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雑記(ニュースなど) − 人類学

作成:仲田崇志

更新:2016年02月18日

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続報:最古のゴリラは驚きの古さ(2016.02.18)

類人猿の化石記録は,分子時計などを用いて人類の分岐年代推定などにも利用されます。 そのため化石そのものの重要性もさることながら,出土した地層の解釈も実は極めて重要になります。 Katoh et al. (2016) はゴリラの系統で「最古の」化石(最古のゴリラは驚きの古さ) が発掘された地層の層序を見直し,1000 万年以上前とされた年代をおよそ 800 万年前に修正しました。

問題の化石 Chororapithecus abyssinicus は属名の由来となった Chorora 層から発掘されました。 Chorora 層はエチオピアのアファール地溝帯南部とエチオピア地溝帯北部を繋ぐ位置にある地層で, 湖や河川における堆積によって中新世後期に形成されたと考えられています。 これまでの層序学的研究では,化石が見つかった地層よりも上部に位置する流紋岩質溶結凝灰岩の年代がおよそ 1000 万年前とされていたことなどを根拠に,1000 万年以上前の地層と考えられていました。 通常は上位の地層の方が若いと考えられるため,化石が見つかった地層はそれよりも古いことになるわけです。

今回,著者らは化石が見つかった Beticha 産地と,Chorora 層の模式地(Betilcha 産地の 3 km 北北東) の地層を丹念に調べ直しました。すると実際には Chorora 層の上方に流紋岩質溶結凝灰岩は存在せず, 見かけ上上部に存在した凝結岩層は断層によって上方にずれた地層であると推測されました(下図参照)。

さらに堆積層下部にある凝灰岩層と上方の凝灰岩層(模式地では断層を挟んで 2 層ある)を比較したところ, いずれもカリウム−アルゴン法の放射年代測定でほぼ同じ形成年代(約 900 万年前)を示し, 逆磁極期に形成された点や長石の化学組成からも元々は同じ層準に当たることが裏付けられました。 さらに多くの年代測定を行った結果,Chororapithecus は約 800 万年前の凝灰岩層の直上, 約 770 万年前の凝灰岩層の下方に位置し,ほぼ 800 万年前の化石であることが判明しました。

断層により層序の乱れの例。左:堆積時の地層。中:断層の形成。右:風化後。
右方のみから見ると,風化後は黒色の地層が最上部に位置するように見えることに注目。

著者らはまた Chorora 層の動物相と他の動物相との比較を行い, やはり時代的に前後の動物相を繋ぐような動物相であることや, 当時ユーラシアの動物相との分化が 900 万年前頃から進んでいた可能性を議論しています。

Chororapithecus の年代が 1000 万年以上前から 800 万年前に訂正されたことで, 980 万年前の類人猿化石とされる Nakalipithecus nakayamai の解釈が改めて重要視されています。 本種は Chororapithecus よりも先に枝分かれしたゴリラの系統であるか, あるいはゴリラとヒトが枝分かれするより前に分かれた類人猿と見られるそうです。 今後はゴリラとヒト,延いては他の類人猿の分岐年代推定において, Nakalipithecus がより重要視されることになるでしょう。

地質学の研究は他分野の研究者にはあまり知られていませんが, 化石の年代特定には欠くことのできない研究であり,新たな化石を探索するための指標としても重要です。 今回の研究から,アフリカ類人猿の初期進化研究が一層進むことに期待したいところです。

Katoh, S. et al. New geological and palaeontological age constraint for the gorilla-human lineage split. Nature 530, 215-218 (2016).

過去の関連記事:
最古のゴリラは驚きの古さ

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とあるヒト化石の祖先にネアンデルタール人の血(2015.09.05)

技術の進歩によって数万年前の化石からゲノム規模の遺伝子解析ができるようになってくると, 一部の現生人類(Homo sapiens)のゲノムにはネアンデルタール人(Homo neanderthalensis) の遺伝子がわずかに混じっていることが判明しました。そしてさらなる探求の結果,Fu et al. (2015) はネアンデルタール人と現生人類との混血わずか数代後の子孫を発見しました。

ネアンデルタール人は中央アジア,中近東からヨーロッパにかけて生息した絶滅人類であり, 現生人類と最も近い化石人類の一種でもあります。 サハラ以南の人類を除く現生人類のゲノムにはネアンデルタール人由来の配列が 1-3% 含まれ, アフリカで誕生した現生人類がユーラシアに広がる前にネアンデルタール人と交配したと考えられています。 しかしヨーロッパで現生人類とネアンデルタール人が共存したであろう 4 万年前前後に, 彼らがどの程度交配していたのかについてはほとんどわかっていません。 著者らは,2002 年にルーマニアで発見された 37,000〜42,000 年前(ヨーロッパ最古級)の現生人類の下顎骨 Oase 1 から DNA を抽出し,そのゲノムを調べました。

現生人類の汚染配列を可能性な限り排除し,他の現生人類の化石や現代人のゲノム配列と比較したところ, まず Oase 1 が男性でありユーラシアの現代人に広く見られる Y 染色体ハプロタイプを持っていること, 現代のヨーロッパ人よりも東アジア人やアメリカ先住民に近いことなどが分かりました。 ちなみに現代のヨーロッパ人はより新しい時代に移入してきた系統に由来するため, Oase 1 の集団とは血縁がないそうです。

さらに,ネアンデルタール人との交配の影響を受けていないサハラ以南の現代人のゲノム配列と, アルタイ山脈のネアンデルタール人のゲノム配列を比較対象として,Oase 1 のゲノムの由来が推定されました。 その結果,Oase 1 はこれまでに調べられたどの現代人や化石現生人類よりもネアンデルタール人と似ており, ネアンデルタール人由来と推定される配列がゲノムの 6% 以上に及ぶことがわかりました(最大で 11% 程度)。 そして染色体地図上で見ると,4 番,5 番,6 番,9 番,12 番染色体上に, 長距離連続したネアンデルタール人由来の領域が 7 ヶ所同定されました。 このような領域は減数分裂時の組換えによって分断化が進むと考えられるため, ネアンデルタール人との交配は Oase 1 の高々 4〜6 世代前(年代にして 200 年前以内) に起こったと推定されました。

現生人類とネアンデルタール人の関係はとても興味深い問題です。 両者が共存していた地域では頻繁に交配が起こっていたのか,それとも Oase 1 がごく稀な例外だったのか, 現状ではまだどちらとも言えません。しかし今回の発見は, 現代人のゲノムには痕跡の残されていない交配が過去に存在した確かな証拠であり, 化石現生人類のゲノム解析の重要性を示しています。 これまでにも部分的にネアンデルタール人の形態的特徴を持った現生人類化石がいくつか知られているとのことで (ちなみに Oase 1 にも部分的にネアンデルタール人の特徴があった模様), 今後,そのような化石人類のゲノム解析が進められることが期待されます。

Fu, Q. et al. An early modern human from Romania with a recent Neanderthal ancestor. Nature 524, 216-219 (2015).

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最古の人類化石の失われた時を求めて(2008.04.02)

最古の人類化石は通称トゥーマイ(Toumaï)と呼ばれる「約 700 万年前」(中新世後期)の化石です (Sahelanthropus tchadensis)。しかしその正確な年代はこれまで不明とされてきました。 Lebatard et al. (2008) は新たにベリリウムの放射性同位体を測定することで,より直接的で正確な絶対年代推定を行い, トゥーマイの年代を 680-720 万年前と推定しました。

中新世の絶対年代測定となると,通常はアルゴン−アルゴン法(40Ar/39Ar 法)が用いられますが, この方法では火山岩が生成したときに含まれていた 40K が 40Ar に壊変することを利用します。 具体的には安定同位体である 39K(測定する際には原子炉中で中性子を照射し,39Ar に壊変して調べる) と 40Ar の存在比から岩石中にカリウムが閉じこめられた(≒岩石が固まった)年代を求めます。 しかしトゥーマイが見つかったチャド盆地(Chad Basin)の Toros-Menalia 区域には火山性の堆積物が乏しく, 40Ar/39Ar 法が利用できませんでした。代わりにこれまではトゥーマイと共に発掘された動物から, おおよその年代が「約 700 万年前」と推定されてきました。しかし動物相の対比は時間的な解像度が低く, また放射性物質の壊変を利用した推定法よりも信頼性が下がります。そこで著者らは絶対年代の推定に使える, 新しい同位体の組み合わせを開発しました。

著者らが着目したのはベリリウム(Be)の同位体である 10Be です。10Be は宇宙線があたることで大気中に生成します。そしてその後は時間が立つにつれてホウ素の同位体(10B)に壊変します。 10Be は最終的に湖沼や海洋の堆積物中に蓄積するため,堆積物の年代測定にも有効かと考えられました。 しかし 10B は自然界にも存在し,ベリリウムに対して必ずしも一定量存在するわけではないため, 10Be/10B の値から年代を求めることはできません。 そこで 9Be が比較に用いられました。9Be は自然界に存在する安定同位体で, 砕けた岩石から水中に溶出するのが主な供給源だそうです。大気から供給される 10Be とは供給源が異なるため, 堆積環境が異なると(湖沼か海洋か,など)両者の供給の比率が異なるおそれがありますが,逆に堆積環境が類似していれば, 初めの 10Be/9Be の値は一定になると推測されました。そこで著者らは 10Be/9Be の値から堆積物の絶対年代を推定に用いました。

40Ar/39Ar 法と 10Be/9Be 法の比較

著者らの関心はトゥーマイの発掘されたチャドにおける陸生(湖沼性)の堆積環境でした。そこでまず 10Be/9Be の初期値を求めるためにチャドの 4400〜7000 年前のチャド湖の堆積物を用いました。 そして幾つかの地層でその有効性を検討しています。調べられた Koro Toro(KT 12;300〜350 万年前),Kollé (KL;400〜500 万年前),Kossom Bougoudi(KB 1;約 530 万年前)については,いずれも 10Be/9Be による年代が動物相から推定された値(前述括弧内)と矛盾しませんでした(KT 12;358 ± 27 万年前,KL;396 ± 48 万年前,KB 1;526 ± 29 万年前)。特に Koro Toro のサンプルは Australopithecus bahrelghazali が発掘された地層で,初めて絶対年代が推定された形になります。これは A. bahrelghazaliA. afarensis (エチオピア産。約 318 ± 1 万年前)とほとんど同時代に生きていた証拠としても重要だそうです。

さて,肝心のトゥーマイの年代についても発掘地である TM 266 と,TM 266 から約 18 km 西に位置する同年代の TM 254 が調べられました。トゥーマイを含んだ anthracotheriid unit の上部は TM 254 で 688 ± 40 万年前, TM 266 で 683 ± 45 万年前,下部は TM 254 で 724 ± 38 万年前,TM 266 で 712 ± 31 万年前との結果が得られました。併せて考えるとトゥーマイの年代は 704 ± 18 万年前となるそうです。

トゥーマイの年代は相当に古く,ヒトとチンパンジーの分岐年代の既存の推定値を上回っていましたが, 今回の研究で絶対年代からも年代が裏付けられたことには大きな意義があります。しかしながら 10Be/9Be 法では堆積環境が同一であることを前提にしている点で 40Ar/39Ar 法よりも信頼性で劣っており, 追加の検証も必要であると思います。特に今回の研究では検証に動物相から推定される相対年代が利用されており, 今後は 40Ar/39Ar 法による絶対年代との整合性を示す必要が出てくるでしょう。

Lebatard, A.-E. et al. Cosmogenic nuclide dating of Sahelanthropus tchadensis and Australopithecus bahrelghazali: Mio-Pliocene hominids from Chad. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 3226-3231 (2008).

過去の関連記事:
歯から見えてきた初期人類の進化2 本の足の上から追加類人猿の父新たな化石がヒトの歩き始めを照らすかルーシーの娘アファール猿人はヒトの傍系!?ヒトらしく歩く枝の上最古のゴリラは驚きの古さ

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最古のゴリラは驚きの古さ(2007.09.11)

エチオピアの中新世後期の地層から類人猿の歯の化石が数本発見されました(Suwa et al., 2007)。 CT などを用いた詳細な解析から,これらの歯はゴリラ(Gorilla gorilla)と近縁であると考えられ, Chororapithecus abyssinicus と名付けられましたが,この化石は従来の定説を覆す古さのものでした。

ゴリラはチンパンジー(Pan troglodytes)とボノボ(P. paniscus)に次いでヒト(Homo sapiens) と近縁な類人猿として知られています。化石記録と分子情報を用いた研究から,ゴリラはヒトの系統から 600-800 万年前に, チンパンジーとボノボはヒトの系統から 500-600 万年前に分岐したと推定されています。 そこでこれらの仲間が分岐し始めた中新世後期(533-1161 万年前)の類人猿の進化がヒトの起源を探る上で重要な意味を持ちます。 しかし 700-1200 万年前頃のアフリカの動物相が保存された地層は乏しく,類人猿の進化の研究は進んでいませんでした。 そんな中で著者らは,エチオピアの Afar 地溝にある Chorora 層(動物相に基づき,1000-1100 万年前と推定された湖岸の堆積層) を調査し,類人猿の化石を発掘しました(1000-1050 万年前と推定)。

発掘されたのは 1 本の犬歯と 8 本の臼歯で,少なくとも 6 個体に由来していると推定されています(下図も参照)。 これらの歯は現生のゴリラと極めてよく似ているそうで,歯冠・歯先の高さが低いこと,エナメル質が厚いことが異なります。 ただしこれらの違いについてはゴリラで特殊化が進んでいて,Chororapithecus が祖先的な形質を残している可能性も考えられます (Chororapithecus でも一部の形質が特殊化している可能性もあるそうです)。そして Chororapithecus の状態は繊維質の食性への適応の初期段階にあると見られています。

発見された Chororapithecus の歯の位置(ヒトの顎の配置に灰色で示した)。 点線は第三臼歯(親知らず)

著者らは Chororapithecus はゴリラの系統に属すると考えており,従ってゴリラとヒトの系統の分岐が従来より古い 1200 万年前頃に遡ると推定しています。この推定に基づくと,チンパンジー系統とヒトの分岐も 900 万年前頃になるそうです。 チンパンジーよりヒトに近縁と言われる Sahelanthropus の年代が 600-700 万年前とされていることを考慮すると, これまでの推定をやや見直した方が妥当かもしれません。

今回の発見はもう一点重要な示唆を含んでいます。これまで中新世後期のアフリカから類人猿の化石がほとんど見つかっていなかったため, ヒト,チンパンジー,ゴリラなどの祖先となる類人猿の起源について,アジアやヨーロッパの絶滅類人猿を想定する仮説が提唱されていました。 Chororapithecus の発見によって,中新世後期にゴリラの系統が既に存在したことが示され, そのさらに祖先をユーラシアに求める必然性はなくなりました(中新世初期〜中期のアフリカからは複数の類人猿の化石記録がある; 類人猿の父)。 現時点では発見されたのは歯の化石のみですから,収斂の可能性も著者ら自身否定しきれていないようですが, この化石の発掘をきっかけに中新世後期のアフリカの研究に力が入れば,人類の初期進化史がまた見直されることになるかもしれません。

Suwa, G., Kono, R. T., Katoh, S., Asfaw, B. & Beyene, Y. A new species of great ape from the late Miocene epoch in Ethiopia. Nature 448, 921-924 (2007).

Dalton, R. Oldest gorilla ages our joint ancestor. Nature 448, 844-845 (2007).

Gibbons, A. Fossil teeth from Ethiopia support early, African origin for apes. Science 317, 1016-1017 (2007).

過去の関連記事:
歯から見えてきた初期人類の進化2 本の足の上から追加類人猿の父ルーシーの娘アファール猿人はヒトの傍系!?ヒトらしく歩く枝の上

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ヒトらしく歩く枝の上(2007.06.11)

二足歩行はヒトを人たらしめる特徴の一つですが,二足歩行という特殊な移動方法の進化的起源は未だに謎となっています。 Thorpe et al. (2007) はオランウータンの移動様式の観察から細い枝の上を移動する時の歩き方が二足歩行と類似しており, ヒトの仲間の直立二足歩行が樹上生活に由来する可能性を指摘しています。

直立二足歩行が獲得されたのは,ヒト亜科とチンパンジー亜科が分岐した直後と考えられています。 この頃の化石は森林地域から見つかっているため,森林における霊長類の生態が重要な意味を持ってきます(下記の関連記事も参照)。 ゴリラやチンパンジーの仲間は地上を歩くときに前足の指を地面につけて歩くナックル歩行(knucle walking)を行います。 一方でオランウータンはより樹上生活に特化しており,ほとんど樹上でのみ生活しています。 そこで著者らは樹上生活の代表としてオランウータンの移動様式を年間を通じて観察し,2811 の観察例に基づいて議論を展開しています。

類人猿は樹上で歩行する際には,しばしば手で支えをつかみながら直立歩行します。 しかしチンパンジーやゴリラは二足歩行する際に後肢を曲げているのに対して,ヒトやオランウータンでは後肢を真っ直ぐに伸ばしています。 オランウータンの観察からは,頑丈な枝の上では四足歩行する傾向が強いのに対して, 細く曲がりやすい枝を移動する際には複数の枝につかまりながら直立二足歩行する傾向が強くなることが示されました (中間的な枝の場合にはぶら下がって移動することも多い)。直立二足歩行する場合には通常(75%)安定化に手を用いていて, 後肢はほとんどの場合(>90%)真っ直ぐに伸ばしていたそうです。柔らかい枝を渡るためには膝を伸ばした直立二足歩行が有利なようです。

チンパンジーとゴリラのナックル歩行は似ているようで違いもあることが既に指摘されていました。 そしてオランウータンの樹上での直立二足歩行を踏まえると,ヒトの直立姿勢は類人猿の祖先の姿をとどめたものと推定されます。 一方でチンパンジーとゴリラはそれぞれ別々にナックル歩行の様式を獲得したことになります。 ヒト,チンパンジー,ゴリラがそれぞれ地上での移動に切り替えたきっかけとしては, 中新世に樹冠が断片化して樹冠を移動して生活することが困難になったことが挙げられています。

直立二足歩行が地上を歩くためのものだけではないとすると,初期の人類化石とされた SahelanthropusOrrorin などが直立二足歩行を行ったとされることについて,樹上生活の可能性も含めて見直す必要があるかもしれません。 それどころか,彼らが初期人類と考えられた根拠の一つに二足歩行が挙げられているわけですが, 樹上生活に適応していた仮定上のチンパンジーの祖先である可能性まで再検討すべきかもしれません。

化石の再検討はさておきまして,人類の二足歩行は現生の霊長類の中で見ると確かに異様なものです。 それが樹上での歩き方に由来するとの説明は,比較的すっきりした説明に聞こえます。このような仮説は立証するのが困難かと思われますが, 中新世の類人猿の化石証拠などの見直しが進めば仮説の検証もできるかもしれません。

Thorpe, S. K. S., Holder, R. L. & Crompton, R. H. Origin of human bipedalism as an adaptation for locomotion on flexible branches. Science 316, 1328-1331 (2007).

参考:
O'Higgins, P. & Elton, S. Walking on trees. Science 316, 1292-1294 (2007).

過去の関連記事:
2 本の足の上から追加:2本の足の上から類人猿の父ヒトは走るために生まれてきた新たな化石がヒトの歩き始めを照らすかルーシーの娘アファール猿人はヒトの傍系!?

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アファール猿人はヒトの傍系!?(2007.04.20)

初期人類の中でアファール猿人(Australopithecus afarensis)は最も研究が進んだ種と言えるでしょう。 ルーシーと呼ばれる個体からは,二足歩行の様子なども検証されています。しかし新たに発見された保存状態のよい下顎骨の研究から, 本種が現代人の直系の祖先ではなく,後に絶滅した頑丈型猿人(Paranthropus)の祖先に当たる可能性が指摘されました (Rak et al., 2007)。

著者らは 2002 年に,ルーシーの発見地点より約 2.5 km 東の地点で猿人の新たな標本を発見しました。 年代は約 310 万年前ごろで,頭部の特徴からアファール猿人と同定されました。この標本には特に下顎が良く保存されており, 下顎に着目して様々な計測が行われました。

下顎の後方にある下顎枝と呼ばれる部位には,二つの突出が存在します。このうち後方にあるものを関節突起と呼び,側頭骨に関節しています。 前方の突起は筋突起と呼ばれ,咀嚼のための筋肉が付着しています。現代人(Homo sapiens)やチンパンジー(Pan troglodytes), オランウータン(Pongo pygmaeus)などでは筋突起が細めで,先端がとがっています。ところがゴリラ(Gorilla gorilla) では筋突起が太く,付け根の太さが下顎枝のかなりの部分を占めています。また先端のとがりも後方に向かっていて, 明らかに他の種とは異なっていることが分かります。

下顎枝の構造(オポッサムの頭骨で例示)。上図の矢印が下顎骨と側頭骨の関節。下図の 1 が筋突起,2 が関節突起。

さて,新たに見つかったアファール猿人の場合は,下顎枝の構造が明らかにゴリラと類似しています。これはより不完全な化石にも共通していて, 数値化したグラフなどを見てもゴリラと似ていて,現代人やチンパンジーとは異なっていることが明白です。加えて頑丈型猿人と呼ばれるロブストス猿人 (Paranthropus robustusAu. robustus とも呼ばれる)もゴリラと似た同様の下顎枝を持っていることが分かりました。 この他,詳細な計測はなされていませんが,アフリカヌス猿人(Au. africanus)もゴリラ型の下顎枝を持っているようです。 一方でラミダス猿人(Ardipithecus ramidus)はグラフ中ではチンパンジーなどと同じ位置に混ざっていて, これは現代人型の下顎枝を持っていると考えられます。

チンパンジー,現代人,そしてより古くに分岐したオランウータンが同じタイプの下顎枝を持つことから, この現代人型の下顎枝が類人猿の祖先形質であると推定されます。しかしゴリラとアファール猿人や頑丈型猿人は系統的には離れているため, 下顎枝の形質は収斂進化の産物であると解釈されました。しかし同時に下顎枝の形質はアファール猿人らと頑丈型猿人の共有派生形質ではないか, と著者らは推測しています。この場合,アファール猿人は頑丈型猿人の直系の祖先であり, 我々現代人に繋がる系統ではなかったことになります。一方でラミダス猿人は現代人の直接の祖先にあたると推測されています。

   ----------------------------オランウータン
   |
------|   ---------------------ゴリラ
   -------|
       |   --------------チンパンジー
       -------|
          |   -------ラミダス猿人→?→現代人
          -------|
              -------アファール猿人・アフリカヌス猿人→?→頑丈型猿人→絶滅

著者らの系統仮説はこれまでの定説(アファール猿人から現代人の系統と頑丈型猿人の系統が分かれたとされる) に大きく反するもので,今後は他の形質に基づいた比較が進展するでしょう。 著者らの仮説は人類の進化の系譜を比較的すっきりした過程にまとめられる点で優れていますが,証拠にはまだ問題があるようにも思われます。

筋突起は咀嚼に直接関連する構造ですから,食性などによって収斂する心配があるように思われます。 オランウータン,チンパンジー,現代人は果実食を中心に様々な餌を摂りますが, ゴリラは繊維質の植物を中心に摂食しているとされています。頑丈型猿人も繊維質の植物食だったと言われていて, 食性が筋突起の形態と関連している可能性があるでしょう。

一応,この点について著者らも見解を述べています。アフリカヌス猿人とアファール猿人は食性的にゴリラなどとは異なっていたとの説を引用し, 食性による収斂の可能性を否定しています。ただ筋突起が機能的制約を受けていること自体が否定されているわけではなく, 筋突起の形質で本当に系統が明らかになるのかは慎重な検討が必要であると思います。

Rak, Y., Ginzburg,A. & Geffen, E. Gorilla-like anatomy on Australopithecus afarensis mandibles suggests Au. afarensis link to robust australopiths. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 6568-6572 (2007).

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続報:ホビットを巡って(2007.04.09)

ホビットと呼ばれるインドネシアで発掘された小型の人類化石は,現代人(Homo sapiens)の病理型なのか, それとも独立種(フロレス原人:Homo floresiensis)なのか論争が起こっています(ホビットを巡って)。 最近にも,Paleoanthropology Society の年次大会においてフロレス原人が現代人とは明確に異なる腕の構造を持っていることが指摘されたそうで, Science 誌のニュースが伝えています(Gibons, 2007)。

この記事によると,スミソニアン研究所の Matthew Tocheri がホビットの手首に着目した研究を発表したそうです。 現代人,ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis),Homo antecessor などの手首は複数の骨からなる, ショックを吸収するための構造を持っているそうです。ところがホビットの手首のレプリカを詳細に研究した結果, そのような構造は認められなかったそうです。ハビリス原人(Homo habilis)などの原始的な人類でもそのような構造を持たないことから, ホビットが現代人とは異なる,より原始的な種である可能性が支持されています。

発達過程から考えると,ホビットの手首の特徴は小頭症などの病変とは考えにくいとのことで, これまでの頭部の特徴を巡る議論に新しい観点を持ち込むことになりそうです。実際の小頭症の患者との比較は未だ行われていないため, ホビットの手首の特徴が現代人との種の違いを反映しているのかどうかは分かりませんが,ホビットが小頭症の現代人であるとの説が優勢な中で, ホビットを別種とする立場を支える見解が出てくると今後も目を離せません。もっとも人間の種分化とはどういうものなのか, その前提の論争が不十分なような気もしますが。

ともあれホビットの手首に関する論文が早く出版されて欲しいものです。

Gibbons, A. Hobbit's status as a new species gets a hand up. Science 316, 34 (2007).

過去の関連記事:
小っちゃいって事は便利だねっ続報・訂正続報フロレス原人の頭の中は?フロレス原人の追加標本「フロレス原人」再考ホビットを巡って

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アフリカからの旅のお供はピロリ菌(2007.03.03)

ピロリ菌(Helicobacter pylori:プロテオバクテリア門 カンピロバクター目)はヒトの胃に生息し, 胃潰瘍の原因としても知られる細菌です。感染は経口感染によるようで,感染後は胃に定着して生涯住み続けるようです。 Linz et al. (2007) はピロリ菌の遺伝的多様性を世界中のサンプルで調査し,ピロリ菌の分布がヒトの集団の移動と関連していて, ヒトと共に東アフリカから世界中に拡大していったことを示唆しています。

ピロリ菌の地理的分布と系統を比較した研究から,これまでにもピロリ菌がヒトの集団の移動を反映している可能性は指摘されていましたが, 十分な証拠は得られていなかったそうです。著者らは今回,サンプル数を大きく増やして 51 の民族に由来するピロリ菌 769 分離株を調べました。 5 種類の祖先的な塩基配列と,それらを様々な割合で含んだ 6 つの集団が確認されました。そして地点間の遺伝的差異を調べたところ, 対応するヒトの遺伝的差異と相関していることが示されたそうです。

さて,ヒトではアフリカにおいて遺伝的多様度が高く,アフリカから離れるにつれて多様度が下がる傾向が知られており, このことからヒトが比較的最近アフリカから移住したことを示唆していました。興味深いことに同じ傾向がピロリ菌においても見つかり, ピロリ菌が約 58,000 ± 3,500 年前に東アフリカから放散を開始した可能性を支持しています。 年代についてもヒトのデータから推定された 56,000 ± 5,500 年前と一致しており,整合性がとれています。

ピロリ菌とヒトの集団が同じような地理的移動を経てきたことは,ヨーロッパというより狭い範囲でも示されていて, 両者が密接な関係を持ってきたことが伺えます。

今回の結果から,ピロリ菌は集団をまたぐような急速な感染拡大を経たのではなく,ヒトの集団と共に世界中に広がってきたことが示されました。 逆に見ると,ヒトがアフリカから放散を開始したときにはすでにピロリ菌に感染していたことがわかります。 とすると気になるのは,それ以前はどうだったのか,ということです。ピロリ菌にはこれまでにアカゲザル(Macaca mulatta)からの報告例があり (On et al., 2005),チンパンジーなどの類人猿にも感染している可能性は十分にあるでしょう。 チンパンジーやゴリラにおいてピロリ菌の感染が示され,その遺伝的多様度が研究されれば, これらの霊長類の分布の変遷についても知見が得られるかもしれませんね。

Linz, B. et al. An African origin for the intimate association between humans and Helicobacter pylori. Nature 445, 915-918 (2007).

On, S. L. W. et al. in Bergey's Manual of Systematic Bacteriology 2nd ed, Vol. 2 (The Proteobacteria), Part C (The Alpha-, Beta-, Delta-, and Epsilonproteobacteria) (eds Brenner, D. J., Krieg, N. R. & Staley, J. T.) 1169-1189 (Springer, New York, 2005).

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ホビットを巡って(2007.02.05)

インドネシアのフロレス島で発見された小型の人類化石(代表的な標本は LB1。通称:ホビット,フロレス原人など) については本サイトでも度々紹介してきましたが(記事の末尾を参照),これが独立種(Homo floresiensis) なのかどうかを初めとして論争が耐えません。Powledge (2006) はこれらの論争の経緯と現状について簡単に紹介しています。

化石の報告当初から,LB1 が独立種であるとする見解には疑問の声が上がっていました。 化石を直接研究した研究者による最初の反論は Jacob et al. (2006) でした(「フロレス原人」再考)。 結局,Jacob et al. (2006) は LB1 を独立種とする根拠となった特徴が小頭症によって説明され, 現在もフロレス島に住んでいる Rampasasa 集団と共通した特徴も指摘されました。

しかし Jacob et al. (2006) の研究が万全のものでなかったことあって、これが決定的な反論とはなっていないようです。 おそらく現在最も注目されているのが,LB1 の脳でしょう。小頭症の場合にも脳の形態に異常が生じるそうですが, 調べられた小頭症の患者の脳には認められない,LB1 に独特の特徴があるそうで,これがホビットを新種と考える証拠とされています。

ホビットの系統的由来についても見解が分かれているそうです。現代人の変異であるとする見解の他にも, 当初指摘されていた原人(Homo erectus)の子孫であるとする見方(これは地理的には不思議ではないとのこと)や, 中には体制の類似などから猿人(Australopithecus)との関連を協調する見解まで存在し(これは微妙), やはり明確な結論に達していません。

LB1 と共に発見された石器については,やはり身体的特徴と同様に独特と言えるそうです。 とはいえ一応中国本土のものと基本的には似ているようで,現代人との関連性をどちらかといえば支持しているようです。

等々,LB1 を巡る様々な議論が紹介されていましたが,「新種の小型人類発見」という当初の見方は, やや弱まってきているように読み取れました。発見された化石自体は貴重なもので,特に島嶼で現代人の小型化が起こったとすれば, 種分化が起こっていたのかどうかに関わらず重要な発見です。しかし少数の化石から議論できることは既に限界に近づいていて, これで解決しない議論は,新たな化石の発見によってしか解決しないようにも思われます。 一応,DNA による系統推定から議論が進展する可能性もありましたが,これは既に Max Planck Institute の Pääbo らのチームが挑戦し,不成功に終わっているそうです(このチームはネアンデルタール人のゲノムプロジェクトに名前を連ねています。 旧人のゲノムプロジェクト III)。

論争も研究もまだまだ続いています。既に LB1 の脳に関する新たな研究(「新種説」を支持するグループによる) もオンラインに出ているとのことで(Balter, 2007),当面は論争が収まる気配はありません。

Powledge, T. M. What is the hobbit? PLoS Biol. 4, 2186-2189 (2006).

LB1 の脳の研究に関するニュース記事:
Balter, M. Small brains, big fight: 'Hobbits' called new species. Science 315, 583 (2007).

過去の関連記事:
小っちゃいって事は便利だねっ続報・訂正続報フロレス原人の頭の中は?フロレス原人の追加標本「フロレス原人」再考

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旧人のゲノムプロジェクト II(2006.12.06)

ピロシーケンスを用いて同時に大量のネアンデルタール人(Homo neanderthalensis) のゲノム配列を解読する研究について紹介しましたが(旧人のゲノムプロジェクト I)、 別の研究チームは量ではなく、再現性と DNA の維持を優先とした方法で解読を進めています(Noonan et al., 2006)。

この著者らは,前の著者らと同じ DNA サンプルを用いて,異なるアプローチでネアンデルタール人のゲノム解読に挑戦しています。 Noonan et al. (2006) は,まず DNA をベクターに組み込み,バクテリアに入れて増殖させました。 このように構築したライブラリを元にシーケンスをすることにより,シーケンスによってサンプルが減少することもありませんし, 同じクローンを複数回解読することにより,シーケンスの際の間違いもチェックすることが出来るという利点があります。

彼らはまず,通常のサンガー法を用いてライブラリの質を調べました。 その結果,ベクターに挿入されたヒト類似の配列の大部分が短鎖の(断片化した)配列で,化石に由来することが確認されました。 しかしネアンデルタール人の配列はバクテリアなど他の配列に比べれば少ないため,やはり並列ピロシーケンスを実行しています。 なお一部サンガー法でも追試したところ,結果は 99.89% 一致したそうですが,これはピロシーケンスの精度が低いためでしょう。 また化石 DNA の劣化による塩基置換の痕跡も確認されています。

さて,彼らは併せて 65,000 塩基対の解読に成功しました。この著者らもやはり, 現代人とネアンデルタール人の分岐年代や交配の有無を中心に議論しています。 まず,両者の染色体配列は平均して約 70(47〜102)万年前に共通祖先がさかのぼるとしています。 ただし両者の集団が完全に分かれたのはより後の時代で,約 37 万年前と推定されました。 これは最古の現代人の化石の年代(約 19.5 万年前)を大きくさかのぼりますが,化石の保存の悪さや, 分岐直後の現代人は今とは形態的に異なっていたと思われますので,特に問題はないでしょう。

また,現代人とネアンデルタール人の交雑の可能性についても調べられていますが, もし交雑があったとすれば,ヨーロッパ人に固有の座位がネアンデルタール人に共有されていることが期待されます (ネアンデルタール人は西アジアからヨーロッパに分布)。しかしそのような証拠は見つからなかったため, 少なくとも Noonan et al. (2006) のデータは両者の交雑があったとする仮説に否定的でした。

Noonan et al. (2006) の解析で実際に解読された配列の量は Green et al. (2006) に比べて少ないと言えます。しかしライブラリを作成した場合,プローブとして既知の類似配列(ヒトゲノムのデータなどから得られる) を用いて特定の配列を選別して解読することができるそうです。 実際にこれはネアンデルタール人のライブラリでもある程度成功しており,有用性が期待されます。

ゲノムプロジェクト,と言っても,目的によっては染色体の端から端までを読む必要はありません。 実はヒトゲノムプロジェクトでも一部の領域は解読されていません。 従って,ネアンデルタール人でゲノムプロジェクトを進める場合にも,全体像が見えた時点で興味を絞り込み, 特定の遺伝子を精度よく解析する戦略をとることになるかもしれません。

ネアンデルタール人より古い時代の人類の遺伝学的な研究はかなり難しいと思われますが, ネアンデルタール人のゲノムプロジェクトによって培われるであろう技術が, より古い時代の DNA 研究にわずかなりとも可能性を広げれば,とも期待してしまいますね。

Noonan, J. P. et al. Sequencing and analysis of Neanderthal genomic DNA. Science 314, 1113-1118 (2006).

Green et al. Analysis of one million base pairs of Neanderthal DNA. Nature 444, 330-336 (2006).

参考:
Pennisi, E. The dawn of stone age genomics. Science 314, 1068-1071 (2006).

Balter, M. A Neandertal legacy. Science 314, 1071 (2006).

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旧人のゲノムプロジェクト I(2006.12.01)

現生の生物でヒト(現代人:Homo sapiens)に最も近縁な生物はチンパンジー(およびボノボ)です。 しかし絶滅した人類の中にはより現代人に近縁な種が複数知られており,中でもネアンデルタール人(旧人:H. neanderthalensis) は現代人の姉妹群として知られています。Green et al. (2006) は現代人の進化的起源を遺伝子レベルで調べるために, ネアンデルタール人のゲノムの大規模な解析を始めています。

ネアンデルタール人は顔面中央部の突出や,脳函,顎,内耳などの形態的特徴から現代人と区別され(しかし現代人と同じ格好をしていたら, 区別は難しいとの話もあり),時代的には 40 万年前から 3 万年前のヨーロッパ〜西アジアに生息していました。 かつては現代人と同種(ただし別亜種)とされたこともありましたが,化石から抽出されたミトコンドリア DNA の研究から現代人とは数十万年前に分岐したことが示唆され,その他の証拠の蓄積もあって現在ではほぼ別種と認められています (現代人のネアンデルタール人の歩いた交わらない道ネアンデルタール人は現代人とは別種である ネアンデルタール人あれこれ)。さて,このようにネアンデルタール人は現代人とごく近い生物である上, 現在の技術で DNA の解析が可能な唯一の化石人類です。そこで可能であれば全ゲノムを読みたいと思うのは自然な流れでもありました。

遺伝子を調べるには,まず良質な化石が必要です。著者らは複数の化石から DNA を抽出し, 既に研究のあるミトコンドリアの部分配列を確認しました。その結果,クロアチアで出土した役 3 万 8000 年前の個体(Vi-80) が現代人の DNA にほとんど汚染されていないネアンデルタール人固有の DNA を含むことが示されました。

次に,ゲノム解析の方法ですが,これまでのヒトゲノムプロジェクトなどで用いられてきた方法は, 長鎖の DNA がないと著しく効率が悪くなりますが,化石の DNA は激しく断片化しているのが普通です。 そこで今回はピロシーケンスという方法に基づいた 454 シーケンサーという,最新の方法が用いられました。 この方法の特徴は短い DNA 断片をベクターやプライマー配列を用いることなく増幅し,無数の配列を同時に解読できることで, まさに化石のゲノム解析に最適の特徴を備えています(参考:研究者に優しいハイブリッド・ゲノム解読)。 その結果,まず 25 万強の配列断片を得ています。このうち 6.2% が霊長類,すなわちネアンデルタール人と思われる配列でした (ちなみに土壌菌である放線菌の配列が最も多く得られています;6.8%。8 割は不明の配列)。

まずミトコンドリアの配列を調べたところ(2,705 塩基対が得られている),やはり現代人(311 人のデータが比較された) とは大きく異なる系統であることがわかりました。ただしこの違いには DNA の劣化も影響していることが, 個別の配列の再検証からわかりました。これを補正したところ,Vi-80 は現代人とは約 46〜82.5 万年前に分化したことが示されています (ヒトとチンパンジーの分岐を 470〜840 万年前と過程)。

核 DNA については,100 万塩基対以上が解読されており,現代人のゲノムと並べられています。Y 染色体の配列も得られており, Vi-80 が男性個体であったことも示されています。塩基置換のパターンが調べられた結果,ネアンデルタール人の系統で C から T, G から A の置換が特に増大しており,これは化石中での DNA の損傷によると考えられるそうです。 従って,この後の解析は全て損傷による影響も考慮しています。

得られた核の配列データから求められた,現代人とネアンデルタール人の分岐年代は 46〜57 万年の間で, ミトコンドリアの結果とも一致しました。さらにゲノム情報からは過去の集団サイズもわかるそうです。 現代人の多様性はわずかに 1 万人の有効集団サイズに由来するそうで,他の類人猿(チンパンジー,ゴリラ,オランウータン) はその 2〜4 倍あったと推定されています。ネアンデルタール人の場合は 3,000 人程度と推定され(多くても 12,000 人まで), 少数の集団から分布を広げるパターンが現代人と共通していたそうです。しかし SNPs(一塩基多型)の解析からは, ネアンデルタール人に固有の SNPs が多数認められ,祖先集団が小さかった可能性と矛盾したそうです。 これは現代人との間に遺伝的交流が,おそらくは現代人の男性からネアンデルタール人への遺伝子流入を示唆しているのかもしれないそうです。 もっとも最後の仮説は今後検証される必要がありますが。

このように様々な情報が得られていますが,今後さらに解読が進めば,チンパンジーゲノムとも併せて, 現代人のゲノムに固有の特徴を明らかにするために役立つとされています。もちろんネアンデルタール人の特徴についても言うまでもありません。 何が現代人とネアンデルタール人の運命を分けたのかは非常に気になりますが,そこまで解読を進めるにはまだまだ困難がありそうです。 一つは DNA がやはり痛んでいたということです。今回は特に保存状態のよい化石を選別したにもかかわらず無視できない量の損傷が認められ, どうしても確認のための再解読が必要です。

そもそも 454 シーケンサーを用いて全ゲノムを解読しようとすると, 今回の方法ではネアンデルタール人の骨が最低でも 20 グラム,シーケンスも 6,000 ラン必要で, 未だ現実的ではないそうです。著者らは今後の技術革新も踏まえて,2 ヶ年計画でドラフト配列を出そうとしていますが, どこまでの質を維持できるのかはやや疑問の残るところです。ネアンデルタール人と現代人の差がごくわずかであることを踏まえると, わずかなエラーも深刻な問題になると思われますが,どうなることでしょうか。

なお,この論文が Nature に掲載された翌日,Science にもネアンデルタール人のゲノムに関する論文が掲載されています。 近いうちにこちらも紹介したいと思います。

Green et al. Analysis of one million base pairs of Neanderthal DNA. Nature 444, 330-336 (2006).

参考:
Lambert, D. M. & Millar, C. D. Ancient genomics is born. Nature 444, 275-276 (2006).

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ルーシーの娘(2006.10.12)

初期人類の全身骨格化石の中で一番有名な個体はルーシーと呼ばれる Australopithecus afarensis の女性でしょう。ルーシーの研究は初期人類の姿について重要な知見を与えましたが, Alemseged et al. (2006) は同じ A. afarensis の幼体(3 歳程度の女児)のよく保存された化石を発見し, 初期人類が樹上でも活動していた可能性を示唆しています。

今回発見された化石(DIK-1-1)はエチオピアの Dikika という場所にある約 330 万年前の地層から発見されました。 堆積環境から,この個体は洪水で流されたまま堆積物に埋もれたと推測されています。死後間もなく(または生き埋め?) 堆積物に埋もれたために全身のかなりの部分が保存され,しかも写真を見る限り頭骨に目立った歪みもありません。 頭骨には下顎骨が関節したまま残っており,背骨や肋骨の一部も頭骨に繋がっています。

顔面の比較から,DIK-1-1 は A. africanus などよりも A. afarensis に似ており, 特に上顎から鼻にかけて後者に特徴的な形態が見られるそうです。さらに歯のほとんども保存されていて, 乳歯の他に生える前の永久歯も CT スキャンによって観察されています。 ちなみに歯の発達具合をチンパンジーのそれに当てはめた結果から 3 歳という年齢が推測されています。

DIK-1-1 には他の化石には保存されていないような部位も保存されていました。その一つが舌骨で, 現生人類のものよりもアフリカ類人猿のものと形態的に似ていたそうです。 さらに下肢の骨格から二足歩行的な特徴も見つかりましたが,上半身の特徴, 特に極めて珍しい肩甲骨の形態はゴリラなどに似ており、樹上生活への適応が示唆されました。

DIK-1-1 はとにかく保存状態がいいようで、幼体にもかかわらず重要な骨が次々と見つかりました。 しかし保存状態がよくても 1 個体でしかないのもまた事実で,今後は他種の化石も含めて, 現代人との間を埋める化石の発掘が期待されます。この化石のクリーニングにも, 首より後ろについてはさらに数年かかるといわれていますが,スピードアップも図って欲しいです。

樹上生活の重要性については,人類の起源にも話が関連します。というのは,人類の二足歩行が森林で起こったのか, サバンナなど開けた環境で起こったのかは大変興味深い話題だからです。化石からの証拠だけでなく,地質学の情報として, 動物化石の組成などから過去,この地域に森林があり,しかし草原環境も広がっていたようです(Wynn et al., 2006) 。これは樹上生活の割合が高かったとも低かったとも考えられるため,仮説とも矛盾しませんが, 対立する仮説に決着をもたらすわけでもなさそうです。

Alemseged, Z. et al. A juvenile early hominin skeleton from Dikika, Ethiopia. Nature 443, 296-301 (2006).

Wynn, J. G. et al. Geological and palaeontological context of a Pliocene juvenile hominin at Dikika, Ethiopia. Nature 443, 332-336 (2006).

ニュース記事など
Wood, B. A precious little bundle. Nature 443, 278-281 (2006).

Gibbons, A. Lucy's 'child' offers rare glimpse of an ancient toddler. Scienfe 313, 1716 (2006).

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「フロレス原人」再考(2006.09.20)

インドネシアのフロレス島で発見された 18,000 年前の人類化石(LB1)が,身長約 1 m の新種の絶滅人類(Homo floresiensis)だったとする発見は大きな話題と論争を呼びました (小っちゃいって事は便利だねっなど)。Jacob et al. (2006) は LB1 などの標本を再検証して,LB1 は発育に異常のあった現代人(H. sapiens)だったと批判しています。

LB1 を現代人とは同種であると考える理由はいくつも提出されています。 例えば,フロレス島が長期間に渡って他の陸域と隔離されていたことが種分化の原因とされていましたが, 象の仲間が少なくとも 2 回フロレス島に渡った形跡があることから。隔離は疑わしく, 従って種分化が起こったとは考えにくいと批判しています。ただし最初に象が渡った時期が LB1 の議論とは関係ないほど古い, との批判も出ているそうです(Culotta, 2006)。

より直接的な,骨格に関する議論もあります。あご先(chin)が無いことが LB1 の特徴とされていましたが, フロレス島に現在も住んでいる Australomelanesian 集団の Rampasasa 集団を著者らが調査したところ, 大多数の人が外見的には目立ったあご先を欠いていたそうで,あご先の有無は種差にはならないとしています。 外見だけで骨格上のあご先の有無を判断できるかについては,また論争になるでしょう。

次に頭骨の様々な特徴は小頭症による発達不全と見られ,このことは頭骨が著しく左右非相称であることからもわかる, としています。また LB1 の小臼歯に回転しているものがあることについても,現代の Rampasasa 集団に同様の症状が見られることから,種差として評価することはできないとしています。この他の特徴についても, ことごとく小頭症による発達不全と Rampasasa 集団との類似性で説明できるとされています。

頭骨の左右非相称性については死後に変形した可能性もあり(というかそう考えた方が自然), 著者らの批判が全て当たっているとも言い難いのですが,LB1 などの化石を新種人類とした当初の研究に不備があった, とする見解には同意できます。特に小人症,小頭症の可能性についてこれまで十分な検証が行われておらず, しかも比較の対照が現地の現生人類ではなく,ヨーロッパなどの人類に限られていたことは大きな問題でした。 今回の批判論文によって,より高度でしっかりとした証拠に基づいた議論が展開されるとすれば良い傾向ですね。

Jacob, T. et al. Pygmoid Australomelanesian Homo sapiens skeletal remains from Liang Bua, Flores: Population affinities and pathological abnormalities. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 13421-13426 (2006).

解説記事:
Culotta, E. Skeptics seek to slay the 'hobbit,' calling Flores skeleton a modern human. Science 313, 1028-1029 (2006).

Editorials Rude palaeoanthropology. Nature 442, 957-958 (2006).

過去の関連記事:
小っちゃいって事は便利だねっ続報・訂正続報フロレス原人の頭の中は?フロレス原人の追加標本


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「出アフリカ紀」の見直し(2006.01.30)

絶滅したヒト科の仲間には現在多数の種が知られており, そのほとんどがアフリカで多様化し,一部のみがアフリカの外へと進出したと考えられています。 しかし近年アジアでヒト属の化石の発見が相次ぎ, 予想以上に古い時代からアジアにヒト属が存在していたことが明らかになりつつあります。 Dennell & Roebroeks (2005) はこの状況を踏まえ,さらにヒト属が多様化した時代の古環境や化石の発掘状況を考えると, アフリカ産人類とアジア産人類の関係について見直しが必要なのではないか,とレビューしています。

人類はアフリカ大陸において,600〜700 万年前頃にチンパンジーの祖先である類人猿と分岐しました。 その後数百万年に渡って人類の種分化はアフリカ大陸の内部で起こり, 原人(特に Homo erectus)の時代,鮮新世後期に最初の「出アフリカ」を果たし, さらに後の時代,現代人(Homo sapiens)が誕生してから第 2(?)の出アフリカが起こり, 今の人類の世界になったというのが従来の定説でした。

しかし,アジアの人類化石は非常に限られています。これは化石が出る露頭が少ない,という問題もありますが, 重点的に研究が行われていないことも原因の一端と見られています。 現在,アフリカ以外での最初の人類化石は 180 万年ほど前と言われるジャワ(インドネシア)産のヒト属化石です。 そのため,このしばらく前に Homo erectus かその近縁種がアフリカを出たのが, 最初の出アフリカということになっています。 170 万年ほど前の知られているヒトの分布は,アフリカ,グルジア(中東)を経て,パキスタン,中国, インドネシア,と東アジア,東南アジアに及んでいます。しかしこれらの証拠は年代的にも地理的にも断片的で, 本来の分布が完全に理解されているのかどうか,疑問が呈されています。

Dennell & Roebroeks (2005) が強調しているのは,証拠の欠如と欠如の証拠の違いです。 出アフリカの年代を正確に知るためには,アフリカ外の最初の人類化石に注目するだけではいけません。 それ以前に人類が「いなかった」ことも示さなければならないのです。化石記録が断片的であることを踏まえれば, 180 万年前以前にアジアに人類が「いなかった」証拠というのはないと言ってよく, 出アフリカについてはより幅広い仮説を検討する必要があると強調しています。

例えばより古い時代,300〜350 万年以上前,アウストラロピテクス属(Australopithecus) すらアフリカ外に進出していた可能性があるとしています。 著者らによれば,アフリカとアジアという区分け自体に問題があるとのことで, 鮮新世には西アフリカから中国北部にかけて草原が広がっていたと考えられているそうです。 この草原は動物にとっては行き来可能な一地域と見做すことも出来るため, 著者らは「サバンナスタン」("Savannahstan")という地域としてまとめることを主張しています。 当然人類ものサバンナスタンを行き来出来た可能性があるわけです。 場合によっては東アフリカに分布した Homo ergaster などはアジアから逆に再流入してきた可能性も指摘されているそうです。

このように,人類の起源や多様化をアフリカのみを軸に考えることは確かに危険でしょう。 ダーウィンの時代に,アフリカが人類の揺籃の地と言われたことが尾を引いていることもあるでしょう。 近年のアジアにおけるいくつかの重要な発見,例えばグルジア産の最古級の原人化石(Homo erectus あるいは Homo georgicus)や,インドネシアで見つかった新しい時代の小型の原人化石(Homo floresiensis), などの化石は,アジアに研究者の注目を集めつつあります。 古人類学においてアフリカの重要性がなくなることはないでしょうが,このレビューにあるように, アジアの未調査・調査不十分な地域への関心が今後拡大していくことになるでしょう。

Dennell, R. & Roebroeks, W. An Asian perspective on early human dispersal from Africa. Nature 438, 1099-1104 (2005).

参考(昨年出版された人類学の読みやすい解説書です):
三井誠 人類進化の 700 万年:書き換えられる「ヒトの起源」 (講談社, 東京, 2005).

内村直之 われら以外の人類:猿人からネアンデルタール人まで (朝日新聞社, 東京, 2005).


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類人猿までの道のり(2005.11.11)(→古生物学)


フロレス原人の追加標本(2005.10.22)

フロレス原人(Homo floresiensis)については、 これまで事実上タイプ標本の LB1 のみが研究されてきました。 この 1 個体だけでも興味深い特徴がいくつか見つかっていたわけですが、 実際にそれらの特徴が LB1 の特徴なのか、フロレス原人全体の特徴なのかは明らかではありませんでした。 今回、Morwood et al. (2005) は新たに 7 個体(推定)に由来するフロレス原人の断片的な標本を報告し、 特に下顎骨や手足の骨について、新しい知見を示しています。

小っちゃいって事は便利だねっフロレス原人の頭の中は? で紹介した研究では、フロレス原人の代表として LB1 のみが用いられていたため、混乱が生じていました。 既に 7 個体に由来するいくつかの骨が得られていることは言われていましたが (続報・訂正:小っちゃいって事は便利だねっ)、 これらの化石について詳細な生物学的研究は出版されていませんでした。

フロレス原人の化石は,古いものでは 95,000-74,000 年前から,新しいものは 12,000 年前から見つかっており, 小型の原人の集団が長期間にわたって存在したことが示されました。 また,今回報告された骨には LB1 とは別の下顎骨も含まれており,両者が共に顎先が丸くなっていることが分かりました。 顎先は現代人(H. sapiens)では小頭症の患者も含めて常に多かれ少なかれ突出しており, これが現代人の共有派生形質と考えられているようです。従って顎先の突出を欠くフロレス原人は, より原始的な人類と考えられるわけです。

また,LB1 について手足の骨がそろったことなどから,フロレス原人の体型が推定できました。 この値は現代人やエレクトス原人(H. erectus)よりも猿人(Australopithecus など)に近いそうで, フロレス原人の祖先がエレクトス原人よりも原始的な人類だった可能性も否定できないと見ています。

フロレス原人が猿人の子孫というのは飛躍が過ぎるとしても, 今回の結果はフロレス原人が確かに小型の人類種であり,現代人よりも原始的で, 確かにエレクトス原人と関連性があるといえそうです。

残念ながら,フロレス原人の DNA 配列については言及されていませんが, 保存状態の良い化石から DNA 配列が調べられれば, フロレス原人をめぐる多くのなぞについても大きな突破口が開けると思うのですが, 果たしてそんな日が来るのでしょうか。

Morwood, M. J. et al. Further evidence for small-bodied hominins from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia. Nature 437, 1012-1017 (2005).

参考:
Lieberman, D. E. Further fossil finds from Flores. Nature 437, 957-958 (2005).

Culotta, E. New 'hobbits' bolster species, but origins still a mystery. Science 310, 208-209 (2005).


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フロレス原人の頭の中は?(2005.10.21)

フロレス原人(Homo floresiensis)は昨年インドネシアのフロレス島より報告された, 身長 1m ほどの化石人類です。彼らがごく最近(18,000 年前)まで存続し, 現代人(H. sapiens)と同じ時を過ごしていたということも驚くべきことでしたが, チンパンジー並みとも言われた小型の脳を持つにも関わらす,石器を作っていた可能性があることも驚きでした。 Falk et al. (2005a) は,もう一つ謎であった彼らの進化的起源の解決も含めて, フロレス原人の脳(頭蓋骨の内部)を CT を用いて調べました。 これに対するコメント(Weber et al., 2005)などが出版されたので,合わせて紹介したいと思います。

Falk et al. (2005a) はフロレス原人の脳と,他の幾つかの化石人類,現生人類,小人族の現代人, 類人猿および小頭症の現代人の脳の形態を比較しました。 フロレス原人については,当初はエレクトス原人(H. erectus)が祖先であると言われていましたが (小っちゃいって事は便利だねっ),小頭症の現代人(の集団)である可能性も指摘されました (Henneberg & Thorne, 2004)。この可能性を検討するために小頭症の脳の比較も行われたのです。

その結果,フロレス原人の脳容量ははじめの見積もりよりもやや大きく(417cm3), 形態は小人族や小頭症の現代人とは異なっており,エレクトス原人との類似性が認められたそうです。 また,前頭葉などが発達していたことから,石器を作る能力を持つことが説明できたとも言われています。

さて,この研究への批判が Weber et al. (2005) によって提出されました。 Falk et al. (2005a) では,小頭症の患者(ヨーロッパ人)の脳が一サンプル解析されたのみでした。 これはフロレス原人が小頭症であるかどうかを判定する基準としてはいかにも不十分であるとして, Weber et al. (2005) は 19 人の小頭症患者の脳を比較に加えました。 その結果,フロレス原人の脳のサイズが小頭症患者の範囲に含まれ, Falk et al. (2005a) が用いた測定項目のいくつかについても, フロレス原人の値と極めて近い値を示した患者がいたことが示されました。 また,Falk et al. (2005a) が知的活動の証拠として重視した Brodmann's area 10 の発達についても, 一部の小頭症患者では,この部位が発達していても会話の能力を欠き,知的障害も認められたそうです。 従って,フロレス原人が石器を実際に作る能力を持っていたかどうかに疑問を呈しています。

Falk et al. (2005b) は Weber et al. (2005) が全ての測定値を示していないため, 実際にはフロレス原人と小頭症患者の脳が区別できる可能性を主張しており, また比較の際に誤った比較を行っているために類似して見えただけだとしています。

どちらの見解が正しいのかは現時点では評価が難しいところですが, Falk et al. (2005a) が充分な数の小頭症患者を調べていないことは事実であり, また脳の各部の発達の程度と機能の発達の有無がどのように関連しているのかも充分には理解されていません。 特に,小型化のような,特殊な進化的な改変が行われた場合の影響に至っては手に負えないのではないでしょうか? 当面は小頭症患者(そもそも単一の原因で起こる症状ではないと思われる) の脳の形態を幅広く理解することが先決と思われます。 ただしフロレス原人の進化的な起源について考察する場合には,別のアプローチも考えられますので, それについては次に紹介する論文との関連で議論したいと思います。

Falk, D. et al. The brain of LB1, Homo floresiensis. Science 308, 242-245 (2005a).

Weber, J., Czarnetzki, A. & Pusch, C. M. Comment on "the brain of LB1, Homo floresiensis". Science 310, 236b (2005).

Falk, D. et al. Response to comment on "the brain of LB1, Homo floresiensis". Science 310, 236c (2005b).

Henneberg, M. & Thorne, A. Flores human may be pathological Homo sapiens. Before Farming 2004/4, article 1: 2-4 (2004).

参考:
Balter, M. Small but smart? Flores hominid shows signs of advanced brain. Science 307, 1386-1389 (2005).

Brown, P. & Morwood, M. Comments from Peter Brown and Mike Morwood. Before Farming 2004/4, article 1: 6-7 (2004).

小っちゃいって事は便利だねっ続報・訂正続報


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気候変動が決めたヒト属の進化(2005.09.26)

ヒト属の進化の中で,興味深い出来事を幾つか挙げるとすれば, アフリカからの数度にわたる大移動と,現代人による旧人や原人との競合が思いつきます。 今回,Finlayson (2005) はこれらの出来事に気候の変化が大きな役割を果たした可能性を議論しています。

Finlayson (2005) は原人(Homo erectus)から現代人(Homo sapiens) に至るまでの進化をレビューしています。 ヒト属の進化に関しては昨年のフロレス原人(Homo floresiensis)の発見 (小っちゃいって事は便利だねっ続報・訂正続報)やその他重要な化石などの証拠が蓄積しており, 研究者の見方にも影響を与えているようです。

このレビューでは,原人の放散,現代人の放散,現代人と旧人(ネアンデルタール人) の関わりなどに焦点が当てられています。原人がアフリカからまずアジア方面に分布を広げ, ヨーロッパにはむしろ遅れて到達したことなどがわかってきているようです。

現代人は草食獣を狩るという生活スタイルをとっており,草食獣を追って東アジアに向かって分布を広げたようです。 この際,海岸沿いに分布を広げたとする見方が有力なようです。 後に,現代人はヨーロッパや全世界に分布を広げますが, これには現代人の行動の進化が関わっていると旧来考えられてきました。 しかし Finlayson (2005) はこの仮説が充分な証拠を欠き, むしろ気候の変動がきっかけになったとの見方をまとめています。

旧人(西アジアからヨーロッパに分布)と現代人の相互関係についても重要な問題ですが, 近年の DNA 解析などの結果からは,両者は交雑を行っていないと考えられています (現代人のネアンデルタール人の歩いた交わらない道ネアンデルタール人は現代人とは別種であるネアンデルタール人あれこれ)。旧人の分布の変化も, 気候の変動と密接に関わっているようで,氷河期には数箇所のレフュージア (厳しい気候条件で追いやられた生物が生き延びた比較的穏やかな気候の土地)) に追いやられていた様子がわかってきています。 また,その絶滅についても現代人の競合に負けたといよりもむしろ, 厳しい気候によって旧人の集団が断片化したことが主要な原因であった可能性も議論されているそうです。

ヒトの進化は我々自身に最も関わりのある進化のイベントにもかかわらず, 化石記録が残りにくいこともあって中々研究が進展しないようにも思えます。 しかし研究は確かに進展しており,いつかはヒト属の進化の詳細が確かな証拠に基づいて示されるでしょう。 今回のレビューはそんな期待に答えるものとなっているように感じました。

Finlayson, C. Biogeography and evolution of the genus Homo. Trends Ecol. Evol. 20, 457-463 (2005).


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化石の人も言葉を聞き取る(2005.03.18)

化石からその生物の生態的特徴を読み取るのは多くの場合難しい作業になります。 ヒト族の絶滅種について言えば,どの時点で言語能力を獲得したのかが,大きな関心の一つですが, 化石から言語能力を解明するのはやはり難しいと考えられます。

Martinez et al. (2004) は,Homo heidelbergensis(?)の化石頭骨を調べ, 耳の周辺の構造を CT を用いて三次元的に復元しました。

チンパンジーと現生人類においても,同様の三次元モデルを用いて効率よく聴き取れる音の周波数が調べられており, その結果,2〜4 kHz の領域で,ヒトの耳がチンパンジーに比べて優れている事がわかりました。 この領域は,言語に用いられる事から,現生人類の耳は骨格レベルで言語に適応していると考えられます。

さて,H. heidelbergensis の場合でも, 同様に 2〜4 kHz の領域でチンパンジーより聴覚が優れていることが予想されました。 このことから,H. heidelbergensis は既に言語能力を獲得していたと予想されます。

この結果は言語に比較的密接に関わった部分の検証に基づいているので, 文化レベルなどから判断するよりも説得力があります。 しかしながらチンパンジー以外の類人猿が調べられていないため,実はゴリラも 2〜4 kHz 域がよく聴き取れる, などという結果が将来出てくる可能性も否定できません。 また,今回のサンプルは約 35 万年ほど前の化石に基づいていて, 新しい時代の人類の言語能力しか分かりません。 ヒト族の歴史は 400〜700 万年はあるはずなので,より古い時代の人類化石についても 同様の耳の構造が観察されると,言語能力の獲得時期を絞り込む事が,少しは出来るようになるかもしれません。

Martinez, I. et al. Auditory capacities in Middle Pleistocene humans from the Sierra de Atapuerca in Spain. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 9976-9981 (2004).


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新たな化石がヒトの歩き始めを照らすか(2005.03.15)

エチオピアで,400 万年前のヒト族化石が発掘され,報道されています。 Haile-Selassie らが発見したのは,首から後ろの骨多数で, その中には骨盤と大たい骨の関節部分も含まれていました。 ここからこの化石の持ち主が二足歩行していたことが分かるそうです。

話によると,これは最古の二足歩行の確かな証拠になるそうです。 というのは,これより古い年代のヒト族化石は何種か知られていますが, いずれも断片的で,二足歩行していたかどうか現在も論争が継続しているためです。 今回の発掘では残念ながら頭骨は見つからなかったそうで,今後発掘を再開して頭骨や下顎骨を発見したいそうです。

現時点では簡単な観察しか行われていないようで,今後,詳細な研究が進んでから論文になるはずですが, 一応,可能性としては Australopithecus anamensis かも知れないとのことです。

ニュース記事が Nature や Science に掲載されています。

Dalton, R. Anthropologists walk tall after unearthing hominid. Nature 434, 126 (2005).

Gibbons, A. Skeleton of upright human ancestor discovered in Ethiopia. Science 307, 1545-1547 (2005).


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ヒトは走るために生まれてきた(2004.11.28)

ヒトの直立二足歩行は,草原を長距離移動するための適応である, というのが,ヒトの進化に関する有力な仮説です。 また Australopithecus 属から Homo 属への進化を見ても, 歩行能力が大きく進歩していた事が伺えます。

ところが Bramble & Lieberman (2004) はこの見解に反して,長距離走への適応こそが Homo 属の進化において重要な役割を果たしたとする見解を提出しています。 彼らは現代人(Homo sapiens)や原人(H. erectus)の特徴を調べ、 エネルギー、強度、安定性、体温調節などの観点から長距離走への適応を示しました。

ウマやイヌなど他の動物と比べると、短距離走ではヒトに勝ち目はありません。 しかし長距離走では、ヒトはほとんどの他の動物に勝っているそうです。 特に、霊長類のなかでは短距離・長距離を問わず、ヒトは圧倒的な走行能力を示します。 そしてこのような走行への適応は、Australopithecus には見られず、 原人の段階で初めて認められるそうです (その中間型の H. habilis については化石が少なく、 評価が出来ていません)。

長距離走への適応は、歩行適応の副産物である可能性については、 一部に走行適応でしか説明できない特徴があるとして反論しています。 そして長距離走行に適応した原動力として、狩や死肉食への適応が考えられています。

しかし、Bramble & Lieberman (2004) の主張はいかにも奇妙で、 また議論が不十分であると感じます。 まず、狩や逆に捕食者からの逃走などにおいては、短距離での速さしか問題になりません。 一度見失ったり追いつかれてしまえば、いかに長距離で勝っていても意味がありません。 死肉食においても早く走れればハイエナなどより先に餌を確保できるので 有利だとしていますが、そもそも長距離走で差がつくような遠くにある死体を識別できるのか、 そのために重要な嗅覚がヒトではむしろ発達していないのは何故か、という疑問が残ります。

おそらく長距離走への適応は結果的に起こったことで、 歩行への適応が先にあったと考えるべきだと思います。 確かに存在する走行適応についても、長距離走のためではなく、 むしろ緊急時に求められる、短距離走への適応だとして解釈できるでしょう。

Bramble & Lieberman (2004) の仕事は、ヒトが何故、 マラソンのような長距離走を行うことが出来るのかを説明し、 それを原人にまで拡大して比較した点で意義深いものですが、 こと進化的な議論に関しては、思い込みの先行した不十分な議論という印象でした。

Bramble, D. M. & Lieberman, D. E. Endurance running and the evolution of Homo. Nature 432, 345-352 (2004).

Zimmer, C. Faster than a hyena? Running may make humans special. Science 306, 1283 (2004).


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類人猿の父(2004.11.27)

最近は、新しい人類化石が次々と発見されますが、 今回は、人類やチンパンジー、ゴリラ、オランウータンがまだ分岐していなかった頃の、 最古の類人猿の化石が発見されました(Moyà-Solà et al., 2004)。

現在、類人猿の系統関係は以下のようになっていると考えられています。

----------------------------------テナガザルの仲間
|
|   ----------------------------オランウータン
|   |
---A--|   ---------------------ゴリラ
   |   |
   -------|       -------チンパンジー
       |   -------|
       |   |   -------ボノボ(ピグミーチンパンジー)
       -------B
          |
          --------------ヒト

猿から人類への進化を考えるときには,幾つか興味を引かれる時代があります。 一つはチンパンジーの仲間からヒトが分かれた頃(B)で, 近年この時代の化石が次々と発掘されています。もう一つは類人猿が最初に登場した頃(A)ですが, この時代の化石は断片的なものを除いてほとんど見つかっていなかったそうです。

そこへ来て,今回 Moyà-Solà et al. (2004) は, 分子や化石から想定される類人猿の生まれた頃の地層(中新世中期:1250 万〜 1300 万年前) から,類人猿と思われる化石を発見しました。

新しく発見された化石は、頭骨や肋骨,手の骨など,全身とまでは行きませんが 重要な部分の骨を多数含んでいました。この化石は,Pierolapithecus catalaunicus と名づけられ,顔や肋骨の様子などが他の猿と類人猿の形質を併せ持った, 中間的な生き物であることが分かりました。特に,類人猿の特徴である直立歩行なども行えたようで (但し樹上で生きていたと考えられている),類人猿がどのようにして誕生したかを考える上で, 重要な化石となっています。

Moyà-Solà et al. (2004) によれば,Pierolapithecus は オランウータンとヒトが分かれる以前、上図の「A」の辺りで分岐したとのことですが, 研究者によってはよりヒトに近い,ゴリラ,チンパンジー+ヒトが分かれた頃の生き物だとも言われますし, 逆にもっと祖先的な系統から分岐したと見る研究者もいるようです(Culota, 2004)。

実際の系統的位置が確定されるには,同時代の類人猿の化石がさらに発見・ 研究されるのを待たなければならないようですが,いずれにせよ, 今回の化石が類人猿の初期進化に関わる重要なものであることには異論はないようです。

なお,Pierolapithecus の化石はスペインのバルセロナで発掘されました。 ヒトの遠い祖先というと,アフリカで進化した印象が強いかも知れませんが, オランウータン(現在東南アジアに分布)とゴリラやチンパンジーが分かれたのは, むしろユーラシア大陸だった可能性があります。 Begun (2003) では,中新世の類人猿がいかにユーラシア大陸で多様化していたかについて, 分かりやすく解説されています(日経サイエンスにも翻訳版があると思います)。

Moyà-Solà, S. Köhler, M., Alba, D. M., Casanovas-Viler, I. & Galindo, J. Pierolapithecus catalaunicus, a new Middle Miocene great ape from Spain. Science 306, 1339-1344 (2004).

Culotta, E. Spanish fossil sheds new light on the oldest great apes. Science 306, 1273-1274 (2004).

Begun, D. R. Planet of the apes. Sci. Am. 289(2), 64-73 (2003).


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続報:小っちゃいって事は便利だねっ(2004.11.15)

やはり,というべきでしょうか。 「フロレス原人」(正式な訳ではありませんが,以下ではこう呼びます;Homo floresiensis)の 特殊性に関してさっそく疑問の声があがってきているようです。

この化石人類はインドネシアのフロレス島の 1 万 8000 年前の地層から, 成人でも身長 1m という小型のヒト属新種として報告されました(Brown et al., 2004)。 しかもこの種は現生人類の近縁種ではなく,これよりはるか以前に絶滅したと思われていた原人(H. erectus) から進化してきたと考えられ,多くの研究者を驚かせました。

当初の紹介では(Lahr & Foley, 2004; Gibbons, 2004)肯定的な見解が支配的でしたが, さて時間を置いてみると,否定的な見解が浮かんできたようです(Balter, 2004)。 具体的には,フロレス原人が Homo erectus の生き残りではなく, 現生人類の祖先の変異,もしくは特殊化した祖先と考える研究者が紹介されています。 しかし,Morwood らは少なくとも 7 体の化石が現在までに発見されているため(未発表), 小型化は 1 個体の変異ではないと反論しています。 また,骨盤の証拠から,現代人と別種であることが示されるとの反論も出ています。

人類学の詳細は良く分かりませんが,現時点で一つ言えることは, フロレス原人を原人の特殊な生き残りとして認めるにせよ,認めないにせよ, まだどちらも証拠が不十分であるという事です(Morwood らが, 残り 6 体のフロレス原人の詳細な研究を発表すれば状況は変わるかもしれません)。

この話を読んでいると,故カール・セーガンの言葉が思い出されます。

「尋常ならざる主張は,尋常ならざる証拠を必要とする」
("Extraordinary claims require extraordinary evidences")

さて,フロレス原人に関する証拠はどうでしょうか?

Balter, M. Skeptics question whether Flores hominid is a new species. Science 306, 1116 (2004).

他の引用文献は 2004.10.29 および 2004.11.01 の記事を参照。


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続報・訂正:小っちゃいって事は便利だねっ(2004.11.01)

インドネシアで発掘された小型の人類化石について,Science 誌上でも紹介していました。 これを読んでいて分かったのですが,H. floresiensis の化石は複数個体分発掘されていたようです。

確かに,Brown et al. (2004) では 1 個体と,別個体の歯が 1 個しか扱われていないのですが, Morwood et al. (2004) の方には他の個体の発掘状況についても報告されており, 検証すべきことも残っていますが,小型という性質は H. floresiensis の集団全体の特徴と考えて良さそうです。

一方,当該ニュース記事によると,一部の H. erectus の専門家は, H. erectusH. floresiensis はサイズを除いてほとんど区別点がないと言っています。 これを考慮すると,H. floresiensis は新種ではなく, H. erectus の亜種程度に思っておくのがいいような気がします。 人類学者がどう考えているのかはよく分かりませんが。どうなんでしょうね。

Gibbons, A. New species of small human found in Indonesia. Science 306, 789 (2004).

他の引用文献は元の記事を参照。


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小っちゃいって事は便利だねっ(2004.10.29)

新聞でも大きく取り上げられていましたので, ご存知の方も多いとは思いますが,一応。

本日の Nature で,インドネシアから発掘された驚くべき人類化石が報告されました。 この化石は多くの点で衝撃的なものでした(Brown et al., 2004)。 Lahr & Foley (2004) が解説記事の中で「この半世紀で最も突出した発見」と評するこの化石は, およそ 18,000 年前の地層から発見されました。

この化石の際立った特徴は,そのサイズにあります。 彼女(骨盤より女性と推定)は,成人と考えられるにもかかわらず,その身長が約 1m しかなかったのです。 この身長はヒト属の成人の範囲を大きく下回っており,遥か以前に絶滅した, アウストラロピテクス属の小型種に匹敵するサイズだったのです。

では,彼女は一種の矮化個体だったのでしょうか? その可能性も否定は出来ません。現生人類の場合でも, 一部の集団に平均身長が目立って低い集団が存在します。 しかし彼らの場合,身長が低くても脳容量は通常の人間とさほど変わりません。 ところが彼女の場合は,脳容量すら現生人類の 1000 〜 2000 cc を大きく下回り, わずかに 380 cc しかなかったというのです。

そこで,これらの特徴およびその他の特徴から,彼女はヒト属の新種として, Homo floresiensis と名付けられました(フロレス島で見付かったため)。

しかしこの化石の驚きはこれに留まりません。 いくつかの形質から,彼女は現生人類とは離れた系統であることがわかったのです。 そもそもこれまで,18,000 万年前には現生人類以外の人類は全て絶滅していたと考えられていました。 現生人類(Homo sapiens)と最も近い化石人類は, 旧人,ネアンデルタール人(H. neanderthalensis)と考えられていますが, この種もこれより 1 万年も前に絶滅していました。

では,彼女は何者なのでしょうか?
実は,原人として知られる H. erectus に近縁だと言うのが結論です。 H. erectus はアフリカに起源を持ち,アジアにも広がっていった種です。 アジアでは北京原人やジャワ原人などが有名ですが, これも確かな年代のわかる化石は 25 万年ほど前に姿を消しています。 すなわち,大陸部で絶滅した H. erectus の仲間が, 隔離された島においてネアンデルタール人をも凌いで生き延びていたと言うことになります。 これは,現生人類がごく最近まで別種の人類と同じ地球上で共存していたと言う意味で, そして H. erectus の系統が想像以上に長く生き延びてきた言う意味で驚きです。

さらに,これまで人類の脳容量は,一貫して大型化する方向で進化してきたと考えられていましたが, この考え方も,今回の化石で完全に覆されました。 H. floresiensis の記載者らは, 他にも地域的に特殊な進化を果たした人類がいたに違いないと類推しています。

このように,多くの常識をひっくり返したこの化石ですが, では,何故 H. floresiensis はそのような小型化を果たしたのでしょうか。 この問題への一つの回答は,フロレス島が「島」であるということにあるのかもしれません。 一般に,多くの生物で,島に進出した集団が矮化する傾向が知られていました。 これは一般に生育環境の限られた島においては,捕食者が少なく, 防御のために大型化する必要がないということと, 資源が限定されているがゆえに大きく成長することが難しいためと考えられています。 このような一般論が,人類にすら当てはまる, というのはやはり一つの驚きであり,今後の検証も必要でしょう。

と,この化石の重要性をつらつらと紹介しましたが,問題点についても指摘しておきたいと思います。 H. erectus の仲間がごく最近まで生存していた,という点はおそらく正しいのでしょうが, 今回の化石が本当に種の形質を代表しているとは保障できないでしょう。 つまり,彼女がこの集団の中の突然変異である可能性はやはり否定できないと思います。 もし,H. floresiensis という小型人類の種がいたことを証明したければ, そのような集団が存在したことを示す必要があるでしょう。 化石の残りにくさを考えると,これは難しいことですが,だからと言って判断を甘くしていいことにはなりません。 いずれにせよ,これ程奇妙な化石ですから,今後厳しい検証を受けることになるでしょう。 学会において,この化石がどう位置づけられていくのかは,今後の論争を見守っていくしかないでしょう。

なお,この化石に関する考古学的見地からの研究も同時に出版されていますが, こちらについては引用だけにとどめておきます(Morwood et al., 2004)。

Brown, P. et al. A new small-bodied hominin from the Late Pleistocene of Flores, Indonesia. Nature 431, 1055-1061 (2004).

Lahr, M. M. & Foley, R. Human evolution writ small. Nature 431, 1043-1044 (2004).

Morwood, M. J. et al. Archaeology and age of a new hominin from Flores in eastern Indonesia. Nature 431, 1087-1091 (2004).


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追加:2本の足の上から(2004.09.25)

Science に関連記事が載っていたので追加情報です。 話によると、Tim White をはじめとする他の人類学者は、 Galik et al. (2004) の結果に対して懐疑的な見解を示しています。

White らは、Orrorin が二足歩行をしていた可能性についてはよいとしても、 CT のデータの質が悪いことを指摘しています。 まず、骨の厚さを議論するためには CT の解像度が悪いと言う点、 そして論文で示された CT による断面が正しい角度ではないと言う点などが言われています。

このことから、Orrorin の解釈についてはさらに別の手法(例えばより高解像度の X 線を使うなど) によって研究を続ける必要があると指摘しています。

今後の論争の行方は想像がつきませんが、保存状態の良い化石が見つからない限り、 一個の研究で全てが解決する、なんてことはないでしょうね。

Gibbons, A. Oldest human femur wades into controversy. Science 305, 1885 (2004).


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2 本の足の上から(2004.09.12)

ヒトがヒトになったのはいつからでしょうか? 現代人(Homo sapiens)が誕生したのは最古の化石の年代などから考えて(White et al., 2003), 15〜16 万年前と思われます。 もっと遡り,ヒトとチンパンジーが別れた年代を考えると,約 600 万年前と言われています (e. g. Glazko & Nei, 2003)。近年この頃のヒト科の化石が相次いで発見され,その研究が進展しています。 (Orrorin tugenensis 約 600 万年前,Senut et al., 2001; Ardipithecus kadabba 約 520〜580 万年前,Haile-Selassie, 2001,Haile-Selassie et al., 2004; Sahelanthropus tchadensis 約 600〜700 万年前,Brunet et al., 2002)

二足歩行はヒトがヒト足りえた大きな要素のひとつでした。 しかしながら,上記の 3 種が二足歩行をしたかどうかについては,弱い証拠に基づくのみでした。 今回,そのうちの Orrorin tugenensis について CT スキャンを用いた報告が発表されました (Galik et al., 2004)。

Orrorin については Senut et al. (2001) の最初の報告において, 大腿骨の形態から二足歩行の可能性を示唆していましたが,これは必ずしも全面的には受け入れられませんでした。 今回の研究では,同じ大腿骨の断面像を,CT を用いて調べています。 その結果,大腿骨頚(大腿骨の末端の大腿骨頭と本体の軸部分をつなぐ細い部分)において, 上面側の厚みが下面よりも明らかに薄いことが分かりました。 この特徴はチンパンジーやゴリラには見られず,現代人を含めた二足歩行をする人類の特徴であり, 二足歩行の証拠になるそうです。

これほど早い時期に二足歩行が進化していたことは,人類とチンパンジーが分かれたきっかけが, まさに二足歩行そのものである可能性を示唆していると言えるでしょう。 (Sahelanthropus についても頭骨の形態から二足歩行である可能性が言われていますが, 著者自身が証拠不十分であることを認めています)

現時点で発見されている上記 3 種の初期人類の化石は,非常に不完全です。 Orrorin については頭骸骨がほんの断片しか見付かっていませんし, Ar. kadabba もかなり断片的な骨格のみが知られているのみです。 Sahelanthropus については頭骨は比較的よく保存されていますが, 頭より後ろの部分は発見されていません。

今後,650〜550 万年前ごろの,より完全な(全身にわたった)ヒト科化石が発見されれば, 人類の初期進化と二足歩行の進化の過程についての理解も大きく進むことでしょう。

Galik, K. et al. External and internal morphology of the BAR 1002'00 Orrorin tugenensis femur. Science 305, 1450-1453 (2004).

Brunet, M. et al. A new hominid from the Upper Miocene of Chad, Central Africa. Nature 418, 145-151 (2002).

Glazko, G. V. & Nei, M. Estimation of divergence times for major lineages of primate species. Mol. Biol. Evol. 20, 424-434 (2003).

Haile-Selassie, Y. Late Miocene hominids from the Middle Awash, Ethiopia. Nature 412, 178-181 (2001).

Haile-Selassie, Y., Suwa, G. & White, T. D. Late Miocene teeth from Middle Awash, Ethiopia, and early hominid dental evolution. Science 303, 1503-1505 (2004).

Senut, B. et al. First hominid from the Miocene (Lukeino Formation, Kenya). C. R. Acad. Sci. Paris, Ser. IIa 332, 137-144 (2001).

White, T. D. et al. Pleistocene Homo sapiens from Middle Awash, Ethiopia. Nature 423, 742-747 (2003).


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チンパンジーと私の違い(2004.06.06)(→その他)


現代人のネアンデルタール人の歩いた交わらない道(2004.05.02)

ネアンデルタール人と現代人の関係についての議論は、 これまでもたびたび紹介してきましたが、また、Nature に新しい仕事が乗りました。

今回の仕事は、ネアンデルタール人をはじめとする化石人類の歯の成長の過程についての研究です。

Ramirez Rozzi & Bermudez de Castro (2004) は多くの化石人類の前歯(門歯と犬歯)を調べています。 歯には成長の過程を示す周波条(perikymata)という線が刻まれています。 この線は年輪のようなもので、一定の日数ごとに刻まれるそうです。 つまり、この線の間隔が詰まっていれば、その期間の歯の成長が遅く、 逆に開いていれば成長が早かったことがわかります。

さて、周波条を用いた研究はこれまでもありましたが、サンプル数がわずかで、 説得力のある結論が導かれていませんでした。 対して Ramirez Rozzi & Bermudez de Castro (2004) はネアンデルタール人について 55 個体 146 本、 化石現代人について 39 個体 100 本ものサンプルを調査しました。 それだけにとどまらず、彼らに先行する化石人類として、Homo antesessor を 4 個体 8 本、 Homo heidelbergensis を 21 個体 121 本も調べています。 これによって現代人やネアンデルタール人が祖先からどのように進化したのかを、 十分な資料に基づいて議論できるようになったといえます。

さてその結果ですが、現代人はその他の化石人類に比べて歯の成長期間が長かったことを示しています。 興味深いのは、ネアンデルタール人の歯の成長様式です。彼らは、現代人と比べてだけではなく、 H. antesessorH. heidelbergensis と比べても成長期間が短かったことがわかりました。

これは何を意味しているのでしょうか? まず祖先種と比べて、現代人とネアンデルタール人の歯の成長は、逆の方向に進化したということです。 これは両者が別種であることを示すかなり有力な証拠といえるでしょう。 次に、歯の成長が体の成長と関連しているとの過去の研究から、 ネアンデルタール人がよりはやく成熟したことが推測されるそうです。 さらに、ネアンデルタール人が早熟である理由として、彼らの成人の死亡率が高かった可能性が提案されています。

しかしながら、この研究はまだ完全とはいえないとも指摘できます。 例えば、歯と体の成長の関連は、臼歯に基づく研究だそうで、門歯や犬歯に当てはまる保障はありません。 また、調べられた現代人とネアンデルタール人の資料は、実は地質年代がずれています。 彼らの違いを強調するには、両者が同じ地域、 同じ時代にあっても異なる特徴を持っていたことを示すのが理想的でしょう。

もちろん、今後の研究が Ramirez Rozzi & Bermudez de Castro (2004) の研究を裏付ける方向に進むのは、 十分考えられることであり、周波条という新たな形質に着目した点や、H. antesessorH. heidelbergensis を議論の中に持ち込んだ点でも意義深い仕事といえるでしょう。

Ramirez Rozzi, F. V. & Bermudez de Castro, J. M. Surprisingly rapid growth in Neanderthals. Nature 428, 936-939 (2004).

Kelley, J. Neanderthal teeth lined up. Nature 428, 904-905 (2004).


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補足.ヒトになるために捨てて来たもの(2004.03.26)

Science にニュース記事が載りました。 全体としては、興味深い発見と見ているようですが、人類学者はあまり高く評価していないようです。 形態そのものを観察し、それを突き詰める研究と、 分子と形態・適応的意義を結び付ける研究では方向性が違い過ぎるのかもしれません。

論点となるのは、顎の筋肉の退縮が脳の発達とどのように、どの程度関連しているのかについてでしょう。

Pennisi, E. The primate bite: Brawn versus brain? Science 303, 1957 (2004).


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ヒトになるために捨てて来たもの(2004.03.25)

発生進化学(エボデボ)のテーマの一つに、 ヒトの進化を遺伝子や発生の観点から説明することがあります。今回、Nature に掲載された Stedman et al. (2004) の仕事は、この分野の象徴的な仕事になりそうです。

彼らはヒトの顎が、チンパンジーやゴリラなどの類人猿に比べて、あまり発達しない点に注目しました。 そして、顎の筋肉において優先的に発現するミオシン重鎖の遺伝子(MYH16)を発見しました。

非常に興味深いことに、調べられた限りのヒトの集団で(日本人も含まれてますね)、 MYH16 はフレームシフト変異を持っており、不活性であることが分かりました。 一方で、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンなどを含むヒト以外の霊長類では、 MYH16 はタンパク質の全長をコードしていたそうです。

すなわち MYH16 遺伝子には、ヒトがチンパンジー属と分かれた後に変異が入り、不活性化されたと考えられます。 その結果、ヒトにおいて顎の退化が起こったという推論が成立します。

化石人類では、アウストラロピテクス属、パラントロプス属などでは顎が発達しており、 顎の退化はヒト属の起源と結びつく可能性が高いと考えられます。 この文脈に絡めて、Stedman らは MYH16 に変異が入った年代も推定しています。 その結果、MYH16 の不活性化は約 240 万年前に起こったと予想され、 弱い顎を持った最初のヒト属の化石年代(約 180-200 万年前)と比べて妥当な数字となっています。

顎の筋肉が退化するということは、食生活の変化と相関していた可能性が十分に考えられるのみならず、 顎の筋肉の付着のために必要だった頭蓋骨の部分が自由に使えることをも意味します。 その結果、ヒト属で脳の発達がより高い自由度で起こった可能性が指摘できます(Currie (2004) を参照)。

より高い知性を手にするために、強靭な顎を失ったのだと考えると何だか不思議な気がします。

Stedman, H. H. et al. Myosin gene mutation correlates with anatomical changes in the human lineage. Nature 428, 415-418 (2004).

Currie, P. Muscling in on hominid evolution. Nature 428, 373-374 (2004).


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ネアンデルタール人は現代人とは別種である(2004.03.18)

ネアンデルタール人と現代人が別種か同種(の別亜種)かについては長い論争があります。 これを判断する基準としては,形態の差と,遺伝子の差を考慮する必要があります。 最近,それぞれの研究から別種説を支持するデータが追加されました。

まず,形態差の話ですが,Harvati et al. (2004) ではネアンデルタール人と現代人の頭骨の形態差が, 他の霊長類同士の差(種内差と種間差の両方)と比べて大きいか,小さいかを比較しています。 形態差をうまく定量化して比較した結果,現代人(現代人タイプの化石も含む)とネアンデルタール人の差は, 他の霊長類の基準から考えて,種間レベルの差であると認められ,亜種レベルの差にしては大きすぎることがわかりました。 従って,形態に基づいて両者を別種にすることに十分な根拠が与えられたといえるでしょう。

次に,ネアンデルタール人と現代人の遺伝子の差については,Serre et al. (2004) による研究があります。 これまでにもネアンデルタール人のものとされる mtDNA は 4 例の報告があり, これらはいずれも現代人と明らかに離れた別系統であることが知られていました。 しかし,ネアンデルタール人と現代人の中間型の姿をした化石は調べられておらず, また,大規模な遺伝子交流がなかったのかどうかについても疑問の余地がありました。 そこで,新たに大量のサンプルが調べられ,DNA が十分に残っていると認められる 4 体のネアンデルタール人と 5 体の化石現代人が解析されました。その結果,中間型を含め, 全てのネアンデルタール人からはネアンデルタール型の配列が得られ,全ての現代人において, その配列は検出されませんでした。従って,両者の間には大規模な交雑は起こっておらず, 中間型とされるものについても,雑種とは考えにくいことが判明しました。

これらの仕事や今までの仕事を合わせて考えると,ネアンデルタール人と現代人を同種にする根拠はまるで存在せず, 両者は明らかに別種と言っていいことがわかります。加えて,両者の間に交雑があったとしても, それは極めて限定的なものであったと考えられます。

Harvati, K., Frost, S. R. & McNulty, K. P. Neanderthal taxonomy reconsidered: Implications of 3D primate models of intra- and interspecific differences. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 1147-1152 (2004).

Serre, D. et al. No evidence of Neanderthal mtDNA contribution to early modern humans. PLoS Biol. 2, 313-317 (2004).


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歯から見えてきた初期人類の進化(2004.03.09)

先週の Science からです。 近年,初期人類の化石は発見ラッシュが続いていまして,Sahelanthropus tchadensisOrrorin tugenensis,そして,Ardipithecus ramidas kadabba といった重要な化石が記載されています。 (現時点で最古の化石は Sahelanthropusです。A. r. kadabbaA. ramidus の亜種として記載されました)

さて,新たに見つかったのは,A. r. kadabba の数本の歯です。 たったそれだけで Science に載るのかとお思いの方も多いでしょう。 私もその一人です。そこで Haile-Selassie et al. (2004) の原文と,Begun (2004) の解説記事を読んでみました。 人類学の論文は難解なので,間違いがあるかもしれませんが,一応読み取れたことを書いてみます。

まず,新たに見つかったのは右上顎の犬歯,左右上顎の第一臼歯,左下顎の第三前臼歯(P3), 左上顎の第四前臼歯(P4)の一部,だそうです。 因みにヒトでは P3 は犬歯のすぐ後ろの歯です(多分)。

これらの標本を A. r. kadabba の記載論文で示されている標本と合わせると, 上下の犬歯,上下の P3 の作る噛みあわせができます。この噛み合わせの状態が人類学的には重要なようで, 詳細に議論されています。簡単に言うと,A. r. kadabba の状態はチンパンジーなどとよく似ていて, 祖先的な状態をとどめているそうです。また,これらの歯を A. r. ramidas と比較すると, 両者が亜種ではなく,種のレベルで異なっていることが言えるとのことで,A. r. kadabbaA. kadabba に新種として格上げされました。

著者らはさらに,初期人類の歯の形態があまり多様ではないとの解釈を提示し, SahelanthropusOrrorinA. kadabba が同属(場合によっては同種) である可能性にも言及しています。

但し,Begun (2004) によれば,上記 3 種の歯列は十分に異なっており, 他の霊長類の基準から考えても別属に値すると主張しています。

SahelanthropusOrrorinA. kadabba が同系統であるとの主張は, 当時のアフリカにはヒトの仲間は一集団のみが存在し, その集団内で直線的な進歩が起こって現生人類に繋がっていったとの考えと結びつきます。 一方で,彼らが真に独立した系統であるとすると,ヒトの仲間はチンパンジーの祖先から分かれてすぐに多様化し, その中の一系統のみが後の時代に生き延びる,という淘汰の歴史を繰り返してきたことになるでしょう。

以上のように,歯だけを見ても初期人類の進化の議論に火がつくようです。 但し,この論争の背景には化石の証拠が絶対的に不足しているという問題が存在し, 新たな化石がもっともっと見つからない限り,同属か否かといったような論争は決着しないでしょう。

Haile-Selassie, Y., Suwa, G. & White, T. D. Late Miocene teeth from Middle Awash, Ethiopia, and early hominid dental evolution. Science 303, 1503-1505 (2004).

Perspectives より
Begun, D. R. The earliest hominins - Is less more? Science 303, 1478-1480 (2004).

A. r. kadabba の原記載論文
Haile-Selassie, Y. Late Miocene hominids from the Middle Awash, Ethiopia. Nature 412, 178-181 (2001).


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化石人類の学名(2003.07.07)

近年,ヒト科化石の重要な発見が相次ぎ,化石人類の学名は増加の一途をたどっています。 属のレベルでも学名はほぼ倍になっており,1995 年以降に設立された属名は 4 属もあります。 しかしながら,1 個の保存状態のよくない化石に基づいて設立された学名もあり, その化石が真に属レベルで区別するに値するかどうかは問題のあるところでした。 今回,ヒト科の化石の学名を整理する趣旨の論文が PNAS に掲載され, もっともらしい学名の一覧が作られました。 化石人類に興味のある人は,ここから論文を辿って行くこともできると思います。 しかしながら,この論文には問題も多く,学名の表記が本文中で統一が取れていなかったり, 学名を整理統合する際の根拠が分かりにくかった印象があります。 今後,この体系がどこまで採用されるかは微妙でしょう。

Cela-Conde, C. J. & Ayala F. J. Genera of the human lineage. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 7684-7689 (2003).


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続報 2:人類学関係論文紹介 2003 年 6 月(2003.06.17)

Science にもニュース記事が出ていました。 それを読みつつ気がついたんですが,この新亜種小名(idaltu)の語源は,長老と訳すようです。

Gibbons, A. Oldest members of Homo sapiens discovered in Africa. Science 300, 1641 (2003).


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続報:人類学関係論文紹介 2003 年 6 月(2003.06.16)

読みました。White et al. の論文で, Homo sapiens idaltu なる新亜種を記載していますが, 根拠は当該化石の特徴が,現生および化石の Homo sapiens のレンジから逸脱しているためでした。しかし,同じ号の News & Views で Stringer は, 必ずしも亜種にするのが適当ではない,と考えているようです。私も,新亜種を立てるのは適切とは思えません。 ある種の生物種の始祖は,ほぼ間違いなく形質が祖先的と予想されますが, それでも重要な形質を子孫と共有しているのなら,子孫と同一の分類群にしても良いはずですし, わざわざ分ける必要性を感じません。

Wildman et al. の方ですが,この論文では,類人猿の間でゲノムワイドな遺伝子比較を行い, より信頼性の高い分岐年代の推定を行った点がポイントかと思います。 一方,今までに,霊長類の分類階級を分岐年代によって定義しようとする試みがあり, それに今回の結果を合わせた結果,チンパンジーやボノボは(上記の定義に照らした場合), ヒトと同属の別亜属に相当することになったそうです。

ただし,これはもともと予想されてはいたことでした。私の意見としては, 分岐年代という推定が未だに困難な事柄をもって分類階級を定義するのは, 霊長類の分類体系に不要な混乱をもたらすだけのような気はします。 もっとも,チンパンジーとボノボをヒトと同属にするのは,「ヒトは必ずしも,特別な存在ではないのではないか」 という問題提起としての効果を 一般に対してもたらす可能性があり,興味深い提案だと思います。


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人類学関係論文紹介 2003 年 6 月(2003.06.12)

新聞で取り上げられていたのでご存知の方も多いと思いますが、 アフリカで,最古の新人の化石が見つかりました。

Homo sapiens がアフリカで誕生したとする単一起源説は有名で, 4 つ前の書き込みでも紹介したように、分子データからも支持されています。 一方でネアンデルタール人など各地域の先駆者が,それぞれの地域で Homo sapiens へと進化したとする多地域進化説というのもあり,論争が続いています。 アフリカ単一起源説のひとつの弱点として,Homo sapiens の誕生したであろう 10 から 30 万年前の化石がアフリカで未発見だったことがあるそうです。

今回見つかった化石がそのギャップを埋めたことにより, アフリカ単一起源説がさらに支持されることになったようです。 なお,著者らは新たな化石に Homo sapiens idaltu なる新亜種名を与えています。 何でもアファール語で老人といういみだとか。

White, T. D. et al. Pleistocene Homo sapiens from Middle Awash, Ethiopia. Nature 423, 742-747 (2003).

Stringer, C. Out of Ethiopia. Nature 423, 692-695 (2003).

もう一本,PNAS に載った論文です(未読)。 Abstract だけでは良く分からないのですが、 ヒトとチンパンジーの塩基配列の違いを,同義置換や非同義置換を考慮に入れて比較したところ, 両者が同属とみなす見解が妥当であると主張しているようです。

この結果,この論文ではチンパンジーとボノボをヒト属(我々はヒト属の単一種ではなくなる!)に分類し, それぞれ Homo troglodytes および Homo paniscus としています。 ちなみに,化石人類の Australopithecus とか Ardipithecus とかもみんな Homo 属にまとめてしまってます。これが定着するかどうかは,見ものですね(しないと思いますけど)。

Wildman, D. E. et al. Implications of natural selection in shaping 99.4% nonsynonymous DNA identity between humans and chimpanzees: Enlarging genus Homo. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 7181-7188 (2003).


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ネアンデルタール人あれこれ(2003.03.24)

少し遅れましたが、先日の Science にネアンデルタール人に関する 非常によいレビューが載りました。

ネアンデルタール人はいつ、どこに住んでいた、どんな人類だったのか。 現生人類とは種レベルで違うのか。混血はあったのか。どんな生活をしていたのか。認知能力は。など、 興味を引かれる点が余すところなく簡潔に紹介されています。 これだけ包括的な内容が 2 ページに読みやすくまとめられている点で、素晴らしいレビューと感じました。

Klein, R. G. Whither the Neanderthals? Science 299, 1525-1527 (2003).


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ヒトのあゆみ(2003.03.24, 2003.09.10 訂正)

太古のヒトの足跡化石です。イタリア南部で「悪魔の足跡」 として知られていた化石が専門家の調べで、二足歩行した人類の足跡と分かったものです。 この時代(38.5〜32.5 万年前)は完全に Homo 属の時代です。 あえて種名をあげるなら、Homo heidelbergensis の足跡かもしれません。

火山灰の坂を下りている途中の足跡で、手をついた跡なんかもあるそうです。

ちなみに、ヒト科の足跡化石としては、360 万年前の、 おそらく Australopithecus afarensis によるものが有名です。

Mietto, P., Avanzini, M. & Rolandi, G. Human footprints in Pleistocene volcanic ash. Nature 422, 133 (2003).


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キスの仕方(2003.02.13)

怪しげな中吊り広告のタイトルではありません。Nature の論文です。 論文タイトルは "Adult persistence of head-turning asymmetry"。 これだけでは何のことやらわかりませんが、その実「キスするときに顔をどちらに傾けるか」 を調べた研究です。

結論は、「2/3のカップルは顔を右に傾けてキスをする」でした。その原因は胎児・ 新生児のときの首の傾け方の偏りであると考察されています(何てまっとうな考察!)。

論文のポイントは、観察場所・計測基準・対象の年齢層でしょうか。 是非一読のほどを。笑えました。

Gunturkun, O. Adult persistence of head-turning asymmetry. Nature 421 711 (2003).


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