the filamentous phaeophyte algae Ectocarpus siliculosus and Pylaiella littoralis. Protist 159, 299-318 (2008). Dick, M. W. Straminipilous Fungi: Systematics of the Peronosporomycetes Including Accounts of the Marine Straminipilous Protists, the Plasmodiophorids and Similar Organisms (Kluwer Academic, Dordrecht, 2001). 過去の関連記事 |
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オオヒゲマワリの配列全部解析(2008.07.14)(→藻類学) |
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続報:粘菌の種分類の真髄へ迫る(2008.07.08) 粘菌の種分類の真髄へ迫るでは Polysphondylium pallidum complex とまとめられてきた近縁種同士の分類学的整理について紹介しました。調べられた交配群 A〜C のうち, A と B についてはそれぞれ P. album,P. pallidum と同定されましたが, 交配群 C については未整理のままでした。そして Kawakami & Hagiwara (2008b) によりこの交配群 C は新種 P. multicystogenum として記載されました。 Kawakami & Hagiwara (2008a) において,交配群 C は P. pallidum や P. album と生殖的に隔離され, 形態的にも区別される独立種として認識されました。しかしながら P. pallidum complex には他にも P. tenuissimum などの種が知られており,これらの種と交配群 C の関係を明らかにする必要がありました。 そこで著者らは今回,交配群 C について詳細な記載を与え,類似種との生殖隔離を検討しています。 交配群 C の最大の特徴は,通常の温度条件(20 °C)での培養で容易にミクロシスト (子実体形成も有性生殖も伴わずにアメーバ細胞から直接形成するシスト)を形成することでした。 他の種では生育に不適な条件ではミクロシストの形成が知られているにもかかわらず, 交配群 C のような容易なシスト形成は例がないそうです。 P. pallidum,P. album との区別点は Kawakami & Hagiwara (2008a) で明らかにされていますが (粘菌の種分類の真髄へ迫る),さらに他の類似種として P. colligatum, P. tenuissimum,P. tikaliensis が挙げられています。交配群 C はシスト形成の特徴はもちろん, これらの 3 種よりも子実体の節の数がやや少ない(通常 1〜7)ことによっても区別されたそうです。 また交配群 C の 2 つの交配型用いて類似種のタイプ株などとの交配実験が行われましたが, その結果として交配群 C が類似するいずれの種とも交配しない,すなわち生殖的に隔離されていることが示され, 独立種 P. multicystogenum とすることの正当性が裏付けられました。 こうしてシロカビモドキ属(Polysphondylium)にまた一つ新種が加えられました。 残念ながら P. multicystogenum の分子系統は調べられておらず,類似種との進化的な関係は未解決のままですが, P. pallidum complex を巡って持ち上がっていた問題はひとまず片付いたようです。 今後も分類が難しい株が見つかってくることは十分にありうると思いますが,種分類が整理された今, 新しい株が新種なのか既知種に含まれるのかの判断は遥かに容易になったと思われます。 Kawakami, S. & Hagiwara, H. A taxonomic revision of two dictyostelid species, Polysphondylium pallidum and P. album. Mycologia 100, 111-121 (2008a). Kawakami, S. & Hagiwara, H. Polysphondylium multicystogenum sp. nov., a new dictyostelid species from Sierra Leone, West Africa. Mycologia 100, 347-351 (2008b). 過去の関連記事 |
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動物の形,擬足の形(2008.07.02) 後生動物が多細胞性を獲得した過程,特にその分子機構を明らかにするため, 後生動物に近縁な原生動物の特定と研究が進められています。Shalchian-Tabrizi et al. (2008) は特に Ministeria という原生動物に着目して多数の遺伝子配列を解読し, 本種の系統的位置を絞り込むと共に動物の祖先における分子,形態レベルの進化傾向を考察しています。 動物や菌類に近縁な原生動物を総称して襟鞭毛動物類(Choanozoa;広義)と呼びます。 襟鞭毛動物類には幾つかの系統群が知られていますが,互いの系統関係には未解決な部分が残されていました。 特に動物の姉妹群が海綿の襟細胞に類似した襟鞭毛虫類(choanoflagellates:狭義の Choanozoa)なのか, 昨年分子系統解析で候補に挙がった Ministeria(複数の触手を持った球状の原生動物) なのかが一つの問題となっていました(動物になる前,菌類になる前)。 そこで著者らは Ministeria の cDNA を 4,700 クローンも解読し, このうち保存的な 78 遺伝子を用いて系統解析を行いました。 著者らの系統樹は良く解けており,特に動物に近縁な原生動物の分岐順序が明らかになりました。 後生動物の姉妹群はやはり Ministeria ではなく襟鞭毛虫類となりました。 そして Ministeria の姉妹群は Capsaspora owczarzaki という, やはり触手状の擬足を持ったアメーバ状生物となりました。 これまで Capsaspora は所属不明の原生動物と思われていましたが, 著者らは系統解析の結果を受けて Ministeria と共に襟鞭毛動物門の新綱フィラステレア綱(Filasterea), ミニステリア目に分類しました。またイクチオスポレア類も菌類より動物に近い位置にあり, 後生動物,襟鞭毛虫類,フィラステレア類,イクチオスポレア類が単系統群をなすことが, ユビキチンとリボソーム小サブユニット S30 タンパク質の融合によっても裏付けられることが指摘されました。 -------後生動物-------| | -------襟鞭毛虫類 -------| | | -------Capsaspora owczarzaki -------| -------| | | -------Ministeria vibrans -------| | | | ---------------------イクチオスポレア類 | | | ----------------------------菌類 | -----------------------------------アメーバ動物類 さて,系統関係が明らかになったことで見えてくることも多数あります。 まず著者らは解読した多数の遺伝子の中から,多細胞化との関連が言われているタンパク質を調べました。 具体的には Ministeria に細胞間情報伝達に関わる Hedgehog や受容体チロシンキナーゼ, Notch などのドメインが動物とは異なるドメイン構造で存在することや, 細胞間接着などのタンパク質も同様に Ministeria に存在することを示しています。 現時点では Ministeria や Capsaspora の全ゲノムは解読されていませんので, より多数の多細胞化に関連したタンパク質が単細胞生物の時代に遡れることが推測されます。 遺伝子レベルの進化も興味深いですが,もう一つ形態レベルの進化についても面白い話題が出ています。 襟鞭毛動物類,菌類,動物類を合わせたオピストコンタ類(opisthokonts) は遊走子が後方に鞭毛を持つ系統群として知られていますが,著者らはもう一つ, 細い擬足を共有することを指摘しています。菌類の系統では(今回解析されなかった Nuclearia を含む) 擬足の先端が先細り,時に分岐するのに対して,動物の系統,特に後生動物,襟鞭毛虫類, フィラステレア類を合わせたフィロゾア(filozoa)類は分岐せず先端が先細らない擬足,「触手(tentacles)」 を共通して持っているそうです。なお,イクチオスポレア類では触手は細胞壁に置き換わったとされています。 触手の軸の部分はアクチン繊維の束が固めており,腸の上皮細胞の微絨毛と同じ構造と考えられます。 想像力を働かせれば,単細胞動物の補食構造だった触手が,襟鞭毛虫類と後生動物類の共通の祖先で, 微細な餌粒子を濾しとる「襟」構造に進化し,これが高等動物の消化管の微絨毛に進化していったと思われます。 いわば動物は小腸の上皮細胞こそが本体で,ここに餌を送り込むために複雑な体制を持っている, という見方をしても面白いでしょう。 今回の解析では Corallochytrium や Nuclearia などの重要な系統が含まれていませんが, 一応それぞれ系統的位置は絞り込まれているので(前者はイクチオスポレア類の姉妹群。ただし疑問の余地はあり; 揺れる動物と菌類の根本。後者は菌類の根元; 動物になる前,菌類になる前),大きな問題ではありませんが, これから研究が進むにつれて全ての主要な襟鞭毛動物類を含んだ多遺伝子解析も行われることでしょう。 過去の関連記事 |
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高度好塩菌の種の問題(2008.06.20) 分類学の根本的な課題の一つに,種とは何か?,という問題があります。 特に無性的な分裂によって増殖する生物,例えば原核生物では何をもって同一種または別種とするのかは難問です。 DasSarma & DasSarma (2008) は高度好塩菌の Halobacterium 属の種分類について問題提起しています。 高度好塩菌(extreme halophiles)は 1.5(2.5)〜5.2 Mの食塩(NaCl)の存在下でのみ生育できる微生物を指し, 全て古細菌ドメインのユリアーケオタ門ハロバクテリウム綱ハロバクテリウム目ハロバクテリウム科に所属します。 そして著者らの着目している Halobacterium がそのタイプ属です。 Grant (2001),Gruber et al. (2004),Yang et al. (2006) を総合すると,Halobacterium にはこれまで 15 種が記載されてきましたが,3 種を除いて全てシノニム(異名)か別属になったそうです。 問題はこれらの文献で H. salinarum とされている種です。この種には H. halobium と H. cutirubrum が異名として含められていますが,著者らは旧来この 3 種とされてきた株を 1 種にまとめることに異論を唱えています。 ここでは特に 3 つの株を中心に Grant (2001),Gruber et al. (2004) と著者らの見解について検討してみたいと思います。H. salinarum のタイプ株は DSM 3754 (=ATCC 33171)で,これが "真の" H. salinarum になります。一方でモデル生物として使用され, ゲノム解読が行われているのは NRC-1 株と R1 株です(いずれも現在 H. salinarum)。NRC-1 (=ATCC 700922)株は H. halobium に同定されていた株で,後に H. salinarum に再同定されました (ゲノム解読に遅れた命名)。そして R1(=ATCC 29341 =DSM 670)株もかつて H. halobium に同定されていた株で,元々ガス胞(窒素ガスを蓄積して細胞に浮力を与える小胞) を欠く変異体として他の株からとられたもので,NRC-1 株が親株であると推定されています(Grant, 2001)。 果たしてこれらの株は同種に分類されるべきなんでしょうか。 Gruber et al. (2004) は NRC-1 株を H. salinarum に同定する際に,本種を再定義し, タイプ株と NRC-1 株の生理学的性状(表現型)が良く一致していることを挙げています。 ところが著者らは抗体耐性マーカー,細胞内の陽イオン,細胞膜のタンパク質,脂質,糖の組成がタイプ株や NRC-1 株などそれぞれの株間で異なることを強調しています。特に明確な表現型の差として, R1 株におけるガス胞を欠如を挙げ,これが本株の生育環境の特性を反映している可能性を指摘しています。 しかし R1 株は突然変異株であり,そもそもガス胞の有無はプラスミド上の不安定な領域によって決まっているため (Grant, 2001),この差を種間の差の議論に持ち込むことには疑問を覚えます。 遺伝型という意味では,Gruber et al. (2004) はタイプ株と NRC-1 株と他 1 株の 16S rRNA の類似性が 97.1%「も」あることを強調しているのに対して,今回の著者らはほぼ全ての株で「違いがある」 ことを強調しています。また著者らは他の遺伝的な違い,特に rep-PCR で検出される違いを示しています。 rep-PCR は,繰り返し配列に設計したプライマーで PCR を行い,繰り返し配列間の多数のゲノム断片長を比較する, 株や種の同定のための手法(Cleland et al., 2008)です。この結果が DSM 3754 株,NRC-1 株, R1 株を含むほとんどの株間で異なっているそう。しかし rep-PCR は元々異なる種, 株を区別するために開発された手法ですので,この違いの程度を種差として解釈するのは正当ではないでしょう。 もっとも,この結果は R1 株が NRC-1 株に由来する可能性に疑問を呈している点は注目されます (R1 株が突然変異株であることを否定するものではありませんが)。 こうして議論を比較してみると,H. salinarum を 1 種と認める立場(Grant, 2001; Gruber et al., 2004 など)と今回の著者らの見解は水掛け論になっていることがわかります (といっても今回の著者らは種分類の改定案を示していないため,実用性がない)。 その焦点は「どの程度の差があれば別種なのか」という問題に帰着すると思われ, ここに無性的に増える生物に共通の問題が見えてきます。併せて Halobacterium の場合には, Ottawa の National Research Council(NRC)が株の維持を停止したために,多くの株が失われ, あるいは株の由来が不明になったために問題がさらに複雑になっています(Grant, 2001)。 結局,現状では恣意的であることを認識した上で,なるべく明確に近縁種と区別できる表現型(の組み合わせ) に基づいて線引きを行うことが必要であると思われます。Gruber et al. (2004) の分類はその点で妥当でしょう。興味深いことに彼らは細胞全体のタンパク質の電気泳動像の類似性を, DSM 3754 株と NRC-1 株を同種とした根拠に挙げています。定量的な比較が行われていないため, この後の改善の余地はありますが,タンパク質の組成という「表現型」に着目した種分類として, より深い研究を期待したいところです。 余談ですが,学名に関わる議論について触れておきたいと思います。著者らの意見では,古細菌の仲間に Halobacterium という名前は不適当で,属名を Haloarchaeum と改名, 併せて科名や目名なども変更し,通称も "haloarchaea" とする,としています。 しかしこれは命名規約の精神からは絶対に許されない提案です。国際細菌命名規約の規則 55 (1) には, 「合法名」を「不適当である」との「理由だけで換えてはならない」と明言されており (国際細菌命名規約 1990 年版翻訳委員会, 2000),著者らの言い分は(通称については別として) 到底受け入れられるものではありません(もし受け入れれば似たような改名が相次ぎ, 原核生物の学名全体に大きな混乱が生じます)。この他,H. salinarum と H. halobium を統合する場合,後者に優先権があるとの見解を引用していますが,この点は確認できませんでした (おそらく H. salinarum が正しい;Grant, 2001)。H. salinarum の綴りについても H. salinarium の方が正しいと引用していますが,これは文法的にはどちらとも言えないようで, 規約上は著者の選択に任せられることになりそうです(規則 62b)。つまり,現状では H. salinarum に合わせておいていいでしょう(著者らもそのようにしている)。 DasSarma, P. & DasSarma, S. On the origin of prokaryotic "species": The taxonomy of halophilic Archaea. Saline Syst. 4, 5 (2008). Cleland, D., Krader, P. & Emerson, D. Use of DiversiLab repetitive sequence-based PCR system for genotyping and identification of Archaea. J. Microbiol. Methods 73, 172-178 (2008). Grant, W. D. in Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn. Vol. 1. (eds Boone, D. R., Castenholz, R. W. & Garrity, G. M.) 301-305 (Springer, New York, 2001). Gruber, C. et al. Halobacterium noricense sp. nov., an archaeal isolate from a bore core of an alpine Permian salt deposit, classification of Halobacterium sp. NRC-1 as a strain of H. salinarum and emended description of H. salinarum. Extremophiles 8, 431-439 (2004). 国際細菌命名規約 1990 年版翻訳委員会 編 国際細菌命名規約(1990 年改定) (菜根出版, 東京, 2000). Yang, Y., Cui, H.-L., Zhou, P.-J. & Liu, S.-J. Halobacterium jilantaiense sp. nov., a halophilic archaeon isolated from a saline lake in Inner Mongolia, China. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 56, 2353-2355 (2006). 過去の関連記事 |
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深窓の古細菌にゲノムのメスを(2008.06.18)(→その他) |
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謎のキャビア寄生虫の正体(2008.06.16) Polypodium という寄生虫はチョウザメ目の卵に寄生する特殊な生物です。 Polypodium は幾つかの特徴から刺胞動物との関連が指摘されていましたが, 分子系統解析によっては粘液胞子虫と共に刺胞動物から区別される可能性も指摘されていました。 そこで Evans et al. (2008) は 2 遺伝子,多数の刺胞動物を含めた系統解析から Polypodium の所属を調べました。 Polypodium はチョウザメの前卵黄形成期の卵母細胞に寄生(二核細胞として見つかるが,侵入経路は不明) そのまま生活史の大半を細胞内で過ごします(1 年以上におよぶ)。この間にプラヌラ型幼生を経て,表裏が逆 (外胚葉が内側,内胚葉が外側で触手も内側向き)の芽体(stolon)に発生します。芽体は宿主が産卵する前に裏返り, 触手が外側を向いた状態で細胞外に出ると,千切れて触手を持ったポリプとして無性的に増殖します。 ポリプには雌雄があり,有性生殖を経て再び寄生すると考えられています(Bouillon et al., 2006)。 さて,発生や生活史の様子や刺胞の存在から Polypodium は刺胞動物であるとの説が有力でしたが, 18S rDNA の系統解析からはミクソゾア類と共に刺胞動物から離れる可能性が指摘されていました。 最近になってミクソゾア類は刺胞動物に含まれることが示されており, (刺胞動物から湧き出た蠕虫類),Polypodium についても系統的見直しが必要でした。 そこで著者らは多くの刺胞動物について 18S rDNA と 28S rDNA の配列を収集し, Polypodium も含めた解析を行いました。DNA は配列ごとに異なる個体から得ており, 18S rDNA はロシア産のコチョウザメ(Acipenser ruthenus)とアメリカ産のヘラチョウザメ (Polyodon spathula),28S rDNA は別個体のロシア産コチョウザメとアメリカ産の Scaphirhynchus platorynchus から採集されています。 18S と 28S rDNA の結合系統解析からは,Polypodiium はミクソゾア類とは離れ,明らかに刺胞動物, 中でもヒドロ虫綱との類縁性が示されました。ただし最尤法ではヒドロ虫綱の姉妹群で, 最節約法ではヒドロ虫綱のレプトテカータ目(Leptothecata)に含まれました。 なお 18S や 28S rDNA 単独では明確な結果は得られなかったそうです。特に 18S rDNA の最尤法による解析では, ミクソゾア類の有無によって Polypodium の位置が動いたことから, これまでの 18S rDNA の解析では長枝誘引(long branch attraction)によって Polypodium とミクソゾア類が近くに位置づけられていたことが推測されました。 Polypodium はミクソゾア類を除けば唯一の細胞内寄生する動物として知られています。 ミクソゾア類にも細胞内寄生が知られており,Polypodium と類縁性があるのかどうかは, 細胞内寄生性の進化に関わる重要な問題です。ミクソゾア類の位置については多遺伝子解析の結果, 水母亜門との類縁が示されていますが(刺胞動物から湧き出た蠕虫類), 今回はその結果は再現されていません。これは今回用いた遺伝子が少ないためと思われ, Polypodium についても多数の遺伝子を用いた系統解析をミクソゾア類と同時に行うことが望まれます。 そうすることで初めて Polypodium とミクソゾア類が独立して細胞内寄生を進化させたのか, 同じ細胞内寄生生物から由来したのかが明らかになるかも知れません。 Polypodium については Raikova (1988) がポリポディウム綱(Polypodiozoa)を提供しています。 今回の結果からは Polypodium がヒドロ虫綱の姉妹群の独立綱となる可能性が示唆されましたが, ヒドロ虫綱に含まれる可能性も否定できませんでした。Raikova (1988) では目(もく)の分類は触れられておらず, ポリポディウム科(Polypodiidae)の分類が落ち着くにもまだ時間を要するようです。 Evans, N. M., Lindner, A., Raikova, E. V., Collins, A. G. & Cartwright, P. Phylogenetic placement of the enigmatic parasite, Polypodium hydriforme, within the Phylum Cnidaria. BMC Evol. Biol. 8, 139 (2008). Bouillon, J., Gravili, C., Pagès, F., Gili, J.-M. & Boero, F. An introduction to Hydrozoa (Publications Scientifiques du Muséum, Paris, 2006). Raikova, E. V. in Porifera and Cnidaria: Modern and Perspective Investigations (eds. Koltun, V. M. & Stepanjants, S. D.) 116-122 (USSR Academy of Science, Zoological Institute, Leningrad, 1988), in Russian. 過去の関連記事 |
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緑藻綱の進化の順序(2008.06.11)(→藻類学) |
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卵菌の理解に大切な生き物 I(2008.06.09) 二次共生藻類のオクロ藻類(不等毛藻類)に近縁な卵菌類という鞭毛菌類の仲間がいますが, この分類群では分子系統解析が遅れており,初期に分岐した系統群の研究が進んでいませんでした。 Sekimoto et al. (2008) はアマノリ属(Porphyra;いわゆる食用の海苔(のり)) に寄生する病原菌の詳細な研究を行い,これが新種のフクロカビモドキ属(Olpidiopsis)であり, 卵菌類の深い位置で分岐した生物であることを報告しています。 卵菌類はストラメノパイル類に含まれる鞭毛菌類で,生卵器と造精器の接触による有性生殖が知られ, 遊走子が前方を向く羽形の鞭毛と後方を向くむち形の鞭毛を持つことが特徴です。 卵菌類には菌体がそのまま遊走子嚢になる全実性の菌と,菌糸上に遊走子嚢を形成する分実性の菌が含まれますが, これまでの分子系統解析は分実性の種が多いツユカビ類(peronosporaleans)とミズカビ類(saprolegnians) を中心に行われており,ツユカビ類とミズカビ類より前に分岐した卵菌類の研究が待たれていました。 海苔の壺状菌病の病原体(実際にはツボカビの仲間ではない)は全実性の卵菌類であるフクロカビモドキ属の 1 種であると見られていましたが,純粋培養ができないことが研究を困難にしていたました。 そこで著者らは有明海の養殖海苔(スサビノリ:Porphyra yezoensis)の感染した藻体を, 未感染の藻体を入れた培地に数日おきに移していくことによって病原菌を維持し,研究に用いました。 そして生活史や形態の特徴,宿主域の情報に基づき,この病原体がフクロカビモドキ属の新種であることを確認し, Olpidiopsis porphyrae と名付けました。 菌の感染は遊走子が藻体に取り付いてシストを形成することから始まり,これが発芽して細胞内に侵入します。 そして宿主の細胞内に単細胞で球形の菌体を形成し,成長して遊走子嚢になり,二鞭毛性の遊走子が放出します。 著者らはこれらの過程を電子顕微鏡を用いて観察しており,多数の微細構造の写真も掲載しています。 宿主域については紅藻,緑藻,褐藻に対して感染性が検討されましたが,感染が認められたのはウシケノリ目 (Bangiales)の種に限られていたそうです。不思議なことに,13 のウシケノリ目の試料の中で, マルバアサクサノリ(P. kuniedae)の胞子体(conchocelis stage)にのみ感染しなかったそうです。 マルバアサクサノリの配偶体や他種の胞子体には O. porphyrae は感染できるため, マルバアサクサノリの胞子体を調べることで壺状菌病の対策が見つかってくるかも知れません。 さて,分子系統解析は SSU rRNA と cox2 遺伝子の 2 種類について行われ,O. porphyrae は SSU rRNA で Eurychasma dicksonii(褐藻の寄生菌。海産)に次ぐ原始的な位置を, Eurychasma を含まない cox2 の系統樹で最も原始的な位置を占めていました。 ただし後者の系統樹では卵菌類の根元付近の統計的支持率が低く,海産無脊椎動物の寄生菌である Haliphthoros や Halocrusticida の系統との関係は明らかではありません。 こうして O. porphyrae が卵菌類の初期分岐の一つであることが示されましたが, Haliphthoros を除いては卵菌類の初期分岐については微細構造の研究がほとんどなく, O. porphyrae との十分な比較はできませんでした(同じ筆頭著者による Eurychasma の研究が最近出版されている。近いうちに紹介予定)。 それでも卵菌類の初期分岐が海産の全実性の種に占められているのは明らかで, 同様の仲間から分実性のツユカビ類やミズカビ類が進化してきたと言えそうです。 また,これらの海産全実性の初期分岐においては O. porphyrae も含めて有性生殖の観察例がなく, 卵菌類の特徴とされる生卵器と造精器による有性生殖を行わず,異なる様式の有性生殖を行う可能性もあり, この検証は非常に楽しみな課題です。 最後に O. porphyrae の属分類について気になる点を指摘しておきます。 フクロカビモドキ属には 50 種以上が記載されてきたそうですが,これらを複数の属に分割する見解もあるそうです (例えば Dick, 2001)。Dick (2001) では海産紅藻に寄生する種を Pontisma に分類していますが, 今回の著者らは分子系統や微細構造の比較なしの,宿主域のみでの属分類には反対の立場を表明しています。 しかしフクロカビモドキ属のタイプ種(O. saprolegniae)は淡水産の卵菌類(ミズカビ属)に寄生する種で, 海産の全実性の系統が基部付近に,淡水性の卵菌類が派生的な位置に来た分子系統の結果を踏まえると, O. porphyrae がフクロカビモドキ属とは別の系統に含まれる可能性もあるかと思います。 その検証のためにも O. saprolegniae や Pontisma lagenidioides(Pontisma のタイプ種) の分子系統的位置を今後明らかにしていく必要もあるのではないでしょうか。 Sekimoto, S., Yokoo, K., Kawamura, Y. & Honda, D. Taxonomy, molecular phylogeny, and ultrastructural morphology of Olpidiopsis porphyrae sp. nov. (Oomycetes, straminipiles), a unicellular obligate endoparasite of Bangia and Porphyra spp. (Bangiales, Rhodophyta). Mycol. Res. 112, 361-374 (2008). Dick, M. W. Straminipilous Fungi: Systematics of the Peronosporomycetes Including Accounts of the Marine Straminipilous Protists, the Plasmodiophorids and Similar Organisms (Kluwer Academic, Dordrecht, 2001). 過去の関連記事 |
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蘚類の分類も系統分類へ(2008.06.06) コケ植物は陸上植物の根元を占める(おそらく)側系統群ですが,中でも蘚類が最多の種を含みます (約 12,800 種とのこと)。古典的には形態に基づく分類が土台になっていますが,何度か分類体系の提案がされています。 Stech & Frey (2008) は分子系統を反映した「形態-分子」分類体系を提唱しています。 著者らは分子系統と形態に基づく分類体系を苔類,ツノゴケ類についてこれまで発表してきました。 そして今回は蘚類についても,分類体系の再構築を試みています。この論文中ではこれまでの分子系統を踏まえて, 特にマゴケ綱(Bryopsida)についてはこれまでの分子系統で未解決の部分が多かったため, 新たに分子系統解析も行い,分類体系の見直しに利用しています。 分子系統解析には葉緑体の非コード領域を用いていて,解読した 2430 座位のうち,変異の激しい 781 座位を除いた 1649 座位で解析されました。解析の結果,マゴケ綱の目間関係が解けたかと言えば,あまり解けていないようです。 一部の目については単系統性も高い支持率を得ていません。著者らは非コード領域の有用性を主張したいようですが, 他の遺伝子配列と結合するのであればともかく,単独で目間関係のような深い分岐を探るのは無理がありそうです。 さて分類体系の大筋ですが,かつては蘚類か苔類かも不明だったナンジャモンジャゴケ類が亜門の階級で区別され, 同程度に系統的に他の蘚類と離れているミズゴケ類も亜門として扱われています。マゴケ亜門の内部では, やはり系統・形態の双方で独自の,基盤的な 4 群が綱の階級でマゴケ綱と区別されていますが, クロゴケ類とクロマゴケ類は別綱として扱う研究者もいたため,異論が残るかも知れません。
マゴケ綱の分類は今回の分子系統を取り入れているようですが,これまでの研究者が時に, 亜綱と目の間に上目という階級を入れて整理していたのに対して,著者らは上目という階級は用いていません。 これまでの亜綱や上目の分類が分子系統と合わなかったためのようですが, シッポゴケ亜綱とマゴケ亜綱には 8〜12 目がそれぞれ含まれているため, 今後は系統解析の改善と合わせて上目の分類も取り入れられるかも知れません。 この論文では幾つかの新分類群が記載されていますが,中でも気になるのがナンジャモンジャゴケ科 (Takakiaceae),ナンジャモンジャゴケ目(Takakiales),ナンジャモンジャゴケ綱(Takakiopsida), ナンジャモンジャゴケ亜門(Takakiophytina)の記載です。著者らによれば, ナンジャモンジャゴケ科が最初の論文で正式に記載されていなかったため, これらの学名は全て正式記載されていなかったそうです。このような「使われているけれども正式記載されていない」 学名はやっかいな問題で,このように積極的に解決が進むことを希望します。 Stech, M. & Frey, W. A morpho-molecular classification of the mosses (Bryophyta). Nova Hedwigia 86, 1-21 (2008). 過去の関連記事 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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見えざる色素体を追って(2008.05.30)(→藻類学) |
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系統樹から貫くヤリミドリ属 の形態差(2008.05.26)(→藻類学) |
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粘菌の種分類の真髄へ迫る(2008.05.21) 細胞性粘菌の仲間にシロカビモドキ(Polysphondylium pallidum という種がいます。 本種は比較的普通に分布している種類ですが,実は近縁な数種との区別が困難で,しばしば P. pallidum complex として一括りにされてきました。Kawakami & Hagiwara (2008) はこれまで区別が明確でなかった P. pallidum と P. album の 2 種について,生殖隔離の実験と詳細な形態的比較から互いに独立種であることを示しています。 P. pallidum complex は,子実体が輪生枝を持つムラサキカビモドキ属(Polysphondylium) の中で,白い胞子嚢群と楕円形の胞子を持ち,子実体の先端が長く伸長しない種群を指します。Hagiwara (1989) は, シロカビモドキの他,P. album と P. tenuissimum を認めていて,互いに幾つかの形態で区別されます。 しかしこれらの形態差が子実体形成の変異なのか,遺伝的な差なのかは確かではありませんでした。 一方で交雑実験から P. pallidum complex の中に複数の交雑群が存在することが知られており, 例えば P. tenuissimum は日本産のシロカビモドキの株とは交雑しないそうです(Hagiwara, 1989)。 分子系統からも P. pallidum とされた株に 2 つの離れた系統が含まれ,P. tenuissimum とも離れることが示されていました(Schaap et al., 2006:粘菌生活の進化)。
問題は P. pallidum complex に複数の種が含まれているとして,その内のどれがシロカビモドキや P. album なのか,そもそもシロカビモドキと P. album が別種なのかが明らかではない点です。 著者らはこの問題を解決するため,特にシロカビモドキと P. album の 2 種に着目し, 両種のタイプ産地での株の採集と(それぞれリベリアとアメリカのフロリダ。 ただし 1995 年の採集当時リベリアは内戦中だったため,隣国のシエラレオネで採集が行われた)。 採集された株については,まず既知の P. pallidum complex の交配群(group A と B) の代表株などとの交配試験が行われました。その結果,シエラレオネ産の 48 株のうち 40 株が group B と判定され, 3 株は新規の交配群(group C)で,残る 5 株は交配しませんでした。フロリダ産の 44 株は 14 株が group A,24 株が group B と判定され,6 株は交配しませんでした。次にこれら 3 つの交配群の子実体の形態が詳細に比較されました。 3 つの交配群は輪生体(whorl)あたりの枝の数,子実体の柄の基部の形態,先端細胞の形態と長さ,胞子の大きさ, などの組み合わせによって区別されました。 著者らは各交配群の正確な種同定のため,アメリカ,マサチューセッツのハーバード大学に保存されている 複数のタイプ標本も観察しました。前述の形態の組み合わせから,シロカビモドキは group B と,P. album は group A と形態的に一致していたそうです。シロカビモドキはリベリアとアメリカ(マサチューセッツ)の試料に基づき, P. album はフロリダの試料に基づき最初に記載されました。今回,group B はシエラレオネとフロリダの 2 ヶ所から,group A はフロリダからのみ採集されており,産地からも group B をシロカビモドキ,group A を P. album と同定するのは妥当であると言えます。また,これまでシロカビモドキにまとめられていた group A の PN500 株と group B の CK8(=TNS-C-98)は系統的に離れており(Schaap et al., 2006), やはり互いに独立種であることを支持しています。 P. pallidum complex のように形態的な分類が困難な種については, 長期間にわたって分類が放置されることが度々あります。今回,シロカビモドキと P. album の分類が再整理され, 一つ問題が片付きました。一見地味な研究ですが,形態的によく似た別種を,種の実態(生殖的隔離,形態差) を明らかにしつつタイプ標本と合わせて識別する,という仕事は分類学の真髄であると言えます。 残念ながら group C については既知の種なのか新種なのかが不明なままですが,P. tenuissimum との関係も含めて, 今後明らかにされていくことが期待されます。 Kawakami, S. & Hagiwara, H. A taxonomic revision of two dictyostelid species, Polysphondylium pallidum and P. album. Mycologia 100, 111-121 (2008). Hagiwara, H. The Taxonomic Study of Japanese Dictyostelid Cellular Slime Molds (National Science Museum, Tokyo, 1989). Schaap, P. et al. Molecular phylogeny and evolution of morphology in the social amoebas. Science 314, 661-663 (2006). |
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続報 4:もう一つの葉緑体(2008.05.19)(→藻類学) |
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続報 3:もう一つの葉緑体(2008.05.16)(→藻類学) |
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動物系統を大量データで解析(2008.05.14) 動物の大系統,門(phylum)の間の系統関係には多くの研究者が取り組んでいて, 動物内部の大きなグループも明らかになってきています(今日この頃の動物の樹)。 しかし解析方法や遺伝子による差や,解像度が得られない部分なども残されており,常に改良が進められています。 Dunn et al. (2008) は多数の動物の EST データに基づいて,かつてない規模の系統解析を行いました。 優れた系統解析を行うためには多数の遺伝子と多数の生物を含めることが必要ですが,しばしば両者は矛盾します。 これまでの解析では種数は多いけれども少数の遺伝子のみの解析であったり,逆に遺伝子数が多くても種数が限られているなど, 解析ごとに長所短所が分かれていました。しかし技術の進歩に伴って EST などゲノムレベルの情報が蓄積されつつあり, 著者らのデータも含めて大部分の動物門について多数の遺伝子に基づく系統解析が可能になりました。 具体的には 77 分類群(後生動物は 71 分類群)について 150 遺伝子の解析が行われました。 まず初めに,菌類とアメービディウム類,襟鞭毛虫類などを外群とし,71 種全てを含んだ解析が行われました。 しかし一部の分類群の位置が不安定なために,関係する多くの枝の支持率が下がる現象が認められました。 そこで著者らは枝の位置の安定性を "leaf stability indices" をもとに定量しました。 "Leaf stability indices" とは,(例えばブートストラップ解析などで得られた)複数の系統樹において 特定の末端枝(leaf)の相対的位置がどの程度安定しているのかを示す指標です (Phyutility などのプログラムで計算できる)。 そこで,この "leaf stability indices" が 90% 以下のものを排除した 64 分類群(後生動物 58 分類群)の系統樹を描き, 各枝がより高い支持率を伴った系統樹を導いています。 ここでは結果をまとめた系統樹を示しましょう。基本的には二つの系統樹の合意樹で,64 分類群の系統樹に含まれない分類群を *で示しました。いずれの系統樹でも強い支持が得られなかった枝には "?" がつけてあります。 また "L" は冠輪動物(Lophotrochozoa),"E" は脱皮動物(Ecdysozoa),"P" は前口動物(Protostomia), "D" は後口動物(Deuterostomia),そして "B" は左右相称動物(Bilateria)を表しています。 ---------------------軟体動物門| ---------------------| --------------環形動物門(ユムシ動物,星口動物を含む) | | | | -------| -------箒虫動物 | | | | -------|------腕足動物 | | | -------紐形動物門 | ---L--| -------扁形動物門 | | -----------------?--| | | | -------*腹毛動物門 | | | | | ---?--| ---------------------*吸口虫類 | | | | | | | | ---?--| -------*無腸類 ---?--| | | | ---?--| | | ---?--| ---?--| -------*顎口動物門 | | | | | | | --------------*輪形動物門 | | | | | -----------------------------------*苔虫類(外肛動物門) | | ---P--| -------------------------------------------------*毛顎動物門 | | | | -------鰓曳動物門 | | ---?--| | | | -------動吻動物門 | | | | | | -------線形動物門 | | |------| | --------------------------------------E--| -------類線形動物門 | | ---B--| |-------------緩歩動物門 | | | | | | -------有爪動物門 | | -------| | | -------節足動物門 | | | | --------------珍渦虫動物門 -------| | | | | | ---?--| -------棘皮動物門 | | | | -------| | | --------------------------------------D--| -------半索動物門 | | | ------| | ---------------------脊索動物門 | | | | -------刺胞動物門 | -----------------------------------------------------------?--| | -------海綿動物門(普通海綿) | -----------------------------------------------------------------------------有櫛動物門 まず,左右相称動物,前口動物,後口動物,冠輪動物,脱皮動物などの主要な大系統群が支持されました。 これらは定説となりつつある系統群ですが(今日この頃の動物の樹),一部には異論も出ていたため, 今回改めて支持されたことは意義深いと言えます。残念なのは冠輪動物の多くの分類群の系統的位置が不安定で, 実際に冠輪動物に含まれるのかどうかさえ不確かであったことです。 特に無腸類は近年左右相称動物の基部で分岐した生物とも考えられており, 今回 77 分類群の解析で冠輪動物に含まれたのは意外です。また吸口虫類(スイクチムシ) についても最近は環形動物に含まれるとも指摘されているにもかかわらず(Bleidorn et al., 2007), 冠輪動物の中では環形動物と離れた位置に来ているのは意外です。これらの結果は長枝誘引(long branch attraction) による誤りとも考えられますが,結論を出すには何か新しい情報が必要でしょう。 この他,軟体動物門の単系統性が示されたのも重要で,この群は形態的には良くまとまるにもかかわらず, 分子系統的支持が得られにくい傾向がありました。また節足動物門の姉妹群が緩歩動物門なのか有爪動物門なのか, あるいはその両者なのか議論がありましたが,今回有爪動物門が姉妹群であることが強く支持されました。 奇妙なのは有櫛動物門の系統的位置で,これは後生動物の基部に来ていました。一般に後生動物の最初の分岐は海綿動物, 特に普通海綿類と思われており,より複雑な体制を持った有櫛動物門が基部に来ることは予想外です。 今回の解析には基盤的な後生動物類が充分含まれておらず,平板動物門,石灰海綿類,できれば六放海綿類などの EST データが集まり,再解析される必要があるでしょう。 さらに著者ら自身が指摘しているように,皮中神経目(元々扁形動物で,無腸類と共に原始的な左右相称動物の可能性も), 胴甲動物門(おろらく脱皮動物),有輪動物門,微顎動物門(いずれもおそらく冠輪動物)などが解析に含まれておらず, 中生動物としてまとめられることも多い菱形動物門(おそらく冠輪動物),直泳動物門(系統的位置未確定)も情報が必要です。 現在も EST やゲノムの情報は着々と集められているはずですので, より完全な動物の系統樹が得られるのもそう遠い日ではないでしょう。 しかし一方で冠輪動物に近い系統群の解像度が得られていないのは,情報量だけでは解決しそうにないため, 異なるアプローチが必要と考えられます。 今回の研究の方法論として興味深いのは,系統的位置が不安定な分類群を除く手法です。 不安定な分類群を除いた再解析では多くの系統群の支持率が上昇しました。著者らはさらにこの結果が,過大評価ではない, 例えば情報量が減少した結果の間違いではない,ということを確認するため, 全ての分類群を含めた各ブートストラップ系統樹から不安定な分類群を除き,ブートストラップ値を求め直しました。 この解析には全分類群が含まれるけれども,ブートストラップ値の計算からのみ不安定な分類群が除かれている点が重要です。 この場合にも,不安定な分類群を最初から除いた場合と同様の結果が得られたことから, 確かに不安定な分類群を除く方法論が支持されました。逆に言えばブートストラップ値の計算でのみ不安定な系統群を除けば, わざわざ再解析をせずとも全体に支持率の高い,より多くの情報量を取り込んだ系統樹が描けるとも言えるでしょう。 おそらくこれは大系統のみならず系統解析一般にも成立すると思われますので, 分子系統を行う研究者は参考にしてはいかがでしょうか。 色々と見所があり,議論に値する論文ですが,この規模の系統解析が重要であることに議論の余地はありません。 今後しばらくはこの論文の系統樹が一つの代表的な系統樹として引用されていくことでしょう。 有櫛動物の位置は別として。 Dunn, C. W. et al. Broad phylogenomic sampling improves resolution of the animal tree of life. Nature 452, 745-749 (2008). Bleidorn, C. et al. Mitochondrial genome and nuclear sequence data support Myzostomida as part of the annelid radiation. Mol. Biol. Evol. 24, 1690-1701 (2007). 過去の関連記事 |
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褐藻の分子系統,全目制覇(2008.05.12)(→藻類学) |
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極小生命伝説の真相(2008.05.09)(→医学) |
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ここがヘンだよ無色緑藻ミトコンドリアゲノム(2008.04.30)(→藻類学) |
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難培養メタン菌は逆境にだけ強かった(2008.04.25) メタンは温暖化ガスとして問題になっていますが,その一つの発生源が水田です。 水田で主にメタンを生成しているのは Rice Cluster I(RC-I)と呼ばれる一群の古細菌と考えられています。 これまで RC-I は純粋培養されておらず,ゲノム情報からメタン生成菌と推定されました (地球を暖める古細菌 II)。しかし Sakai et al. (2007) は遂に RC-I の純粋培養に成功し,Sakai et al. (2008) により新目新科新属新種として記載されました。 RC-I を巡ってはこれまでも様々な研究がなされてきました。RC-I のメンバーは水素を利用したメタン生成を行っていて, 水田におけるメタン生成菌の 2〜5 割を占めているとも言われています。 また水田以外の様々な嫌気環境からも遺伝子配列が報告されており,さらなるメタン生成への寄与が想定されます。 しかしながら RC-I の生理学的性状については(ゲノムが読まれているとしても)純粋培養株が存在しない以上, 確かなことは全く言えませんでした。 そんな中,Sakai et al. (2007) はまず純粋培養に向けて RC-I の株の前培養を試みました。 ところが水素を利用するはずというわけで,既知の古細菌の培養に用いるような高濃度の水素分圧下(約 150 kPa) で水田の泥を前培養したところ,なぜか別のメタン生成古細菌である Methanobacterium bryantii (ユリアーケオタ門メタノバクテリウム目) に近縁な生物が増えてきてしまったそうです。そこで著者らは大きな改善を試みました。注目されたのが水素分圧で, 150 kPa という値は RC-I の生息環境に比べて 1,000〜10,000 倍も高かったそうです。 より「自然な」条件を再現するためには,低濃度の水素を定常的に与えることが考えられましたが, これは人工条件では難しいでしょう。著者らは代わりに水素を発生する,プロピオン酸酸化細菌 (Syntrophobacter fumaroxidans;プロテオバクテリア門 シントロフォバクター目)を共存させる戦略をとりました。 この方法で共培養を続け,半年以上移植/維持した結果,遂に古細菌としては RC-I のみを含むようになったそうです。 この状態から段階希釈法によって株の純化が行われ,さらに 1 年以上を要して純粋培養株が確立されました。
純粋培養確立の肝になったのは,水素分圧を低く抑え続けた共培養の過程です。 その理由としては,RC-I は低水素分圧に適応しているのに対して Methanobacterium は低水素分圧に弱く, しかし高水素分圧においては RC-I は相対的に増殖が遅く,Methanobacterium に抑えられてしまうことが考えられました。RC-1 は低水素分圧に適応しているからこそ, 水田環境のような水素分圧の低い環境で重要な地位を占めているのかも知れません。 さて,Sakai et al. (2008) はこの純粋培養株(SANAET 株)の分類研究を行いました。 この株は不動性の桿菌で長さ 1.8-2.4 μm 幅 0.3-0.6 μm と細長い形をしています。 自家蛍光からメタン合成に特異的な補酵素 F420 の存在も確認され, 水素とギ酸が生育とメタン生成を支持することも示されています。なお炭素源としては酢酸を要求するそうです。 至適温度や至適 pH はそれぞれ 35-37 ℃,pH 7.0 と,水田での生息に適していることがわかります。 また,純粋培養株の確立に長い期間がかかっていますが,これは倍増時間が 4.2 日と長いことから考えると道理です。 系統解析では,配列のみから RC-I が "メタノミクロビウム綱" の中に含まれ, メタノミクロビウム目や メタノサルシナ目とは異なる目に所属すると見られていました。 今回の純粋培養株の性質からしても,水素やギ酸をメタン生成の基質に用いる SANAET 株は 酢酸や簡単なメチル化物をメタン生成の基質に利用できるメタノサルシナ目とは区別され, メタノバクテリウム目とは細胞形態(SANAET 株は基本的に桿菌,メタノミクロビウム目は球菌や曲がった桿菌) で区別されるそうです。 こうして新種記載に必要な情報も収集し,SANAET は Methanocella paludicola(新属新種) として記載されました。Methanocella は「メタンを合成する細胞」という意味で,種小名の "paludicola" は 「泥に住む者」といった意味になります。著者らは同時にこの新属新種の属する新科(Methanocellaceae)と新目 (メタノセラ目:Methanocellales)も記載しています。 Sakai et al. (2007) は RC-I の純粋培養に成功したという点で, 今後のメタン生成菌研究や地球上におけるメタン循環の研究などに大きな貢献をしています。 同時に前培養のための発想も重要な意味を持っているかと思います。培養に際しては,養分(この場合は水素) を必ずしも豊富に与えるのではなく,少量であっても目的の生物の競争に有利な条件を与えることが肝要というわけです。 Sakai et al. (2007) は同様の手法でメタノミクロビウム目の新科に相当するメタン生成菌(NOBI-1 株) の単離にも成功したそうで,もっと多くの未知の系統群の単離にも繋がれば微生物全体の研究が大きく開けることでしょう。 RC-I については,低水素分圧への適応が明らかとなったわけですが,次は酵素の特性に基づく説明が求められます。 既に著者らは生化学的な実験も始めているそうで(Sakai et al., 2007),結果が楽しみです。 またゲノム解読がなされた MRE50 培養系は 50℃ で維持されており,好熱性の RC-I を含むと考えられますが, 著者らはその単離と Methanocella paludicola との比較にも興味を寄せています。 メタノセラ目は全く未知の一群だったわけですから,調べることはまだまだ出てくることでしょう。 Sakai, S. et al. Methanocella paludicola gen. nov., sp. nov., a methane-producing archaeon, the first isolate of the lineage ‘Rice Cluster I’, and proposal of the new archaeal order Methanocellales ord. nov. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 58, 929-936 (2008). Sakai, S. et al. Isolation of key methanogens for global methane emission from rice paddy fields: A novel isolate affiliated with the clone cluster Rice Cluster I. Appl. Environ. Microbiol. 73, 4326-4331 (2007). 参考: 過去の関連記事 |
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変形菌の進化の道(2008.04.21) 変形菌(真正粘菌)は特殊なアメーバの仲間で,多様な形態の子実体を形成する点で注目されます。 変形菌の分類はこれまで子実体や胞子,変形体の形態に基づいてなされてきました。 しかし Fiore-Donno et al. (2008) は暗色の胞子を持つ変形菌の分子系統を調べ, これまでの分類との矛盾を指摘すると共に形態進化について議論しています。 変形菌の進化研究に初めて分子系統を本格的に用いたのは Fiore-Donno et al. (2005) でした。 この研究により,これまで変形体の形質に基づいてモジホコリ亜綱(Myxogastromycetidae)とムラサキホコリ亜綱 (Stemonitomycetidae)に分類されていた全ての目の代表種が調べられ,モジホコリ亜綱が単系統ではないことが示されました。 同時に,原始的と考えられたハリホコリ目(Echinosteliales)以外の 4 目において,胞子が明色の単系統群(コホコリ目: Liceales およびケホコリ目:Trichiales)と暗色の単系統群(モジホコリ目:Physarales およびムラサキホコリ目: Stemonitales)が認められました。今回の研究で著者らは,胞子が暗色の系統群を解析種数を増やして調べています。
著者らは SSU rRNA を系統マーカーとして,新たに 20 配列以上を解読しました。そしてこれまでの配列と合わせて 胞子が暗色の変形菌 35 配列を含めた系統解析を行いました。その結果,Fiore-Donno et al. (2005) では単系統に見えたムラサキホコリ目がモジホコリ目に対して側系統となることが示されました。 これは新たにルリホコリ属(Lamproderma)およびニセジクホコリ属(Diacheopsis)の配列が加わったためで, クロミルリホコリ(L. atrosporum)とサビルリホコリ(L. fuscatum)が暗色の系統群の根元の系統群 (クロミルリホコリ群)で,タマゴルリホコリ(L. ovoideum),ザウタールリホコリ(L. sauteri), オビルリホコリ(L. zonatum),コガネニセジクホコリ(D. metallica)の 4 種が, 特にモジホコリ目に近縁な単系統群(タマゴルリホコリ群)を形成していました。 ---------------------クロミルリホコリ群| ------| -------タマゴルリホコリ群 | -------| -------| -------モジホコリ目 | --------------他のムラサキホコリ目 著者らはこの結果から,子実体の柄と子嚢壁(子嚢を包んでいる膜状の構造)の形質の重要性を指摘しています。 祖先的なハリホコリ目とムラサキホコリ目では細胞質の内部に分泌される形で柄が形成されるのに対して, モジホコリ目では子実体全体を作る原形質の塊がくびれた部分が柄に相当しているそうです。 すなわちムラサキホコリ目の柄はおそらく一度失われ,モジホコリ目で柄が収斂進化したものと考えられました。 子嚢壁の形態は,クロミルリホコリ群では裂開性(子嚢壁が細かく裂ける)で, タマゴルリホコリ群とモジホコリ目では残存性(長期間残る),他のムラサキホコリ目では早落性(早期に脱落する) と異なっており,系統を良く反映していました。 この他,モジホコリ目は子実体に石灰を含むことが大きな特徴ですが,石灰を持たないヒメモジホコリ (Protophysarum phloiogenum)がモジホコリ目の根元に来ており, この種が形態的にも系統的にも原始的なモジホコリ目であることが示唆されました。 またルリホコリ属以外にも,モジホコリ属(Physarum),カミノケホコリ属(Comatricha) などが単系統ではないことが明らかになり,さらに Comatricha nigricapillitia という種がフサホコリ属 (Enerthenema)に対して側系統になり,褐色の型がよりフサホコリ属に近縁で, 黒色の型から区別される新種と指摘されました。 このように分子系統解析の導入によって様々なことが明らかになりました。 これは既存の分類体系の大幅な見直しを迫るものであり,例えばクロミルリホコリ群には "Meriderma" と言う名前が提唱されているようです(第 4 回国際変形菌分類学・生態学会議で発表されたもので, おそらく正式な学名にはなっていない)。分子系統の研究が進めば見直しが必要な事例がまだまだ多数出てくるでしょうから, 系統を反映した分類体系が確立するまでには今少し時間がかかりそうです。 今回の研究からも解るように,どの形質がどこで進化したのか,どの形質が系統を通じて安定しているのか, といった情報は純粋な形態学からは中々分からないもので,分子系統は強力な道具となります。 一方で分子系統の結果を解釈するためには形態学の知識の蓄積が必要であり, 分子系統学と形態学の両輪が揃って初めて変形菌の進化が明らかになるはずです。 変形菌においては形態学に比べて分子系統が著しく遅れていますので, 遺伝子配列情報のより一層の蓄積が望まれます。 Fiore-Donno, A. M., Meyer, M., Baldauf, S. L. & Pawlowski, J. Evolution of dark-spored Myxomycetes (slime-molds): Molecules versus morphology. Mol. Phylogenet. Evol. 46, 878-889 (2008). Fiore-Donno, A.-M., Berney, C., Pawlowski, J. & Baldauf, S. L. Higher-order phylogeny of plasmodial slime molds (Myxogastria) based on elongation factor 1-A and small subunit rRNA gene sequences. J. Eukaryot. Microbiol. 52, 201-210 (2005). |
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女神の名を冠した新奇紅藻(2008.04.14)(→藻類学) |
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続報:シロアリは進化したゴキブリ(2008.04.07) シロアリは進化したゴキブリでは,"シロアリ目"(Isoptera)がゴキブリ目 (Blattodea;Blattaria とも表記される;例えば平嶋ほか, 1989)の内部から派生してきたことを示し, シロアリ科(Termitidae)への格下げを提案した研究を紹介しました。しかし Lo et al. (2007) と Eggleton et al. (2007) はシロアリ類の分類階級について論争しています。 シロアリ類は元々独立した「目」として扱われていましたが,系統的にゴキブリ目から派生して来たことが明らかになると, ゴキブリ目の内部に "シロアリ目" を置くのは不適切だということでシロアリ科への格下げが提案されました。 同時にこれまでのシロアリ目の「科」は「亜科」に,などシロアリ類の内部分類の改変も提案されました (シロアリは進化したゴキブリ)。しかし Lo et al. (2007) は シロアリ目をシロアリ科に格下げすることには様々な問題を引き起こすため好ましくないとしています。 Lo et al. (2007) の論点は 3 つで,まず階級の変更を行うと,これまで確立されていたシロアリ類の 7 科 (ムカシシロアリ科:Mastotermitidae,オオシロアリ科:Termopsidae,シュウカクシロアリ科:Hodotermitidae, レイビシロアリ科:Kalotermitidae,ノコギリシロアリ科:Serritermitidae,ミゾガシラシロアリ科:Rhinotermitidae, シロアリ科:Termitidae)を全て亜科に変更する必要があり,大きな混乱を伴うと予想されます。 次にこれまでのシロアリ目をシロアリ科にした場合,これまでのシロアリ科と紛らわしく, またこれまでのシロアリ科をシロアリ亜科とすれば,これまでのシロアリ亜科と紛らわしくなります。 そして最後にそもそもゴキブリ類の系統がまだ十分に解けていないことが指摘されています。 分子に基づく系統樹と形態に基づく系統樹は互いに一致しておらず, しかもゴキブリ類の幾つかの系統が系統樹から抜けていたそうです。 そこで Lo et al. (2007) は,当面の間 Isoptera を,ゴキブリ類の内部の階級を伴わない名称として残し, 将来的にはシロアリ類を亜目,下目として扱うか(Isoptera の名称は維持する),上科(superfamily)や epifamily (前川, 2008 は "epifamily" に「上科」の訳語を充てているが,「上科」は "superfamily" の訳語として定着しており, "epifamily" には別の訳語を新たに作る必要がある)の様な科より上位の分類群として扱う(それぞれ "Termitoidea" と "Termitoidae" となる)ことを提案しています。 これに対して Eggleton et al. (2007)(元の論文の著者ら)は問題の生物群の分類において, シロアリ類とキゴキブリ(Cryptocercus)の姉妹群関係を描写することを最重要視しています。 と同時にシロアリ類を科の階級で扱うことはシロアリの研究者に受け入れられないおそれがあるため, Lo et al. (2007) の提案するような妥協も探っています。 シロアリ類を階級のない Isoptera とした場合や上科などの階級で扱った場合には, シロアリ類とキゴキブリの姉妹群関係が描写されないため,Eggleton et al. (2007) はシロアリ類を epifamily の階級で扱うことを提案しています。この場合,これまでのシロアリ類の内部分類に変更の必要はなく, また同時にシロアリ類とキゴキブリをゴキブリ上科(Blattoidea:平嶋ほか, 1989 など国内の文献では ゴキブリ亜目とされることが多いが,語尾は元来,上科の語尾であり,Eggleton et al. 2007 は上科として扱っている)の中の epifamily として併置できる利点もあります。そこで Eggleton et al. (2007) は epifamily Termitoidae,epifamily Cryptocercoidae,epifamily Blattoidae の 3 epifamilies をゴキブリ上科の中に設立しました。 今回の議論は結局の所,シロアリ類の妥当な階級はどこか,というだけのことですが, 系統分類とリンネ式の階層分類を両立させる場合にしばしば起こる問題でもあります。Eggleton et al. (2007) の妥協案は epifamily という聞き慣れない階級を使用すること以外は特に問題なく,今後採用される可能性があるでしょう。 安定した分類体系を目指すことも分類学者の仕事であり,その意味では重要な一歩となることでしょう。 最後に蛇足ながら,Eggleton et al. (2007) によるゴキブリ目の新しい分類体系を。
Lo, N. et al. Save Isoptera: A comment on Inward et al. Biol. Lett. 3, 562-563 (2007). Eggleton, P., Beccaloni, G. & Inward, D. Response to Lo et al. Biol. Lett. 3, 564-565 (2007). 平嶋義宏, 森本桂 および 多田内修 昆虫分類学 (川島書店, 東京, 1989). 前川清人 シロアリとゴキブリの系統関係に関する最近の知見. 昆虫と自然 43(5), 5-9 (2008). 過去の関連記事 | ||||||||||||||||||||||||||
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コウモリの初飛行は有視界飛行(2008.03.27)(→古生物学) |
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シャジクモを隔てる水深 1m の壁(2008.03.19)(→藻類学) |
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第四の子嚢菌は土の中(2008.03.14) 原核生物においては新しい綱や門など高次の分類群が発見されることも珍しくありませんが, 真菌類においては既に多様性の研究が進んでおり,そのような新発見はあまり聞きません。しかし Porter et al. (2008) は子嚢菌の中に亜門に相当する未知の系統群が含まれていて,世界中の土壌に分布していることを示しました。 真菌類の主要な分類群は整理されてきていますが(菌の王国の組織図一新), 記載されたの種は真菌類全体の 5% にも満たないと言われているそうです。そこで環境試料からの DNA 解析も行われていて, 未知の系統群も報告されてきました。しかしその多くが断片的であったり,研究によって用いられた遺伝子が異なっているなど, 菌類の中での位置づけが整理されていませんでした。そこで著者らは LSU rDNA の解析から認識されていた子嚢菌の Soil Group I clade について,よく使われる遺伝子である 18S SSU rDNA,ITS1,5.8S rDNA,ITS2,28S LSU rDNA (この順番で隣接している)を土壌の環境試料からまとめて増幅・解読しました(約 24,000 塩基対)。 著者らはこの系統群を SCGI(Soil Clone Group I)と呼び,様々な研究から得られたこれらの遺伝子断片を対応づけました。 系統解析から SCGI が子嚢菌類に含まれることも確認され,特に SSU と LSU rDNA 遺伝子の結合系統解析からは, SCGI が子嚢菌の中で亜門のレベルで独自の系統群であることが示されています。ベイズ法による系統解析では, タフリナ菌亜門に子嚢菌の根をおいた場合,SCGI はチャワンタケ亜門とサッカロミセス亜門の作る単系統群の姉妹群となりました。 さらに SCGI に属するこれまでに登録されていた配列が多数同定され,地域では北米,中米,ヨーロッパ,オーストラリアなど, 環境としてはツンドラ,温帯林,熱帯林,草原などの土壌,特に植物の根系(菌根も含む) などから報告されていたことが明らかになりました。また一ヶ所の土壌からは複数の SCGI の系統が得られており, SCGI の多様性が高いことが窺えます。 ---------------------タフリナ菌亜門| ------| --------------SCGI | | -------| -------サッカロミセス亜門 -------| -------チャワンタケ亜門 子嚢菌の中での系統的位置などから類推すると,SCGI は目に見える子実体を形成しないと見られるそうです。 さらに SCGI は絶対生物栄養性(obligately biotrophic)の可能性も考えられています。 すなわち他の生物に依存して生きているとすれば,培養に基づく研究で見つかっていない説明がつくと言うことです。 これまで配列が確認された環境が土壌に集中しており, 同じ土壌であっても氷河の先端部分や植生のない高山の斜面からは検出されないことからも, SCGI が植物のような生物に依存している可能性が支持されます。 今後は是非とも SCGI の実態を明らかにし,新らしい子嚢菌の亜門として記載していただきたいものです。 論文中では SCGI が土壌菌類の配列の 27% に達するとも記されており,生態における重要性も無視できないはずです。 ともあれ,まずは SCGI を「見る」ことが重要です。相補を蛍光標識して細胞を染色する方法(fluorescent hybridization) を用いれば,おそらく SCGI に属する生物を同定することができるでしょう(配列が直接解析されていなくても, これまで全く観察例がないとは考えにくいので)。種が同定されれば,その種や近縁種などに関する既存の情報が活用できます。 そして培養への道が開ければ,と期待されますが,本当に生物栄養性の生物だった場合は難しいかも知れません。 Porter, T. M. et al. Widespread occurrence and phylogenetic placement of a soil clone group adds a prominant new branch to the fungal tree of life. Mol. Phylogenet. Evol. 46, 635-644 (2008). 過去の関連記事 |
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カモノハシの古すぎる起源(2008.03.11)(→古生物学) |
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マラリア原虫と渦鞭毛藻をつなぐ生き証人が見つかった(2008.03.07)(→藻類学) |
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変形菌の親戚の正体(2008.03.04) 変形体モドキの正体では,変形体に似た Corallomyxa 属アメーバが実は変形菌とは近縁でないとの研究を紹介しましたが,Smirnov et al. (2008) は変形菌に近縁なアメーバが, 実は誤同定であったとの研究を発表しています。 近年のアメーバ動物類の系統解析では,変形菌や細胞性粘菌などの粘菌類に近縁なアメーバとして,Filamoeba や Gephyramoeba が挙げられていました(系統解析によってはアーケアメーバと粘菌類の方が近縁にもなる)。 ところがこの Gephyramoeba の株(ATCC 50654)の詳細な形態観察はこれまで発表されてきませんでした。微生物の場合, 誤同定された株を用いて誤った系統解析が報告されることがしばしば起こるため(例えば ヤリミドリの種は単系統か?),著者らは形態観察の見直しを行いました。 ATCC 50654 株の栄養体は不定形で,枝分かれした長い腕状の擬足を持ち,擬足の先端にはさらに細い毛状の副擬足があるそうです。 また,変形体様の世代や鞭毛期は見られなかったそうです。ATCC 50654 株は枝分かれする擬足を持つ点では Gephyramoeba と似ていますが,Gephyramoeba で見られる,擬足の先端で細胞質が薄い膜状に伸展する形質は ATCC 50654 株に見られず, 逆に Gephyramoeba には副擬足は知られていません。従って ATCC 50654 株は Gephyramoeba とは考えられず, 著者らは Acramoeba dendroida という新種として記載しています。 系統的には Acramoeba はアメーバ動物門(Amoebozoa)に含まれ, 最尤法の系統樹によれば Filamoeba と近縁であることが示唆されています。両者は併せてヴァリポディダ目 (Varipodida)を構成します。これまでこの目に含まれていた Gephyramoeba は除かれ,形態に基づいて元々所属していたレプトミクサ目 (Leptomyxida)に戻されました。 ヴァリポディダ目は粘菌類(変形菌,細胞性粘菌,原生粘菌の Planoprotostelium)およびアーケアメーバ綱, Cochliopodium(未踏の地,アメーバ動物門を行く III)と姉妹群になりました。 形態的には Acramoeba,Filamoeba,そしてタマホコリカビ類が副擬足を持っている点で共通していますが, Acramoeba の擬足は他の擬足とは似ていないそうで,その近縁性はまだ検討の余地がありそうです。 著者らはこの他にも "Rhizamoeba saxonica" CCAP 1570/2 が誤同定であり,系統的には Paraflabellula に含まれることや,レプトミクサ目に含まれていた Flamella 属をこの目から除き, レプトミクサ目を形態的にもよくまとまった単系統群に再整理することを述べています。ATCC 50654 株の同定の見直しと併せて, 正確な種同定の重要性を意識した研究になっています。正確な種同定は,行われていて当然と思われているにもかかわらず, 実際には原生動物や藻類,原核生物など微生物全般で大きな問題になっています(ゲノム解読に遅れた命名, ヤリミドリの種は単系統か?)。 一見,地味な仕事ですが,生物学の土台を支える重要な仕事として評価されるべきでしょう。 Smirnov, A. V., Nassonova, E. S. & Cavalier-Smith, T. Correct identification of species makes the amoebozoan rRNA tree congruent with morphology for the order Leptomyxida Page 1987; with description of Acramoeba dendroida n. g., n. sp., originally misidentified as ‘Gephyramoeba sp.’ Eur. J. Protistol. 44, 35-44 (2008). 過去の関連記事 |
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OTOKOGI の系譜を辿る(2008.02.27)(→藻類学) |
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生命の樹の根は熱かった(2008.02.22) 初期の生物が好熱性か低温性か,あるいはどのような温度環境に生息していたのかは一つの研究課題となっています。 Gaucher et al. (2008) は現生の細菌の系統関係とタンパク質の安定性に基づいて, 太古の細菌がもともと高温の環境に住んでいたと推定し,併せて地球環境も高温から冷えていったとの推測を提示しています。 太古の生物の生息環境の温度を知るためには二つの戦略が考えられています。 一つは当時の地層に残された地質学的な証拠から温度を推定する方法,もう一つは現存する生物の祖先状態を推定する方法です。 ここで著者らは前者の方法をとっています。現生の生物の系統関係と形質の分布から祖先形質を推定する場合, 系統推定の誤差など様々な誤差によって結果が大きく変わってくるおそれがあります。 これまでの研究でも方法によって結果がまるで異なっており,この誤差の克服が一つの課題であったと言えるでしょう。 著者らは樹形の曖昧さや祖先推定の曖昧さなども考慮に入れ,その結果を比較することで誤差の問題を乗り越えようとしています。 著者らは生育温度との相関が知られている伸長因子-Tu(EF-Tu)の熱安定性を真正細菌について調べました。 また系統樹とタンパク質のアミノ酸配列情報から,祖先配列の各座位が特定のアミノ酸だった確率を推定し, 最も可能性の高いアミノ酸配列を持ったペプチドを合成しています。そしてその熱安定性から祖先の生育温度が推定されました。 さて,推定の結果は系統樹の形に大きく依存すると考えられます。そこで二つの系統仮説について祖先状態の推定が行われました。 一つは真正細菌の初期分岐が超好熱性となる樹形で,もう一つは超好熱菌がより派生的な位置を占める樹形です。 それぞれの樹形の下で,真正細菌の最後の共通祖先の生育温度は 73.3,64.8 ℃と高温で,徐々に生育温度が下がったと推定されました。 さらに祖先配列の推定には誤差が想定されるため,最も可能性の高い配列だけでなく,多少配列の異なるものから選ばれた 5 つの配列の熱安定性も測定されました。そしてこれらの配列からも 60.0〜66.3 ℃と,比較的高温の生育温度が推定されました (樹形は超好熱菌が派生的となる樹形)。さらにアミノ酸の平衡頻度も誤差の原因になると考えられました。 これも標準的な平衡頻度ではなく,独立に推定された祖先生物の平衡頻度で計算し直していますが, やはり真正細菌の最後の共通祖先の生育温度は 61.4 ℃と高温であることが裏付けられています。 このように,誤差を考慮しても真正細菌の祖先は好熱菌だったことが改めて推定されました。 しかし今回の研究でもう一つ面白いのは,生育温度の低下のパターンです。著者らによればこの低下のパターンは, 酸素と珪素の同位体比から推定された海洋温度の低下パターンとうまく対応づけられるそうです。 この対応が事実であれば,生物が 70 ℃程度の熱い海洋で誕生し,地球が冷えるにつれて低温環境に適応していったと考えられます。 ただ一方で,太古の生物が熱水噴出孔の様な場所で誕生し,徐々に周辺の低温環境へと進出していったとの仮説も否定はできません。 一般的に祖先状態を推定する方法には誤差の問題がつきものです。そのため今回,誤差を考慮しても真正細菌の祖先が好熱性である, との結果が得られたことは重要な進展と言えます。そしてその結果と地質学の結果が対応づけられる可能性が示されたことも印象的です。 何故かこの研究では古細菌が扱われていませんが,古細菌の系統関係は真正細菌よりもよく解けており, 祖先の生育温度の推定もうまくいくものと思われます。今後は今回の結果を検証するために,古細菌や他の遺伝子での同様の研究や, さらに充実した地質学的証拠が求められていくことになるでしょう。 Gaucher, E. A., Govindarajan, S. & Ganesh, O. K. Palaeotemperature trend for Precambrian life inferred from resurrected proteins. Nature 451, 704-707 (2008). 参考: 過去の関連記事 |
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渦鞭毛虫の根元を照らす夜光虫(2008.02.14)(→藻類学) |
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緑藻色素体のスピンオフ(2008.02.12)(→藻類学) |
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クジラの起源に異説あり(2008.02.01)(→古生物学) |
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続報:粘菌生活の進化(2008.01.28) 粘菌生活の進化において,細胞性粘菌の初めての大規模な分子系統解析について紹介しました。 Schaap (2007) ではこの研究の成果と,その先にある細胞性粘菌の形態形成の進化の研究について丁寧な解説をしています。 細胞性粘菌は子実体の形態に基づいて 3-4 属に分類されてきました。細胞性粘菌の子実体形成の過程では,まずアメーバ細胞が凝集し, ナメクジ状の移動体を形成します。この移動体が適当な場所を求めて移動し,立ち上がって変形し,子実体となります。 従って子実体の形態は,細胞の移動や相互作用,分化などによって決まってくると考えられています。 これは動物のような多細胞生物の発生のモデルとして関心が持たれており,実際に形態形成の分子機構が調べられています。 特に細胞性粘菌は全ての既知種が実験室で培養可能であることから,形態形成の比較,進化学的な研究に最適であると言えます。 既にタマホコリカビ属(Dictyostelium)の研究において,移動体の先端にある少数の細胞がシグナルを分泌し, 前後軸に沿った極性を形成していることが知られています。またキイロタマホコリカビ(D. discoideum) の細胞の凝集や分化のシグナルに cAMP が使われていることはよく知られています。この他, 胞子の成熟に関与するペプチド分子や,細胞分化の割合の制御に関与するポリケチド由来の代謝産物, 胞子の発芽を制御するアデニン由来のサイトカインなどが知られているそうです。 さて著者によると,粘菌生活の進化で紹介した SSU rRNA と α-チューブリンの分子系統解析は, 発生シグナルの進化を調べる糸口として行われたそうです。この研究では各種の形態形質を系統樹に沿って当てはめ, 例えば胞子の形態や子実体の柄の先端が系統を反映している一方,タマホコリカビ属とムラサキカビモドキ属(Polysphondylium) が多系統性となることが指摘されています。また胞子や子実体のサイズが系統ごとに異なる傾向を持っていることも重視されています。 著者の目標である発生シグナルの進化については,未だ限定的な知見しか得られていないようです。 幾つかのシグナル分子がキイロタマホコリカビでのみ研究されていますが,進化的な議論については cAMP で辛うじてなされています。 cAMP は細胞性粘菌一般では移動体の先端で分泌され,形態形成のシグナルとして働きます。 そしてキイロタマホコリカビを初めとするグループ 4 でのみアメーバ細胞の凝集にも働いています。系統樹から見ると, グループ 4 においてアメーバ細胞の凝集という役割が追加されたと推定されます。このような cAMP の働きには cAMP の受容体(cAR)の内, cAR1 が関与していると考えられ,この遺伝子は 4 つ全てのグループで保存されています。興味深いのは発現パターンの違いで, まず凝集後(形態形成の時期)の発現は全てのグループで起こるのに対して,グループ 4 でのみ凝集前や凝集中にも発現が起こっています。 この違いはグループ 4 で凝集期の発現のためのプロモーターが追加されたことで成立したと考えられています。
また著者はグループ 4 で子実体のサイズが大型になる傾向も cAR によって説明されると推測しています。 移動体先端から分泌される cAMP は移動体の新しい軸形成を阻害しているそうで,グループ 4 ではこの阻害が強いために同じ数の細胞から, より少数で大型の子実体ができると見られています。そして cAR1 の発現がより早い時期に始まることと, グループ 4 は遺伝子重複の結果 4 つの cAR 遺伝子(cAR1〜4)を持っていることなどが原因と予想されます。 この他,幾つかの形態形成の違いについて著者なりの説明が与えられています。 総じて比較的単純な差,cAMP 受容体の発現の差などによって,顕著な子実体形態の差が生み出されると予想され, 今後,分子レベルのさらなる比較研究が期待されます。現在,グループ 1〜4 を代表する種についてゲノム解読が進行中とのことで, ゲノム比較と形態形成を結びつけた研究が近い将来に実現するかもしれません。ヒトとチンパンジーのような複雑な生物同士の比較の場合, ゲノムに差が見つかってもその差を形態差と結びつけることがしばしば困難ですが,細胞性粘菌のような単純な系であれば, 形態形成の遺伝的基盤を論じることも現実味を持つことでしょう。 Schaap, P. Evolution of size and pattern in the social amoebas. BioEssays 29, 635-644 (2007). |
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植物の最初の枝分かれ(2008.01.24)(→藻類学) |
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ウニに住む真正粘菌(2008.01.18) 真正粘菌は変形菌とも呼ばれ,単細胞の粘菌アメーバ,多核の変形体,胞子を飛ばす子実体など, 様々な形態をとることで有名です。変形菌の分類は主として子実体の形態に基づいて行われ, 従って陸上での観察が中心でした。ところがDyková et al. (2007) は, ウニの体内から真正粘菌の仲間の粘菌アメーバを発見し,粘菌の生活圏が予想以上に広い可能性を示しています。 これまでにも無脊椎動物の体内からアメーバが検出された例はあり,宿主に害をなす可能性も指摘されていました。 そこで著者らはアドリア海のクロアチア沿岸から採集されたウニの一種(Sphaerechinus granularis) の体腔液からアメーバ様の生物を分離しました(SUS: sea urchin straines; ECHI1,ECHI14,ECHI43,ECHI49,ECHI54)。アメーバ類は 34 個体のウニの内,5 個体から分離されたそうです。 これらの株について詳細な光学・電子顕微鏡観察が行われ,アメーバ,鞭毛性の栄養体,シストを報告しています。 そして SUS と,真正粘菌の仲間,特にモジホコリ属(Physarum),カタホコリ属 (Didymium;2 属ともモジホコリ目)や子実体が知られていない粘菌アメーバの仲間である Hyperamoeba および Pseudodidymium の類似性が指摘されています。 SSU rDNA の系統解析も行われており,5 株の SUS は互いにごく近縁で,Hyperamoeba dachnaya と近縁であることが示されました。Hyperamoeba は子実体形成能を失った真正粘菌の仲間と考えられており, 多系統であることも知られています。子実体を形成する真正粘菌の中ではゴマシオカタホコリ(D. iridis) の数株が最も近縁でした。 形態学的にも,分子系統の結果からも SUS は真正粘菌の仲間と考えて間違いないと思われますが, モジホコリ(P. polycephalum)やヒメカタホコリ(D. nigripes) では培養条件下で変形体や子実体が形成されるのに対し,今回の著者らが試みた限りでは,SUS では子実体形成は認められなかったそうです。 子実体を形成できない真正粘菌は複数例知られていますし,特段不思議ではありません。 しかし既知の真正粘菌がほぼ全て,土壌や朽ち木の中など淡水環境から知られているのに対して, 海産のウニの体腔から真正粘菌が発見されたことは驚きです。粘菌アメーバが他の地域, あるいは他の種類の無脊椎動物の体腔内にも住んでいるのか, そしてどのような過程を経てウニに住み着くようになったのかは大変興味深い問題です。 考えられる経路としては,淡水棲の無脊椎動物に共生する粘菌アメーバを経て海に進出した可能性 (ただしウニは淡水には見られない)と,海産の粘菌アメーバから進化した可能性 (ただし海産の真正粘菌は知られていない)などがあるかと思います。 真正粘菌はその名の通り,これまで主として菌類の研究者によって研究されてきました。 しかし系統的にはアメーバの仲間に含まれることが明らかになっており, 今後,原生動物学者がアメーバの研究を進めることにより, 真正粘菌の全く新しい側面がまだまだ見えてくるかも知れません。 Dyková, I., Lom, J., Dvořáková, H., Pecková, H. & Fiala, I. Didymium-like myxogastrids (class Mycetozoa) as endocommensals of sea urchins (Sphaerechinus granularis). Folia Parasitol. 54, 1-12 (2007). |
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エクスカヴァータの系統的評価(2008.01.16) 真核生物の大系統の研究は日々進展しています。特に近頃は比較的無名ながら, 系統的に興味深い原生動物の研究が注目されています。Rodríguez-Ezpeleta et al. (2007) はアメーバ鞭毛虫類(cercozoans)とジャコバ類(jakobids)という原生動物の系統的位置を, EST 解析に基づく多遺伝子解析により推定しました。 真核生物の大系統を調べるためには単一あるいは少数のの遺伝子の系統解析では不十分であることが既に分かっています。 そこで多数の遺伝子を用いた系統解析が進められていますが,ゲノム解析などは少数のモデル生物に限られており, 多くの変わった原生動物が含まれません。そこで著者らはより手軽な EST 解析を複数の原生動物について進め, 多遺伝子解析に活用しました。新たに解読されたのはエクスカヴァータ類に含められるジャコバ類とマラウィモナス類の EST で,さらにアメーバ鞭毛虫類の EST データも利用しています。 著者らはまず核コードの 143 タンパク質遺伝子(31,604 アミノ酸残基)について真核生物全体の系統推定を行いました。 その結果は大筋でこれまでの系統樹と一致しており,例えば一次共生植物(緑色・灰色・紅色植物) はやや低い支持率で単系統になっています(ただし続報:巨大な植物界なども参照)。 今回注目されたアメーバ鞭毛虫類(リザリア類の代表)はアルベオラータ類およびストラメノパイル類と単系統群となることが, ジャコバ類はユーグレナ動物類・ヘテロロボセア類(いずれもエクスカヴァータ類)と単系統となることが, それぞれ高い支持率で示されました。さらに後者の単系統性を支持する 4, 5 アミノ酸の挿入が Rpl24A タンパク質に見つかっています。しかしマラウィモナス類は他のエクスカヴァータ類と離れて, バイコンタ類の基部で分岐していました(しかし統計的な支持は得られていない)。 その結果エクスカヴァータ類は非単系統となっています。 ------------------------------------------オピストコンタ類| |-----------------------------------------アメーバ動物類 | ------| -----------------------------------マラウィモナス類(エクスカヴァータ類) | | | | ------------------------?--一次共生植物類 ---?--| | | | -------アルベオラータ類 | | ---?--| ---?--| -------| -------ストラメノパイル類 | | | | | --------------アメーバ鞭毛虫類(リザリア類) ---?--| | --------------ジャコバ類(エクスカヴァータ類) | | -------| -------ユーグレナ動物類(エクスカヴァータ類) -------| -------ヘテロロボセア類(エクスカヴァータ類) しかしこの結果は進化速度の速い生物が複数含まれていたための誤りとも考えられました。 そこで著者らは特に進化速度の速い幾つかの原生動物を除外し,改めて系統樹を描いています。 樹形は初めのものと一部で異なっており,アルベオラータ類とストラメノパイル類の近縁性が強く支持されました。 マラウィモナス類は支持率が弱いながらも他のエクスカヴァータ類と単系統群を作っています。 -----------------------------------オピストコンタ類| |----------------------------------アメーバ動物類 | | -----------------?--一次共生植物類 ------| | | ---?--| -------アルベオラータ類 | | | -------| | | -------| -------ストラメノパイル類 | | | ---?--| --------------アメーバ鞭毛虫類(リザリア類) | | ---------------------マラウィモナス類(エクスカヴァータ類) | | ---?--| --------------ジャコバ類(エクスカヴァータ類) | | -------| -------ユーグレナ動物類(エクスカヴァータ類) -------| -------ヘテロロボセア類(エクスカヴァータ類) 近年は,形態からは明らかにならなかったグループが分子系統によって示される場合が多いようですが, エクスカヴァータ類は逆に形態的な特徴から見出されてきたグループです。 主な特徴としては細胞の腹側に捕食装置や,鞭毛の翼(flagellar vanes),幾つかの細胞骨格の形質が挙げられています。 しかし全てのメンバーがこれらの特徴を共有するわけでもなく,分子系統からもこれまで支持されてきませんでした (腹でもの喰う真核生物の系統)。断片的な証拠から, 幾つかのエクスカヴァータのグループが互いに近縁であることは議論されてきましたが (古細菌から寄生虫への遺伝子移動,エクスカヴァータの証拠), 多遺伝子解析により単系統性が(弱いとは言え)支持されたことは一つの進歩と言えるでしょう。 今回の研究ではミトコンドリアを失ったエクスカヴァータ類が除外されており,単系統性の立証には不十分とも言えますが, そのようなグループでは遺伝子の進化速度が極端に速く,系統解析には不向きであることからやむを得ないでしょう。 エクスカヴァータ類の内部では,ミトコンドリアが盤状のクリステを持つユーグレナ動物類とヘテロロボセア類 (あわせて盤状クリステ類 Discicristata と呼ばれる)が単系統となったことも注目されます。 以前の研究ではジャコバ類がヘテロロボセア類と近縁になり,盤状のクリステの進化について疑問が持たれていましたが (腹でもの喰う真核生物の系統),今回の結果は形態形質と一致したわけです。 リザリア類の系統的位置についてはエクスカヴァータ類またはストラメノパイル類の姉妹群である可能性や (リザリアはどこか?),アルベオラータ類およびストラメノパイル類の姉妹群となる可能性 (続報:クリプト藻とハプト藻は生き別れの姉妹か)が支持されていますが, 今回の結果は後者の研究(Hackett et al., 2007)と一致します。 全体的な樹形でも後者の研究と類似していることがわかります。今回の研究では 143 もの遺伝子が用いられているのに対して, Hackett et al. (2007) では厳選した 16 遺伝子が用いられており,対照的なことも興味深いと言えます (異なるアプローチで支持されたため,説得力があるとみるか,厳選すれば 16 遺伝子でも十分とみるか, 悩ましいところではあります)。 今後も EST プロジェクトが続々と進行し,遺伝子数や生物の種数を増やした系統解析が発表されていくことでしょうが, 今回マラウィモナス類の系統的位置が解けなかったことは,その限界も暗示しているように思われます。 アミノ酸配列の挿入欠失や,水平遺伝子移動の有無など別のアプローチも併用するしかないのでしょう。 Rodríguez-Ezpeleta, N. et al. Toward resolving the eukaryotic tree: The phylogenetic positions of jakobids and cercozoans. Curr. Biol. 17, 1420-1425 (2007). 過去の関連記事 |
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続報:ヨウスコウカワイルカ科の絶滅(2007.12.28)(→その他) |
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哺乳類の深みを見つめて II(2007.12.06) 有胎盤哺乳類の初期分岐の研究を最近紹介しましたが(哺乳類の深みを見つめて I), 同様の研究がもう一本発表されています(Hallström et al., 2007)。こちらの研究の方がやや遺伝子数が多く, 系統解析の条件も検討されていますが,やはり北方真獣類が最初に分岐し,アフリカ獣類と異節類が近縁とされています。 著者らはやはりアフリカ獣類,異節類,北方真獣類のいずれが最初に分岐したのかを調べるため, ゲノム情報に基づく大規模解析を行っています。有胎盤哺乳類からは内群として Wildman et al. (2007) と同じ 11 種を用い, 外群にはニワトリとハイイロジネズミオポッサムのみを用い,カエルは省いています。2,840 タンパク質遺伝子,2,168,859 塩基対が解析に含まれていますが,アミノ酸に変換して用いたり,プリン塩基,ピリミジン塩基をそれぞれ R,Y として一括して扱ったり, という処理をした場合も比較しています。 細かいところでは遺伝子や系統ごとの進化速度や塩基組成などを調べ,系統解析に適切な条件かどうかを検討しています。 特に塩基組成が系統ごとにばらついていましたが,プリン塩基とピリミジン塩基をそれぞれ一括した場合にはばらつきが抑えられることを示し, それぞれのデータで系統解析の結果を比較しています。最尤法とベイズ法による系統樹では,いずれのデータからも同じ樹形が得られ, アフリカ獣類と異節類が互いに近縁であり,北方真獣類が最初に分岐したことを示しています。さらに Kishino-Hasegawa 検定, Shimodaira-Hasegawa 検定,そして Expected Likelihood Weight という指標でも, 北方真獣類が基部にする樹形が他の仮説より有意に支持されました。 著者らはまた,Nikolaev et al. (2007) によるアフリカ獣類を基部にする系統樹との比較に重点を置いています。 Nikolaev et al. (2007) は 200,000 塩基対のコード配列と,430,000 塩基対の保存的な非コード配列に基づいて系統解析を行っており, 決して情報量は少なくありません。にもかかわらず異なる結果が得られたのは,Nikolaev et al. (2007) のデータが進化速度の速い遺伝子を高い割合で含んでいたためと見られます。また,Nikolaev et al. (2007) が用いたデータの一部では, アフリカ獣類と異節類の近縁性を否定できていません。従って,Nikolaev et al. (2007) のデータが不十分だったと思われます。 この研究では分岐年代の推定も併せて行っており,北方真獣類の分岐が 9900 万〜 1 億年前,アフリカ獣類と異節類の分岐が 9700〜9800 万年前頃と推定されました。これは世界各地で大陸の分裂が進んだ時期に対応しているように見えます(Smith et al., 1994)。また著者らの見解では,現在南米を中心に分布している異節類は,白亜紀/第三紀境界で絶滅したより原始的な哺乳類に代わって 台頭してきたそうです。少なくとも 9500〜7000 万年前の南米からは他の哺乳類の化石は見つかっているにもかかわらず, 異節類の記録はないそうで,異節類が北方のローラシア大陸から白亜紀末に南米に渡った可能性があります。 なお,アフリカ獣類についてもローラシア大陸からアフリカに渡った可能性があります (アメリカ起源のアフリカ獣類)。 大規模な系統解析でアフリカ獣類と異節類の近縁性が支持されていることは,とても興味深いとは思います。 しかし依然として解析に含まれた外群や,アフリカ獣類,異節類の種数が少ないには違いなく,何か決定的な証拠が待たれるところです。 おそらく有胎盤哺乳類の初期分岐の問題は,解決できそうな問題の中で最も困難な課題でもあるかと思います。 今後も,このような系統解析上の困難がどのように解決されていくのかに注目していきたいと思います。 Hallström, B. M., Kullberg, M., Nilsson, M. A. & Janke, A. Phylogenetic data analyses provide evidence that Xenarthra and Afrotheria are sister groups. Mol. Biol. Evol. 24, 2059-2068 (2007). Nikolaev, S. et al. Early history of mammals is elucidated with the ENCODE multiple species sequencing data. PLoS Genet. 3, 1 (2007). Smith, A. G., Smith, D. G. & Funnell, B. M. Atlas of Mesozoic and Cenozoic Coastlines (Cambridge University Press, Cambridge, 1994). 過去の関連記事 |
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哺乳類の深みを見つめて I(2007.11.30) 哺乳類,特に有胎盤哺乳類の主要な系統関係は分子系統によって明らかにされてきています。 しかし残された未解決の謎の中に,有胎盤哺乳類の最初の分岐があります。有胎盤哺乳類の中で最初に分かれた系統群を明らかにするため, Wildman et al. (2007) は哺乳類のゲノム規模の配列情報に基づいて系統解析を行いました。 有胎盤哺乳類には,アフリカ獣類(Afrotheria),異節類(Xenarthra),北方真獣類(Boreoeutheria)の 3 大系統群が知られています。 しかしこの内どの 2 群が互いに近縁で,どの群が最初に分かれたのかは未だに決着していない難問です。 例えば Murphy et al. (2001) ではアフリカ獣類が最初に分岐し,残る 2 群が近縁であるとしていますし(後者を Notolegia または Exafroplacentalia と呼ぶとのこと),異節類が最初に分岐したとする研究(レトロポゾンが書き込んだ哺乳類の歴史; 異節類以外の有胎盤哺乳類を合わせて Epitheria と呼ぶ)や北方真獣類が最初に分かれたとする研究もあります (異節類とアフリカ獣類を合わせて Atlantogenata)。また齧歯類が有胎盤哺乳類の最初の分岐とする見解もありましたが, これは現在あまり有力な仮説ではありません(哺乳類の祖先はねずみぢゃない!)。 著者らはこれらの 4 つの仮説を検証することを目指しています。系統解析の際の統計的誤差を減らすため, 著者らはゲノムが解読された哺乳類について大規模な系統解析を行いました。 解析に含まれたのは有胎盤哺乳類が 11 種で,外群としてはハイイロジネズミオポッサム(Monodelphis domestica;有袋類), ニワトリ(Gallus gallus;鳥類),そしてニシツメガエル(Xenopus tropicalis;両生類)の 3 種を用いています。 これら 14 種のゲノム情報から相同タンパク質の遺伝子を 1,698 個抽出し,塩基配列にして 1,443,825 塩基対の長さにおよぶアラインメントを作成しました。そして系統解析法ごとに特性が異なることを踏まえて,最節約(MP)法,最尤(ML)法, ベイズ法,近隣結合(NJ)法の 4 通りの方法で解析しています。 系統解析の結果,北方真獣類が最初に分岐し,Atlantogenata が単系統となることが MP 法(コドンの第 3 塩基は除かれた),ML 法, ベイズ法で支持されました。一方で NJ 法では齧歯目が有胎盤哺乳類の根元で分岐していました。 これはコドンの第 3 塩基の進化速度が速すぎるためと見られ,アミノ酸配列に直した場合,あるいはコドンの第 3 塩基を除いた場合には, 北方真獣類が最初に分岐する樹形が支持されたそうです。この樹形は尤度に基づいた Shimodaira-Hasegawa 検定によっても, 他の対立仮説より有意に支持されています。しかし最節約基準に基づいた Kishino-Hasegawa 検定や Templeton 検定では, アフリカ獣類が最初に分岐する樹形(異節類と北方真獣類が近縁)が棄却されておらず,決着がついたとは言えないようです。 -------アフリカ獣類-------| ------| -------異節類 | --------------北方真獣類(真主齧類+ローラシア獣類) 著者らは Atlantogenata と北方真獣類が最初に分岐したとの仮説の下で,大陸移動との関係も議論しています。 ジュラ紀には地球上のほとんどの陸地はパンゲアという単一の超大陸を形成していました。パンゲア超大陸は白亜紀に北方のローラシア大陸 (北米,ユーラシアなどの母体)と南方のゴンドワナ大陸(南米,アフリカ,オーストラリア,南極など)に分裂します。 著者らはこれが北方真獣類と Atlantogenata の分岐に対応している可能性を指摘しています。 白亜紀後期にはさらにアフリカと南米が分裂しますが,アフリカ獣類と異節類(南米を中心に分布)の分岐がこれに対応すると見られています。 ただし化石記録からはアフリカ獣類や異節類が本当にゴンドワナ大陸起源なのかどうか確定しておらず (アメリカ起源のアフリカ獣類,インド産白亜紀有蹄類とは?), 結論を導くには早すぎるように思われます。 系統解析であるグループの最初の分岐を明らかにしようとする場合,外群の選択が重要な意味を持ちます。 しかし今回の解析では直近の外群となる有袋類は 1 種しか含まれておらず,残る外群 2 種は哺乳類ですらありません。 これが解析に偏りを与えている可能性は否定できず,内群だけでなく外群をさらに増やした解析こそが必要でしょう。 カモノハシやオポッサム以外の有袋類のゲノム解析も現在進行中とのことなので,系統解析の結果が変わらないのかどうか楽しみです。 Wildman, D. E. et al. Genomics, biogeography, and the diversification of placental mammals. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 14395-14400 (2007). Murphy, W. J. et al. Resolution of the early placental mammal radiation using Bayesian phylogenetics. Science 294, 2348-2351 (2001). 過去の関連記事 |
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コナミドリムシ属多様性の氷山の一角(2007.11.26)(→藻類学) |
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インド産白亜紀有蹄類とは?(2007.11.19)(→古生物学) |
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変形体モドキの正体(2007.11.16) Corallomyxa と呼ばれる変形体様の海産アメーバが存在します。この生物はアメーバの形態, 特に多核で網目状の "変形体" を作ることから,粘菌類の起源生物の候補としても着目されます。 Tekle et al. (2007) は本属の新種 C. tenera について分子系統解析を行い,Corallomyxa 属が粘菌類とは異なり, リザリア類の有孔虫などに近縁であると議論しています。 変形菌(真正粘菌)は生活期の一時期をアメーバとして過ごし,時に目立った子実体を形成する変わった生物で, 他の粘菌類と共に動菌類(Mycetozoa)としてまとめられることもあります。動菌類は他のアメーバ類と共にアメーバ動物類(Amoebozoa) に所属しますが,動菌類の起源となったアメーバについては情報が不足しています。分子系統からは Filamoeba や "Gephyramoeba" などが動菌類の姉妹群と推定されていますが,変形体様の細胞を作る Stereomyxa や Corallomyxa については分子系統が調べられていませんでした。この 2 属は時に無子実体綱(Acarpomyxea)に分類され(例えば,猪木ら, 1981), 動菌類との類縁性も考えられたため,これらのアメーバの系統解析が望まれていました (未踏の地,アメーバ動物門を行く III)。 著者らはまず,アメリカ・ノースカロライナ州ビューフォート(Beaufort)近郊の人工塩湖の堆積物中から分離された Corallomyxa sp. ATCC® 50975™ 株を調べ,細胞体が繊細な構造をしていることや,シストを形成することなどに基づいて新種 C. tenera として記載しました。そしてこの種について系統解析を行いました。 まず,SSU rDNA,アクチン,アルファおよびベータ・チューブリン遺伝子の 4 遺伝子を用いた結合系統解析から, Corallomyxa が粘菌を含んだアメーバ動物類ではなく,リザリア類(Rhizaria)と呼ばれる, やはりアメーバ様の生物を含んだ群に所属することが示されました。さらに種数を増やした SSU rDNA の系統解析からは, Corallomyxa が Gromia 属(殻を持ち,糸状擬足を形成するアメーバ)と共に有孔虫(やはり殻を持ったアメーバ。星の砂など) やハプロスポラ類(寄生性の胞子虫)などに近縁であると低い支持率で推定されました。アクチンの系統樹でも似た樹形が得られていますが, ハプロスポラ類の位置が異なっており,統計的支持も得られていません。 著者らはさらに SSU rDNA の二次構造を詳細に調べ,Gromia,Corallomyxa,有孔虫,そしてハプロスポラ類に共通で, 他のリザリア類には存在しない二次構造(E23-13-1)を発見しました。このステム(stem)はハプロスポラ類との類縁が疑われたフィトミクサ類 (Phytomyxea)には存在せず,また他のほとんどの真核生物ににも見つかっていないことから, 有効な系統推定の指標になるかも知れません(ただしこのステムを二次的に失ったハプロスポラ類も存在)。 今回の系統解析では Gromia,Corallomyxa,有孔虫,ハプロスポラ類の間の系統関係は解決していませんが, 支持率の低い樹形や形態形質などに基づき以下の系統関係が予想されています。しかしハプロスポラ類の系統的位置については議論の余地があり, 今後の研究の進展が待たれます。 ---------------------Gromia| ------? --------------Corallomyxa | | -------? -------有孔虫(Foraminifera) -------| -------ハプロスポラ類(Haplosporidia) 近年の分類では Corallomyxa はアメーバ動物類に含まれると予想されていました (Smirnov et al., 2005; Adl et al., 2005;それぞれ未踏の地, アメーバ動物門を行く II および原生生物の「公式」分類体系を参照)。 Corallomyxa の初めての分子系統の結果はこの仮説を完全に否定し,リザリア類の中の Gromia や有孔虫など海産アメーバとの近縁性を支持しました。これで粘菌類の起源についてはまた情報が整理されましたが, 後は Stereomyxa の系統解析が残されています。そして粘菌類と系統的に近縁な "Gephyramoeba" についても同定の見直しが行われていますので,遠からず紹介したいと思います。 Tekle, Y. I. et al. A multigene analysis of Corallomyxa tenera sp. nov. suggests its membership in a clade that includes Gromia, Haplosporidia and Foraminifera. Protist 158, 457-472 (2007). 猪木正三 監修 原生動物図鑑 (講談社サイエンティフィック, 東京, 1981). |
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霊長類の姉妹は空を飛ぶ(2007.11.05) 霊長目の周辺の系統関係は これまで解像度が低くよく分かっていませんでした。登攀目(ツパイ目)や 皮翼目が霊長類の姉妹群の候補となったいましたが, Janečka et al. (2007) はゲノムレベルの遺伝子欠失挿入の解析と塩基配列に基づく系統解析から, 霊長目の姉妹群が皮翼目であると結論しています。 哺乳類の系統関係はタンパク質の結合系統解析やアミノ酸の挿入欠失,レトロポゾンの挿入などを指標に大部分が解かれています (レトロポゾンが書き込んだ哺乳類の歴史,今風の哺乳類の起源は恐竜の絶滅の後の後など)。 しかし一部にはまだ解決していない問題も残されています。そのうちの一つが霊長目の姉妹群の問題です。霊長目,登攀目(ツパイの仲間), 皮翼目(ヒヨケザルの仲間,飛膜を持ち滑空する),齧歯目(ネズミなど), ウサギ目(ウサギ)は併せて真主齧類(Euarchontoglires)と呼ばれ, その単系統性は複数の研究で支持されています(哺乳類の祖先はねずみぢゃない!, レトロポゾンが書き込んだ哺乳類の歴史など)。真主齧類は真主獣類(Euarchonta:霊長目,登攀目,皮翼目) とグリレス類(Glires:齧歯目,ウサギ目)に分けられます(登攀目がグリレス類により近縁とする説もあり; 哺乳類の進化系統に関して)。 問題は真主獣類内部の系統関係で,霊長目,登攀目,皮翼目の 3 者のうちどの 2 つが互いに近縁なのかが明らかになっていません。 これは我々人類を含む霊長類の姉妹群が分からない,という意味でも問題です。 著者らはゲノム規模の配列データから稀なアミノ酸挿入欠失を探索し, 同時に大規模な系統解析を行うことで真主獣類の系統関係を調べました。 まず系統推定に有用と思われた 196 個の挿入欠失について,ゲノム情報の得られていない皮翼目のデータを追加したところ, 3 個の挿入欠失が真主獣類の単系統性を支持し,登攀目が真主獣類から外れる可能性は支持されませんでした。 さらに 7 個の挿入欠失で皮翼目と霊長目の類縁が支持され,登攀目と皮翼目の類縁性を支持する挿入欠失は見つかりませんでした。 ただし登攀目と霊長目に共通する挿入欠失も 1 つだけ見つかっています。 挿入欠失の解析とは独立に,19 遺伝子 1,4000 塩基にわたるデータの系統解析も行われましたが, ここでもやはり皮翼目と霊長目の姉妹関係が強く支持されました。 これまでの系統解析では皮翼目と登攀目の姉妹関係が支持されることも多かったそうですが,これは解析された種数(系統) が少なく,long branch attraction(LBA:進化速度の速い系統同士が誤って近縁に見える現象)が起こっているためと見られました。 著者らの解析ではこれまで解析されていたツパイ科(Tupaiidae)に加えて,もう 1 つの科であるハネオツパイ科(Ptilocercidae) のハネオツパイ属(Ptilocercus)を含めています。また皮翼目についても現生する 2 種,フィリピンヒヨケザル(Cynocephalus volans)とマレーヒヨケザル(Galeopterus variegatus),をいずれも含めています。 つまり解析する系統を増やしたことによって LBA が解消され,正しい系統樹に近づいたと推定されます。 -------齧歯目 |--------------| |グリレス類 | | -------ウサギ目 | | | | ------| -------皮翼目 | |真主齧類 | -------| | | -------| -------霊長目 |真主獣類 | | | --------------登攀目 | 著者は分岐年代の推定も行っており,真主齧類の起源が 8880 万年前,真主獣類の起源は 8790 万年前,皮翼目と霊長目の分岐が 8620 万年前などといずれも白亜紀後期と推定されています。この期間が非常に短いことから, これまでの解析では系統関係が解けなかったものと思われます。 今回,7 個もの挿入欠失で霊長目の姉妹群が皮翼目と特定され,また哺乳類の系統関係の謎が解けたと言えます。 もちろん今後も論争は続くと思われますし,覆る可能性がないとは思いませんが,哺乳類の大系統の謎も大分落ち着いてきたようです。 挿入欠失の大規模な解析はある程度ゲノム情報が揃っていないと行えません。その意味で哺乳類は解析がしやすいグループです。 他の生物群においてもこれから先,ゲノム情報が続々と解析されていくと思われますので,精度の高い系統解析にも活かされていくことでしょう。 Janečka, J. E. et al. Molecular and genomic data identify the closest living relative of primates. Science 318, 792-794 (2007). 過去の関連記事: |
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中華竜鳥に羽毛なし(2007.11.02)(→古生物学) |
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吸口虫とは何者か?(2007.10.02) 棘皮動物に外部片利共生または寄生する吸口虫類(Myzostomida)と呼ばれる数mm 大の動物が存在します。 吸口虫類は類縁が不明で,形態からも分子系統からも見解が分かれています。Bleidorn et al. (2007) は特に分子系統の矛盾を整理するため,ミトコンドリアゲノムや複数の核遺伝子の情報を検証し, 吸口虫類が環形動物と近縁であることを示しています。 吸口虫類は最古の化石が古生代に遡り(3〜5 億年前),長い共生(寄生)生活の結果として高度に特殊化したと思われています。 そのため形態から類縁生物を特定するのは困難でした。比較的有力だったのは環形動物と近縁だとする説で, 両者が疣足状の構造,キチン質の剛毛,はしご形神経系,トコロフォア様幼生などの特徴を共有していることが根拠です。 しかし精子の形態などからは Syndermata(輪形動物と鉤頭動物からなるグループ。本サイトにおける輪形動物門と同義) との類縁も指摘されていました(併せて Promastigozoa と呼ばれた)。さらに分子系統では 18S rDNA と EF-1α から扁形動物との類縁が,18S rDNA と 28S rDNA から外肛動物(苔虫動物)との類縁が支持されており, 混乱が深まっていました。そこで著者らは吸口虫類のミトコンドリアゲノムの大部分と核遺伝子(18S,28S,EF-1α に加えて Myosin II の遺伝子)を個別に解析・比較しました。 ミトコンドリアゲノムの結果は,吸口虫類と環形動物の類縁を強く支持しました。 特にミトコンドリアゲノム上の遺伝子の並びが多くの環形動物とほぼ同じで,逆に Syndermata,扁形動物, 外肛動物とは全く似ていませんでした。さらにコードされているタンパク質の系統樹でも環形動物とまとまりました。 一方で核遺伝子の場合,Myosin II の系統樹でも環形動物と吸口虫類がまとまりましたが,EF-1α や 18S,28S では解像度が得られないか,外肛動物など他の系統群と低い支持率でまとまりました。 18S,28S の場合には配列内に異なる系統情報が混在していることから,系統解析には不向きであると解釈されています。 まとめると吸口虫類と環形動物の単系統性が支持される場合には明確な証拠(支持率)があるのに対して, 対立仮説はいずれも支持率が乏しいか遺伝子自体に問題がある,といえるでしょう。 残念ながら OTU が揃っていないために複数の核遺伝子をつなげた解析は行われませんでしたが, ミトコンドリアの遺伝子配列はかなり明確な証拠ですから,あまり議論の余地はないでしょう。 今後は環形動物と吸口虫類が姉妹群なのか,あるいは吸口虫類が環形動物に含まれるのならば姉妹群はどのグループなのかが問題で, OTU を増やした解析が望まれます。 吸口虫類と環形動物が近縁だとすると,吸口虫類の形態進化の議論にも影響があります。吸口虫類では体腔が見られないのですが, これは二次的に体腔が塞がった状態と考えられます(小型の環形動物にも見られる形質とのこと)。 また吸口虫類では一部の構造が繰り返しているのが知られていましたが,これが環形動物の体節性に由来するものと考えられます。 後生動物にはまだまだ所属が不確定な動物が複数残されていますので,今回のミトコンドリアゲノムの遺伝子配列のような, ある程度決定的な情報が一つずつ積み重なっていくのが楽しみです。 Bleidorn, C. et al. Mitochondrial genome and nuclear sequence data support Myzostomida as part of the annelid radiation. Mol. Biol. Evol. 24, 1690-1701 (2007). |
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恐竜の骨に羽の痕(2007.09.25)(→古生物学) |
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問題山積。シオヒゲムシ属の種分類(2007.09.14)(→藻類学) |
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最古のゴリラは驚きの古さ(2007.09.11)(→人類学) |
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原生生物の分類はどこへ行く(2007.09.05) 原生生物の分類法は,原生生物という概念が出現して以降長らく大きな混乱を経てきました。 分子系統学の発展や微細構造の知見が蓄積してくると,進化系統を反映した分類体系へと収束し始めています。 しかし Adl et al. (2007) によれば,現状では原生生物の多様性を表現する命名法が存在せず, 従って分類法にも課題が残っていることが指摘されています。 「原生生物」とは動物,植物,菌類に比べて原始的な真核生物の総称ですが,これは多分に主観的で, 時代によって,また研究者によって定義や範囲,内部の分類体系が大きく変動してきました。 しかし 2005 年に分子系統学の成果を大きく反映した全く新しい分類体系が提唱され, 原生生物の分類を真核生物全体の枠組みの中で捉え直す流れが定着してきました (原生生物の「公式」分類体系)。 その一方で,原生生物の学名の取り扱いを巡っては幾つかの問題も浮上しており,著者らは今後の命名法のあり方を議論しています。 原生生物の場合には,他の後生動物や陸上植物の様な巨視的なサイズの生物と比べて,地理分布が明らかでない場合が多く, 集団構造の研究も未だに十分行われていません。この背景には種同定が形態に大きく依存してきたことが挙げられています。 このような問題は今後,原生生物の種概念を見直していく形で改善していくしかないと考えられますが, 種の学名を扱う命名規約が問題をはらんでいることも指摘されています。 原生生物の学名は国際動物命名規約:ICZN か国際植物命名規約:ICBN が規定しています(両者では微妙に違いがあり, これ自体も学名の混乱の原因となる)。命名規約によると,新種の記載には通常タイプ標本が要求されます。 著者らはこの点を問題視しています。後世の種同定に利用できるレベルの顕微鏡標本が作れないような生物であっても, 高レベルのデジタル画像や DNA 配列(または DNA サンプル自体)が残されていれば,むしろ十分であるはずだとされています。 逆に顕微鏡標本だけを見ても,生殖集団や生態,系統,生理などによって識別される隠蔽種は同定できません。 そこで種の記載のためにこれらの組み合わせで記載するような基準を策定する必要があるとしています。 種より上位の学名についても,近年の大幅な見直しの中で階級の変更に伴う変更の連鎖が問題視されています。 例えばある階級の学名を一つ下の階級に変更した場合,その学名より下位の学名の階級も下げる必要が出てきて, そのまた下の階級の学名も,と言った具合に階級の変更が大量に求められてしまう場合があります。 また最近では分類群を決めるにあたって分子系統を強く意識する研究が多いようですが, 現行の命名規約では主として形態の「記載」とタイプ(標本など)に基づいて分類群を定義しており, 系統関係に基づいて分類群を定義することはできません。しかし系統関係に基づいた定義を可能にする命名規約として, 現在 PhyloCode とよばれる規約が提唱されています。ただしこれも原生生物の学名の抱える問題を全面的には解決できないようです。 著者らが最も問題視しているのは,原生生物学者が命名規約を無視して学名を設立するようになることです。 学名の設立は一定の基準の下で管理されないと,混乱が助長されてしまいますから,研究者が使いやすい命名規約が求められるわけです。 そして著者らの主張の中心は,記載のための基準を設立することにあるようでした。つまりデジタル画像と DNA 配列の登録です。 しかし著者らの主張には幾つかの問題があるようにも思われます。 まず第一に,原生生物の種の実態は現在十分に理解されているとは言えません。 その状態で記載のための基準を作ることが果たして出来るでしょうか?中途半端な基準を作れば,後に基準を修正することになり, 結局似たような混乱を再現するだけになります。それ以上に現行の命名規約の下でも, 研究者は新種についての情報を可能な限り提示するべきであって,そこまで命名規約で規制し, 分類学を閉じた世界にする必要はないと思います。 さらに現行の命名規約における種同定は,タイプ標本と同じ生物かどうかで判断できます。 タイプ標本の情報を DNA 配列や培養株,画像などで補完することもできますから, 実は著者らの言う隠蔽種の問題などは解決できるはずなのです。一方で著者らの主張するように複数の基準で種を定義するならば, いずれの情報が最終的な種同定に必要なのか,あるいは複数の基準が矛盾する結論を示したときにどうするのか, などの疑問が生じてきて,実は学名の最終的な定義が曖昧になると思われます。 次に上位の階級の変更に伴う問題については,階級の変更の連鎖が指摘されていますが, 新しい概念が導入されて分類体系を見直すのであれば,多くの学名に変更が及ぶ方がむしろ分かりやすいのではないでしょうか。 確かに手間はかかるでしょうが,データベースなどを用いて学名の対応が簡単にできるようになれば(これは既に半ば実現している), 深刻視するほどの問題とは思えません。 結局,著者らが指摘する命名規約上の問題はさほど深刻なものではないと思います。 むしろ深刻なのは原生生物をどの命名規約で扱うのか,と言う点であり,これは研究者レベルで合意を形成するしかないでしょう。 しかるべき後に命名規約の方にも修正を行っていくのが必要ではないでしょうか。 Adl, S. M. et al. Diversity, nomenclature, and taxonomy of protists. Syst. Biol. 56, 684-689 (2007). |
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続報:クリプト藻とハプト藻は生き別れの姉妹か(2007.08.28)(→藻類学) |
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続報:巨大な植物界(2007.08.16)(→藻類学) |
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続報:「鞭毛共生起源説」再び(2007.08.14) 原核生物の分裂リングの主要成分である FtsZ は真核生物のチューブリンの相同タンパク質と見られていますが, Prosthecobacter dejongeii(ヴェルコミクロビウム門 ヴェルコミクロビウム目)という真正細菌においてチューブリンそのものが見つかり,真核生物の鞭毛になったとも言われました (「鞭毛共生起源説」再び)。しかし Pilhofer et al. (2007) はこれらの生物が FtsZ も持っていることを指摘し,チューブリンは水平遺伝子移動の産物であることを主張しています。 P. dejongeii にチューブリンが見つかった当初,ゲノム解析(95% 解読)から FtsZ の遺伝子がないことが指摘されました。 さらにヴェルコミクロビウム門と近縁なクラミジア門やプランクトミセス門においても FtsZ が存在しないことが指摘されていたため, これらの 3 つの門では FtsZ に代わる分裂の仕組みを用いていると考えられました。 さらには,「真正細菌の FtsZ → ヴェルコミクロビウム門のチューブリン → 真核生物のチューブリン」, という進化過程を考えることで真核生物の鞭毛,微小管の起源を説明しようとする仮説へと繋がりました。 しかし P. dejongeii と近縁な Verrucomicrobium spinosum ではチューブリンも存在しないことが ゲノム全長の解読から明らかとなり,この仮説の問題になっていました。著者らはさらにヴェルコミクロビウム門における FtsZ の分布を調べることで,この仮説の問題点を検証しました。 さて,著者らはヴェルコミクロビウム門に FtsZ が広く存在していることを発見しました。 これらの FtsZ は真正細菌の中で単系統群を形成し,さらに V. spinosum のゲノム配列からは ftsZ 遺伝子の近傍に細胞分裂に関わる遺伝子が集まっていることがわかりますが,この配置は大腸菌など他の真正細菌にも保存されていて, おそらく祖先からヴェルコミクロビウム門に引き継がれてきたものと推定されます。 ヴェルコミクロビウム門の FtsZ はチューブリンとは類似性が少なく,FtsZ から直接チューブリンが進化したとは考えにくいそうです。 そして V. spinosum がチューブリンを持たないことを併せて考えると,チューブリンは Prosthecobacter 属の祖先で水平遺伝子移動によって獲得されたと考えるのが自然なようです。 ヴェルコミクロビウム門のチューブリンが水平遺伝子移動によるとの推定は,別段予想外ではありませんが, 証拠に基づいて議論できるようになったのは前進です。 とりあえずヴェルコミクロビウム門が真核生物の鞭毛の起源だと考える必要はなくなりましたね。 Pilhofer, M., Rosati, G., Ludwig, W., Schleifer, K.-H. & Petroni, G. Coexistence of tubulins and ftsZ in different Prosthecobacter species. Mol. Biol. Evol. 24,1439-1442 (2007). |
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真核生物の起源を振り返って(2007.08.08) 真核生物の起源は生物進化における最大の謎の一つです。この謎に迫るため数多くの仮説が立てられ, あるいは否定され,あるいは生き残っています。Poole & Penny (2006) および Poole & Penny (2007) では真核生物の起源を巡る仮説を整理し,食作用を有した "原真核生物"(protoeukaryote) が真正細菌を細胞内共生させてミトコンドリアとしたとの仮説を推しています。 複数の生物が真核生物のゲノムの由来になったことはもはや定説になっていますが,その経緯については見解が分かれており, Poole & Penny (2006) では 4 つの仮説に分けて考察しています。まず古細菌と真正細菌が融合したとする仮説, 次に未知の宿主に古細菌が取り込まれて核になったとする仮説, 古細菌が宿主となって真正細菌を細胞内共生させてミトコンドリアを獲得したとする仮説, そして宿主が古細菌ではなく原真核生物だったとする仮説となります。なお,これらの仮説は全てが互いに排他的ではありません。 最初の 2 つの仮説はミトコンドリアの成立以前に 2 種の生物が祖先になっていたと考えている点で複雑です。 現在,真核生物が祖先的に 3 種類のゲノムを持っていたとの証拠は得られておらず, 積極的にこれらの仮説を考える必要はないと考えられます。一方で最後の原真核生物を想定する仮説は, いわゆる「アーケゾア仮説(archezoa hypothesis)」と併せて考えられています。 アーケゾア仮説は 1990 年代に一世を風靡した仮説で,当時ミトコンドリアを持たないと考えられていた原生生物の一群 (アーケゾア)こそが,ミトコンドリアを獲得する前の原真核生物の姿をとどめた生き残りである,としたものです。 ところがアーケゾアにおいて次々とミトコンドリアの痕跡が発見され,アーケゾアとはかつてミトコンドリアを持っていたが, 現在では退化させてしまった原生生物であるとの理解が広がりました。アーケゾア仮説はこうして「否定」され, 代わって真核生物の祖先は古細菌であったとする説が台頭してきました。 著者らはここで異論を挟みます。確かに現生のアーケゾアは真核生物の祖先型とは関係がありません。しかしだからといって 「アーケゾアの様な」原真核生物が存在した可能性まで否定するのはおかしい,というのです。 原真核生物をミトコンドリアの宿主として想定すること(以下「原真核生物説」)と, 他の仮説との違いは古細菌と真核生物の関係です。原真核生物は古細菌の姉妹群と仮定されていて, 現生の古細菌の最初の分岐より以前に古細菌から分かれた系統になります。一方で他の仮説では古細菌の一部が真核生物の祖先 (またはその一部)となったと考えていて,真核生物(の宿主側の要素)は古細菌の内群になります。 これは系統解析から検証できますが,著者らは古細菌が単系統とする説を採用しています。ただ実際には古細菌のうちエオサイト (eocytes)あるいはクレンアーケオタ(Crenarchaeota)とも呼ばれる一群が, より真核生物に近いとする説も否定されているわけではありません。 著者らはさらに原真核生物説を補強するために,「既知の機構によって説明できるかどうか」という点を強調しています。 これまでに異なるドメイン間での細胞融合の例や古細菌の細胞内共生や逆に古細菌の食作用の例は知られていません。 一方で真核生物においては食作用や細胞内共生は広く知られていることから,原真核生物説が支持されるとしています。 原真核生物がミトコンドリアを獲得する過程については,5 つの段階が想定されています。 1) 始めに食作用による獲物取り込みがあり,2) 次に獲物の中に消化を免れて宿主の細胞内にとどまるものが出現します。 3) そして一時的な共生関係(双利共生,片利共生,寄生)が生じます。4) これが進展して恒久的な共生関係が確立し, 5) 共生体がオルガネラになる,というのが著者らによる推定です。 この各段階についても,現生の真核生物と真正細菌の共生体などにおいて実例を認めることが出来るため, 「既知の機構」によって説明できると言えます。 従って著者らの基準からは原真核生物説のみが支持されるわけですが,これにはさすがに異論も出ています。 Davidov & Jurkevitch (2007) は真核生物と古細菌の系統関係について慎重な見解を示しています。 ミトコンドリアは α-プロテオバクテリアに由来すると見られていますが, 実際にはミトコンドリアに由来すると考えられる遺伝子の多くは,系統解析によると α-プロテオバクテリアの外側に出ます。 これと同じことは古細菌と真核生物についても言えるわけです。 また,食作用についての議論も批判されていて,そもそも細胞内共生に食作用は必須ではなく, 細胞内に侵入して捕食するような真正細菌がミトコンドリアの起源だった可能性も指摘されています。 さらに古細菌については依然として知識が不足しているため,古細菌に食作用がないとは言えない状況でもあります。 このように,Poole & Penny (2006) や後に同様の議論を簡潔に記した Poole & Penny (2007) においては, やや強引に原真核生物説が主張されています。しかし真核生物の特徴,特に核膜,食胞や分泌胞などの発達した膜系などの進化は, どの時点で起こったのか全くわかりません。その意味では古細菌から派生した真核生物の祖先で起こったとしても, 古細菌の姉妹群である原真核生物で起こったとしてもかまわないわけで, 食作用が古細菌で知られているかどうかは議論の本質からずれているのではないでしょうか。 むしろ多くのゲノム配列が明らかになってきた今こそ古細菌と真核生物の系統関係を真剣に見直す時期であるように思われます。 なお,Poole & Penny (2006, 2007) の論法には問題がありますが,このことと原真核生物説の正否も関係がありません。 アーケゾア仮説が元々の意味では否定されたとは言え, 原真核生物説は真核生物の古細菌起源説と並んで有力な仮説と言えるでしょう。 Poole, A. M. & Penny, D. Evaluating hypotheses for the origin of eukaryotes. BioEssays 29, 74-84 (2006). Poole, A. & Penny, D. Engulfed by speculation. Nature 447, 913 (2007). 参考: 真核生物の由来を見直してなども参照。 |
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未知の光合成細菌発見(2007.08.04) これまで光合成を行う真正細菌は 5 つの門から報告されていました。 Bryant et al. (2007) は光合成細菌のマットのメタゲノム解析から,未知の光化学系遺伝子を発見しました。 その遺伝子が未培養でこれまで光合成細菌が報告されていなかったアシドバクテリア門のメンバーであることを突き止めました。 原核生物には難培養性の系統群が多数存在しており,そのような生物の研究には DNA を直接調べるのが一つの方法とされています。 最近では特定の環境中の微生物から DNA を抽出して,そこにいる生物の同定や生態についてゲノム配列から推定することも行われています。 著者らはアメリカ・イエローストーン国立公園の Octopus Spring および Mushroom Spring という 2 ヶ所の温泉の光合成微生物のマットから, ゲノム規模の DNA 配列の解析を行いました。 光合成反応の反応中心にはタイプ I とタイプ II が知られていて,それぞれシアノバクテリアと色素体の光化学系 I,II に対応します。 それ以外の光合成細菌はいずれか一方のタイプを持ち,クロロビウム門と Heliobacterium 類(グラム陽性細菌門 クロストリディウム目)ではタイプ I,クロロフレクスス類 (クロロフレクスス門"クロロフレクスス綱")と光合成性のプロテオバクテリア門ではタイプ II の光化学反応中心を持っています。 ところが著者らは,Octopus Spring からクロロビウム門にも Heliobacterium 類にも含まれないタイプ I の PscA タンパク質の遺伝子を発見しました。 著者らは近傍の遺伝子を始め,最終的には 271,846 塩基対の配列を解読し,16S rRNA 配列の情報などから, この pscA 遺伝子の持ち主がアシドバクテリウム門の一員であると推定し,仮に Chloracidobacterium thermophilum と名付けました。ゲノムデータなどから Chloracidobacterium は好気性の光合成従属栄養生物で,バクテリオクロロフィル a と c を合成し,光捕集性光合成色素の複合体であるクロロゾーム(Chlorosome)を持つことも予想されました。 16S rRNA の研究からは Chloracidobacterium は 50〜66°C で生育し,イエローストーンの各所の他, チベットやタイにも見つかっているそうです。 ところでこれまでに Octopus Spring から培養された Synecococcus spp. (シアノバクテリア門)の株に, アシドバクテリウム類が混じっていることが知られていました。光化学系 II の阻害剤を用いてシアノバクテリアを排除したところ, 単独でも培養可能な Anoxybacillus の一種(グラム陽性細菌門バチルス目) と Chloracidobacterium の 2 種を含むようになったそうです(Chloracidobacterium は純粋培養できていない)。 そして,この共培養の系から前述の予想が確認されています。 Chloracidobacterium の特徴はどうやらクロロビウム類にある程度似ているようです。両者は系統的には離れていると考えられますが, クロロゾームと光化学系 I を持った光合成細菌が両者の共通祖先だったと考えると,光合成の進化について新しい仮説に繋がるかもしれません。 ただその前に Chloracidobacterium を純粋培養することが本種の性状の理解には欠かせないでしょう。Chloracidobacterium が独立栄養的に生育できるのかどうかも純粋培養ができるまではわからないそうです。 にもかかわらず,光合成細菌の一群がこれまで見落とされていたことは大きな驚きです。 未培養の原核生物の中にはさらに驚くような細菌も含まれているかもしれません。私としては,光化学系を一つしか持たない, シアノバクテリアの祖先になるような光合成細菌が見つかって欲しいところです。
Bryant, D. A. Candidatus Chloracidobacterium thermophilum: An aerobic phototrophic acidobacterium. Science 317, 523-526 (2007). |
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海の魔物の正体は(2007.07.31)(→藻類学) |
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出島から入ってきたリンネの分類学(2007.07.27) 5月29日,ロンドン・リンネ協会にて,今上天皇によるリンネの生誕 300 年を記念した講演があったそうです。 何とその概要が Nature に掲載されています(His Majesty The Emperor of Japan, 2007)。 リンネ(C. Linnaeus)は生物の種の学名を属名と種小名をつなげて表現する二命名法の創始者として知られ, また生物を含んだ自然界の物質を階層式の分類法で表現したことでも有名です。 リンネは 1735 年の Systema Naturae の初版において,自然を鉱物界(Regnum Lapideum),植物界(Regnum Vegetabile), 動物界(Regnum Animale)の 3 界に分類し,それぞれ「成長するもの」,「成長し,生きているもの」, 「成長し,生きていて,感覚(feeling)を持つもの」としました(Engel-Ledeboer & Engel, 2003)。 これが現在のリンネ式の階層分類体系の始まりと言えます。 リンネが Systema Naturae の初版を出版した 1735年には,日本は鎖国状態にありました。 そのため出島におけるオランダとの交易のみが西洋との窓口になっていました。 講演の中では日本と西洋の分類学が出島を通じて交流していた経緯が紹介されています。 E. Kaempfer はオランダ商館長の随員として日本国内の植物を調べる機会を得ました。 リンネの著作の中で学名が与えられた日本の植物は,Kaempfer に基づいているそうです。 後にはリンネの弟子である C. P. Thunberg が日本を訪れ,桂川甫周,中川淳庵(杉田玄白と共に「解体新書」を翻訳したことで有名) らと交流を持ち,Flora Japonica(日本植物誌)を記しました。 さらに P. F. von Siebold とその弟子である伊藤圭介が二命名法を含めたリンネの分類を日本に広めたと考えられています。 講演の中では日本で鎖国が解かれた後の日本の分類学についても触れられていて, 裸子植物における精子の発見や天皇陛下によるハゼ亜目魚類の研究などが紹介されています。 最後に近年の分類学が分子系統を取り入れてきたことと,その可能性について言及しつつ,形態学への興味を述べています。 リンネを始めとする 100 年以上昔の分類学は現在の分類学の原点でありながらも, 現在では学名の適用を見直す特殊な場面を除いては,彼らの仕事を直接参照する必要に迫られることはまずないでしょう。 しかし時には立ち止まって 300 年近く前の研究に思いをはせ, そして 300 年後に現在の研究がどう扱われるのかを想像するのも悪くないかもしれません。 His Majesty The Emperor of Japan. Linnaeus and taxonomy in Japan. Nature 448, 139-140 (2007). Engel-Ledeboer, M. S. J. & Engel, H. Carolus Linnaeus, Systema Naturae, 1735, Facsimile of the First Edition: With an Introduction and a First English Translation of the "Observationes" (Hes & De Graaf, 't Goy-Houten, 2003). |
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新綱シンクロマ藻綱と不思議な色素体(2007.07.23)(→藻類学) |
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刺胞動物から湧き出た蠕虫類(2007.07.21) ミクソゾア類は魚類や環形動物,外肛動物などに寄生する原虫類で,胞子の時には多細胞となることが特徴です。 ミクソゾア類の系統的位置は分子系統からも未解決のままで,刺胞動物に由来するとの説や左右相称動物に近いとする説などがありました。 Jiménez-Guri et al. (2007) は多遺伝子分子系統解析から Buddenbrockia (軟殻目)と呼ばれる蠕虫様のミクソゾア類が, 刺胞動物に含まれることが明らかとなりました。これは蠕虫様の体制が放射相称の体制から進化することを示した点でも注目されます。 ミクソゾア類は原虫(原生生物)に分類されながらも後生動物との関連は分子系統より昔から指摘されていました。 これはミクソゾア類の胞子の極嚢と呼ばれる構造(胞子の頂部にあり,宿主への付着に関わる)が刺胞動物の刺胞とよく似ているためでした。 後に 18S rDNA の系統解析からも刺胞動物との類縁性が支持されましたが,一方で左右相称動物型の Hox 遺伝子の存在が指摘され, 蠕虫様の Buddenbrockia(外肛動物の寄生虫)がミクソゾア類であることが示されると, ミクソゾア類が放射相称動物と左右相称動物を繋ぐ位置の動物と見なす向きも出てきました。 著者らはまず,ミクソゾアのサンプルから過去に報告されていた Hox 遺伝子群が得られなかったことを報告し, 宿主の Hox 遺伝子の汚染であった可能性を指摘しています。次に Buddenbrockia を単離し, 宿主の DNA の汚染がないことを確認した後で 50 もの遺伝子を解析しました。 約 130 遺伝子 30,000 アミノ酸ものアラインメントを用いた系統解析からは,Buddenbrockia が刺胞動物に含まれ, 特に水母亜門と近縁であることが強く支持されました。ミクソゾア類全体についても刺胞動物に含まれるとして良さそうです。 蠕虫様の動物が刺胞動物の中から進化してきたことは,驚きでもあるそうです。Buddenbrockia には縦走筋が存在し, これで運動しています。縦走筋は左右相称動物の場合とは異なり,4 本が放射状に並んでいます。 蠕虫様の運動(体を左右にうねらせる動き)は左右相称性の獲得と関連していると従来考えられていましたが, Buddenbrockia が放射相称動物とされる刺胞動物のメンバーであり,実際の放射相称の体制を持つことは, この考え方に再考を促すものとなるわけです。 Jiménez-Guri, E., Philippe, H., Okamura, B. & Holland, P. W. H. Buddenbrockia is a cnidarian worm. Science 317, 116-118 (2007). |
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哺乳類は爆発的に進化した可能性も(2007.07.19)(→古生物学) |
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菌の王国の組織図一新(2007.07.17) ここ数年,真菌類の全体の系統を明らかにしようとする複数のプロジェクトが進行しており, 既に真菌類の大規模系統解析で紹介したように分子系統の成果が報告されています。 そして分類体系は系統関係を反映することが望まれるため,Hibbett et al. (2007) はこれまでの様々な分子系統解析の結果を総合して, 菌界(Fungi)の目の階級以上の分類体系を全面的に見直しています。 菌類の大系統などを探索するプロジェクトとして,AFTOL(Assembling Fungal Tree of Life)や Deep Hypha などのプロジェクトがあります。 その成果は真菌類の大規模系統解析で紹介した論文や,Mycologia の 2006年11/12月号(特集号)に発表されていて, これまでの分子系統解析を大きく上回る規模や精度で真菌類の大系統を論じることが出来るようになってきました。 その結果,ツボカビ類や接合菌類といったこれまで門として扱われていた分類群が多系統であることが示され, 高次分類群の再定義や再編成の必要性が示唆されていました。しかし実際には分類の見直しは一部にとどまっていて, 大幅な見直しは先送りされていました。そして漸く今回,目以上の分類階級の包括的な再編が出版されました。 新しい分類体系の特徴としては,門以上のレベルの分類において接合菌門が姿を消したことが挙げられます。 これまで接合菌類に含められていた複数のグループが所属不明の 4 つの亜門(とグロムス菌門)に分類されました。 またツボカビ門も 3 つの門へと解体され,少数の属(Rozella,Basidiobolus など)は目レベルの所属が留保されています。 その結果,菌界は 7 つの門と所属不明の 4 つの門へと再編成されました。また,子嚢菌門と担子菌門は単系統群を形成し, いずれも菌糸の細胞が 2 核を持つ時期があることから,ディカリア亜界にまとめられたことも特徴的です。
この他,門より下位の階級についても大幅に見直しが行われており,併せて 1 亜界 2 門 2 綱 3 亜綱 8 目が正式に記載されています (ただし幾つかの分類群については既に Doweld, 2001 によって記載されていたことが論文の受理後に明らかになったそうで, 著者の引用に際しては注意が必要です)。 現時点では所属不明のままとなっている分類群も多く,分子系統解析の進展を待つ形になっていますが, 接合菌類を解体したことなどは今後の分類体系の方向性を決めることになりそうです。 既に GenBank のような広く利用されているデータベースも新しい体系に移行しているようです。 本サイトの分類表も Hibbett et al (2007) の体系を踏まえて改訂しました(2007年07月16日)ので,参照してください (微胞子虫門の分類とヌクレアリア目を菌類に所属させることについては Hibbett et al., 2007 とは異なる)。 Hibbett, D. S. et al. A higher-level phylogenetic classification of the Fungi. Mycol. Res. 111, 509-547 (2007). | ||||||||||||||||||||||||||||||
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鞭毛に生える毛の正体は II(2007.07.12)(→藻類学) |
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アグロの学名 II(2007.07.09) "Agrobacterim tumefaciens" は植物の病原菌で, 感染すると植物に遺伝子を導入して癌腫(がんしゅ)と呼ばれるこぶを形成させます。この仕組みは植物への遺伝子導入に応用されています。 しかしこの生物の分類と学名については問題が指摘されています(アグロの学名,補足)。 澤田 (2007) は学名の変遷と幾つかの学名の体系についてまとめています。 アグロバクテリウムと呼ばれた最近は,かつては感染性に基づいて分類されていました。根頭癌腫病は植物体の様々な部位に癌腫が形成される病気で, Ti プラスミドと呼ばれるプラスミドを持った菌株によって引き起こされます。これとは別に毛根病という病気もあり,植物の茎の地際付近にこぶが形成され, そこから通常根毛を持たない不定根が大量に形成されるそうです。毛根病は Ri プラスミドを持った菌株が引き起こします。 感染性に基づく分類では,根頭癌腫病菌の多くを A. tumefaciens,毛根病菌を A. rhizogenes,感染性のないものを A. radiobacter, そして根頭癌腫病菌の一部で宿主がキイチゴ属(Rubus)に限られるものを A. rubi と分類してきたそうです。
しかしながらアグロバクテリウム類を生理・生化学的に調べると,A. rubi 以外の種には病原性とは独立に 3 タイプが認められ, それぞれ biovar 1,biovar 2,biovar 3 と呼ばれました(biovar = 生理型)。後にこれらの biovar は病原性よりもむしろ系統を反映していることが分かり, 脱落したり獲得されることのあるプラスミドに依存する病原型よりも自然な種を表していると考えられ,biovar に基づいた種分類が提唱されました。 この体系が現在普及している Bergey's Manual という原核生物の分類の教科書にも採用されています(Brenner et al., 2005)。 この体系に従う場合,病原性は括弧にくくってプラスミド型で示すことになっています。例えば,A. tumefaciens (Ti) や A. tumefaciens (non pathogenic)(=非感染性)のように表記されます。
さらに分子系統解析からは Agrobacterium 属と窒素固定を行う根粒菌を含む Rhizobium 属が互いに混じり合って, 単系統群を形成することが示されています。また両属を区別する特徴(病原性や共生窒素固定)がプラスミドに依存していることを踏まえると, この 2 属を客観的かつ明瞭に区別することはできないという認識が生じました。これを反映した分類として,Agrobacterium 属を全て Rhizobium 属に移す提案がなされており,これに伴って命名規約との関係で A. tumefaciens を Rhizobium radiobacter とすることが提案されました (アグロの学名,補足)。(なお,生理・生化学名分類において Agrobacterium 属に残す場合にも A. tumefaciens を A. radiobacter に変更する提案がなされています)
澤田 (2007) ではこれらの 3 つの分類体系は使用する研究者によって選択できるもので,いずれも有効なものであるとしています。 著者自身は生理型に基づく種分類を行った研究の著者でもあるため,病原性に基づく分類には否定的な立場と思われますが, この分類体系が便利である場面も認めているようです。私は他の原核生物の分類が系統を反映した分類が主流になっている以上, 病原性に基づいた人為分類はもはや時代遅れであり,正当性が維持できないと考えています。従って,3 番目の体系が定着することが望ましいと思っていますが, 今後どの体系が受け入れられていくのかはわかりません。なお,3 番目の体系を使用する場合でも,agrobacterium(agrobacteria)の名称を学名としてではなく, 通称として用いることは許容されるはずですので,「agrobacterium (Rhizobium radiobacter (Ti))」などと表記するのが良いのではないでしょうか? (アグロの学名) ちなみに Bergey's Manual の該当する論文(Young et al., 2005)は,Agrobacterium を Rhizobium にまとめる論文 (Young et al., 2001)よりも後にほぼ同一の著者らによって出ていますが,これは著者らが見解を戻したわけではなく, 出版の都合(前者の原稿は後者の原稿以前に提出されたとのこと; Young et al., 2003)のようです。 なお,澤田 (2007) は連載の 2 回目で,第 1 回目にあたる澤田 (2006) では agrobacterium の生物学全般について解説されています。 澤田宏之 いわゆる「アグロバクテリウム」について: (2) 分類の現状. Microbiol. Cult. Coll. 23, 29-34 (2007). 参考: 澤田宏之 いわゆる「アグロバクテリウム」について: (1) プロフィールの紹介. Microbiol. Cult. Coll. 22, 117-121 (2006). Young, J. M. et al. A revision of Rhizobium Frank 1889, with an emended description of the genus, and the inclusion of all species of Agrobacterium Conn 1942 and Allorhizobium undicola de Lajudie et al. 1998 as new combinations: Rhizobium radiobacter, R. rhizogenes, R. rubi, R. undicola and R. vitis. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 51, 89-103 (2001). Young, J. M. et al. Classification and nomenclature of Agrobacterium and Rhizobium - a reply to Farrand et al. (2003). Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 53, 1689-1695 (2003). Young, J. M., Kerr, A. & Sawada, H. in Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn., Vol. 2. The Proteobacteria Part C The Alpha-, Beta-, Delta-, and Epsilonproteobacteria (eds. Brenner, D. J., Krieg, N. R. & Staley, J. T.) 340-345 (Springer, New York, 2005). |
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中心小体を中心に配置を決める(2007.07.04)(→分子細胞学) |
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ゴキブリからシロアリへの道(2007.06.28) シロアリは進化したゴキブリでは,これまでシロアリ目とされてきたシロアリの仲間が ゴキブリ目に含まれるとの研究を紹介しましたが, シロアリ類に見られる真社会性の進化過程については決着がついたわけではありません。Pellens et al. (2007) はシロアリの真社会性に見られる形質の幾つかを備えた「原シロアリ類(prototermite)」がゴキブリ目の中で複数回進化していることを示し, これを元に真社会性の進化に不安定な居住環境が重要だった可能性を指摘しています。 真社会性の起源については,"shift-in-dependent-care" 仮説(「扶養家族の変化」仮説;子の面倒を親が見る状態から, 先に生まれた子が見る状態へ変化したことを指す)と呼ばれる仮説が考えられています。 この仮説では,腸内原生生物を親子で受け継ぐために親子が長期間共存する必要が生じ, やがて最初の子が親の代わりに次に生まれた子の面倒を見るようになり,これがカーストの起源になったと考えます。 実際のシロアリの姉妹群は Cryptocercus と呼ばれるゴキブリで,食材性,腸内原生生物,亜社会性の性質を備えていることから 真社会性の起源を探る「原シロアリ類」としてモデルにされてきました。ところが本種では確かに親子が長期間共同で生活しますが, 最初に産まれた子は第 2 子の誕生を阻害して第 2 子の面倒を見ることはないそうで,「扶養家族の変化」仮説と矛盾しています。 そこで著者らは新たな「原シロアリ類」のモデルとなるゴキブリ類を探索し, 近年ブラジルの大西洋側の森林から「原シロアリ」的特徴を持った Parasphaeria boleiriana という新種を報告しています。 今回の論文では,P. boleiriana のゴキブリ目における系統的位置を調べることで真社会性の進化に迫ろうとしています。 系統解析の結果,P. boleiriana は Cryptocercus ともシロアリ類とも直接の類縁性がないことが示されています。 また Cryptocercus とシロアリ類の近縁性も確認されています。つまり P. boleiriana に見られる食材性, 親が子の世話をする亜社会性,腸内原生生物の存在などは Cryptocercus とは独立に収斂進化したことが明らかになりました。 さらに食材性と亜社会性を備えたオオゴキブリ亜科(Panesthiinae)と Cryptocercus,シロアリ類,P. boleiriana が系統的に離れていることも示されています。 ここで著者らは Cryptocercus と P. boleiriana を比較することによって「扶養家族の変化」 仮説の問題点を検討できると考えました。 両者の大きな違いとして挙げられたのは,P. boleiriana の住む枯れ木の幹は 2,3 年で完全に分解されるのに対して, Cryptocercus(温帯性)の生活場所は分解に数十年を要することを発見しました。おそらくそのために P. boleiriana は 2-3 年の短期間で発生して生殖し,Cryptocercus は 5 年以上かけて成長するという差が生じたと見られています。 また P. boleiriana では親が 1 シーズンで死んでしまい,子の面倒は平均 12 日程度しか見られないのに対して, Cryptocercus では数年間生存してこの面倒を見るそうです。 このことから原生生物の子への分譲には短期間の共同生活で十分であることがわかりました。 さらに P. boleiriana は短期間に子孫が倒木から分散するため,様々な年齢の子孫が自由に交流できるのに対して, Cryptocercus では樹木の中で,親子が各 1 匹ずつの小さな独立したコロニーが長期間維持されます。 真社会性における利他的な行動が進化するためには,異なる年代の子孫が共存することが必要だと考えられていますが, P. boleiriana のようにコロニーの分散が早い(しかし同じ倒木に住むコロニーは親戚だと考えられる) 場合にこのような条件が満たされるようです。著者らは「扶養家族の変化」仮説を修正して, 短期間で消滅する居住環境に住む種で,近縁なコロニーが多数形成される環境からこそ真社会性が起源したと議論しています。 P. boleiriana は亜社会性の新しい系統として確かに重要な研究対象であろうかと思います。 そして Cryptocercus がシロアリの姉妹群でありながら真社会性を進化させなかった理由もうまく説明されており, 著者らの議論は真社会性の起源について一石を投じるものとなるでしょう。 ただし P. boleiriana は単に亜社会性のモデルの 1 つでしかなく,もっと別の仮説もこれから出てくるかもしれません。 Pellens, R. et al. The evolutionary transition from subsocial to eusocial behaviour in Dictyoptera: Phylogenetic evidence for modification of the "shift-in-dependent-care" hypothesis with a new subsocial cockroach. Mol. Phylogenet. Evol. 43, 616-626 (2007). |
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続報:色素体のミッシングリンクの痕跡(2007.06.26)(→藻類学) |
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根毛はコケの配偶体からの使い回し(2007.06.21)(→植物学) |
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両生類の寄生虫(2007.06.13) 長らく正体が不明だった脊椎動物寄生虫の一群にオパリナ類(opalinids)があります。 一部の研究者は広義オパリナ目(Slopalinida)を単核で四鞭毛性のプロテロモナス科(Proteromonadidae) と多核で多数の繊毛に覆われたオパリナ科(Opalinidae)に分類していますが, 前者は後者に対して側系統となる可能性が指摘されていました。Kostka et al. (2007) はプロテロモナス科の Karotomorpha の分子系統解析を初めて行い,この仮説を裏付けました。 オパリナ類の代表である Opalina は巨大な繊毛虫のような独特の体制をしており,系統的位置が長らく不明でしたが, 最近では分子系統や鞭毛の構造からストラメノパイル類(不等毛類)の特殊化した生物であると考えられています (Cavalier-Smith & Chao, 2006)。 オパリナ類でより特殊化が進んでいないのがプロテロモナス科の仲間で,Proteromonas と Karotomorpha という 2 種類の鞭毛虫を含んでいます。Karotomorpha については, 細胞表面が微小管のリボンによって折りたたまれている様子がオパリナ科と共通しているそうで, Proteromonas よりもオパリナ科に近いとも言われていました。 Karotomorpha はカエルなど両生類の腸内寄生虫で培養はできなかったそうです。従って直接単離した個体から SSU rDNA 配列が解読され,系統解析に用いられました。2 種類のカエルから分離された Karotomorpha は単系統群をつくり, 予想通りオパリナ科と近縁だったそうです。さらに Blastocystis と呼ばれる動物の腸内寄生虫(鞭毛は持たない) が広義オパリナ目の姉妹群となりました。 この結果から,広義オパリナ目をプロテロモナス科とオパリナ科に分類するのは系統を反映していないことになります。 最近の Cavalier-Smith & Chao (2006) の分類ではオパリナ上綱(Opalinata)の中にプロテロモナス綱プロテロモナス目 (Proteromonadea, Proteromonadalaes),オパリナ綱オパリナ目(Opalinea, Opalinales), ブラストキスティス綱ブラストキスティス目(Blastocystea, Blastocystales)の 3 群を認めており, オパリナ目をカロトモルファ科(Karotomorphaceae)とオパリナ科(Opalinaceae)に分類しています。 こちらの分類の方が系統を反映していると言えるでしょう。 技術が発達して低コストで塩基配列の決定ができるようになって,知名度の低い分類群や培養のできない生物の系統解析も着々と進んでいます。 その結果,細かいレベルでも進化や系統関係について議論できるようになっているのが楽しみです。 Kostka, M., Cepicka, I., Hampl, V. & Flegr, J. Phylogenetic position of Karotomorpha and paraphyly of Proteromonadidae Mol. Phylogenet. Evol. 43, 1167-1170 (2007). Cavalier-Smith, T. & Chao, E. E.-Y. Phylogeny and megasystematics of phagotrophic heterokonts (kingdom Chromista). J. Mol. Evol. 62, 388-420 (2006). |
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ヒトらしく歩く枝の上(2007.06.11)(→人類学) |
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渦鞭毛藻の姿をとどめた寄生虫(2007.06.08)(→藻類学) |
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アピコプラストが背負った責任(2007.06.04)(→分子細胞学) |
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クリプト藻とハプト藻は生き別れの姉妹か(2007.06.01)(→藻類学) |
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シロアリは進化したゴキブリ(2007.05.28) 昆虫の中で,網翅類と呼ばれるグループがあります。このグループは頭部の内骨格の形態などでまとまり, カマキリ目,ゴキブリ目,シロアリ目などが含められてきました。このうちシロアリ目はゴキブリ目から派生した可能性が指摘されていて, 分子系統からは見解が分かれていました。Inward et al. (2007) は近縁な各目の種数を充実させた 5 遺伝子の系統解析を行い, シロアリ目がゴキブリ目から派生したことを明らかにしました。 シロアリ目は真社会性の昆虫で,形態的にも特殊化が進んでいます。そのためカマキリ目やゴキブリ目とは外見が大きく異なっています。 しかしゴキブリ目に含まれる Cryptocercus は北米産(中国,韓国にも分布)の食材性の属で, シロアリとよく似た腸内原生生物を持っている上に触角の形態や若虫の形態などがシロアリ類のものと類似していました。 このことから両者が近縁で,従ってシロアリ類はゴキブリ目の内部から派生した可能性が指摘されていました。 しかしこれまでの系統解析では解析に用いられた種が不十分で,シロアリ目がゴキブリ目に含まれるのかどうか結論が出ていませんでした。 著者らの解析では,シロアリ目が Cryptocercus の姉妹群であることが強い支持率で示されました。この外側にゴキブリ科, さらに外側にオオゴキブリ亜目,さらに外側にムカシゴキブリ亜目が位置し,シロアリ類がゴキブリ目の末端に位置することが明らかにされました。 この結果は統計検定によっても補強され,過去の系統解析の結果とも大筋で矛盾はしていないそうです。 ----------------------------ムカシゴキブリ亜目| | --------------ゴキブリ科(ゴキブリ亜目) ------| | | -------| -------Cryptocercus(ゴキブリ亜目Cryptocercidae科) | | -------| -------| -------シロアリ科(ゴキブリ亜目) | ---------------------オオゴキブリ亜目 これまでの分類ではゴキブリ類とシロアリ類の系統関係に決着がついていなかったこともあって,両者を別々の目として扱ってきましたが, 著者らは今回,シロアリ類をゴキブリ目ゴキブリ亜目内のシロアリ科に格下げし,これまでの科を亜科に,亜科を族(tribe)として分類することを提案しました。 シロアリ目をなくす,という意味で,論文のタイトルも "Death of an order" となっています。 今回の系統樹から導かれる形態進化の過程としては,Cryptocerus とシロアリ科の祖先で食材性が進化したと考えられました。 食材性に伴って,セルロースを分解する原生生物(エクスカヴァータ類メタモナーダ門のオキシモナス類や副基体類) を排出物をなめ合うことで受け継ぐようになったと見られています。この習性が一夫一婦制を経て集団生活に繋がり, シロアリ科にいたって真社会性に発展したと思われます。シロアリ科では一夫一婦制に伴って精子間競争が減ったことから, 雄の交尾器や精子の構造の単純化が起こっていたり,ゴキブリ類に特徴的な卵鞘が巣内では不要なため失われている,といった進化が見られます。 真社会性への進化は行動生物学的にも興味深い話題であり,シロアリ類の正確な系統的位置を確定する意義は大きいと思われます。 シロアリ類がゴキブリ目に含まれる可能性についてはこれまでにも指摘されていた仮説であり,特に真新しいものではありませんが, しっかりとした,すなわち遺伝子数と種数が充実した系統解析によって強く示されたことは注目する価値があるでしょう。 Inward, D., Beccaloni, G. & Eggleton, P. Death of an order: A comprehensive molecular phylogenetic study confirms that termites are eusocial cockroaches. Biol. Lett. 3, 331-335 (2007). 参考: 平嶋義宏, 森本桂 および 多田内修 昆虫分類学 (川島書店, 東京, 1989). 石川良輔 昆虫の誕生: 一千万種への進化と分化 (中央公論社, 東京, 1996). |
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ヤリミドリの種は単系統か?(2007.05.22)(→藻類学) |
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細菌の鞭毛の起源と進化(2007.05.21)(→分子細胞学) |
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謎の藻類メソスティグマの安住の地 IV(2007.05.17)(→藻類学) |
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一見別物,よく見りゃそっくり(2007.05.14)(→藻類学) |
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続報:異彩を放つピコ藻類のゲノム(2007.05.12)(→藻類学) |
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今風の哺乳類の起源は恐竜の絶滅の後の後(2007.04.30) 新生代は哺乳類の時代とも呼ばれます。一方爬虫類の時代と呼ばれるのが中生代で,恐竜類が発展したのもこの時代です。 これまで哺乳類は中生代白亜紀末(K/T 境界:6,550 万年前)の恐竜の絶滅に伴って適応放散したと考えられてきましたが, 現生の哺乳類のほぼ全種を用いた系統解析・年代推定からは現代型の哺乳類の多様化が恐竜の絶滅とは関係が薄いことが示唆されています (Bininda-Emonds et al., 2007)。 分岐年代の推定においては優れた系統樹と信頼できる化石を用いた年代較正が必要であると考えられます (年代推定には化石が大切)。哺乳類については化石記録が比較的充実していることから, 適切な分子と OTU(操作的分類単位;この場合は系統解析に含める生物種)による系統解析が求められていました。 著者らは既知の哺乳類 4,554 種中 4,510 種(99% !)を系統解析に含んだ,2,500 もの系統解析を統合した超系統樹(supertree)を構築することで, おそらく最も説得力のある系統樹作成と分岐年代推定を行いました(66 遺伝子,51,000 塩基のデータ)。 化石の較正点も 30 用いているそうです。 得られた系統樹ではおおよそ定説通りの哺乳類の系統関係が示されており(カモノハシこそ哺乳類の根本, レトロポゾンが書き込んだ哺乳類の歴史),目レベルの系統群の分岐などについてはこれまで推定されてきたよりも (Springer et al., 2003 など)古いことが推定されました。 さて多様化の指標の変動を調べてみると,約 9,310 万年前に最初の放散が起こり,その後は一度種分化が起こりにくくなっていたことがわかります。 そして K/T 境界あたりから再び中新世の後半に向かって種分化が増加しているようです。 一方で KT 境界の直後では特に目立った適応放散は見られませんでした。 最初の適応放散は丁度セノマニアン/チューロニアン境界付近で起こっていて,これは海洋の酸素濃度低下などのイベントと関連している可能性があります。 それに対して恐竜が絶滅した K/T 境界付近で目立った適応放散が見られなかったのはどういうことなのでしょうか。 化石記録では K/T 境界直後に哺乳類の適応放散が知られていました。ところがこの時に多様化していたのは現在生き残っていない系統, 例えば多丘歯類(multituberculates)やプレシアダピス類(plesiadapiforms)などだったため,現生の生物で描いた系統樹には反映されなかったようです。 K/T 境界直後の暁新世には現生の哺乳類のグループはあまり見つからないことも,この時期に「現代型の」哺乳類が適応放散しそびれたことを示唆しています。 今回の大規模な系統解析はデータ量・密度や系統解析の方法に改善の余地はありますが,現時点では最善の推定であると言われています (Penny & Phillips, 2007)。この結果から哺乳類の進化における 3 つのイベントが明らかにされたことになります。 1 つ目は恐竜が反映していた時代に既に哺乳類の目が出現する放散が起こっていたこと,2 つ目は恐竜の絶滅に伴って一部の哺乳類が適応放散したものの, 「現代型の」哺乳類は前者に押されてか放散しそびれたこと,そして 3 つ目は暁新世に放散した哺乳類の絶滅に伴って 「現代型の」哺乳類が台頭するように適応放散してきたこと,です。 結論を整理してみるともっともらしく聞こえる話ですが,これは分子系統解析と化石の研究が合わさって初めて分かったことです。 進化の研究において両者をつきあわせることのできる分類群は大型のものに限られますが,哺乳類の場合には理想的な比較ができたと言えるでしょう。 いずれか単独の証拠に基づいていたならば分からなかった進化の有り様が見えてきたことは興味深く喜ばしいことでもある一方, 分子系統解析の困難な恐竜の場合や,化石記録の残らない微生物の場合では,どこまで真実に迫れるのか不安にもなりますね。 なお,系統樹に基づいて正確な年代推定を行うのはやはり難しく,分岐年代の推定がある程度前後している可能性は否定できません。 そして前後の仕方によっては今回の議論は大きく揺らぐことに注意しておく必要はあるでしょう。 Bininda-Emonds, O. R. P. et al. The delayed rise of present-day mammals. Nature 446, 507-512 (2007). Springer, M. S., Murphy, W. J., Eizirik, E. & O'Brien, S. J. Placental mammal diversification and the Cretaceous-Tertiary boundary. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 1056-1061 (2003). News & Views 過去の関連記事: |
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続報 2:調べてみれば謎の原生動物(2007.04.24) 最近になって Telonema という原生動物が真核生物の系統樹上で独特の位置を占めることが示され, テロネマ門の記載が行われました(調べてみれば謎の原生動物,続報)。 しかし Telonema についてはまだ研究が進んでおらず,Shalchian-Tabrizi et al. (2007) は環境 DNA の解析からテロネマ門に属する生物の分布や多様性を探っています。 Telonema subtilis の報告は世界各地に渡っていて,生態的にも一定の重要性があることが推測されます。 しかし報告によって形態が幾分異なっているそうで,本当に同一種なのか疑問が持たれていました。 そこで著者らはテロネマ門の分布や多様性について分子系統に基づいた見直しを行いました。 テロネマ門と考えられる配列は,様々な海洋に由来するサンプルから得られています。これまで環境 DNA から 4 配列, 培養株から 3 配列の rDNA が知られていましたが,29 個もの配列が新たに追加されました。 これは NCBI に登録されている配列であったり,インド洋の環境配列から新たに得た配列でした。 そこで著者らは系統解析を試みますが,残念ながら配列数を増やしても系統的位置は解けませんでした。 しかし推定されたテロネマ門の配列は単系統群を作っています。 著者らはテロネマ門の配列が 2 つの単系統群(Group 1 と 2)からなっていると考えています。その根拠としては, 過去に近縁性が指摘されたハプト藻を外群として解析した場合に 2 群がそれぞれ単系統となること, そして Group 1 と 2 で多型のあるサイトに共通のものがないことが挙げられています。 Group 1 には比較的少数の配列が含まれ,英仏海峡で分離された Telonema subtilis がこのグループに含まれます。 この他英仏海峡やデンマーク沿岸に由来する配列も含まれます。Group 2 は 1 とは異なり世界中から配列が得られていて, Telonema antarcticum はこちらに含まれます。 得られた異なる配列が分類学的にどのようなものなのかは系統樹からはわかりませんが, おそらくは多くが異なる種に対応しているものと見られています。従って,テロネマ門全体では汎世界的な分布を見せますが, 個々の種は地域ごとに限られた分布をしている可能性もあると指摘されました。 今回の配列からテロネマ門の生物の実態について具体的な何かが明らかにされたわけではありません。 テロネマ門の DNA 配列が世界中から見つかることは形態観察に基づく報告を裏付けています。 そしてテロネマ門にそこそこの多様性が報告されたことで,分類学的な研究も刺激されると期待されます。 テロネマ門の種が地域分化を起こしているとの仮説については,各海域のテロネマ門の多様性が分かっていないことから, まだ確かな仮説とは言えないでしょう。むしろ複数種のテロネマ類が各海域に存在していて, たまたまサンプリングされた種が海域ごとに異なっていた可能性もあるかと思います。 実際に英仏海峡からだけでも 8 種程度のテロネマ門の配列が得られています。 ともあれ培養株に基づく形態・系統学的研究が急務であることは確かでしょう。 Shalchian-Tabrizi, K., Kauserud, H., Massana, R., Klaveness, D. & Jakobsen, K. S. Analysis of environmental 18S ribosomal RNA sequences reveals unknown diversity of the cosmopolitan phylum Telonemia. Protist 158, 173-180 (2007). |
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アファール猿人はヒトの傍系!?(2007.04.20)(→人類学) |
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続報 2:最古の動物か細菌か,それが問題だ(2007.04.18)(→古生物学) |
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続報:最古の動物か細菌か,それが問題だ(2007.04.16)(→古生物学) |
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ホストの古細菌を記載(2007.04.13) 唯一の寄生性古細菌として "Nanoarchaeum equitans" が知られていますが,本種の宿主は "Ignicoccus sp." と呼ばれてきました。本種は 5 年近く未同定のままでしたが, Paper et al. (2007) によって遂に Ignicoccus hospitalis として正式記載されました。 "Nanoarchaeum" の発見当時は,最小にして唯一の寄生性古細菌ということで,寄生体の方にのみ注目が集まっていました。 しかしゲノム解析などが進み,"Nanoarchaeum" が様々な点で宿主である Ignicoccus に依存していることが示されると, 宿主の方の研究も重要であることが明らかとなってきました。おそらくはそのような背景の元で Ignicoccus sp. の研究が進められ, 漸く新種記載という形で研究の舞台に上がったきたのではないかと思われます。 本種は "Nanoarchaeum" と共に培養され,後に "Nanoarchaeum" を排除した形で純粋培養されました。 形態的には不定形の球菌で,直径 1-4(-6) μm,Ignicoccus 属の別種(I. islandicus)と同様に最大 9 本の鞭毛も持っているそうです。さらに古細菌の中では例外的に細胞膜の外側に外膜を有する点で他の Ignicoccus と共通しています。ちなみに,細胞膜の外側に外膜を有するのは真正細菌の内,グラム陰性細菌(ネジバクテリア亜界) にのみ広く見られる形質なので,Ignicoccus が外膜を持っていることは一つの謎です。 I. hospitalis は生理的には偏性嫌気性の化学合成菌で,硫黄還元によってエネルギーを得ていました。 他の硫黄化合物や有機物は利用できないようです。 著者らが関心を持っているのは細胞の外膜の成分です。他の 2 種の Ignicoccus 属(I. islandicus と I. pacificus)と併せてタンパク質成分を比較すると,3 種とも電気泳動のパターンが異なっていたそうです。 "Nanoarchaeum" は他の Ignicoccus 属の種も含めて,I. hospitalis 以外の超好熱性古細菌には寄生することができません。細胞の外膜は "Nanoarchaeum" の付着にも関わっているようで, その成分の違いから,"Nanoarchaeum" の宿主特異性が解明できるかもしれません。 もっとも,ゲノム情報からは "Nanoarchaeum" は脂質の合成系すら I. hospitalis に頼っていると見られており, 脂質の特異性なども重要な要素なのかもしれませんが。 一応,本種が独立種とされた根拠についても整理してみますと,一つには系統解析の結果 I. islandicus と I. pacificus よりも古くに分かれた系統と示されたことがあるでしょう。そしてゲノムの GC が高いこと, 外膜の成分などが形質の違いと言うことになります。I. islandicus と I. pacificus の違いとされている生育温度の範囲や pH の範囲については,I. hospitalis は 2 種の中間的な値を取っています。 原核生物と真核生物では種の境界線の概念はまるで違っていますが, 宿主の特異性とそれに関わる細胞外膜の組成に基づいて新種が記載されるのは面白いですね。 ただ "Nanoarchaeum" の発見に I. hospitalis の記載が 5 年近くも遅れたのは残念ですが。 Paper, W. et al. Ignicoccus hospitalis sp. nov., the host of ‘Nanoarchaeum equitans’. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 57, 803-808 (2007). 参考: |
| 「でっかくなっちゃった!」のはラフレシア科の祖先(2007.04.11)(→植物学) |
| 探せば見つかる「珍しい」藻類(2007.04.06)(→藻類学) |
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知られざる光合成細菌(2007.04.04) 海洋から抽出された DNA の配列から,NOR5/OM60 と呼ばれるガンマプロテオバクテリア綱の微生物の系統が知られていました。 後に幾つかの種が培養されるようになりましたが,最初に培養された種,"Congregibacter litoralis" KT71 株についてゲノム解析が進み, この生物が光合成細菌であることが明らかとなりました(Fuchs et al., 2007)。 NOR5/OM60 系統群の 16S rRNA の配列は 1997 年には既に知られていましたが,実際に生き物が培養されたのは 1999 年に分離された KT71 が初めてでした。この株は運動性の桿菌で,嫌気的には増殖できないことが知られています。NOR5/OM60 系統群の配列は様々な海洋から報告されており, 増殖に季節性はあるものの,多いところではプランクトン性バクテリアの 10% 以上を占めていたそうです。 海洋生態系を理解するためにはこのような微生物の研究が不可欠であることから,彼らは KT71 株のゲノムの解析を進めました。 ゲノムから明らかとなった最も興味深い事実は,KT71 が光合成スーパーオペロンの全長を持っていたことでしょう。オペロン中の遺伝子の配置は独特でしたが, カリフォルニアの沿岸域のバクテリアプランクトンから得られた遺伝子断片とは一致したそうです。KT71 株は無色に見えるにもかかわらず, このオペロン中には光合成色素の合成遺伝子も含まれていました。そこで細胞抽出液の HPLC 分析が行われたところ,バクテリオクロロフィル a (Bchla)やカロテノイド様の物質である spirilloxanthin と思われる吸光が検出されました。Bchla は明条件貧栄養で培養したときに検出され, 暗条件,あるいは富栄養で培養したときには Bchla は検出されなかったそうです。 実験からは KT71 は独立栄養的には生育できないようで,ゲノムの情報からも炭酸固定ができないことが予想されています。 では光合成で得たエネルギーの使い道は何かというと,おそらくは膜を介したプロトン勾配の形成し,ATP 合成に,あるいは Na+ の勾配を通じて鞭毛モーターの駆動に役立っているのではないかと推測されています。 この他,KT71 株が微好気性であることや代謝系についても色々と調べられており,これまで全く正体が分からなかった NOR5/OM60 系統群の実態に迫っています。もちろん,KT71 のみで NOR5/OM60 系統群を代表させるのは危険ですが, 有色の分離株なども得られているそうで,微好気性光合成が NOR5/OM60 系統群に広く分布する性質である可能性は十分にあります。 今回の研究結果を元にこのクレードの研究も進み,新しい分離株も追加されていくでしょうから,この新規の光合成細菌が生態系の中で果たしている役割も, 遠からず明らかにされることでしょう。 なお,"Congregibacter litoralis" という学名を記載する準備は現在進行中とのことです。 Fuchs, B. M. et al. Characterization of a marine gammaproteobacterium capable of aerobic anoxygenic photosynthesis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 2891-2896 (2007). |
| 続報:ヒゲマワリの男の紋章(2007.03.30)(→藻類学) |
| 謎の藻類メソスティグマの安住の地 III(2007.03.24)(→藻類学) |
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ヒダテラに脚光を(2007.03.22) 原始的な被子植物の形質は未だに謎に包まれています。被子植物の祖先形質を明らかにするためには, 被子植物の中で最初の頃に枝分かれした植物を特定することが重要な意味を持ってきます。 アンボレラ目やスイレン目が原始的な被子植物として挙げられていますが, 新たにヒダテラ科(Hydatellaceae)の水生植物がスイレン目の姉妹群であることが明らかにされました(Saarela et al., 2007)。 ヒダテラ科には Hydatella 属と Trithuria 属の 2 属が含まれていますが,いずれも小型の水生植物です。 かつてはヒダテラ科は単子葉植物に分類されると考えられており,Trithuria の rbcL 遺伝子の系統解析からも裏付けられていました。 ところが著者らの研究からは異なる結果が得られ,かつての系統解析が草本とコケの配列を誤ってつなげたデータに基づいていたことが分かりました。 いくつかの葉緑体遺伝子,非コード領域,核遺伝子を用いた系統解析から,Trithuria 属あるいは Hydatella 属は常にスイレン目の姉妹群となることが示されました。被子植物の最初の分岐は Amborella となりましたが, スイレン目とヒダテラ科が合わせて最初の分岐となる可能性や,Amborella とスイレン目とヒダテラ科が単系統となる可能性も否定はできないようです。 --------------Amborella| | -------ヒダテラ科 ------|------| | -------スイレン目 | --------------その他の被子植物 単子葉植物とされていた植物を原始的な被子植物に移すことについては,形態的には問題ないのでしょうか? 形態に基づく系統解析からも一応ヒダテラ科がスイレン目の姉妹群となり,単子葉植物とは類縁関係がないことが支持されています。 ヒダテラ科とスイレン目の共有派生形質としては,維管束形成層の欠如,不規則型気孔,ボート型花粉,周乳,地下発芽など 10 個が挙げられています (ただし他の系統群にこれらの形質が全く見られないわけではない)。一方で単子葉植物の共有派生形質 11 個のうち, 3 個のみしかヒダテラ科には存在しないそうです(形成層の欠如,ボート型花粉などは単子葉植物と共通)。 このほか,完全に嚢状の心皮を持つことや胚嚢に 4 つの核が存在することなどは,ヒダテラ科が原始的な被子植物であることを支持しているそうです。 ヒダテラ科の植物は非常に単純な花の作りをしていて,ほとんど雄蘂だけ,あるいは雌蘂だけからなる単性花が集合して花序を形成しています。 スイレン目では花序を形成しないそうですが,興味深いことに最古の被子植物としてよく引用される Archaefructus は, 花序を形成する水生植物として知られており(甦る最古の被子植物), 近縁性を検討する必要があると議論されていました。 ヒダテラ科がスイレン目の姉妹群になったことにより,被子植物の起源に関する議論にどのような影響が出てくるのかは, もうしばらく様子を見る必要があるでしょう。ヒダテラ科の植物の研究はこれまで熱心に行われてきたわけではありませんから, 今回の論文をきっかけに研究が進み,明らかになることも多いでしょう(例えば子葉の数は未だにわかっていないとのこと)。 被子植物のほとんどの科について系統的位置が(程度の差はあれ)明らかになっている現在,原始的な被子植物の系統が新たに見つかることは, 予想外の出来事だったようです。被子植物の新しい系統の探索も,まだまだ終わりにはならないようですね。 Saarela, J. M. et al. Hydatellaceae identified as a new branch near the base of the angiosperm phylogenetic tree. Nature 446, 312-315 (2007). Friis, E. M. & Crane, P. New home for tiny aquatics. Nature 446, 269-270 (2007). 過去の関連記事: |
| 謎の動物と謎の動物をつなげて冠輪動物の進化がわかる?(2007.03.19)(→古生物学) |
| 色素体の証拠隠滅?(2007.03.07)(→藻類学) |
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果てなく続く,細菌の新グループ記載 II(2007.03.05) 原核生物では目以上のレベルの分類群が次々と記載されています(果てなく続く,細菌の新グループ記載 など)。環境中から直接 rRNA の配列を解析する手法が広まり,配列のみ知られている系統群が少なからず存在します。 新しい培養株が得られたときに,それが以前に培養されていなかった系統群に含まれれば,自然と新しい高次分類群が設立されることになります。 2007 年 3 月付けで正式記載されたのは,ヴェルコミクロビウム門の新綱新目新科新属新種 Puniceicoccus vermicola(Choo et al., 2007) と,クロロフレクスス門との関連が疑われる新綱新目新科新属新種 Ktedobacter racemifer(Cavaletti et al., 2006)です。 まず,International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(IJSEM)誌上に掲載された論文で記載されたのが, P. vermicola(ヴェルコミクロビウム門プニセイコックス目)です。 本種は海産のゴカイの一種 Periserrula leucophryna(環形動物門サシバゴカイ目) の消化管内から分離されました。P. vermicola は通性嫌気性の球菌で,系統的にはヴェルコミクロビウム門に近縁でした。 環境配列に基づいてこれまでヴェルコミクロビウム門には 5 つの "subdivision" が認識されており,P. vermicola は系統的に subdivision 4 に位置づけられました。"Subdivision" を綱に相当すると見なす見解があったことから,著者らはこれを新綱オピツツス綱(Opitutae) と位置づけ,その根元で分かれる 2 系統をそれぞれ新目オピツツス目(Opitutales)とプニセイコックス目(Puniceicoccales)としました。 さらに対応する科の記載も行っています。 この研究により,ヴェルコミクロビウム門の中に初めて目以上のレベルの分類が成立しました。しかし多細胞生物の分類とは異なり, 形態など何らかのわかりやすい形質によって分類群を定義することはもはやできないようです。この研究で定義された科以上の階級の分類群は, いずれも 16S rRNA の系統によって線引きがされています。これは生物自体の理解から遠ざかるものであり,歓迎しがたいものもありますが, 同時に原核生物の高次分類の困難を考えれば,系統に基づく定義に解決策を求めるのも当然の帰結なのかもしれません。 さて,これに対して独特の形態に基づいて記載されたのが Ktedobacter とその仲間です。 実は本種の記載論文は昨年の半ばに出版されていましたが,原核生物の学名は IJSEM 上で記載されるか,IJSEM に掲載される validation list に掲載されない限り正式に発表されたことにはならないため,今月に至るまで正式発表としては扱われませんでした。 K. racemifer は生物資源の探索中に発見されました。著者らは有用物質をしばしば含んでいる放線菌門の仲間を収集するため, 放線菌に特徴的な,菌糸状の原核生物を土壌から分離していました。ところがこの中に放線菌とはまるで異なる生物が含まれていました。 K. racemifer 分枝する糸状細菌で,胞子を形成します。近縁な株が合わせて 11 株(系統樹を見る限り,5-6 種に相当)が得られていて, いずれも同様の形態を示したそうです。16S rRNA の分子系統からはハワイの火山性堆積物由来の配列に近縁で, 真正細菌の中で独自の系統群を形成することが示されました。 一応,Ktedobacter に近縁な真正細菌と見られたのはクロロフレクスス門の仲間ですが,統計的支持率は低く,Ktedobacter が独自の門を形成するのか,あるいはクロロフレクスス門に属するのかについては結論が保留されています。 クロロフレクスス門は糸状性の種を多く含む系統であり,その点では Ktedobacter と関連性があるようにも見えますが, クロロフレクスス門には分枝する種も胞子を形成する種も知られていません。さらにグラム染色性もクロロフレクスス門のほとんどの種では陰性なのに対して, Ktedobacter はグラム陽性だったそうです。 著者らは当面,Ktedobacter を新綱新目新科(クテドバクター綱クテドバクター目 クテドバクター科:Ktedobacteria, Ktedobacterales,Ktedobacteraceae)に分類し,門レベルの分類は不明なままにしています。 真正細菌の大系統を反映する形質として,細胞壁と細胞膜の形質が重要であると見られていますが(グラム染色性にある程度は反映される), 今回の研究では細胞壁,細胞膜の構造は調べられておらず,今後の透過電子顕微鏡観察が待たれます。 クテドバクター綱の場合には分枝する糸状性と,胞子形成という特徴が多くの株で共有されており,形態的な定義が有効なケースのようです。 このように顕著な特徴を持った系統群が新しく見つかることは稀でしょうが,今回は弱酸性で貧栄養の培地で長期間培養したことがよかったそうです。 分離法が分かれば,今後も新しい培養株,種が得られるでしょうし,今回詳細な研究が行われなかった他の株についても研究が進めば, 新属新種や新科として記載されることになるでしょう。 現在の原核生物の分類体系は Bergey's Manual of Systematic Bacteriology という教科書のものが広く採用されています。 このシリーズの第 2 版は 2001 年より出版を開始し,現在全 5 巻中 2 巻まで出版されています。 この第 2 版で原核生物を通じてリンネ式の階層分類が提案されてから,目以上のレベルの新分類群が度々記載されるようになってきました。 おかげで真正細菌のグループは非常に把握しやすくなっており,改めて階層的な分類体系の利便性が示されています。 Cavaletti, L. et al. New lineage of filamentous, spore-forming, gram-positive bacteria from soil. Appl. Environ. Microbiol. 72, 4360-4369 (2006). Cho, Y.-J., Lee, K., Song, J. & Cho, J.-C. Puniceicoccus vermicola gen. nov., sp. nov., a novel marine bacterium, and description of Puniceicoccaceae fam. nov., Puniceicoccales ord. nov., Opitutaceae fam. nov., Opitutales ord. nov. and Opitutae classis nov. in the phylum 'Verrucomicrobia'. Int. J. Syst. Microbiol. 57, 532-537 (2007). |
| アフリカからの旅のお供はピロリ菌(2007.03.03)(→人類学) |
| 原始的な褐藻類の目,復活(2007.02.26)(→藻類学) |
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マラリア原虫が緑に見えた背景(2007.02.23) マラリア原虫などを含んだ寄生虫からなるアピコンプレックス門(アルベオラータ)のほとんどの仲間は, アピコプラストと呼ばれる退化した色素体を保持しています。アピコプラストの由来については, 紅藻(あるいは紅藻由来の色素体を持った二次共生藻)由来とする定説に対して,ミトコンドリアの cox2 遺伝子が 2 つに分裂していることを根拠に,緑藻綱(緑色植物門)由来であるとした説も存在します。 しかし Waller & Keeling (2006) は,この遺伝子の分裂がアピコンプレックス門と緑色植物門で独立に起こったことを示しています。 アルベオラータの仲間では,渦鞭毛虫類とアピコンプレックス類に色素体が知られています。両群の色素体が共通の起源なのか, あるいは独立の真核共生なのかは論争が続いています(渦鞭毛藻三次共生起源説)。 特に渦鞭毛藻の色素体が紅藻の系統とされているのに対して,アピコプラストが緑藻綱由来とされたことが大きな問題になっていました。 その根拠として示されたのが,ミトコンドリアの cox2 遺伝子です。 アピコンプレックス類ではこの遺伝子はミトコンドリアではなく核にコードされていて,しかも 2 つの断片に分かれています。 2 つに分かれた cox2 遺伝子は緑藻綱のイカダモ(Scenedesmus: ヨコワミドロ目)などで知られていることから, 緑藻綱の真核共生の結果,分裂した cox2 遺伝子が宿主の核に移行して宿主の元々の cox2 遺伝子に置き換わったと解釈されました。 確かに遺伝子の分裂のような稀な出来事はよい系統マーカーとなりますが,渦鞭毛虫類の cox2 が知られていなかったため, アルベオラータの中で本当にアピコンプレックス類の cox2 だけが異常なのかは十分には検証されていませんでした。 そこで著者らは新たに渦鞭毛虫類の cox2 の配列を決定し,系統解析を進めました。 実は一部の渦鞭毛虫において,EST の研究から cox2 が分裂していて核にコードされている可能性が考えられていました。 今回,個々の遺伝子が解析されてこのことの裏付けがとられました。調べられたのは光合成性の Karlodinium micrum (渦鞭毛動物門ギムノディニウム目)と, 非光合成性で渦鞭毛虫の基部付近で分岐したと見られる Oxyrrhis marina(渦鞭毛動物門 オキシリス目)で,いずれの種でも核コードの特徴 (アミノ末端に輸送ペプチド)を持ち,cox2a と cox2b の 2 断片に分かれていました。 系統樹上ではアルベオラータの COXII は互いに近縁で,アピコンプレックス類の cox2 遺伝子だけが真核共生によって外部から持ち込まれたのではなく,宿主側から引き継がれてきたことを示しています。 緑藻綱の COXII の系統は他の緑色植物門とは異なる位置に出ており,何か異常が起こっていることが示唆されていますが, アピコンプレックス類のタンパク質に特に近縁である,ということはありませんでした。 従って,cox2 遺伝子の分裂は緑藻綱とミオゾア上門(渦鞭毛動物門+アピコンプレックス門)で独立に起こったと思われます。 この遺伝子の分裂がアピコプラストと緑藻綱で関係ないとすれば,アピコプラストが緑藻類に由来したとする根拠もなくなります。 アピコプラストと渦鞭毛藻の色素体が独立の真核共生によるのかどうかは未だにわかりませんが,議論が幾分整理されそうです。 著者らは遺伝子の分裂のような「稀」とされた現象も繰り返し起こりうることを強調しています。 このことは他の系統推定の議論にも同様に当てはめられるので,注意が必要でしょう。 まさに著者らの言うとおり,結論を導く前に多くの系統で矛盾がないのか「徹底的に調べる必要」があるでしょう (一例としてアメーバの系統的位置は再び藪の中へ)。 Waller, R. F. & Keeling, P. J. Alveolate and chlorophycean mitochondrial cox2 genes split twice independently. Gene 383, 33-37 (2006). |
| 夜光虫の光の源(2007.02.19)(→藻類学) |
| 細菌か最古の動物か,それが問題だ(2007.02.17)(→古生物学) |
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シアノバクテリアが酸素を作った理由(2007.02.14) シアノバクテリアによる酸素発生型光合成の発明は,地質学的には極めて大きな事件でした。 シアノバクテリアの作った酸素によって地球環境は激変し,酸素呼吸という効率のよいエネルギー生成の仕組みを進化させ, 遂には多細胞の動植物の進化をもたらしたのです。しかし当のシアノバクテリアはどのような状況で, そしてどのような進化を経て酸素発生型光合成を行うようになったのでしょうか。Allen & Martin (2007) は, 近年の研究成果を踏まえて酸素発生型光合成の起源を考察しています。 まず酸素発生型光合成の出現時期について,著者らは大気中の酸素濃度が上昇した 23 億年前より古く, 酸素が発生した痕跡の見つからない光合成細菌のマットが見つかる 34 億年前よりは新しいだろう,と推定しています。 これは最近出版された,27 億年前に酸素発生型光合成が出現したとする研究とも矛盾しません (シアノバクテリアの誕生は 27 億年前?)。 ではこの頃にどのような進化が起こったのかが問題です。酸素発生型光合成の明反応には光化学系 I と光化学系 II が主要な役割を果たしています。両者は反応中心がよく似ており,遺伝子クラスターの重複によって分化した考えられています。 現生の光合成細菌の中でこれら 2 つの光化学系を共に持つのはシアノバクテリアのみです。 そのためシアノバクテリアの祖先が初めにいずれかの光化学系を持っていて,後にもう一方の光化学系を (水平遺伝子移動などにより)獲得したとする考えや,シアノバクテリアの祖先("protocyanobacterium") において光化学系の重複が起こったする考えなどがあります(ゲノムで解く光合成細菌の起源と進化)。 著者らはここで,単純に光化学系 I と II が同時に存在している場合,相互に干渉するおそれが高いことを指摘しています。 すなわち酸素の分解によって生じる電子がなければ,上手く直線的に電子が流れないと考えられるそうです。 従って最初に光化学系 I と II を持った物は,これらを同時に発現せずに, 状況に応じて使い分けていたのではないかと推測されました。 さて著者らの議論で最も重要なのは,酸素を発生する反応の起源です。酸素は水分子の分解によって発生しますが, この反応は光化学系 II に結合した 4 個のマンガン原子(Mn)と 1 個のカルシウム原子(Ca) によって触媒されていると考えられています。より正確には水分子を酸化することによって,この Mn4Ca クラスターが 4 つの電子を得て,続いて光化学系 II が Mn4Ca クラスターから電子を奪っているそうです。 そして水の酸化の結果できてしまうのが酸素分子というわけです。なお光化学系 II の Mn4Ca クラスターは, 酸化マンガンの鉱物とよく似た配置を取っていることが知られているそうです。 ここから著者らの想像が展開します。シアノバクテリアが誕生した頃にはオゾン層は存在せず,地表に達する紫外線量は多かったはずです。 仮にマンガンが環境中に存在して,そこに光化学系 II と光化学系 I を使い分けて生きている生物がいたとします。 マンガンイオンは紫外線の照射下で光化学系 II に電子を流し込み,光化学系 II を阻害することが知られています。 従ってこの生物が光化学系 II を発現させているときに紫外線を受けると,やはり光化学系 II が機能不全を起こしたと思われます。 この生物が生き抜くためには光化学系 I を同時に発現し,NADP を還元するなどして電子を処理する必要があったでしょう。 こうして 2 つの光化学系を直列に利用する仕組みができあがると,マンガン原子は光化学系 II の表面に取り込まれ, 安定して水分子の分解に働けるようになったと思われます。そして積極的にマンガン原子とカルシウム原子を取り込めるようになり, 酸素発生型光合成を安定して行える生物が進化してきたと考えられています。 著者らの仮説では酸素発生型光合成の起源を大きな飛躍や無理な過程を置かずに説明しており,とても興味深く読めました。 この仮説がどの程度まで正しいのかについては中々検証が難しいとは思いますが,少なくとも著者ら自身が言っているように, 2 つの光化学系を使い分けている生物が見つかってくれば,これは "protocyanobacterium" の有力な候補となるでしょう。 実際にそのような生物が見つかる可能性は決して高くはないと思いますが,細菌の中には性状が未知の生物はまだまだ存在しています。 そんな未研究の細菌の中に,"protocyanobacterium" やそれとは全く異なる性質の中間型生物が見つかってくれば, 酸素発生型光合成の進化についても新たな説明が見えてくるかもしれません。 Allen, J. F. & Martin, W. Out of thin air. Nature 445, 610-612 (2007). |
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渦鞭毛藻三次共生起源説(2007.02.10)(→藻類学) |
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海綿のミトコンドリアゲノム追加(2007.02.07) 近年,原始的で基盤的な動物のミトコンドリアゲノムの研究が徐々に進められており, 本サイトでも度々紹介してきました(遺伝子いっぱい平板動物のミトコンドリア, 動物ミトコンドリアの原型は?)。 これまで海綿の仲間からは普通海綿綱のミトコンドリアしか調べられていませんでしたが,Wang & Lavrov (2007) は普通海綿類との類縁が不確かな同骨海綿類のミトコンドリアゲノムを解読し,海綿の祖先型を探っています。 今回ミトコンドリアゲノムが調べられたのはノリカイメン属の一種(Oscarella carmela; 海綿動物門同骨海綿目) です。同骨海綿目(同骨海綿亜綱)は普通海綿綱に含める向きもあるようですが,その系統的位置は未確定でした。 特に同骨海綿類は他の海綿では知られていない真の上皮組織を持つとされることや,精子の先端に先体と呼ばれる器官を持ち, 幼生の鞭毛装置に縞状の鞭毛根を持つことで,より「高等」な動物との類縁も考えられていました。 O. carmela のミトコンドリアゲノムは 20,327 bp の環状で,既知の海綿の場合には遺伝子が全て片側の DNA 鎖に乗っていたのに対して,本種では半分が一方の鎖に,残り半分が他方の鎖にのっています。 この他の主要な特徴としては,これまで動物に近縁な襟鞭毛虫や一部の原生動物などでミトコンドリアゲノム上に見つかっていた tatC 遺伝子(タンパク質輸送経路に関わるタンパク質)が,動物で初めてミトコンドリアゲノム上に見つかりました。 他の海綿ではどうやらこの遺伝子は核にコードされていて,海綿以外の動物からは見つかっていないそうです。 おそらく,この遺伝子は普通海綿の仲間では核に移行し,他の動物では失われたものと予想されました。 もう一つ興味深い話題としては,プロリンの tRNA(アンチコドンは UCA)の配列があります。 この tRNA の 11 番と 24 番の塩基対は A-T という組合せになっていたそうです。この A11-T24 という塩基対は, 既知の普通海綿と平板動物の tRNA Pro に知られていますが,一方で襟鞭毛虫と, ショウジョウバエやヒトを含んだ左右相称動物では T11-A24 という塩基対になっているそうです。 この証拠を重視すれば平板動物は普通海綿類と近縁な,あるいは原始的な海綿のグループなのかもしれません。 しかし刺胞動物ではミトコンドリアにこの tRNA がコードされておらず,確かなことは言えません。 この点については今後,石灰海綿のような系統の異なる海綿のミトコンドリアゲノムが報告されれば, よりはっきりした結論が得られるかもしれません。 著者らは 12 遺伝子を用いて系統解析も行っていますが,原始的な動物のミトコンドリアゲノムに基づく系統樹では, 左右相称動物が外側に飛び出て,あたかも平板動物,海綿動物,刺胞動物が互いに近縁であるような図が描かれることが多いと言えます。 しかしこれは左右相称動物の遺伝子の進化速度が速すぎるためとも言われています。 これを差し引いて考えらると,以下のような系統関係が予想され,同骨海綿類が重要であることが明確になると思います。 -------(左右相称動物;定説)-------| | -------刺胞動物 -------| | | -------普通海綿 -------| -------| | | -------同骨海綿類 -------| | | | ---------------------平板動物 ------| | | ----------------------------(左右相称動物;ミトコンドリアゲノムによる樹形) | -----------------------------------襟鞭毛虫 もし定説が正しくこの樹形が真実であれば,同骨海綿類に認められた上皮組織や先体などの特徴は, より高等な動物の共有派生形質ではなく,少なくとも普通海綿の共通祖先が持っていた, さらに祖先的な形質だった,ということになります。これは動物の初期進化の仮説に見直しを迫るものです。 現在,他の海綿類(六放海綿類や石灰海綿類)のミトコンドリアゲノムについても予備的な研究を進めているようで, これが公開されて互いに比較しやすくなれば,動物の初期進化の謎がかなり解けてくることが期待されます (今回の結果は同骨海綿亜綱が普通海綿綱に入ることと矛盾しませんが,他の海綿の綱が含まれていません)。 Wang, X. & Lavrov, D. V. Mitochondrial genome of the homoscleromorph Oscarella carmela (Porifera, Demospongiae) reveals unexpected complexity in the common ancestor of sponges and other animals. Mol. Biol. Evol. 24, 363-373 (2007). |
| シアノバクテリアの誕生は 27 億年前?(2007.02.03)(→古生物学) |
| 食べた藻類は核まで利用(2007.02.01)(→藻類学) |
| 色素体のミッシングリンクの痕跡(2007.01.30)(→藻類学) |
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動物ミトコンドリアの原型は?(2007.01.27) 後生動物のミトコンドリアゲノムは,比較的均一で互いに比較しやすくサイズ的にも都合がよいため, しばしば大きな系統の解析に用いられます。最近では研究者の興味が動物の起源にも集まっていて,海綿や平板動物, 刺胞動物などのミトコンドリアゲノムが次々と解読されています (参考:遺伝子いっぱい平板動物のミトコンドリア)。Erpenbeck et al. (2007) は海綿動物門単骨海綿目の Amphimedon queenslandica のミトコンドリアゲノムを決定し, 普通海綿に共通と見られていた特徴があったりなかったりと, ミトコンドリアゲノムの進化が予想外に複雑であったことを示しています。 これまでに解析された海綿動物のミトコンドリアゲノムは,全て左右相称動物に広く見つかる制御領域(control region) と呼ばれる特徴的な配列を欠いていました。逆に,atp9 と呼ばれる遺伝子を持つことも特徴と見られていました。 ところが Amphimedon からは海綿動物として初めて繰り返し配列が見つかり,制御領域とよく似た特徴を示していたそうです。 さらに atp9 がミトコンドリアゲノムに見つからず,どうやら核に移行した形跡が見つかっています。 しかしリボソーマル RNA は,他の普通海綿綱と同様に細菌に似た二次構造を持っているそうで, この点では海綿らしいところもあるようです。 なお一応系統解析も行われており,Amphimedon は他の海綿類(解析されたのは全て普通海綿)の姉妹群になっています。 しかしミトコンドリアゲノムの系統樹では左右相称動物が二胚葉動物(海綿動物,刺胞動物,平板動物など)の姉妹群になるなど (おそらく左右相称動物はこの中では刺胞動物に近い),解析の信頼性に疑問が持たれます。 ミトコンドリアゲノムの性質が海綿類の中で,より広くは二胚葉動物の中で多様性に富んでいるのであれば, 左右相称動物の中で有用であるほどには系統解析に向いていないのかもしれません。 しかしゲノムの構造に多様性があることは,逆にそれに着目することで系統ごとの特徴付けが出来る可能性もあります。 今後普通海綿以外の海綿のデータなどが集まってきたときに何が見えてくるのかは注目です。 Erpenbeck, D. et al. Mitochondrial diversity of early-branching metazoa is revealed by the complete mt genome of a haplosclerid demosponge. Mol. Biol. Evol. 24, 19-22 (2007). |
| アーケゾア仮説の幕引きはトリコモナスゲノムから(2007.01.24)(→その他) |
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最古の動物か細菌か,それが問題だ(2007.01.22)(→古生物学) |
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鞭毛に生える毛の正体は(2007.01.18)(→藻類学) |
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最小の生物はちょっとシャイ?(2007.01.16) SSU rRNA を環境サンプルから直接増幅し,未知の生物を探す方法(環境 PCR)は既に定着した技術ですが, 微生物の中には通常使われるプライマーでは増幅しにくい SSU rRNA を持つものも存在します。Baker et al. (2006) は PCR を介さずに直接環境中の DNA 配列を探索し,中にほとんど未知の古細菌の配列を発見し, この古細菌がどうやら既知の生物の中で最小の細胞を持つらしいと報告しています。 PCR 法では既知の配列で挟まれた領域の DNA 配列を増幅,解読します。SSU rRNA 遺伝子は全ての生物が持っており (原核生物では 16S rRNA,真核生物では 18S rRNA と呼ばれる),ほとんどの生物で保存された配列が存在します。 そこで環境サンプルから直接 PCR を行うことで,サンプル中のほとんどの生物種の SSU rDNA を増幅できるとされています。 ところが例外も存在し,保存配列に一部違いのある生物は環境 PCR では検出されない,あるいはされにくくなってしまいます。 カリフォルニアのリッチモンド鉱山(Richmond Mine)の酸性環境(pH 0.5〜1.5)から DNA 断片を抽出し, PCR による増幅を経ずに手当たり次第解析したところ,配列中に未知の古細菌の SSU rRNA 配列を発見しました (地球を暖める古細菌 II など)。この系統群は ARMAN-1(〜3)と名付けられ (Archaeal Richmond Mine Acidophilic Nanoorganism),さらなる研究が行われました。 ARMAN グループの SSU rRNA は保存配列に変異があり,通常の環境 PCR からは得られていませんでした (特殊なプライマーを用いた環境 PCR による報告が 2 例ほどあったのみ)。ARMAN グループは系統的にも独自の位置を占め, 古細菌ユリアーケオタ門の比較的深い位置から分岐した系統と見られています(メタン生成菌の系統の可能性あり)。 そして ARMAN グループの SSU rRNA を持つ生物をハイブリダイゼーション法を用いて蛍光ラベルしたところ, 微生物群集の中でひときわ小さい細胞がラベルされました。さらに直径 0.45 μm のフィルターを通過する細胞を選別したところ, ARMAN グループの細胞が高度に濃縮されたそうです。 濃縮したサンプルの電子顕微鏡観察から,ARMAN グループの古細菌の細胞は不定型で一部に突出を持っていることがわかりました。 細胞は古細菌様の細胞壁と,やはり古細菌に見られる S-layer という表面構造を持っていました。 細胞サイズは 0.2〜0.3 × 0.1〜0.2 μm と極めて小型で,体積にして 0.006 μm3 未満と推定されました。 断面からの推定ですから,想定外に複雑な形のより大きな細胞である可能性は否定できませんが,光学顕微鏡のデータもあるため, さほどの間違いはないでしょう。 この体積は他の生物と比べても圧倒的に小さく,例えばこれまで最小の古細菌とされた "nanoarchaea" は 0.02〜0.70 μm3 ,グリーンランドから得られた最小クラスの真正細菌は 0.04〜0.10 μm3,あるいは SAR 11 クレード(やはり真正細菌)のメンバーは 0.031〜0.051 μm3, とされているそうです。 細胞が生きていくためには様々な分子装置が必要です。例えばタンパク質の合成装置であるリボソームは 20 nm ほどの大きさで, 細胞膜の厚さなども考えれば,細胞のサイズには下限があるはずと考えられています。 ARMAN グループの細胞はこの下限に相当するようで,培養やゲノム研究に基づいて実際の細胞内の様子を明らかにすることは, 生物の基本的な仕組みを知る上でも意義のあることだと思います。 特に,このような極小の生物で細胞内の分子が無秩序に配置されているのか,それとも細胞全体が組織化されているのか, というのも興味があるテーマで,今回の論文でもリボソームが高度に詰め込まれた状態が観察されています。 参考までに,ARMAN-1〜3 の生息環境は酸性でやや暖かく(30〜60℃)金属イオンに富んだ環境ですが, 過去の研究で得られた近縁配列は,ニュージーランドの高温で中性の水たまり(78℃,pH 7.5) やシベリアの酸性の泥炭湿地(pH 4.2〜4.8)に由来しているそうで,生態的に多様な生物が含まれているようです。 Baker, B. J. et al. Lineages of acidophilic archaea revealed by community genomic analysis. Science 314, 1933-1935 (2006). |
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新門候補の推定藻類 "ピコビリ藻類"(2007.01.13)(→藻類学) |
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雪解けの酸化(2007.01.11)(→古生物学) |
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補足:淡水へ!陸上へ!そして昆虫へ(2007.01.09) 淡水へ!陸上へ!そして昆虫へでは, 分子系統解析をもとに昆虫を含む六脚類が淡水性の甲殻類(鰓脚類)に近いとしたレビューを紹介しました。 そこで,甲殻類や六脚類を含めた節足動物の分子系統解析の論文を調べてみました (Regier et al., 2005; Mallat & Giribet, 2006)。 Regier et al. (2005) は多遺伝子解析,特にタンパク質をコードする遺伝子を用いた解析により, 甲殻類と六脚類(併せて汎甲殻類:Pancrustacea)の系統関係を解こうとしています。 この結果では,汎甲殻類の単系統性が強く支持されており,六脚類が甲殻類に由来することが裏付けられています。 鰓脚綱は六脚類の姉妹群の候補には挙がっていますが,同様にカシラエビ綱とムカデエビ綱 (両者はおそらく単系統)も六脚類に近縁な可能性があります。 カシラエビ綱とムカデエビ綱はいずれも 20 世紀の後半になって発見された特殊な分類群で, 海底の砂に潜って,あるいは海底洞窟に生息しています。従って,Ragier et al. (2005) の結果からは六脚類が海水性の甲殻類に由来した可能性も否定できません。 また,顎脚綱(Maxillopoda)というグループが従来認められてきましたが,蔓脚下綱(Cirripedia) に代表される鞘甲亜綱(Thecostraca)とカイアシ亜綱(Copepoda)が軟甲綱(Malacostraca)に対して側系統になりました。 鰓尾亜綱(Branchiura)については多系統の貝形虫綱(Ostracoda)とまとまる可能性もありますが, これはこのデータではまだ不確かです。 Mallat & Giribet (2006) では 28S と 18S リボソーマル RNA を用いて, 節足動物も含めた脱皮動物全体の系統解析を行っています。しかし種数としても特に重点が置かれているのは節足動物, 特に汎甲殻類でした。この解析ではカシラエビ綱とムカデエビ綱が含まれておらず, 六脚類の姉妹群の問題は解決していませんが,含まれた分類群の中では,カイアシ類が,次いで鰓脚類が姉妹群となっています。 しかし Regier et al. (2005) の結果と, カイアシ類や基部的な六脚類に進化速度が早いものが含まれていることを考えると, カイアシ類の系統的位置は解析上の誤りと推測されます。なお,この解析でも顎脚綱は多系統になっています。 両者の結果を私なりに整理してみた系統樹を下記に示しますが,六脚類の祖先の問題はまだ解けきってはいません。 顎脚綱が多系統であること,貝形虫綱も多系統の可能性が指摘されていること,なども考えると, 汎甲殻類の分類体系はこれからも整理が必要でしょう。 -------顎脚綱 五口動物亜綱-------| ---?--| -------顎脚綱 鰓尾亜綱 | | | --------------貝形虫綱 | | -------軟甲綱 | -------| |------| -------顎脚綱 鞘甲亜綱 蔓脚下綱 ------| | | --------------顎脚綱 カイアシ亜綱 | | -------カシラエビ綱 | -------| | | -------ムカデエビ綱 -------| |-------------鰓脚綱 | --------------六脚類 しかし今回のような研究を見てみると,分子系統解析から節足動物の系統関係が解決できそうなのもまた確かです。 もちろん神経系の発生・形態など,形態学の立場からの裏付けも進んでいます。 節足動物の分類は混乱している印象が強かったのですが,いくつか論文を読んだ印象では, この混乱も解決に向かい始めているようです。 Mallatt, J. & Giribet, G. Further use of nearly complete 28S and 18S rRNA genes to classify Ecdysozoa: 37 more arthropods and a kinorhynch. Mol. Phylogenet. Evol. 40, 772-794 (2006). Regier, J. C., Shultz, J. W. & Kambic, R. E. Pancrustacean phylogeny: Hexapods are terrestrial crustaceans and maxillopods are not monophyletic. Proc. R. Soc. B 272, 395-401 (2005). |
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真正紅藻の分子系統と目の分類(2007.01.08)(→藻類学) |
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海を統べる古細菌のゲノム(2007.01.04)(→その他) |
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酸化することに意義がある(2007.01.03)(→古生物学) |
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淡水へ!陸上へ!そして昆虫へ(2007.01.01) 昆虫類(コムシ目,カマアシムシ目,トビムシ目などの内顎類も日本では昆虫類に含めるが, 一般には内顎類と他の「真の」昆虫類 = Insecta を合わせて六脚類 = Hexapoda と呼ぶ)は陸上で最も成功した節足動物と言えます。 しかし彼らに近い節足動物,特に水生の祖先の正体は長年はっきりしていませんでした。 Glenner et al. (2006) は近年の分子系統解析を踏まえて,六脚類(や昆虫類)の起源について紹介しています。 伝統的には,同様に陸生である多足類が六脚類に近縁で,両者は海生の共通祖先を持つと推定されていました。 しかし甲殻類など他の節足動物の化石は 5 億年以上前(カンブリア紀)から知られているにもかかわらず, 確かな六脚類の化石(実は密かに最古の昆虫)はデボン紀初期, 約 4.1 億年前から出現するため,海生の祖先の正体は謎に包まれていました。 ところが分子系統からは,六脚類はむしろ甲殻類に近縁であることが示唆されました (今日この頃の動物の樹。6 本足の節足動物≠昆虫,補足 も参照)。 甲殻類と六脚類を合わせた系統群は Pancrustacea(「汎甲殻類」)と呼ばれ,六脚類はおそらくその一部と考えられました。 特に著者らが六脚類の姉妹群として紹介しているのは,主として淡水産の種からなる鰓脚類(ミジンコなどを含む)です。 鰓脚類の化石もやはりデボン紀初期から見つかるため,六脚類の姉妹群として納得できる時代です。 この場合,両者の共通祖先が海水から淡水に進出し,シルル紀後期からデボン紀初期に鰓脚類と六脚類が分化して, 六脚類の系統で陸上への進出を果たしたと考えられます。 ---------------------------------他の甲殻類(海産)| ------| --------------------------他の甲殻類(海産) | | -------| -------------鰓脚類(淡水産) ----淡水へ---| ----陸上へ---六脚類(陸上) 六脚類が陸上に進出したのがデボン紀初期だとすると,これは他の動物,多足類,鋏角類(これらは節足動物),四足動物(脊椎動物), が陸上に進出した時期とおおよそ一致します(シルル紀後期〜デボン紀後期)。デボン紀は乾燥化進んだ時代とのことで, 上記の系統は皆,乾燥によって淡水環境を追われ,上陸したと見られています。 六脚類の場合も鰓脚類が真に姉妹群だとすれば,淡水から上陸したと推測されます。 最近の形態学からも六脚類と鰓脚類の近縁性を支持する証拠は得られているそうで, 今後は分子系統に基づく新しい仮説が広く受け入れられることになりそうです。 ただ,分子系統の証拠は現在も蓄積されており,検証が進められている最中です。 著者らが紹介した仮説がどこまで証明されているのかは,さらなる検証を待ちたいところではあります。 著者らが引用している分子系統解析にも微妙な点が残っているので,これも近いうちに紹介できればと思います。 Glenner, H., Thomsen, P. F., Hebsgaard, M. B., Sørensen, M. V. & Willerslev, E. The origin of insects. Science 314, 1883-1884 (2006). |
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続報 2:もう一つの葉緑体(2006.12.26)(→藻類学) |
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ヨウスコウカワイルカ科の絶滅(2006.12.25)(→その他) |
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続報:動物進化は爆発だ!(2006.12.23) 動物の多遺伝子系統解析の結果,左右相称動物の初期の系統関係が解けなかったことから, これらが(おそらくはカンブリア紀ごろに)爆発的に進化したとする見解が出版されています (動物進化は爆発だ!)。当初より系統解析の不備を疑う声はありましたが, Baurain et al. (2007) は,想定されるバイアスを排除するような系統解析を行えば, 動物の根元付近の系統関係も解けるとしています。 後生動物の系統関係については,大枠がようやくわかってきたとされています(今日この頃の動物の樹)。 にもかかわらず多遺伝子解析で解けないのはなぜなのか,その原因は明らかにしなければなりません。 初めに指摘されていたように,解像度が得られないことは短期間の分岐の証拠なのか(Rokas et al., 2005), それとも単に系統解析の手法の問題なのか,が問題です。 著者らは系統解析上のあり得る問題を避ける手段として,3 つの対策を実行し,系統樹を比較しました。 まず,調べられた種数(OTU の数)が少なければ誤った情報の影響が大きくなるため,OTU を増やしています。 そして塩基置換の速度が早い配列同士は誤って近縁と推定されることがあるため,そのような配列を進化速度が遅い配列で置き換えています。 最後に,塩基置換のモデルを誤って仮定すると系統解析にも悪影響が出るため, 位置ごとの塩基置換のパターンの違いを扱うことに優れているという,category(CAT)+ Γ モデルを導入しています。 これらの対策を適用することにより,Rokas et al. (2005) が解けないとしていた前口動物の系統関係が, ブートストラップ確率による支持を伴って解けるようになりました。具体的には,前口動物の中に脱皮動物と冠輪動物が識別されています。 特に最初の研究では,脱皮動物に含まれる線形動物と冠輪動物に含まれる扁形動物がまとめられていましたが, 新たな系統解析では現在の定説に沿った位置にそれぞれ振り分けられました。 結局,爆発的な多様化の証拠とされたのは,単なる解析上の問題であることが明らかになりました。 今回の研究では動物の系統関係について新しいことを示したわけではありませんが, 系統解析に関する重要な教訓を与えています。一つには,OTU を増やすこと, 進化速度の遅い種を選ぶことが重要であることを再確認しています。最近ではゲノム研究の結果を用いて, 少ない OTU で多数の遺伝子を用いた研究がもてはやされる傾向がありますが,OTU が不適切では意味がないわけです。 また短期間に多数の系統が分岐したことを示すのが困難であることもわかります。 「系統関係が明らかにできなかった」ということと,「系統関係が明らかに出来ないことを示す」のは別の課題であり, Rokas et al. (2005) は単に前者を示したに過ぎず,後者の証拠は示せていなかった,と言えるでしょう。 Baurain et al. (2007) は最後に塩基置換のモデルの重要性を訴えています。 しかし単純なモデルと複雑なモデルのいずれが優れているのかについては議論の分かれるところであり, また現実の進化にどのモデルが近いのかを示すのも事実上不可能でしょう。 従って CAT モデルの有用性を評価するには,もう少しこのモデルを用いた系統研究が行われるを待ちたいところです。 Baurain, D., Brinkmann, H. & Philippe, H. Lack of resolution in the animal phylogeny: Closely spaced cladogeneses or undetected systematic errors? Mol. Biol. Evol. 24, 6-9 (2007). Rokas, A., Krüger, D. & Carroll, S. B. Animal evolution and the molecular signature of radiations compressed in time. Science 310, 1933-1938 (2005). |
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ヒゲマワリの男の紋章(2006.12.20)(→藻類学) |
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密かに準備された左右相称性(2006.12.18)(→発生学) |
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続報:35 億年前のメタン(2006.12.16)(→古生物学) |
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琥珀に眠るミクロの化石(2006.12.15)(→古生物学) |
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今日この頃の動物の樹(2006.12.14) 後生動物には 30 を超える門が認められていますが,門の間の系統関係が見えてきたのは, 分子系統の成果が集積してきてからのことです。未解決の問題も残されていますが, Telford (2006) はそんな現状をレビューしています。 著者はまず,1866 年の Haeckel の系統樹を示して,動物の「門」の概念が 100 年以上に渡って維持されていることを紹介しています。 その一方で動物門の間の系統関係については全く現在の理解と異なっていました。 現在では分子系統がリボソーム遺伝子から EST まで様々なレベルで行われ,動物の系統仮説の大枠が確立されました。 以下に Telford (2006) が紹介した現在の系統仮説を示します。 |冠輪動物(Lophotrochozoa)| 環形動物+ユムシ動物+星口動物,腕足動物+箒虫動物, -------| 内肛動物,有輪動物,外肛動物,顎口動物,軟体動物, | | 吸口虫類,紐形動物,扁形動物,輪形動物/鉤頭動物, 前口動物 | | 中生動物? --------------------| | |?------毛顎動物 | | | | |脱皮動物(Ecdysozoa) | -------| 節足動物(別記)+有爪動物+緩歩動物, | | 動吻動物+胴甲動物+鰓曳動物,線形動物,類線形動物 左右相称動物 | -------|?--------------------------無腸動物 | | | | --------------頭索動物 | | | | | -------| -------尾索動物 | | | -------| | | | -------脊椎動物 | -------| | 後口動物 | -------棘皮動物 -------| | -------| | | | | -------半索動物 | | -------| | | --------------珍渦虫動物 | | | | -------刺胞動物 | |---------------------------| | | ?------ミクソゾア | | | -----------------------------------有櫛動物 | |-----------------------------------------海綿動物(側系統?) | ?-----------------------------------------平板動物 --------------鋏角類 | | -------甲殻類 --節足動物--|------| | -------昆虫類 | --------------多足類 大枠では,前口動物と後口動物,無腸動物からなる左右相称動物(三胚葉動物)と,その他の二胚葉動物が見いだせます。 前口動物と後口動物は系統的にきれいに分かれたように見えますが,実はかつて後口動物に含められ, 実際に後口動物と同様に原口が肛門になる分類群(例えば毛顎動物)も前口動物に移されたため, 発生様式と系統関係がどのように対応づけられるのか,もう少し整理が必要なようです。 後口動物については珍渦虫が拓く新しい門で紹介した話とこれにまつわる議論がなされています。 前口動物にはリボソーム RNA 遺伝子の分子系統樹に基づいて(後にはミトコンドリアゲノムなど),冠輪動物(Lophotrochozoa) と脱皮動物という二つの系統群が認められています。冠輪動物は触手冠(lophophore)と呼ばれる構造を持つ動物と, トロコフォア(trochophore)幼生と呼ばれる幼生を作る動物を含むため,このように名付けられました。 しかし触手冠もトロコフォア幼生も作らない動物も含まれており,冠輪動物を識別する単一の形態形質は見つかっていないそうです。 冠輪動物内部の系統関係も謎が多く,上図で示した一部を除けば複数の仮説が対立している状態です。 例えば扁形動物や内肛動物,外肛動物,顎口動物,などが "Platyzoa" と呼ばれる単系統群を構成するとの仮説がありますが, 系統解析の問題による人為的なグループなのか,未だに明らかではありません。また吸口虫類(スイクチムシ類:Myzostomida) と呼ばれる棘皮動物の寄生虫は,従来環形動物に含まれましたが,現在では Platyzoa に含まれる可能性も指摘され, 決着がついていません。 脱皮動物はその名の通り脱皮を行う動物からなり,やはり単系統と考えられています。 しかし,まだ分子情報による研究が不十分な門もいくつか残っており,脱皮動物の内部の系統関係は完全にはわかっていません。 節足動物の内部の系統についても論争が引き続いており,昆虫類が甲殻類に含まれる可能性など,検証が必要です。 後生動物にはこの他,系統的位置に定説のないグループがいくつかあります。平板動物,ミクソゾア,中生動物,無腸類, 毛顎動物などが挙げられています。上図の位置が有力ですが,解析方法によって結果が食い違っています。 これらはいずれも動物の大グループの基部付近で枝分かれした可能性が高く,結論が待たれます (遺伝子いっぱい平板動物のミトコンドリアも参照)。 著者らは研究の方向として,Hox 遺伝子など発生および体制の決定に関わる遺伝子の進化を探るエボデボ(evo-devo) の研究や,祖先的な左右相称動物の体制の推定などを挙げています。その土台となる系統解析も重要ですが, こちらは解析される対象(生物の数,遺伝子の数)を増やすことが必要と見られています。 しかし EST のデータがたまっても解けていない枝もあり,注意が必要とも言われています。 解剖学や発生学に頼り切っていた時代に比べれば,分子系統によって明らかになったことは計り知れないものがあります。 しかしこれも行き詰まりつつあるような気もします。あるいは発生学などを再び見直すことも効果があるかもしれません。 専門外の人間にはなかなか勉強が難しいところではありますが・・・ Telford, M. J. Animal phylogeny. Curr. Biol. 16, R981-R985 (2006). |
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ゲノムで解く光合成細菌の起源と進化(2006.12.11) 光合成を行う原核生物は様々な系統に知られ,光合成細菌と総称されます。 特にシアノバクテリアは酸素発生型光合成を行う唯一の系統として,また色素体の起源として注目されますが, 他の光合成細菌との関係は謎に包まれています。Mulkidjanian et al. (2006) は各種光合成細菌のゲノムを比較することで光合成細菌の進化過程を推測しています。 原核生物ではゲノムプロジェクトが急激に進行しており,ゲノム同士を比較することで生物の進化を議論できるようになってきました。 著者らは 15 種類のシアノバクテリアのゲノムに共通する特徴を調べると共に, これを他の主な光合成細菌のゲノムと比較して光合成の進化を探りました。 少なくとも 3 種類のシアノバクテリアが共通して持っている。遺伝子のリストを CyOGs(Cyanobacterial clusters of Orthologous Groups of proteins)と名付け,さらに 15 種類中 14 種類以上に見つかった遺伝子を core CyOGs と名付けました。 CyOGs は 3,188 個,core CyOGs は 1,054 個見つかっています。この中には生命活動全般に関わる遺伝子が含まれていると考えられるため, さらに絞り込みも行われ,例えばシアノバクテリアと植物のみが持っている遺伝子(84 個)などもリストアップされています。 例えばシアノバクテリアの共有派生形質として 50 個の CyOGs が見つかったそうなのですが, 何とこの中で機能がわかっているのは膜タンパク質が 1 種あるだけだそうです。従って残りの遺伝子は今後の研究が望まれます。 他の光合成細菌のゲノムとの比較からも面白い結果が得られています。光合成関連の遺伝子の中で, シアノバクテリア以外の 4 系統の光合成細菌(Heliobacillus,クロロフレクスス類=緑色非硫黄細菌, クロロビウム類=緑色硫黄細菌,紅色細菌) 全てと共有していたのはバクテリオクロロフィルの合成系の遺伝子だけでした。二酸化炭素を固定する酵素である RubisCO は, 例えばクロロビウム類と Heliobacillus はもっておらず,クロロフレクスス類も別の経路を用いることが知られていました。 一方で光化学系 I の関連遺伝子はクロロビウム類や Heliobacillus と, 光化学系 II の関連遺伝子はクロロフレクスス類や紅色細菌と共通しているものがあり, 光合成細菌の間で光合成関連遺伝子がモザイク上に分布している様子が見えています。 それぞれの光合成細菌は互いに系統的に離れており,光合成関連遺伝子が水平遺伝子移動によって伝播したと思われます。 このときに機能が近く,オペロン構造をとっていた遺伝子はセットで移動したことでしょう。 しかし光合成関連遺伝子全体が系統間を移動したわけではなく,あくまでその一部が,別の系統の仕組みの中に組み込まれていったようです。 そして全ての系統に広まっているところを見ると,おそらくはバクテリオクロロフィルの合成系の伝播が, 光合成能の獲得に最も重要だったのでしょう。 また,最も多様な遺伝子を持ち(これは研究が進んでいるからかもしれない), 唯一 2 種類の光化学系を持っているシアノバクテリアが最初の光合成細菌だったと推定されました。 これはまだまだ議論と研究が煮詰まらない限り解決しない仮説ですが, 光化学系が遺伝子重複によって 2 種類になったとすると, 両方を持っているシアノバクテリアの祖先で遺伝子重複が起こったと考えるのは自然な考えかもしれません。 もっとも初めにシアノバクテリアが 1 種類の光化学系を持っていて,もう 1 種類は水平遺伝子移動で獲得した, など可能性を考えるときりがありませんが。 著者らはシアノバクテリアの祖先の系統,Procyanobacteria で光化学系 I が最初に出現し,地球が酸化的になるのに伴って, 遺伝子重複によって光化学系 II を獲得したと考えています。そして,それぞれの光化学系やバクテリオクロロフィルの遺伝子が他の光合成細菌に移動して, 現在の多様な光合成細菌が成立したと推測されました。 実際の遺伝子がどの系統で最初に出現したのかは,それぞれの遺伝子ごとに詳細な研究が必要ですが, ゲノムプロジェクトの進展によって,これまで全くの謎であった光合成の進化が見えてきつつあるようです。 おそらく光合成を一つの機構として見ること自体が間違いで, バクテリオクロロフィルや光化学系といった,それぞれの過程が,他の(化学合成?)細菌の炭素固定系などと合わさって, 全く別の光合成機構を繰り返し進化させた,と言うことなのでしょう。なんだか真核生物で繰り返し二次共生が起こったことにも似ていますね。 Mulkidjanian, A. Y. et al. The cyanobacterial genome core and the origin of photosynthesis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 13126-13131 (2006). |
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ハテナの詳細と正式名称(2006.12.07)(→藻類学) |
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旧人のゲノムプロジェクト II(2006.12.06)(→人類学) |
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揺れる動物と菌類の根本(2006.12.04) 昨年,オピストコンタ類(動物・菌類と一部の原生生物) の大系統に迫る系統樹が出版されました(動物になる前,菌類になる前)。 しかし Sumathi et al. (2006) は動物により近縁とされた Corallochytrium が, 実は菌類に固有とされていた遺伝子を持っていることを発見しました。 Corallochytrium は海産の単細胞性原生生物で,アメーバ状の胞子を放出するそうです。 系統的には寄生性のイクチオスポレア類(Ichthyosporea)との近縁性が示唆されています。 著者らは Corallochytrium の新しい培養株をアラビア海の珊瑚礁の礁湖(lagoon)より分離しました。 そして培養の研究から,この生物が無機窒素源からアミノ酸を合成していることに気づいたそうです。 特に着目されたのがリジンの合成経路である α-aminoadipate(AAA)経路の α-aminoadipate reductase(α-AAR)という酵素です。これは真菌類に特有(他,原核生物には例外あり) の酵素で,しばしば真菌類のマーカーとしても使われるそうです。著者らはこの酵素を Corallochytrium から発見し(酵素活性も確認),配列からも菌類の外側につくことを確認しました。 さらに Corallochytrium がエルゴステロール(ergosterol) を持つこともステロール類のスペクトルから確認しました。これもやはり菌類の主要なステロールで, 他には海綿など限られた生物しか持たないそうです。遺伝子的にはステロール C-14 還元酵素の配列を調べていますが, こちらの遺伝子では Corallochytrium が動物と菌類のいずれに近縁なのかは解けませんでした。 今回提出された証拠からは,Corallochytrium が動物と菌類のいずれに近いのかは明らかではありません。 しかし動物により近縁であるとした過去の研究には疑問の余地があるとも言えます。Corallochytrium と近縁らしいイクチオスポレア類については,菌類により近いとする系統樹(EF-1α の系統樹)が示されており (Ragan et al., 2003),Corallochytrium 共々菌類の根本で分かれたのかもしれません。 いずれにせよ今回のマーカーが,オピストコンタ類の根本でどのように分布しているのかを まずは調べる必要があるでしょう。 Sumathi, J. C., Raghukumar, S., Kasbekar, D. P. & Raghukumar, C. Molecular evidence of fungal signatures in the marine protist Corallochytrium limacisporum and its implications in the evolution of animals and fungi. Protist 157, 363-376 (2006). Ragan, M. A., Murphy, C. A. & Rnad, T. G. Are Ichthyosporea animals or fungi? Bayesian phylogenetic analysis of elongation factor 1α of Ichthyophonus irregularis. Mol. Phylogenet. Evol. 29, 550-562 (2003). |
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旧人のゲノムプロジェクト I(2006.12.01)(→人類学) |
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21 世紀のシダ分類(2006.11.27) かつての分類は形態のみに基づいていました。しかし分子系統樹が容易に描ける時代になると, 系統関係を反映した分岐分類が現実的に可能になってきました。 それでも厳密に系統関係を反映した分類体系が作られた分類群は未だに限られています。Smith et al. (2006) は, 形態と分子系統を統合したシダ植物の分類体系を提唱しています。 これまでの分類では現生のシダの仲間(ここではヒカゲノカズラ類は除く)は少数の目に分けられてきました (例えば加藤ほか 1997 の体系では 5 目)。 特に最も多様性に富んだ薄嚢シダ類(胞子嚢壁が 1 層の細胞からなるグループ)は単一の目にまとめられていました。 この背景には薄嚢シダ類の系統関係が不明瞭だったこともあるでしょう。しかし 2000 年以降分子情報が蓄積し, 今や薄嚢シダ類の系統もほぼ明らかとなり,系統に基づいた分類体系を作る機が熟したわけです。 著者らはシダ類の科〜綱の分類体系を大幅に見直し,すべての分類群が単系統になるようにしました。 しかもこの分類体系は分子系統樹のみに依存しているわけではなく,形態に基づいた特徴付けも行われています。 分子系統から明らかになったのは,シダ類が単系統ではないことです。広義のシダ類については, ヒカゲノカズラ類が他のシダと全く異なる,維管束植物の最初の分岐であることが示されています。 また,狭義のシダ類では真嚢シダ類(複数の細胞層からなるグループ) が薄嚢シダ類とは異なる系統を含んでいることもわかっています。 薄嚢シダ類が複数の目に分割されたこともありますが, 中でも胞子に大小の異形があることから種子植物との関連が指摘されていた水生シダ(サンショウモ目)が, 実は派生的な薄嚢シダ類であることが裏付けられ,一方で古い分類体系(例えば田川 1959) でも胞子嚢の作りなどから原始的な目に分けられていたゼンマイ目について, やはり薄嚢シダ類の最初の枝に位置づけられることが示されています。今回,これらが全て分類体系に反映されました。
-------| -------| -------ウラボシ綱ヘゴ目 | | -------| --------------ウラボシ綱サンショウモ目 | | | ---------------------ウラボシ綱フサシダ目 -------| | |---------------------------ウラボシ綱ウラジロ目 -------| | | | ----------------------------ウラボシ綱コケシノブ目 | | -------| -----------------------------------ウラボシ綱ゼンマイ目 | | | |-----------------------------------------リュウビンタイ綱リュウビンタイ目 ------| | | ------------------------------------------トクサ綱トクサ目 | | -------マツバラン綱マツバラン目 ------------------------------------------| -------マツバラン綱ハナヤスリ目 今回の改訂によって,分類と系統の間に横たわっていた混乱が解消されました。 特に薄嚢シダ類は 30 強の科が含まれますが,これが 7 目にまとめられたことで,分類の様子が捉え易くなったと思います。 科より下位の分類については今後も改善が必要とされていますが, 当面はこの分類体系が標準的なものとして使われることになるでしょう。 Smith, A. R. et al. A classification for extant ferns. Taxon 55, 705-731 (2006). 田川基二 原色日本羊歯植物図鑑 (保育社, 大阪, 1959). 加藤雅啓 編 バイオディバーシティ・シリーズ 2: 植物の多様性と系統 (裳華房, 東京, 1997). |
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単系統群だけで分類は出来ない(2006.11.22) 分岐分類の立場からは,分類群は全て単系統群でなければならないと主張されます。 一方で側系統群も認めるとする進化分類の立場もあり,論争があるそうです。Hörandl (2006) は種分化の過程や系統間の交雑を考慮すると,単系統群に基づく分類が破綻することを指摘しています。 分類の基準を何に求めるのかは長く議論がされてきました。単系統群は客観的に定義できることもあり, 分類の基本原理として用いることが受け入れやすいという事情がありました。一方で系統分化そのものを最重要視せず, あくまで形質の進化に基づいて,側系統群も認めた上で分類を行おうとする進化分類学派も存在しました。 実際には,様々な場面でどちらが現実的かは異なってくるのですが,著者は特に種分化のレベルで議論を進めています。 種分化の過程には様々なものが知られていますし,考えられますが,この著者は主な 5 つのパターンを挙げて, 多くの場合に種を単系統群とすることの問題を示しています。種 A,B,D とあったとき,B の集団の一部から D が派生した場合,B の集団が D に進化した場合,A と B の交雑種から D が進化した場合,A と B の交雑種から D が進化して B が絶滅した場合,そして単純に A と B からそれぞれ D1,D2 と D3,D4 が二叉分岐状に進化した場合, を考えると,最後の場合を除いて常に B または A と B の双方が側系統群となるか, あるいは単純な二叉分岐で表現するのが不適切(4 番目のケースなど)であると指摘しています。 高等植物の場合には属間などでも雑種形成を起こすことがあり,また科のような大きなカテゴリーについても 雑種起源の可能性が唱えられていることから,これは決して無視できない問題だそうです。 これらを踏まえて著者は,"tree of life"(生命の樹)を "stream of life"(生命の流れ) として捉えることを主張しています。 分岐分類はこのように種レベル,あるいは網目状進化(交雑など,「枝」同士が融合すると,「系統樹」 は網目状になる)が起こっているより上位の分類群には適用が困難です。一方で側系統群を許容し, 共有形質に基づく分類を唱える進化分類の方がより自然な分類を可能にすると主張されています。 この主張には見るべきところと,批判すべきところがあります。まず,解析技術が発達し, 種分化の過程や網目状進化が研究できるようになってきた以上,これを踏まえた分類体系の構築を目指すことは当然です。 この点では分岐分類には限界があり,側系統群を分類群として認める必要が出てくるでしょう。 一方で,著者の議論には土台の部分に不明瞭な点があり,結論にも修正の余地があります。 著者は種分化についての議論を展開していますが,種は分類の単位と見なして種レベルの分類は別に扱う考えがあります。 すると種が側系統かどうかは分岐分類の扱う領域ではなくなりますから,問題でもなくなるわけです。 これには我々が種や種分化という概念を未だに正確に記述,理解できていないことが背景にありますから, 単系統か側系統か,という二択で断じるべき問題ではないと思います。 同様に「系統」という概念も実は曖昧性を持っているでしょう。これが生き物の親子関係を指すのか, それとも遺伝子の複製の系譜を指すのかによって意味が変わってきます。大系統における網目状進化が, どの程度の規模で,どういった性質のもので,分類学的にどのように処理するべきか, についてはやはりまだ議論が煮詰まっていないと思います。 私的には,この著者の指摘する問題は今後検討すべき課題としても, 分岐分類の抱える問題としては致命的ではないと思っています。 系統分化のメカニズムが未だに正しく理解されていない以上, これを踏まえた分類体系が定まらないのもまたやむを得ないでしょう。どのような思想で分類を行うにせよ, 様々な問題を背景に抱えていることは覚えておかなければならないと思います。 Hörandl, E. Paraphyletic versus monophyletic taxa: Evolutionary versus cladistic classifications. Taxon 55, 564-570 (2006). |
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ツノシマクジラあれこれ(2006.11.20) クジラの系統関係はレトロポゾンの挿入パターンを利用した SINE 法によってほとんど解決しています。 ヒゲクジラの仲間についても最近論文が出版されていますが(ヒゲクジラの系統も SINE 法で〆), この時扱われていなかったツノシマクジラ(Balaenoptera omurai)の系統的位置も,同様の方法でを絞り込まれました (Sasaki et al., 2006)。 ツノシマクジラは 2003 年に記載された新種ですが(クジラの新種),近縁なニタリクジラ(B. brydei) やイーデンクジラ(B. edeni)と併せて分類が混乱していました。3 種とも形態的にはよく似ていることもあり, どれもニタリクジラとして同定されていたようです。そこで他の分子系統学的研究との対応も求められていましたが, 今回著者らはミトコンドリアゲノムの解読に加えて, SINE 法を適用してツノシマクジラの系統的位置を求めました。 これまでミトコンドリアの調節領域(control region)とシトクローム b(cytb)遺伝子の研究から, 「ニタリクジラ」に通常のものと 2 系統に分かれる小型のものがあるとされてきました。今回の研究との比較から, 通常のものがニタリクジラにあたり,小型のものがイーデンクジラとツノシマクジラに対応することが明らかになりました。 ミトコンドリアの 12 遺伝子を用いた系統解析からは,ニタリクジラとイーデンクジラが近いことが示されました。 -------ニタリクジラ-------| -------| -------イーデンクジラ | | | --------------イワシクジラ(B. borealis) ------| |--------------------シロナガスクジラ(B. musculus) | ---------------------ツノシマクジラ しかしこの解析ではツノシマクジラとシロナガスクジラとその他の 3 種の関係が解決せず,著者らはさらに SINE 法を用いています。 SINE 法の結果は基本的にはミトコンドリアゲノムの系統解析と矛盾せず,加えてニタリクジラ,イーデンクジラ, イワシクジラとシロナガスクジラに共通していて,ツノシマクジラには見られない SINE の挿入が 2 ヶ所見つかりました。 ↓↓ -------ニタリクジラ,イーデンクジラ,イワシクジラ-------| ------| -------シロナガスクジラ | --------------ツノシマクジラ しかしツノシマクジラやシロナガスクジラの種分化がごく短い期間に起こったことは間違いないでしょう。 クジラ類においては SINE 法のデータが蓄積しているため,新種の位置を確定するのも比較的容易になっています。 今回の研究でも種レベルの系統関係の解決に SINE 法が威力を発揮していますし, ミトコンドリアの系統樹と併せて説得力のある結論を導いています。そろそろクジラの系統関係については, 解決すべき問題が尽きつつあるようですが,他の生物についても同様のレベルでの研究が展開していきたいものです。 Sasaki, T. et al. Balaenoptera omurai is a newly discovered baleen whale that represents an ancient evolutionary lineage. Mol. Phylogenet. Evol. 41, 40-52 (2006). |
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真核の根を決める鍵,アプソモナス(2006.11.17) 真核生物の系統関係が明らかになるにつれて,幾つかの大グループの存在が明らかになってきています。 しかし一方で,分子系統を用いても所属の分からない原生生物も少なからず存在します。 そんな原生動物の仲間,アプソモナス科(Apusomonadidae)の研究から,この生物が真核生物の根元付近, 系統的に極めて重要な位置を占める可能性が出てきました(Kim et al., 2006)。 アプソモナス科には Apusomonas と Amastigomonas の 2 属が含まれています。micro*scope に掲載されている写真を見ると,いずれも独特の姿をしていることが分かります ( Apusomonas,Amastigomonas)。両者は二鞭毛性の原生動物で,水底を這うようにしてバクテリアを捕食するそうです。 アプソモナス科は当初 SSU rRNA の系統解析からオピストコンタ(動物,菌類とこれに近縁な原生動物)と近いと考えられましたが, これは余り強くは支持されていませんでした。後にオピストコンタとアメーバ動物(アメーバの一群)以外の, 祖先的に鞭毛を 2 本持った真核生物(バイコンタ)が固有の融合遺伝子(DHFR-TH 遺伝子) を持っていることで特徴づけられるとの説が示されました。このとき Amastigomonas にも融合遺伝子が見つかり, アプソモナス科はバイコンタの根元近くで分かれた生物と考えられました(Stechmann & Cavalier-Smith, 2002)。 これ以降,アプソモナス科に関するめぼしい研究はありませんでしたが,今回の著者らは,真核生物の大系統を明らかにするために, このグループもまた重要であると考えて複数遺伝子に基づく系統解析を行っています。用いられたのは SSU rRNA,LSU rRNA, α-チューブリン,β-チューブリン,アクチン,Hsp90 の 6 遺伝子で,生物種についても,Cyanophora(灰色植物門), Thaumatomonas(アメーバ鞭毛虫門),Goniomonas(クリプト植物門),Leucocryptos(カタブレファリス門)など, 系統的に興味深いながらもサンプリングが不十分だった生物の遺伝子を集めています。解析に際しても, 用いる生物種の組み合わせや解析方法などを変えて,どのような系統仮説が支持されるのかが検証されています。 系統解析の結果,アプソモナス科はオピストコンタの姉妹群になる可能性が最も強く支持されました。一方で, アプソモナス科がアメーバ動物やユニコンタ(unikonts: オピストコンタ+アメーバ動物)の姉妹群になる可能性も棄却されませんでした。 真核生物の根が決まっていないことを踏まえると,最後の仮説は,アプソモナス科が他のバイコンタの姉妹群となる可能性も 同時に示唆しています。 DHFR-TS の融合遺伝子の分布を考えると,アプソモナス科がオピストコンタの姉妹群になる場合,融合遺伝子が収斂進化, あるいはオピストコンタとアメーバ動物の双方で再び分かれたことになるため,疑問の残るところでもあります。 また今回の結果は,これまで祖先的に一鞭毛だったと言われてきたユニコンタが,実は二鞭毛性の祖先を持つ可能性も指摘しています。 いずれにしても,アプソモナス科が真核生物の 3 大グループ(バイコンタ,オピストコンタ,アメーバ動物) の根元に近いことは確からしく,今後は一層の注目が集まることでしょう。 今回の系統解析では,部分的ながらクリプト植物門とカタブレファリス門が姉妹群になることが支持されています。 クリプト藻が藻類になる前でも両者の近縁関係を紹介しましたが, 今回は LSU rRNA のデータでも支持されたそうです。残念ながらタンパク質コードの遺伝子ではカタブレファリス門の位置は解けておらず, 6 遺伝子の結合系統樹でのみ一定の支持が得られています。一般にはマニアックな研究に見えるかも知れませんが, 真核生物の最初の分岐を明らかにすることは進化の研究において極めて重要であり,これを明らかにするためにはさらなる 「無名の」原生生物の系統解析が望まれます。 Kim, E., Simpson, A. G. B. & Graham, L. E. Evolutionary relationships of apusomonads inferred from taxon-rich analyses of 6 nuclear encoded genes. Mol. Biol. Evol. 23, 2455-2466 (2006). Stechmann, A. & Cavalier-Smith, T. Rooting the eukaryote tree by using a derived gene fusion. Science 297, 89-91 (2002). |
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続報:AIDS のグラウンド・ゼロ(2006.11.13)(→医学) |
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真菌類の大規模系統解析(2006.11.10) 陸上へと進出を果たした多細胞生物のうち,動物と植物については系統学的研究が盛んに行われています。 しかしやはり陸生多細胞生物を含む真菌類については,未だに重要な系統関係がほとんど調べられていません。 James et al. (2006) は 200 種近くの真菌類について 6 遺伝子の結合系統樹を描いて菌類の門レベルの進化を調べています。 真菌類は,最近原生生物から移された微胞子虫門を含めて 6 つの門に分ける研究者が多いかと思います。このうち微胞子虫門, グロムス菌門,子嚢菌門および担子菌門はそれぞれ単系統と認められており,残りのツボカビ門と接合菌門は非単系統と見られています。 この中でツボカビ門は鞭毛期を持つことから祖先的なグループと考えられ,また子嚢菌門と担子菌門は生活環の中に細胞が 2 核を持つ時期を含むことが特徴で,互いに近縁と見られていました。この他, 微胞子虫門は典型的なミトコンドリアを欠いた細胞内寄生虫として, グロムス菌門はほとんどの陸上植物に共生する菌根菌としてそれぞれ重要で,その系統的位置が注目されていました。 そこでこれまでより種数と遺伝子数を共に増やして系統樹を描き,これらの問題に迫る研究が行われたわけです。 解析には 18S rRNA,28S rRNA,5.8S rRNA,EF1α,RPB1,RPB2 が用いられましたが, ベイズ法と最尤法の解析が行われ,少なくともベイズ法ではほとんどの枝が解けたそうです。もっとも,ベイズ法は評価が甘く出るので, 最尤法で解けてない部分については慎重に検討する必要があるでしょう。しかしまずベイズ法の結果を軸に紹介します。 まずツボカビ門は他の研究からも示唆されていたように単系統ではないことが示されました。 すなわち鞭毛の喪失が複数回起こったと推定されました。微胞子中類や幾つかの接合菌そしてより派生的な菌類に至る系統で, 4〜6 回鞭毛が失われたようです。同時に接合菌の単系統も否定されたため,ツボカビ門と併せて門レベルの分類に見直しが必要です。 おそらくより興味深い結果としては,微胞子虫類の位置が絞り込まれたことがあります。 微胞子虫類はこれまで最初期の真核生物とされたり,比較的派生的な独自の菌類の系統と推定されてきましたが, 今回の解析からはツボカビ類の Rozella allomycis が微胞子虫類の姉妹群とされ,両者は菌類で最初に分岐した枝に位置しました。 この系統的位置についてはまだ確定ではないとしても,Rozella が姉妹群になるというのは面白い話です。 というのは,このツボカビ類は別のツボカビ類(Allomyces)に細胞内寄生するのです。 従って,細胞内寄生する微胞子虫類の姉妹群としては相応しい生き物と言えるでしょう。 微胞子虫類の位置に比べるとやや見劣りする話ですが,グロムス菌門の系統的位置も絞り込まれました。 この菌根菌は,これまでの系統解析から担子菌と子嚢菌の共通の祖先から分岐した可能性が弱く指摘されていましたが, 今回の解析からもこの位置が支持され,派生的な菌類の進化過程を探る上で改めて注目を集めそうです。 -------子嚢菌門-------| -------| -------担子菌門 | | -------| --------------グロムス菌門 | | | ---------------------接合菌門 -------| | | ---------------------接合菌門 | | | | -------| -------接合菌門 -------| | ?------| | | -------| -------ツボカビ門 | | | -------| | --------------接合菌門 | | | | | -----------------------------------ツボカビ門 -------| | | | ------------------------------------------ツボカビ門 | | ------| -------------------------------------------------ツボカビ門 | | -------微胞子虫門 -------------------------------------------------| -------ツボカビ門 この論文は系統解析の論文としては異様な体裁をしています。というのも,著者の人数がゲノムプロジェクト並みで, 国際色豊かになっています(日本人も含まれています)。 これは,形態学の研究者や分子系統の研究者が共同してプロジェクトを進めたためで, 今後の系統分類の方向性を暗示するようにも見えます。分類学はこれまで個人主義の学問と思われがちでしたが, 実際に望まれる研究は学際的な研究であるため,これからはプロジェクトチームを組んでの分類学,が広まっていくかも知れません。 James, T. Y, Reconstructing the early evolution of Fungi using a six-gene phylogeny. Nature 443, 818-822 (2006). Bruns, T. A kingdom revisied. Nature 443, 758-761 (2006). |
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珍渦虫が拓く新しい門(2006.11.06) 珍渦虫は非常に単純な体制をした謎の動物で扁形動物に含められたり,退化した軟体動物とされたこともありました。 現在では珍渦虫は新口動物に含まれるとされていますが(珍渦虫の衝撃),その中での位置づけは確定していません。 Bourlat et al. (2006) は EST やミトコンドリアゲノムの情報に基づき系統解析を検証しています。 新口動物には通常,棘皮動物門(ウニ,ヒトデなど),半索動物門(ギボシムシなど),脊索動物門(脊椎動物など)の 3 門が含まれ, 脊索動物門は頭索動物亜門(ナメクジウオ),尾索動物亜門(ホヤなど),脊椎動物亜門に分けられます。 これらの系統関係については下記の仮説が有力視されていました。 -------棘皮動物門--------------| | -------半索動物門 | ------| --------------尾索動物亜門 | | -------| -------頭索動物亜門 -------| -------脊椎動物亜門 珍渦虫は系統解析や遺伝暗号の進化に基づき,棘皮動物と半索動物(併せて Ambulacraria)の姉妹群と考えられましたが, 半索動物により近縁な可能性も指摘されており,結論が出ていません。これとは別に,100 を超える遺伝子を用いた解析から, 脊椎動物の姉妹群が尾索動物で,頭索動物はむしろ棘皮動物に近縁かも知れない(半索動物は調べられていない), という仮説が登場しました(脊椎動物の起源を見直すとき)。 どちらも脊椎動物の祖先形質を探るためには無視することの出来ない問題であり,さらなるアプローチが待たれていました。 今回の著者らは OTU を増やすことで新口動物の系統関係が解けると予想し,半索動物と珍渦虫,そして棘皮動物 1 種の EST 情報を追加して系統解析を行いました。種によって得られるデータの量が異なっていたため, 様々な組み合わせで系統解析が行われていますが,珍渦虫については 63 遺伝子から 8,370 アミノ酸が用いられています。 さて核遺伝子の結果ですが,新しいデータを加えない場合,頭索動物は脊椎動物の姉妹群になりましたが, OTU が追加されると頭索動物は尾索動物と脊椎動物(併せて Olfactores)の姉妹群になり,脊索動物の単系統性が再確認されました。 一方で棘皮動物と半索動物が姉妹群で,珍渦虫はその外側に位置することも裏付けられました。 これらの結果の違いは尾索動物の遺伝子の進化速度が極端に速く,同様に進化速度の速い脊椎動物とくっついた可能性が指摘されてます。 ミトコンドリアゲノムの解析からも,やはり珍渦虫は Ambulacraria の姉妹群となりました。 尾索動物はやはり進化速度が速く新口動物からも外れてしまいましたが,代わりに頭索動物が脊椎動物の姉妹群に位置し, 核遺伝子の結果を支持しました。なお棘皮動物と半索動物では遺伝暗号が変わっており,アミノ酸利用に差がある可能性もありましたが, 影響を受けるサイトを排除して系統解析を実行しています。 ミトコンドリアの結果を踏まえてもどうやら核遺伝子の結果が正しいようです。 -------棘皮動物門-------| -------| -------半索動物門 | | | --------------珍渦虫 ------| | --------------頭索動物亜門 | | -------| -------尾索動物亜門 -------| -------脊椎動物亜門 珍渦虫については完全に独立した系統であることが示されたため,Xenoturbellida という新門として扱うことが提唱されました。 同時に Ambulacraria と Xenoturbellida を併せた Xenambulacraria という系統群名も提唱されています。 比較的穏当な結論に落ち着いたところで,新口動物の形態進化についても見直しや再評価が行いやすくなったことと思われますが, 珍渦虫の体制が極度に単純(中枢神経も複雑な感覚器官も欠く。肛門もない)で, 発生過程などの観察がない限り分かることは少ないかも知れません。また尾索動物や脊椎動物の遺伝子進化の速度が速く, 解析に困難が残っていることには違いなく,最終結論に至るにはまだ一歩研究が必要でしょう。 後生動物の系統解析には Hox 遺伝子のクラスターの作りなども良い指標になると言われますが (Hox 遺伝子と半索動物の位置 も参照),珍渦虫についても Hox 遺伝子のパターンが気になります。 EST などが調べられているところを見ると,この著者らも Hox 遺伝子の研究を行っていることでしょう。 珍渦虫では Hox 遺伝子が単純化していることも予想されますが,研究の進展が楽しみですね。 Bourlat, S. J. et al. Deuterostome phylogeny reveals monophyletic chordates and the new phylum Xenoturbellida. Nature 442, 85-88 (2006). |
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粘菌生活の進化(2006.10.31) 細胞性粘菌は「菌」と呼びますが実はアメーバの仲間です。 アメーバが集合して複雑な子実体を形成することから,社会性アメーバと呼ばれることもあり,また細胞分化も起こることから, 多細胞への進化のモデル系として重宝されています。Schaap et al. (2006) は 100 株以上の細胞性粘菌を用いて, 初めて細胞性粘菌の大規模な系統学的研究を行いました。 細胞性粘菌(アメーバ動物門タマホコリカビ綱)には一般に 3 属が含められています(100 年以上追加報告のない Coenonia を含める場合もあり)。タマホコリカビ属(Dictyostelium)が最も種数が多く, 子実体は細胞の詰まった分岐しない,あるいは不規則に分岐する柄を持ちます。ムラサキカビモドキ属(Polysphondylium) の子実体は輪生する分枝を持つ特徴的な柄(やはり細胞が詰まっている)を持ちます。 最後の Acytostelium 属の子実体は,細胞のない中空の柄を持つことが特徴です。これらの 3 属の単系統性や系統関係については, これまでほとんど分かっていませんでした。 著者らの系統解析の結果,細胞性粘菌には 4 つの大きな単系統群が認められました(Group 1〜4)。 Group 1,3,4 はいずれもタマホコリカビ属のみを含み,group 2 にはタマホコリカビ属,ムラサキカビモドキ属, Acytostelium と全ての属が含まれました。このようにタマホコリカビ属は祖先的な非単系統群であることが示されましたが, ムラサキカビモドキ属も,基準種であるムラサキカビモドキ(P. violaceum)が group 2 には含まれず, 同じく胞子塊が紫色を帯びる D. laterosorum と共に,group 4 に近縁か,group 3 と 4 の姉妹群となりました。 Acytostelium のみは,A. elliptium の系統的位置が不明瞭ですが,単系統群の可能性があります。 各グループごとに形態的特徴の比較も行われていますが,それぞれに固有の明確な形質は見つかっていません。 しかしおおよその傾向はあるようで,group 1 は全て小型の胞子(50μm3 以下)を持ち,Parvispora と名付けられました。 Group 2 は子実体の形態が多様で,胞子の端にある顆粒が分散している種を多く含みます(Heterostelids)。 Group 3 も 1 と同様に胞子が楕円形で胞子中の顆粒が凝集していますが,より大きな胞子を持つものを多く含みます。 また,一部の種の子実体が根のような支持体を持つため,Rhizostelids と名付けられました。 Group 4 は比較的大型の種を含み,その結果なのか子実体が様々な支持体を持ちます。なお,この系統は胞子が通常,顆粒を含みません。 この系統にはタマホコリカビ属の基準種であるタマホコリカビ(D. mucoroides)やモデル生物のキイロタマホコリカビ (D. discoideum)を含むため,Dictyostelid の名称が充てられています。 -------Group 4:Dictyostelid(比較的大型の子実体。胞子に通常顆粒無し。タマホコリカビ属のみ)| -------|------P. violaceum など(胞子塊が紫色) | | -------| -------Group 3:Rhizostelids(胞子は特に小型ではない。タマホコリカビ属のみ) | | ------| --------------Group 2:Heterostelids(子実体が多様。胞子中の顆粒が分散する傾向。3 属すべて) | ---------------------Group 1:Parvispora(胞子が小型。タマホコリカビ属のみ) 子実体の形態はいわばアメーバの集団の「行動」様式を示しているため,これが系統を反映しないのは理解できなくはありません。 しかし似たような形態が複数回進化したことは,このような「行動」の制御が意外に単純な仕組みで説明できる可能性を示唆しています。 また,著者らが指摘している興味深い事実として,キイロタマホコリカビでは胞子塊の支持のために細胞分化が進んでおり, 細胞の種類が増える(体制が複雑になる)ことと,子実体(細胞集団とも解釈できる)のサイズの増大が関係していたそうです。 単に系統樹を描いただけ,と言えばそれまでな論文ですが,形態の進化,多細胞への進化,というキーワードを踏まえてみると, 中々示唆に富んだ論文だと思います。今後はモデル生物のキイロタマホコリカビだけでなく, 形態の進化の上で興味深い種をこの系統樹から選び,詳細な研究へと繋がれば良いと思います。 また,分類の観点からは,各属が単系統になるように分類学的な整理を是非進めて欲しいものです。 おそらく細胞性粘菌は 10 属程度に分かれることになるように見えますが,如何でしょうか? Schaap, P. et al. Molecular phylogeny and evolution of morphology in the social amoebas. Science 314, 661-663 (2006). |
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ヤツメウナギの永い寄生生活(2006.10.30)(→古生物学) |
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維管束植物に近いコケは?(2006.10.28) 陸上植物のうち,ヒカゲノカズラ類,シダ植物と種子植物を併せて維管束植物と呼びます。 この他の系統はコケ植物と総称されますが,実はコケ植物を代表する 3 つの系統,すなわち蘚類,苔類,ツノゴケ類, と維管束植物の間の系統関係は難問として残されていました。Qiu et al. (2006) は複数の分子系統学的情報に基づき, 陸上植物では苔類が最初に分岐し,ツノゴケ類が維管束植物の姉妹群になるという結論を導いています。 蘚類(蘚植物門),苔類(ゼニゴケ植物門),ツノゴケ類(ツノゴケ植物門),維管束植物(維管束植物門)の 4 群の系統関係についてはこれまでにも多くの研究がありますが,解析方法などによって結果がまちまちになり(参考:岩月 ほか, 1997; Goffinet, 2000),誰も確かなことが言えない状態でした。以下に,Goffinet (2000) にまとめられていた 6 つの系統仮説を示します。 例えば Goffinet (2000) では,B の系統仮説に基づいて形態進化の議論を展開していますが,議論は暫定的なものに過ぎません。
著者らはこの状況を打開するため,現在手に入るデータを最大限に活用して系統解析を行いました。 具体的には 6 つの葉緑体コード遺伝子,1 つのミトコンドリアコード遺伝子および 1 つの核コード遺伝子を陸上植物と, 近縁な藻類併せて 193 種について解析した複合系統樹,ミトコンドリアゲノムに見つかる 28 ヶ所の group II イントロンの有無に基づく 16 種を含んだゲノム構造の系統樹,そして 36 種 67 遺伝子の情報に基づく葉緑体ゲノムの系統樹, を描いています。 複合系統樹の結果は A の系統仮説を強く支持しており,他のいくつかの対立仮説もどうやら棄却されるようです。 ゲノム構造の系統樹からは苔類が最初に分岐したことが強く支持され,一方で蘚類とツノゴケ類,維管束植物の関係は解けていません。 葉緑体ゲノムの系統樹からは,全てのサイトを用いた場合 A の系統樹が強く支持されましたが,用いるコドンを限定した場合や, アミノ酸に基づいて系統解析を行った場合には別の系統樹が支持されることもありました。 なお,B〜E の系統樹はいずれの解析からも棄却されています。なお,コケ植物の各門の単系統性については,複合系統樹, ゲノム構造の系統樹のいずれからも示されています。 今回の系統解析が過去のものと異なる理由としては,より多くの分類群,特にヒカゲノカズラ類が含まれたことが挙げられています。 つまり過去の対立仮説は含まれる分類群が少なかった結果の誤りと考えられています。 多少不確定な部分もあるようですが,系統樹を全体で評価すると,A の系統仮説が最も真実に近いようです。 苔類が最初に分岐したとする仮説は比較的受け入れられやすいそうですが,ツノゴケ類が維管束植物と近いとする考えは, 幾分驚くべき結果だそうです。著者らはこの点についてツノゴケ類と維管束植物の類似点を詳細に議論しており, 多くの形質やさらに化石植物について今後の見直しが必要であると主張しています。 重要そうな点としては,ツノゴケ類の胞子体は他のコケ植物とは異なり,全体が緑色で光合成能を有していることが挙げられます。 さらに通常コケ植物では胞子体が配偶体に寄生していると言われますが,ツノゴケ類の胞子体は配偶体への依存が低く, 場合によっては 3 ヶ月間も独立に培養された例があるそうです。 このことは胞子体が完全に独立して,むしろ生活環の主要な部分を占めている維管束植物との関連を示しているように思えます。 もう少し裏付けるような証拠が欲しいのは間違いありませんが,今後しばらくの間,陸上植物の初期進化の議論の土台として, 今回支持された A の系統樹を考えるのがいいのかもしれません。 Qiu, Y.-L. et al. The deepest divergences in land plants inferred from phylogenomic evidence. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 15511-15516 (2006). Goffinet, B. in Bryophyte Biology (eds. Shaw, A. J. & Goffinet, B.) 124-149 (Cambridge University Press, Cambridge, 2000). 岩月善之助, 北川尚史 および 秋山弘之 in バイオディバーシティ・シリーズ 2: 植物の多様性と系統 (加藤雅啓 編) 42-74 (裳華房, 東京, 1997). |
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NJ 法,って結局なぁに ?(2006.10.23) 近隣結合法(NJ 法)は簡便で計算の早い系統解析法として定着していますが, NJ 法がどのような基準に基づいて系統樹を作っているのか, どのような性質の系統樹が作られるのかは直感的にはわかりにくいところがあります。 Gascuel & Steel (2006) は NJ 法の特性や類似の系統解析法について近年の研究をまとめています。 NJ 法は距離法の 1 種で,それぞれの操作的分類単位(OTU)間の遺伝的距離を計算し, これをもとにして系統樹を構築します。この距離行列から特定の計算式に従って最も「近い」2 つの枝(近隣)を選びます。 次に,選んだ 2 本の枝を併せた節を考え,これを一つの OTU として新しい距離行列を作ります。 その後,新しい距離行列を元に次の近隣を選び,ということを繰り返して系統樹を作ります。 NJ 法が本当に系統解析法として有用なのかは議論のあるところですが, 十分なデータのもとで正しい系統樹が再現できるかという一致性(consistency)については最近証明されたそうです。 もう一つの問題として,NJ 法がどのような目標の下に系統樹を作っているのか,という疑問が挙げられています。 例えば最小進化(ME)法であれば系統樹の枝の長さの総和を,最尤(ML)法では系統樹の尤度をそれぞれ指標にして, これを最適化する樹形を探索します。しかし NJ 法では各ステップでは「通常の最小二乗(ordinary least squares:OLS)法」 と同様のものと考えられるそうです。OLS 法では,2 OTU 間の枝の長さの和と, 2 OTU を直接比較した時の距離の差の二乗の和が小さくなるような系統樹を求めます。これは系統樹の枝の長さを短くする, という意味で ME 原理に基づいているとも言えます。 しかし NJ 法では距離の最適化を各ステップで行っているだけで,樹形全体を見たときには必ずしも OLS 基準を満たしていないとも指摘されています(理論,シミュレーション双方から)。 また,OLS 基準が厳密に当てはまるのは最初のステップだけで,一度二つの枝が結びつけられた後はその限りではないそうです。 著者らはこの点をさらに熱心に追求し,2000 年に提唱された "balanced minimum evolution"(BME) という系統樹全体の長さを計算する方法を紹介しています。実は NJ 法は各ステップにおいて,系統樹全体 (一度結びつけられた枝も含む!)の BME 基準を最適化するようになっているそうです。つまり,NJ 法では BME 基準に従って, 最小進化系統樹の近似を求めようとしている,ということが出来るのです。 逆に言えば,各ステップごとに BME の最適化を行うのではなく,系統樹全体の中で BME を最適化する系統樹を探せば, それは NJ 法と同じ思想のもとで NJ 法より優れた系統解析になるはずです。これは一種の ME 法であり, 既に FastME というプログラムに実装されているそうです。 もっとも,実際の系統解析においてはブートストラップ値などによって,各単系統群の信頼性を評価することが求められます。 NJ 法と FastME の結果が異なるような微妙な場合には,信頼度も低くなることが予想されるため,無理に時間をかけて FastME を使う必要がどこまであるのかはわかりませんが。 Gascuel, O. & Steel, M. Neighbor-joining revealed. Mol. Biol. Evol. 23, 1997-2000 (2006). 参考: 根井正利 および クマー, S. 分子進化と分子系統学 (培風館, 東京, 2006). |
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円網の発明 III(2006.10.21)(→古生物学) |
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リザリアはどこか?(2006.10.18) 真核生物の大グループの中で,リザリア(Rhizaria)というグループだけは,大系統に関する研究が遅れていました。 Burki & Pawlowski (2006) はリザリアに含まれる有孔虫(Foraminifera有孔虫門)の一種(Reticulomyxa filosa)の EST から得られた多数の遺伝子に基づき,真核生物におけるリザリアの位置づけを解析しています。 リザリアは真核生物に認められているいくつかの大グループの中で,特に注目されてこなかったグループです。 それでもメンバーが絞り込まれると同時に内部の系統関係が示され(アメーバの系統関係を示すユビキチン遺伝子の証拠 ),原生生物の分類表で 6 大グループの 1 つとして扱われるようになると(原生生物の「公式」分類体系), 幅広い研究も行われるようになってきています。 著者らはこれまで研究が多かったクロララクニオンの仲間(Bigelowiella natans;アメーバ鞭毛虫門クロララクニオン藻綱) と有孔虫の遺伝子を含めて,37 種 85 遺伝子(13,258 アミノ酸残基)を用いた系統解析を行いました。 さらに,クロララクニオンは水平遺伝子移動の影響を大きく受けているとの指摘があったことからこれを省いた系統解析など, OTU やアミノ酸残基を様々に調節して解析しています。 系統解析の結果,クロララクニオンと有孔虫の単系統性は強く支持されましたが, しかしリザリアの系統的位置については部分的に明らかになりませんでした。まず,真核生物が大きくアメーバ動物類(Amoebozoa), オピストコンタ類(opisthokonts:動物+菌類),バイコンタ類(bikonts:植物,多くの原生生物)に分けられることは確認されました。 そしてリザリアはこれまでと同様にバイコンタ類に含まれました。バイコンタ類の中では最初に植物界(ここでは緑色植物と紅色植物) が分岐し,残るエクスカヴァータ類,リザリア類,ストラメノパイル類,アルベオラータ類の間の関係はよく解けませんでした。 条件を変えていくつもの系統樹を描いた結果からは,リザリアがエクスカヴァータの姉妹群である可能性が最も支持され, 次いでストラメノパイルと姉妹群になる可能性が示唆されています。しかしいずれにせよ系統樹が解けたとは言い難いでしょう。 今回の解析からバイコンタの系統関係を明らかにするのは,多数の遺伝子を用いたとしても困難であることが改めて浮き彫りになりました。 クロララクニオン藻は色素体二次共生の影響で遺伝子の進化が普通ではない可能性もあり, また有孔虫も従来から進化速度が速いグループとして有名だったため,より進化速度の遅いリザリアのメンバーをいくつか探して, これらに基づいて系統解析を行えば結果が改善されることはあるかも知れません。しかしより期待できるのは,EST やゲノムの情報から, アミノ酸の欠失や水平遺伝子移動の産物などにグループ間で共通点がないかを探す方法でしょう。 リザリアが本格的に解析に加わったことにより,いよいよ真核生物の大系統が網羅的に議論できるようになってきました。 まだクリプト藻,ハプト藻,有中心粒類の太陽虫など,欠けているグループや,リザリアも含めて研究が不十分なグループもありますが, 次はその穴埋めが進むのが楽しみです。 Burki, F. & Pawlowski, J. Monophyly of Rhizaria and multigene phylogeny of unicellular bikonts. Mol. Biol. Evol. 23, 1922-1930 (2006). |
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細胞内共生細菌のなれの果て 2 〜究極のニート(2006.10.16) (→その他) |
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細胞内共生細菌のなれの果て 1 〜オルガネラと生物の狭間(2006.10.14) (→その他) |
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卵菌類のゲノムに潜む藻類の影(2006.10.10)(→その他) |
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ヒゲマワリは収斂進化のタマモノ(2006.10.05)(→藻類学) |
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真核生物の大系統を水平に切る(2006.10.03) 真核生物の大系統の解析には多遺伝子解析や稀な遺伝子変異(遺伝子融合や大規模なアミノ酸欠失など) が用いられていますが,重要な系統の類縁関係の多くが未だに解決していません。Huang & Gogartem (2006) は遠縁な生物(例えば原核生物)から真核生物への水平遺伝子移動が系統解析に活用できるとの見解をまとめています。 複数の遺伝子を用いた系統解析からは,真核生物の大系統群を識別することはできましたが (原生生物の「公式」分類体系),その間の系統関係の多くは解決に至っていません。 例えば植物界の扱いなどについては論争が続いています(巨大な植物界 などを参照)。 一方で,タンパク質のアミノ酸挿入・欠失は有効な系統マーカーになりますが (例えばアメーバの系統関係を示すユビキチン遺伝子の証拠),系統解析に有用な挿入・欠失は数が少なく, 真核生物の系統全体を明らかにするには不十分のようです。 そこで著者らが着目しているのは遺伝子の水平移動に基づく系統推定です。最近出版された二つの論文は, 古細菌からの水平遺伝子移動によって動物と菌類が単系統群を構成すること(好塩性古細菌は見た! 〜 結びつく動物と菌類)やディプロモナス類と副基体類の近縁性(古細菌から寄生虫への遺伝子移動) を示しています。 遺伝子の水平遺伝子移動は比較的稀な出来事であり,複数の系統で同じ水平遺伝子移動由来の遺伝子が見つかれば, これらの系統の近縁性が支持されるでしょう。稀とはいえアミノ酸配列の挿入・欠失などに比べて見つかりやすいと思われます。 特に系統解析と併せることで,水平遺伝子移動が同一の生物起源なのかどうか,どの程度保存的な遺伝子なのかどうか, など付帯的な情報も得られる点で優れた系統解析法であると考えられます。 一方で,水平移動で入った遺伝子が失われることや,別々の生物で似たような遺伝子が入る場合も警戒しなければなりません。 これも十分な種数の系統解析が行われれば解決できる問題だと思います。 予備的な研究ながら,著者らも水平遺伝子移動から系統推定が行える例を 2 つ示しています。 いずれも紅藻と緑藻の近縁性を示す証拠で,一つは古細菌から由来する topoisomerase VI β-subunit で, これは系統解析,アミノ酸の置換,欠失の様子から,クレンアーキオタから紅藻・緑藻の祖先に水平移動したと推定されます。 もう一つは florfenicol resistance タンパク質の遺伝子で,これはガンマプロテオバクテリアからの水平移動です。 同じ遺伝子はアピコンプレクサや細胞性粘菌など他の真核生物にも見つかりますが, いずれも別々の系統からの水平移動と思われます。 紅藻と緑藻(および今回調べられていない灰色藻)からなる一次共生藻のグループが単系統群を作るのかどうかは, 光合成真核生物の進化を考える際に最も重要なテーマの一つです。しかし未だに論争には決着がついておらず, 今回の遺伝子が最終決着に役立つことに期待したいところです。今後は他の重要な真核生物にこの遺伝子が存在するのかどうか, 未だにゲノムがよく調べられていない生物も含めて探索することが必要で, 可能ならば水平遺伝子移動の証拠をさらに収集することが望まれます。遺伝子の配列比較に基づく系統推定が行き詰まりつつある中, 水平遺伝子移動を用いる手法は,ゲノム情報の蓄積に伴って益々注目を集めるようになるでしょう。 Huang, J. & Gogarten, J. P. Ancient horizontal gene transfer can benefit phylogenetic reconstruction. Trends Genet. 22, 361-366 (2006). |
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続報 2:始祖鳥は鳥の始祖ではないのか?(2006.09.29)(→古生物学)
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染色体の形態進化(2006.09.27) 染色体の進化に着目した分類は,植物においてしばしば行われます。カヤツリグサ科のクロハリイ(Eleocharis kamtschatica)は種内でも核型に多型があり,Yano & Hoshino (2006) はその詳細を調べています。 以前の研究でカヤツリグサ科のハリイ属(Eleocharis)で系統関係と核型の進化が調べられていました(Yano et al., 2004)。核型の進化はある程度系統を反映しており,ハリイ属の中にも多数の小さな染色体を持つもの, 大きな染色体から小さな染色体までを持つもの,などがいることが明らかにされていました。クロハリイは大きな染色体と小さな染色体の 2 種類を持ち,調べられた 19 分類群のハリイ属の中で唯一核型に多型が見つかっていました。 著者らは新たに国内の 4 ヶ所とアラスカから得られたクロハリイの核型を調べました。その結果,染色体数が 41〜47 本と大きくばらつくことが示されました。大型の染色体の個数も 8, 10, 11, 12 と 4 通り,小型の染色体の個数も 31, 34, 35, 37 とやはりばらついています。染色体のサイズに顕著な変化がないことから, この異数性はそれぞれの染色体が倍加した結果だと考えられています。 興味深いことに,Yano et al. (2004) の結果を見ると,クロハリイは染色体数が 16 本(大 4 本,小 12 本) の仲間から派生した可能性が高いようです。クロハリイの多くの個体では大 8 本,小 34 本(計 42 本)の染色体を持っており, 一度の倍加と,小型の染色体の増加を経験して来たと推測されます。クロハリイの種内でも染色体数に多型があることを考えると, 染色体数が変化する際に,染色体数が不安定になる状態が続き,いずれまた安定する,といった進化が起こっているとして, クロハリイは今まさに染色体数が不安定な段階にある生物なのかも知れません。 さらにデータをよく見ると,サンプル数が比較的多い北海道胆振支庁勇払の個体群では染色体多型が著しい(全てのタイプが存在する) のに対して(典型的な 42 本の核型のものは 28 サンプル中 10 サンプル), ほぼ同じサンプル数が調べられている北海道釧路支庁白糠の個体群ではほとんどの個体が 42 本の染色体を持つ典型的なタイプで (24 サンプル中 20 サンプル),核型の種類は 3 種類(41, 42, 43)しか認められませんでした。 このような個体群ごとの核型の多型の違いは,種が分布を拡げる過程で核型の組成が変化していることを示唆しているようにも思えます。 クロハリイは染色体の形態に着目したとき,進化の過程にある生物に見えます。今後各地の個体群が詳細に調べられると, さらに面白い現象が見つかるかも知れません。 Yano, O. & Hoshino, T. Cytological studies of aneuploidy in Eleocharis kamtschatica (Cyperaceae). Cytologia 71, 141-147 (2006). Yano, O., Katsuyama, T., Tsubota, H. & Hoshino, T. Molecular phylogeny of Japanese Eleocharis (Cyperaceae) based on ITS sequence data, and chromosomal evolution. J. Plant Res. 117, 409-419 (2004). |
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続報:もう一つの葉緑体(2006.09.21)(→藻類学)
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シダの木登り一歩ずつ(2006.09.18) 地面ではなく樹木の表面などを生活場所にしている植物を着生植物と言います。着生植物はコケ,シダ, ランなど様々な植物で進化していますが,Tsutsumi & Kato (2006) はシノブ科(Davalliaceae:薄嚢シダ綱シダ目) とその近縁群における着生性の進化を,野外調査と分子系統の結果を併せて議論しています。 著者らが着目しているシノブ科は 50〜130 種程度の着生性の種からなっています。著者らはシノブ科や近縁なシダの生活型を, 屋久島やインドネシア,タイ,マレーシア,オーストラリアなどで観察し,特に成長に応じた生活場所の変化に着目しています。 そしてシダの仲間を climber(地生性半着生),secondary hemi-epiphyte(着生性着生),obligate epiphyte(真正着生), terrestrial(地生)の 4 タイプに分けています。 地生植物は普通に地表に生えているシダで,地生性半着生は根を地中に張ったまま茎が樹表を這い登るタイプのものを指します。 着生性半着生植物と真正着生植物はいずれも成体では樹上で生活を賄いますが,着生性半着生植物は地上で発芽して, 樹を登って後に土中からの水分,養分の供給なしに生活するものを指し,真正着生植物は樹上で発芽して, 初めから自給自足している植物を指します。 これらのうちのどのような生活型から真正着生植物が進化したのかを明らかにするために,rbcL と accD 遺伝子が系統解析に用いられました。その結果,シノブ科はやはり真正着生性のシダを多く含むウラボシ科(Polypodiaceae) と姉妹群の関係にあることが示されています。さらに系統樹に基づいて生活型の進化の方向性が推定されています。 最尤法の系統樹と最節約法の系統樹で推定が大きく異なっているようですが(樹形はシノブ科と離れた系統で僅かな違いがあるだけですが), シノブ科とウラボシ科の真正着生性は着生性半着生植物か地生性半着生植物のいずれか, おそらくは着生性半着生植物から進化したと推定されました。 著者らは地生性半着生植物から着生性半着生植物を経てシノブ科およびウラボシ科の真正着生植物が進化したと考え, その過程で起きた適応進化について考察しています。地生から地生性半着生植物への進化の過程では木の幹に付着するための根が進化し, さらに着生性半着生への進化の過程で樹上でも水分が吸収できるような根を進化させました。 そして最後に胞子が樹上でで発芽し発生できるようになり,真正着生に至ったと想像されています。 実際に半着生,真正着生植物の多くは背腹性のある長い根茎を持つことが知られているそうで, これが樹上生活への適応を表しているようです。また根茎を覆う鱗片が,樹上で生活する種では根茎により密着していて, 保水に働いているのではないかと考えられています。 なお,系統樹の他の部分では地生性半着生植物から真正着生性のオキナワアツイタ(Elaphoglossum callifolium) が直接進化した可能性も示唆されており,この進化傾向は普遍的なものとは限らないようです (ただしこれは解析に用いられた種が少ないためにそう見えるだけの可能性もある)。 このように著者らは複合的な研究から着生性の進化に迫っていますが,残念なのは系統樹からの形質進化の推定が曖昧であることです。 シノブ科とは遠く離れた系統での僅かな樹形の違いが形質状態の推定を大きく変えているという事実は, 今回の形質進化の推定が統計的にはあまり信頼できない可能性を示唆しています。ブートストラップ検定などを行えば (例えば 100 個のブートストラップ系統樹について祖先形質の推定を行い, 着生性半着生から真正着生への進化が支持される樹形が何回出現したのかを数えればよい),結果の信頼性も評価できたかもしれません。 この欠点に目をつぶれば,今回の研究は「系統関係」と「適応進化」という一見似て非なる現象を結びつけたという点で, 面白いと思います。系統樹を眺めてみると,ある生活型から他の生活型への進化は何度も何度も起こっているようですから, 今後個々の事例を調べていく中で,生活型の進化の多様性, あるいは逆に普遍的なパターンのようなものが見出されてくればさらに面白くなるのではないでしょうか。 Tsutsumi, C. & Kato, M. Evolution of epiphytes in Davalliaceae and related ferns. Bot. J. Linn. Soc. 151, 495-510 (2006). |
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元祖鞭毛共生起源説より(2006.09.12) Margulis はミトコンドリアなどのオルガネラが原核生物に由来したとする「共生説」を広めたことで有名です。 彼女の仮説の中で,真核生物の鞭毛がらせん菌のスピロヘータ(スピロヘータ門スピロヘータ目) の仲間に由来するとした部分については否定する研究者が多いようです。Margulis et al. (2006) ではスピロヘータ起源説を再構築し,様々な反論について再反論を試みています。 著者らがまとめた仮説では,真核生物は無壁の Thermoplasma のような古細菌と,スピロヘータの仲間の共同体(consortium) に由来したと考えられています。共生の原動力と考えられたのは硫化物のやり取りで,古細菌が合成した硫化物をスピロヘータが利用し, 一方スピロヘータの運動能力が古細菌にとっての利点であったとしています。そして鞭毛と核の複合体が成立し,遺伝子が核に移行します。 さらに細胞骨格型が発達し,これに基づく食作用によりミトコンドリアの祖先となる真正細菌が取り込まれたそうです。 しかし明瞭な証拠はほとんど示されていません。スピロヘータと鞭毛を結びつける根拠は, 運動性のある原核生物の中で鞭毛と似た動きをするものがスピロヘータのみであることと, スピロヘータの仲間で他の原核生物と共同体を形成するものが知られていることが挙げられています。 しかし前者は鞭毛が原核生物であるとの根拠の薄弱な前提に基づいています。 スピロヘータの運動様式は外膜下に存在する内生鞭毛(フラジェリンよりなる原核生物型の鞭毛)の運動であるのに対して, 真核生物の鞭毛は内部の微小管の構造が力を生み出しており,生化学的には全く異なっています。 従ってスピロヘータと真核鞭毛が似て見えたことには何の意味もないでしょう。スピロヘータの共同体形成には興味を惹かれる話題ですが, それは真核鞭毛の話と結びつく理由はありません,。 次に,著者らはミトコンドリアの起源が比較的遅く,Giardia(メタモナーダ門ディプロモナス目)や Mastigamoeba(アメーバ動物門マスティグアメーバ目)などの典型的なミトコンドリアを持てない原生生物が, 初めからミトコンドリアを持っていない祖先的な真核生物であると主張しています。 これらの原生生物には既にミトコンドリアの痕跡とされる構造(マイトゾームなど)が見つかっており( ミトコンドリアもどきの脂質),かつてはミトコンドリアを持っていたとする説が有力です。 著者らはマイトゾームなどの構造が原核生物に由来することは認めていますが,それがミトコンドリアである証拠は出ていない, としています。しかしマイトゾームなどの構造は特殊化が進んでいるため,ミトコンドリアの痕跡は払拭されていて当然です。 現に著者らはマイトゾームは別の共生細菌由来かもしれないと主張しながら,その証拠を全く示せていません。 むしろ Mastigamoeba についてはアメーバ動物門の中でミトコンドリアを失ったことが分子系統から推定されており (未踏の地,アメーバ動物門を行く II),Giardia との類縁性が無いことは明白なのですが, 著者らはその議論について一切触れていませんでした。 微小管の起源についても結局は説得力のある説明を提示できておらず,「鞭毛共生起源説」再び で紹介した議論の方がまだ説得力があります。様々な仮説が検討されることは確かに重要ですが, そのような仮説が提唱されるときには先に証拠があるべきで,今回の著者らのように仮説を先行させて不利な証拠を無視し, 証拠を提示できないような論文は避けて欲しいものです。 Margulis, L., Chapman, M., Guerrero, R. & Hall, J. The last eukaryotic common ancestor (LECA): Acquisition of cytoskeletal motility from aerotolerant spirochetes in the Proterozoic Eon. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 13080-13085 (2006). |
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敵だワムシだ変身だ(2006.09.06)(→藻類学)
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続報:始祖鳥は鳥の始祖ではないのか?(2006.09.05)(→古生物学)
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70 年前の観察を再現しよう(2006.09.04) 微生物の分類研究をしていると,過去の記載に非常に奇妙な形をした生き物を見ることがあります。 実在を疑われるものもありますが,一方でそのような生物が再発見されることも少なくはありません。 Dolan (2006) は 70 年以上前に記載された海産の繊毛虫を原産地で再発見し,過去の観察の正確さを紹介しています。 数十年前に記載されて以来みつかっていない微生物,というのは少なからず存在します。 特定の海域に発生する原生動物などはそもそも最初の報告以来誰も現地を訪れて観察したことがない場合もあり, 謎が謎のまま放置されている場合もあります。この著者は海洋調査の一環として,タヒチからチリ沿岸に渡る南太平洋で微生物の採集を行い, チンチヌス目(Tintinnida;繊毛虫門旋毛綱)の繊毛虫を観察しています。 チンチヌス目の繊毛虫は主に海産で被甲(lorica)を持つことが特徴です。過去の研究では残りやすく, より特徴の多い被甲の形態が記載されることが多かったそうです。この論文で主に紹介されている Xystonellopsis 属は漏斗状の被甲を持っていて,暖かい海域に限られて分布しています。そのため観察例が少ない種も多く,例えば X. conicaudata という種は 1929 年の原記載以来,今回初めて報告されたそうです。 この論文では著者が採集した Xystonellopsis の様々な種の写真を 1929 年の図と比較し, 当時の絵が極めて正確だったことを示しています。著者はさらに,原記載の写真が原生動物の分類学において極めて重要で, 公共のデータベースを確立することを提唱しています(著作権法の問題から, タイプ標本に基づく論文とはやや異なる写真を登録する必要があります)。 既存のデータベースも幾つか紹介されており,今回の Xystonellopsis の写真も micro*scope に登録されています (例えば X. conicaudata )。 原記載の絵や正しく同定された株に基づいた写真などを参照したい場面はしばしばありますので, 確かにこのようなデータベースはあると助かります。しかしそのためにはデータベース間での情報の共有や,登録番号のシステム, そして著作権に関する科学雑誌側の理解,など解決しておきたい問題も残されています。今後の展開に注目ですね。 Dolan, J. R. Re-discovered beauty - new images for old descriptions - tropical tintinnids of the genus Xystonellopsis (Ciliophora, Tintinnia). Protist 157, 251-253 (2006). |
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卵の中身を覗き見る(2006.08.31)(→古生物学)
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年代推定には化石が大切(2006.08.25)(2006.08.26 引用文献追加) 生物の大系統の研究においては,系統間の関係に着目した研究が数多く存在しますが, 系統間の分岐年代も大きな関心の一つになっています(深く歴史を遡れば, 動物の歴史年表の再構築)。しかし真核生物の分岐年代の推定は,解析によって値が大きく異なっていました。 Berney & Pawlowski (2006) は,これまでの研究では必ずしも系統的所属が確定していない化石を年代の較正に用いていたとして批判し, しっかりとした化石記録の残った真核生物のみで較正を行った年代測定を実施しました。 真核生物の出現した年代や,現生の真核生物の最初の分岐の年代については様々な見解があります。27 億年前の分子化石や (Brocks et al., 1999),21 億年前の Grypania の化石(Han & Runniger, 1992;写真も参照) などを根拠に真核生物が古い年代に出現したとする見解もあれば,たかだか 8.5 億年前に出現したとする見解もあります (Cavalier-Smith, 2002)。系統樹から分岐年代を推定する研究もありますが,これも年代が大きくばらついています。 (真核生物の出現時期と現生の真核生物の最初の分岐の時期が異なることにも注意。)
これまでの分子による年代推定の問題点として,著者らは少数の,あるいは信頼できない化石を較正に用いていたことを指摘しています。 そこで新たに連続的な化石記録が存在し,出現時期が正確に推定できる生物として,円石藻類(ハプト植物門円石藻目), 珪藻類(オクロ植物門),渦鞭毛藻類(渦鞭毛動物門)を選び,これを用いて SSU rRNA の系統樹を較正しました。 系統樹の根をアメーバ動物類(Amoebozoa)+後方鞭毛類(opisthokonts)とバイコンタ類(bikonts)の間においた場合, 真核生物の最初の分岐は 9.4〜13.6 億年前,おそらくは 11.3 億年前となったそうです。また後方鞭毛類の最初の分岐は 9.6 億年前 (7.9〜11.7 億年前),動物の最初の分岐が 8.1 億年前(6.7〜9.9),緑藻と紅藻の分岐が 9.3 億年前(7.8〜11.2), 陸上植物の最初の分岐が 5.1 億年前(4.3〜6.5)などと推定されました。 さて,この結果は以前の「あやしい」化石記録の結果と一致するのでしょうか。著者らは先カンブリア時代の多くの化石について これまでの解釈との矛盾を指摘しています。例えば紅藻類とされた Bangiomorpha は 12 億年前の化石ですが, 明らかに推定された紅藻の起源より古い時代です。その他,黄緑藻類(オクロ植物門)とされた 10 億年前の化石 (Palaeovaucheria),緑藻植物門シオミドロ目(Cladophorales=ミドリゲ目:Siphonocladales)とされた 7.5 億年前の化石 (Proterocladus),「高等」菌類とされた 14 億年前の化石(Tappania)などが ことごとく今回の分岐年代推定と矛盾したそうです。逆にそれぞれこれらの化石で較正した場合の年代推定値も幾つか示されており, 明らかに古い分岐年代が導かれています。 著者らはこの結果をもとに,先カンブリア時代の化石の多くが誤って解釈されており,おそらくはその多くが現生の系統に繋がらない, より原始的な真核生物だったと推測しています。確かに Palaeovaucheria などの化石を見ると構造が単純で, 従って本当に現生のものと対比できるのか疑問ではありました。Bangiomorpha については多くの藻類学者が紅藻と認めているようなので,これは少し疑問ですが,やはり見直してみる価値はあるでしょう。 唯一現生のものと対比できそうだったのが,VSE と呼ばれる微小な「殻」の化石です。これは Euglyphida 目(アメーバ鞭毛虫門) またはナベカムリ目(アメーバ動物門)の有殻アメーバの殻だと考えられていました。VSE の年代(7.5 億年前) はアメーバ鞭毛虫門にしては古すぎますが,アメーバ動物門の最古の化石だと考えると納得できる数字になっています。 今回の結果は先カンブリア時代の化石の解釈に一石を投じる意義がありましたが,残念ながらこれが最終的な「正しい」 年代推定とも思えません。一つには SSU rDNA が大系統の解析にはあまり有用でないと思われること, 次に較正に 3 つの系統群を用いているとはいえ,やはり系統が偏りすぎていることは否めず, その結果これらの藻類よりも系統樹上で離れたところの年代推定はより誤差が大きいと思われます。そして第 3 に, 彼らの化石の解釈が本当に今までのものよりも優れているのかどうか,判断が難しいためです。 年代の推定は真核生物の歴史を語りたければどうしても知りたいことです。今後幅広い真核生物のゲノムが公開されると, より多い情報で描いた系統樹で年代推定をできるようになります。そのときに幅広い系統の化石で較正できれば, 確からしい年代推定が可能になるでしょう。 Berney, C. & Pawlowski, J. A molecular time-scale for eukaryote evolution recalibrated with the continuous microfossil record. Proc. R. Soc. B 273, 1867-1872 (2006). Brocks, J. J., Logan, G. A., Buick, R. & Summons, R. E. Archean molecular fossils and the early rise of eukaryotes. Science 285, 1033-1036 (1999). Cavalier-Smith, T. The neomuran origin of archaebacteria, the negibacterial root of the universal tree and bacterial megaclassification. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 52, 7-76 (2002). Han, T.-M. & Runnegar, B. Megascopic eukaryotic algae from the 2.1-billion-year-old Negaunee iron-formation, Michigan. Science 257, 232-235 (1992). |
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きっちり調べて,謎の藻類の所属を決める(2006.08.23)(→藻類学)
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酸っぱくしたら培養できた深海性古細菌(2006.08.16) 深海の熱水噴出孔は極限環境生物の宝庫です。有用な特性を持った遺伝子や,進化上重要な生物がいると思われるため, 研究者の興味を集めてきました。しかし微生物には培養できず,従って性状の分からない生物も多々含まれています。 例えば,これまで酸性のチムニー(熱水噴出孔に形成される煙突状の構造)から分離された生物は, 何故か酸性条件下で増殖できないものばかりでした。 ただ DNA 配列を直接調べる研究からは未知の古細菌の系統の存在が示唆されていました。そして遂に Reysenbach et al. (2006) は培地の改良の結果,好熱好酸性の新規古細菌の培養に成功しました。 深海の熱水噴出孔から見つかる配列が作る系統群に,ピクロフィルス目(Picrophilales=サーモプラズマ目) の姉妹群に位置する系統群があります。この系統群は DHVE2(Deep-sea Hydrothermal Vent Euryarchaeotic 2)と呼ばれ, リボソーマル RNA の配列だけが知られていました。著者らは DHVE2 に対応する古細菌こそ, これまで見つけられなかった好熱性好酸性の古細菌と予想し,研究を進めました。 各地の深海熱水系を調べた結果,DHVE2 が古細菌の最大 15% も含む地点(ELSC:Eastern Lau Spreading Centre)を発見し, ここから DHVE2 の分離培養を試みました。まず通常の培地では培養ができませんでした。そこで酸性の環境条件と, 近縁なピクロフィルス目が主として従属栄養性であることから培地を工夫し,pH 4.5 で有機物と硫黄を含んだ培地をつくりました。 この培地からは T449 と T469 という株が分離され,いずれも系統的に DHVE2 に含まれることが分かりました。 著者らは T469 株を詳細に調べ,この生物が不定形の細胞と鞭毛を持つ,嫌気性の好熱好酸性菌であることを明らかにしました。 ピクロフィルス目の仲間は鞭毛を持っておらず,好気性であることから T469 は区別されます。 また,三価の鉄イオンを電子受容体に利用できることも T469 の特徴です。 以上の研究から著者らは DHVE2 の古細菌が新しい目に相当する生き物と考え,暫定的に ‘Aciduliprofundum boonei’ という名称を提唱しています。おそらく遠くない将来にサーモプラズマ綱の新目新種として正式に記載されることでしょう。 特に最近は新規の原核生物の培養が続いていて(バクテリアの新グループ, 大洋に広がる古細菌の新グループ,果てなく続く,細菌の新グループ記載, 地球を暖める古細菌 I),ますます微生物の世界が広がっています。 嫌気的メタン分解古細菌や古細菌の基部付近で分岐した系統など,純粋培養が待たれている原核生物はまだまだ残っており, 今後の可能性に是非とも期待したいところです。 Reysenbach, A.-L. et al. A ubiquitous thermoacidophilic archaeon from deep-sea hydrothermal vents. Nature 442, 444-447 (2006). |
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奇想天外は松の親戚?(2006.08.11) 裸子植物の一群にグネツム目(Gnetales)とまとめられる植物がいます。この目には外見のまるで異なる 3 属 (マオウ属:Ephedra,グネツム属:Gnetum,ウェルウィッチア属=奇想天外:Welwitschia)が含まれ, その独特の形態から系統的位置が問題になっていました(目の単系統については現在受け入れられている)。 一時期は被子植物との類縁性が言われたこともありましたが,最近の分子データからはグネツム目が針葉樹(球果目:Coniferales) に含まれ,マツ科がグネツム目の姉妹群だとする説(Gnepines 仮説)が支持されています(Hajibabaei et al., 2006)。 グネツムの分子系統解析は様々な研究者が行ってきましたが,グネツム目で塩基置換速度が速くなっていることなどが原因で, 議論が決着していません。Hajibabaei et al. (2006) はこれまでよく調べられていなかった, 核コードのタンパク質遺伝子の配列を系統解析に用いています。具体的には RNA ポリメラーゼの I,II,III サブユニットの遺伝子 (rpa1,rpb1,rpc1)を幾つかの種子植物について決定し,系統解析を行っています。 まず初めに用いる遺伝子の各コドンの置換速度を比較し,第 3 コドンの進化速度が RNA ポリメラーゼと葉緑体遺伝子で速く (特にグネツム目で),系統解析に不適当である可能性を確認しています。次に RNA ポリメラーゼだけで描いた系統樹, そしてこれに葉緑体,ミトコンドリア,18S rRNA 遺伝子を加えたデータから描いた系統樹を比較しています。 RNA ポリメラーゼ単独で系統樹を描いた場合にはあまり解像度が得られていませんが, 結合遺伝子解析にもとづくデータではより強く Gnepines 仮説が支持されていました。この結果は最節約法よりも最尤法でより明瞭で, さらに全塩基を解析に用いた場合には支持率がやや低いものの,RNA ポリメラーゼと葉緑体遺伝子の第 3 コドンを解析から外した場合 (進化速度の速いサイトを外した場合)には,支持率が上がっていました。 この他統計検定からもグネツム目がマツ科と姉妹群になる仮説が他の仮説(グネツム目が針葉樹の姉妹群になるとする仮説, グネツム目が裸子植物の姉妹群になるとする仮説)に比べて強く支持される傾向があり, 特に結合遺伝子のデータから進化速度の速いサイトを排除した場合には有意に支持されていました。 今回のデータは Gnepines 仮説を強く支持するもので,形態学からは想定されていなかったこの仮説を見直す必要性を説いています。 しかし形態学的な証拠無しにこの仮説を受け入れるのにはどうにも抵抗があります。データや解析方法によって結果が異なるということは, それだけ結果が曖昧だという意味でもあるからです。これを裏付けるように, 葉緑体に認められる特異な逆位反復配列が針葉樹では一つ失われているにもかかわらず,グネツム目では失われていませんでした。 このデータは針葉樹が単系統で,グネツム目は針葉樹に含まれないことを強く支持しているように見えます。 いずれが正しいのかは,形態学的な証拠と分子の証拠をさらに追加していくことでしか解決できないのかもしれません。 Hajibabaei, M., Xia, J. & Drouin, G. Seed plant phylogeny: Gnetophytes are derived conifers and a sister group to Pinaceae. Mol. Phylogenet. Evol. 40, 208-217 (2006). |
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微化石を如何にして見直すのか(2006.08.07)(→古生物学)
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遺伝子いっぱい平板動物のミトコンドリア(2006.08.05) もっとも単純な後生動物の一種に,センモウヒラムシ(Trichoplax adhaerans;平板動物門 Placozoida 目) という動物がいます。センモウヒラムシは運動性を持った動物の中では最も単純な作りをしていますが, 分子系統からは系統的位置が決まっていません。Dellaporta et al. (2006) はセンモウヒラムシのミトコンドリアゲノムを解読し, センモウヒラムシが最初に分岐した後生動物である可能性を提示しています。 センモウヒラムシは平板動物門(1 属のみ)に分類され,海岸などで採集されます。この動物は 2〜3mm の平べったい体型をしており, 表面に生えた繊毛で移動することができます。また体の変形運動もできるそうです。しかしわずか 4 種類の体細胞からなっていて, 体制に対称性もないことから,退化した刺胞動物と考えられたり海綿との関連が指摘されたりと所属がまるで分かっていませんでした。 今回調べられたセンモウヒラムシのミトコンドリアゲノムは 43,079 塩基対と,通常の後生動物に比べて倍以上ありました。 これは海綿や刺胞動物のミトコンドリアゲノムと,動物の姉妹群とされる襟鞭毛虫類のものの中間的なサイズに相当します。 さらに遺伝子間領域が長いこと,イントロン,幾つかの ORF の存在も,他の動物にはほとんど見られない特徴で, センモウヒラムシが極めて原始的なミトコンドリアゲノムを有していることが示唆されています。 系統解析の結果からも,センモウヒラムシが後生動物の中で最初に分岐した可能性が示唆されています。 極度に特殊化が進んだ左右相称動物を解析に加えた場合,左右相称動物が後生動物の中で最初に分岐したと言う, 明らかに不自然な結果が出るため,左右相称動物は系統解析から外されています。 この場合センモウヒラムシは海綿動物や刺胞動物よりも先に分岐した,最も原始的な後生動物であるとの結果が得られています。 加えて様々な検定法を用いても,この系統的位置は支持されています。 しかしミトコンドリアの遺伝子進化は必ずしも系統解析に有用とは限りませんので(現に左右相称動物の位置に問題がある), 今回の仮説にはまだ検証が必要です。特に nad5 と cox1 遺伝子などに刺胞動物と共通のイントロンがあることから, 刺胞動物との類縁性についても良く調べられなければなりません。ともあれ平板動物が系統的に重要な位置を占めることは裏付けられました。 さらに核ゲノムのプロジェクトも進行しているようなので,今後そちらからの情報にも期待したいところです。 Dellaporta, S. L. et al. Mitochondrial genome of Trichoplax adhaerens supports Placozoa as the basal lower metazoan phylum. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 8751-8756 (2006). |
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AIDS のグラウンド・ゼロ(2006.08.03)(→医学)
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ヒゲクジラの系統も SINE 法で〆(2006.08.01) SINE はレトロポゾンの一種で,この挿入欠失を用いて生物間の系統関係を解析する方法を SINE 法と呼びます。 同様のレトロポゾンを用いた系統解析から,哺乳類の系統関係が次々と明らかにされています( レトロポゾンが書き込んだ哺乳類の歴史,絞り込まれたペガサスの系統)。 また,クジラがカバと近縁な偶蹄類から派生したことを最終的に示したのも SINE 法でした。 Nikaido et al. (2006) では SINE 法を用いてヒゲクジラ類の系統関係にほぼ決着をつけました。 もともと著者らはハクジラ類とヒゲクジラ類がいずれも単系統であることと,ハクジラ類の科レベルの系統関係を SINE 法により示していました(Nikaido et al., 2001)。しかしヒゲクジラ類の SINE についてはあまり調べられていません。 ヒゲクジラ類の系統関係については一遺伝子による系統解析が幾つかありましたが(Árnason et al., 1993; Árnason & Gullberg, 1994; 一遺伝子に刻まれたクジラの歴史), いずれの系統樹でも解像度に問題がありました。またミトコンドリアゲノムを用いた系統解析も存在しますが (Sasaki et al., 2005),形態にもとづく仮説と矛盾していたこともあり,核遺伝子の裏付けが必要とされていました。 著者らはほぼ全種のヒゲクジラ(11 種)から大量に SINE を収集し,核ゲノムへの挿入のパターンを調べました。 これを元に描かれた系統関係では,ヒゲクジラ類の主要な系統関係が解かれています。 最初にセミクジラ科が,次にコセミクジラ科とその他のヒゲクジラ類が分岐しています。 その他のヒゲクジラ類に含まれるのはナガスクジラ科とコククジラで,ナガスクジラ科には 3 つの単系統群 (ミンククジラ 2 種,ナガスクジラとザトウクジラ,シロナガスクジラ・イワシクジラとニタリクジラ)が認められました。 しかしナガスクジラ科の 3 系統とコククジラの間の系統関係は,SINE の挿入パターンが相互に矛盾しており, 解決しませんでした。 -------ミンククジラ(North Atlantic minke whale: Balaenoptera acutorostrata) |--------------| | | -------クロミンククジラ(Antarctic minke whale: Balaenoptera bonaerensis) | | | | -------ザトウクジラ(Humpback whale: Megaptera novaeangliae) | |-------------| | | -------ナガスクジラ(Fin whale: Balaenoptera physalus) | ナガスクジラ科 -------| | | | --------------シロナガスクジラ(Blue whale: Balaenoptera musculus) | | | | | | |------| -------イワシクジラ(Sei whale: Balaenoptera borealis) | -------| | -------| | | | | -------ニタリクジラ(Bryde's whale: Balaenoptera edeni) | | | | | | ---------------------コククジラ(Gray whale: Eschrichtius robustus) コククジラ科 ------| | | ----------------------------コセミクジラ(Pygmy right whale: Caperea marginata) コセミクジラ科 | | -------セミクジラ(Right whale: Eubalaena glacialis) | ----------------------------| | セミクジラ科 -------ホッキョククジラ(Bowhead whale: Balaena mysticetus) | これらの 4 系統については 3 つの SINE の挿入が互いに矛盾していました。SINE が全く同じ場所に別の系統で入る可能性も, 一度挿入された SINE が抜け出る可能性もほとんどないと考えられるため,この矛盾には別の理由があると考えられます。 これらの 4 系統が分岐する前に SINE の挿入パターンに多型があり,多型が維持されたまま 4 系統の分岐が起こったとすれば, 矛盾が説明できるそうです。 多型が維持されたまま系統分化が起こったと言うことは,4 系統の分岐がごく短期間の出来事だったと考えられます。 他の遺伝子の系統樹でもこの 4 系統の間の系統関係は解けておらず,この可能性が支持されます。 SINE 法で明らかになったヒゲクジラの系統関係については,これまでの系統推定と劇的に異なるものではありませんでした。 しかし今回の結果がヒゲクジラの系統解析としては決定的なものと考えていいと思います。 同時にナガスクジラ科とコククジラの 4 系統で系統関係が決まらなかった部分は,SINE 法の解像度の問題ではなく, むしろ実際に多分岐に近い現象が起こっていたとして説明できます。 今回の研究を加えると,クジラの系統関係はほぼ全て明らかになったことになります。 いずれ他の生物群についてもこのレベルでの系統解析が可能になればいいのですが,これには大量(ゲノムレベル) の遺伝子解析が必要でしょうから,もう少し技術革新が必要でしょうね。 なお,今回調べられていないミナミセミクジラ(Eubalaena australis)とツノシマクジラ(Balaenoptera omurai) はそれぞれセミクジラと(イワシクジラ, ニタリクジラ)に近縁と思われます(Sasaki et al., 2005; Wada et al., 2003)。 またセミクジラを 2 種(E. glacialis:タイセイヨウセミクジラ,E. japonica:ニホンセミクジラ) に分ける見方もあります。この場合,ニホンセミクジラはミナミセミクジラに近縁な可能性が指摘されています (Rosenbaum et al., 2000)。さらにニタリクジラが 2 種(B. brydei:ニタリクジラ,B. edeni:イーデンクジラ) に分割されることが最近示されており(Wada et al., 2003),B. brydei はイワシクジラにより近縁であるそうです。 Nikaido, M. et al. Baleen whale phylogeny and a past extensive radiation event revealed by SINE insertion analysis. Mol. Biol. Evol. 23, 866-873 (2006). Árnason, Ú., Gullberg, A. & Widegren, B. Cetacean mitochondrial DNA control region: Sequences of all extant baleen whales and two sperm whale species. Mol. Biol. Evol. 10, 960-970 (1993). Árnason, Ú. & Gullberg, A. Relationship of baleen whales established by cytochrome b gene sequence comparison. Nature 367, 726-728 (1994). Nikaido, M. et al. Retroposon analysis of major cetacean lineages: The monophyly toothed whales and the paraphyly of river dolphins. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 7384-7389 (2001). Rosenbaum, H. C. et al. World-wide genetic differentiation of Eubalaena: questioning the number of right whale species. Mol. Ecol. 9, 1793-1802 (2000). Sasaki, T. M. et al. Mitochondrial phylogenetics and evolution of mysticete whales. Syst. Biol. 54, 77-90 (2005). Wada, S., Oishi, M. & Yamada, T. K. A newly discovered species of living baleen whale. Nature 426, 278-281 (2003). |
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日本にはどんな藻類がいるのか(2006.07.31)(→藻類学)
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ミトコンドリアの門番たち(2006.07.27)(→分子細胞学)
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ランブル鞭毛虫の原型(2006.07.26) ランブル鞭毛虫(Giardia intestinalis)(メタモナーダ門ディプロモナス目) はヒトの寄生虫としても,典型的なミトコンドリアを持たない真核生物としても有名です。 しかしランブル鞭毛虫は特殊化が進んでおり,ディプロモナス目内部の進化を探るのには困難がありました。 Keeling & Brugerolle (2006) は Octomitus と呼ばれる原生動物が Giardia の姉妹群であることを示し, 本種がディプロモナス目の進化を考える際に重要であることを提示しています。 Octomitus は以前からランブル鞭毛虫との類似が指摘されていた原生動物で,齧歯類や両生類の腸管内に寄生します。 しかしランブル鞭毛虫とは異なり,培養に未だ成功していないために研究が遅れていました。著者らは野生のネズミ (Mus musculus)の腸内容物を緩衝液に浸し,泳ぎ出てきた Octomitus intestinalis を先を細くしたピペットで吸い,これを集めて SSU rRNA の研究に用いました。 また同じマウスの個体から得られた別のサンプルは電子顕微鏡観察に用いています。 このようにして 6 クローンの SSU rRNA 部分配列(1511 塩基対)を解読し,ほぼ同一の配列が得られたそうです。 この内一つの配列を代表として系統解析が行われた結果,Octomitus は Giardia 属の姉妹群となりました。 ディプロモナスや近縁な生物では塩基置換速度が不均一であり, ディプロモナス目の根元の分岐が正しく推定されていない可能性もありましたが, AU 検定という検定の結果からも得られた系統樹は支持されました。 -------エンテロモナス科-------| -------| -------Hexamita | | -------| --------------Trepomonas | | -------| ---------------------Spironucleus vortens | | ------| ----------------------------Spironucleus barkhanus | | -------Giardia(5 種) ----------------------------| -------Octomitus intestinalis この系統樹は従来の分類とは幾つかの点で異なっています(下記参照)。エンテロモナス科は 1 個の核を持つことで, 1 対の核を持つ他の属と区別されますが,今回の系統樹からはエンテロモナス科で核が 2 個から 1 個に減ったことがわかります。 また自由生活性の種を含む属(Trepomonas,Hexamita)が他の寄生性の系統から派生しています。 いずれも直感的な祖先形質(自由生活性で核が 1 個)とは異なっており,興味深い結果です。 さらに Octomitus が Giardia の系統に加わったことにより, ディプロモナス目の祖先形質がより確かに推測出来るようになったことも強調されていました。 2 個の核の間に出来る凹みから鞭毛が生えていることなどが,ディプロモナス目の祖先形質と推測されています。 論文の系統樹を見ていて気になったのは,Octomitus の枝が他のディプロモナス目に比べて目立って短いことでした。 ディプロモナス目は塩基置換の速度が全体に(遺伝子を問わず)速いために系統推定に困難がありました (古細菌から寄生虫への遺伝子移動,腹でもの喰う真核生物の系統, エクスカヴァータの証拠も参照)。 もし Octomitus の進化速度がゲノムの広範囲で遅いのだとすると,この種の様々な遺伝子配列を解読することは ディプロモナス目の系統的位置を決めるためにも役に立つかもしれません。 その場合は Octomitus の培養系を確立しないと厳しいかもしれませんが。
Keeling, P. J. & Brugerolle, G. Evidence from SSU rRNA phylogeny that Octomitus is a sister lineage to Giardia. Protist 157, 205-212 (2006). Brugerolle, G. & Lee, J. J. in The Illustrated Guide to the Protozoa 2nd ed. (eds. Lee, J. J., Leedale, G. F. & Bradbury, P.) 1125-1135 (Society of Protozoologists, Lawrence, 2000). | ||||||||||||||||||||||||
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地球を暖める古細菌 II(2006.07.24)(→その他)
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地球を暖める古細菌 I(2006.07.22)(→その他)
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続報:調べてみれば謎の原生動物(2006.07.20) 調べてみれば謎の原生動物では Telonema という原生生物が初めて詳細に解析された研究を紹介しました。Shalchian-Tabrizi et al. (2006) はさらにタイプ種 T. subtilis を含めて微細構造と遺伝子数を増やした系統解析をを行い,Telonema がクリプト藻やハプト藻など, クロミスタとも纏められるグループの初期進化に関わる新しい門に分類されると主張しています。 著者らは新たに T. subtilis の株を 2 株確立し,この他にも環境サンプルから増幅した SSU rRNA の配列で, まず系統樹を描いています。ベイズ法で系統解析をする際に,ある座位における塩基置換の速度が系統によって異なると仮定する covarion (COncomitantly VARIable codONs)モデルというモデルを適用しています。このモデルはより現実の進化に近いため, 深い系統関係を探るために有効だと考えているようです。この解析から Telonema の単系統性は確認されましたが, SSU rRNA の配列だけでは Telonema に近縁な生物は特定されませんでした。 さらに著者らは T. subtilis と T. antarcticum から Hsp90 と α-,β- チューブリンの配列を解読し,これを単独あるいは結合させて系統解析に用いました。 チューブリンの配列はバイアスの影響か解像度を上げる役には立たなかったようで,Hsp90 単独の系統樹と Hsp90 および SSU rRNA の結合系統樹も描いており,この結果を軸に議論しています。 いずれの系統解析でも,Telonema はクリプト植物門と姉妹群になりました。 さらに両者を併せたグループはハプト藻の姉妹群となりました。 Telonema は鞭毛の表面に三部構成の管状小毛を持ち,従ってストラメノパイル類との関連性が示唆されていましたが, 今回の系統解析からはストラメノパイルとの近縁性は支持されませんでした。一方で姉妹群の可能性のあるクリプト植物門では, 二部構成の管状小毛が知られています。そこで一見 Telonema とクリプト植物が結びつくようにも見えますが, 実はクリプト植物の中で最初に分岐した Goniomonas は二部構成の管状小毛を持っていません(Kugrens et al., 1987)。しかもクリプト植物の姉妹群(Telonema よりもクリプト植物に近縁)と推定されているカタブレファリス類も, 鞭毛の表面に小毛は持っていません(Okamoto & Inouye, 2005;クリプト藻が藻類になる |