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新刊紹介

作成:仲田崇志

更新:2017年09月21日

目次

このページでは,新しく出版された生物系の書籍の中から,特に興味を引かれたものを紹介しています。 新刊につき,必ずしも読んでからの紹介ではなく,パラパラとページをめくっただけであったり, 場合によっては購入していない場合もあるかもしれませんが,ご了承下さい。 また。発行日から 1 ヶ月以上経ってから気がついた書籍も紹介する場合があります。

2013年までの記事では,和書の定価を当時の消費税(5%)込み価格で示しています。 2015年の記事からは消費税を 8% とした税込み価格で表示しています(Amacon.co.jpを参照) (本段落は 2015年01月20日に追記)。

なお昨今,報酬や製品を受け取りながら第三者的な立場を装って製品を過大評価して紹介することが, ステルスマーケティングとして批判を受けています。 筆者も著者や出版社から書籍を贈られることがあるため(多くは筆者が執筆・協力した場合), 書籍の贈与や原稿料・印税などの形で筆者が利害関係者となっている場合は, 発行日(月)の直後に☆印で明示しておきます。 当然ながら,そのような場合でも虚偽の紹介や過大な宣伝を行うことはありません (本段落は 2013年03月09日に追記)。




2017年09月

中生代植物研究会 日本産ジュラ紀の植物化石図鑑: 来馬型植物群 (中生代植物研究会, 福井, 2017).

2,000 円, 中生代植物研究会:図鑑について (2017年09月01日発行)

中生代ジュラ紀前期(2.0〜1.7 億年前)の植物化石産地は国内に数ヶ所しか存在しないそうですが, 本書は,富山県・新潟県・長野県の県境周辺に分布する来馬(くるま)層群と, 群馬県北部に位置する岩室層の化石植物(合わせて来馬型植物群と呼ばれる)の網羅的な図鑑です。 国内の化石図鑑は,比較的採取しやすい化石や人気のある古生物を中心に取り扱ったものが多いようですが, 本書はどちらかと言えば注目されることの少ない植物化石(しかもほとんどが葉の化石)を扱っています。

全体的な構成は典型的な植物図鑑に沿っていて,冒頭で当該地域・植物群の簡単な説明と図鑑の使用法が説明され, 分類体系に沿って配列された各種の紹介,そして末尾に簡単な用語集,などが並んでいます。 古植物の場合は図鑑に載っていても種不明になることが多いものですが,本書は来馬型植物群の研究者が使用した標本, 特にタイプ標本を押さえて紹介しているため,かなりの種に学名が当てられています。 各種についても単に写真を載せるだけでなく,細かい記載や近縁種との区別点,時に検索表など, 本気で同定を行うことを想定した情報が掲載されています。「絵合わせ」による同定もできるようにと, 化石写真はフルカラーで多くのものに線画が添えられています。

献辞の最後に「次世代の日本の古植物研究者」が挙げられているように,本書は新たな研究者の入り口になるべく書かれています。 古植物学に興味を持つ若手は絶滅危惧のようですが,古代の生態系を理解するためには省いてよい分類群があるはずもなく, 着実な研究の継承が求められています。本書は疑いなく次世代の中生代古植物研究者の必読書となるでしょう。 また古植物自体を専門としない自然史全般の研究者にとっても貴重な資料といえます。 教科書などではごく一部の植物のごく特徴的な復元図だけが紹介されがちですが, 本書では来馬型植物群の既知種が平等に紹介されているため,読み進める中で当時の植物多様性の全体像が浮かび上がってきます。 多少なりとも古生物学に興味があれば,購入して損はないでしょう。大変な仕事とは思いますが, 国内のいろいろな地域・年代の地層について同様の図鑑が出版されるような未来に期待したいところです。

一般販売は限定 500 部で,現状では著者(研究会)からの直接購入のみとのことなので, 興味のあるかたは上記のリンクから問い合わせてみてください。
(2017年09月21日)

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ブレー, M. および ステイエ, S. 驚異の未来生物: 人類が消えた 1000 万年後の世界 (創元社, 大阪, 2017).

2,484 円, Honya ClubHontoAmazon.co.jp紀伊國屋書店 (2017年08月20日発行)

原著 Steyer, S. & Boulay, M. Demain, les Animaux du Futur (Editions Belin, Paris, 2015) の訳書です。 人類が絶滅したと考えられる 1000 万年後の地球に生きる(主に)様々な動物たちの姿を想像し,CG で描いた作品です。 ディクソン, D. および アダムス, J. フューチャー・イズ・ワイルド (ダイヤモンド社, 東京, 2004) など, 10 年に 1 冊ほど類著がでている気がします。

本書でも他の類著と同様に,古生物学者と画家(CG アーティスト)が組んで想像上の生物を形にしています。 基本的には CG アーティストのブレーが古生物学者のステイエから助言を受けつつ原型をまとめ, ステイエからの指摘とブレーによる修正を繰り返して各生物の姿・生態を造りあげていったそうです。 中には没になった案もあったようですが,CG アーティストが中心的な役割を果たしたため, 動物の想像が奇抜な方向に偏っている一方,まるで実在の生物写真のように CG が精巧でした。

本書の特徴は,1 種ごとに「学名」(国際動物命名規約は想像上の動物に対する学名を扱わないため,正式な学名ではない) と,分類・「学名」の語源・現生の近縁種・大きさ・分布・形態・生態・生殖,といった図鑑的な情報がまとめられていることです。 「学名」にもこだわっていて,対象外とは言え命名規約に沿った命名を行っていて,実際にありそうな命名になっています (芸能人への献名が多いのはさておき)。細かく解説された種は全部で 20 種。 これらが海中(第 1 章),マングローブ林(海岸。第 2 章),陸上(第 3 章),と生息環境ごとに紹介されています。 第 4 章では未来の環境を推測するための基本的な考え方,そして実際に本書の生物を想像した手順がまとめられています。

未来の生物の想像には地質学や進化学の幅広い知識と深い思索が必要であり, このような書籍をまとめるための「研究」にも意義があると思います。もちろん著者自身が繰り返し強調しているように, 本書に登場する生物が未来の地球上に出現する可能性は全くありません。 しかし進化の可能性を絵として見せられると考えさせられることも多かろうと思います。 童心に返って素直に楽しむ読み方もできますし,古生物学や進化学に興味を持つきっかけとして紹介してもよいでしょう。 あるいは学術的に無理のある部分を考察したり,さらに想像を発展させてもおもしろいかもしれません。
(2017年09月12日)

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川上新一 変形菌 (技術評論社, 東京, 2017).

3,218 円, Honya ClubHontoAmazon.co.jp紀伊國屋書店 (2017年08月24日発行)

変形菌の図鑑,あるいは写真集と言ってもよいかもしれません。 変形菌(または真性粘菌。子実体を形成するアメーバの仲間)の本は何度か紹介してきましたが, 本書は中でも図鑑色が強いかもしれません。冒頭で生活史や構造・用語の説明に始まり, 分類体系に沿った各種の紹介(これが本書の大部分を占める)に繋がります。

図鑑と言い切るのをためらったのは,本書では解説よりも拡大写真に重きを置いているためです。 時に高さ 1 mm にも満たない変形菌の子実体が,見開きで 100 倍以上の大きさに拡大されていたりします。 変形菌の実際の大きさが捉えにくくなっているという側面もありますが,変形菌の魅力は十分に伝わるはずです。 写真に添えられている解説も紙面上の面積は控えめですが,最新の情報を反映している上, しばしば筆者が実際に採集したときの状況に触れられてきて,実際に野外で探索する際には大変参考になります。 変わった生き物に興味のある方にも変形菌に興味のある方にも,素人にも専門家にも, 幅広くお薦めしたいと思います。
(2017年09月03日)

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2017年08月

橋正道 花のルーツを探る: 被子植物の化石 (裳華房, 東京, 2017).

1,620 円, Honya ClubHontoAmazon.co.jp紀伊國屋書店 (2017年07月20日発行)

裳華房の新シリーズ「シリーズ・生命の神秘と不思議」の初回刊行 4 点のうちの 1 点です。 被子植物の起源は未だに謎に包まれていて素人には問題点を整理することも難しい難題ですが, 本書では著者自身の研究成果も含めた最新の情報がまとめられています。 同じ著者による前著(橋, 2006)はかなり専門的な本でしたが, 本書はより一般向けになっています。

1〜3 章はそれぞれ被子植物,白亜紀(被子植物の初期進化が起こった時代),そして被子植物の祖先候補, の解説にあてられていて,導入的な内容です。4〜8 章では白亜紀の被子植物化石の解説・紹介が続きます。 9〜12 章は化石記録を踏まえて被子植物の特徴や生態の進化を考察しています。 13 章では代表的な被子植物群の進化史がまとめられ,14 章が後書き的な内容です。

被子植物研究における課題や重要な研究・化石記録などを押さえていて,教科書的な使い方に向きそうです。 ただ主要な課題のほとんどが未解決なので,消化不良の印象を受けます。 また 6〜8 章の化石紹介が単なる羅列になっていて,被子植物の分類に疎い筆者にとってはやや退屈でしたが, 被子植物の目や科の分類や進化的重要性に詳しい人には面白い情報が詰まっているかもしれません。 読み物として楽しむよりも,被子植物の初期進化について嗜みとして学びたい人向けの一冊かと思います。
(2017年08月29日)

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2017年03月

奥谷喬司 編 日本近海産貝類図鑑, 第 2 版 (東海大学出版部, 平塚, 2017).

41,040 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2017年01月30日発行)

日本周辺の海産軟体動物 5927 種を収録した大部の図鑑です。2000 年発行の初版(5106 種収録)から大幅に掲載種が増え, 図版と解説の 2 分冊になっています(箱入りのセット)。書名では「貝類」図鑑となっていますが,軟体動物全般が収録対象で, 貝殻を形成しないもの,例えばカセミミズなど原始的な軟体動物やウミウシの仲間,イカ・タコ類なども網羅されています。

図版としては,ほぼ全ての種について写真が掲載されていて,ごく一部の種のみが線画で示されています。 貝殻を持つ種については原則として貝殻の標本写真が示され,軟体部の写真はあまり載っていません(軟体部のみの種を除く)。 貝殻の写真も軟体部の写真も非常に鮮明で色彩豊かなので,素人目にも見応えがあります。 解説は全種について和文と英文が併記されていて,その分簡潔なものになっています(3〜8 行程度)。 検索表などはないため,種同定の目的で使用するのであれば,図版であたりをつけてから解説を読むかたちになろうかと思います。

価格的に敷居の高い書籍ではありますが,素人が絵合わせで同定する場合にも収録数や写真の品質は重要なので, 今後貝類を調べようとする方は,思い切って購入を考えてみても良いかと思います。 なおイカ・タコ類については奥谷 編 (2013)窪寺ほか (2014)奥谷 (2015),陸産貝類については武田および西 (2015) の紹介もご覧ください。
(2017年03月02日)

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2016年09月

Spangenburg, R. & Moser, D. K. ノーベル賞学者 バーバラ・マクリントックの生涯:動く遺伝子の発見 (養賢堂, 東京, 2016).

1,944 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2016年08月25日発行)

トランスポゾンの発見によりノーベル医学・生理学賞を受賞したバーバラ・マクリントック(Barbara McClintock)の伝記です。 原著は "Makers of Modern Science" というシリーズの一冊,"Barbara McClintock: Pioneering Geneticist" で, 邦題にあるようなトランスポゾン(マクリントック自身は「調節要素」と呼んでいたとのこと)の発見よりも, 遺伝学黎明期の中心人物としての業績に焦点が当たっています。

幼少期の逸話やその後の描写では,マクリントックの天才性が強調されていました。 特に,閃きよりも頭脳の回転の速さが彼女の本質だったようにも読めます。 それ故に論文や発表が難解で,トランスポゾンの発見が受け入れられるまでに 10 年の歳月を要したように記されています。 しかし,科学者の理解が遅れたことについては,単に「その時の学会の常識が間違っていた」としか説明されておらず, マクリントックが当初どのようにトランスポゾンの存在を証明したのか, トウモロコシにおける発見をどこまで一般化しようとしたのか,などマクリントック側の議論には深入りしていません。 本書の全体を通じても,マクリントックがいかに研究を愛していたのかは明確に描かれていますが, 科学者としての思考法など内面にはほとんど触れられていなかったのが残念ではあります。 伝記や科学誌の作家としての著者らには荷が重かった,という側面もあったのかもしれませんが。

いずれにせよ本書ではマクリントックの偉大さが多くの業績を通じて要領よくまとめられています。 本書を読むとマクリントックが,女性研究者のさきがけとして,一人の力で遺伝学を大きく前進させた偉人として, あるいは研究を生涯楽しんだ研究者として,様々な意味で興味深い人物であることが伝わってくるかと思います。
(2016年09月28日)

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2016年03月

海部陽介 日本人はどこから来たのか? (文藝春秋, 東京, 2016).

1,404 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2016年02月10日発行)

人類学・考古学的な証拠に基づいて日本人の起源を考察した一冊です。 過去にも様々な仮説が議論されてきた課題ですが,本書では年代測定や化石 DNA の配列解読, そして現代人の遺伝型比較など,最新の情報を踏まえて抜本的な見直しを行っています。

本書の議論は,ユーラシア大陸からオセアニアにかけての旧石器時代の遺跡の情報整理から始まります。 信頼性の高い 3〜5 万年前の遺跡の分布に基づくと, アフリカを出た人類はヒマラヤ山脈の南北に分かれて東アジアにまで分布を広げたものと推測されるそうです。 そして北側から北海道に進出した集団(約 2.5 万年前?),南側から台湾を経て琉球列島に進出した集団 (3 万年前以前?),および朝鮮半島から対馬を経て北九州に進出した集団(約 3.8 万年前?), の 3 集団が最初期の日本人を形作ったとの仮説を提唱しています。 また朝鮮半島の集団は,ユーラシア大陸の南北の集団が合流して形成された可能性もあるそうです。

本書では,これらの仮説を限られた直接証拠と様々な傍証に基づいて構築しています。 また対馬と沖縄への進出が陸橋を通じたものではなく,海を跨いだ移動だったことが強調されています。 特に沖縄への進出に際しては,台湾から与那国島に,長距離でしかも潮流の速い黒潮を超えてたどり着く必要があり, それがいかに驚異的なものか議論しています。 ちなみにこの点については今後,実験航海による検証を計画しているそうです。

本書は大変わかりやすく書かれていて,その議論も自然で合理的に思われます。 提示された仮説は現在の知見を総合的にまとめた最良の作業仮説として検証を待つことになるでしょう。 ただし著者の仮説の土台をなしている遺跡の記録は,特に国内・国外共にまだまだ乏しいようにも見受けられます。 本書では年代測定や化石人骨・石器の解釈が不十分な遺跡が除外されていますが, これらの再評価に加え,新しい遺跡や化石人骨の発見などによって仮説の一部が覆ることは十分にありそうです。 人類学や考古学の進展によって,本書のどの部分が裏付けられ,あるいは否定されるのか, そんなことを意識しながら今後の研究成果を見守っていくのも面白そうです。
(2016年03月31日)

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2015年11月

紹介しきれなかった 10 月発行の書籍

千崎達也 カンブリアンモンスター図鑑: カンブリア爆発の不思議な生き物たち (秀和システム, 東京, 2015).

1,620 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月01日発行)

カンブリア紀の化石動物をカラー CG で紹介した「図鑑」。多数のコラムやトリビアも挿入されている。

神里彩子 および 武藤香織 編 医学・生命科学の研究倫理ハンドブック (東京大学出版会, 東京, 2015).

2,592 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月05日発行)

タイトル通り,医学・生命科学分野における研究倫理の教科書。 特に人が(研究対象として)関係する分野に重点が置かれている。他,動物実験や研究成果の取扱い, 利益相反の問題なども取り上げられている。

坂井建雄 世界一簡単にわかる人体解剖図鑑 (宝島社, 東京, 2015).

1,188 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月14日発行)

人間の臓器や骨格・筋肉などをリアルな CG や模型写真によって紹介した啓蒙書。

齋藤恭一 および ベンソン華子 書ける! 理系英語 例文 77 (朝倉書店, 東京, 2015).

2,484 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月15日発行)

理系英語の書き方を大量の例題・演習問題と共に解説した教科書。

吉形一樹 世界で生きぬく理系のための英文メール術: 短く,正確に,要点を押さえて (講談社, 東京, 2015).

1,058 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月20日発行)

ブルーバックスの新刊。工学系の著者による英文メールの指南書。 豊富な例文などと共に,メールの基本から注意点まで幅広く丁寧に説明されている。

須賀圭三 フィールドの生物学 17: クモを利用する策士,クモヒメバチ: 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い (東海大学出版部, 秦野, 2015).

2,160 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月20日発行)

主に野外での研究を中心に活動している若手研究者による研究紹介シリーズの新刊。 クモに寄生するハチ,クモヒメバチとクモの「闘い」を巡る研究の紹介。

中島淳 フィールドの生物学 18: 湿地帯中毒: 身近な魚の自然史研究 (東海大学出版部, 秦野, 2015).

2,160 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月20日発行)

上記と同じくフィールドの生物学の新刊。淡水産魚類の研究者による, 学部卒業研究から博士課程卒業後の研究まで,淡水魚類と一部昆虫を巡る研究の記録。

田中一郎 ガリレオ裁判: 400 年後の真実 (岩波書店, 東京, 2015).

842 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月20日発行)

岩波新書の新刊。最近になって公開されたガリレオ・ガリレイの裁判記録を紐解き, 宗教裁判の実態に迫っている。

フィッツアール, M. マルコム先生の書いて身につく科学英語ライティング (京都大学学術出版会, 京都, 2015).

3,132 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月23日発行)

初めて英語論文を書く,あるいは科学英語の執筆に苦手意識がある人に向けた科学英語作文の教科書。 科学英語の基本,論文執筆の方法が中心で,口頭発表,ポスター発表,査読・審査文などの作成も解説されている。 「書いて身につく」の題名にもあるように,計 55 の練習問題(解答は巻末)もついている。

兵藤有生 および 林晃史 招かれざる虫 (ベレ出版, 東京, 2015).

1,836 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月25日発行)

食品についく害虫の調査・防除に関わってきた著者による,様々な害虫発生・混入事例の記録集。

ドーキンス, M. S. 動物行動の観察入門 (白揚社, 東京, 2015).

3,888 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月27日発行)

2007年発行の "Observing Animal Behaviour: Design and analysis of Quantitative Data" の邦訳。 動物行動学における観察の基本から計画立案,具体的な手法を細かく解説した指南書。

フォーコウスキー, P. G. 微生物が地球をつくった: 生命 40 億年史の主人公 (青土社, 東京, 2015).

2,484 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月30日発行)

2015年発行の "Life's Engines: How Microbes Made Earth Habitable" の邦訳。 微生物の生態や構造を踏まえつつ,微生物が地球の歴史に果たした役割から 遺伝子工学や火星生命など最新の話題を解説している。

熊谷さとし ニホンカワウソはつくづく運がわるかった ?!: ひらめき動物保全学 (偕成社, 東京, 2015).

1,512 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月発行)

様々な動物が絶滅に至った経緯と,動物保全の実例をわかりやすく紹介している。

(2015年12月15日)

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コルソン, R., ドイル, S., グレイ, E. および カーク, S. 骨の博物館 I: 動物の骨 (辰巳出版, 東京, 2015).

2,808 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年04月01日発行)

デラ ベドイエール, C. および ドイル, S. 骨の博物館 II: 頭の骨 (辰巳出版, 東京, 2015).

2,808 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月15日発行)

骨の面白さを子供向けに紹介するシリーズで,それぞれ 2013年発行の "Bone Collection: Animals" および 2014 年発行の "Bone Collection: Skulls" の邦訳です。いずれも様々な脊椎動物の骨を, まるで写真のような図解で示しています(生態写真と共に示されている種もある)。

第 1 巻に当たる「動物の骨」では魚類,両生類,爬虫類,鳥類,哺乳類,の順に, 全身骨格とその機能的な解説が与えられています。「頭の骨」では逆に,哺乳類,鳥類,爬虫類,両生類,魚類, の順に頭蓋骨が紹介されています。いずれも全身骨格や頭蓋骨が目立って特徴的な種類が選ばれていて, 動物の生活様式と骨格が密接に関係していることがよく現れています。

解説にはかなり大きめの文字が使われていて,多くの漢字に振り仮名が付けられています。 しかし図や解説はしっかりとしたものになっていて,大人が読むにも耐えられる内容です (分量が物足りないかもしれませんが)。専門書を除けば動物の骨格を見比べられる図書はそうそうないので, 資料としても有用かもしれません。なお,続刊として「骨の博物館 III: 恐竜の骨」が予定されています。
(2015年11月13日)

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リーバーマン, D. E. 人体 600 万年史: 科学が明かす進化・健康・疾病, 上 (早川書房, 東京, 2015).

2,376 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

リーバーマン, D. E. 人体 600 万年史: 科学が明かす進化・健康・疾病, 下 (早川書房, 東京, 2015).

2,376 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

2013 年発行の原題 "The Story of the Human Body: Evolution, Health, and Disease" の邦訳です。 人間の進化を辿りながらヒトの体の成り立ちを考え,人体の進化的背景と現代人の生活様式の齟齬が 現代人に特有の様々な不調や病気(本書では「ミスマッチ病」と呼ばれる)を引き起こしたと捉え直した一冊です。 著者は人類学者として人間の体について広く深い知見を備えていて(専門は「走る能力」の進化とのこと), 本書ではこれを余すところなく発揮しています。

本書(2 分冊)は 3 部から構成されています。 第 1 部「サルとヒト」では初期人類からホモ・サピエンスの出現までの進化の過程を紹介しています。 特に初期人類,猿人類,原人類,旧人類,農業を始める前の現生人類のそれぞれが,どのような環境に適応し, どのように生活していたのかを中心に解説しています。人の体が狩猟採集生活への適応で説明される, という第 1 部の結論は以降の議論にも大きく関わってくることになります。 なお,第 1 部だけでも人類進化の教科書として大変充実した内容になっています。

第 2 部「農業と産業革命」では,ホモ・サピエンスの歴史の話題になります。 第 2 部の最初の章(第 7 章;ここまで上巻)で,進化と,ミスマッチによる医学的問題との関連が考察され, これを踏まえて狩猟採集生活から農業への移行と,その後の産業革命が人体に及ぼした影響が考察されています。

第 3 部「現在,そして未来」ではさらに考察を進め,様々な「ミスマッチ病」の原因を個別に議論しています。 具体的には 2 型糖尿病,アテローム性動脈硬化,乳癌,骨粗鬆症,埋伏智歯(親知らず),アレルギー,足の問題, 近眼,腰痛などが考察の対象になっています。 特にまとめとなる第 13 章では,これらの「ミスマッチ病」に対して個人と社会がなし得る対策について, 著者なりの考えも述べられています。

本書の上巻は人類学の教科書として,下巻は現代病に対する科学的な(進化医学的な)見方の啓蒙書として, まれに見る良著となっています。必ずしも全ての議論について十分な証拠が得られているわけではないため (特に人類の化石記録は依然として乏しい),著者の推測に依るところも少なくありません。 しかし可能な限りの証拠と先行研究における議論を踏まえているため,説得力のある論理展開になっています。 巷では現代病について様々な原因や対策が(俗説も含めて)語られていますが, 著者の解説は客観的な証拠に根ざしているためとても参考になります。 本書は自分の体と健康について見直すよい機会にもなるでしょう。
(2015年11月07日)

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2015年10月

紹介しきれなかった 9 月発行の書籍(一部 8 月発行)

川村康文 編 ドリルと演習シリーズ 基礎生物学 (電気書院, 東京, 2015).

2,376 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月15日発行)

非常に基本的な生物学の問題集。大学で初めて生物を学ぶか,基礎の復習に使用できる。 各項目の簡単な解説と問題が表裏 1 ページずつ与えられ(ミシン目で切り取り可), 巻末に解答集が配置されている。

森山徹 オオグソクムシの謎 (PHP エディターズ・グループ, 東京, 2015).

1,728 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月04日発行)

大型の深海生等脚類(ダンゴムシの仲間)の一種,オオグソクムシの行動研究から動物の「心」の謎に迫っている。 ちなみに最近注目されているダイオウグソクムシは体長約 40 cm で日本近海からは知られていないが, オオグソクムシは体長 10 cm 程度とより小型で日本近海にも産する同属別種。

長谷部光泰 監修 進化の謎をゲノムで解く (学研メディカル秀潤社, 東京, 2015).

3,456 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月05日発行)

「細胞工学」に連載された内容を単行本化した,同誌の別冊。 「ゲノム」と「進化」に関する様々な話題をそれぞれの専門家が紹介している。

土屋健 白亜紀の生物, 上巻 (技術評論社, 東京, 2015).

2,894 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月10日発行)

土屋健 白亜紀の生物, 下巻 (技術評論社, 東京, 2015).

2,894 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月10日発行)

「生物ミステリーPRO」シリーズの第 7 巻と第 8 巻。 既刊については紹介しきれなかった 7 月発行の書籍でも触れた。 今回も化石写真と復元図による古生物の紹介という主旨は変わらず,ただし初の 2 分冊。 恐竜にも一定のページを割きながら,他の生物の紹介もしっかり行われている点でも「三畳紀の生物」や 「ジュラ紀の生物」と同様。

モリス, D. サル: その歴史・文化・生態 (白水社, 東京, 2015).

2,592 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月10日発行)

2013年発行の "Monkey" の邦訳。著者は動物行動学者とのことだが, 本書の主要部分(第 8 章まで)はサルに関する人間の文化史で,動物学的観点での紹介は第 9〜13 章に含まれている。 末尾にはサル全種の分類表が示されていたりと,不思議な構成のノンフィクション。

ミクロ生物選定委員会 編 夢に出そうなミクロ生物 (扶桑社, 東京, 2015).

1,404 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月10日発行)

主にミリメートルサイズの生物を彩色した走査型電子顕微鏡写真で紹介している。 題からも分かるように気味の悪さが強調された写真が多く,そのためか動物がかなりの割合を占めている (少数ながら細菌や原生生物の写真もある)。

中村美知夫 「サル学」の系譜: 人とチンパンジーの 50 年 (中央公論新社, 東京, 2015).

2,052 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月10日発行)

日本における半世紀のチンパンジー研究とその成果を紹介している。

岩淵喜久男 編 カミキリムシの生態 (北驫ル, 東京, 2015).

4,104 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月10日発行)

主に日本におけるカミキリムシの生態にまつわる研究の総説集。 分類群ごとに整理された多数の研究が紹介されている。

坂本洋典, 村上貴弘 および 東正剛 編 アリの社会: 小さな虫の大きな知恵 (東海大学出版部, 秦野, 2015).

3,456 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月20日発行)

アリの生態・社会性をテーマにした総説集。前半は「アリに学ぶ仕事術」として 5 本の総説が, 後半では「アリにみる生きる知恵」として 4 本の総説が掲載されている。

芦田嘉之 カラー図解で分かる高校生物超入門 (SB クリエイティブ, 東京, 2015).

1,469 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

サイエンス・アイ新書の一冊。現行の高校生物科目である「生物基礎」と「生物」の内, 「生物基礎」の内容を膨らませてわかりやすく解説している。 高校生から生物未習の大学生,社会人などが対象とのこと。

アル=カリーリ, J. および マクファデン, J. 量子力学で生命の謎を解く (SB クリエイティブ, 東京, 2015).

2,592 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

2014年発行の原題 "Life on the Edge" の邦訳。量子力学の視点で生物学を見直す,量子生物学を紹介する啓蒙書。 通常の生化学や分子生物学では量子力学の効果は考慮されないが, 実際の生物現象には量子力学的効果でしか説明できないものもあるとのこと。

弥益恭 新・生命科学シリーズ: ゼブラフィッシュの発生遺伝学 (裳華房, 東京, 2015).

2,808 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

発生生物学のモデル生物であるゼブラフィッシュの研究手法と成果に関する解説書。

ドゥーシュ, J. 進化する遺伝子概念 (みすず書房, 東京, 2015).

4,104 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

2012年発行の "Le Gène: Un Concept en Évolution" の邦訳。 ダーウィンやメンデルによる遺伝子概念の登場から DNA 構造の解明, そしてエピジェネティクスなどの今日的な知見に至るまでの生物学史をまとめた啓蒙書。

峯水亮, 久保田信, 平野弥生 および リンズィー, D. 日本クラゲ大図鑑 (平凡社, 東京, 2015).

7,344 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

カラー写真による日本沿岸のクラゲ(刺胞動物の一部)やクラゲのような動物 (有櫛動物,脊索動物,軟体動物の一部)の図鑑。各種の細かい解説も巻末にまとめられている。

山岸明彦 生命はいつ,どこで,どのように生まれたのか (集英社, 東京, 2015).

1,188 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月30日発行)

知のトレッキング叢書の新刊。生命の起源や宇宙生物学研究の第一人者である著者が, 朝日カルチャーセンターで行った講演をまとめたもの。 宇宙生物学や生物の分類・進化,生命の起源などの話題が一般向けにわかりやすくまとめられている。

(2015年11月02日)

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佐藤恵子 ヘッケルと進化の夢: 一元論,エコロジー,系統樹 (工作舎, 東京, 2015).

3,456 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月20日発行)

19世紀後半から20世紀初頭に活躍した進化生物学の巨人,エルンスト・ヘッケル(Ernst Haeckel;1834〜1919) の研究書です。ヘッケルはダーウィンの進化論をさらに普及・展開し, その後の生物学に大きな影響を与えたことで知られています。ヘッケルは生物学史上も重要な人物ですが, 訳書が少なくその研究や思想を辿るのは大変な作業でした。 著者はヘッケルの原典を読み解き,当時のドイツの社会背景や学術的な背景を踏まえて解説をまとめています。

第一部「生涯と一元論の構想」では,ヘッケルの生涯と時代背景を一通り紹介した後, 「有機体の一般形態学 Generelle Morphologie der Organismen」 の内容を核にしてヘッケルの一元論を解説しています。 これは進化論によって無機物も生物も同じ法則によって理解され, 物体も精神も互いに切り離せないものとして捉えられるとした哲学思想と言えます。 「有機体の一般形態学」(邦訳なし)は 2 巻 1200 ページに及ぶ大著で,ヘッケルの思想が詳細に語られています。 本書の内容がヘッケルの哲学の基本をなしているため,第一部第 3 章がその要約に充てられています。

第二部「一元論のもたらしたもの」では,多様なヘッケルの考え方のそれぞれについて, その内容と社会的な影響を論じています。具体的には,発生が進化を繰り返すとした反復説,ミッシングリンク, 仮説としての進化論を土台に議論を広げることの是非,一元論者の組織化と教会との対立,人種主義と優生思想, 生態学の提案,プランクトン学黎明期の議論,芸術としての生物構造の紹介,結晶と生物の関係,など, 一部は現在の科学にも繋がる多彩な着想が取り上げられています。

本書を読んだ感想になりますが,ヘッケルが仮説の展開において飛び抜けていたことが窺えます。 すなわち証拠がないことについても推論の上に推論を重ね続ける形で議論を進め, 進化論の可能性を生物学だけでなく政治・教育・宗教・芸術などあらゆる方向に広げました。 この方法論は誤りを真実と錯覚させ,証拠を自説に沿うように曲解させる危険性をはらむ一方, 検証すべき仮説を明確化して結果的に生物学の発展を加速させた効果もあったようです。

本書は,進化論が登場した 19 世紀中頃から遺伝学が勃興する 20 世紀前半の時代を繋ぐ, 進化論黎明期の生物学の様子を描く最良の研究書と言えるでしょう。 生物学史や進化生物学の研究者にお薦めしたい一冊です。
(2015年10月31日)

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谷岡一郎 科学研究とデータのからくり: 日本は不正が多すぎる! (PHP 研究所, 東京, 2015).

842 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月01日発行)

PHP 新書の新刊です。犯罪学を専門とする著者が, STAP 細胞事件やノバルティスファーマによる臨床データ改竄事件などの実例を分析しながら, 科学研究における不正や捏造の実態と社会的背景に迫ろうとしています。

まず序章と第 I 章で,研究者による不正の種類や程度を整理分類しています。 続く第 II 章では STAP 細胞事件を扱い,査読や追試により捏造などの不正を見破ることの困難を論じています。 また学位を与えた早稲田大学と所属機関である理化学研究所への批判もありますが, 基本的には STAP 細胞を捏造した小保方氏の問題点を厳しく非難する論調です。 特に立証責任についての議論は重要であり,今後の教訓として考えるべき課題でしょう。

第 III 章はノバルティスファーマの事件を扱っています。 これは製薬会社が,研究機関で行われた臨床研究に関与してデータの改竄を引き起こした事件で, 本章では営利企業と学術研究機関の関係性や,学術機関の責任のあり方など, 研究者個人の問題よりも研究機関や業界の問題に焦点が絞られています。

第 IV 章ではギャンブル依存症に関する厚生労働省の発表を紹介し,疑似科学の問題点を論じています。 これは STAP 細胞における挙証責任の話にも通じるところがありますが,ここではより深く議論されていました。 最後に第 V 章では「むすびに代えて」として報道媒体や政府との関係を中心に, 社会と科学のあり方について踏み込んだ問題提起と提言を行っています。

本書は研究者ではない一般の人々に向けて書かれているようですが, 研究者の視点から見ても考えさせられる内容です。 ただし個人的見解との注釈付きだとしても見解に偏りがあることが気にはなります。 推論の進め方や印象誘導の方法が科学的とは言い難い点もあるため,差し引いて読んだ方が良いでしょう。
(2015年10月26日)

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濱田嘉昭 科学の考え方: 論理・作法・技術 (左右社, 東京, 2015).

1,944 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月20日発行)

過去に放送大学の授業で使用された印刷教材(通常 4 年間使用される)を再録した放送大学叢書の新刊です。 本書は 2007〜2010年度の放送大学ラジオ番組「科学的な見方・考え方」に基づいていて, 科学の方法論を,教養的な科学知識と共に解説しています。

第一章「自然に学ぶ: 科学の作法」では西洋科学が成立した背景と考え方の基本が, 第二章「自然の秘密を発見する: 科学の方法」では論理や研究戦略などの, より具体的な科学の方法論が紹介されています。 第三章「自然を見る目を研ぎ澄ます: 領域の拡大」では人間の五感の限界と, より幅広く自然を認識する重要性が解かれています。 第四章「自然は生きている: 相互作用」では系(システム)の特徴や物理的な相互作用の種類などが説明されています。 第五章「自然は結ばれている: 原因と結果」は科学における因果律の使い方,誤用の例などが語れています。 最後に第六章「自然の美しさを表現する: 数理的な扱い」では, 科学の手法としての数学の有用性が実例と共に示されています。

本書には「科学とは何か」を考える科学哲学的な内容と教養的な科学知識が混在していて, 書籍としては散らかった印象を受けました。第一章や第二章,第五章の主題はどちらかと言えば科学哲学的であり, 残りの章は基礎知識の羅列が中心になっています。それぞれ必要な知識ではありますが, 説明が十分に体系だっていないため著者の意図が捉えづらいのが難点でした。 著者の専門が物理化学だったためか話題も物理系に偏っていて, 分野ごとの方法論や思考法の違いが整理されていなかったことも残念でした。
(2015年10月20日)

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パーマー, D. 編 カラーイラストで見る恐竜・先史時代の動物百科: 魚類,爬虫類から人類まで (原書房, 東京, 2015).

4,104 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月25日発行)

2014年発行の原題 "Children's Dinosaur and Prehistoric Animal Encyclopedia" の邦訳です。 古生物,特に古脊椎動物の図鑑で,生命史の中で重要な役割を果たしたものや個性的な姿形のものなど, 数百種がイラスト・大きさ・分類・分布・簡単な解説と共に示されています。

本書の冒頭では地球の始まりから人類の誕生までがまとめられています。 中でも古生代から中生代は各紀ごとに見開き 2 ページを使って丁寧に解説されています。 続く本書の主要部分では,魚類・両生類・初期の爬虫類・恐竜・鳥型恐竜(鳥類のこと)・単弓類・哺乳類, と各動物群ごとに図解が掲載されていきます。恐竜に多くのページが割かれていますが, 魚類や哺乳類などその他の古脊椎動物についても知る人ぞ知る,しかし重要な種がしっかり掲載されています。

原著は子供向きとされていますが,古生代の魚類や原始的な爬虫類, 絶滅哺乳類の図などがまとまった図鑑はあまり多くないので,本書は大人にもお勧めできます。 ちなみに漢字に振り仮名が振られていないので,あまり小さい子供には向きません。 一方で,一部の記述が時代遅れである点には注意が必要です。 35 億年前のストロマトライトを浅海産かつ藻類由来かのように書いている点(当時のものは深海産で, シアノバクテリアを含む藻類の出現前と考えられている), 哺乳類が分子系統によって否定された古い区分に沿ってまとめられている点, などの問題点は特に目につきます。細かい間違いもいくつか認められたので,資料的価値はあまり認められません。 あくまでも古生物の姿を想像するための手助けとして使用するのが良いでしょう。
(2015年10月16日)

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亀井碩哉 ひとりでマスターする生化学 (講談社, 東京, 2015).

4,104 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月24日発行)

生化学の教科書は,例えば Voet および Voet (2012, 2013) など様々なものが出版されていますが,本書は中でも手頃でしっかりとした教科書に分類されるでしょう。 本書は著者が大学で生化学の講義を行う際に作成した資料を基にしているとのことで, 生化学の基本的な内容が豊富な図解と共に一通り紹介されています。

全体は 2 部構成で,それぞれが 10 章からなっています。 第 I 部では水の特徴と細胞の基本的な作り,代謝反応の制御機構,反応エネルギー,生体膜, など生化学の基礎と,糖とヌクレオチド,アミノ酸とペプチド,DNA と RNA,タンパク質, 金属イオン・ビタミン・補酵素,酵素など重要な生体分子の特徴が解説されています。 第 II 部は各代謝経路の解説に充てられていて,解糖系,クエン酸回路,電子伝達系,脂質代謝,光合成, 窒素・アミノ酸の代謝,ヌクレオチドの代謝,などが順に紹介されています。

しっかりと学ぶためには高額で分厚い教科書の方が良い場合もありますが,読破するのに時間がかかり, 気軽に参照しづらいのも難点です。一方本書は比較的廉価ですが学ぶべき事柄が十分に網羅されています。 説明の詳細さでは分厚い教科書に劣るものの,主要な生体分子の構造式や代謝経路なども一通り模式図に示されて, 後から知識を確認したい場合にも便利かと思います。なお,核酸・タンパク質・糖鎖など高分子の合成や, より高次の細胞系の形成など,分子生物学寄りの分野は本書には含まれていないため,注意が必要です。
(2015年10月14日)

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城崎零 ダイオウイカはかく語りき (風詠社, 大阪, 2015).

1,296 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月11日発行)

ダイオウイカの調査を題材にした小説です。潜水艇によるダイオウイカ撮影に挑む第一章と, 疑似ダイオウイカを使った研究に挑む第三章が大学研究者の視点で書かれていて, 第二章がダイオウイカ視点での独白になっています。潜水艇がダイオウイカに取り付かれる展開もありますが, 基本的には研究現場にありそうな話が中心で,読みやすい文章でした。

劇的な展開よりも研究者に照明を当てている点や, ダイオウイカ視点で深海や潜水探査を語らせる試みには興味を引かれましたが, 肝心の細部の描写に難がありました。蝕腕を食腕と誤記していることに始まり, 主人公の立場が不明確で知識・判断力共に質が低い印象を受けます。 また,自我や複雑な思考の有無は置いても,ダイオウイカ視点の擬人化が過ぎている気がします。 折角の題材がおそらくは取材不足で活かし切れていないのが残念でした。
(2015年10月09日)

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ワプナー, J. フィラデルフィア染色体: 遺伝子の謎,死に至るがん, 画期的な治療法発見の物語 (柏書房, 東京, 2015).

3,132 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年10月01日発行)

2013年発行の原題 "The Philadelphia Chromosome: A Genetic Mystery, a Lethal Cancer, and the Improbable Invention of a Lifesaving Treatment" の邦訳です。 フィラデルフィア染色体とは慢性骨髄性白血病(CML)の細胞に高頻度で見られる染色体異常のことで, 本書では CML の原因解明から治療薬グリベックの開発,そして臨床試験を経て承認され,実用に至るまでの経緯が, 主に関係者への取材に基づいて記録されています。

本書の第 1 部「染色体と疾患 1959〜1990年」では,様々な研究者が手探り状態の中でがんの研究を進め, CML とフィラデルフィア染色体に相関があること, 9 番と 22 番染色体の間の転座によってフィラデルフィア染色体が形成されること, そしてその転座によって Bcr/Abl 融合タンパク質が形成され,これが異常な活性を持ったチロシンキナーゼであること, を徐々に突き止めていく過程が細かく再現されています。 この章では研究者に焦点を当てると同時に分子生物学的な説明も丁寧で,非常に読み応えがあります。

第 2 部「合理的設計 1983〜1998年」では舞台が大学などの研究室から製薬会社に移り, Bcr/Abl チロシンキナーゼの阻害剤開発の過程が語られています。ここでの主役は研究者・医療関係者・製薬会社で, 化合物の設計や動物実験が話題の中心になっています。産学連携と時に対立の様子が主題とも読めます。

そして第 3 部「臨床試験 1998〜2001年」と第 4 部「その後」では, 治療薬の開発と臨床試験に携わった医師ブライアン・ドラッカー(プレリュードから登場する)を軸に, 新薬の実用化に向けた問題や患者と製薬会社,そして両者を繋ぐ医師たちのせめぎ合いが描かれています。 一般に,三者の中では製薬会社が悪役にされることが多いかと思いますが,訳者あとがきでも言及されているように, 本書ではそれぞれの立場を公平に示す配慮がなされていて,産学連携の難しさや課題について考えさせられます。

本書はそこそこ分量がありますが,がんの研究,特に治療薬の開発に関心がある人には一読をお勧めします。 産学連携の問題だけでなく,患者の視点,創薬の意義,基礎研究の重要性(フィラデルフィア染色体の発見時には, CML 治療への意義は考えられていなかった),など示唆に富んだ内容が勉強になるでしょう。 また開発や臨床試験の内情からはどうしてもどろどろとした暗い印象を受けますが, それにもかかわらず本書は CML の治療薬開発の成功譚になっています。 現在手探り状態の研究も,いずれはがんの克服に繋がるという希望も感じさせられました。
(2015年10月07日)

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阿部豊 生命の星の条件を探る (文藝春秋, 東京, 2015).

1,512 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月30日発行)

海部 ほか (2015) は地球外生命の探索に関する課題を幅広く取り扱っていましたが, 本書は生命それ自体よりも,その生息環境である惑星に焦点を当てたノンフィクションです。 すなわち,宇宙に数多ある惑星において生命が生存していくために必要な環境, そしてその環境が惑星上で長期間継続するための条件を,最新の知見に基づいて検討・整理しています。

第 1 章から第 4 章では,それぞれ水,プレートテクトニクス,大陸,酸素を中心に, 生物が存在し,多様化するための条件を絞り込んでいます。例えば第 1 章は生物にとってなぜ水が必要か, という根本的な問いに始まり,液体の水が安定して存在するための条件を詳細に煮詰めています。 これらは地球生命の起源や進化,さらには未来を考えるためにも重要な視点ですが, 生物学者にとっては大陸の重要性など馴染みの薄い話題もあろうかと思います。

第 5 章から第 10 章では,どのような惑星が上記の条件を満たすのか, 惑星の大きさや軌道などの性質が生命の存在にどう影響するのか,といった問題を扱っています。 太陽系内では生物が長期にわたって繁栄しているのは地球だけと考えられるため, 地球外生命の探査の目標は太陽系外に向くことになります。しかし系外惑星の知見は未だに乏しいため, 太陽系の惑星から得られた知見を軸に,それを発展して太陽系外惑星について考えることが中心になっています。

本書の序章と結びにおいて,地球を「奇跡の星」と呼ぶ見方に疑問を呈しています。 これは,地球外生命や太陽系外の惑星を考えることによって,地球や地球生命の何が当たり前で何が特殊なのか, 初めて理解できるようになるという期待に根ざしているようです。 本書を読むだけでも,地球と生命の有り様に関する相対的な視点が得られるような気がします。 現状はまだ,地球外生命の探査に向けた基礎知識がようやく整理されてきた段階で, 地球外生命や太陽系外惑星における存在条件を実証的に検討できるのは今少し先の話ですが, 本書にまとめられた知見は今後の本格的な探査・観測に向けた橋頭堡になるでしょう。
(2015年10月02日)

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2015年09月

紹介しきれなかった 8 月発行の書籍

佐々木博 最後の博物学者 アレクサンダー=フォン=フンボルトの生涯 (古今書院, 東京, 2015).

5,832 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月03日発行)

ハードカバーのノンフィクションで,フンボルト(1769〜1859)の生誕から死没までを追った伝記。

宇都宮聡 および 川崎悟司 日本の白亜紀・恐竜図鑑 (築地書館, 東京, 2015).

2,376 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月08日発行)

恐竜が栄えた白亜紀の動物を,化石のカラー写真と,同じくカラーの復元図を用いて紹介している。 恐竜図鑑と題しているが,恐竜は掲載種のごく一部で,海生爬虫類,魚類,無脊椎動物など様々な動物が, 国内の産地や時代の情報などと共に示されている。

稲垣栄洋 たたかう植物: 仁義なき生存戦略 (筑摩書房, 東京, 2015).

821 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月10日発行)

ちくま新書より。積極的に移動することのできない植物が,他の植物や病原体,捕食者,あるいは環境変化, 人間などにどのように対抗しているのか,その適応戦略を紹介している。

池内了 科学は,どこまで進化しているか (祥伝社, 東京, 2015).

907 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月10日発行)

祥伝社新書。宇宙,地球,生物,医学,エネルギー,物理の 6 分野 48 項目について, 現時点でどこまで分かっているのか,最新の理解状況をまとめている。 例えば生物分野では,生命の起源,進化論,鳥類の起源,人類の起源,日本人の起源,環境ホルモンの影響, など 11 項目が,医学分野では,肥満の原因,がん研究,エイズ治療,遺伝子治療,iPS 細胞の 5 項目が解説されている。

曽我部正博 編 メカノバイオロジー: 細胞が力を感じ応答する仕組み (化学同人, 京都, 2015).

8,100 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月15日発行)

ゲノム解析や遺伝子組換えなど通常の分子生物学的な手法ではあまり考慮されない, 機械刺激と細胞の関わりについて扱うメカノバイオロジーの総説集。 細胞骨格,細胞間接着,細胞運動,重力との関わり,などの基礎知識に始まり,後半では医学における重要性も紹介。

松橋利光 その道のプロに聞く生きものの持ちかた (大和書房, 東京, 2015).

1,620 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月20日発行)

身近な小動物,ペット(サソリや爬虫類などマイナーなものからイヌ・ネコまで)の持ち方を写真で説明している。 一見子供向きだが,大人が子供に教えるための指南書の意味が強そう。

リドレー, M. フランシス・クリック: 遺伝暗号を発見した男 (勁草書房, 東京, 2015).

2,592 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月20日発行)

2006年発行の "Francis Crick" の邦訳。DNA の構造解明から遺伝暗号の解明に貢献し, その後も様々な視点から分子生物学を牽引したクリックの伝記。

石塚小太郎 ミミズの学術的研究: 日本産フトミミズ属の形態,生態,分類および研究手法 (全国農村教育協会, 東京, 2015).

2,160 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月30日発行)

同じ出版社より2014年に発行された「ミミズ図鑑」の著者が2001年に提出した学位論文の書籍化。 本文は日本語で書かれていて,採集・研究手法や分類に用いられる形質,検索表,東京産 68 種の図解と記載など, 専門的な研究を始めるための参考となる情報が掲載されている。「ミミズ図鑑」からさらに踏み込みたい読者向け。

(2015年10月01日)

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磯谷友紀 海とドリトル, 3 (講談社, 東京, 2015).

463 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年09月11日発行)

動物行動学の研究室を舞台にしたマンガの第 3 巻です。 クジラの研究に惹かれ,学部 3 年で動物学の研究室に編入した女子学生が主人公で, 以前に紹介した 佐藤 および 森阪 (2013) を下敷きにしています。 実際に佐藤研究室を含むいろいろな研究室に取材に行ったそうで, バイオロギングの様子など実際の研究の様子もわかりやすく描かれています。

女性マンガ誌掲載の作品なので生物学や研究の紹介よりも, 学生や博士研究員の恋愛や進路に焦点があたっています。研究室によって興味や悩みは様々ではあるでしょうが, 本作で取り上げられているような状況や悩みには共感できる研究者も多いと思います。 このような作品を通じて,一般にはあまり知られていない研究者の実態が紹介されるのはありがたいことです。 進路で悩んでいる学生の参考としても悪くないかもしれません。
(2015年09月29日)

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ハウエル, S. N. G. トビウオの驚くべき世界 (エクスナレッジ, 東京, 2015).

1,404 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月31日発行)

2014 年発行の "The Amazing World of Flying Fish" の邦訳で,トビウオの解説付きの写真集です。 空中を滑空することのできる魚,という話題性のある動物にも関わらず, トビウオを題材にした書籍はあまり出版されてきませんでした。 おそらく滑空中の写真撮影の難易度が高いことがトビウオの紹介を難しくしていたと思われますが, 本書では水上で助走中のトビウオから滑空中のもの,着水の様子や鳥に襲われる様子など, 水上におけるトビウオの生態が著者自身の手による信じられないほど鮮明な写真によって紹介されています。

一見すると写真のみで解説が添え物のようにも見えますが, 読んでみるとトビウオの生態や区別などが丁寧に書かれていて,意外に読み応えもあります。 なお,本書には様々なトビウオが掲載されていて多くが英名(カタカナ転記)の通称によって区別されていますが, 写真からの区別と標本に基づく種同定が対応付けできていないためか,学名での表記は原則されていません。 従って図鑑としての活用には向いていないかもしれません。

本書はトビウオの啓蒙書としても,トビウオの観察記録としても貴重な書籍となっています。 トビウオの基本的な見分け方や観察方法などもわかるため, 一般の愛好家や将来の研究者を引き込むきっかけになりそうです。
(2015年09月21日)

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日本バイオインフォマティクス学会 編 バイオインフォマティクス入門 (慶應義塾大学出版会, 東京, 2015).

2,916 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月31日発行)

現在の生物学の研究現場では情報学的な作業, すなわちバイオインフォマティクスを排除することはほとんど不可能です。 一方,対象が広がったことで,バイオインフォマティクスを分野としての体系的に学ぶことが困難になってきています。 本書は日本バイオインフォマティクス学会が編集した,学問分野の全体像を見渡した教科書です。

同学会ではバイオインフォマティクス技術者認定試験を主催していて,本書はその参考書として出版されました。 内容は,生命科学,計算科学,配列解析,構造解析,遺伝・進化解析,オーミクス解析の 6 分野 80 項目に整理され, 各項目が見開き 2 ページずつで解説されています。また項目ごとに練習問題とその解説もついています。 最初の 2 章(生命科学,計算科学)はそれぞれ「バイオ」と「インフォマティクス」の基礎知識の解説で, 第 3 章からが本当の意味での「バイオインフォマティクス」の解説と言えるでしょう。

本書の帯には「これ一冊で完璧!」とありますが,さすがにそれは言いすぎでしょう。 各項目についてはなるべく丁寧に解説しようとした努力がうかがえますが,項目を問わず 2 ページに収めた結果, 項目によってはどうしても解説の深さにばらつきが出ています。読者の前提知識によっても理解に差が出るでしょう。 それぞれの項目に参考文献が示されているため,既にある程度知識がある場合には復習のため, あるいはより深く学ぶための足がかりとして適しているでしょう。 また現在,常識的に使われている手法や求められている知識を探るためにも有用です。 バイオインフォマティクス研究者になるために手に取りたい一冊です。
(2015年09月19日)

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2015年08月

紹介しきれなかった 7 月発行の書籍

森田浩 これだけ! 実験計画法 (秀和システム, 東京, 2015).

1,620 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月01日発行)

様々な分野の入門書を揃えた「これだけ!」シリーズの一冊。 統計的な考え方を踏まえて効率的で科学的な実験とデータ解析を行うための実験計画法の入門書。

清水茜 はたらく細胞, 1 (講談社, 東京, 2015).

648 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月09日発行)

人体の細胞を擬人化した漫画。教育的な内容よりも娯楽作品を目指しているようでありながら, なるべく正確な記述を目指している様子も見て取れる。今のところ血管が舞台で血球細胞,免疫系が中心で, 免疫細胞などの勉強になるかもしれない。月刊少年シリウス連載中。

小林賢 これだけ! 高校生物 (秀和システム, 東京, 2015).

1,728 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月10日発行)

「これだけ!」シリーズの一冊。高校生物の内容を一冊にまとめた入門書。

小林快次 恐竜は滅んでいない (KADOKAWA, 東京, 2015).

972 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月10日発行)

角川新書の一冊。気鋭の恐竜研究者による恐竜の啓蒙書。題名にも関係する恐竜から鳥類への進化を初め, 恐竜研究の現状,恐竜の進化と絶滅,恐竜の生態などの話題が紹介されている。

丸山宗利 きらめく甲虫 (幻冬舎, 東京, 2015).

1,404 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月10日発行)

様々な色彩,特に光沢をもった多数の甲虫が美麗な写真で紹介されている。 簡単な解説も示されているが甲虫の写真が主役を張っていて,目がちかちかしてくる写真集。

阿達直樹 顕微鏡写真でめぐるミクロの風景 (笠倉出版社, 東京, 2015).

648 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月13日発行)

生物を初めとする様々な構造を,主に彩色した走査型電子顕微鏡写真で楽しく紹介した啓蒙書。 顕微鏡に関する初歩的な説明や,手作りペットボトル顕微鏡やスマホ用の顕微鏡キットなども紹介されている。

養老孟司 虫の虫 DVD 付き特装版 (廣済堂出版, 東京, 2015).

3,024 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月15日発行)

解剖学者にして昆虫研究者である著者による,昆虫にまつわる随筆集。 後半はラオスにおける昆虫採集の記録で,その様子を納めた DVD 付きの一冊。DVD のない廉価な版も出ている。

中嶋康裕 うれし,たのし,ウミウシ。 (岩波書店, 東京, 2015).

1,404 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月15日発行)

岩波科学ライブラリーの 240 巻。ウミウシの雑学集的な解説書。 ウミウシの本にしては珍しく,写真ではなく文章が主役。

土屋健 三畳紀の生物 (技術評論社, 東京, 2015).

2,894 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月15日発行)

土屋健 ジュラ紀の生物 (技術評論社, 東京, 2015).

2,894 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月15日発行)

2013年発行の「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」に始まる, 「生物ミステリーPRO」シリーズの第 5 巻と第 6 巻。 豊富な化石写真と復元図と共に,各地質年代の生物進化を概観するシリーズで, 一貫して一人の著者が執筆している点でも挑戦的なシリーズ。 三畳紀とジュラ紀の主役は恐竜の印象が強いが,この 2 冊ではその他の爬虫類も平等に紹介されていて, 無脊椎動物や爬虫類以外の脊椎動物にも一部のページが割かれている。

惣路紀通 カブトガニの謎: 2 億年前から形を変えず生き続けたわけ (誠文堂新光社, 東京, 2015).

1,620 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月17日発行)

野島 (2015) と同じ「〜の謎」シリーズの一冊で, 生きている化石として知られるカブトガニの進化と生態を紹介した入門書。

田中博 生命進化のシステムバイオロジー: 進化システム生物学入門 (日本評論社, 東京, 2015).

2,592 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月20日発行)

日評ベーシック・シリーズという教科書的な書籍の新シリーズ「進化生物学の新潮流」の一冊で, 生物の進化を,代謝や遺伝子発現のネットワークの進化として捉える進化システム生物学の教科書。

近藤祥司 老化という生存戦略: 進化におけるトレードオフ (日本評論社, 東京, 2015).

2,592 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月20日発行)

同じく日評ベーシック・シリーズ,「進化生物学の新潮流」の初回配本の一冊。 人間など哺乳類の老化の原因や機構にまつわる研究成果を整理した教科書。

原田洋 および 芳村工 土壌動物: その生態分布と多様性 (東海大学出版部, 秦野, 2015).

4,104 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月20日発行)

著者らによる土壌動物の研究成果をまとめた専門書。「ササラダニ群集の多様性」,「大型土壌動物の群集構造」, 「土壌動物による環境評価」の 3 章の中に,表やグラフを多用した研究成果がまとめられている。 ササラダニ,アリ,ミミズ,ダンゴムシ,などが研究対象になっている。

成毛眞 および 折原守 国立科学博物館のひみつ (ブックマン社, 東京, 2015).

1,944 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月21日発行)

国立科学博物館の見所をカラー写真と対談形式で紹介した案内書。後半はほとんど丸々特別展のチラシ集。

阿部秀樹 ネイチャーウォッチングガイドブック: 魚たちの繁殖ウォッチング: 求愛から産卵まで,その知られざる営み (誠文堂新光社, 東京, 2015).

3,240 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月21日発行)

魚類を中心とした海中の生物の求愛行動や産卵行動などの写真図鑑。計 54 種が種ごとに細かく解説されている。 ダイビングによる観察のための参考書。

尾崎まみこ ほか 研究者が教える動物実験, 第 1 巻: 感覚 (共立出版, 東京, 2015).

3,132 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月25日発行)

尾崎まみこ ほか 研究者が教える動物実験, 第 2 巻: 神経・筋 (共立出版, 東京, 2015).

3,132 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月25日発行)

尾崎まみこ ほか 研究者が教える動物実験, 第 3 巻: 行動 (共立出版, 東京, 2015).

3,132 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月25日発行)

日本比較生理生化学会編集の生物実習の見本集。 各実験について,ねらい,準備,方法,注意点,関連資料が示されている。 ものによっては高校生向き,大学生向き,一般向き,研究者向き,など対象も示されている。 材料の入手・飼育方法については,基本的に同社の「研究者が教える動物飼育」(全 3 巻)が参照されている。

田中修 植物はすごい 七不思議篇: 知ってびっくり 緑の秘密 (中央公論新社, 東京, 2015).

886 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月25日発行)

中公新書の一冊。既刊に同じ著者による「植物はすごい」(2012) があるが,内容は異なる。 本書では身近な植物としてサクラ,アサガオ,ゴーヤ,トマト,トウモロコシ,イチゴ,チューリップ, の 7 種を取り上げ,それぞれの「七不思議」として様々な話題を紹介しています。

長沼毅 辺境生物はすごい!: 人生で大切なことは,すべて彼らから教わった (幻冬舎, 東京, 2015).

842 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月30日発行)

幻冬舎新書の一冊。「科学界のインディ・ジョーンズ」とも呼ばれ極限環境生物の専門家である著者が, 極限環境生物(「辺境生物」)を紹介する随筆集。

キャリー, N. エピジェネティクス革命: 世代を超える遺伝子の記憶 (丸善出版, 東京, 2015).

3,024 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月30日発行)

DNA 修飾に着目するエピジェネティクスを扱ったノンフィクション。ソフトカバーにしては非常に分厚く。 かなり詳細な解説になっている様子。

(2015年08月31日)

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丸山宗利 昆虫はすごい (光文社, 東京, 2014).

842 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2014年08月20日発行)

丸山宗利, 養老孟司 および 中瀬悠太 昆虫はもっとすごい (光文社, 東京, 2015).

864 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月20日発行)

いずれも昆虫を題材にした新書です。丸山 (2014) では様々な昆虫の生態などが紹介されています。 そして丸山 (2014) が人気を博したことを受けて,同書の著者を含む 3 人の「虫屋」(深い昆虫愛好家) による鼎談が行われ,丸山ほか (2015) として出版されました。

丸山 (2014) では,第 1 章で簡単に総論的な話をした後,第 2 章では昆虫の行動(生態)に注目して, 第 3 章では昆虫の社会生活に注目して様々な昆虫を紹介しています。第 4 章は短めですが, 人間に害を与える昆虫などを含めて人間との関わりについて触れています。 個々の昆虫の話題は比較的簡潔で読みやすく, さらに冒頭 8 ページ分のカラー写真に加えて本文中でも相当な数の昆虫の写真が掲載されているため, 本文の内容がよりわかりやすくなっています。本書では昆虫の行動を人間の行動に例えていて, わかりやすいだけでなく人間との相違について考えさせられる内容になっています。 雑学集と言った内容ですが,よく知られた話題の使い回しではなく新鮮な話題が豊富なので, 昆虫に詳しい人でも楽しめると思います。

丸山ほか (2015) は鼎談録であり,丸山 (2014) とは全く異なる構成になっています。 全体に「こんな面白い昆虫がいる」「昆虫に関してこんな面白い話題がある」といった話が多いようですが, 冒頭のカラーページを別として本文中での写真引用は控えめになっています。 替わって印象に残ったのは,個性的な虫屋に関する話題,愛好家や研究者の多い昆虫でも手付かずの謎が多いこと, そして昆虫の話題から話者らが思索を広げていく様子でした。

昨今は基礎科学にも経済的な貢献を期待されることが増えていますが(善し悪しはさておき), 本書を読んでいると自然現象を学ぶことで人間の考え方や視野が広がることの大切さも伝わってきます。 3 名の見解は全てが万人受けするものではないかもしれませんが,考え方の多様性が読めるのも本書の特色でしょう。 2 冊とも異なる面白さがあり,楽しく読み進められると思います。 合わせて読むことで,読者の世界が広がる一助にもなるはずです。
(2015年08月27日)

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山崎裕人 がん幹細胞の謎に迫る: 新時代の先端がん治療へ (筑摩書房, 東京, 2015).

950 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月10日発行)

医学の研究にも様々な分野がありますが,がん(癌)の研究は最も高い関心を集めている分野の一つでしょう。 近年,様々ながんが「がん幹細胞」と呼ばれる幹細胞から発生しているとする仮説が注目されています。 本書ではがんと幹細胞の研究史を辿りながら, 研究者ががん幹細胞仮説にたどり着いた経緯が多くの研究者の人間模様と共に描かれています。

本書はがん幹細胞を表題に掲げていますが,がん幹細胞の話題は全七章の内,第六章と第七章に限られています。 しかし表題に偽りがあるわけではありません。本書の主要部分ではまさに「謎にせまる」過程を追いかけています。 これらを読むと,医学を起源にしたがんの研究と理学的な発生生物学を軸にした幹細胞の研究が,時に交わり, 刺激し合いながら新しい発見を積み上げてきたことがわかります。 「科学用語や遺伝子などの固有名詞は必要最小限に」したとのことで, 詳細な説明が少ないことに物足りなさも覚えるところもありますが, がん研究や幹細胞研究のあらましはとてもわかりやすくまとまっているため,がん幹細胞仮説に限らない, がん研究全般の入門書として読むとしっくりくるように思います。

がん幹細胞仮説によると,がん細胞のうちごく一部は抗がん剤耐性を持った幹細胞として働き, 再発や転移の主犯となっていると考えられています。この仮説にはまだ検証の余地はあるようですが, 事実であれば標的の再考を促すものと言えます。 本書には,がんを死病から慢性疾患に変える未来に向けた著者の期待が詰まっていて, ともすると溢れすぎています。 本書を読む限り,がん幹細胞仮説が全てのがんに当てはまると見るには研究が未成熟に思えました。 著者の希望的観測も,期待感を差し引いて読む必要がありそうです。 しかし本書は研究課題が幅広く,また日進月歩のがん研究を追いかけるための足掛かりとして最適で, 特にがん研究を志す学生などにお勧めできると思います。
(2015年08月21日)

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勝山輝男 日本のスゲ, 増補改訂 (文一総合出版, 東京, 2015).

5,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月10日発行)

2005 年に出版された「日本のスゲ」の改訂版で,その後発見された新種や新産種などを加え, 一部写真の修正や果胞(後述)の拡大写真を大幅に追加したものだそうです。 カヤツリグサ科,ひいては植物の中でも最大級の属であるスゲ属(とヒゲハリスゲ属)の日本産全種が掲載されていて, 絶滅種と帰化種の一部を除いて全ての種がきれいな写真で示されています。

スゲ属(とヒゲハリスゲ属)は単子葉植物の中でも,目立たない風媒花をつけ, 茎の断面が基本的に三角形のカヤツリグサ科に属し, 特に雌しべや果実が果胞と呼ばれる壺状の構造に包まれていることが特徴です。 たった一属が対象の図鑑と聞くとずいぶんと薄そうに思えますが, 実際には帰化種を含めて 300 種(および種内分類群)以上が掲載されたそこそこ厚みと重みのある図鑑です (といっても観察会など野外に持ち運ぶには問題ない重さ)。 本書は元々スゲの研究者や愛好家を対象にしているようで,冒頭からスゲ属の分類体系や用語解説, 各節(節は属より下位の分類階級)への検索表など,本題に突入しています。 そして各節ごとに種への検索表と各種の写真付き解説が続きます(ちなみに日本産だけで 52 節)。

本書にはスゲ属と他の植物の見分け方やスゲ属の採集・探索方法など初心者向けの解説は見当たらず, 元々の愛好家以外は手に取りづらいかもしれません。しかし内容の丁寧さや豊富な写真を見ると, 植物学の素養があれば十分にスゲ属の同定に使えるように感じました。 身近にあって多様性が高い生物は自然観察の対象としてとても魅力的です。 専門の図鑑が出版され,「すげの会」という全国規模の集まりができる程度にスゲ属ノ愛好家が多いのも そのあたりに理由があるのかもしれません。本書のような図鑑を片手にスゲ属の観察を始めるのも面白そうです。
(2015年08月20日)

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海部宣男, 星元紀 および 丸山茂徳 編 宇宙生命論 (東京大学出版会, 東京, 2015).

3,456 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月30日発行)

火星に海の痕跡が見つかり,さらに太陽系外の惑星が次々と発見されるにつれて, 将来的に地球外生命が発見される可能性がにわかに現実味を帯びてきました。 しかし地球外生命やその痕跡を探すためには,どのような星のどのような環境にどのような生命が存在しうるのか, 地球生命よりも幅広い可能性を検討する必要があります。 そこで生物学,地質学,天文学にまたがる宇宙生物学という学際的な研究分野が注目されていますが, 単独の著者が解説書を書くとどうしても分野に偏りが生じてしまうため,総合的な教科書が乏しい状況でした。 そこで本書では様々な専門分野の日本人研究者 23 人が,宇宙生物学の文脈の中で関連研究を解説しています。

第 1 章「生命とは何か」では生化学的な観点で生命の定義や起源についての知見をまとめています。 一般の生化学の教科書とは異なり,現在の生物がどのような作りになっているか,という視点ではなく, 生命が機能するためにはどのような物質や仕組みが必要か,という視点で書かれている点が特徴的です。 第 2 章「地球史と生物進化」は生命の起源など第 1 章と重なる話題もありますが, 地質学の視点が中心になっています。生命の進化と地球環境(大気や海の組成,大陸の存在など) との関わりが注目点となります。

ここから後半は天文学寄りの内容です。第 3 章「ハビタブル惑星」では, 物的証拠と理論研究に基づく惑星形成過程の研究,地球外惑星の観測,そして生命が存在するための条件, などが議論されています。これらは生命が生存可能な(「ハビタブルな」)惑星の分布 (恒星からの距離など)や個数の解明を目的としています。 第 4 章「地球外生命の探査」については地球外生命が未だ発見されていないため, 直接探査機を送り込むことを念頭にした太陽系内の標的として火星とエウロパが解説されています。 一方で太陽系外の天体については遠距離からの観測によるほかないため, 観測手法や候補の選定方法,今後の観測プロジェクトなどが紹介されています。

最後の第 5 章「人類・文明と宇宙知的生命探査」は,より夢のある,しかし現実的な研究課題です。 まず知的生命体としてのヒトや文明の正体を見つめ直し, 同様の地球外知的生命が見つかる可能性について研究史と探査計画をまとめています。空想科学的な側面も強いながら, 現実に動いている研究を軸に紹介しているため意外と現実味を覚える面白い話題です。

なお,全体に理学的な側面が重視されていて,惑星探査に関する工学的な記述が乏しい印象を受けました。 惑星探査の方法や探査機の技術なども興味深い分野なので,やや残念です。 また引用文献がかなり少なく,最新情報や重要な主張の典拠が示されていない箇所が多数ありました。 異分野の文献を検索することは研究者でも難しいときがあるため, 学際的な分野の入門書として引用文献の不足は深刻な欠陥に思われます。

それでも総合的に言えば本書は宇宙生物学の教科書としてよくまとまっています。 特に,ともすると何を学べばよいのかわからなくなる宇宙生物学の入り口として, 注目すべき分野が整理されている本書は貴重な教科書になるはずです。 非常に優れた資料であるだけに,文献引用と工学的な分野を充実させた改訂版を是非とも出して欲しいと思います。
(2015年08月18日)

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シッダール, M. 世界の不思議な毒をもつ生き物 (エクスナレッジ, 東京, 2015).

1,944 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年08月01日発行)

2014 年に出版された原題 "Poison: Sinister Species with Deadly Consequences" の邦訳書です。 本書では毒を持った生物と,その毒の被害にあった人々の逸話が生物の線画と共に紹介されています。 著者はアメリカ自然史博物館の学芸員でヒルの研究を専門としていますが,ヒルは基本的に出てきません。 登場する生物はほぼ全て動物で,例外的に渦鞭毛藻類が 1 種出てくるだけです (ただし紹介されているのは毒素を蓄積した魚を食べた中毒例)。

本文はそれぞれ 1 種類(あるいは近縁種を含む数種類)の生物を題材にした数ページの記事から構成されています。 第 1 章「触るな,キケン!」では体表や刺などに毒を持つ動物が, 第 2 章「食べてはいけない!」では体内に毒をもつ生物が,第 3 章では「毒をもつ刺客たち」として, 刺などで人間を刺してくる動物が,そして第 4 章「歯と牙」では噛みつくことによって毒を送り込む動物が, それぞれ紹介されています。紹介されている被害例には被害者が死に至った事例も助かった事例も含まれています。 また少なからず著者自身の体験も含まれていることも本書の特徴です。

毒,特に致死性の毒を持った生物には奇妙な魅力があるもので,有毒生物を紹介する書籍は少なくありません。 例えば身近な有毒生物の危険性を啓発するもの,「毒々しい」美しさを紹介するもの, 人間への毒性を解説して恐怖を煽るもの,などを時々見かけます。本書でも毒を受けたときの症状や, 毒によって被害者が死に至った過程も紹介されていますが,その描写は抑制的で,不思議と凄惨な印象は受けません。 また色彩豊かな有毒生物を紹介するに当たって線画のみが示されている点でも異色と言えるでしょう。

本書の中心は被害者の逸話となっていますが,登場する動物の生態や行動,毒をもっている理由など, 生物学的な側面にも適度に言及されています。 本書を読んだからといって有毒生物を完全に避けられるようになるわけではありませんが (著者自身が被害に遭っているわけで),本書で彼らの行動原理を学んでおけば少しは危険を避ける役に立ちそうです。 訳文も非常にわかりやすく,読みながら自然と動物の生態を学べる良書です。
(2015年08月14日)

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海野和男 世界のカマキリ観察図鑑 (草思社, 東京, 2015).

2,376 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年06月26日発行)

著名な昆虫写真家である著者が長年録り溜めたカマキリの写真を,解説と共にまとめた図鑑です。 カマキリはカマキリ目の昆虫の総称で,世界に約 2,400 種知られていますが, 多様性の高い昆虫としての印象はあまりありません。これは多様性の中心が熱帯にあり, 日本には 10 種程度しか分布しないためかもしれません。 著者は 45 年の長きにわたり,熱帯域を含む世界中のカマキリを追ってきました。 本書はその成果をまとめた「カマキリへのラブレター」と称しています。

全体を通して著者ら自身が撮影したカラー写真がふんだんに使われています。 本書の構成は典型的な図鑑と同様に,冒頭の分類や生態の解説と,続く図鑑部分に分けられます。 図鑑部分には 70 種程度が採録されていて,「日本のカマキリ」,「熱帯アジアのカマキリ」, 「中南米のカマキリ」,「オーストラリア・アフリカのカマキリ」と生息域ごとに整理されています。 特に著者らが重点的に訪れたのは熱帯アジア(マレーシアには 100 回以上訪れたとのこと)のようで, 熱帯アジアの収録数が半分程度を占めていました。 熱帯アジアのカマキリには,白い花に擬態したハナカマキリなど色も形も個性的なものが多く, 確かに魅力的です。対して日本のカマキリには,典型的なカマキリの印象から外れたものはないようです。 本書には 7 種の日本産カマキリ(ただし 1 種は外来種)が紹介されていて, 中でも代表種たるオオカマキリの生態写真には多くのページが割かれていました。

研究者ではなく自然観察家の土俵で書かれたためか,個人的な感想も交えた読みやすい本になっています。 その一方で全種に学名が付されていて(未同定種もある),学術的な背景を大切にしていることも窺えます。 なお和名表記(便宜的な新和名も含む)によって敷居が下げられているところも好印象です。 カマキリの写真集としても,入門書としても楽しめる一冊です。

なお,観察が非常に難しいためなのか分かりませんが,カマキリ目の 15 科のうち,4 科が掲載されていませんでした。 特に「中南米のカマキリ」の欄に「カマを持たない原始的なカマキラズ科」の記述があるのですが, 写真が見当たらず,その姿が大変気になりました。「カマキリに出会う旅はまだまだ続く」とのことなので, その成果を反映した次の図鑑が楽しみです。
(2015年08月10日)

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飯島正広 および 土屋公幸 モグラハンドブック (文一総合出版, 東京, 2015).

1,404 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月25日発行)

文一総合出版のハンドブックシリーズでは多彩な生物(時に生物以外)の多様性が紹介されています。 書名にもあるように本書はモグラが対象で,モグラと近縁なトガリネズミの仲間も含まれています。 両者合わせて食虫類(無盲腸目)に分類され,本書には日本産の全 21 種が掲載されています(うち外来種 1 種)。 全て写真を伴っていて,中には 1 個体しか記録のないセンカクモグラのタイプ標本写真もあります (魚釣島のみに分布。2 個体目が観察される日は来るのでしょうか…)。

本書の対象種はみな夜行性だったり地中生活をしていたりと観察が困難なものばかりで, 一般的には捕獲も法律で規制されているそうです。種同定には歯列を中心に頭骨の形態が重要なようで, 本書の使いどころがよく分かりません。 大学などの研究機関で生態研究を始めたばかりの学生などを想定しているのか,あるいは偶然見かけたときや, 死骸を発見した場合を想定しているのかもしれません。 野外での(昼間の)自然観察で活用する機会は少ないかもしれませんが, 本書には生息環境や一部には生態写真も示されているため, 自然観察の折に普段は目につかない彼らの存在を意識するきっかけになろうかと思います。
(2015年08月08日)

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武田晋一 および 西浩孝 カタツムリハンドブック (文一総合出版, 東京, 2015).

1,728 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月27日発行)

野島 (2015) を読むと気になるが,「日本に 800 種」という記述です。 それだけの種があると,素人には名前のあたりを付けることすら出来ないのではないか,とおののきつつ, はて,身近にそんな多様なカタツムリがいただろうか,と不思議にも感じました。 地域変種が多いのか,小型の種が多いのか,などと色々な理由が想像されますが, 多様性の概要を掴むには図鑑を眺めるのも一つの方法です。そこへ折良く本書が出版されました。

本書には「見つけやすいと思われる」147 種/亜種が全て写真と共に紹介されています。 冒頭で用語や探し方などが解説されている他,広域種と各地域ごとの「ご当地カタツムリ」が写真でまとめられています。 ちなみに広域種が 37 分類群とそれなりに多く,次いで沖縄・島嶼の 29 分類群が示されています。 実際の種数を繁栄しているとは限りませんが,島ごとの多様化など,地域変異が著しいためかもしれません。 その他の地域(九州,四国,中国,近畿,東海,北陸,関東甲信,東北,北海道)にはそれぞれ 7〜18 分類群が紹介されています。地域をまたいで分布する種もいますが, 地域ごとの形態変異を繁栄して写真が掲載されているようで,実用性が高い一覧になっています。 各地域の掲載種数も初心者向けとしてはちょうど良いかもしれません。

図鑑の本体部分では,初めに柄眼目以外の,殻に蓋を持つ陸産貝類 11 種が紹介されています。 狭義のカタツムリとは目が異なっているものの,ヤマタニシなどは素人目にカタツムリとよく似て見えます。 次に柄眼目の中でもキセルガイのような細長い殻を持った陸産貝類が紹介され, ナメクジなども挟みつつ一般的な印象に近いオナジマイマイ科の紹介に続きます。 本書のページ数としてはオナジマイマイ科の陸産貝類が一番多く,日本産種も 135 種が知られているそうです (掲載種はその半分程度)。本書で割かれているページ数は少なめですが(小型種が多いため?), キセルガイ科やベッコウマイマイ類も同様に多様性の高い分類群のようです。

大量のカタツムリ写真が並んでいる様は苦手な人には厳しいかもしれませんが, 野外で区別が付き名前が分かると,もっと楽しく深い世界が待っていることでしょう。 興味を引かれた方は,ぜひ野島 (2015) と併せて読んで欲しいと思います。
(2015年08月07日)

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野島智司 カタツムリの謎: 日本になんと800種! コンクリートをかじって栄養補給!? (誠文堂新光社, 東京, 2015).

1,620 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年06月15日発行)

童謡のおかげもあってカタツムリは身近な動物として定着していると思いますが, カタツムリがどんな動物なのか詳しいことまでは知らない人も多いのではないでしょうか? 本書はカタツムリの入門書として,簡単な紹介から生態,他の生物との関係,飼い方まで, 全般的な知見が含まれています。

カタツムリという呼称が特定の種を指すものでないことは察しがつきますが,具体的にどのような生物群を指すのかも, 若干曖昧な点があるそうです。基本的には,触角の先端に眼を持ち,殻に蓋のない陸産貝類(有肺類柄眼目) と同義とされています。ただし柄眼目の中にはキセルガイのように殻が細長く巻いたものなど, いわゆるカタツムリ(「マイマイ」の仲間の丸いカタツムリ)の印象から離れたものも含まれています。 ちなみに副題にもあるように,日本に 800 種程度が知られているとのことで,多様性から言っても魅力的な動物です。

本書には,身近な大型のカタツムリを中心に様々な話題が紹介されていて,中々興味深く読めました。 振り仮名が多用されていて小中学生を対象にしているものと察せられますが,大人が読んでも楽しめるでしょう。 入門書ということでかなり簡単に書かれているので,一読しておくと自然観察の幅が広がると思います。
(2015年08月06日)

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2015年07月

小野篤司 ネイチャーウォッチングガイドブック: ヒラムシ (誠文堂新光社, 東京, 2015).

3,456 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年07月14日発行)

世の中に写真図鑑は数多ありますが,まさかのヒラムシ中心の図鑑が出版されました。 ヒラムシは文字通り,ぺらぺらの非常に平べったい体をした海産無脊椎動物の仲間で, ここでは扁形動物門の中の多岐腸目の動物を指します。長さは数 cm と小型で知名度もあまりありませんし, 普通に生活していても目にする機会がまずなさそうな動物です。 そんなわけで,図鑑が出ることが自体が驚きでしたが,本書を手に取ってみると, ヒラムシが実は魅力的な動物であることがわかります。

本書には未同定種も含めて 200 種あまりが掲載されていますが,全種がカラー写真とカラー図で紹介されています。 軽くページをめくるだけで,多くのヒラムシが色彩豊かな模様を持っていて, ウミウシなどのように見た目が魅力的な動物であることがわかるでしょう。 ヒラムシに出会うには,引き潮時に磯を探すかダイビング中に探索する方法があるようですが, 個体数が比較的少なく,必ずしも容易に出会えるわけではないそうです。

扁形動物門の仲間では他にプラナリアが有名ですが,サナダムシの仲間も有名で, 必ずしも印象の良い動物ではありません。しかし進化的にも興味深い動物群であり, ヒラムシのような魅力的な(好き嫌いはあるかもしれませんが…)動物をきっかけに, 扁形動物の研究全体が活性化されることに期待したいところです。 多岐腸目自体も,本書にも多数の未同定種が含まれていることから,まだまだ研究の余地の大きいようです。 海洋動物に興味のある学生は,本書を見てヒラムシの研究を将来の選択肢に加えてみても面白いかもしれません。
(2015年07月25日)

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2015年02月

森村久美子 世界中で通じる! 理系研究者の英語 (アスク出版, 東京, 2014).

2,160 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2014年12月25日発行)

理系の学生や研究者向けの英語参考書はこれまでにも無数に出版されていますが, 本書は理系の現場で使用する英語表現がポケット辞書の大きさに詰め込まれているのが特徴です。 具体的には,「手紙とメールの表現」,「国際学会の表現」,「発表・論文で役立つ英語」,「研究室の英語」 に分けて表現が一覧されています(一部の表現については MP3 形式の音声ファイルがダウンロードもできる)。 また要所要所に「解説」が挟み込まれていて,それ以外にも必要に応じて文章による説明が活用されています。 採録されている表現もツボを押さえていて数も多く,日常的な会話,発表の決まり文句,意外に知らない数式の読み方, グラフや記号,実験器具などの名称,句読点(コロンやセミコロンも含む)の使い分け,などが満遍なく示されていて, 普通に読んでも勉強になり,出先で確認するのにも便利そうです。

大判の参考書などは学会などへの持ち込みに躊躇しますが, 本書はポケットや鞄に「忍ばせる」のに抵抗が少ないかと思います。 小さい分,若干の開きにくさはありますが,紙のカバーを取り外すとかなり使いやすくなります。 もちろん英語力や目的,学習方法などによって参考書や表現集の向き不向きは変わってくると思いますが, 本書は理系の学生・研究者に幅広く需要があるでしょう。初めての国際学会や留学のお供には必携です。
(2015年02月06日)

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窪寺恒己, 峯水亮 および 澤井聖一 世界で一番美しいイカとタコの図鑑 (エクスナレッジ, 東京, 2014).

3,888 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2014年06月30日発行)

先日紹介した「新編 世界のイカ類図鑑」は線画や標本写真が中心の,玄人好みの図鑑でしたが, こちらは一般向けの写真集と言って良いでしょう(昨年 6 月の本ですが)。 大判で全編フルカラーと,力の入った構成で様々なイカ・タコの生態を紹介しています。 途中,4 ページに渡って「頭足類学事始め」として頭足類全体に関する解説があるほか, 写真ごと,それぞれの種の(記載ではなく)解説がつけられているため,読み物としても楽しめます。

標本写真など水揚げ後の写真が中心の奥谷 (2015) では見えてこない,活き活きとした, あるいは神秘的,あるいは華やかな姿を見ることができます。 少し残念なのは,「非相称」という見出しのあるゴマフイカ科の章で非相称性が分かる正面からの写真がなかったこと (左眼が右眼より大きい),螺旋状に巻いた殻を末端に持つトグロコウイカについて成体の全身写真がなかったこと (幼体や殻のみの写真はあり)など,気になる点の解説・写真に不足があったことですが, 生態写真の撮影の難しさを考えるとやむを得ない所なのかもしれません。 このような点は奥谷 (2015) を合わせて参照すると,イカ類についてより深く知ることができるでしょう。 タコ類については奥谷 (2013) に「日本のタコ図鑑」の章があるので, そちらを参照するとよいでしょう。
(2015年02月04日)

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2015年01月

奥谷喬司 新編 世界イカ類図鑑 (東海大学出版部, 秦野, 2015).

8,640 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年01月20日発行)

全国いか加工業協同組合の創立50周年記念出版として改訂された,文字通り世界中のイカの図鑑です。 既知種約 500 種のうち 444 種が掲載されていて,全ての掲載種が写真または線画で示されています。 本編(「図鑑部」)の前に見開きで形態分類用語の解説ページと,各科の簡単な解説が 3 ページありますが, 解説らしい解説はほとんどないため素人向けとは言いがたく,使いこなすのは難しそうです。 さらに緒言と各種の記載は日本語と英語で併記されていて,国際的にも通用する専門的な図鑑となっています。 ちなみにタコなどイカに近縁な軟体動物は掲載されていません。

漁場開拓などを視野に入れた水産研究やその基礎研究などにおける活用を意図していると思われますが, 図鑑本体では淡々と各種の簡潔な記載が掲載されていて,読み物としての楽しみはあまりないかもしれません。 またおよそ半数の全形が線画のみで示されていて,写真も(時に痛んだ個体の)標本写真のようなので, 眺めて楽しむ本と言うわけでもありません。それでも大量の写真や線画が並んでいるのを眺めていると, 素人目にもイカ類の多様性に驚かされます。最小級のシャムヒメイカ(全長で 1 cm 程度) から最大級のダイオウイカ(足を除いても 2 m 以上)までサイズの多様性もさることながら, 形状の多様性も高いことが分かります。その一方でほとんどの種が紛れもない「イカの形」 をしているのも興味深いところです。図鑑を眺めるのが好きな人にお薦めしたい一冊です。
(2015年01月30日)

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須田桃子 捏造の科学者: STAP 細胞事件 (文藝春秋, 東京, 2014).

1,728 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2014年12月30日発行)

2014年大きな話題になった「STAP 細胞事件」について,その発端から取材に携わった毎日新聞記者がまとめた記録です。 STAP 細胞の記者会見から笹井氏の自殺・検証実験の中間発表まで, 取材によって得られた事件の詳細が時系列に沿って再現されています (理化学研究所[理研]による実験の検証結果は執筆後の 2014年12月発表)。 事件を巡る報道はそれぞれ断片的で一部誤報すらあり,しかも研究と批判の内容が複雑で, 当時は問題の核心を捉えることが容易ではありませんでした。 本書では著者自身や毎日新聞による裏付けのとれた情報が丹念に整理されていて,様々な話題の事実関係が確認できます。 著者は発生生物学や再生医療についてもよく理解していて,科学的側面の解説もしっかりしています。

著者は STAP 細胞の有無を初めとする生物的な側面と,不正の有無や程度など研究倫理の側面を陰に陽に意識していて, 特に後者を巡る事実関係の究明に力を入れていたようです。 未だに事件当事者からの情報発信が限られていて断片的な発言の真偽にも議論があることから, 生物学的な問題については結論に至れていません。 しかし論文著者等への取材記録や整理された事実関係を読み進めていくにつれ, 自然と様々な問題点が浮かび上がってきます。理研の情報開示や組織運営のあり方のような特有の問題と, 全ての科学者が注意すべき問題点の両者が読み取れるため,単なる関係者の糾弾を超えた意味を持っています。

どうしても STAP 現象や幹細胞を巡る解説が複雑になることは避けられず, 日常的に理系の情報に接していない一般の読者が読むには向かないかもしれませんが, 理系の学生や研究者であれば問題なく,むしろ非常に興味深く読み進められる内容です。 今後,STAP 細胞事件は今後の研究機関や研究倫理教育のあり方に大きな影響を及ぼすことになるはずで, その背景を知っておくことは多くの研究者にとって必要です。 本書からは,著者が予断を挟まない様に当事者からやや距離を置き,客観的な視点を意識してきたことが伝わってきます。 それゆえに本書の内容には真実みと説得力があり,STAP 細胞事件に関する優れた資料として参照に値します。
(2015年01月22日)

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浅井元朗 植調雑草大鑑 (全国農村教育協会, 東京, 2015).

10,584 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2015年02月12日発行)

本書の企画者であり,題名にも入っている「植調」こと日本植物調節剤研究協会は, 除草剤などの効果・副作用や最適な使用法に関する研究や啓蒙を行う公益財団法人だそうです。 「人間の生活圏内に "勝手に" 自生する草本」(本書「まえがき」より)としての雑草は, 農業や造園業の現場では防除の対象であり,その防除には「雑草」の種に応じた対策が必要となります。 そこで実際の作業現場における雑草の区別方法を確立することも,必然的に植調協会の仕事となったようです。

本書は同じく植調協会の企画による「日本原色雑草図鑑」(1968年初版,1975年新版)の後継であり, 「雑草の一生が分かる,プロ向け雑草図鑑」として企画されました。内容は「水田編」と「畑地編」に大きく分けられ, 合わせて 712 種が採録されています。大部分が被子植物ですが,一部重要なシダ類や藻類も含まれていて, 学問的・分類学的な括りに囚われない選択に現場主義を感じます。また「雑草の一生」とあるのが重要で, 各種について,種子から芽生え,幼体から成体の全体像までがカラー写真で示されています。 通常,被子植物の種同定においては生殖器官である花の形態が重視されていますが, 雑草の同定に際しては花が咲くまで待つわけにはいかないので,現場では幼体の写真などが大いに役立つはずです。

また本書の意図からは外れますが,教育現場での活用も検討して欲しいと思います。 子供,特に都市部の子供にとっては雑草こそ身近な植物の一群であり, 植物栽培の授業などでも直接雑草に触る機会はあるはずです。 もし教員の手元や図書館などに本書があれば,雑草を通じて植物の多様性への関心を広げられるかもしれません。 専門的な図鑑は敷居が高いと思われがちですが,廉価な図鑑では花など植物体の一部だけが強調されることも多く, 返って「絵合わせ」による同定に不向きなものもあります。本書のように様々な成長段階が掲載されていれば, 分類学の素人であっても見比べて種類のあたりをつけることができるので, 種同定に自信の持てない人にこそお薦めできます。
(2015年01月20日)

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2013年11月

窪寺恒己 ダイオウイカ,奇跡の遭遇 (新潮社, 東京, 2013).

1,470 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年10月20日発行)

前回,深海におけるダイオウイカの映像撮影にまつわる書籍と映像ソフトを紹介しましたが, いずれも生きたダイオウイカを撮影することを目的とした,NHK 取材班の視点に立って記述されていました。 一方で,映像の撮影を目的ではなく手段とする研究者の立場ではどう見えたのでしょうか。 本書ではまさに,この研究を先導した研究者自身による研究と研究者人生の記録が綴られています。

本書の前半ではダイオウイカの撮影に至るまでの経緯が著者の視点で振り返られています。 取材班視点のドキュメントでは山あり谷ありの盛り上がりが強調されていましたが, 本書では抑制的な表現で,しかし丁寧に研究の過程が紹介されていました。 後半では一転して著者の高校時代における山岳部の経験から始まり, イカの研究へと進み現在の所属である国立科学博物館に就職するまでの自伝的な章, そして番組では必ずしも十分に語られなかったダイオウイカの生物学を扱った章が含まれています。

研究者が書いた本といっても決して専門書ではなく,むしろ読みやすい本でした。 ダイオウイカそのものの解説も含まれているため,生物学としても興味を引かれます。 また研究者を目指している学生などにとっては研究者になるまでの過程や研究生活の様子も参考になると思います (著者が学生だった時代と現在では状況が異なる部分も多いでしょうが)。 NHK 取材班の本では報道人の勢いのある熱意が感じられるのに対して, 本書では研究に対する静かで永続的な情熱が感じられた気がしました。 両者を読み比べてみるのも面白いかと思います。
(2013年11月19日)

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NHK スペシャル深海プロジェクト取材班 および 坂元志歩 ドキュメント 深海の超巨大イカを追え! (光文社, 東京, 2013).

945 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年07月10日発行)

NHK, NHK エンタープライズ および ディスカバリーチャンネル(米) 世界初撮影!深海の超巨大イカ (NHK エンタープライズ, 東京, 2013).

3,465 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (Blu-ray 版) (2013年06月21日発行)
2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (DVD 版) (2013年06月21日発行)

2013 年 1 月に NHK スペシャルとして放送され,多くの生物愛好家を魅了したダイオウイカの映像ですが, その撮影の裏では 10 年に渡る挑戦と多くの創意工夫がありました。 本書では NHK の取材班を中心に,彼らがダイオウイカに興味を持ってから深海での撮影に成功するまでの過程が つぶさに語られています。なお NHK スペシャルの映像も Blu-ray/DVD 化されていますので上に紹介しておきました。

番組では研究者を中心に,また成功に近づいた場面を中心に描かれていたため, 研究者が練りに練った作戦をちょこちょこと試したら幸運にもうまくいった,といった印象を受けました。 しかし本書を読むと,番組には描かれていない数々の失敗や試行錯誤,長い忍耐の期間なども描かれていて, 研究者と取材班が想像以上の熱意と執念をかけていたことがわかります。 また研究者だけでなく NHK の関係者も大きな役割を果たしたことが伝わってきます。

本書ではダイオウイカの生態や深海の生物に関する記述も少なからずありますが, あくまでも本書の主題はダイオウイカの撮影で,生物学的な知見は撮影に向けた手がかりとしての位置づけです。 研究者の目的は新しい知見を得ることに向いていると思いますが, 取材班の目的はダイオウイカの映像を撮影することに向いていて, 目的の違いが作業の分担の違いなどにも現れているようで興味深く読めました。 本書を読んでから改めて番組を見ると,各場面がどのようにして撮影されたのかも見えてきて面白いと思います。
(2013年11月15日)

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槐真史 編 ポケット図鑑日本の昆虫 1400: @チョウ・バッタ・セミ (文一総合出版, 東京, 2013).

1,050 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年04月19日発行)

槐真史 編 ポケット図鑑日本の昆虫 1400: Aトンボ・コウチュウ・ハチ (文一総合出版, 東京, 2013).

1,050 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年05月31日発行)

調査データに基づいて「本当に野外で出会える昆虫」約 1,400 種を選抜し,主に白背景の写真で紹介した図鑑です。 文庫本サイズのポケット図鑑ですが,2 巻に分かれています。1 巻の副題には「チョウ・バッタ・セミ」とあり, チョウ目(チョウ・ガ),ゴキブリ目,カマキリ目,バッタ目(バッタ・キリギリス・コオロギなど),ナナフシ目, ハサミムシ目,カメムシ目(カメムシ・セミ・アブラムシ・アメンボなど)が掲載されています。 2 巻の副題は「トンボ・コウチュウ・ハチ」で,カゲロウ目,トンボ目,カワゲラ目,トビケラ目,アミメカゲロウ目, コウチュウ目(コガネムシ・クワガタムシ・テントウムシ・カミキリムシなど甲虫の仲間),シリアゲムシ目, ハチ目,ハエ目が掲載されています。

各巻の冒頭には非常に簡単な掲載目の検索図があり,各目やその内部の科については検索表があったりなかったりします。 ただし目の検索図は各巻に掲載されているものだけが対象で,目的の昆虫の掲載巻は自分であたりを付けなければいけません (索引も巻ごとに分かれている)。 なお筆者の感性では,よく分からない昆虫の多くは第 1 巻のカメムシ目か,第 2 巻に入るように見えました。

各目の内部は科からもう少し大きなまとまりごとに整理されていて, 冒頭では代表種が少し大きめの写真と丁寧な解説で紹介されています。 その後,1 ページあたり 3〜4 種が写真と簡単な解説と共に紹介されています。解説には分布や季節,見られる場所, 識別のポイントが含まれています。また「白バック写真」を多用していることが本書の特徴として一つ強調されています。 生きた昆虫を白い背景の上で撮影した,とのことで,相当な苦労があったそうです。 確かに非常に見やすくすっきりとした写真になっていて,著者らのこだわりが功を奏しています。

さて,先に同じく昆虫の普通種をまとめた図鑑を紹介しましたが(海野, 2013;以下「身近な昆虫」), 本書(以下「日本の昆虫」)との違いに着目してみましょう。まず掲載種数については「身近な昆虫」が約 1000 種なのに対して, 「日本の昆虫」では約 1400 種です。「身近な昆虫」では 75 種に抑えられていたガの仲間が 「日本の昆虫」では約 220 種と 3 倍程度になっている他,全体に種数が増えているようです。 一方で「身近な昆虫」には「日本の昆虫」に掲載されていない小型昆虫の目 (ノミ目,アザミウマ目,シロアリ目,チャタテムシ目,シミ目,イシノミ目,ガロアムシ目,コムシ目, トビムシ目)も,種数が少ないながら掲載されています。1 種ごとの写真は明らかに「日本の昆虫」の方が大きく, 白背景の効果もあって見やすくなっています。逆に「身近な昆虫」では 1 ページあたりの掲載種が多いため, 多くの類似種と手元の種を見比べるのに向いています。解説文も「身近な昆虫」では必要最小限に絞られているのに対して, 「日本の昆虫」では識別の要点や着目点などより充実しています。

いずれも良い図鑑で問題なくお薦めできますが,フィールドに持ち込むには, 1 冊にまとまっていて多数の種が同時に比較できる「身近な昆虫」を推したいところです。 しかし記述が限られていることや写真の小ささを考慮すると,例えば宿に戻って落ち着いて種同定を検討には 「日本の昆虫」が向いているかもしれません。また「日本の昆虫」は普段から眺めて勉強するにも向いているでしょう。 その他,ガ類については「日本の昆虫」,目レベルの多様性では「身近な昆虫」がそれぞれ勝っています。 興味のある方はぜひ比べてみて下さい。
(2013年11月05日)

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2013年10月

奥谷喬司 編 日本のタコ学 (東海大学出版会, 秦野, 2013).

3,990 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年06月05日発行)

9 人の日本人研究者がそれぞれタコにまつわる研究を紹介した本です。 理学と水産学の両方向の研究が収録されていて,理学的な研究においても水産上の関心を踏まえているものが多いようです。 特に水産上の重要種であるマダコ,ミズダコ,イイダコの名前がよく出てきます。 マダコは日本で最も普通に食べられているタコで,ミズダコは全長 3 m にも達する大型種,イイダコが小型の食用ダコです。

第 1 章は編者による Q & A で,タコとイカの違いやタコの形態・生態・漁業などに触れ,本書の導入になっています。 第 2 章ではマダコを中心に,タコの幼生にまつわる様々な研究成果が示されています。 第 3 章は少し毛色が異なり,タコの脳の構造から始まり,タコの自己意識の有無に関する哲学的な考察に踏み込んでいます。 第 4 章の主題は世界最大のタコとされるミズダコで,北海道における水産学上の関心からその生態に迫っています。 第 5 章ではイイダコを用いた学習能力などの研究を,第 6 章ではイイダコの学名を巡る調査結果をそれぞれ紹介しています。 なお,イイダコの学名(の種小名)は,18 世紀に鎖国中の日本で書かれた「和漢三才図会」と「海之幸」に基づいて, 19 世紀になってフランスで記載されたものが用いられているという興味深い話でした。 第 7 章は沖縄のタコの多様性に関する報告です。意外にもこれまでほとんど研究がなかったそうで, 著者による研究で明らかになった多様性と,現地での家庭消費レベルの蛸採りの様子が活き活きと描写されています。 第 8 章ではタコ検定なども実施している明石市におけるタコ資源(マダコ中心)を巡る水産学的研究が, 著者の雑感を交えて紹介されています。最後の第 9 章は「日本のタコ図鑑」で, 日本産のタコ全種(!)が写真(一部は図のみ)と共に示されていて,単独でも価値のある資料になっています (「本邦最初の全種図鑑」とのこと)。

理学的な関心,特にマダコ,ミズダコ,イイダコ以外のタコ類の研究があまり登場しないことは, 世界的にも最もタコの消費量の多い日本においてもタコ研究が必ずしも多くないことを意味しているのでしょう。 一方で水産方面での関心が随所に見えることから,研究者と水産業者の繋がりが深い分野であることも察せられ, 本書全体を通じてタコ学の現状が窺えるようです。 既存の研究が限られていると言うことは理学的にはまだまだ研究の余地が多いということでもあり, 本書を読んでタコ研究を始める研究者が増えればさらに面白い発見も期待できそうです。
(2013年10月31日)

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木野田君公, 高見澤今朝雄 および 伊藤誠夫 日本産マルハナバチ図鑑 (北海道大学出版会, 札幌, 2013).

1,890 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年07月25日発行)

有力な花粉媒介昆虫であるマルハナバチの日本産全種を紹介した図鑑です。 本書では各種ごとに複数の産地の個体写真が掲載されているので,読者は個体変異を踏まえて種同定を行うことが出来ます。 また,著者ら自身によって取得された情報も交えて,形態・進化・生態など, マルハナバチの生物学についても細かく解説されています。

まず前半は種同定のための図鑑です。最初に全種の分布と女王バチ,働きバチ,オスバチの写真が一覧されていて (北海道とその他地域に分けられている),おおよその種の検討が付けられるようになっています。 続いて各種ごとの解説となり,それぞれ 4 ページに渡って基礎情報がまとめられてます。 1 ページ目で分布や生息場所,活動時期などが,2 ページ目で訪花植物の一覧と実際に当該種が訪れている写真が, 3 ページ目で産地ごとの標本写真,4 ページ目で詳細な特徴や大きさ・毛色などの記載が掲載されています。 さらに次の章ではよく似た種間の識別点がかなり詳しく示されています。 各部位の名称と検索表はこの後に配置されているので,用語などの事前知識を持たない人は最初に確認する必要があります。 慣れないうちは頻繁に参照する項目なので,本の中程にあるのは若干使いづらい気もします。 後半はマルハナバチの解説で,詳細な形態3から進化や生活史,探索法や飼育法などが紹介されています。

写真情報が多いので3これだけでも同定の大きな手がかりになるとは思いますが, 全体的には専門的で初心者には敷居が高い印象を受けました。 そもそもマルハナバチと他のハチを直感的に区別する方法が示されていないので, 読者がマルハナバチを知っている人に限られてしまいます。 仕事や研究上の関心でマルハナバチの同定を行う必要のある人などには非常に良い資料になると思われますが, マルハナバチについてあまり知らない人が自然観察の参考に使うには不便な点もあるかもしれません。
(2013年10月29日)

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小林快次 および 土屋健 大人のための「恐竜学」 (祥伝社, 東京, 2013).

819 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年10月10日発行)

山のように出ている恐竜関連本の中で,本書は少し変わった印象を受けます。 多くの恐竜本は大人向けであれ子ども向けであれ,恐竜の愛好者を想定して書かれています。 一方で本書は恐竜愛好家ではない大人に向けて書かれている点で独特です。 インターネットで募集した質問を軸に構成されていて,全体は 5 章で構成されていて, 恐竜の定義や用語など基礎知識を扱った第 1 章,恐竜の歴史に関する第 2 章,恐竜の生理学を扱った第 3 章, 恐竜の生態に注目した第 4 章,そして様々な恐竜の豆知識を扱った第 5 章に分かれています。

基本的には近年の恐竜学を知らない人向けの内容なので初歩的な内容が多く含まれていますが, 最新の研究もしっかりと反映されています。すでに恐竜について詳しく知っている人には物足りないかもしれませんが, 恐竜について余り知らない,知っておきたい,といった人にはちょうどわかりやすい内容になっていると思います。 個人的には,あまり情報のない恐竜の祖先(近縁群)の話題に興味を引かれました。 一方で羽毛恐竜化石の解説がもう少しあっても良かったように思います。
(2013年10月25日)

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川上新一 および 伊沢正名 森のふしぎな生きもの: 変形菌ずかん (平凡社, 東京, 2013).

1,680 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年06月05日発行)

変形菌(=真正粘菌)は子実体を形成するアメーバとして教科書にも登場し, その子実体の多様性もあって意外と愛好者の多い生物です。 本書ではそんな変形菌の魅力を豊富な写真とわかりやすい文章で伝えています。 表題は「変形菌ずかん」ですが,「1. 知る」,「2. 探す」,「3. 見る」,「4. 楽しむ」の 4 章構成で, 図鑑に相当するのは「3. 見る」の章です(ページ数としては全体の半分弱)。

1 章では変形菌の生活史や生態が,第 2 章では変形菌の探し方や標本の作成法などが紹介されています。 いずれも平易な文章ではありますが,学術的にもきちんとした内容を含んでいます。 3 章の図鑑部分は実際の変形菌観察でもよく見つかる主立った変形菌が,綺麗な拡大写真で紹介されています。 発生時期や発生場所なども示されているため実際の探索の参考になるでしょう。 なお拡大写真があまりにも綺麗なので大きさの感覚がつかみにくいかもしれません。 1 章や 2 章には俯瞰で捉えた写真もいくつかありますので,実際に探す前に大きさを把握しておくと良いでしょう。 4 章は著者のお遊びも入っていますが,変形菌の専門家や愛好者へのインタビューや関連書籍の紹介も含んでいます。 全体に子ども向けを意識した文章になっていますが,大人でも楽しめる内容ですので, これまで変形菌を知らなかった人にはぜひ読んで頂きたい書籍です。
(2013年10月21日)

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白尾元理 地球全史の歩き方 (岩波書店, 東京, 2013).

1,995 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年04月10日発行)

以前に「地球全史」と題した地質構造の写真集を紹介しました(白尾 および 清川 (2012))。 同書では地球史全体にわたる,世界各地の重要な地質構造が美麗な写真と共に紹介されていますが, 100 枚近い写真を 1 人で撮影した点でも特筆すべきものでした。 そして「地球全史」の写真を担当した著者が写真の撮影過程を記した記録が本書です。

本書には「地球全史」の撮影地点が全て掲載されているわけではありませんが, それでもオーストラリア,ネパール,北米,アフリカ,ヨーロッパの各地を巡った記録が含まれています。 特定の場所での撮影を決めた経緯,現地での撮影の様子,旅の過程での出来事や悶着などが語られている他, 「地球全史」に掲載されなかった地質写真や旅の風景もカラー写真も多数含めて掲載されています。 また各章ごとに旅の情報として,現地を訪れるための方法や見所なども紹介されています。

生物学や地質学の本というより旅行記の側面が強いですが,「地球全史」が地球の悠久,雄大さを伝えているのに対して, 本書では人間が地球の歴史に触れる過程を見せることで,地球を身近に感じさせてくれる面白さがあります。 「地球全史」に感銘を受けた方には,合わせて読む価値があると思います。
(2013年10月18日)

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邑田仁 原色植物分類図鑑: 日本のテンナンショウ (北驫ル, 東京, 2011).

16,800 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2011年01月20日発行)

加藤雅啓 原色植物分類図鑑: 世界のカワゴケソウ (北驫ル, 東京, 2013).

21,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年09月20日発行)

大小様々な図鑑で知られる北驫ルから「原色植物分類図鑑」の表題を冠した図鑑が出ています。 2011 年の「日本のテンナンショウ」に続いて,今年,「世界のカワゴケソウ」が出版されました。 いずれも特定の植物群を深く掘り下げ,掲載種を写真で紹介した原色図鑑です。

邑田 (2011) はサトイモ科テンナンショウ属の図鑑です。テンナンショウ属にはマムシグサ, ウラシマソウなどが含まれ,花序を筒状に包む緑色や紫褐色の仏炎苞が, 上部で葉状に延びて蓋のように被さるのが印象的な植物です。 しかし本属の最大の特徴は性転換です。越年する地下茎が成長するにつれ, 年ごとに形成される花序が雄花序から雌花序(両性花序の種もある)に変化します。 本書では第 I 章でそんなテンナンショウ属の生態・生活史や形態学が詳細にまとめられていて, 第 II 章でテンナンショウ属の節(属と種の間の階級)の分類が, 第 III 章で日本産全 51 種 9 亜種の詳細な記載と解説が示されています。 そして第 IV 章ではサトイモ科の中でテンナンショウ属と近縁なハンゲ亜連,アルム亜連に属する 12 属の記載も追加されています(日本産種を含むのは 2 属のみで,種ごとの記載はない)。

全体に記述が非常に詳細で,かなり専門的な内容を含んでいます。 しかし写真を豊富に用いることによって,初学者にも内容が理解しやすくなっていると思います。 またテンナンショウ属は,著者らを含む何人もの研究者によって生態学的, 分類学的な知見が現在進行形で深まっている分類群なので,本属について学ぶ際にはよい一里塚となるでしょう。 テンナンショウの仲間は派手ではありませんが印象深い植物なので,関心を持つ人は少なくないはずです。 その一方で雑種形成も起こりやすく種同定も時に難しいそうなので,本書によって専門家が増えることが期待されます。

加藤 (2013) ではカワゴケソウという特殊な植物の仲間が紹介されてます。 カワゴケソウ科は熱帯〜亜熱帯の流水中,特に季節によって水位が大きく変動する川底の岩上に生息する植物で, 一見するとコケに見えますが,歴とした被子植物の仲間です。 強い流れへの適応により,通常の被子植物とは全く異なる体制へと進化しました。 あるものは葉状になった緑色の根が体の本体で,またあるものは茎が同じ役割を果たし, 根・茎・葉・花の付き方も被子植物の典型的な様式から大きく外れたものがほとんどだそうです。 従って発生学的な興味からも注目され,また熱帯における多様性や生物地理にも関心が持たれています。 本書では,前半でカワゴケソウ研究全般の概説が与えられ,後半がカワゴケソウ科の図鑑となっています。

概説部分の文章はわかりやすく,カワゴケソウについて初めて学ぶ人にも抵抗がないと思います。 図鑑部分には日本産の全 2 属 6 種に加えて,筆者が主に活動してきた南アジアから東南アジアの種, そして中国,オセアニア,アフリカ,南北アメリカの主な種が合わせて 80 種掲載されています。 掲載種は全て写真で紹介されているため,生息地での姿が伝わってくると思います (水をかぶると輪郭が見づらいので,線画がほとんど掲載されなかったのは少し残念)。なお,アジア・オセアニア地域は 7 割弱の種が掲載されているのに対して,アフリカ/マダガスカル,アメリカの種数はいずれも 1 割余りと少なめです。 ちなみに囲み記事や記載文を除くほとんどの部分に英文対訳がついているため, 今後長期間に渡って国際的に通用するカワゴケソウ科の教科書になるはずです。

残念ながらカワゴケソウは日本ではあまり一般的な植物ではなく,全て絶滅危惧種の 2 属 6 種が, 九州南部(宮崎,鹿児島[屋久島を含む])の一部河川に見られるのみです。 本書からは,カワゴケソウ科の発生や進化にまつわる研究と, なによりもカワゴケソウという生き物自体の魅力が伝わってきますので, 植物学の研究者には,まずは手にとって中身に目を通して頂きたい一冊です。
(2013年10月16日)

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岩国市立ミクロ生物館 監修 日本の海産プランクトン図鑑, 第 2 版 (共立出版, 東京, 2013).

2,625 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年07月15日発行)

2011 年に出版された海産プランクトンの一般向け図鑑(岩国市立ミクロ生物館 監修, 2011)の 第 2 版が出版されました。装丁がよく似ていますが,ページ数は約 60 ページ増と大幅に増えています。 基本的な構成などはほとんど変わっていませんが,掲載種数が初版の約 170 種類から約 200 種類余りに追加されたほか, 初版では 2 ページだった「採集と観察の方法」が 11 ページの丁寧な解説に拡大され, コラムも 35 項目から 50 項目へと大幅に加筆されました。なお掲載種に和名を付ける方針は維持されていますが, 初版でつけられた「新称」が第 2 版でも「新称」と示されていて,和名の由来が確認しづらくなっているのは残念です。 ともあれ単なる修正や装丁の変更ではなく,内容が大幅に追加された第 2 版になっていますので, 既に初版を持っていても新たに入手する価値があると思います。
(2013年10月11日)

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長沼毅 生命とはなんだろう? (集英社インターナショナル, 東京, 2013).

1,050 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年01月30日発行)

本書では地球上における生物の歴史を辿りながら,生命の本質について考えをめぐらせています。 題名を受けて,まずは生命の起源についての代表的な仮説を紹介しています。 第二章では「生命とは何か」という本書の主題に踏み込んで著者の見解をまとめています。 とは言っても個性的な定義を紹介しているわけではなく,多くの研究者の見解を踏まえた比較的正統な見解かと思います。 そして本書の後半では,生命の最も興味深い特性である「進化」についてわかりやすく解説しつつ, 生命の進化史上の特に重要な出来事を辿りながら人類の将来にまで思いを馳せていきます。

本書は,「高校生から大人まで」を対象とした「知のトレッキング叢書」の一冊として出版されたもので, 非常にわかりやすい文章が印象的でした。最新の地球史・生命史の要点をよく押さえているにもかかわらず, 難解な文章や内容は極力避けられているため,誰もがすんなりと読めるのではないでしょうか? 詳細な知見を勉強したい人には向かないかもしれませんが(といいつつ,筆者にも勉強になる部分がありましたが), 生物の起源と歴史を大まかに知りたい人におすすめです。
(2013年10月09日)

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海野和男 フィールドガイド 身近な昆虫識別図鑑 (誠文堂新光社, 東京, 2013).

2,100 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年05月31日発行)

昆虫はどこにでも生息しているため,普通に生活していても様々な種類の昆虫を目にします。 自然観察に興味があれば彼らの名前も知りたくなるわけですが, 本格的な図鑑は敷居が高く,初心者が種類を調べるには向きません。 そこで最初は,よく見かける昆虫の名前がわかる,手ごろな図鑑が欲しくなります。

本書では数多の昆虫の中から身近に見られる昆虫が選び出されていて, 写真を手がかりに簡単に名前が調べられるようになっています。 身近な昆虫に絞ったと言っても,本書には 1000 種程度の昆虫が収録されています (誠文堂新光社ウェブサイトより)。 初心者が昆虫の名前を調べるための図鑑として意図されているため,各昆虫については小さな写真と簡単な注目点, 分布と出現時期,大まかなサイズ程度の情報しか与えられていません。代わりに 1 ページあたりの収録種数が多く, 通常 6〜8 種程度,多いページでは 15 種の写真が並べられています。結果的に写真の大きさは小さくなっていますが, 識別点がわかりやすく示されているのであまり気になりません。 むしろ多数の種が一覧されているので,簡単に候補を絞り込むことができるのが便利です。 多くの愛好家がいる派手な分類群だけでなく,小型で余り知られていない昆虫群(ガロアムシ,コムシ, トビムシなど)の写真も掲載されているので(しかも写真が綺麗), 昆虫の多様性への興味を深めるきっかけにもなると思います (参考:正誤表が 著者のサイトに掲載されています)。

なお,蛾の仲間については種数が多すぎるとのことで,昼行性の蛾を優先して掲載し, 夜行性のものについてはごく一部しか掲載しなかったそうです。 夜行性の蛾については,海野和男 灯りに集まる昆虫たち (誠文堂新光社, 東京, 2013) (Amazon.co.jp紀伊國屋書店;1,575 円) が参考として紹介されています。こちらは名前を調べるための図鑑と言うよりも, 夜行性の昆虫を紹介した写真集の色合いが強いようです(識別点などにはあまり触れられていません)。
(2013年10月07日)

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2013年05月

三田村敏正 繭ハンドブック (文一総合出版, 東京, 2013).

1,470 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年05月01日発行)

本書では昆虫の作る様々な繭が紹介されています。繭と言えばカイコガの繭が真っ先に思い浮かびますが, 「昆虫が蛹になるときに体内から出す絹糸もしくは独特の分泌物で作られる保護室」全般を指すそうです (広義には動物が休眠する際に作る防護のための覆いを指すこともあるらしい)。 本書に登場する繭は主に蛾の仲間のものですが,カイコガの繭とはまるで異なる,多様な模様と構造のものが紹介されています。 ハンドブックと言うことで,判型も内容も野外での活用を意識して作られています。 昆虫の繭が 114 種類と,繭と紛らわしいクモや昆虫の卵のうが 23 種類掲載されていて, それぞれの種の繭について分布,大きさ,主な特徴,そして探し方の勘所が写真と共に示されています (しばしば幼虫や成虫の写真もあり)。

繭を採集・観察するという発想はなかったため,まず本書の存在に驚かされました。 そして中身を見ると,なるほど興味を引かれるのも納得できる,面白い観察対象であることがわかります。 中には幼虫の持つ毒針毛を埋め込んだ少し危険な繭もあるというのは初耳でした。 ミノムシがミノガの繭であると言うことも意識していなかったので,これから見る目が変わりそうです。 このほかにも自分の目で見てみたい,と思わされる繭が多々登場しています。 多くの繭は,知らない人が野外で突然出会ったなら正体不明の気持ち悪い「何か」になってしまいますが, 本書を読んだ後なら,繭を見つけたときにむしろ嬉しくなるかもしれません。
(2013年05月17日)

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蛭川憲男 日本のチョウ: 成虫・幼虫図鑑 (メイツ出版, 東京, 2013).

2,100 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年05月10日発行)

日本産のチョウを様々な生態写真(もちろんカラー)で紹介した手頃な価格の図鑑です。 本書ではチョウとされている鱗翅目(チョウ目)のうち,日本に分布しているアゲハチョウ科,シロチョウ科,シジミチョウ科, タテハチョウ科(ジャノメチョウ亜科,マダラチョウ亜科を含む),セセリチョウ科が対象になっています。 全部で 225 種が収録されていますが(日本産のチョウの 8〜9 割程度),「本書の特徴」や「あとがき」 でページ制限の存在が不満げに示唆されているため,著者としてはもっと種を収録したかったのかもしれません。 各種については3成虫の写真の他に,卵,いくつかの成長段階の幼虫,蛹の写真(ただし種によっては成虫の写真のみのこともある) に加えて,和名と学名(なお索引は和名のみ),分布,サイズ,成虫が観察される季節,越冬形態, そして簡単な解説文が与えられています。

綺麗な成虫の写真に加えて幼虫の写真も掲載されているのが面白いところで, 成虫が非常に似ていても幼虫がまるで異なる近縁種などがわかりやすく示されています。 残念なのは解説文が簡潔すぎて,類似種同士の区別がほとんど書かれていない点です。 確かに詳しい人が写真を見れば見分け方もわかるのかもしれませんが, 素人にはわずかな違いが種差なのか環境変異なのか判別できないため(チョウは雌雄で模様の差が大きい場合も多い), 種同定に困る場合もあるかもしれません。しかし 200 種を超えるチョウの写真は見応えがあり, 自然とチョウの採集・観察に興味が湧いてくるはずです。
(2013年05月15日)

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米倉浩司 日本維管束植物目録 (北驫ル, 東京, 2012).

3,990 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年04月01日発行)

米倉浩司 維管束植物分類表 (北驫ル, 東京, 2013).

2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年04月25日発行)

2 冊とも維管束植物の分類学資料です。類著に米倉 (2009)大場 (2009) がありますが,米倉 (2013) は米倉 (2009) の改訂版という意味合いもあるようです。 前者は著者が長年整理してきた維管束植物(シダ植物,裸子植物,被子植物)の和名と学名の情報を再整理したもので, 日本産の全ての野生植物,そして帰化植物や逸出植物の学名と和名が,種内分類群まで含めて科ごとにまとめられています。 分類体系としては最新の APG III に準拠していて(一部はさらに改訂されている), 邑田および米倉 (2012) と邑田および米倉 (2013) でも同じ体系を使用しているため, 相互に参照することも出来ます。

米倉 (2013) では APG III に沿って,維管束植物の科以上の高次分類体系が和名と共にまとめられています。 米倉 (2009) では APG II が底本になっていたため,改訂版と考えて良いでしょう。 本書では科以上の分類群が日本産種の有無にかかわらず掲載されているため,米倉 (2012) よりも対象範囲は広いですが, 各科については主立った属名のみが示されているため,(日本産種の)詳細な一覧や学名を確認するためには米倉 (2012) と併せて調べる必要があります。

植物の学名や分類表は様々な図鑑に掲載されているため,改めて整理する必要性は伝わりにくいかもしれません。 しかし最新の学名が正確に示されている資料は限られていますし,一般の読者には信頼性を評価することは難しいでしょう。 その点で本書はまさに学名・和名の専門家の手による最新の資料として安心して使用できます。 もちろん新しい研究によって今後も多くの変更が行われるはずですが,より詳細な最新情報が同じ著者によるデーベース (通称 YList) に掲載されていますので,必要に応じて活用することもできます。
(2013年05月14日)

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邑田仁 および 米倉浩司 編 APG 原色牧野植物大図鑑 I: ソテツ科〜バラ科 (北驫ル, 東京, 2012).

31,500 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年04月25日発行)

邑田仁 および 米倉浩司 編 APG 原色牧野植物大図鑑 II: グミ科〜セリ科 (北驫ル, 東京, 2013).

39,900 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月25日発行)

本書は牧野富太郎(1862-1957)による牧野日本植物図鑑 (1940) から改訂を続けてきた植物図鑑の最新改訂版です。 同書は後に改訂を繰り返し,図も線画から彩色図へと刷新されてきました。一つ前の版としては,1996-1997 年に 「原色牧野植物大図鑑」(「合弁花・離弁花編」と「離弁花・単子葉植物編」の 2 分冊)が出ています。 その後,被子植物の分類体系は分子系統を基盤とした APG(Angiosperm Phylogeny Group)分類体系が標準となり, 科の配置・分類なども抜本的に変更されてきました。そこで本書では「原色牧野植物大図鑑」の分類・学名が, APG 体系に合わせて見直されています。

図鑑の冒頭には,目次とは別に種子植物の科までの分類表がついています。収録種は旧版から基本的には変わっていないようで, 具体的には日本に自生する一般的な植物や帰化植物,栽培植物などが含まれています。 これは本書の対象が一般植物愛好家や教育関係者など,幅広い非専門家であることと関連しているようです。 おそらく教科書や新聞・ニュースなど身近なところで見聞きする植物は一通り押さえられているのではないでしょうか。 説明文についても分布域や生息環境,大まかな体制,大きさ,花期が中心で,厳密な種同定に使用することは想定されていないようです (「凡例」によると,詳細な記載については 2008 年刊行の「新牧野日本植物圖鑑」を参照とのこと)。 図版は彩色との兼ね合いもあるのでしょうが,あまり細密ではありません。 一応,標本のような配置にすることでなるべく形態の描写に力点を置こうとしているようではありますが, 正確な種同定を目的とする場合には少し詳細さに欠けるかもしれません。

子どもの頃には,牧野の名を冠した植物図鑑を見ると植物図鑑の王様のような印象を持っていました。 本書はその収録種の幅広さにおいては好奇心を満たすのに十分な水準に達しています。 一方で現場での種同定の実用にはあまり向いていないでしょう。使い方としては,名前だけ見かけた植物の姿形を調べる用途や, 時々ページをめくりながら植物名を覚えるような目的に向いているかもしれません。 特に,今回の版では系統を反映した配列になっているため,科や目などの分類群ごとの特徴を大まかに把握する役に立ちそうです。
(2013年05月13日)

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ベゴン, M., ハーパー, J. L. および タウンゼンド, C. R. 生態学: 個体から生態系へ, 原著第四版 (京都大学学術出版会, 京都, 2013).

12,600 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月05日発行)

とても分厚い(1000 ページ弱)生態学の教科書の邦訳です。原題は "Ecology: From Individuals to Ecosystems" で, 2006 年に出版されたものです。ちなみに第 3 版の一部(入門的な内容)は "Essentials of Ecoloty" として 2008 年に別途出版されているとのことです(今のところ邦訳なし)。 さて,本書は理論的な枠組みに加えて,多数の先行実験・実地研究の紹介を中心にまとめられているため, 長大な総説のようにも見えます。重点は動物や高等植物に置かれていますが,微生物の生態についても所々で触れられているため, まさに生物群を問わない生態学の教科書と言えます。全 22 章は「生物」,「相互作用」,「群集と生態系」の 3 部に分けられていて, 各部はいずれもほぼ同じ分量に納められてます。本文のところどころ(1 ページに 1〜3 箇所程度)に内容を一言で示した 「道標」が赤字で挿入されているほか,各章の末尾ごとに内容の「まとめ」もあり, 読者の研究と関連の薄い章などは,図と道標,まとめを中心に読み進めることもできます。

第 1 部では個々の生物種の生態をどう捉えるか,ということが主題となっています。 ここでは基礎生物学的な内容が多く,生態学をより本格的に理解するための地ならしの役割も果たしています。 生態学の観点で見たときに,どのような生物が存在するのか,どのような環境が存在するのか,などが要点と言えるでしょう。 第 2 部では生物同士の相互作用を,競争,捕食,寄生,相利,腐食に整理して扱っています。 ここでは特に,理論モデルの実地検証といった研究が多いようです。理論モデルを裏付ける実例や実験例も多くの場合示されていますが, これが自然界における典型例である場合は少ないようです。しかし応用に有効な知見も積み上げられており, 特に人獣共通感染症(「第 12 章:寄生と病気」)の制御などは興味深い話題かと思います。 第 3 部では,特定の生息場所に住む様々な生物の集合,すなわち生物群集と,これに環境まで加えた生態系を扱っています。 ここまで来ると,演繹的に理論を積み上げて予測を立てるのは多くの場合に現実的ではなくなります。 従ってここでも再び,どのように群集や生態系を記述し,理解するのかが問題になっています。 そこで例えば多様性やエネルギー・物質収支を軸にして環境や生物多様性の理解を進めようとしています。

各部の最後の章は生態学の応用的な側面に割かれていて,生態学が好奇心のみ先導された学問ではなく, 現実の地球環境に働きかけて行く学問に変貌しつつあることを伝えています。 第 1 部では保全生物学などが,第 2 部では有害生物の防除(農薬,殺虫剤,天敵の利用など)と生物資源の収穫管理が, 第 3 部ではさらに幅広く継続的な農業・漁業のための管理方法,生態系の復元,富栄養化への対策,生物多様性の管理, 生態系から人間が受ける恩恵(生態系サービス)などが紹介されています。

章にもよりますが一部の内容は中々に高度で,一読しただけで理解するのは難しいかもしれません。 しかし生態学の研究に進もうとしているのであれば,研究テーマに関連する話題くらいはしっかりと理解しておきたいところです。 また多くの興味深い現象が紹介されているため,生態学者でなくとも生物学研究者には教養として読む価値があるでしょう。
(2013年05月10日)

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Turland, N. The Code Decoded: A User's Guide to the International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants (Koeltz Scientific Books, Königstein, 2013).

€ 43, Koeltz Scientific Books (2013年04月発行)

昨年末に,藻類・菌類・植物の学名を規定する命名規約の最新版が出版されました (McNeil et al., 2012;以下,「植物規約」)。 植物規約は生物の正しい学名を発表・あるいは判断するための重要な約束事ですが, 長年積み重ねられた改正によって複雑で難解なものになってしまいました。 そこで本書では,命名規約の編集委員である著者によって初心者向けの解説がまとめられています。

第 1 章から第 3 章までは規約全般や規約で用いられている専門用語の解説になっています。 第 4 章から第 7 章までは順に,有効な発表,新学名の発表,正名の判断,タイプ指定の手順が整理されています。 命名規約から実務上の手順を判断するのは難しいため,分類学者にとっては中々便利かと思います。 第 8 章では学名の保存,廃棄など主に審査に基づいて決められる例外が説明されています。 第 9 章と第 10 章では,それぞれ学名の著者引用と,学名の正しい綴りについての規則がまとめられています。 特に学名の綴りについては細かい規則が多数あるため,分類学者は繰り返し確認した方がよさそうです。 第 11 章では分類群ごとに定められている特別な規則が藻類,菌類,化石分類群,雑種,規約対象外の生物, の順に説明されています。菌類については最新の規約で,登録制の導入や(有性世代と無性世代が別の学名をもつ) 二重命名法の廃止など重要な改正が行われているため,特に参考になると思います。 第 12,14,15 章は解説ではなく,それぞれ命名法上重要な日付(特定の規則が有効ないし無効となった日付)の一覧, 規約改正の一覧,そして命名法に関する様々な資料紹介(これは要チェック)になっています。 残る第 13 章では規約改正の仕組みが紹介されています。

こうして細かく説明するとかなりの分量に見えますが,実際には論文を読み書きしながら参照できる程度の手頃な分量で, 特に命名規約を学び始めたばかりの人にとっては重宝すること間違いありません。 そして,藻類・菌類・植物の学名に携わる全ての人にお勧めできる一冊です。
(2013年05月09日)

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西谷和彦 および 梅澤俊明 編 植物細胞壁 (講談社, 東京, 2013).

7,140 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月20日発行)

植物の細胞壁に関する専門的な教科書です。細胞壁の構成成分などについての基礎知識から最新の研究, 応用例などが体系的にまとめられています。第 1 章「構成分子」では,糖類の基本知識に始まり, 細胞壁成分の各種多糖の合成・分解などの詳細が個別に解説されています。 第 2 章「細胞壁構築」では細胞壁の構成分子の合成から細胞内輸送,高次構造の構築,細胞壁の分解まで, 細胞壁の構築について解明されていることが段階ごとにまとめられています。 第 3 章「成長・分化」では植物の成長分化に伴う二次細胞壁の発達や細胞壁の作り替え,例えば道管や花粉,花粉管, 果実の形成など様々な場面における細胞壁の動態について,力学的な制御にも触れながら紹介されています。 第 4 章「環境応答」では病原微生物や共生微生物に対する応答と, 例えば植物体が傾いた場合などの物理的な環境ストレスへの応答が扱われています。 第 5 章「利用技術」では細胞壁やその成分を,食品,紙,材木,そしてバイオマスエネルギーとして活用する例と, そのための細胞壁成分の分解酵素についてまとめられています。 第 6 章「細胞壁改変」でも細胞壁の利用を視野に入れた遺伝的改変技術と作出されている変異体の例が示されています。 第 7 章「解析法」では今後も有用と思われ研究技術を 49 個選び,その原理と利用法(プロトコルではない)が紹介されています。

内容は非常に網羅的でうまくまとめられていて,教科書としても事典としても活用できそうです。 比較的専門的な内容なので,細胞壁に関心がない人の興味は引かないかもしれませんが, 細胞壁に関する情報がまとまっている資料はほとんどありませんので, 細胞壁研究に取り組んでいる,または関心のある研究者必携の一冊になるでしょう。
(2013年05月07日)

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董枝明 アジアの恐竜 (科学出版社東京, 東京, 2013).

9,975 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月20日発行)

著者の董枝明(ドン・ヂーミン)は中国の恐竜研究を育ててきた著名な古生物学者です。 原書は中国語と英語の二カ国語併記で書かれた「亜洲恐竜 / Dinosaurs in Asia」で,2009 年に発行されました。 本書ではアジアの恐竜発掘史が多くの化石写真や現場写真と共に紹介されています。 原書は全ての恐竜愛好家のために書かれたとのことで,文章と写真資料,イラストを併せて気軽に読めるような構成になっています。 また原著では一般向けを意識したため引用文献が省かれていますが,日本語版では付け加えられています。 この引用文献リストは,専門的な学習への入り口として大きな役割を果たすと思われます。 この他にも訳注として最新の研究成果や補足情報などが絶妙に加えられていて, また巻末の化石産地地図,年表,アジア産恐竜リスト,地名・人名の索引なども有用な情報源となっています。

中国の恐竜研究が本書の半分以上を占めていますが,これは著者が中国人だからではなく, 研究史と産出した化石の数,そして重要性を考えれば当然のことでしょう。 構成上,中国が最初でも最後でもないところにも好感が持てます。 本文中では本書の献辞にある中国科学院古脊椎動物・古人類研究所(IVPP)と,中国恐竜学の父と称された楊鐘健(ヤン・ジョンジエン) が随所に登場し,中国の恐竜研究に彼らが大きく貢献したことがよくわかります。 中国以外には,インド,モンゴル,ラオス,タイ,日本,南北朝鮮などの恐竜産地が紹介されています。 また多くの化石産地における研究が,政治的/歴史的事情からも影響を受けながら, 日本を含む様々な国との共同プロジェクトによって支えられてきたことが描かれています。

発展途上国の多くでは今後も新たな化石産地発見や再探索の余地がありそうです。 中国においても未踏の地はまだまだ残されているでしょう。日本においても恐竜化石の発見は 1980 頃から始まり, 良質な恐竜化石が続々と発見されているところです。そんな今, 本書はこれからの恐竜化石産地の開拓に向けて大きな励みになるでしょう。
(2013年05月02日)

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渡邊利雄 史上最強図解 これならわかる!分子生物学 (ナツメ社, 東京, 2013).

2,100 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年05月08日発行)

分子生物学の入門書で,DNA,RNA,タンパク質,転写・翻訳調節,遺伝子操作,応用研究が扱われています。 平易な言葉で図(漫画)を多用しながらわかりやすい説明が心がけられていますが, 分子生物学の基礎を一通り含んだ見かけよりも本格的な書籍です。重要な用語などが強調されていたり, 各章ごとに「理解度チェック」として数ページ文の問題と解答がついていたりと,自習用の教材として使えるようになっています。 対象として想定している読者がいまいちわかりませんが,初めて分子生物学を学ぶ学部生や挑戦的な高校生に向いているかと思います。 分子生物学を初めて学ぼうとする読者は,用語を暗記するよりも一読して雰囲気をつかむところが始める方が良いかもしれません。
(2013年05月01日)

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2013年04月

田中耕次 熱帯植物巡紀: 観葉植物の原生地を巡る熱帯・亜熱帯植生誌 (誠文堂新光社, 東京, 2013).

2,520 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月01日発行)

観葉植物のレンタルや造園などを行っている会社社長の著者による,熱帯植物を巡る旅の記録です。 同じ著者による「熱帯植物巡礼」(2000)および「熱帯植物紀行」(2008)の続編と位置づけられているようですが, 既刊を読んだことのない筆者でも特に気にせず読めました(ただし,まえがきがないため主旨が捉えづらいのは難点)。 題名には「植生誌」とありますが,植物に限らず現地の風土や分化,体験談など幅広い話題が語られています。

本書では熱帯の中でも東南アジアからオセアニアにかけての島々,そして中国雲南省と西表島が舞台となっています。 仕事か私的な観光か必ずしも明記されていませんが,著者が訪問した各地で見た植物が次々と, 多数の写真(さすがにカラー写真は一部のみ)と共に紹介されています。 実際に一読してみると,植物の記述は必ずしも深く掘り下げられておらず, 学術的な興味で読むと期待はずれになるかもしれません(また,副題に植生誌と掲げておきながら, 東南アジアの植物園で見た中米やアフリカの植物について熱心に語るのもいかがなものかと思います)。 しかし題名を無視して紀行文として読めば著者ならではの逸話が満載された読み物として楽しめるでしょう。
(2013年04月30日)

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島田祥輔 おもしろ遺伝子の氏名と使命 (オーム社, 東京, 2013).

1,890 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年04月20日発行)

遺伝子の名前には目を疑うような奇妙なものが知られています。その多くは研究者の遊び心の賜物ですが, 生命科学の教科書に登場するような重要な遺伝子も少なからず含まれています。 そこで本書では変わった名前の遺伝子を集めて,それぞれの語源をひたすら紹介しています。 一応,第 I パートでは遺伝子研究の基礎知識が,第 III パートでは今後の研究の方向性がわかりやすくまとめられていますが, それはさておき第 II パートの「おもしろ遺伝子の名前たち」が本命です。

第 II パートでは遺伝子の大まかな機能(生殖,胚発生,神経,など)ごとに遺伝子名の由来が面白おかしく紹介されています。 名前の由来だけでは単なる雑学書なわけですが(それでも面白いことに変わりはない), 遺伝子名の由来には発見の経緯や変異体の特徴,遺伝子の機能などが密接に関わっているため, 楽しみながら自然と遺伝子研究の現場感覚が身につくようになっています。 雑学書の類では典拠が示されておらず,従って真偽が疑わしい内容も見かけることがありますが, 本書では原著論文などの典拠がしっかりと示されているため,この点でも大変ありがたい資料です。 一般の人から専門家まであらゆる層が楽しめそうなので,勉強や研究の息抜きなどにページをめくって見てはいかがでしょうか。
(2013年04月26日)

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石川統, 大森正之 および 嶋田正和 編 大学生のための基礎シリーズ 2: 生物学入門, 第 2 版 (東京化学同人, 東京, 2013).

2,310 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月04日発行)

さらに続けて生物学の教科書の紹介です。前回紹介の教科書と同じ出版社で,しかもその著者が本書の執筆陣にも加わっています。 こちらも「生物学の基礎」と同様に生物学未履修者を対象にしていますが, 特に医・理・農・薬学系志望の学生を想定している点で明らかに狙いが異なっています。 また「理系総合のための生命科学」は授業の教材を想定していますが,本書は自習用の教材を想定しています。 その結果,読める文章として書かれていながら,暗記すべき内容もしっかりと含まれているため,内容が厚くなっています (欧米の教科書には遠く及びませんが)。初版まえがきにもありますが, 指導要領の枷のない高校教科書という意図が確かに実現されています。

構成の意図も明確で,1 章「生体物質」で分子レベルの話題から始まり,「細胞」, 「代謝」などと徐々に対象の大きさが大きくなっていきます。そして個体レベルの話を経て 7 章「生体」, 8 章「進化と系統」で締めとなります。扱われている範囲,解説はしっかりとしていて,正統派の教科書に見えます。 一方で学習すべきこと,覚えるべきことが盛りだくさんであることに違いはないため, 初学者としての読者はここから要点を抽出しながら読み進めていくことが要求されるでしょう。
(2013年04月25日)

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和田勝 生物学の基礎: 生き物の不思議を探る (東京化学同人, 東京, 2012).

2,625 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年12月13日発行)

立て続けに生物学の教科書の紹介です。こちらも高校で生物学を未習の読者が想定されています。 細胞や個体の生物学だけではなく進化や生態系にも焦点を当てていて,総合的な生物学が範囲になっています。 多くの教科書と異なり著者が単独であることが本書の大きな特徴です。複数の著者で調整する必要がないためか, 比較的自由に書かれている印象を受けます。各章の冒頭に簡単なまとめがあり, 模式図を中心に解説している点は一般的な教科書と同様ですが,たとえ話を多用して話題を平易にする工夫が試みられています。 また多くの教科書が暗記すべき点を網羅することが前提となっているかと思いますが, 本書では覚えるためではなく読んで概要や考え方を理解することを目指しているため,詳細な解説には踏み込んでいません。 専門的な研究者を目指すためには一定の暗記も必要ですが, 教養として生物学を学ぶためには本書のように読み物的な教科書の方が向いているかもしれません。
(2013年04月24日)

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東京大学生命科学教科書編集委員会 編 理系総合のための生命科学 第 3 版: 分子・細胞・個体から知る “生命” のしくみ (羊土社, 東京, 2013).

3,990 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月10日発行)

サダヴァ, D., ヘラー, H. C., オーリアンズ, G. H., パーヴィス, W. K. および ヒリス, D. M. カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書, 第 1 巻, 細胞生物学 (講談社, 東京, 2010).

1,365 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年02月20日発行)

サダヴァ, D., ヘラー, H. C., オーリアンズ, G. H., パーヴィス, W. K. および ヒリス, D. M. カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書, 第 2 巻, 分子遺伝学 (講談社, 東京, 2010).

1,575 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年05月20日発行)

サダヴァ, D., ヘラー, H. C., オーリアンズ, G. H., パーヴィス, W. K. および ヒリス, D. M. カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書, 第 3 巻, 分子生物学 (講談社, 東京, 2010).

1,575 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年05月20日発行)

東京大学生命科学教科書編集委員会では理工系,生命科学系,文系と, それぞれ異なる対象に向けた生命科学の教科書を提供しています。 一冊目は中でも生命科学系の大学生を対象とした教科書で,第 2 版から改訂を加えた第 3 版となります。 実際に授業で使用することが想定されており,1 回の授業で 1 章とすると,1 年間 28 回分の授業の教科書となっています (序文によると 26〜28 回の授業を想定しているとのこと)。

例えば第 1 章は「生物の基本概念と基本構造」と題した 10 ページのテキストで, 生物の多様性と基本構造(構成物質〜細胞),大まかな(界に相当するレベルの)分類と進化・種概念がまとめられています。 そして第 2 章では細胞分裂や生殖様式などの解説,と高校生物の発展的な内容から始まります。 しかし後半になると細胞内輸送やシグナル伝達など詳細な内容に踏み込み, 最終的には生命科学分野の重要課題である癌や創薬,生物情報科学,脳科学などの詳細にも迫っています。 模式図を中心とした図が豊富で,また所々にコラムとして重要な発見の経緯や,最新の研究成果を紹介しているので, 高校で生物を学んでこなかった学生にとっても読みやすいのではないかと思います。

サダヴァ ほか (2010) の 3 冊は,原題 "Life" の第 8 版(2008 年発行)の一部を訳出したもので, マサチューセッツ工科大学を初めとする世界中の多くの大学で標準的な教科書として用いられているそうです。 原書の目指すところは上述の東京大学の教科書とさほど変わらないものと思われますが, こちらはフルカラーで解説も丁寧に見えます。また新書版のブルーバックスとして出版されているため, 敷居が低い印象を受けます。もちろん内容にも違いがあり,体裁も異なっているため(東京大学版の教科書の方が字が小さく, 図は 3 色刷),一概に比較はできない点には注意が必要です。

いずれの本(シリーズ)も,生命科学の最前線で研究をしたい学生にとって必要な知識が学習しやすい分量にまとめられていて, 授業で用いる教科書としては便利かと思います。東京大学版では各章が 10 ページ程度の分量に詰め込まれているのに対して, ブルーバックスの方は全 17 章が各 60-70 ページで構成されています。 文字数の比較はしていませんが,学生にとってどちらが楽なのか,あるいはわかりやすいのか, 判断がつきにくいところなので,書店で手にとって比べてみるのが良いかと思います。
(2013年04月23日)

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バークヘッド, T. 鳥たちの驚異的な感覚世界 (河出書房, 東京, 2013).

2,310 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月30日発行)

原題 "Bird Sense: What It's Like to Be a Bird" の邦訳となる啓蒙書です。 著者は鳥類の行動生態学者で,長年にわたって様々な鳥類の生態を追いかけてきた研究者です。 本書では鳥類の五感ならぬ六感をめぐる様々な知見を紹介しています。特に主題となっているのが, 鳥類がどのように世界を感じているのか,ということです(邦題から「驚異的な」は取った方が内容に近い印象)。 もちろん人間同士ですら他者の感性を理解することは難しいので鳥類の感性が理解できるはずがありませんが, そこに迫ろうとするのも生物学者の好奇心です。

具体的には人間の五感に対応する視覚,聴覚,触覚,味覚,嗅覚と,人間にはおそらく存在しない磁気感覚について一章ずつ扱い, 最後に鳥類に感情が存在する可能性について触れています。 各章では百年以上前の初期研究や観察から最新の発見に至るまで様々な成果が並べられていて雑多な印象も受けますが, 鳥類が人間と同じように,時には人間には感じられないような感覚を捉えて生きている姿が伝わってきます。 また,鳥類の感覚器官への理解が進んだのがごく最近であることも注目すべきところでしょう。 解説があまり体系立っていないので読みにくいところもありましたが,登場する鳥の種類や話題は豊富なので, 鳥類の雑学書としても楽しめました。
(2013年04月22日)

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日高敏隆 昆虫学ってなに? (青土舎, 東京, 2013).

1,995 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月20日発行)

昆虫を題材とした随筆集です。本書は動物行動学者として知られる著者(1930-2009)が生前に発表した, 主に昆虫に関する随筆を集めたもので,昆虫とは直接関連のない雑誌での連載や, 2000 年末に休刊となった昆虫学の雑誌「インセクタリゥム」における連載が含まれています。 特にインセクタリゥムの連載では昆虫の目の階級の分類群それぞれを学問的な話題と共に紹介しています。 取り上げられている話題としては昆虫に関する雑学的なものが多く,時折著者の思い出話なども含まれています。 昆虫の雑学と言ってもそこは専門家による紹介ということで,よく見かけるような有名な雑学ではなく, 確かな知見に裏付けられたほとんど初耳の話題が満載でした。 いずれの記事も非常に短いものばかりなので,気軽に昆虫学の奥深さの片鱗が窺えるはずです。
(2013年04月19日)

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Voet, D. および Voet, J. G. ヴォート 生化学(上), 第 4 版 (東京化学同人, 東京, 2012).

7,140 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年12月10日発行)

Voet, D. および Voet, J. G. ヴォート 生化学(下), 第 4 版 (東京化学同人, 東京, 2013).

7,140 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月27日発行)

生化学の定番の教科書の一つです(上下 2 冊ですが)。生化学は化学を立脚点とした学問で, 生物学を分子レベルまで追究した分子生物学とはある意味で反対の観点から始まった学問とも言えるでしょう。 本書でも化学の観点,例えば分子の構造や性質,反応速度などに焦点を当てて細胞の活動に迫っています。 扱う対象は生体分子の性質から代謝,遺伝子発現まで幅広く,さらに生化学の実験法や遺伝子工学, 生物情報学などの周辺知識にも章が割かれています(章構成上,配置がわかりにくいですが)。 各章には内容の短いまとめや問題がついています。ただし問題の解答は別冊で邦訳は出ていません。 設問自体の意図が微妙なものもあり,役に立つのか疑問ではあります。 なお上下巻のページは通し番号になっていて,下巻の索引でまとめて調べられます(上巻索引は上巻の項目のみ)。

全体は第 I〜V 部までで構成されていて,第 I 部「生化学の基礎」では,細胞の構造や水溶液中の化学, 熱力学などの基礎知識など,本書を読むにあたって必要な知識がまとめられています。 第 II 部「生体分子」から本格的に生化学の解説が始まり,アミノ酸,核酸,タンパク質,糖類(単糖,多糖), 脂質(および生体膜)など生体分子の特性や構造が詳細に紹介されています。 中でもタンパク質の物性や構造の解説には特に多くのページが割かれていました。 第 III 部「酵素の作用機構」では酵素の触媒機構を理解するため,酵素の一般的な性質や反応速度論, 触媒機構などが扱われています。この部は代謝機構の理解に向けた予習の意味もあるようです。 第 IV 部「代謝」では総説的な内容から始まり,解糖系,クエン酸回路,電子伝達系など(ここまで上巻), 糖新生・ペントースリン酸回路などその他の糖代謝(ここから下巻),光合成,脂質代謝,アミノ酸代謝, ヌクレオチド代謝など様々な代謝機構がそれぞれ詳細に示されていて,本書の 1/3 以上がこの部に割かれています。 第 V 部「遺伝情報の発現と伝達」には分子生物学的な内容が含まれていますが,セントラルドグマの素過程の化学的詳細, 特に分子機構や挙動に焦点が当てられていて,生化学の教科書としての解説がなされています。

本書の記述はとかく詳細なので,本書で生化学を学び始めるのは敷居が高いかもしれません。 しかし生体分子の性質や代謝機構の詳細などはいずれも必要な知識なので,一度軽く目を通しておいて (例えば図やまとめだけ読むなど),事典のように使うのに向いているかもしれません。 そうして目を通してみると,生化学はあくまでも化学であって生物学とはものの見方が違うように感じられました。 その一方で,単純な反応の累積としてではなく,それがどのようにして統合的に制御されているのかという仕組みも 本書では強く意識されていて,本書が化学の本ではなく,生化学の本であることの意味が見えてきます。
(2013年04月18日)

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松浦健二 シロアリ: 女王様,その手がありましたか! (岩波書店, 東京, 2013).

1,575 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月06日発行)

シロアリの生態を紹介した啓蒙書です。シロアリと言えば家屋の害虫として知られている一方, 社会性昆虫としての一面も持っています。本書では害虫としての側面はさておき,社会性に注目した研究成果を紹介しています。 アリの社会性について紹介した資料は色々とあるかと思いますが,シロアリは「アリ」の名を冠していても系統的にはアリ (ハチ目アリ科)とは離れたゴキブリ目シロアリ科(本書では旧来通りのシロアリ目としているが, 系統的にはゴキブリ目内部に含まれる)に属しているため,アリとは全く異なる社会性を発達させています。

本書ではシロアリのカースト(女王,王,ワーカー,兵アリ)を中心に,その生態を生き生きと描く一方で, カースト分化がどのように維持されているのか,それに関わるフェロモンの同定などが紹介されています。 かなりの部分が著者ら自身による研究の成果なので,端々から研究対象としてのシロアリの魅力が伝わってきます。 そしてシロアリの調査,特に複数の倒木などに広がる巣の中に一箇所しかない女王アリの場所の探索など, シロアリ研究者の生態も見所です。研究の苦労が楽しげに書かれているのを読んでいると嬉しくなりますね。
(2013年04月17日)

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Short, E. & George, A. A Primer of Botanical Latin with Vocabulary (Cambridge University Press, Cambridge, 2013).

約 4,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月発行)

分類学の分野においてラテン語は特別な意味を持つ言語です。学名を作る際にラテン語の知識が必要なのはもちろん, 学名の意味や過去のラテン語記載/判別文を読み解くためにも有用です。 しかし植物学のラテン語では独自の専門用語が発達している一方,記載/判別文で用いられる文法には限りがあります (例えば一人称代名詞はまず使わず,動詞も分詞型意外は滅多に使わない)。 そんな中で 植物学者向けのラテン語教科書兼用語集として,Stearn (1993) "Botanical Latin" (第 4 版が最新)が重宝されてきました。しかし本書の最新番の出版からは約 20 年が経過していて(著者は 2001 年に死去), また同書は比較的重量とページ数があるため,初心者が取り組むには若干の勇気が必要でした。 そこで要望に応えるように上梓されたのが本書です(ただし執筆既刊を考えると, 植物学でラテン語による記載/判別文が必要なくなることは想定外だった可能性あり)。

本書はラテン語の基礎教材(Part I〜III)と用語集(Part IV)からなっています。 Part I ではラテン語の初歩の文法が非常にわかりやすくかつ簡潔に解説されています。 ここでは各所で Stearn (1993) の対応ページが引用されていて,より細かい文法は Stearn (1993) を参照できるようになっています。 Part II には文法の簡単な演習問題と解答が載せられていて,Part III では植物学の英羅翻訳, 羅英翻訳の手順を非常に事細かに(ノートの書き方のレベルから)指南しています。Part IV は用語集です。 Stearn (1993) と同様にラテン語と英語の対訳が羅英,英羅の区別なくまとめられています。 Stearn (1993) では例文なども示されていますが,本書では文法と対訳のみが掲載されています。 用語は Stearn (1993) から,特に隠花植物の用語を強化したそうなので,これ自体貴重な資料となりそうです。

Stearn (1993) はページ数が多く重量もあるため,学習の敷居がどうしても高くなります。 対して本書は文法がかなり簡略にまとめられていて,しかも書籍の重さも軽いため,持ち歩いて学習するのに適しています。 ラテン語の需要が益々減っていますが,学名に携わる研究者は一度くらいラテン語を学習してみるのも良いと思います。
(2013年04月15日)

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池北雅彦 および 田口速男 バイオ英語入門 (講談社, 東京, 2013).

2,310 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月25日発行)

日本バイオ技術教育学会(バイオ技術者認定試験を開催している学会とのこと)が既刊の教科書を改訂し, 新バイオテクノロジーテキストシリーズとして発行するそうで,その 1 冊目となります。 バイオ関連の英語の教科書はいくつか紹介してきましたが,本書では論文や学会などに必要となる高度な英語表現ではなく, 研究現場で使用する初歩的な単語や表現が解説されています。

第 1 章から第 3 章では単語中心の構成になっていて,順に,数や数式・単位とその読み方, 元素や化合物など物質名とその周辺表現,実験器具とその取扱に関する表現が一覧されています。 後半の第 4 章から第 6 章では生化学,細胞工学,遺伝子工学に関する例文が和訳の練習問題の形で羅列されています。 短いながら解説もついていますが,特に覚えるべき単語や間違えやすい単語などが強調されているわけではなく, 教科書として読むには辛いかもしれません。例えば元素名を 109 番のマイトネリウムまで覚える必要があるはずもなく, 逆にナトリウムは "sodium",カリウムは "potassium" と英訳することなどは注意喚起して欲しかったところです。 しかし数式の読み方を初めとする基本的な生物学用語には意外に読めないものもあり, 入門書というよりもむしろ単語・表現集として便利かと思います。
(2013年04月12日)

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村松美賀子 および 伊藤存 標本の本: 京都大学総合博物館の収蔵室から (青幻舎, 京都, 2013).

3,360 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月30日発行)

京都大学総合博物館に収蔵されている標本を紹介しながら,博物学・分類学における標本の役割を紹介した本です。 メインは標本や収蔵室の写真ですが,写真に添えられている文章も見た目以上に読みでがあります。 本書の主要部分では,様々な標本の紹介,同定・分類学における標本の役割,産業や個人研究家が関わった標本, が具体的な標本を実例に解説されています。分類群ごとに標本の種類が大きく異なっている一方, 例外はあっても分類群ごとに標準的な標本作成法が確立されていることが印象的でした。 最後に標本の世界と生き物の世界を繋ぐ具体例として,フィールドでアカネズミを採集してから標本になるまでが 写真・イラスト・解説文によって紹介されています。本書では写真と解説がうまく結びついていて, 読み物としても写真集としても成立しています。本書をきっかけに,多くの人(研究者含む) に標本資料の重要性が伝われば良いと思います。
(2013年04月11日)

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濱尾章二 および 松浦啓一 大都会に息づく照葉樹の森: 自然教育園の生物多様性と環境 (東海大学出版会, 東京, 2013).

2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月20日発行)

国立科学博物館は,上野の本館以外にも筑波の実験植物園など関連施設を持っていますが, そのうちの一つが東京の白金台にある自然教育園(旧白金御料地)です。 本書の冒頭「大都会の緑地: 自然教育園の森」によると,自然教育園には江戸時代からの森林環境が残されていて, 東京元来の照葉樹林の生態を知る貴重な環境となっています(とは言えここ数十年でも遷移が進んでいる模様)。 そして自然史博物館の施設ということもあり,自然教育園では 1949 年の開園(当時は国立自然教育園。 1962 年に国立科学博物館の附属施設に)以来幾度も生物相の調査が行われてきました。本書ではその成果を解説しています。

対象となった生物はシダ植物やコケ植物を含む高等植物,鳥類,一部の昆虫類,クモ類, そしてササラダニ類やミミズ類を含んだ土壌動物,陸貝類などです。ただ各生物群の情報を体系だって整理したわけではなく, 関連する研究者がそれぞれの興味で雑多な記事を書いたように見えます。 その分,都市部に囲まれた自然環境の変化やその背景の生態学が暗に描かれています。 特に外来種や周辺環境の変化の影響,そして温暖化の影響などが注目されます。 第 4 章では自然教育園の森林によるヒートアイランド現象の緩和効果や,園内の水系および土壌について記事もあり, 生物相から得られる知見を補足しています。比較的専門的な内容で,図鑑のように写真を眺めて楽しむような本ではありませんが, 人為的に攪乱された環境の生態学として注目すべき資料です。
(2013年04月10日)

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川上和人 鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (技術評論社, 東京, 2013).

1,974 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年04月25日発行)

新シリーズ「生物ミステリー」の第 1 段で,鳥類学者の視点で恐竜学の様々な話題を紹介した啓蒙書です。 非常に軽い文体で書かれていて小ネタも満載ですが,内容はしっかりしています。 恐竜・羽毛恐竜と現生鳥類の関係,鳥類の起源,恐竜の生態などの話題が最新の研究成果を踏まえてまとめられていて, そこに著者独自の考察(一部,妄想)が加えられています。 この場合,妄想と言っても鳥類学者としての見識を踏まえたものなので,十分に合理的な推測に見えます (鳥類学を知らずに恐竜を語る方が無謀なのでは?と思わされる程度には)。

恐竜研究に限らず古生物学では,証拠が不足したりそもそも証拠が得られる見込みのない事象が少なくありません。 特に一般の関心を集めやすい生態学的な議論についてはその傾向が強いため, 本職の研究者としては中々踏み込んだ言及がしづらいところでしょう。 本書では題名で「無謀にも」と謳っているように,鳥類学者としての立場から証拠なき推測(ただし根拠はある)に挑戦しています。 ちなみに推論はよく練られていて,証拠不足の点についてはそのことがはっきりわかるように書かれているので, 誤解を招く心配もないでしょう。恐竜が好きな人は間違いなく楽しめるはずの一冊です。
(2013年04月09日)

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村上康文 分子細胞生物学事典 (みみずく舎, 東京, 2013).

12,600 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年01月29日発行)

分子生物学の教科書のような事典です(「辞典」ではなく「事典」)。 分子生物学,そして事実上は現在の最先端の生物学を支えている基礎知識を押さえた事典となっています。 各項目を平均 2 ページ程度で解説する構成で,いわゆる「中項目」での記述を意図しているそうです。 説明の内容は著者によっても異なるとは思いますが,幾つかの項目を読んだ限りでは要点が簡潔によくまとめられていて, 分量的にも読みやすい印象です。それ以上に項目の選択が絶妙で,研究の流行りがよく押さえられているように見えます。 多くの項目に "COLUMN" として研究エピソードや関連する知識が非常に簡潔に紹介されていて,よい息抜きになっています。

本書の全体は 4 部 24 章 236 項目から成っていて,第 I 部から順に「細胞レベルの分子生物学」, 「高度な生命機能・個体レベルの生物学」,「モデル生物・ヒトの分子生物学」,「キーテクノロジー」が扱われています。 第 I 部は細胞全体や細胞小器官に始まり,染色体・核の構造,セントラルドグマの概要,タンパク質,細胞骨格, 細胞周期と分裂,など細胞生物学をめぐる内容です。第 II 部ではシグナル伝達の詳細,発生の分子基盤 (脊椎動物や高等植物も),そして癌や神経生物学,免疫学など重要な学問分野が概観されています。 第 III 部ではモデル生物(酵母,線虫,ショウジョウバエ,マウス,植物[シロイヌナズナ,イネ,ミヤコグサ,ラン藻]) とヒトの研究の現状や手法が紹介されています(大腸菌や枯草菌が無視されているのはいかがなものかと思いますが)。 第 IV 部では研究技術,機器が羅列されていて,例えば冒頭は光学顕微鏡に始まり, 最後はバイオリソースセンターの紹介に及ぶ,一見乱雑ながら重要な手法が網羅されています。

今世紀に入ってから,分子生物学の研究者にとって必要な常識は著しく変化してきました。 そんな中で本書には,しばしば話題に登場するもののまとまった解説の少ない事項が揃っていて, 中々よい資料になっています。気まぐれに拾い読みしても良いですし, 各項目が短く読みやすいため学部生の学習にも向いているかもしれません。
(2013年04月08日)

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伊藤元己 植物分類学 (東京大学出版会, 東京, 2013).

2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月25日発行)

2009 年発行の松浦 (2009)(「動物分類学」)の対となる一冊で, 植物分類学の基礎から始まり,近年注目されている DNA バーコードなどの情報学的側面にまで踏み込んでいます。 分類学は生物学の分野の中でも最も歴史がある一方,現在でも最新の技術を取り入れて発展を続けている分野でもあります。 そのため分類学の教科書もまた常に最新のものが求められていますが,ここ数年は体系的な植物分類学の教科書が少なく (戸部 および 田村 編, 2012「新しい植物分類学 I」は最新の研究紹介が中心なので, 本書とはまた方向性が異なります。ちなみに II も既刊になっています),学生に薦める教科書を探していました。 そんな中で本書はまさに必要とされる時期に出版されたのではないでしょうか。

冒頭第 1 章では「分類学とはなにか」という題の下で,その概念,歴史,思想をまとめています。 第 2 章は植物分類学における最大の関心の一つである「種と種分化」を扱っています。 種の概念についてはぜひ多くの学生に学んで欲しいところです。第 3 章では「系統進化」を扱っています。 具体的には系統解析の手法やその原理にも踏み込んでいて,この章も需要が高そうです。 第 4〜6 章は実践的な内容になっていて,第 4 章では「被子植物の系統と分類体系」が最新の APG III 体系に沿って紹介されています。第 5 章「系統地理学」では地史的な側面から高等植物の進化の理解を目指す 系統地理学が紹介されています。ちなみに日本では,特に系統地理学的な研究が盛んな印象があります。 第 6 章では「分類学と情報学」として,分類学的知見を情報としてどのように取り扱うのか, そしてそれをいかに分類学者以外にも活用できるようにするのか,そのような最新の試みが紹介されています。 分類学は非常に裾野の広い学問であるため,その全貌をつかむのは難しく, 本書は 初学者からベテランまで参考になるかと思います。
(2013年04月05日)

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佐藤克文 および 森阪匡道 サボり上手な動物たち: 海の中から新発見! (岩波書店, 東京, 2013).

1,575 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月06日発行)

タイトルからはちょっと内容が想像しづらいですが,海洋動物を中心とした動物行動学の研究を紹介した一冊です。 動物の行動観察は普通に想像されるほど容易ではなく,殊に海生動物の詳細な行動調査は通常の目視による観察では不可能です。 そこで小型のカメラや加速度計などを動物に取り付け,そのデータから動物の詳細な行動を復元する手法が考案されました。 このような手法はバイオロギングと呼ばれ,著者らはその研究者として様々な海生動物(一部陸生動物)の行動に迫っています。 本書では,海鳥,イルカ,ペンギン,アザラシ,チーター,ウミガメ,と知名度の高い動物を対象に, 著者らによる最新の研究の実態が生き生きと描かれています。研究の手法の紹介を軸にしながら, その結果見つかった予想外の行動や生き様も楽しんで読めました。 動物そのものに興味のある読者はもちろん,フィールド研究の研究者を目指す学生向けの一冊です。
(2013年04月03日)

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2013年03月

Reece, J. B. ほか キャンベル生物学, 原書 9 版 (丸善出版, 東京, 2013).

15,750 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年01月31日発行)

主に大学生向けの生物学の教科書です。このような趣旨の書籍は少なくありませんが, 本書の特徴は 1,500 ページを超える膨大な内容がフルカラーで印刷されている点にあります。 高校生を対象とした国際生物学オリンピックの標準教科書としても採用されていることからもわかる通り, 生物学を一から学ぶことを想定していると同時に生物学の基礎知識が一通り詰め込まれている贅沢な教科書と言えるでしょう。 なお,第 9 版の原書は 2011 年に出版されたもので,最新の知見が活かされていると考えていいでしょう。

本書では全 56 章が 8 部構成にまとめられています(第 1 部:生命の化学,第 2 部:細胞,第 3 部:遺伝学, 第 4 部:進化のメカニズム,第 5 部:生物多様性の進化的歴史,第 6 部:植物の形態と機能,第 7 部:動物の形態と機能, 第 8 部:生態学)。各章ごとに重要概念,概念のチェック,重要概念のまとめ,理解度テストなど, 読者の習熟度が確認できる仕組みが用意されています。 また豊富な図によって難解な概念をわかりやすく伝える工夫がなされています。 ざっと眺めたところでは,日本の高校の教科書をわかりやすく丁寧に(そして検定教科書の制限を外して) ふくらませた教科書といった印象を受けます。従って分子生物学の細かい知見などは掲載されておらず, より踏み込むためには Alberts et al. (2007)(「細胞の分子生物学」) のような教科書に挑戦する必要があります。

本書の分量だけを見ると,返って生物が嫌いにならないか心配になりますが, 懇切丁寧に書かれている方がわかりやすさには期待できます。 本書を活用するためには,内容を暗記しようとするのではなく, 生物学という学問を結びつけているストーリーを辿りながら読むのが良いでしょう。
(2013年03月25日)

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McNeil, J. et al. eds. International Code of Nomenclature for Algae, Fungi, and Plants (Melbourne Code) Adopted by the Eighteenth International Botanical Congress Melbourne, Australia, July 2011 (Koeltz Scientific Books, Königstein, 2012).

€ 59, Koeltz Scientific Books (2012年12月発行)

植物の学名を規定してきた国際植物命名規約は 6 年ごとに改訂されるのが通例になっており, 2011 年の国際植物学会議(メルボルン)にて最新の改訂が行われました。 この改正版は通称「メルボルン規約」と呼ばれ,規約の正式名称も "International Code of Botanical Nomenclature" から変更されました。前回のウィーン規約(McNeil et al., 2006日本植物分類学会 国際植物命名規約邦訳委員会 訳・編, 2007)から重大な変更がなされ, また条文の構成も大幅に変更されたため,関連する分類学者は確認が必要です。

細かい(といっても重要な)変更は無数にありますが,特に重要な変更は 3 点あります。 まず,これまで化石以外の分類群の学名は,記載文または判別文がラテン語で書かれていなければ正式に発表できませんでしたが, ラテン語に加えて英語の記載/判別文も許されるようになりました。次に,論文の電子発表に関しても新たに規定が加えられました。 そして菌類の学名の発表に際しては,学名を MycoBank のようなデータベースに登録し,その識別子(ID) を引用することが義務づけられました。条文の配置も大幅に整理されたため,慣れれば読みやすくなるのでしょうが, 旧版に慣れた人にとっては当面は扱いにくいかもしれません(一応,旧版と新版の条文の対応表がついている)。 また保存名などを含んだ付則の大部分も本書から除かれ,別途出版される予定とのことです。

規約の本文はウェブ上でも公開されているため(International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants) 必ずしも冊子体を購入しなければならないわけではありませんが,個人的には冊子体の方が便利に思われます。 また現在,日本植物分類学会による邦訳も鋭意進められており,2013 年の終わりごろには出版される予定です。
(2013年03月22日)

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橋本謙 中米の知られざる風土病「シャーガス病」: 貧困の村を襲う昆虫サシガメの駆除に挑んだ国際プロジェクト (ダイヤモンド社, 東京, 2013).

1,575 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月21日発行)

本書は生物学の書籍ではありません。中米におけるシャーガス病対策に参加した著者による, 媒介昆虫サシガメ(吸血性のカメムシ)の駆除プロジェクトの記録です。 シャーガス病は Trypanosoma cruzi(ユーグレナ動物門,キネトプラステア綱)と呼ばれる原虫の原因の病気で, 感染の初期症状は比較的軽微なものの,一部では慢性化して心肥大など命にかかわる症状を引き起こします。 そこで JICA(国際協力機構)を初めとする国際チームによって, グアテマラ,ホンジュラス,エルサルバドルにおけるサシガメ駆除のプロジェクトが進められました。 本書ではプロジェクトに関わった日本人の体験談を中心に,サシガメ駆除と啓蒙活動の実態を伝えています。

中米諸国の貧困層の家屋は非常に簡素なもので,しばしばその土壁の中や藁葺き屋根にサシガメが住み着いているそうです。 JICA はまず,グアテマラ保健省,汎米州保健機関(PAHO)と連携してグアテマラにおけるサシガメ駆除に取り組みました。 中米で Trypanosoma の感染源となっているサシガメには,在来種の Triatoma dimidiata と南米原産の外来種の Rhodnius prolixus の 2 種が主に知られています。皮肉にも R. prolixus は元々シャーガス病の研究や診断のために,1912-1914 年ごろ持ち込まれたそうです。 そして在来種が主に野外に生息して人家に入り込むのに対して,外来種は中米においては野外での競合に負けたのか, 主に人家に生息するようになったようです。駆除プロジェクトではこれを踏まえて,外来種については根絶を目指す一方, 野外に生息するために根絶が困難な在来種については人家周辺からの駆逐を目標としています。

サシガメの駆除には,殺虫剤散布による直接的な防除の他,家屋の衛生状態や家屋そのものの改善, そして何よりも住民の意識改革が必要となり, そのために著者らは政治的な取り組みや教育・啓蒙活動を含めた多方面の支援を展開しました。 グアテマラにおける駆除が一定の成果を上げると,駆除プロジェクトはホンジュラス,エルサルバドルにも拡大し, また並行して,駆除の実行や改善した状況の維持が現地主導で行えるように技術や知見の移転を進めていきます。 そして現在までにエルサルバドルでは外来種の消滅が,グアテマラ,ホンジュラス, ニカラグアでは外来種による感染の中断が実現したそうです。 このことは熱帯病の駆逐が,非常に困難である一方で決して不可能ごとではないということを示しているように思われます。

本書では,いわゆるノンフィクション作品のように劇的な展開や人間模様に焦点が当てられているわけではありません。 しかし抑制された描写により,関係者の等身大の姿が返って現実的に伝わってきます。 学問に携わる人間として,その成果の実践に関わる人たちの話は新鮮に感じられました。
(2013年03月21日)

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丸山宗利, 小松貴, 工藤誠也, 島田拓 および 木野村恭一 アリの巣の生きもの図鑑 (東海大学出版会, 秦野, 2013).

4,725 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月20日発行)

丸山宗利 フィールドの生物学 8: アリの巣をめぐる冒険: 未踏の調査地は足下に (東海大学出版会, 秦野, 2012).

2,100 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年09月20日発行)

丸山 ほか (2013) は,アリでもアリの巣でもなく,アリと密接に関連した生態をもつ小型の動物(好蟻性動物)の生態図鑑です)。 そもそもなぜそこまで限定した条件の生物に注目したのか,題名をみて首をかしげたくなります。 「はしがき」によると欧米では古くから好蟻性動物の生態のおもしろさに注目が集まっていたそうです。 しかし国内では最近まで(察するに著者らが研究をはじめるまで),研究が未発達だったとのことで, 本書によって国内の研究を立ち上げていこうという意図が感じられます。 本書では未記載種・未同定種も含めて 150 種以上の好蟻性動物(昆虫,クモ,ヤスデ,線虫)と 好白蟻性動物約 20 種,宿主のアリ 36 種,シロアリ 4 種が写真つきで紹介されていて, 新たに好蟻性動物に興味を持った研究者にとって,貴重な基礎資料として活躍しそうです。

丸山 ほか (2013) では好蟻性昆虫に焦点が当てられているため,アリそのものについてはほとんどページが割かれていません。 しかし好蟻性昆虫の多様性を見せつけられることによって,アリという昆虫の一グループが, いかに多様な生物の生態に関わっているのかが伝わってきます。 今後,本書をきっかけに好蟻性動物の研究者が増えていけば, アリと好蟻性動物の多様な生態の詳細も明らかになってくるものと期待がふくらみます。 なお,好蟻性昆虫をめぐる研究現場については丸山 (2012) に体験談が記されていて, 読み物としてはこちらの方も楽しめると思います。
(2013年03月18日)

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巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 および 塚谷裕一 岩波 生物学辞典, 第 5 版 (岩波書店, 東京, 2013).

12,600 円(2013 年 5 月 31 日まで。以降 13,650 円), Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月26日発行)

比較的専門的な生物学の文献を読むときには,登場する専門用語の意味だけでなく用語の示す生物や現象の詳細を調べられる, 用語集や辞典といった資料が必要になってきます。 本書は長らく生物学全般を対象とした辞典の定番として知られていた生物学辞典の最新改訂版です (なお東京化学同人の「生物学辞典」とは別物[石川 編 (2010)])。 1996 年の改訂以来 17 年ぶりの改訂であり,1000 語以上を追加しての登場となっています。

岩波のウェブサイトによれば総項目数は 11,200 項目で,また索引から調べることのできる用語が約 4 万語とのことです。各項目の解説は丁寧で周辺知識も得られるため,大変勉強になります。 ウイルスおよび生物の分類表が付録としてつけられており,多くの分類群が科のレベルまで詳細に整理されています (各科には代表的な属も羅列されている)。実は「きまぐれ生物学」の分類表も参照して頂いたとのことで, 生物分類表の冒頭に筆者の名前も出ています(旧版の分類表は重宝していたため,とても光栄です)。

さて,手元の石川 編 (2010) と比べてみますと,まず第一に本書は若干イラストが少ない印象を受けます (構造式は多い)。項目数は石川 編 (2010) の方が 20,000 語と多いのですが,石川 編 (2010) には和文索引がなく, 欧文索引が 30,000 語,略号索引が 1,000 語とのことです(帯を参照)。 書籍の厚さとしては石川 編 (2010) の方が一見厚いのですが,本書の方がページ数としては約 1.3 倍あります。 ただし本書の方が和文索引と欧文索引,分類表に多くのページが割かれていますので, 内容の多寡は単純には比べられません。ちなみに紙は本書の方が明らかに薄く,ページもめくりやすい印象です (三浦しをんの小説「舟を編む」に出てくる「ぬめり感」というと,わかる人にはわかるでしょうか)。 付録としては,石川 編 (2010) には生物分類表の他に地質年代表や生物学者の歴史年表, ノーベル賞などの受賞者一覧がつけられているのに対して,生物分類表のみというのが寂しいところです。 一方で,石川 編 (2010) の生物分類表は大部分が目までしか示されていませんが, 本書では網羅的でないとは言え属まで示しているのが特徴です(欧文索引で属名を引いて分類表を辿れるのは重要)。 研究者としてはどちらの辞書も手元に置いておきたいところですが,2 冊も買えない, という方は書店で比較検討してみて下さい。
(2013年03月14日)

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新海明 および 谷川明男 クモの巣図鑑: 巣を見れば,クモの種類がわかる! (偕成社, 東京, 2013).

1,890 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年03月発行)

クモの巣は,時にクモ本体よりも目立つ構造です。 この図鑑では各種のクモが作るクモの巣が非常に明瞭な写真で紹介されています (クモの巣の撮影は簡単ではないと思うのですが・・・)。 クモの巣に対しては放射状の縦糸と同心円状の横糸からなる円網のイメージが強いと思いますが, 本書をを見ると,クモの巣と言っても非常に多様でそれぞれ個性的な構造を持っていて (円網にも様々な種類がある),巣の形態からある程度クモの種類が推定できることがわかります。

出版社が絵本など「子どもの本」を主に扱っているため, 全ての漢字にフリガナが振られているなど子ども向きの本に見えますが,内容は大人でも楽しめるはずです。 特によかったのは,それぞれのクモの巣のよく見つかる場所が写真付きで示されていたところです。 橋の欄干の間に見つかる巣,植え込みの葉の間に見つかる巣,などを作るクモが推測できるので (もちろん本体の確認も必要ですが),いつも何気なく見ているクモ(の巣)の正体もわかるかもしれません。 掲載種が 40 種程度と少なめなのが残念ですが(身近なクモの巣としては十分?), 身近な自然観察のお供として大人にも薦められる図鑑で,一読すればクモの季節が楽しみになるはずです。
(2013年03月13日)

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盛口満 生き物の描き方: 自然観察の技法 (東京大学出版会, 東京, 2012).

2,310 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年12月05日発行)

分類学や生態学など,自然を直接相手にする研究分野において,生物のスケッチは必要不可欠な技術です。 しかし学術的なスケッチの技術を解説した書籍は非常に少ないのが実態です。 本書は文章こそアマチュア向けに見えますが,かなり本格的にスケッチの技術を解説していて, いざ観察図を描こうとして戸惑っている学生などには非常に有用な書籍かと思います。 写真を使った場合,繊細な構造が以外と写らなかったり,全体にピントがあわなかったりと, 意外な問題が生じることが多いため,スケッチが併用できると観察記録の質があがるはずです。 また本書を読んだだけでは真意がわかりにくい場合には, 本書の図を模写して要点をつかむのも良いと思います。
(2013年03月12日)

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中坊徹次 編 日本産魚類検索: 全種の同定, 第 3 版 (東海大学出版会, 秦野, 2013).

36,750 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月26日発行)

知る人ぞ知る,魚類の種同定のための定番の最新版です(と言いつつ,筆者も初めて購入しました)。 日本産の魚類研究においては網羅的な検索表への意識が高く, 検索のための書籍が本邦魚類学の黎明期よりいくつも出版されてきたそうです。 本書の初版は 1993 年に出版され,2000 年の第 2 版を経てその役割を継承してきました。 第 2 版以降,新種や新記録種 317 種が増え,第 3 版では 359 科 4180 種 4210 種類(亜種なども含む) 収録されているとのことです。また第 2 版と比べて地理的分布情報を抜本的に更新し,より詳細にしたそうです。

本書第 3 版は 3 分冊になっています。分冊 I には「魚類概説 第三版」と「科の検索」,「種の検索」の一部(スズキ目の一部, カレイ目,フグ目以外)が,分冊 II には「種の検索」のスズキ目の残り,カレイ目,フグ目が,分冊 III には 「分類学的付記と文献」,「総合文献」,「東アジアにおける魚類の生物地理学」,索引がそれぞれ収録されています。 「魚類概説」には,分類の仕組みから学名,タイプ,分類体系(科より上の系統群の評価を含む),同定のための分類形質の詳細, そして標本の採集や保存・管理など,魚類分類学の基礎がまとめられています。

検索に際しては,まず「科の検索」で科を特定し,「種の検索」の該当する科のページで種を特定する 2 段階の構成になっています。 専門的な図鑑などで検索表を使う場合,まずは使われている識別形質の専門用語を学ぶことから始める必要があるため, 検索表を使いこなすまでに相当な苦労を強いられるのが一般的です。 しかし本書の検索表には識別形質が図示されていて,初学者にもわかりやすい構成になっています。 各種の全形図も掲載されていますが,かなり簡略化されているため図鑑として眺めて楽しむには向かないでしょう。 とは言え各種の特徴は押さえられているはずなので,独特の味わいはあります。 なお,科の検索を見たところ,解剖学的な特徴も用いられているため写真のみでの同定は難しく, やはり実物が手元に必要と思われます。科の同定にはステップ数を要する場合もあり, 途中で間違えると明後日の結論に向かってしまう点には注意が必要です。

分冊 III の「分類学的付記と文献」には各分類群の分類の経緯や学名についての情報がまとめられています。 検索表と付記のいずれにも最低限の形態学的情報しか与えられていないため, 詳細な特徴を追うためには別途資料が必要になります。 もっとも,本書を購入しようとする方はすでに旧版をよく知っている人ばかりの気がします。 そうすると,この紹介も釈迦に説法でしたね。
(2013年03月11日)

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坂田明 私説 ミジンコ大全: 人間とミジンコがつながる世界認識 (晶文社, 東京, 2013).

2,625 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年01月20日発行)

分類学を中心とする自然史的な研究は,しばしば多くのアマチュア愛好家によって支えられています。 魚類や鳥類のような目立った生き物の愛好家は少なからず知られていますが, ミジンコの愛好家となると,中々貴重な存在ではないでしょうか。 本書の著者はジャズサックス奏者として知られる一方,個人的にミジンコの観察を続け, ミジンコ関連の書籍を上梓してきたことから在野の研究者としても評価されています。

本書には著者によるミジンコ観察の体験談,様々なミジンコの写真(きれい!), そして本職のミジンコ研究者 3 名との対談が掲載されてます。 著者の文体は独特で,仕事としてではなく純粋な興味からミジンコ観察を続ける楽しさが伝わってきます。 科学者の立場からは中々出てこないようなものの見方が示されているところもあり, 違和感を感じる箇所もありますが,それも含めて研究者にはよい刺激になると思います。 ともあれ,微生物の観察は楽しい! ということを改めて思い出させてくれる一冊です。 なお,本書には「海」と題された音楽 CD も付属しています。
(2013年03月09日)

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倉橋みどり および 小柳津広志 編著 応用微細藻類学: 食料からエネルギーまで (成山堂書店, 東京, 2013).

3,150 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2013年02月18日発行)

近年,微細藻類の資源化を目指した研究が活発に行われるようになっており, 本書の題名である「応用微細藻類学」は,まさにそんな微細藻類学の方向性を表現したものと言えます。 以前に紹介した渡邉 編 (2010) がオイル産生藻類に特化した解説書で, 渡邉 監修 (2012) が藻類学全般を網羅した高価な専門書であったのに対して, 本書は藻類の応用研究全般を扱った手頃な価格の解説書となっています。

第 1 章は微細藻類学の概論で,応用研究の歴史なども紹介されています。 第 2 章では微細藻類の有用性について,生物学的視点から政策的視点まで広げて解説されています。 そして第 3 章から第 4 章で応用研究の実態を取り扱っており,機能性食品,飼料,燃料,医薬品, レアメタル回収といった分野での研究と,実用化に向けた取り組みがまとめられています。 各所で微細藻類を用いた応用化の取り組みが報道されている中,新たに微細藻類に関心を持つ学生も増えてきています。 そんな学生が自分の研究課題を選ぶための参考書として,また手頃な教科書としてお薦めです。 (本書には筆者も執筆者の一人として参加しています)
(2013年03月08日)

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2012年12月

秋山実 マイクロスコープ: 浜野コレクションに見る顕微鏡の歩み (オーム社, 東京, 2012).

4,725 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年11月01日発行)

顕微鏡写真集です。なお,顕微鏡を使って撮影した写真ではなく,顕微鏡の写真を集めた他に類を見ない資料です。 東京大学の赤門前に,浜野顕微鏡という知る人ぞ知る顕微鏡専門店があります。 本書では浜野顕微鏡の前社長および現社長が収集してきた顕微鏡のうち,比較的古いもの(主に 1940 年以前) がカラー写真で紹介されています。

顕微鏡は 1600 年前後に発明されたと言われており,1670 年頃のレーヴェンフック顕微鏡のレプリカの写真も掲載されています。 しかし本書の中心は 19 世紀から 20 世紀前半にかけての顕微鏡の写真となっていて, まさに微生物学の発展期の顕微鏡を紹介しているとも言えるでしょう。 ところどころに簡単な記事も掲載されていて,「カールツァイス顕微鏡」の歴史などを読むと, 光学顕微鏡が現在の形になるまでの重要な過程がよくわかります(本書はツァイス社製顕微鏡の写真も多数掲載されている)。 また途中にロバート・フックによる Micrographia の一部(有名なノミの図解など)や, 蘭学者の森島中良が紹介した顕微鏡観察図などを紹介する章もあり,よいアクセントとなっています。

本書は,日頃顕微鏡を使って研究している方々にとっては,扱っている道具の由来を振り返る良いきっかけになると思います。 また,かつての微生物学者達がどのような顕微鏡を用いて観察記録を残してきたのか,想像しながら眺めるのも良いかもしれません。
(2012年12月13日)

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更科功 化石の分子生物学: 生命進化の謎を解く (講談社, 東京, 2012).

798 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年07月20日発行)

古生物学というと字面のせいか古典的な学問のような印象を受けますが, 他の分野と同様に最新の技術を取り入れて進歩を続けています。 そして分子生物学を道具として取り入れたのが本書で紹介されている分子古生物学です。

遺伝子解析技術の発展によって,現在では化石に含まれる DNA から遺伝子を解析することが不可能ではなくなってきました。 しかしそれはあくまで化石に DNA が残されている場合の話で, その場合でも古生物の遺伝子配列の決定は外部からの DNA の汚染との戦いになります。 本書ではルイ十七世やミイラの DNA 鑑定に始まり,恐竜の DNA およびタンパク質をめぐる論争, ネアンデルタール人のゲノム解析など,分子古生物学の失敗と成功の歴史が紹介されています。 また,分子進化に基づく分岐年代推定など系統学的な側面からの研究についても触れられていて, 現在の古生物学者が分子生物学をどのように活用しているのかがわかります。

古代 DNA やタンパク質の研究については発表が後に否定されることも多く,まだ混乱の多い研究分野かと思います。 本書では後に否定された研究についてもその経緯が示されているため,現状の理解に役立ちます。 失敗例も含めて結論が得られていない話題も多く消化不良気味な部分もありますが, それこそがこの分野の現状を表しているのかもしれません。
(2012年12月07日)

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三中信宏 および 杉山久二彦 系統樹曼荼羅: チェイン・ツリー・ネットワーク (NTT 出版, 東京, 2012).

2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年11月16日発行)

古今東西の様々な「系統樹」を解説と共に紹介した本です。 「系統樹」と称していますが,様々な事柄の関係性を樹状の図で表現したものを広く対象にしていて, 中には系統関係とは無縁な関係性を表現しているものも含まれています。 生物の系統樹も多く紹介されていますが,古典的な宗教画や家系図,企業の系譜など, およそ理学とは関係ないものも多数含まれていて,文化史的な内容が中心になっているようです。

第 1 部では「生物樹」としてヘッケルの美麗な系統樹に始まる様々な系統樹の表現方法を紹介しています。 なお具体的な生物の系統関係に言及しているわけではなく,あくまでも系統関係の描画方法に主眼が置かれています。 第 2 部では系統樹の起源として家系図に注目し,「家系樹」として紹介しています。 もちろん無味乾燥な系譜としてではなく, 多くの系図が樹になぞらえて描かれてきたことが宗教画などの具体例によって示されています。 第 3 部では「万物樹」として,さらに幅広い対象を樹状図で表現した具体例が紹介されています。 中には単に樹の先端に対象を果実のように並べただけの図など, 必ずしも「系統」を意識しているとは考えにくい図も含まれていますが, なぜ進化学者が系統樹という形で生物の進化を描画しているのか,その文化的背景が窺えます。

本書は系統樹に関しての理論的な参考書ではないので,理学的な興味からは少し外れるかもしれません。 しかし本書に掲載されている様々な「系統樹」を流し見ると, 人間が様々な物事を樹状図として系統的に捉えてきたことが伝わってきます。 日頃的に系統樹とつきあっている進化研究者にとっても, 「系統樹」の歴史を振り返る資料として面白いかと思います。
(2012年12月03日)

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2012年11月

今井一郎 シャットネラ赤潮の生物学 (生物研究社, 東京, 2012).

2,520 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年07月10日発行)

赤潮はしばしば水産業に深刻な損害を与える生物現象としてよく知られています。 その原因は微細藻類の大量発生ですが,特に渦鞭毛藻類による赤潮が一般にはよく知られている印象があります。 しかし被害の深刻性に注目すると,年にもよりますがラフィド藻類シャットネラ(Chattonella) による被害が群を抜いて大きいそうです(例えば 2010 年にはブリ,カンパチなど 280 万尾の斃死で 53 億円の被害)。 本書では一冊まるまる使って,シャットネラの生活史や生理生態をめぐる研究成果が紹介されています。

全編にわたって専門的な研究成果の丁寧な解説がある中で, 各章の末尾に著者の研究体験などを紹介したコラムが掲載されていて,こちらはシャットネラの研究者に限らず, 微細藻類の研究者一般の参考になると思います。 本書は赤潮の防除などに携わる水産関係者や研究者にとっては必読の書であると共に, 微細藻類の生態学的研究の一例としても参考になるかと思います。
(2012年11月21日)

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Omura, T., Iwataki, M., Borja, V. M., Takayama, H. & Fukuyo, Y. Marine Phytoplankton of the Western Pacific (Kouseisha Kouseikaku, Tokyo, 2012).

3,150 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年10月発行)

西太平洋の海産植物プランクトンの図鑑です。著者の多くが日本人で,日本の出版社から発行されていますが, 本体は全て英語で執筆されています。ほとんどの藻類はフルカラーの光学顕微鏡写真 (一部は走査型電子顕微鏡写真)で紹介されていて,大変見応えがあります。

第 1 章では有害藻類として,麻痺性貝毒(PSP),下痢性貝毒(DSP),記憶喪失性貝毒(ASP), シガテラ(CFP)などの魚類食中毒の原因藻類と,赤潮の原因藻類がそれぞれ詳細に紹介されています。 各有害藻類の種ごとに,数枚の写真(一般種の写真よりも大きく掲載されている)と形態学的な記載情報, そして文献情報が 1 ページずつ示されています。残りの第 2〜4 章では,渦鞭毛藻,珪藻, その他の藻類の写真がそれぞれ示されています。有害藻類に比べると写真のサイズは小さくなっていますが, いずれも特徴をよく捉えた,種同定の助けになる写真が選ばれています。 ページ数としては渦鞭毛藻類が圧倒的に多く(82 ページ),珪藻類が少々(14 ページ)で, その他の藻類(ラフィド藻類,ディクチオカ藻類,ユーグレナ藻類,緑色藻類,ハプト藻類,クリプト藻類や, 共生藻をもった繊毛虫,エブリア類,シアノバクテリア)は合わせてもわずか 7 ページでした。

写真は非常に美しいのですが,記載文が有害藻類にしか掲載されていないため, 本書だけで種同定を行うには問題があります。また非常に残念なことに, それぞれの種について採集(撮影)記録や参考文献が示されていないため, 各写真の学術的な価値についても問題があります。価格を考えればやむを得ないのかもしれませんが, 多少高額になっても記載と撮影記録を伴った完全版を出して欲しいところです。
(2012年11月14日)

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佐々木猛智 および 伊藤泰弘 編 東大古生物学: 化石からみる生命史 (東海大学出版会, 秦野, 2012).

4,725 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年10月05日発行)

東京大学総合研究博物館で開催される特別展「東大古生物学 130 年の奇跡」のための図録とのことです。 本書は 2 部構成になっていて,前半では博物館所蔵の化石の写真がひたすら羅列されています。 通常の標本写真とは異なり,標本の見栄えを意識した写真になっています。 写真の数は非常に多いものの,各写真の解説には標本番号,学名,分類,産地,時代,文献,サイズ, などの情報しか示されておらず,化石の見方を知らない人には面白みがないかもしれません。 後半は「解説」になっていますが,個別の化石の解説ではなく,古生物学や, 東京大学における古生物学研究の歴史の解説が記されています。 特に,古生物学全般の解説に加えて東大の古生物学関係者による各専門分野の解説が掲載されていて, 簡単な総説集のようになっているので読み応えがありそうです。
(2012年11月09日)

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2012年10月

Lawrence, E. 編 ヘンダーソン生物学用語辞典 (オーム社, 東京, 2012).

15,750 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年09月発行)

2011 年に出版された "Henderson's Dictionary of Biology, 15th Ed." の邦訳です。 本書には分野を問わず最新の生命科学関連の用語が 22,000 語以上収録されています。 見出し語は全て英語で配列されているため,生物用語の英和辞典としても活用できます。

生物学の辞典,用語辞典はいくつも出版されていますが,用語の英語訳が充実している辞書は限られています。 しかし原語で論文を読むことを考えると日本語の専門用語で辞書を引く意味はほとんどありません。 本書は元々が英文で執筆された辞書で,しかも見出し語が英文で配置されていることから実用性が高いと思われます。 収録語が多いために各項目の解説は簡潔なので,意味を深く調べるためには他の資料も併用する必要がありますが, 比較的コンパクトなペーパーバックで持ち運びには向いているでしょう(とは言え重さは約 1 kg)。 付録には生物の分類体系の概要(ただしあまり詳細ではない),地質年代区分(ただし年代データは 2009 年時点のもの), そして生物学用語でよく用いられる接頭辞や接尾辞(ラテン語やギリシア語)の一覧が付いています。 もちろん日本語からも用語が引けるように,日本語の索引もついています。

ちなみに本書の原著は 5000 円程度で販売されています。また本書は原著第 15 版に基づいて翻訳されていますが, 前回の翻訳書(1996 年発行)は第 10 版(1989 年発行)に基づいたもので,新版の発行まで相当な間が空いています。 この販売価格や刊行ペースを見ると,日本の生命科学が世界について行けるのか不安になります。 出版社の立場は需要の関係で価格やコストが制限されるのはやむを得ないのでしょうが, 需要が少ない状況がそもそも問題とも言えます。学生にも手に取りやすい価格で, 最新版の邦訳が常に手に入る状況ができないものか考えさせられます。
(2012年10月31日)

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平嶋義宏 学名論: 学名の研究とその作り方 (東海大学出版会, 秦野, 2012).

3,360 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年09月発行)

平嶋義宏 生物学名辞典 (東京大学出版会, 東京, 2007).

47,250 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2007年07月発行)

生物の学名をめぐる解説では,命名規約にまつわる論点か, 学名の語源や文法にまつわる語源学の論点のいずれかが主に語られています。 今回紹介する平嶋 (2012) では,主に動物の学名の語源学に焦点が当てられました。

動物の学名は,伝統的にラテン語やラテン語化したギリシア語に由来して名付けられてきました。 現在では他の言語に由来した学名を名付けることもできますが, ラテン語やギリシア語由来の学名が主流であることには変わりがなく, またそのような場合にはラテン語などの文法に従った命名が要求されています(特に種形容語の性など)。 そこで学名の由来を理解するためや命名するためには,ラテン語やギリシア語の語彙を知る必要があります。 平嶋 (2012) では様々な学名を実例として示しながら,学名のための語彙や作り方の実例を紹介しています。 特に第 1 章では,既存の単語から多様な語彙を作出できるように,様々な接頭辞,接尾辞,縮小辞が紹介されています。 また第 9 章では「増やしたい古典語の語彙」として,アイウエオ順の日本語から古典語が引けるようになっています (100 ページに渡っている)。

ただ,第 1 章と第 9 章を除いては実例の紹介が中心になっているため, 読み物として面白いかどうかは若干微妙です。生物群ごとに学名が羅列されているため, 単語の辞書のように使うにも不便で,使い道がよくわかりません(索引の学名から学名の意味を調べる使い道はある)。 辞書としては以前に紹介した一連のラテン語辞典(豊国, 2009,小野, 2009,水谷, 2009, Stearn, 1993)などもありますし,同じ著者による平嶋 (2007) では学名の意味ごとに整理された大量の学名が紹介されていて,学名を名付けるための手引きとして大変有用です (値段さえ気にしなければ)。

なお,生物の学名は,国際動物命名規約,国際藻類・菌類・植物命名規約(旧・国際植物命名規約), 国際原核生物命名規約(旧・国際細菌命名規約)によってそれぞれ独立に管理されています。 また各生物群ごとに好んで使われる語彙にも違いがあり, 場合によっては同じ単語が植物と動物で異なる意味合いを持つこともあります(例えば "stigma" は, 「植物学ラテン語辞典」では「柱頭」として紹介され,「動物学ラテン語辞典」では「烙印」という原意に加えて, 「汚名」,「柱頭」,「気孔・気門・翅脈の縁紋」,「眼点」,「紅斑・出血斑」の意味が示されている)。 そのため学名をつける際には,関心のある生物群ごとの慣習に注意を払う必要があります。 平嶋 (2007) では全生物に渡る語彙が紹介されていますが,平嶋 (2012) では動物の学名のみが示されています。 「学名論」と銘打つのであれば動物以外の学名にも等しく言及して欲しかった所です。
(2012年10月29日)

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嶋田正和 および 数研出版編集部 編 もういちど読む数研の高校生物 第 1 巻 (数研出版, 東京, 2012).

1,890 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年09月発行)

教科書は学校の授業で用いる教材ですが,同時にそれ自体が読み物として成立する啓蒙書でもあります。 特に高等学校の教科書は普通教育の最終課程で用いる教科書であるため,高校卒業後に各分野の復習をするために, あるいは履修しなかった人にとっては独学するために最適な教材のはずです。 しかし残念ながら検定教科書は一般の書店では販売されていないため,卒業後に最新の教科書を入手するのは困難です。 そこで山川出版と数研出版がコラボレーションして,それぞれ文系(社会科)と理系(理科,数学)の教科書を再編集した 「もういちど読む」シリーズを刊行しています。本書はその中の生物教科書の 1 巻目です。

高校の学習指導要領は平成 25 年度(数学及び理科は平成 24 年度)の入学生から新しいものが適用されます。 生物の場合,旧課程では「生物 I」と「生物 II」に分けられていましたが,新課程では「生物基礎」と「生物」になりました。 乱暴に説明すれば,文理共通の内容として「生物基礎」を学び,理系ではそこから発展して「生物」も学ぶことになります (もちろん選択次第では生物系科目を履修しない可能性もある)。 「生物基礎」は今年度から開始していて,履修した学生の一部が来年度から「生物」を学び始めることになります。

本書は,この新課程の教科書を一般向けに再編成したものです。 例えば「生物基礎」と「生物」では同じ分野の基礎的な話題と発展的な話題がそれぞれ扱われていることから, 本書では分野ごとにまとめ直されています。また「問題」などは割愛されているようです。 第 1 巻には「第 1 編:細胞と遺伝子」,「第 2 編:生殖と発生」,「第 3 編:生物の進化と系統」までが含まれており, 残りは 12 月発売予定の第 2 巻に収録される予定です(「生体とエネルギー」,「生物の環境応答」,「生態と環境」)。 教科書の改訂直後ということで,最新の生物学の知見に準拠していて,例えば iPS 細胞などにも触れられています (といっても教科書の性質上,論争中の話題は避けられているはず)。 高校の教科書といえども最新の教科書には比較的高度な内容も含まれているため, 高校で生物を履修してこなかった学生にとっては十分に役立つと思われます。 (本書には筆者も執筆者の一人として参加しています)
(2012年10月27日)

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渡邉信 監修 藻類ハンドブック (エヌ・ティー・エス, 東京, 2012).

39,900 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年07月発行)

藻類は複雑な進化史を経て誕生した進化・分類学上の重要な研究対象として, あるいは地球環境の維持に不可欠な生態学上の研究対象として,あるいは食用や生理活性物質・ バイオ燃料などの原料として,今や多彩な研究者の興味を集めています。 その結果,現在の藻類学は高度に学際的な分野となっていてその全貌をとらえることは難しくなっています。 本書では 100 人以上の日本人藻類学者がそれぞれの専門分野を分担執筆することによって, 現在日本で行われている藻類学研究を余すところなく紹介しようとしています。

本書は大きく「第 1 編: 藻類の基礎」(307 ページ)と「第 2 編: 藻類の応用」(460 ページ)に分けられています。 ページ数からは,人間生活に有用な生物としての関心が高まっていることが窺えます。 さて第 1 編では,まず藻類の多様性を綱〜門に相当する群ごとに詳しく解説し,続けて藻類の生態学, そして物質合成などの代謝研究についても解説されています。これらの解説は当然ながら応用研究にも関連があります。 第 2 編では,培養・保存方法など技術的な解説に簡単に触れた後,「環境」,「エネルギー」,「食料」, 「医薬関連物質」,「工業材料」の見出しで各分野ごとの研究や応用の状況が解説されています。

現在入手可能な藻類学の教科書は限られており,特に特定の分野に偏らない解説書は皆無といっていいでしょう。 本書では極めて多数の専門家の分担執筆によって,これまでになく幅広い分野の,いずれも丁寧な解説を実現しています。 原則としてイラストはフルカラーで掲載されているため,大変見栄えもよくなっています (簡単な模式図をカラーに刷る意味がどこまであるのかは疑問ですが)。 非常に高額なのが難点ですが,関連分野の動向を調べたり,研究テーマを模索する際には非常に重宝することでしょう。 藻類学を扱っている研究室には少なくとも一冊は置いておきたい書籍です。 (本書には筆者も執筆者の一人として参加しています)
(2012年10月24日)

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Gradstein, F. M., Ogg, J. G., Schmitz, M. D. & Ogg, G. M. (eds.) The Geologic Time Scale 2012 (Elsevier, Oxford, 2012).

9,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年08月発行)

地質年代表の最新版が出版されました。 地質年代表とは,年代や地質学的な出来事を基準にして年代順に地層を整理した表のことです。 各地の地層には限られた時代の地層しか保存されておらず,年代を決定するための証拠もそろっているとは限りません。 そこで各地層を地球の歴史の中に正確に位置づけるためには, 世界中の地層を正確に対応付けて一繋がりの年代表にまとめる作業が必要になります。 本書はその集大成と言える地質年代表の最新版です。

地質年代表は過去にも様々にまとめられてきましたが,近年標準的に使われてきたのは 2004 年に出版された Geologic Time Scale 2004(通称 GTS2004)でした。そして 8 年ぶりに全面改定されたのが今回の 2012 年版 (GTS2012)です。GTS2004 からは全面的に書き直されていますが,特に重要な変更としては, GTS2004 で取扱が曖昧だった第四紀が正式になったこと,未定義だった地質区分の境界の多くが新たに定義されたこと, 測定法の改善によって境界年代が大きく見直されたこと,そして地球外天体(月,火星など) の地質年代区分が含まれたこと,が挙げられます。

本書は 2 分冊になっていて(2 巻セットで販売),1 巻には概論的な内容や方法論,地球外天体の地質区分, 先カンブリア時代が含まれています。2 巻にはカンブリア紀以降の顕生累代の詳細と,補足資料が含まれています。 地質学の専門家でないかぎり地質年代区分の詳細にはあまり関心がないかもしれませんが, 古生物学を含めた地球の歴史を俯瞰的に理解するためには地質年代表というツールは欠くことができません。 最近になって GTS2004 から GTS2012 への更新があったことは頭の片隅においておくといいでしょう。 ちなみに当サイトの「地質年代表」は GTS2012 に合わせて更新しましたので,ご活用下さい。
(2012年10月22日)

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川嶋昭二 日本産寒海性コンブ類の形態と分類 (生物研究社, 東京, 2012).

21,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年07月発行)

コンブは大型の海藻として興味を引きやすく,水産上も重要な生物です。 本書では,日本の東北地方太平洋岸から北海道にかけて分布するコンブ科藻類の形態が詳細に記述されています。 吉田忠生 新日本海藻誌: 日本産海藻類総覧 (内田老鶴圃, 東京, 1998) ではコンブ科藻類として 10 属 27 種が認められていますが,本書にはこのうち 7 割以上にあたる 6 属 20 種が採録されていて, 日本産コンブ科藻類の概説にもなっています(なお,本書の元となった連載終了後に発表された日本産海藻目録 (吉田 および 吉永 藻類 58, 69-122, 2010)によると,本書のコンブ科はスジメ科(アナメ属とスジメ属), カジメ科(カジメ属,アントクメ属,アラメ属),コンブ科(その他の属)に分割され, コンブ属(Laminaria)もゴヘイコンブのみを含んだゴヘイコンブ属(Laminaria)とコンブ属 (Saccharina;トロロコンブ属も含められた)に分割されています)。

本書は,1985 年に北海道立網走水産試験場を定年退職した著者が, 「海洋と生物」誌に 1986 年から 2007 年までの 21 年間にわたって連載した「日本産コンブ類の分類と分布」 をまとめ直したものです。内容は 1-113 ページまでが総説,115-537 までが各論となっています。 総説ではコンブ目の分類の歴史と,コンブの形態学が非常に詳細に解説されています。 例えば付着器(仮根,根)の解説だけで 10 ページ近くが費やされています。 各論では対象のコンブ科の各種の解説が単純計算で 1 種辺り 20 ページ程度与えられています。 各種の解説は,詳細な形態学的な記載,それも地域や生態ごとの変異にまで踏み込んだ記述に加えて, その種の抱えている分類学的な背景や問題がタイプ標本など原資料にも言及しながら展開されています。

本書の膨大な記述を見ていると,コンブ類に対する著者の愛情を超えた思い入れが伝わってくるようです。 残念ながら連載時期との関係か,分子系統への言及が見当たらず,本書にまとめられている分類学的な問題が, 分子系統を踏まえるとどのように解決されるのか,あるいはされないのかが気になるところではあります。 しかし形態学的な議論だけでも非常に奥が深く,研究に限界がないことを教えてくれる渾身の一冊です。
(2012年10月17日)

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神谷充伸 監修 ネイチャーウォッチングガイドブック: 海藻 (誠文堂新光社, 東京, 2012).

3,150 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年06月発行)

田中次郎 および 中村康夫 日本の海藻: 基本 284 (平凡社, 東京, 2004).

2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2004年10月発行)

神谷 (2012) はコンパクトな海藻の図鑑です。388 種の海藻と 9 種の海草(海生の被子植物) がフルカラーの写真で紹介されています。写真としては,海中や海岸における生息状況を示した生態写真と, 生態写真ではわかりにくい細部を示したおしば標本写真が掲載されています。 標本写真には要所要所に同定のポイントも示されています。海藻の見かけは野外とおしば標本で相当異なる印象を受けるため, 生態写真と標本写真の両方が掲載されているのは大変実用的です。 巻末に掲載されている海藻のおしば標本の作り方もわかりやすく,おすすめです。

また現在入手が容易な類書として田中および中村 (2004) があります。 こちらには「基本」として厳選された海藻 284 種が掲載されていて,必要に応じて生態写真と標本写真を使い分けています。 解説の内容も,神谷 (2012) が種同定に関わる形態的特徴の記述が中心なのに対して, 田中および中村 (2004) では語源や用途など周辺的な情報が記述されています。 田中および中村 (2004) は,掲載種数の違いもあってか神谷 (2012) よりは一回りほど小型の書籍なので, より野外調査向きかもしれません。興味や用途に応じて選ぶか,両方持ち歩いてもいいと思います。
(2012年10月09日)

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2012年07月

アンダーセン, P. および 野島博 ポール・アンダーセンの生命科学英語入門 (講談社, 東京, 2012).

3,045 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年07月発行)

留学経験でもないかぎり,多くの学生や研究者にとって英会話は苦労の種です(少なくとも筆者は)。 基本的な読み書きは参考書など書籍を中心に学習することができますが, 実践的な英会話,特に聴き取りを自習するためには音声を伴った教材が必要になります。 海外のニュース番組や洋画で聴き取りを学習する方法もありますが,学問的な内容とはずれがありますし, 手加減なしの英語は敷居が高いのも事実です。本書ではその辺りの問題点を独自の方法で解決しています。

本書の付属 DVD には,全米最優秀教師 2011 の最終候補の一人(4 人中),Paul Andersen 氏による実習授業の導入で使用される動画解説が収録されています(各 5〜6 分程度。付録のみ 12 分)。 動画自体は YouTube でも一部公開されていますが("AP Biology Lab" で YouTube を検索すれば見つかる), 本書ではその全文が書き起こされていて,聴き取りの敷居を下げられています(巻末には全文和訳もあり)。 必要な箇所には簡単な解説もつけられているため,話者が特定の表現を用いた背景も理解できるようになっています (時には言い間違いもそのまま収録・解説されている)。また,本書の話題は基本的な細胞学から代謝,遺伝学, 生理学など多岐に及んでいるため,様々な語彙や表現に接することができます。

本書の序文では,DVD 収録の動画を iPod などに入れて繰り返し学習することを提案しています。 残念ながら筆者が愛用している IC レコーダーでは動画の再生ができませんが,検索してみると, 収録されている動画ファイル(mpg 形式)を MP3 形式や WMA 形式などに変換する無料ソフトが見つかったため, 無事に音声データだけ持ち運べるようになりました。学習方法は人それぞれかと思いますが, 英語の聴き取りが苦手な方は本書を用いた学習も検討してみてはいかがでしょうか。
(2012年07月27日)

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虫明敬一 編 うなぎ: 謎の生物 (築地書館, 東京, 2012).

2,520 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年07月発行)

昨今,生息数の減少や価格の高騰,そしてワシントン条約の対象候補として何かと話題のウナギですが, 実はその安定供給に向けて多くの研究者が奮闘しています。 現在,ウナギは天然物か,天然のシラスウナギ(半透明のウナギの稚魚)から養殖されたものが食されています。 シラスウナギの漁獲量は天然の資源量に影響されるため,その減少が価格の高騰などの問題につながるわけです。 ではなぜ人工的に孵化させた卵からの養殖(完全養殖)を行わないのかと言うと,それが不可能だったからです。 本書では研究者自身によって,謎に包まれたニホンウナギの生態の解明と, その完全養殖への道筋をつけるまでが語られています。

第 1 章では本書の背景となる,日本におけるウナギ食文化と養殖の歴史が紹介されています。 そして第 2 章から第 4 章では近年大きく実を結びつつあるウナギ研究の成果とそこに至る過程が紹介されています。 第 2 章では長年の謎であったニホンウナギの産卵場所の解明が, 第 3 章ではウナギを人工的に成熟させて卵を産ませる研究が, そして第 4 章では卵から孵化させた仔魚を育てて生活史を一周させる完全養殖の成功が紹介されています。 いずれの研究成果も大変な進歩で,Nature など一流誌への論文掲載やマスコミ報道もされました。 マスコミ報道では断片的な成果だけが伝えられてきましたが,本書でまとめて読んでみると, 各研究がどのように連携して大きな成果につながってきたのかがよくわかります。

多くの研究者は,直接的であれ間接的であれ自分の研究が社会に貢献することを目指していると思います。 しかし研究の成果が実用化されるまでには長い年月がかかるのが常識で,実用化を視野に入れるだけでも大変なことです。 ウナギの研究においても,完全な養殖ウナギが商用化されるためにはまだ一段の効率化(養殖法の改良)が必要だそうです。 それでも数十年をかけて完全養殖の成功にこぎ着けた経緯は,実学を目指した研究の見本となると思います。
(2012年07月25日)

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尾園暁, 川島逸郎 および 二橋亮 日本のトンボ (文一総合出版, 東京, 2012).

5,775 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年07月発行)

井上清 および 谷幸三 フィールド版:トンボのすべて (トンボ出版, 大阪, 2010).

1,575 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年10月発行)

尾園ほか (2012) は,日本産全種のトンボをフルカラー写真で紹介した図鑑です。 本書によると現在トンボ目の昆虫は国内に 203 種知られているそうで,その全てを掲載しています(偶産種も含む)。 各種について成虫と幼虫の全身写真に加えて生態写真も掲載されており,大変見応えがあります。 しかも基本的には生きた個体の写真を用いた(一部標本写真)とのことなので驚きです。 また分類体系には最新の分子系統解析の結果が大きく反映されており,本文中でも近縁種間や種内(亜種間) の類縁関係の議論に使われています。

尾園ほか (2012) はあくまでもトンボ各種の写真と解説であるため読みどころは少なめですが, 巻末には分類,形態,生態の解説が簡単についていて,ところどころに挿入されているコラムも興味深く読めます。 また分布域や体長のデータ,系統樹(表裏の見返し部分に掲載)など,重要な基礎情報も充実しています。 初心者向けと言うには非常に硬派な内容になっていますが,写真の数,見栄えについては圧巻で, これから本格的にトンボの種同定を始めようと思う方には手頃な書籍かと思います。

なお,尾園ほか (2012) では重点が置かれていないトンボの生態や観察・研究方法などについては, 井上 および 谷 (2010) が参考になります。こちらはより初心者向けの書籍で,元々 B5 版の書籍の縮小(A5 版)廉価版です。 この他にもトンボ関連の書籍は色々と出ているようなので,興味の中心や財布の中身などにあわせて選ぶと良さそうです。
(2012年07月24日)

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伊藤元己 新・生命科学シリーズ:植物の系統と進化 (裳華房, 東京, 2012).

2,520 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年05月発行)

2 年前に発行された「動物の系統分類と進化」(藤田敏彦, 2010)に続く, 植物(基本的には陸上植物)の系統進化を扱った解説書です。 特に,陸上植物,維管束植物,種子植物や被子植物の起源に注目し, 各群を特徴付ける形質とその進化について,古生物学,形態学,分子生物学などの観点から, 進化植物学における注目点を概説しています。 また被子植物内部における進化や,コケ,シダ,裸子植物と言った各群の解説も一通り与えられています。 先行する類書に同じ裳華房のバイオディバーシティ・シリーズ 2 巻 (加藤雅啓 編 バイオディバーシティ・シリーズ 2:植物の多様性と系統 (裳華房, 東京, 1997).) があり,加藤ら (1997) の方がより内容が詳細です。しかし加藤ら (1997) の発行からは 15 年が経過しており,最新の植物学を反映しているわけではありません。 伊藤 (2012) では最新の情報が要点を押さえてまとめられているため, 加藤ら (1997) の読者にとっても情報の更新に役立つと思います。
(2012年07月23日)

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Goodfellow, M. et al. Eds. Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn, Vol. 5, The Actinobacteria (Springer, New York, 2012).

約 27,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年05月発行)

全原核生物の記載をまとめるという壮大なシリーズ,"Bergey's Manuals of Systematic Bacteriology" 第 2 版の最終巻が遂に出版されました。第 2 版の刊行は,古細菌や基盤的および光合成性真正細菌を扱った 2001 年出版の第 1 巻 (Boone, D. R. & Castenholz, R. W. Eds. Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn, Vol. 1, The Archaea and the Deeply Branching and Phototrophic Bacteria (Springer, New York, 2001).)から始まり, プロテオバクテリアを扱った 2005 年出版の第 2 巻(Brenner, D. J., Krieg, N. R. & Staley, J. T. Eds. Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn, Vol. 2, The Proteobacteria (Springer, New York, 2005).), グラム陽性細菌を扱った 2009 年出版の第 3 巻(De Vos et al., 2009), そして残りの真正細菌のうち放線菌を除いた諸グループを扱った 2011 年出版の第 4 巻 (Krieg et al., 2011)までが出版されてきました。 そして今年,放線菌を扱った第 5 巻が最後に出版されました。

放線菌門は,2012 年 6 月現在でおよそ 300 属が記載されている非常に多様性の高い門で,抗生物質産生菌や病原菌など, 重要性の高い細菌も多数含まれています。そのため本書も Part A,Part B の二分冊となっています (現在,バラ売りはしていない模様)。本書の注目点としては,既刊の例に漏れず分類体系の大幅な改訂が行われたことです (一応,正式な学名の登録は手続き待ち)。従来の放線菌の分類(といっても Bergey's Manual 第 2 版, 第 2 巻の体系を土台にしている)では,放線菌門の中に放線菌綱 1 綱のみを認め,これを 5 亜綱に分けていましたが, 本書では各亜綱を綱の階級に格上げしました(ただしルブロバクター亜綱は「ルブロバクター綱」と「テルモレオフィルム綱」に分割)。 また 10 以上の亜目に分類されていたアクチノミセス目がビフィドバクテリウム目と併せて再編成され, 再定義された放線菌綱として 15 目に再整理されましたので,関連分野の研究者の方々は,是非とも押さえておきましょう (分類表は Bergey's Manual Trust からも入手できる)。

2001 年の刊行開始から 10 年以上が経過したため,分類体系の一部は見直しが必要ですし, 出版後に記載された新分類群も少なからずあります(第 5 巻には 2008 年 1 月までに出版された種が掲載されている)。 今のところ補遺や第 3 版の予定はないようですが,International Journals of Systematic and Evolutionary Microbiology 誌や同誌に掲載されている正式発表リスト(Validation List)などを確認することで, ほとんどの分類学的変更を追いかけることができます。 これにより,専門家以外にとっても記載情報の収集が容易になったわけで,分類学の理想の一つが実現したと評したいところです。 今後は,安定して情報が更新され,将来の第 3 版の刊行まで速やかに勧められることを期待します。
(2012年07月09日)

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2012年06月

矢野興一 観察する目が変わる植物学入門: 意外と知らない草木のつくり (ベレ出版, 東京, 2012).

1,785 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年05月発行)

草花,樹木などに関心を持っても,初めは観察のポイントが中々わからないものです。 また図鑑を開いても,当たり前のように見慣れぬ用語が使われていることもしばしばあります。 「低木」とはどういう樹木か,葉が「互生」するとはどういうことか,花や果実の構造の説明はどう読んだらいいのか, など初心者には馴染みのない用語のために躓くこともあるかもしれません。 一部の図鑑では用語の説明にページを割いていますが,やはり不十分なことが多く, 用語の説明がない図鑑も少なくありません。 そこで本書では被子植物を観察する際の注目点を,用語と共にわかりやすく整理・解説しています。

本書では,主に植物の器官ごとに構造を解説しています(第 1〜7 章)。 特に被子植物では花の多様化が進んでいるため,花を扱った章では特徴的な花を持ったグループごとに, 実例を元にした丁寧な解説が与えられています。 第 8 章(「植物の戦略」)では種子散布と捕食者からの防御にも言及し, 形態の特徴から発展した植物の生態への興味も喚起しています。 最後の第 9 章では植物の分類や命名法についても簡単に触れられており,図鑑を読み解く際に不可欠な, 分類学の基礎知識も学べるようになっています。 本書の内容は既に植物図鑑を読みこなせる人や,研究者には当たり前のものですが, 索引を活用すれば用語集の役割も果てしていて, これから植物観察を始めようとする中学・高校生や分野違いの人には最適な教科書になるでしょう。
(2012年06月26日)

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松田一希 フィールドの生物学 7: テングザル: 河と生きるサル (東海大学出版会, 秦野, 2012).

2,100 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年02月発行)

「右利きのヘビ仮説」に続いて,「フィールドの生物学」からもう一冊紹介します。 本書では,ボルネオ島(インドネシア領,マレーシア領)に生息するテングザル (名前の通り独特の長い鼻を持ったサル)の生態を追った,著者の博士課程の研究が紹介されています。

本書の著者は大学院進学のタイミングで生物学を志し,修士課程を通じてアマゾンでのクモザル研究に取り組みます。 その後,博士課程進学に際して所属を移動し,今度はボルネオ島マレーシア領にてテングザルの研究に没頭します。 「右利きのヘビ仮説」の著者が,自らの仮説の検証のための材料を求めてフィールド調査を行ったのに対して, 本書の著者はテングザルそのものに関心を持ち,1 年以上にわたってテングザルの群れの行動調査を行いました。 その成果として本書の第 2 章ではテングザルの生態が,あくまでも科学的な表現で, しかしそれでいて非常に生き生きと記述されています。

テングザルの生態の紹介書としても楽しめますが,同時に海外におけるフィールド研究の体験記にもなっていて, 海外研究における苦労や醍醐味,フィールド研究の現場の実態が伝わってきます。 本書に示されている研究成果は膨大で,どれだけ熱心に観察を続けたのか想像を超えています。 しかも修士課程から霊長類研究に携わった著者がその後の数年間でテングザル研究の第一人者になった経緯を読むと, 研究への熱意が研究者にとってどれほど大きな力になるのかがよくわかります。 研究の方向性では「右利きのヘビ仮説」の著者とは好対照をなしていますが, 若い学生には是非とも併せて読んで欲しい書籍です。
(2012年06月22日)

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細将貴 フィールドの生物学 6: 右利きのヘビ仮説: 追うヘビ,逃げるカタツムリの右と左の共進化 (東海大学出版会, 秦野, 2012).

2,100 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年02月発行)

「フィールドの生物学」は,フィールド系の若手研究者が自分たちの研究の実態を紹介するシリーズで, 本巻ではカタツムリの巻き方と,カタツムリ食のヘビの「右利き/左利き」の進化の可能性を探った研究が紹介されています。

形態や行動の左右性の進化,特に餌と捕食者の間の共進化は進化研究上の大きな関心の一つです。 本書の著者は,通常は右巻きのカタツムリの中から左巻きのカタツムリが進化してきたことに注目し, 右巻きのカタツムリ食に特化した「右利きの」捕食者がいたからではないか,と思い立ちます。 そしてカタツムリ食のヘビとして知られるセダカヘビの仲間を対象に, 大学院生活を通して仮説の検証に努めました。

著者の仮説は当初は完全な「妄想」でした。しかしこの「妄想」の裏付けを取るために, 標本の比較を行い,稀産種にもかかわらず沖縄にて捕獲に向けた野外調査を進め, 果ては餌となるカタツムリの検討や収集まで行います。 そして最終的には仮説の一部が裏付けられ,学会・論文発表にまで至ります。 さらに本書では博士号取得後の研究生活についても僅かながら触れられており, 学生から研究者になるまでの実例としても多くの学生の参考になると思います。

仮説が先行する研究の場合,仮説が間違っていた場合に苦労が無駄になる恐れがありますが, 著者は運良く(?)正解を引き当てたようで(ただし仮説の検証は終わっていない), 本書は一種のサクセスストーリーにもなっています。 仮説が先行する研究のやり方は,思い込みによってデータに偏りがでる恐れなどもあり, 批判的な見方もあると思いますが,一方で,「見つかるはずだ」 という信念がなければ見つけられないような新知見があるのも事実です。 本書で紹介されている研究の進め方は,これから研究を始める学生にとっても一つの参考になるでしょう (あくまでも一つの方法として,ですが)。もちろん,本書から伝わってくる研究姿勢, 自分の興味のためには一切の努力を惜しまない姿勢については,あらゆる研究において見本となるはずです。
(2012年06月19日)

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2012年05月

杉浦千里 および 朝倉彰 杉浦千里博物画図鑑: 美しきエビとカニの世界 (成山堂書店, 東京, 2012).

3,465 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年05月発行)

イラストレーターとして活躍し,2001年に 39 歳の若さで亡くなった杉浦千里による甲殻類の博物画を集めた画集です。 エビ類・ヤドカリ類・カニ類・カブトガニ類から 56 種のイラストが掲載されており, 巻末には掲載種の学術的な解説もつけられています。また博物画の制作段階の写真を示した制作過程の解説もあり, 博物画作成の過程と苦労もわかるようになっています。

博物学や分類学においては自然の精緻さや多様性を正確に記録することが求められ, そのために博物画と呼ばれる独特の絵画分野が形成されていました。 写真が発明されてからも細部の描写や構造を反映した博物画の需要がなくなったわけではなく, 実際に本書を一目見れば,その精緻さと美しさに感銘を受けること請け合いです。 生物の形態に心惹かれるのは,多くの研究者にとって博物学や自然史学的な研究への最も根源的な動機の一つと思われますが, 本書は改めてそのことを思い起こさせてくれます。エビ・カニが好きな人に限らず,生き物が好きな全ての人にお勧めです。
(2012年05月31日)

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戸部博 および 田村実 編 新しい植物分類学 I (講談社, 東京, 2012).

2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年03月発行)

本書は,第一線で活躍する日本の植物学者たちが最新の植物分類学を紹介した,現・日本植物分類学会の発足 10 周年記念出版物です。 全 2 巻が予定されており,I 巻では様々な被子植物が紹介されています(夏頃に出版予定の II 巻では被子植物の他に, 裸子植物,シダ植物,コケ植物も紹介される予定)。本書では各章ごとに被子植物の科や属が見出しになっていますが, 実際には担当した研究者の研究紹介になっています。 そのため総論的な「被子植物」と「単子葉植物」の章を除けばあまり体系的な解説書とは言えませんが, 各専門家の研究の関心がよくわかる構成になっています。 なお付録として最新の被子植物分類体系(APG III)が紹介されています。

古典的な植物分類学は,形態観察に基づいて植物の多様性を明らかにする記載分類学を中心としていました。 一方で本書では記載分類学的な研究は一部に限られていて,分子系統学的研究や種の進化研究,発生学的研究,生態学的な研究など, 様々な観点から各植物群の分類に切り込んでいます。まさに表題通り「新しい」植物分類学の形を示していると言えるでしょう。 本書はいずれの章もそれぞれに興味深く,また互いに切り口が大きく異なっているため,飽きずに楽しめると思います。 同時に植物の多様性や進化に興味がある学生にとっては現在関心を集めている研究や考え方がよくわかるため, 今後の進路を考える良い参考になると思います。
(2012年05月25日)

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森村久美子 使える理系英語の教科書: ライティングからプレゼン,ディスカッションまで (東京大学出版会, 東京, 2012).

2,310 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年04月発行)

Langham, C. S. 国際学会 English: 挨拶・口演・発表・質問・座長進行 (医歯薬出版, 東京, 2007).

2,625 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2007年04月発行)

廣岡慶彦 理科系のための入門英語プレゼンテーション: CD 付改訂版 (朝倉書店, 東京, 2011).

2,730 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2011年03月発行)

生物学の研究者にとって英語コミュニケーションは避けて通れない道です。 しかし論文執筆や学会発表の英語には高校英語では習わないような規則や学問分野固有の習慣などがあり, 独学で身につけるのは困難です。そんなときに役に立ちそうな科学英語の指南書を 3 冊紹介したいと思います。

一冊目の森村 (2012) は,著者自身による東京大学での講義(「科学技術英語」)を基にした教科書です。 本書はライティング,プレゼン,ディスカッション,の 3 章と付録(特に付録 1「品詞ごとの注意」が充実している) から構成されていて,論文や発表の基本的な構成の仕方から関連する実践的な英語表現までが解説されています。

ライティングとプレゼンの章は初心者向けで,学部生や初めて英語での論文執筆・学会発表を行う大学院生の参考になると思います。 しかし著者が工学系の出身のためか,理系といっても生物学の慣習とは異なる部分が見受けられ,注意が必要です (論文の構成が「序論」,「本論」,「結論」からなるとされていますが, 生物系の論文では,「序論」,「対象と手法」,「結果」,「議論」と整理するのが一般的かと思います)。 また英語よりも発表のイロハの議論が中心になっているため,ある程度経験を積んだ研究者にはあまり参考にならないかもしれません。 ディスカッションの章は前 2 章に比べるとより実践的で,例えば異議や同意を発言するときの表現が, 強い言い方から弱い言い方まで様々な段階で各 5 通り程度紹介されています。 全てを覚える必要はないでしょうが,自分に合った言い回しを覚えておけば役に立ちそうです。 また,付録 1「品詞ごとの注意」もなかなか習う機会のない実践的な英語文法が解説されているのでおすすめです。

Langham (2007) はさらに実践的な文例集で,国際学会の場での英会話表現が場面ごとに多数収録されています。 (口頭・ポスター)発表中の英語はもとより,質疑応答,座長進行,さらにセレモニーの司会の英語表現まで網羅されていて, 原稿を準備する際にはかなり参考になると思います。しかし文章がほとんど英語で書かれていて, 英語に苦手意識のある読者には敷居が高い印象を受けます。 特に目次が英語で書かれているため,日本人には目的の項目を素早く探すのが難しく,学会の現場では使いづらいでしょう。 とはいえ各文例には簡単な日本語対訳と解説があるため,文例集として大変充実していることは確かです。 ある程度英語発表に慣れた人にとっては,よりこなれた表現を習得するための参考になるでしょう。

廣岡 (2011) もやはり英語でのプレゼンテーションや学会参加・研究所訪問などのための入門書です。 プレゼンテーションの一般論から始まり,プレゼンテーションの構成に沿って関連する英語表現が紹介されています。 そのほか,質疑応答の対応方法,学会申し込みや研究所訪問などに関する手紙・メール・電話のやりとり,研究所訪問の英会話, と続きます。本書の特徴の一つとして,例文に「中級者バージョン」と「初心者バージョン」が並記されていることが挙げられます。 初心者にとっては一部分だけ「よくできた」英語を話すのは抵抗があるもので, 初心者向けの表現が別に示されているのはありがたいと思います。また例文の発音を付録の CD で確認できるのも便利です。

ここでは筆者が所持している 3 冊を紹介しましたが,類書は色々と出ていますので, 興味のある方は自分に合ったものを 1,2 冊探してみてはいかがでしょうか。
(2012年05月16日)

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持丸依子, 中川成生 および 小宮輝之 編 動物たちの 130 年: 上野動物園のあゆみ (東京動物園協会, 東京, 2012).

1,890 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年03月発行)

上野動物園の開園 130 周年を記念した記録集です。上野動物園は 1882 年 3 月 20 日に,博物館附属動物園として開園しました。 日本最初の水族館「うをのぞき」も開園半年後に動物園内で公開されたそうです。 当初は国立動物園として運営されましたが,1924 年に東京市に下賜され市立動物園となり, 1943 年に東京市から東京都への移行に伴って都立動物園となります(正式名称「東京都恩賜上野動物園」)。 本書では開園から現在に至るまでの上野動物園の歴史が,写真資料を中心に紹介されています。

本書の写真には随所に見学者も映り込んでいて,いつの時代も来園者が動物を見るのを楽しんでいた様子がわかります。 写真に添えられた逸話を見ると,開園当初は外国産の動物も少なめで,また飼育技術の未熟さから動物が短命だったことが窺えます。 時代を経るにつれて人気動物も変遷しますが,キリンやゾウ,ライオンといった定番人気動物は今も昔も変わらないようです。 ちなみにパンダの初来園 1972 年で,新参者と言えます(キリンは 1907 年,ゾウは 1888 年,ライオンは 1902 年。 最初の国外産野生動物は 1883 年来園のカンガルーとのこと)。 巻末の年表には入園料の変遷も示されており,平日 1 銭から現在の 600 円へと値上がりしてきた様子もわかります。 近年は動物の保護や繁殖も動物園の大きな役割となっていますが, 本書からは,生きた実物で生物の多様性を体感できるのが動物園の最大の役割であることが伝わってきます。
(2012年05月08日)

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日本進化学会 編 進化学事典 (共立出版, 東京, 2012).

18,900 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年04月発行)

進化学のあらゆる分野の解説を集めた大著です。日本進化学会の創立十周年(2009年)記念の出版物ということで, 日本の進化研究者総出の執筆体制となっています(297 項目,171 著者)。序文によると,本書は「進化史」, 「進化のしくみ」,「進化学とそのひろがり」の三部構成になっています。

「進化史」の部(第 1〜15 章)では生物の歴史と多様性を扱っており,生命の起源,ウイルス・原核生物から始まり, 人類の進化史までを辿り,地球史,日本列島の生物で締めています。 生物の多様性を扱う場合,分類群ごと個別の解説になることが多いようですが, 本書では各分類群や重要な形質の進化史にも独立の項目を割いていて, 研究者がそれぞれの生き物にどのような関心を持っているのかもわかります。

「進化のしくみ」の部(第 16〜24 章)は,進化の背景にある,遺伝子やタンパク質などの挙動の解説から始まります。 そして分子進化から集団遺伝学などの理論研究へと解説が進み,最終的に行動や形態の進化,種分化, 環境や他の生物との相互作用と言ったマクロな進化現象まで話題が展開します。 第一部が古典的な分類学などの延長線上にある進化研究を扱っているとするならば, 第二部は進化という現象それ自体に注目した,まさに進化学の骨子をなす研究分野を扱っています。

「進化学とそのひろがり」の部(第 25〜28 章)では進化学という学問分野をより広い視点から見直しています。 まず,進化学が他分野にどのように影響を与え,どのような役割を果たしているかをまとめています。 次いでに進化学で用いられる研究手法を幾つか個別に解説し,本書の最後を締めくくる形で進化学の歴史をまとめています。 残念ながら進化学の歴史にはあまりページが割かれていませんが,本書の付録として「進化研究に大きな貢献をした研究者」 と「進化学史年表」が付いているので,併せて読むと面白いかもしれません (ところで生物分類表が付録に付いていないのは意外でした)。

進化学は学際的な分野であるため,特定の研究分野の研究途上でも他の進化学分野の研究知識がしばしば必要になります。 本書はそんなときの手がかりとして一線の研究者にも役に立つと思われます。 またこれから進化学の研究者を目指す学生には,広い視点を持って研究に取り組むために通読することをおすすめします (もっとも値段と分量が重いので,同じ構成を短く手頃にまとめた要説が出版されるとありがたいですね)。 (本書には筆者も執筆者の一人として参加しています)
(2012年05月02日)

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2012年04月

白尾元理 および 清川昌一 地球全史: 写真が語る 46 億年の奇跡 (岩波書店, 東京, 2012).

4,620 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年01月発行)

地球の歴史を題材とした書籍の多くは,地質学者によって考察・復元された地球の歴史を語るものでした。 しかし本書は,地質学的な記録,すなわち地層や地形,一部化石など, それ自体によって地球の歴史を語らせるという意欲的な写真集です。 写真パートでは 91 枚のカラー写真と簡単なコメントによって地球の誕生から現在までの地球の変化を辿ります。 そして解説パートでは白黒ながら写真や図解をふんだんに使って地球史の丁寧な解説がされています。 解説の中でも地球史上の重要な出来事に対しては, カラーで掲載されている直接証拠の写真やイメージ写真が参照されているため,よりわかりやすくなっています。

世界中の,一部はアクセスするのも困難な場所で撮影された写真には,雄大なクレーターの空撮写真, 鮮明な地層の不整合の写真,地球表層の大きな変化を示す断層の写真などが含まれ, 風景写真としてみても美しいものに仕上がっています。 また様々な地域・時代の地質記録が紹介されているため, 時代や環境によって全く異なる様相の地層が形成されることもよくわかります。 しかも被写体は地質学の教科書などで有名な場所ばかりで,地質学の知識がある人には一層楽しめるものと思います。 今まで地質学に興味がなかった人にとっても,なぜこの学問が研究者を魅了してきたのか, その一端が窺えるおすすめの本です。
(2012年04月28日)

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オッグ, J. G., オッグ, G. M. および グラッドシュタイン, F. M. 要説 地質年代 (京都大学学術出版会, 京都, 2012).

3,570 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2012年03月発行)

最新版の地質年代表とその概説である Ogg et al. (2008) の日本語訳(鈴木寿志 訳)です。 内容については原書の記事を参照して頂くとして,訳書の特徴を簡潔に紹介したいと思います。

本書の翻訳では,丁寧に検討された各地質年代の日本語表記が特筆に値します。 「古生代」や「カンブリア紀」の様に,以前から範囲や日本語表記が定着している名称もありますが,, 近年続々と追加された年代の多くは日本語(カタカナ)表記が定まっていません。 また新生代の "Paleogene" と "Neogene" には,これまで「古第三紀」と「新第三紀」という訳語が当てられていましたが, 原語では「第三紀」の意味は含んでおらず,さらに近年「第三紀」が公式の地質年代ではなくなったため, 訳語の見直しが議論されています。 日本地質学会による地質系統・年代の日本語記述ガイドラインでは, 例えば白亜紀末の "Maastrichtian" は「マーストリヒチアン」と単純にカタカナ化されており, 「古第三紀」・「新第三紀」の呼称も維持されています。一方で本書の訳者は単純なカタカナ表記や「〜第三紀」表記を批判し, 名称の由来にちなんだ「マーストリヒト期」,「旧成紀」(Paleogene)・「新成紀」(Neogene)との名称を用いています (ちなみに訳書末尾には各地質年代の名称の由来も示されています)。

学術用語の訳語や日本語表記には様々な問題がつきまとうものです。本書で採用された日本語表記についても, 「旧/新成紀」の使用や,中国語由来の名称を漢字表記する用法("Guzhangian" を「古丈期」と表記し,「グージャン(期)」 とルビを振る)には賛否両論あるでしょうが,大筋では合理的に見えます。 日本語表記の統一・定着という観点では日本地質学会のガイドラインに反した表記を用いることに問題もありますが, 今後,本書が初学者向けの教科書として広く用いられれば,こちらの日本語表記が定着していく可能性も十分にあるでしょう。

余談ですが,Ogg et al. (2008) の紹介記事で 2010 年出版予定と書いた改訂版の地質年代表は, 現時点ではまだ出版されていません。検索してみると,"The Geologic Time Scale 2012"(Gradstein, F. M. ら編集)として 7 月頃に出版予定となっていますので,興味のある方は予約しておくとお得かもしれません。
(2012年04月26日)

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2011年03月

岩国市立ミクロ生物館 監修 日本の海産プランクトン図鑑 (共立出版, 東京, 2011).

2,520 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2011年01月発行)

顕微鏡写真をふんだんに使った海産プランクトンの一般向け図鑑です。 水圏の微生物は非常に多様で,形態から色調まで様々な生物が見られますが, 観察された微生物の名前を調べることは専門家にとっても容易ではありません。 また現在入手できる資料の多くが線画を元にした専門書であることも微生物観察の門戸を狭めていたと考えられます。 淡水プランクトンについては最近になって写真をふんだんに使った図鑑が出版されましたが (淡水微生物図鑑:原生生物ビジュアルガイドブック), 海産プランクトンについては同様の図鑑は知られていませんでした。

本書では原核生物の藍藻類から大型のクラゲまで海産の主要なプランクトンが扱われています (プランクトンとは流れに逆らって泳ぐ能力を持たない浮遊生物のことで,クラゲなども含まれます)。 各プランクトンは分類群ごとにまとめられており,種ごとに簡単な解説もついています (ちなみに写真も非常に綺麗で,よく特徴を捉えています)。また大まかな比較のための写真一覧や, 種類を同定するための検索表もついており,実用的な図鑑を目指していることが伺えます。 さらに付属の DVD に代表的な種の音声付き解説や,採集法の解説などの動画が納められています。 ただし本書で扱われているのは海産プランクトンのごく一部でしかありません。 海産プランクトンの多様性は非常に高いためやむを得ないことではありますが, 緑藻類やクリプト藻類など進化的に重要な分類群が全く紹介されていないのは残念です。

さて,本書のもう一つの特徴は,全ての種に和名が充てられていることです。 微生物にはごく一部の種類でしか和名がなく,これが専門家以外の愛好家の参入障壁になっていました。 本書では多くの種に新称が付けられ,今後,一般のプランクトン愛好家を増やす契機になるかもしれません。
(2011年03月02日)

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2011年02月

河合信和 ヒトの進化七〇〇万年史 (筑摩書房, 東京, 2010).

903 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年12月発行)

約 700 万年前とされる最古の人類化石から現代人(Homo sapiens)の起源まで, 古人類学の現状をまとめた解説です。 2000 年頃に最古級の人類化石である Sahelanthropus tchadensisOrrorin tugenensisArdipithecus kadabba が立て続けに報告され, さらに 2004 年には現代人と同時代に生存していた謎の小型人類 Homo floresiensis(フロレス原人) が報告されました。これらの発見については既に解説書が幾つか出ていますが, 発見直後の解説書ではどうしても発見者の仮説・見解に対して肯定的な論調が目立ちます。 それから 5 年以上がたった現在,当座の批判的検証が出そろい次の研究課題が見えてきた頃合いかと思います。 その意味で本書は,まさに必要な時期に出版された節目の解説書と呼べるかもしれません。

本書では最古級の人類化石から順に,新しい人類化石に向かって解説が進行します。 発見にまつわる逸話や多少踏み込んだ専門的な研究の経緯なども非常に読みやすくまとめられています。 近年は前述の発見以降もセディバ猿人,デニソワ人など様々な人類化石の発見が続き, それぞれの発見の意義を理解するのは素人には困難な状況でしたが, 本書では多数の新知見を既存の研究の流れの中で見事に紐解いて紹介しています。 大変しっかりした内容が書かれているため,人類学を真面目に学び始める取っ掛かりとして, あるいは他分野の研究者の参考書としてもお薦めです。
(2011年02月18日)

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渡邉信 編 新しいエネルギー: 藻類バイオマス (みみずく舎, 東京, 2010).

4,830 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年09月発行)

ここ数年,藻類を用いた燃料生産に注目が集まっています。世界的な流れはさておくとして(むしろ本書参照), 国内でこの分野の重要性を周知させたのは間違いなく著者らの研究グループでした。 本書では藻類をエネルギー資源として活用しようとする社会背景,研究背景,研究の現状から評価, 展望までがわかりやすくまとめられています。 これらは生物学のみならず社会学的な観点,経済学的な観点にまで及んでおり, 一研究者では俯瞰することが極めて困難な全体像を描き出すことに成功しています。

藻類バイオマスを活用する目的は大きく分けて温暖化問題(二酸化炭素の排出) と化石燃料の枯渇への対策が挙げられます。 微細藻類が燃料資源としてどの程度有効であるかについては懐疑的な見方もありますが, これらの問題に立ち向かうには太陽エネルギーの利用は避けて通れない道でしょう (常温核融合の実現など,他の道が全くないわけではないが,いずれも茨の道である)。 藻類燃料の実用化が仮に数年〜十年程度の内には不可能だとしても, 数十年から百年先を見越して藻類バイオマスの実現を目指す研究は必要不可欠と考えられます。 その意味で本書は環境・資源の問題に関心のある全ての若手研究者にお勧めです。
(2011年02月16日)

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石川統 ほか 編 生物学辞典 (東京化学同人, 東京, 2010).

10,290 円(2011 年 4 月30 日まで。以降 12,600 円), Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年12月発行)

「生物学辞典」と言えば,これまでは「岩波 生物学辞典」のことを指していました。 しかし岩波の辞典は最新の第 4 版が出てから 14 年が経過しており,近年の生物学の著しい進歩に対応できていません (なお第 5 版の計画が現在進行中)。そんな中,東京化学同人から同様の値段,よく似た体裁で「生物学辞典」が発行されました。 本書は見出し語 20,000 語(帯より)を含み,生物学のあらゆる分野を対象にしています。 また原則として各見出し語には英語の訳語が付されていて,挿絵もそこそこ含まれています(各見開きごとに 1-2 枚程度)。 見出し語は文部省/文部科学省の学術用語集(動物学,植物学,遺伝学,医学,化学,農学,海洋学)などを参照にしたそうで, その場合,どの分野の用語かがわかるように○囲みで典拠が明示されています。 これは分野ごとに研究者の使う用語の傾向が変わることを踏まえると興味深い試みと言えます。 序文によれば様々な生物名を見出し語に取り入れたことが強調されています(実際にどれくらいの生物を取り入れたのかは不明)。

さらに辞典の個性がよく出る付録には,生物分類表,地質年代表の他,生物学者歴史年表(「生物学」ではなく「生物学者」)や, 各生物学関連の賞(ノーベル賞や国際生物学賞など 5 つの賞)の受賞者一覧がついています。 これを見ると編者が生物学の研究者に特に焦点を当てていることが伺えます。

なお生物分類表は編集時点での最新の分類体系を取り入れようとしたようですが, 被子植物の分類体系については APG III によって抜本的な改訂が提案されており (本書では APG II を採用している),注意が必要です。 また付録の地質年代表の年代は 1980 年代の情報に基づいており,明らかに時代遅れです。 現在は 2008 年出版の Ogg et al. (2008) の年代が使われており (例えば 古生物学事典, 第 2 版, 2010), 実は本書の各地質年代の項目でも新しい値が用いられています (ただしペンシルバニア紀とミシシッピ紀の境界のみ古い値が使われている)。 おそらく編集過程での見落としと思われるため,重版での修正に期待します。
(2011年02月04日)

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2010年12月

Krieg, N. R. et al. Eds. Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn, Vol. 4, The Bacteroidetes, Spirochaetes, Tenericutes (Mollicutes), Acidobacteria, Fibrobacteres, Fusobacteria, Dictyoglomi, Gemmatimonadetes, Lentisphaerae, Verrucomicrobia, Chlamydiae, and Planctomycetes (Springer, New York, 2011).

約 20,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年12月発行)

"Bergey's Manual" の最新刊が出版されました。Bergey's Manual については過去の記事 (De Vos et al., 2009)でも紹介しましたが, 原核生物の現行の分類体系の基になっている詳細な分類学書です。 原則として対象とする群の全種について解説している大著で,2001 年から Bergey's Manual of Systematic Bacteriology の改訂第 2 版が刊行中です。 改訂第 2 版の第 4 巻となる本書では「その他」にあたる細菌類がまとめられており, 具体的にはバクテロイデス門,スピロケータ門,テネリクテス門,アシドバクテリウム門,フィブロバクター門, フソバクテリウム門,ディクティオグロムス門,ゲマティモナス門,レンティスファエラ門,ヴェルコミクロビウム門, クラミジア門,プランクトミセス門の 12 門が扱われています。中には 150 属以上を含むバクテロイデス門から, 1 門 1 種のフィブロバクター門,ディクティオグロムス門,ゲマティモナス門まで, 系統的にも多様性的にも雑多な細菌類が対象になっています。

注目点としてはこれまで定まった語尾が与えられていなかった綱の学名に対して多数の新称を提唱していること (ただし正式発表は後日 International Journal of Systematic and Evolutionary Bacteriology に掲載された時になる),そしてバクテロイデス門の中でスフィンゴバクテリウム目にまとめられていた一部 (30 属余り)の細菌が "シトファーガ綱" シトファーガ目に移されたことが挙げられます。 これでバクテロイデス門(新たな学名は Bacteroidetes)は 4 綱(バクテロイデス綱,フラボバクテリウム綱, スフィンゴバクテリウム綱,シトファーガ綱)に整理されました。 この他にも綱が定義されていなかったレンティスファエラ門に新綱レンティスファエラ綱が提唱され, またヴェルコミクロビウム門に新綱スパルトバクテリア綱と新目クトニオバクター目(ただし基準属 "Chthoniobacter" は現在までに正式記載されておらず,正式記載された種を含んでいない), プランクトミセス門に新目(仮)の "Candidatus Brocadiales"(正式記載された種を含まないため暫定的な目) が提唱されています。なお "Brocadiales" はプランクトミセス綱に分類されていますが,Fukunaga et al. J. Gen. Appl. Microbiol. 55, 267-275 (2009)(本書の編集には間に合わなかったようで, 反映されていない)でプランクトミセス門を複数綱に分割することが提唱されており, これに従えば "Brocadiales" の系統も新綱に相当することになるでしょう。

今回対象となった分類群については本書の分類体系が当面の間,基準になると思われますので, これらの細菌の分類を専門とする研究者は必携です。 なお第 2 版も残すところ放線菌を扱う予定の第 5 巻のみです。 2011 年には出版予定になっていますので,予定通りの出版に大きく期待するところです。
(2010年12月28日)

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2010年09月

浅島誠, 岡本仁, 井ノ口馨, 坂井克之 および 石浦章一 現代生物科学入門 4: 脳神経生物学 (岩波書店, 東京, 2009).

3,150 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2009年11月発行)

出版から少々時間が経過してしまいましたが,「現代生物科学入門」の第 2 弾として出版された 4 巻です。 21 世紀の生物学の花形となることが期待されている脳神経生物学が扱われています。 脳科学の重要性や,その発展に対する期待は言うまでもありませんが,この分野の現状は意外に知られていません。 本書では分野ごとの最新知見が 4 章に整理され,それぞれの著者によって紹介されています。

第 1 章では特にその発生過程に注目して,脳や神経回路の形成やその分子機構を概説しています。 脳科学と言うよりも発生学の印象が強い章でした。 第 2 章では記憶の機構に迫るため,神経細胞やシナプスで起こっている分子現象が解説されています。 一応,記憶と海馬の関係などより巨視的な現象にも言及していますが,こちらは理解が若干遅れているようです。 しかし記憶の再固定化(記憶を思い出している際に,その記憶が一時的に不安定化する現象)や,記憶の忘却に関与する遺伝子の発見など, 興味深い発見も紹介されていました。第 3 章では脳の認知機構を扱っていますが,前章とは異なり, 神経細胞レベルではなく神経回路や脳の構造レベルでの理解を目指しています。「機能局在」という用語が出てきますが, 本章でも様々な認知のあり方を実験的に検証できる認知機能に分解し,それぞれが脳のどの部分で行われているのかを明らかにしています。 最後に第 4 章では「脳の病気」と題してアルツハイマー病やパーキンソン病から自閉症, 統合失調症まで様々な脳疾患の遺伝的背景の知見を紹介しています。こちらは主に医学的な興味から読むには興味深く, 将来の治療法開発に向けた進捗状況がわかります(とは言え解決にはほど遠そうですが)。

本書を全体としてみると,各章があまりのも独立していることが気になります。 脳の記憶・認知機構の理解には脳の発生から神経細胞という機能素子の理解,そして神経回路やその高次構造の理解を統合する必要があります。 しかし本書では各章ごとにこれらの解説が分離していて,その断絶を繋ぐ研究もほとんど紹介されていません。 あるいはこれは現在の脳神経生物学の現状の問題点を表しているのかもしれません。 しかし第 1 章では脳内の神経細胞の全ての接続(コネクトーム)の解明に向けた技術も簡単に触れられており, このような研究から脳の統合的な理解に向けた進展が期待されます。

本書の中でも触れられていますが,脳神経生物学はまだまだこれからの分野のようです。そのため脳の機能を知りたい, という読者には消化不良な内容になっています。一方でこれから脳神経生物学の研究に進む学生や, 進路の一つとして検討している学生にとっては必読の書になるかもしれません。
(2010年09月02日)

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2010年08月

山根正気, 原田豊 および 江口克之 アリの生態と分類: 南九州のアリの自然史 (南方新社, 鹿児島, 2010).

4,725 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年05月発行)

アリと言えば誰にとっても身近な昆虫ですが,その種多様性は意外と知られていません。 本書の「はじめに」によれば,鹿児島市の人口緑地である七ツ島公園という場所からだけで 39 種のアリが確認されたそうです。 地域にもよるかも知れませんがが,誰の身近にも様々な種類のアリが生息していると思われます。 本書では,そんな見落とされがちなアリの多様性が綺麗な写真と共に紹介されています(南九州中心)。 第 1 部では南九州に限らずアリ全般の生態,生物学が丁寧に解説されています。 あまり紹介されることのない変わったアリの生態が色々と読める興味深い内容でした。 第 2 部では本書が対象とする南九州(鹿児島本土を中心に,宮崎県,大隅諸島)ということで, この地域の様々な環境におけるアリの生態が個別に紹介されています。他の地域に住んでいる読者にとって直接関係ないかもしれませんが, 具体的な自然環境の中でのアリの生活を知ることは,アリをより身近に感じる手がかりになります。 第 3 部では冒頭でアリの採集,標本作製,観察の方法を紹介した後,対象地域に分布するアリ科 124 種が個別に記載されています。 各種については働きアリの頭部正面観と全身の側面観が鮮明な拡大写真で示されており, 解説には形態・生態・分布などの情報が記されています。また種同定のための検索表も伴っています。

本書は写真・解説共に大変充実しており,少なくとも南九州(オビによれば関西以西)で活用できる良質な図鑑と言えます。 他の地域でどの程度図鑑として使えるかはわかりませんが,国内から報告されているアリが全 273 種とのことなので, ちょっと使いにくい地域もあるかもしれません。しかし読み物としても優れているため,図鑑にこだわらなければ十分購入する価値があります。 実は図鑑としては既に日本産アリ類データベースグループ 日本産アリ類全種図鑑 (学習研究社, 東京, 2003).(7,350 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店)が出版されていますが, 現状では入手しづらく,またこちらの方は解説よりも写真により重点が置かれている点で違いがあります。 ちなみにこちらにはデータベースの CD-ROM がついていて,最新版のデータベースはオンラインで参照することも出来ます (日本産アリ類画像データベース; というよりオンラインデータベースが書籍化されたとのこと)。
(2010年08月26日)

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山崎浩二 世界のメダカガイド (文一総合出版, 東京, 2010).

2,940 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年08月発行)

タイトルだけを見ると何を意図した本なのか迷いますが,要するに熱帯魚愛好家向けのメダカやカダヤシ類の本です。 メダカ(ダツ目メダカ科)やカダヤシ類(カダヤシ目)には鮮やかな体色の種が多く含まれており, 観賞魚として好んで飼われています。例えばグッピー(カダヤシ類)は熱帯魚の中でも特に有名で, 様々な品種も開発されています。本書では極めて多様なこれら「メダカ」を 1 種ずつ写真と共に紹介しています。 カダヤシ類はメダカ科とは類縁性がなくメダカの仲間と呼ぶのは誤りですが,愛好家向けということで一括りにされています。 本書の主要部分はメダカ科,卵生カダヤシ類,卵胎生カダヤシ類,真胎生カダヤシ類の 4 つに分けられており, 各メダカが飼育法の目安も含んだ簡潔な解説と共に紹介されています。末尾には飼育法の概説も付いています。 基本的には趣味の本であって学術的な内容ではありませんが, 鮮やかな色彩の「メダカ」の写真を楽しみながら生物の多様性を実感できる本です。
(2010年08月19日)

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細矢剛, 出川洋介 および 勝本謙 カビ図鑑 (全国農村教育協会, 東京, 2010).

2,625 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年07月発行)

自然界で観察される様々な種類のカビを美麗な写真と共に紹介した啓蒙書です。 カビというと地味な顕微鏡写真によって紹介されてきた印象がありますが, 本書では自然界の中でカビが発生している場面を示しつつ, 併せて顕微鏡写真を紹介する形をとっているため視覚的にも楽しめます。 普通に眺めるだけでは単に奇形や病気の植物として見過ごしてしまうような現象が, 実はしばしばカビによって引き起こされていることがわかると目から鱗が落ちる思いでした。 また近年は進化やゲノム研究の中でカビの仲間の学名が論文に登場することも少なくありませんが, その野外における姿を見せられるとより一層の親しみが沸いてきます。

解説は平易な言葉使いが意識されていますが,内容については非常に高度でもあります。 写真で形態の多様性を眺め,解説を熟読して生活史の多様性を理解することが出来れば カビに対する理解も大きく前進するはずです。本書の後半ではカビの採集方法や観察方法, さらに写真撮影の方法までかなり丁寧に解説されていて, 前半でカビに興味を持った読者が実際にカビの観察・研究を始めるために役立ちます。 本書を見てカビの生き様を学べば,きっと自然界を見る視線も一新されることでしょう。
(2010年08月10日)

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神阪盛一郎 および 谷本英一 編 新しい植物科学: 環境と食と農業の基礎 (培風館, 東京, 2010).

3,780 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年07月発行)

植物科学の基本的な教科書です。タイトルで「新しい」が強調されていますが,植物科学の最先端の話題を集めたものではなく, むしろ最先端の植物科学を学ぶ前に押さえておきたい基礎的な知見をまとめた教科書です。 本書は 1991 年出版の「植物の生命科学入門」の改訂版という位置づけで, 標準的な教科書の内容を最新の情報で更新したような印象を受けます。 また副題には「環境と食と農業の基礎」とありますが,実際には植物科学のあらゆる分野の基礎が学べますので, 今後植物科学の分野に進む学部生などに特にお勧めできます。 もっとも普通の植物学の教科書と比べると,植物の肥料(20章),防御機構(21章),植物性食品(23章)や栄養成分(24章), 農薬(27章)など食や農業を特に意識した章が目立っている点では,副題もあながち間違いではありません。 内容が入門的で引用文献もない(各章ごとに少数の参考文献のみ示されている)ため, 専門的な学習には向きませんが,基礎を学ぶために一読すると良い教科書です。
(2010年08月05日)

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2010年07月

Ciugulea, I. & Triemer, R. E. A Color Atlas of Photosynthetic Euglenoids (Michigan State University Press, East Lansing, 2010).

約 8,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年05月発行)

ミドリムシとしても有名なユーグレナの仲間ですが,近年急激に分類学的な見直しが進められています。 本書はそんなユーグレナ分類の第一人者らによるユーグレナの写真集です。 冒頭ではユーグレナ類の分類の歴史や細胞構造について簡単に解説があり, それ以降の本書の大部分はユーグレナ類各種の精細な写真がカラーで掲載されています。 現在,光合成をするユーグレナ類としては分子系統解析から 12 属が認められており, 著者らはその全属の,合わせて 100 種以上におよぶユーグレナ類の写真を示しています。 各種ごとに 1 ページが割かれており,細胞の表面や内部構造,特徴的な部分の拡大など様々な写真が示されています。 図の脇には形態形質の簡単なまとめと,写真の解説が付いています。 種の検索表こそありませんが(属の検索表はある),掲載されている写真が極めて精巧なため, おそらく本書だけでかなり正確な種同定ができるでしょう。

低価格で,美術の写真集のような判型のため,素人向きの本に見えるかもしれませんが, 写真の質や内容は藻類研究者の利用にも絶える高品質なものです。 同時に全ての写真がカラーで掲載されているため, 単純に微生物の形のおもしろさに興味がある人でも楽しめる本になっています。 藻類,特にユーグレナに少しでも関心があれば,購入して損はありません。
(2010年07月30日)

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藤田敏彦 新・生命科学シリーズ:動物の系統分類と進化 (裳華房, 東京, 2010).

2,625 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年04月発行)

題名の通り,動物分類学の最新の教科書です。動物分類学の書籍には分類学の総論や方法論を軸としたものと, 多様性の記載を軸としたものがあります。以前に紹介した松浦「動物分類学」 (2009) は前者に, Barnes et al.「図説 無脊椎動物学」 (2009) は後者にあたります。 本書は前半後半でそれぞれ分類(1-4 章)と多様性(5-6 章)を扱っており,両者を併せた教科書となっています。 この点では同じ裳華房のバイオディバーシティ・シリーズに近い構成になっています。 本書はさほど分厚い教科書ではないため,バイオディバーシティ・シリーズと比べると簡潔に書かれていますが, ここ数年の系統解析手法や系統分類の進展を反映しているため, 最新の動物分類の概況を日本語で学ぶには良い教科書です。 詳細な情報が必要な場合はバイオディバーシティ・シリーズや Barnes et al. (2009) の他, 可能であれば洋書にあたりましょう(以前に紹介した Minelli, 2009 など)。
(2010年07月05日)

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2010年06月

中垣俊之 粘菌:その驚くべき知性 (PHP 研究所, 東京, 2010).

840 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年05月発行)

著者らは粘菌を用いて情報処理の研究を進めている現役の研究者です。 ここで言う粘菌は真正粘菌または変形菌と呼ばれる生物で,著者はモジホコリ(Physarum polycephalum) を材料に使っています(キイロタマホコリカビ Dictyostelium discoideum などの細胞性粘菌とは異なる)。 真正粘菌の仲間は生活史の一部に単細胞多核の変形体を形成することが知られています。 この変形体は平面的に広がって餌を探索し,餌を発見すると餌と餌を繋ぐような網状構造を形成して成長します。 著者らはこの網状構造が餌と餌を効率よく結んでいることに着目し,その仕組みを研究しています。

著者らは変形体を用いた最短距離探索の研究で,Nature(Nakagaki et al. Nature 407, 470, 2000)に,さらにより複合的な条件設定の下での最適解を探索させる研究で Science(Tero et al. Science 327, 439-442, 2010)に論文を発表していますが, 本書ではその研究にいたる経緯や研究の詳細,発展が紹介されています。 変形体を用いると,解析的に最適解を求めることが困難な(計算時間を考えると事実上不可能な) 問題の準最適解を効率よく求めることが出来るそうです。ある意味では変形体の問題解決のアルゴリズムから, 全く新しい問題解決のための思考法を学ぶ研究という見方も出来るでしょう。 研究内容のみならず,研究の進展にいたる着想や考え方も大いに参考になりますので, 粘菌に興味がある人や,生物の情報処理,知性に興味にお薦めの新書です。
(2010年06月25日)

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日本古生物学会 編 古生物学事典, 第 2 版 (朝倉書店, 東京, 2010).

15,750 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年06月発行)

古生物学,進化学などの研究者必携の事典の改訂第 2 版が出版されました。1991 年に初版が出版されて以降, 古生物学の分野においても分子系統解析の成果など,周辺分野の劇的な進展が影響を及ぼしてきました。 古生物学それ自体の中でも最古級の微化石を巡る議論,羽毛恐竜の発見など様々な転回がありました。 第 2 版ではこれらの進展も踏まえつつ,項目数も倍増して約 1100 項目が収録されています。 本書は単なる用語集ではなく,各項目が最新の知見も踏まえた「読み物」となっています。 古生物学と現生生物の進化・分類研究は密接に関係するにもかかわらず, 研究の方法論があまりに違うため両者の接点は乏しかったと言えます。 本書は古生物学の研究者にとっては他の分野,例えば分子系統学の成果を取り入れる窓口として, 逆に現生生物の研究者にとっては古生物に踏み込んで理解を広げるための基礎資料として, いずれも大いに貢献することが期待されます。 なお,巻末には付録として最新版の地質年代表と海陸分布変遷図(7.5 億年前〜)が掲載されていますが, 旧版の巻末に掲載されていたという生物分類表,系統図などはなくなっています (ただし各分類群の項目にしばしば分類表ないし系統図が掲載されている)。 (本書には筆者も執筆者の一人として参加しています)
(2010年06月22日)

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2010年05月

金子隆一 大量絶滅がもたらす進化:巨大隕石の衝突が絶滅の原因ではない? 絶滅の危機がないと生物は進化を止める? (ソフトバンク クリエイティブ, 東京, 2010).

1,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年02月発行)

地球上の生物相は数度の大量絶滅を通じて劇的に変化してきたと考えられています。 大量絶滅としては恐竜の絶滅をもたらした白亜紀末の大量絶滅が有名ですが, より大規模な大量絶滅も知られています。本書はそんな大量絶滅の概要を一般向けに紹介する啓蒙書です。 著者は著名なサイエンスライターで,専門家に負けない情報収集により最新の研究成果まで盛り込んでいます。 第 1 章(著者名には出ていないが,「はじめに」によると望獲つきよ執筆とのこと) と第 2 章では進化研究の歴史から,ゲノムレベルまで踏み込んだ進化の機構を解説し, 第 3 章では地球の歴史,主に顕生代の歴史の中で五大大量絶滅(オルドビス紀末,デボン紀末,ペルム紀末, 三畳紀末,白亜紀末の絶滅事象)の実態を紹介しています。第 4 章では白亜紀末の大量絶滅を中心に, 大量絶滅の原因とされる様々な仮説を紹介しています。 これには天体衝突や大規模な火山活動などよく知られたものから, ガンマ線バーストのような馴染みの薄い現象も含まれており,一読に値します。 ただし実際に白亜紀末の大量絶滅の原因はまだ解明されきっていないことには注意が必要です。 著者が科学者ではなく,また一般を対象にした啓蒙書であるため, 未だ議論のある学説を断定的に紹介している点が気にはなりますが, 紹介されている情報量は豊富で,非常に参考になるはずです(図も豊富)。
(2010年05月28日)

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小原雄治 ほか 現代生物科学入門 1:ゲノム科学の基礎 (岩波書店, 東京, 2009).

3,360 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2009年10月発行)

岩波書店から刊行を開始した「現代生物科学入門」(全 10 巻予定)の第 1 巻にして 1 冊目。 ゲノム科学の発展により現代の生物学は急激に変貌しています。 このシリーズでは既存の教科書では扱いきれなくなった新しく, しかし早くも主流となっている分野の教科書とすることを目指しているようです。 本書はその第 1 巻として,シリーズ全体の前提となるゲノム科学の基礎部分(第 2 巻[未刊]が 「ゲノム科学の展開」)を扱っています。

本書では分子生物学の基礎が確立するまでの歴史に始まり, 現代生物学の数々のキーワードが適切な文脈の中で解説されています。 プロテオーム,代謝ネットワーク,シグナル伝達,エピジェネティクス,バイオインフォマティクスなど, いずれも 10 年前の教科書にはほとんど見られず,今では避けて通ることの出来ない概念が紹介されており, 同時にこのシリーズの続刊への導入になっています。

文章は比較的平易に書かれており詳細には踏み込んでいないため,その分野を専門に学ぶつもりはないものの, 関連分野を学ぶためや論文を読む手助けのためには便利な教科書と言えます。 これから生命科学の世界に踏み込もうとしている学部生や, 最近の生物学を把握しきれない現役の研究者がさらりと読むのに向いているでしょう。
(2010年05月25日)

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パーマー, D. EVOLUTION:生命の進化史 (ソフトバンク クリエイティブ, 東京, 2010).

4,935 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年01月発行)

本書は主だった化石産地を通じて,生物の歴史,特に顕生代の歴史を紹介した啓蒙書です。 各地質時代の生物は,必ずしも地球全域からの化石証拠が得られるとは限らないため, しばしば少数の保存状態の良い化石産地からの情報に基づいて研究されてきました。 本書はこの点に着目し,100 箇所弱の化石産地の古生態の復元図を並べて, 始生代から現代までの生命史を追っています。最初の 5 枚のみ先カンブリア時代で,残りは全て顕生代の地層です。 約 5.4 億年に渡る顕生代を 95 枚のイラストで示した結果, 平均 600 万年弱の間隔で地球の歴史が記述されました。 実際に順を追って読み進めていくと,地球上の生態系が徐々に変化していく様子がよくわかります。

生命の歴史に続いて,主立った生物の系統樹も示されています。 初めは原核生物と真核生物の大系統の図に始まり,哺乳類や恐竜の細かい系統までが 50 ページ近くに渡って図示されており(残念ながらほとんど動物のみ), 生態系の変化と併せて生物の歴史を学ぶ良い資料になっています。

紙面のかなりの部分が絵に割かれているため,絵本のような印象も受けますが, 古生態系を追うことで地球上の生物の歴史を追っていく方法は,正当でありながら独特で面白いと思います。 理論や知識だけでなく視覚的に動物の歴史を学ぶのにお薦めです。
(2010年05月21日)

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内田麻理香 科学との正しい付き合い方:疑うことからはじめよう (ディスカヴァー・トゥエンティワン, 東京, 2010).

1,260 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年04月発行)

本書は,理系の大学院出身のサイエンスライターにより執筆された,一般人向けの啓蒙書で, 「科学的考え方」を改めて紹介し,評価することに主眼が置かれています。 本文は「初級編」,「中級編」,「上級編」の 3 部構成をとっており, 「初級編」では一般人の科学への関心の有り様を振り返っています。 「中級編」では科学的考え方を著者なりの観点で整理しており,現役の科学者では返って見失いがちな, あるいは利害関係もあって書きにくい,一歩引いた良質なまとめに成功しています。 例えば昨年の「事業仕分け」に対抗してノーベル賞・フィールズ賞受賞者らの集会とそれに対する聴衆の反応を, 「権威化・教条化」として,科学的考え方(「疑う心」)を阻害するものとして批判していますが, この精神は多くの科学者が見習うべきでしょう。

「上級編」ではサイエンスライターとしての著者の経験に基づき, 「普通の人」と科学者の間のコミュニケーションの失敗について論じています。 この際,科学者による啓蒙活動が多くの場合「科学マニア」にしか届いておらず, 「普通の人」との交流が出来ていないとの指摘は極めて重要です。 その意味で「上級編」は一般人向けよりも科学者向けの内容に思われました。

著者らは(科学者ではない)読者に対して科学技術の「監視団」になることを期待しています。 世論を見る限り未だ科学の分野は聖域扱いされているようですが,事業仕分けなどを通じて懐疑心も広がっています。 そんな中でノーベル賞のような権威を盾に戦うのではなく,正しく批判に向き合うためには, 科学者の立場からも本書に学ぶべきところがあるでしょう。
(2010年05月17日)

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服部誠 その論文は著作権侵害?: 基礎知識からQ&A (中山書店, 東京, 2010).

3,675 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年05月発行)

文化庁 編著 著作権法入門 2009 (著作権情報センター, 東京, 2010).

2,500 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2010年01月発行)

著作権法は論文を執筆する場合にも利用する場合にも大きく関わる法律の一つです。 しかし著作権法の概要を学ぶ機会は限られており,例えば論文の複製や引用を巡っても誤解が蔓延しています。 実際には著作権法を巡って問題が大きくなることは稀ですが(論文の盗用などは著作権以前の問題である), 研究者の道徳が厳しく問われるようになってきた昨今, 著作権法の理念や解釈をある程度知っておく必要はあります。

服部 (2010) では弁護士である著者が,医学研究を中心に著作権法の概要と適用の実際面を解説しています。 対象は医師や医学研究者ですが,理系の研究者全般が活用できる内容かと思われます。 実例や Q&A も充実していますので,実践的な場面と併せて著作権法を学ぶことが出来るでしょう。 文章が若干法学的な表現になっているため馴染みにくい点もあるかもしれませんが, 科学の専門表現と比べて特にわかりにくいこともないでしょう。

次に文化庁 (2010) は研究者に限らずより一般向けに書かれた教科書です。 こちらは著作権法の頻繁な改正(最近の改正は 2009 年 7 月)や周辺状況の変化に対応してか, 毎年出版されています(筆者は 2008 年版を所有)。内容も平易な文章で書かれており, 研究の場面を超えて幅広く,しかし簡単に最新の著作権法を学びたい場合には便利な教科書でしょう。 一方で研究に関わる場面に限定して学ぶには若干範囲が広いかもしれません。
(2010年05月14日)

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Margulis, L. & Chapman, M. J. Kingdoms & Domains: An Illustrated Guide to the Phyla of Life on Earth (Academic Press, Amsterdam, 2009).

約 8,000 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2009年01月発行)

出版から 1 年以上経ってしまいましたが,重要な書籍なので紹介します。 本書は全生物群を門ごとに見開きで紹介する,いわば大分類の教科書で, 実は "Five Kingdoms"(Margulis & Schwartz, 1982, 1988, 1998)として知られていたシリーズの改訂(改題) 第 4 版にあたります。初版の邦訳も出版されていますが(マルグリス, L. および シュヴァルツ, K. V. 図説・生物界ガイド:五つの王国 日経サイエンス, 東京, 1987),原著の出版から 20 年以上が経ち, 各生物群にまつわる知見も大幅に更新されてきました。特に原生生物の系統関係への理解が深まってきた現在, 新しい改訂版が出版されたことは大いに歓迎されます。

本書では,各界ごとに所属する門の解説が最低でも見開きで,時にそれ以上のページを費やしてなされています。 生物の(著者らが考える範囲で)ほぼ全ての門を平等に紹介する書籍は他に類を見ませんし, それだけでなく各門ごとに精密で優れた図と写真が与えられていることも大きな特徴です。 限られたページの中で詳細な解説もされていますので, 本書を全て読めば地球上にいる生物の多様性がほぼ把握できるはずです。

一方で本書の分類体系には難があります。著者らは分子系統に批判的で,おそらく無知でもあります。 原核生物を古細菌と真正細菌に二分する説や, 不等毛類,アルベオラータのような真核生物の大系統群の一部は体系に取り入れていますが, アメーバ動物やエクスカヴァータ類などは全く反映されていません。 原生生物界の中には旧態依然とした無鞭毛亜界(Akonta)や無ミトコンドリア亜界(Amitochondria) などの人為分類群も残しています。酷いところでは鞭毛を持たない接合藻類(通常は緑色植物とされる)が, 鞭毛を持つ緑藻植物門とは異なる亜界に分類され,むしろ紅藻類に近縁と図示されており, これは明らかに分子系統や光合成色素などの研究と矛盾します (いずれも疑いなく紅藻とは離れた緑色植物にまとめられる)。 また灰色藻類などの重要な系統群が除外されていることにも注意が必要です。

前述の深刻な欠点もありますが,これ 1 冊を参照することで生物の多様性を丸ごと学べることは事実です。 各界ごとに資料を収集する(例えば裳華房のバイオディバーシティ・シリーズを揃える)ことも悪くありませんが, 1 冊にまとまった書籍が手にはいることもそれはそれで有難いのではないでしょうか。
(2010年05月12日)

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バートン, N. H., ブリッグス, D. E. G., アイゼン, J. A., ゴールドステイン, D. B. & パテル, N. H. 進化:分子・個体・生態系 (メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京, 2009).

15,750 円, Amazon.co.jp紀伊國屋書店 (2009年12月発行)

大判の進化生物学の教科書で,進化の機構から多様性まで進化学のあらゆる側面を解説しています。 特に本書では分子進化から形態進化までを結び付けることが意識されていて, 進化発生学など最新の進化研究を学ぶためにも有用な教科書となっています。 原書は 2007 年に出版されており,最新の進化研究が反映されていると見てよいでしょう。

本書は part 1 から 4 までに分かれています。Part 1(chapter 1-3)では進化研究の歴史がまとめられています。 元々アメリカで出版されたこともあり,chapter 3 では進化論に対する反論と再反論も示されています。 Part 2(chapter 4-11)では生物の歴史を生物の起源から多細胞生物(主に動物)の進化まで概観すると共に, 原核生物の生化学的多様性や,多細胞化の詳細,発生の遺伝的機構などにまで踏み込んで議論されています。 一方で,分類の教科書ではないため,各分類群の記載にはあまり重点が置かれていません。 最もページ数が割かれた part 3(chapter 12-24)では,より理論的な側面が解説されています。 Chapter 12-19 はそれだけで分子進化学の教科書となるような内容で,chapter 20-21 ではよりマクロな適応進化が, chapter 22 では種分化,chapter 23 では有性生殖を含む突然変異を超えた進化機構について,そして chapter 24 では新しい形質の進化という難問が概説されています。そして最後の part 4(chapter 25-26)ではヒト族の進化が, 化石記録から遺伝的側面までに渡って解説されています。

分子生物学を学ぶ学生には「細胞の分子生物学」(Molecular Biology of the Cell: Alberts et al., 2007)がしばしば薦められますが,進化生物学を学ぶ学生には本書が最適な教科書となるでしょう。 進化生物学は極めて学際的な分野であり,研究者には幅広い知識が求められます。 本書は進化生物学の方法論から理論まであらゆる側面が詳細にわかりやすく解説されているため, 学生から指導者まで必ずや役に立つはずです。
(2010年05月07日)

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2010年04月

月井雄二 淡水微生物図鑑:原生生物ビジュアルガイドブック (誠文堂新光社, 東京, 2010).

3,570 円(2010年03月発行)

微細藻類や原生動物などの原生生物は系統的にも形態的にも極めて多様性が高いことが知られています。 しかし多くの原生生物の試料は顕微鏡観察に基づく線画を中心に描かれており, 素人目には実物をイメージするのが難しいのが実情です。 写真を中心に原生生物を紹介した一般向けの書籍も一部にはありますが, 種同定や分類学的な整理が不十分な場合がほとんどで,写真の質も必ずしも高くありませんでした。 そんな中で本書は類書とは一線を画しており,375 属 807 種の原生生物が, 極めて美麗な写真と共に紹介されています。著者は原生生物情報サーバの構築と管理を行っているまさにこの道の専門家で, 生物の同定もかなり正確に行われています。また本書は単なる写真集ではなく, 各種に簡単な記載がつけられている点でも貴重な資料となっています。 一般の読者にとっては極めて華やかで多様な原生生物の写真集として楽しめると思われますし, 専門家にとっても,名前だけしか聞いたことのないような原生生物の写真を目にすることができる点で 非常に意義深い書籍です。価格も内容からすれば廉価なので,是非ともお手にとっていただきたい良著です。 なお,本書は淡水産の原生生物の図鑑なので,海産藻類についても類著が出版されることが期待されます。 また珪藻類は掲載対象にはなっていないことも付記しておきます。
(2010年04月07日)

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2010年01月

コーナー, A. M. 一流の科学者が書く英語論文 (東京電機大学出版局, 東京, 2010).

2,730 円(2010年01月発行)

多くの日本人研究者は,英文で論文を書く際に色々と苦労すると思います。 例えば introduction,results,discussion などにそれぞれ何を書くべきか,どこまで書くべきか, あるいは似た意味を持つ単語の使い分け,英語文化圏の慣習など,様々な段階で悩ましい問題が降りかかってきます。 そこで論文の書き方などに関する様々な解説本が出ていますが,日本人の執筆した解説書では,言葉のあや, 礼儀作法など,どうしても誤解や解説が足りない部分が出てきます。 かといって欧米人には日本人が悩む事柄が理解しづらく,論文の書き方を解説した洋書の翻訳でも足りません。 ところが本書は執筆者が欧米人であるにも関わらず,日本人の癖をよくわかった上で日本人向けに書かれていて, 大変参考になります。

著者は生物学者として博士号を持つだけでなく,日本人著者の英文校正を多数手がけてきた経験を持ち, しかも本書は日本人向けに書き下ろしたとのことで,欧米人による解説本としては理想的な背景から誕生しました。 本編は論文の準備から執筆,投稿,査読結果に対応するまでの方法論, 特に英語にまつわる問題点などが丁寧に解説されています。またその他,英語の学習法,学会発表, 科学者の説明責任などにも一部の章が割かれています。著者の原文の良さか,はたまた訳者の才能か, 本文は非常に読みやすく,一気に読み進めることが出来ました。 しかも内容は実際に論文の執筆や投稿時に出会った難点を適格に突いていて,幅広い読者の助けとなるはずです。 類書を持っていない方には文句なくお薦めで,また類書を持っていても多少なりとも不満があれば, 本書を入手しても損はしないでしょう。
(2010年01月26日)

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Eckenwalder, J. E. Conifers of the World: The Complete Reference (Timber Press, Portland, 2009).

約 5,000 円(2009年11月発行)

針葉樹(裸子植物球果類)は分類学のみならず林業,園芸においても重要な植物群ですが, 本書はそんな針葉樹の全種の記載を網羅した大著です。 本書の序盤は,針葉樹の分類や形態,進化,古生物学,園芸などの概論となっています。 科や各属を同定するための簡単な指針もまとめられており,実際に針葉樹の種類を同定する場合にも助けとなります。 同定のための指針には顕微鏡的な特徴など難解な特徴は用いられておらず, 主として球果の巨視的な形態や枝葉の特徴に基づいています。 本書の主要部分は針葉樹全 545 種の記載に充てられていて,まず針葉樹の全属がアルファベット順に配置され, 各属ごとに詳細な記載が与えられています。 これは形態的な記載に留まらず,分布(地図上にも図示されている),分類,応用,地誌など多岐に渡っています。 記載に続いて所属する種の同定の指針と,全種の詳細な記載が続きます。

主要な特徴などを示す写真や図も多数掲載されていますが,必ずしも全種の図や写真が掲載されているわけではなく, 図鑑や写真集のようなものではありません。 むしろ啓蒙書や一般向けの図鑑には記されていない詳細を調べるために有用な資料となるでしょう。 価格的にも手頃であり,これ一冊で全ての針葉樹の記載が調べられると考えると, 多少なりとも針葉樹に興味があるならば是非とも手に入れておきたい一冊です。

より平易で写真が豊富に使われた文献としては,西田誠 編 裸子植物のあゆみ: ゴンドワナの記憶をひもとく (信山社, 東京, 1999) (4,725 円) がお薦めです。また "Conifers of the World" には各種の異名や文献情報などは網羅されていませんが, 分類学上重要なこれらの情報をまとめた文献として,Farjon, A. World Checklist and Bibliogaphy of Conifers, 2nd Edn. (Royal Botanic Gardens, Kew, 2001) (約 7,000 円)があります。 こちらは逆に各種の特徴などは掲載されておらず,ほとんど純粋に異名や文献情報に徹していますので, 専門の研究者でなければ興味を惹かないかも知れません。

なお,"Conifers of the World" と "World Checklist and Bibliogaphy of Conifers" では分類法が異なり, 針葉樹全体を前者は 6 科 67 属 545 種に分類しているのに対して,後者では 8 科 69 属 630 種に分類しています。 特に前書ではイヌガヤ科(Cephalotaxaceae)をイチイ科(Taxaceae)に,エダハマキ科(Phyllocladaceae)をマキ科 (Podocarpaceae)にまとめているのが特徴です。またいずれの文献でもスギ科(Taxodiaceae)はヒノキ科 (Cupressaceae)に含められていて,この他にはナンヨウスギ科(Araucariaceae),マツ科(Pinaceae), コウヤマキ科(Sciadopityaceae)の 3 科が認められています。
(2010年01月12日)

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大場秀章 植物分類表 (アボック社, 鎌倉, 2009).

3,500 円(2009年11月発行)

先頃「高等植物分類表」(米倉, 2009)を紹介したばかりですが, 奇しくもほとんど同じ主旨の書籍が異なる著者によって出版されました。 本書も「高等植物分類表」と同様に,維管束植物の主要な属・種(1 万種余り)までの分類表が主役になっています。 「高等植物分類表」では APG II 分類体系を基礎にしているのに対して,本書では Mabberley, D. J. Mabberley's Plant-Book: A Portable Dictionary of Plants, their Classification and Uses, 3rd Edn. (Cambridge University Press, Cambridge, 2008) に基づいていますが,Mabberley (2008) も APG II に基づいた分類体系です。

次に「高等植物分類表」と比べた時の違いを見てみましょう。 まず,属だけでなく種までの分類表になっているため,本書の方がやや価格が高く,倍以上の厚みがあります。 また「高等植物分類表」では過去の分類表との全科対比が大きな特色になっていますが, 本書では全科の対比は行われず,代わりにリンネの分類表から APG II までの分類表 17 種類が羅列されています。 さらにこれと関連して植物分類学の歴史が「附録 II:植物分類体系の変遷」として総説されていて, これが非常に勉強になります。

携帯する場合や従来の資料(図鑑など)と APG II を細かく対比する場合には「高等植物分類表」 が手頃かもしれませんが,種までの分類表が必要な場合や植物分類学の学習も兼ねる場合には, 解説がしっかりしている分,本書の方が有用かもしれません。
(2010年01月04日)

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2009年12月

斎藤恭一 卒論・修論を書き上げるための理系作文の六法全書 (みみずく舎, 東京, 2009).

1,680 円(2009年11月発行)

学術的な文章には独特の決まり事があります。正確に,そして客観的に物事を記述するための作法であったり, 純粋に読みやすさや様式美に関わる決まり事もあります。 このような決まり事を守れない執筆者は研究者として未熟に見られますし, 逆に正しい様式で書かれた文章はそれだけで執筆者の印象を良くするものです。 普通,作文の決まり事については研究室の先輩や指導教官に習うか,添削される中で身につけていくものですが, 細かい点になってくるとルールブックのようなものを参照して整理するのも有効です。

論文の書き方を扱った書籍は既に多数刊行されており,本書もそんな中の一冊です。 本書では特に日本語での論文(卒論や修論)の書き方を中心に「50 条」の決まり事が解説されています。 前半では基本法,単語法,文章法,段落法,論文法,特別法の 6 章にわけて決まり事が紹介され, 後半では「演習編」として様々な決まり事の実用例が演習形式で示されています。 中には既に博士号を取得した筆者にとっても役立つ知見もありました。

ただ 50 条の中にはあまり一般的でない決まり事や心構えに類するものもあれば,機械的で単純な決まり事, 論文全体の構造に関する作文技術などが混在していて,整理がついていない印象を受けました。 簡単なものだけを箇条書きにした表もあれば便利だったと思います。 また堅い印象を与えたくなかったのか,全編にいわゆる「おやじギャグ」が満載で読みづらいのも問題です。 重要な点を冗談と共に印象づけるのは有効ですが,些末な点と重要な点の区別なく冗談を挿入しては逆効果でしょう。 さらに演習問題も内容が著者の専門(材料化学?)に片寄っていて変に解きづらいため, 解説を中心に読んだ方がいいかもしれません。

学生のうちは,自分の作文のどこが「学術的」でないのか,どこを直せばよいのか中々わかりづらいものです。 指導教官に文章を直されて,なぜ直されたのかわからないこともあるかもしれません。 本書を強く推薦するわけではありませんが,論文の書き方を扱った参考書は一度目を通した方がよいでしょう。 学生はもちろん,学生を教える立場になったばかりの教員にもお勧めです。
(2009年12月31日)

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Wellnhofer, P. Archaeopteryx: The Icon of Evolution (Verlag Dr. Friedrich Pfeil, München, 2009).

約 7,000 円(2009年09月発行)

始祖鳥は最初に発見されたジュラ紀の鳥類化石であり,現在に至ってもなお最古の鳥類化石として知られています。 始祖鳥化石の重要性については語るまでもありませんが,現在までに発見された標本がわずか 10 体(+羽1枚) であることは意外に知られていません。本書はこれら少数の化石のうち 4 体もの記載に関わってきた, Peter Wellnhofer による始祖鳥の専門書です(原著はドイツ語で 2008 年出版;Wellnhofer, P. Archaeopteryx: Der Urvogel von Solnhofen, Verlag Dr. Friedrich Pfeil, München, 2008)。 本書は全編にわたってカラー写真・イラストがふんだんに使用され,それだけでも楽しめる美麗な本で, 特に本書の半分近くは始祖鳥の各標本の詳細な記載と解説に宛てられています。 全ての標本について綺麗な写真が示されていて(所在不明の標本についてはレプリカの写真), おそらく他の資料ではこれほど良好な写真を全ての標本について見ることは出来ないでしょう。 情報の豊富さには目をむくばかりで,例えば 2 番目に発見され,最も保存状態の良いベルリン標本については 17 ページに渡って学名,発見地などの詳細,標本の辿ってきた経緯,詳細な記載から分類などが解説されています。 さらに必要に応じて前処理の段階ごとの写真や図解,各部の拡大写真などが各標本について掲載されています。 この他,始祖鳥の発見地の地質学や古環境,あるいは羽毛恐竜や鳥類の初期進化の問題にも章が割かれており, 総合的な資料としても非常に価値があります。単純に,始祖鳥標本の発見や報告までの経緯, 分類学的変遷などだけを読んでも大変興味深く,少しでも始祖鳥に興味があれば楽しめること請け合いです。
(2009年12月24日)

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2009年11月

Frey, W. Ed. Syllabus of Plant Families: Adolf Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien, 13th Edn., Part 3. Bryophytes and Seedless Vascular Plants (Borntraeger, Berlin, 2009).

€89(2009年発行)

古典的な植物の分類体系として有名な Engler の分類体系は 1892 に初版が出版された "Syllabus der Pflanzenfamilien" の体系を指します。この体系は 1954 年と 1964 年に第 12 版の第 1 巻,第 2 巻がそれぞれ出版され, 長らく定番の教科書として利用されました。しかし系統学的な理解が進み,分子系統解析が分類学に導入されたことにより, 第 12 版の体系は古典的なものとして現在ではほとんど見かけることもなくなりました。 そんな中で 40 年以上の時間を空けて,全く新たに編集された第 13 版が刊行を開始しました。

このシリーズではそのタイトルどおり,植物(藻類や菌類も含んだ広義)全ての科までの分類を概説しています。 旧版は全てドイツ語で書かれていましたが第 13 版は英語で執筆されており,日本人にとってはより読みやすくなりました。 まず第 1 段として出版されたのは Part 3 にあたるコケ植物類と種子植物以外の維管束植物(広義のシダ類など)の巻です。 それぞれ上位の分類群(この巻では有胚植物亜界 Embryobionta が最上位)の解説と内部分類の大枠が解説され, そこから順次より細かい分類群の解説と科までの分類体系が示されています。 各分類群の解説は多すぎず少なすぎず読みやすい分量に留まっており,図やモノクロ写真も所々に挿入されているため, 大変わかりやすいと思います。特に対象が現生植物に限られず化石植物も平等に扱っているため, 陸上植物の進化を総合的に見通す資料として全ての植物学者,特に分類学を学びたい学生に推奨できる書籍です。

なお続刊予定の巻は "Part 1. Blue-green Algae, Myxomycetes and Fungi","Part 2. Eukaryotic Algae", "Part 4. Seed Plants, Spermatophytes (1)","Part 5. Seed Plants, Spermatophytes (2)" となっています(全 5 巻)。 Part 4. には裸子植物と被子植物のモクレン群,単子葉植物が,Part 5. では真正双子葉類が含まれるようです。
(2009年11月19日)

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米倉浩司 高等植物分類表 (北隆館, 東京, 2009).

2,500 円(2009年10月発行)

分子系統解析の劇的な進展により,生物の分類体系は大きく変化を続けています。 高等植物の分類体系もその例に漏れず,現在入手可能な図鑑の分類体系はそのほとんどが時代遅れになってしまいました。 本書はそんな中で求められていた,日本語による維管束植物の最新の分類体系がまとめられています。 現在,被子植物の分類体系は "Angiosperm Phylogeny Group"(通称 APG)と呼ばれるグループの提案した分類体系の第 2 版(APG II)です。APG II は 2003 年に出版され(Angiosperm Phylogeny Group, Bot. J. Linn. Soc. 141, 399-436, 2003),標準的な分類体系として国際的に使用されています。APG II 分類表の日本語版は,本サイトでも紹介した 「被子植物の起源と初期進化」(高橋, 2006)や「植物の百科事典」(石井ほか, 2009)に付録として掲載されていますが, いずれも詳細な解説や既存の分類体系との対比はなく,各分類群の実体は別に調べる必要がありました。 またシダ植物についても Smith (2006)(21 世紀のシダ分類)の分類体系が, 分子系統を反映した最新の体系として注目されています。

本書ではこれらの分類体系を分類表としてまとめています。これまでのような付録としてでなく, 分類表自体がメインとなっています。最初に分類体系の概説があり,次に分類表が掲載されています。 分類表では科までの分類体系と共に各科の代表的な属・種も挙げられていて,その実体がわかりやすくなっています。 次に Engler 体系などに基づいた「新高等植物分類表」(伊藤, 1968)と Cronquist の体系(典拠不詳) と本書で採用された分類体系の対応表が掲載されており,これらの体系に基づいた既存の図鑑などを APG II 体系などに当てはめられるようになっています。 あくまで分類表がメインですので,味気ないと思われる方もいるでしょうが,逆に分類表のために 「被子植物の起源と初期進化」や「植物の百科事典」を買うのはためらわれる,と言う方には魅力的に映ると思います。
(2009年11月16日)

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De Vos, P. et al. Eds. Bergey's Manual of Systematic Bacteriology, 2nd Edn., Vol. 3, The Firmicutes (Springer, Dordrecht, 2009).

約 30,000 円(2009年09月発行)

全ての細菌分類学者待望の書籍が遂に出版されました。原核生物全種の詳細な分類体系の確立に向けて出版されている "Bergey's Manual of Systematic Bacteriology" 第 2 版の第 3 巻は,低 G+C グラム陽性細菌(グラム陽性細菌門: Firmicutes)を扱っています。

"Bergey's Manual" と呼ばれるこのシリーズは,1923 年に "Bergey's Manual of Determinative Bacteriology" の第 1 版として最初に出版されました。この書籍は細菌類の同定のための教科書として版を重ね, 1994 年には第 9 版が出版されています。一方で細菌の同定に留まらず原核生物全種の分類体系を包括した "Bergey's Manual of Systematic Bacteriology" の第 1 版が 1984 年から 1989 年にかけて全 4 巻として刊行され, 原核生物の標準的な分類体系を提供する役割を果たしました。 しかしこの初版では原核生物を完全なリンネ式階層の元に整理することは断念しており, 一つの体系にまとめる難しさを示していました。その後,16S rRNA の配列に基づいた分子系統解析が著しく進展し, 現在では分子系統解析が原核生物の分類の基礎を形成するまでに至りました。

そんな中,分子系統に基づいて完全に再構築された分類体系を提示しているのが,2001 年に刊行を開始した "Bergey's Manual of Systematic Bacteriology" の第 2 版です。この第 2 版は全 5 巻として刊行予定で, 2001 年に第 1 巻(古細菌,系統樹の深い位置で分岐した細菌類,光合成細菌)が,2005 年に第 2 巻(プロテオバクテリア) がそれぞれ出版されました。第 1 巻,第 2 巻では各巻で扱われた原核生物の体系のみならず, 原核生物全属の分類表が示されており,これによって原核生物の分類体系は完全に刷新されました。 この分類表では古細菌,真正細菌の各ドメインが門から属までリンネ式の階層分類体系として整理されており, さらに各巻では全種までの分類が詳述されています。

そして今回の第 3 巻では枯草菌(Bacillus subtilis)などを含むグラム陽性細菌門の全種がまとめられています。 第 2 巻までの分類表ではグラム陽性細菌門にクロストリディウム綱,モリクテス綱,バチルス綱の 3 綱が認められていましたが,第 3 巻でグラム陽性細菌門を扱うにあたって,著者らはモリクテス綱(細胞壁を持たない Mycoplasma などの細菌からなる)を除外し,一方でこれまでモリクテス綱に含めていた細胞壁を有する種を新綱の Erysipelotrichia としてグラム陽性細菌門に戻しました(なお 2007 年に提唱されたテルモリトバクター綱は今回, 対象外となっている)。また目以下の分類にも多数の変更がありました。

本書の構成としては,各分類群,それも階級ごとに記載が示されており,それぞれ著者のついた独立の論文となっています。 例えばバチルス綱(新綱)の記載の記事の次にバチルス目の記事,バチルス科の記事と続き, それぞれ多かれ少なかれ解説が与えられています。さらにバチルス科の各属の記事が続き, 各属の記事中にこれまでに記載された全種の簡潔な記載が示されています。すなわち本書を調べることで, グラム陽性細菌門に含まれる全ての分類群の特徴や分類を知ることが出来るのです。 これは分類学者にとっては夢のようなことです。

グラム陽性細菌の仲間は分類学的な混乱が多く,残念ながら今回の改訂によっても十分に整理し切れたわけではありません。 しかしそのような混乱も含めて,これまで分類学者の知見が本書には詰め込まれており, 原核生物を専門にしていなくても非常にわくわくする内容でした。 なお,今回の巻から除外されてしまったモリクテス綱は,次の第 4 巻に収録される予定になっています。 第 4 巻では残りの細菌類のうち第 5 巻で扱われる放線菌門を除いたものが扱われるそうで,こちらも出版が楽しみです。
(2009年11月13日)

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豊国秀夫 編 復刻・拡大版 植物学ラテン語辞典 (ぎょうせい, 東京, 2009).

12,600 円(2009年09月発行)

小野展嗣 編 動物学ラテン語辞典 (ぎょうせい, 東京, 2009).

26,250 円(2009年09月発行)

水谷智洋 編 Lexicon Latino-Japonicum, Editio Emendata: 改訂版 羅和辞典 (研究社, 東京, 2009).

6,300 円 (2009年03月発行)

Stearn, W. T. Botanical Latin, 4th Edn. (Timber Press, Portland, 1993).

約 2,500 円 (Papaerback edition,2004年04月発行)

分類学者にとってラテン語は切っても(切りたくても)切り離せない言語です。全ての学名はラテン語を語源とするか, ラテン語化された他の言語,ないしラテン語として扱われる単語と決められています。 特に現生植物の新分類群が正式に発表されるためには原則としてラテン語の記載文か判別文が必要ですし, 動植物学問わず古典的な文献ではラテン語で書かれているものも少なくありません。 一方で分類学におけるラテン語は,特殊な単語や記載文の慣例などのために古典ラテン語やカソリック教会などで使用される 現代ラテン語とは異なっており,学べる機会や教科書は多くありません。

「植物学ラテン語辞典」は 1987 年に出版され,今回「動物学ラテン語辞典」 の大きさに合わせた拡大版として復刻されました。本書には植物学,特に記載文で用いられる用語が収録されており, 羅和辞典(約 7,800 語。ただし約 1,100 属の学名を含む)と和羅辞典(約 5,400 語)の部分に大きく分けられています。 さらに第 2 部では植物の新分類群を記載するためのラテン語文法について解説されています。

「動物学ラテン語辞典」は「植物学ラテン語辞典」の構成を土台として執筆されており, やはり羅和辞典と和羅辞典に大きくページが割かれています。こちらは約 18,000 語を含んでいるとのことです。 本書にも「解説の部」がありますが,「植物学ラテン語辞典」とは異なり, 学名の語源やラテン語の記載文を読み解くための文法という主旨で書かれているようです。 特に学名に関する議論に力が入っていました。

「植物学ラテン語辞典」と「動物学ラテン語辞典」は著者が異なるため, 微妙に異なる見解も示されていて,例えばラテン語の発音について, 前者ではローマ字読みに近い本来のラテン語読みを推奨していますが, 後者では英語圏で通じやすい英語的な読み方に留意する重要性を説いています。 日本人は特にローマ字読みに馴染みが深く,国際学会で通用しにくい「ラテン語発音」をする傾向があります (逆に学名の英語読みを聞き取るのが苦手です)。しかし国際学会での公用語が英語として統一されるようになった現在, ラテン語に近い発音を正しいとする原理主義は無益であると思います。その点で「動物学ラテン語辞典」 の著者は現実的な立場をとっていると言えます。

実際には分類学者であっても研究の内容によってはラテン語を読み書きする必要に迫られることは必ずしも多くありません。 そのためこの 2 冊の価格には躊躇するかも知れませんが,学術用語の幅広さを考えると 1 冊の辞書だけでは不足する場面も出てくるため,ラテン語に困った経験があるのであれば購入する価値はあるでしょう。 なお分類学に限らない,ラテン語一般の学習に用いられる定番の辞書の改訂版(Lexicon Latino-Japonicum, Editio Emendata: 改訂版 羅和辞典)も本年 3 月に出版されており,こちらも参考になるかもしれません。 また国際的には "Botanical Latin" が定番として活用されています。英文ながら前半の文法解説は見やすく, 後半の辞書部分については羅英と英羅が一体化した独特の構成ながら実際に使ってみると便利に出来ています。 日本語訳が定着していない用語などを引く機会も多いため,できれば押さえておきたい資料です。 ただし普通のラテン単語については収録されていないものが多く,単独で使うには不便な部分もあるでしょう。
(2009年11月11日)

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2009年09月

松浦啓一 動物分類学 (東京大学出版会, 東京, 2009).

2,520 円(2009年04月発行)

動物分類学を扱った書籍というと,動物の分類体系を扱った本か,動物の分類学の方法論を扱った本か, に分けられると思いますが,本書は分類学の入門的な教科書を意図して執筆されています。 著者は魚類の分類学者であるため,本書も基本的には魚類の分類の実際面が中心に紹介されていて, あたかも魚類分類学の初等教科書のようにも見えます。しかし本書を読み進めて行くと, その内容が実際には動物分類学のみならず植物や微生物の分類学にまで通じる奥深い問題を扱っていることがわかります。 もちろん分類群によって分類の方法論には違いがあり,例えば本書で強調されている標本の重要性については, 微生物の場合には事情が違ってきますが(培養株の保存が標本に変わる), 分類学に携わる研究者が見失いがちになること,研究者を悩ませる問題などは強く共感できました。 もしかすると実際に分類学研究を行ったことのない読者には腑に落ちないこともあるかもしれませんが, 分類学を学び初めた学生や若手の研究者にとっては何かしら得るところがある教科書かと思います。
(2009年09月14日)

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Barnes, R. S. K., Calow, P., Olive, P. J. W., Golding, D. W. & Spicer, J. I. 図説 無脊椎動物学 (朝倉書店, 東京, 2009).

23,100 円(2009年06月発行)

本書は 2001 年に発行された "The Invertebrates: A synthesis" 第 3 版の邦訳です。 監訳者の本川達雄の名義が強調されていますが,欧文の教科書が元になっています。 無脊椎動物とは脊椎動物以外の動物を指すことから,無脊椎動物学といった場合, 雑多な生物の雑多な学問を扱っているような印象を受けます。本書においてもこれは必ずしも間違っていませんが, 普遍的な切り口を目指している点で本書は独特であると言えます。 多くの無脊椎動物学の教科書では,無脊椎動物の各門の紹介と,その間の進化・系統関係が主に議論されています。 本書でも前半部分では進化多様性を扱っており,無脊椎動物の各群の詳細を学ぶことが出来ます。 しかし本書の後半では「無脊椎動物の機能生物学」が扱われています。無脊椎動物は数億年に及ぶ進化の中で, 様々な形態を進化させてきました。形態進化は機能と密接に関わっていることから, 無脊椎動物の進化を正しく理解するためにはその生態と,体の各部の機能の理解が欠かせません。 本書はまさにその理解を手助けする内容になっています。 もちろん無脊椎動物と言っても研究が進んだ群もあれば,ほとんど研究されていないものもいます。 従って「無脊椎動物の」機能生物学とは言っても,どうしても研究の進んだ群を中心とした議論になりますが, これを学ぶことは決して無益ではないでしょう。 無脊椎動物の各論も豊富な描画を伴っていて,これだけでも資料として有用です。 原著の発行が 2001 年であるためにこれ以降の分子系統学の著しい発展を反映していない点や, 採用している分類体系がやや特殊な点(例えば節足動物門を複数の門に分割している)にも注意が必要ですが, 致命的な問題ではありません。日本語で読める最近の無脊椎動物の書籍としては 白山義久 編 バイオディバーシティ・シリーズ 5:無脊椎動物の多様性と系統(脊椎動物を除く) (裳華房, 東京, 2000) などもあり,こちらは各群の記載が優れています(本書の原書とほぼ同時期の出版であることに注意)。 しかしより生物学的な側面に興味がある方には本書の方が向いているかもしれません。
(2009年09月11日)

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Takhtajan, A. Flowering Plants, 2nd Edn. (Springer, 2009).

約 33,000 円(2009年10月発行)

被子植物の分類体系には様々な体系が提唱されており,現在主に参照されているのは APG II と通称される, Angiosperm Phylogeny Group による 2003 年に出版された体系です。 この体系では被子植物の目〜科の分類体系が系統樹と共に紹介されていますが,目より上位の階級については, 幾つかの系統群が参照されているだけで,リンネ式の分類群としては採用されていません。 一方で 1940 年頃から被子植物の形態進化を土台に分類体系を発表してきたのが Armen Takhtajan です (現在 89 歳とのこと)。彼の体系では被子植物を大きく双子葉植物と単子葉植物に分けた後, 亜綱や上目の階級を駆使してそれぞれの分類群を細分化するのが特徴です。 本書はその Takhtajan の体系の最新版となっています。 本書の内容としては,科以上の分類群の解説が中心となっています。 被子植物門(モクレン門)とその内部の綱,亜綱,目,科のそれぞれについて解説が与えられていて, 分類体系全体とは別に各分類群の特徴を勉強するために極めて有用です。目の解説には科への検索表もついています。 残念ながら APG II やそれ以降の分子系統解析を完全には把握できていません。 例えば亜綱の分類体系では,分子系統とは相容れない部分がかなりあり, また文献としては最新のものが引用されていても,内容に反映されていない部分もありましたので注意が必要です。 もちろん被子植物の全体を詳述した大仕事ですから,最新の研究を完全に反映することは不可能であり, それは読者の側で補完すべきものでしょう。 引用文献も各目ごとに与えられていて,資料的価値も計り知れず,被子植物の分類学者にとっては必携の書です。 その他の研究者にとっては存在を知っているだけで十分でしょうけれども。 なお,Amazon.co.jp などのサイトでは 10 月出版となっていますが,実際には既に出版されており, 筆者の手元にも届いています。
(2009年09月10日)

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石井龍一 ほか編 植物の百科事典 (朝倉書店, 東京, 2009).

21,000 円(2009年04月発行)

以前に同じ朝倉書店から出版された「微生物の事典」を紹介しましたが(2008年11月), その植物学版です。植物は農学的興味からも理学的興味からも重要な学問ですが, この書籍ではそんな様々な観点からの植物学が紹介されています。章立てとしては「1. 植物のはたらき」 で植物の生理学の,「2. 植物の生活」で生態学の,「3. 植物のかたち」で微細構造から巨視的な構造までの形態学を, 「4. 植物の進化」で系統進化学を簡潔に紹介しており,ここまでが理学的な内容となっています。 後半の「5. 植物の利用」と「6. 植物と文化」は農学よりの内容と言えるでしょう。 植物学は極めて広汎な学問であるため,大著とは言え 1 冊の書籍でその全体を詳述することは不可能であり, 各項目に割かれた分量には不満もあるかもしれません。しかし植物学という巨大な分野を概観し, 特に自分が専門としていない分野の研究を学ぶ手がかりとしては大いに役立つことでしょう。 なお,本書には 7 項目の付録がありますが,その中の「付録 7:植物の分類表と系統図」は注目です。 藻類も含めた植物の分類表は近年大きく変容しており,その最新版に準拠して科レベルまでの分類表と, 対応する目〜科までの系統樹が示されてます。 これは現時点で入手できる日本語の分類表としては最良のものになっていますので, 分類に興味がある方は必見です(実は藻類の部分には筆者も協力しました)。
(2009年09月07日)

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2009年06月

丸山茂徳, ベーカー, V. R. および ドーム, J. M. 火星の生命と大地 46 億年 (講談社, 東京, 2008).

1,890 円(2008年11月発行)

太陽系には現在,地球以外の惑星が 7 個知られています。その中でも地球に最もよく似ていて, 地質学的研究が進んでいるのが火星です。本書は地質学者の著者らが執筆した火星地質学の紹介書です。 火星探査の最大の関心は生命の痕跡,または生命そのものの発見です。 そして本書では火星研究のもう一つの視点として,地球と比較するモデル系としての火星に着目しています。 惑星の環境は惑星の冷却の過程でもあります。太陽系の各惑星は無数の微惑星の衝突・融合によって誕生しましたが, この際の衝突エネルギーは惑星の内部に蓄積されており,これが地熱の源となっています。 年月を経て惑星は冷却されていきますが,小型の惑星ほど冷却が急速に進行することから, 地球より小型の火星は地球よりも速く冷却が進んだはずです。そこで著者らは「火星に地球の未来が見える」 として火星研究の重要性を訴えています。本書はまた,独特の構成を取っています。 本書の前半はなんと,将来の有人火星探査を描いた SF となっています。 この作品中では過去の火星に生命が存在し,それどころか大型の多細胞生物にまで進化したことを想定しています。 本書の後半では火星の地質学と,惑星の地質の変遷を詳細に議論しており, 啓蒙書としては少々マニアックな域にも達しています。後半では火星で大型生物が進化した可能性も説明されており, 前半の SF に一定の説得力を与えています。ただし,著者らは未だ証拠が得られていないことを知りつつも, 火星に生命が出現し,大型生物にまで進化したことを必然であるかのように描いている点には違和感があります。 環境が整えば生物が出現し,大型生物に進化する,というのが必然なのか,それとも地球に固有の現象なのかは, 生命の起源や初期進化の理解が不十分な現状では全くわかりません。むしろその手がかりを得るためにこそ, 火星研究は重要と言えます。仮に火星に生命が繁栄しなかったことが示されたとしても, その発見は地球生命の理解に大きく貢献するはずです。そんな色々なことを考えさせられる刺激的な本でした。
(2009年06月12日)

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2009年05月

Minelli, A. Perspectives in Animal Phylogeny and Evolution (Oxford University Press, Oxford, 2009).

約 6,000 円(2009年02月発行)

近年,様々な動物においてゲノム規模の遺伝情報が入手できるようになってきました。 その結果を受けて発生学の見直しも進み,次々と新たな発見が報告されています。 大規模な分子系統解析とゲノム研究は,動物の進化系統樹を一新し, 動物界の主要な枝については系統樹の大枠が定まりつつあります。しかしゲノム解析が行われていない, あるいは遅れている生物や,特殊な分子進化を行ってきた動物群については系統的位置を巡る論争が継続しています。 もちろんその場合でも系統的位置は(確定しないまでも)少数の可能性に絞り込まれており, 近い将来に共通の見解にたどり着くことが期待されていますが,専門外の人間には混乱して見えるようです。 本書はそんな混乱を見通す大きな手助けとなる教科書です。 本書の前半では動物の系統進化の定説と議論を,分子系統と発生学の立場からバランスよく紹介しています。 特に 4 章と 5 章では近年多用されている動物の系統群を指す様々な名称(その多くは邦訳を持たない) が網羅的に紹介されており,論文などに出てくる系統群を読み解くには大きな手助けとなります。 後半部では前半で紹介された系統進化の仮説を受けて,動物の生活史,発生,体制の進化を著者なりに議論しています。 動物の発生進化について明快な展望を得るにはまだ時期尚早であるとは思いますが, 博識な著者による見解を検討してみるのもいいでしょう。本書はまた大変読みやすく書かれている点でも良著であり, 今,最も必要とされる教科書だと思います。これから動物発生学,進化系統学を始める学生には特にお勧めです。
(2009年05月14日)

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2009年02月

ディクソン, D. いま恐竜が生きていたら (ランダムハウス講談社, 東京, 2008).

1,890 円(2008年12月発行)

恐竜が現在に生きていたとして,という仮定の下で空想を広げた本です。恐竜のような絶滅生物の生態は 化石として残された証拠から間接的に推定するしかないため,科学的に言えることはほとんどありません。 一方で絶滅した生物を研究する目的の 1 つがその姿を理解し,再現することにあることも確かです。 そこで科学的に実証されたことと空想を区別した上で,本書のようなテーマで本を記すのは面白い試みです。 本書の前半では代表的な恐竜を現在の様々な状況に置き,その行動を推測し,再現した絵と解説を載せています。 例えば空港に迷い込んだ巨大な竜脚類や,バファローの群れを追うティラノサウルスなど, シュールな情景が色々と描かれています。もちろんその想像の根拠となった議論が付けられており, 学術的な補足もなされています。本書の後半は完全な空想からは一歩離れて,恐竜学の解説になっています。 と言っても一般向けの本ですから興味を引きそうな話題について絵付きで簡単な解説を与えている程度です。 恐竜について詳しくは無いけれども興味があるという方には本書から学ぶのも良いでしょう。 既に恐竜について知識のある方には後半は不要かも知れませんが,前半部分の空想は楽しめると思います。
(2009年02月20日)

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Goffinet, B. & Shaw, A. J. Bryophyte Biology, 2nd Edn. (Cambridge University Press, Cambridge, 2009).

約 7,000 円(2008年11月発行)

コケ類の定番の教科書。コケ植物の生物学の話題が各章ごとに専門家の手によって執筆されています。 最初の 3 章は苔類,蘚類,ツノゴケ類それぞれの分類体系に充てられており, 最新の分類体系の中に既知の全属が振り分けられています。残りの章では陸上植物の初期進化,発生学,生態学, 種分化や保全などコケ類を巡る様々な研究課題が紹介されています。2000 年に発行された初版から大幅に改訂されており, 新しい章も追加されているそうです(とは言っても章の数はむしろ減っている)。 内容も特に難しく書かれているわけではないので,コケ類の研究に興味があれば本書から入るのも良いでしょう。 ただし必ずしも網羅的とは言えず,例えば近年活発に行われているコケ類の分子系統解析について 詳細に扱った章は見あたりません。分類体系の詳細に相当な分量を割いているだけに, これに対応する系統樹も示して欲しいところでした。
(2009年02月05日)

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2009年01月

Harris, E. H. The Chlamydomonas Sourcebook, 2nd Edn., Vol. 1, Introduction to Chlamydomonas and Its Laboratory Use (Academic Press, Oxford, 2009).

約 10,000 円(2008年11月発行)

Stern, D. B. Ed. The Chlamydomonas Sourcebook, 2nd Edn., Vol. 2, Organellar and Metabolic Processes (Academic Press, Oxford, 2009).

約 10,000 円(2008年11月発行)

Witman, G. B. Ed. The Chlamydomonas Sourcebook, 2nd Edn., Vol. 3, Cell Motility and Behavior (Academic Press, Oxford, 2009).

約 10,000 円(2008年11月発行)

コナミドリムシ(Chlamydomonas)単細胞遊走性の緑藻類で古くより鞭毛運動の研究などに利用され, 遺伝学も進んでいます.昨年には全ゲノム配列も解読され,藻類の中でも最も研究の進んだ生物の一つといえます. そんなコナミドリムシ研究者待望の教科書がこの Chlamydomonas Sourcebook です. 本書はコナミドリムシの実験手法や生物学的知見,特に Chlamydomonas reinhardtii の知見が広く紹介されています (なお,分類額などコナミドリムシの多様性についてはあまり深く触れられていません). 本書の初版は 1989 年に出版されましたが,既に入手困難となっていましたが, 今回の第 2 版の出版により再び広く参照可能になりました.初版は E. H. Harris 一人の手により書かれていましたが, 改訂に当たって,1 巻を E. H. Harris が,2 巻と 3 巻の各章はそれぞれの専門家によって執筆される形になりました. 話題が章ごとに明確に分かれているため,関心のある問題を調べるのに向いています. 現在のところ詳細な生物学が研究されている藻類はほとんどありません.従って本書はコナミドリムシを扱っていなくても, 緑藻など藻類を扱っている研究者には参考になると思います.特に 3 巻は鞭毛運動の研究者にとっては必読かもしれません. 3 巻そろえるにはやや値が張りますが,藻類学者か鞭毛の研究者にはおすすめです. なお,上には個別に購入した場合の価格を示しましたが,3 巻セットで購入するとかなり割安 (約 20,000 円)です.
(2009年01月15日)

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ディクソン, D. 恐竜イラスト百科事典 (朝倉書店, 東京, 2008).

9,975 円(2008年10月発行)

Fastovsky, D. E. および Weishampel, D. B. 恐竜学: 進化と絶滅の謎 (丸善, 東京, 2006).

10,500 円(2006年07月発行)

恐竜を扱った定番の教科書に Fastovsky および Weishampel (2006) がありますが, 本書は恐竜の系統進化を軸としています。そのため個々の恐竜に着目した項目はあまりありません。 一方で大人から子供まで,恐竜の外見に惹かれる人は少なくありません。おそらく研究者であっても, 恐竜のスケール感や現在ではもはや見ることのできない外見への興味は尽きないはずです。 そんな恐竜の復元イラストを中心に描かれた「図鑑」がディクソン (2008) です。 本書は一見,子供向けのイラスト本に見えますが,内容はむしろ専門的ですらあると言えます (専門書とまでは言いませんが)。百科事典の名に恥じぬように,前半では恐竜を巡る古生物学を紹介し (これもフルカラーのイラストつき),後半では個々の恐竜についてページあたり 1,2 種ずつ復元図と解説を与えています。 なお,恐竜以外にも魚竜や翼竜などの絶滅爬虫類も紹介されています。紹介されている恐竜の種類も豊富で, 近年話題になっている多くの新属が紹介されています。 発見が相次ぐ中国産恐竜などについても重要な種類が含まれているので,情報の整理が追いつかない, 多くの恐竜ファンには嬉しい 1 冊です(ただし原書の出版は 2005年)。 個人的に残念だったのは図鑑部分の構成です。本書では三畳紀,ジュラ紀,白亜紀と 3 つの時代区分ごとに分けて 恐竜を紹介しており,例えば翼竜類は本書の中で全く離れた 5 箇所で別々に紹介されています。 系統進化をわかりやすく反映した構成になっていればさらに読み応えのある書籍になっていたかも知れません。
(2009年01月09日)

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2008年12月

北村雄一 ありえない!? 生物進化論: データで語る進化の新事実 クジラは昔,カバだった! (ソフトバンク クリエイティブ, 東京, 2008).

1,000 円(2008年11月発行)

最新の進化論のいくつかの発見を紹介しながら,生物学的な論証とは何かを解説した新書です。 進化研究の上で生物間の系統関係を証明することは必ずしも簡単ではありません。 本書では 4 つの章の中で,クジラとカバの姉妹群関係,鳥類の恐竜起源,天体衝突による恐竜の絶滅, カンブリア紀の爆発における節足動物の進化,がそれぞれどのように受容されてきたのかを紹介しています。 基本的には幾つかの対立仮説の中で何故現在の定説が受容されたのかを議論していて, 分岐学における最節約的な推論や形質の重み付け,共有派生形質の評価,サンプル数の過不足を巡る議論, などが平易な言葉で書かれています。しかしながら平易な言葉しか使われておらず専門用語が対応付けされていないため, より深い勉強に結び付けて行くには不向きという問題もあります。 これは本書の見方がやや偏っているために一層問題になります。 著者は対立仮説の中から現在の定説がどのように優位に立ってきたのかは上手く説明していますが, これが一般に正しいかは疑問です。 例えば形態形質を中心とした分岐学的解析は鳥類と恐竜の近縁性を示すことには上手く活用されてきましたが, 分子系統解析によって大きく覆された場合も少なからずあり,決して常に有効な手法ではありません。 さらに研究者にとって重要な,新しい仮説を生み出す過程についてはほとんど触れられておらず, 本書の主張は科学者,あるいは科学者を志す学生には向いていません。 しかし本書が紹介している話題は進化研究で最新の重要な話題には違いなく, これらの話題を知らない方にはわかりやすい紹介書であるかと思います。
(2008年12月11日)

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2008年11月

渡邉信 ほか編 微生物の事典 (朝倉書店, 東京, 2008).

26,250 円(2008年09月発行)

微生物学の中核は長らく医学と農学だったように思われます。しかしもちろん微生物は理学的にも大変興味深く, 近年では生物多様性の観点からも微生物への注目度が増してきているのではないでしょうか。 本書はそんな新しい微生物学も視野に編集されています。全体は 9 章から構成されており, I では微生物の自然史が扱われていますが,II 章以降は応用に重点が置かれていて従来の微生物学に近いかも知れません。 個人的に好印象だったのは,応用面も含めて微細藻類の扱いがうまく配慮されていたことです (編集委員の筆頭が藻類学者なので,当然と言えば当然かも知れませんが)。 多くの微生物学の教科書などでは藻類についてはおざなりにページが割かれているだけのことが多いのですが, 本書では微細藻類についても専門家による記事が適切に配置されているので安心です。 事典ということで,全てを通読するのは大変ですが,それぞれの記事が優れた読み物にもなっていて, 単なる教科書や資料より一歩踏み込んだ内容になっています。興味のある話題などを拾い読みしたり, 調べ物に用いたり,色々と使い出があるでしょう。
(2008年11月27日)

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国立科学博物館 編 菌類のふしぎ:形とはたらきの驚異の多様性 (東海大学出版会, 秦野, 2008).

2,940 円(2008年09月発行)

東京上野にある国立科学博物館では現在(2008年10月11日〜2009年01月12日),「菌類のふしぎ−きのことカビと仲間たち」 と題する特別展を開催しているそうです。本書はこれに合わせて,国立科学博物館叢書の 1 冊として出版されました。 現在,日本語で読める菌類の教科書としては2005年11月に紹介した「バイオディバーシティ・シリーズ 4: 菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統」があります。同書は菌類の各群の分類や特徴が詳細に解説された良書ですが, その後の数年で菌類の分類体系は大きく変貌しています。これは菌類全体の大規模な分子系統解析の結果を反映したものですが, その詳細を日本語で解説した書籍は今までありませんでした。本書では,その半分程度を占める「2 章:菌類の多様性」で, 菌類の古典的な分類群の詳細な解説と,近年の改訂の詳細が示されています。 この改訂はこれからの菌類学に向けた重要な一歩であり,その解説には一度目を通しておく必要があるでしょう。 この他,菌類の興味深い生態の紹介や,人間生活との関わり,応用などについてもページが割かれており, 菌類学の総合的な教科書となっています。本書はまた,全編がフルカラーであり,様々な菌類がきれいな写真で紹介されています。 カビや酵母などは,これまでの図鑑では線画で紹介されることが多かっただけに, 実物がどのような姿をしているのか見るにはいい機会でしょう。本書は各章がそれぞれの専門家によって記されており, しかもカラー写真であるにも関わらず比較的廉価であることも評価できるでしょう。内容がかなり詳細で深いので, 企画展のパンフレットのように気軽に読むには適しませんが,企画展を離れて独立の教科書として成立しているため, 菌類学者,特にこれから菌類学を学び始める学生にとっては必携の 1 冊となるでしょう。
(2008年11月25日)

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Kirk, P. M., Cannon, P. F., Minter, D. W. & Stalpers, J. A. eds. Dictionary of Fungi, 10th Edn. (CABI International, Wallingford, 2008).

約 15,000 円(2008年11月発行)

Cannon, P. F. & Kirk, P. M. Fungal Families of the World (CABI International, Wallingford, 2007).

約 20,000 円(2007年10月発行)

"Dictionary of Mycology(菌学辞典)" ではありません。"Dictionary of Fungi(菌類辞典)" です。 何も知らずにこの題を見ると,菌学の用語集のようなものを想像するのではないでしょうか。 しかし実際に同書を開いてみると,項目のかなりの割合を分類群名が占めていることに気づきます。 属以上の分類群名が網羅的に収録されており,特に属名については 21,000 余りの全項目のうち 6-7 割を占めてます (異名も含む)。各属については原著者名,所属する科名,種数,分布,参考文献などが記されています。 属の特徴がないのは意外かも知れませんが,参考文献があるため,返ってより深い情報収集を可能としています。 論文などで見たこともない学名を見かけたとき,その生物の所属が簡単に調べられるのは非常に便利です。 もちろん菌類の分類学において重要な一部の用語の解説も与えられていますので,用語集としての役割も持っています。 現在の版が第 10 版である,という数字の大きさからも評価の高さが窺えるでしょう。 なお,菌類のうち真菌とは系統的に異なるものについては,(所謂)クロミスタ類の菌類(卵菌,サカゲツボカビなど) と,他の原生動物に属する菌類(粘菌類など)がそれぞれ独立の節に分けられました。大分類を反映している一方で, やや使いにくくなった点は否めません。しかもこれらの菌類(偽菌類) の用語については便宜上真菌の節に含めているそうなので(確かに用語については明確に区別できないでしょう) 注意も必要です。さて,"Dictionary of Fungi" で属名を調べても,前述の通り実際の菌類の姿とは結びつきません。 しかし調べた属の属する科名がわかれば,その科の特徴を調べる書籍が別に出版されています。 "Dictionary of Fungi" の 10 版を補完するために作られたこの本こそ "Fungal Families of the World" です。 本書は近年大幅な改訂が行われた分類体系に沿って,真菌類(微胞子虫類や原生動物を除く)に認められている全 536 科について詳細な解説を与えています。各科名について所属(門,目),形態的特徴,主要な属,分布, 経済的重要性,生態,注釈,参考文献が記されています。本書のもう一つの特徴は多くの科(400 科以上) について図が与えられ,その大部分がカラー写真であることです。その分価格が上がっている気もしますが, 写真を眺めるだけでも楽しめるので,"Dictionary of Fungi" よりも読み物としては面白いかも知れません。 ただどうしても残念なのが,"Dictionary of Fungi" の影響なのか,全科がアルファベット順に並んでいることです。 隣接する項目に全く関連が無く無秩序になっているため,読み物としての価値を損ねています。 もし次の改訂版がでることになれば,各科を分類体系に沿って配置していただきたいと思います。 菌類には大型のキノコだけでなく,微細なカビや酵母の仲間も含まれます。微細菌類にはあまり光が当たりませんが, この 2 冊はサイズにかかわらず全ての菌類を平等に扱っています。菌類に関心のある方は是非 2 冊とも手元に置いて, 幅広い目線で菌類を眺めていただきたいと思います。
(2008年11月11日)

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2008年10月

鈴木忠 および 森山和道 クマムシを飼うには: 博物学から始めるクマムシ研究 (地人書館, 東京, 2008).

1,470 円(2008年07月発行)

鈴木忠 クマムシ?!: 小さな怪物 (岩波書店, 東京, 2006).

1,365 円(2006年08月発行)

ちょっと変わった生物に興味がある方ならクマムシの名前を聞いたことがあるかもしれません。 あるいは「クマムシ?!」でクマムシを知った方も多いでしょう。クマムシは緩歩動物門に属する無脊椎動物の総称で, 熊のようにのそのそと動く体長 1 mm にも満たないような微小な動物です。 この動物はその「かわいらしい」外見と共に,乾燥状態で長期間耐えるための特殊な状態(クリプトビオシス) を取ることでも有名です。この状態では体内の水分がほとんどなくなり, 結果として様々な環境ストレスにも耐性を持つと考えられています。 ここで紹介する 2 冊はクマムシの研究者によるクマムシの紹介書です。「クマムシ?!」 では著者自身がクマムシの研究を始めた経緯から,クマムシの生物学について平易に紹介されています。 特にクマムシにまつわる多くの資料や観察写真などが掲載されており, クマムシに興味を持つ人たちに楽しめる 1 冊となっています。 「クマムシを飼うには」の方は同じクマムシ研究者へのインタビューであり,クマムシの培養の指南書ではありません。 元々はメールマガジンとして公開されていた内容を再録したものとのことで, まえがきによれば「『クマムシ?!』の副読本のようになって」いるそうです。 「クマムシを飼うには」は対談形式と言うこともあって,「クマムシ?!」と比べると読みやすくなっていますが, 図は少なめで,また多くが「クマムシ?!」からの再録であるため,地味な印象もあります。 内容についても「クマムシ?!」の内容を振り返って話している部分が多く, 勉強のために読むものではなく,気軽に楽しんで読む本であると思います。 これまでクマムシを中心扱った和書には例がなく,その点で両書は大変挑戦的な啓蒙書であると言えます。 一方で,クマムシ研究が未成熟なためか,多くの内容が「触り」の段階に留まっているのが残念です。 著者らや,両書を読んだ将来の研究者によってより充実した研究がなされるよう期待したいところです。
(2008年10月08日)

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2008年09月

ウィルストン, J. E. 種を記載する: 生物学者のための実際的な分類手段 (新井書院, 東京, 2008).

8,190 円(2008年07月発行)

全ての分類は地球上に存在する生物の種を整理する作業であり,分類学の礎は種の記載にあるといっても過言ではありません。 そして地球上にはまだまだ未記載の種が無数に残されており,毎日のように新種の記載論文が出版されています。 新種の記載は,新しく見つかった種を他の科学者が活用できるようにすることを目的として行われ, 命名規約を厳密に守った形でなされなければなりません。同時にその新種をより正確に,よりわかりやすく記述するために, 新種の属する分類群の慣習を守った形で記載文を書くことも望まれます。しかしこのような作業は初学者には困難であり, 新種の「発見」が益々増加している現在にあって,発見された新種が「記載」されるのを妨げているとも言えます。 そこで役立つのが本書です。本書ではその題の通り,新種の記載に関する作業が事細かに解説されています。 例えば分類学の論文の読み方,書き方などは独特の様式を持っているにもかかわらず,解説書などはほとんどありません。 このような内容が具体的に記されている同書は便利なことこの上ありません。 著者自身は動物の分類学者のようですが,一応植物も扱われており,分類学者の卵にとっては必携の書となること請け合いです。 また既に新種の記載を行った経験者であっても,改めて分類学の根幹を振り返るよい機会を与えてくれることでしょう。
(2008年09月09日)

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Ogg, J. G., Ogg, G. & Gradstein, F. M. Eds. The Concise Geologic Time Scale (Cambridge University Press, Cambridge, 2008).

約 5,000 円(2008年08月発行)

層序学は各地の地層を比較し,含まれる化石などの情報を用いて世界中の同時代の地層を対応づけ, あるいはその前後関係を明らかにする学問で,いわば地球の歴史年表を構築する研究でもあります。 かつては地域ごとに異なる時代区分が用いられていましたが,現在は 1 つの国際的な地質年代表への統合が進められています。 その成果は 2004 年に 1 冊の書籍にまとめられました(Gradstein, F., Ogg, J. & Smith, A. Eds. A Geologic Time Scale 2004 (Cambridge University Press, Cambridge, 2005). 通称 GTS04,GTS2004 など)。 しかし GTS2004 は各地質区分の詳細な研究成果が解説されているために分厚く,敷居が高い書籍でした。 そこで改めて出版された簡易版が本書です(通称,GTS08,GTS2008)。本書では各地質区分(主に「紀」の単位)ごとにその歴史, 各地の地層の対比の手段(生物層序,地磁気層序など),絶対年代決定の方法,今後の展望などが簡単にまとめられています。 また本書は単に GTS2004 の抜き出しではなく,GTS2004 以降の変更に基づく絶対年代の更新が行われているほか, 今後に計画されている月,火星,水星などの地質年表や,先カンブリア代の地質区分の大幅な変更案なども紹介されており, まさに GTS2008 として GTS2004 と区別されるべき最新の国際地質年代表の解説書となっています。 残念ながら,一部の絶対年代は旧来のアルゴン−アルゴン法に基づく値が用いられており, 最近指摘されているこの方法の誤りは考慮されていません(簡単に紹介はされている)。 地質年代表の大幅な更新は 2010 年出版予定とのことで(GTS2010?),それはそれで楽しみですが, GTS2008 は地質学の専門家でなくとも読みやすく書かれていて,学生,進化生物学の研究者などにもお薦めです。 ちょっとした参照にも便利なので興味があるかたはお手元に置いてみてはいかがでしょうか。 付録のしおり(地質年代表の要約が印刷されている)も使えるかも知れません。
(2008年09月02日)

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2008年08月

加納圭 ヒトゲノムマップ (京都大学学術出版会, 京都, 2008).

2,310 円(2008年06月発行)

ヒトゲノムプロジェクトが成果を収め,現在ではヒトゲノムをデータベースからだれでも入手できるようになりました。 しかしゲノムの全体を俯瞰することは簡単ではありません。そんな中,2006 年に文部科学省は「一家に 1 枚ヒトゲノムマップ」 と称するポスターを配布しました。このポスターにはヒトの染色体全 24 種類(常染色体 22 種類,性染色体 2 種類) の代表的な遺伝子(全体の約 1 %)の位置が示され,さらにその一部については機能の解説が簡単に書かれています。 本書はこのポスターのより詳細な解説書という位置づけになっています(ポスターも付録に付いている)。 ヒトゲノムを理解するために必要な知識,すなわち分子生物学(DNA の複製や転写,翻訳などタンパク質合成について) の歴史と基礎的な解説に始まり,遺伝と進化についての解説が第 1 章と 2 章で与えられ, 次にヒトの身体で起きている様々な現象について,関与しているタンパク質との関係を中心に具体的に解説されています (第 3 章)。第 4 章ではヒトゲノム計画とその後の研究,倫理的な問題についても触れられています。 そしてポスターに掲載されていた全ての遺伝子(多くは名前だけしか載っていなかった)の解説が付録として掲載されています。 ヒトの分子生物学の簡潔な紹介としてよくまとまった本になっていますので,一度分子生物学を学んだことがあっても, 復習を兼ねて読むことができるかと思います。生体現象の多くが分子レベルで理解できている現状がよくわかるでしょう。 ただ,複雑な現象について文章だけで説明されている箇所が多く, 初めてその現象を学ぶ人間にとっては意味がわからない部分もあるかも知れません。 この点は図を多用することで解決できたはずなのでやや残念です。
(2008年08月07日)

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2008年07月

日外アソシエーツ 植物 3.2 万名前大辞典 (日外アソシエーツ, 東京, 2008).

9,800 円(2008年06月発行)

本書は植物の和名から学名などの情報を引くための辞典です。対象は主なキノコや大型藻類などから顕花植物までで, 微細藻類などは含まれていないようです。凡例によると収録対象は「国内の代表的な図鑑・百科事典に掲載されている植物」 とのことで,園芸植物なども広く収録されています(学名のカタカナ表記も多い)。各植物については学名,所属する科, 簡単な特徴(「〜科の落葉低木。高山植物」など)やサイズが示されていますが,それ以上の情報はないため, 単独ではあまり役に立ちません。むしろ図鑑やインターネットなど他の資料を調べるための手がかりとして使えるでしょう。 ただし学名から和名を引くことはできないため,さらに用途が限られてしまっているのは残念です。 園芸植物の学名が簡単に調べられるのが一番の長所でしょうか。値段も安くはありませんので, 和名から学名を調べる機会が多い方でなければ食指は動かないかも知れません。
(2008年07月31日)

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村上龍男 山形加茂海岸のクラゲ (東北出版企画, 鶴岡, 2008).

1,800 円(2008年04月発行)

筆者は 4 月から山形県鶴岡市在住なのですが,加茂へは時々研究試料の採集に行っています。 その加茂周辺のクラゲの本が出たということで紹介させていただきます。加茂には加茂水族館という水族館がありますが, この水族館の売りがクラゲの常設展示です(クラゲアイスなどクラゲ料理?もあります)。 クラゲは現地で採集されたものが多く,その記録となるのが本書です。 本書は当地のクラゲの図鑑であると同時にクラゲの写真集としても魅力を放っています。 執筆およびクラゲの写真の撮影は加茂水族館の館長の手により,学術面は専門家の監修を受けています。 さて内容については図鑑の体裁はとっていますが,本文は各種のクラゲの学術的な解説というより, 著者の採集体験をもとにしたコメントとなっています(コラムもあります)。結果として専門書とは言えませんが, 一般の読者に読みやすく,また何より生の情報が記されている貴重な資料となるでしょう。 写真を見ていると実際に海に生きているクラゲを観察したくなってくる,そんな一冊です。 海でクラゲを観察するのが難しければ,是非水族館へ。
(2008年07月16日)

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2008年06月

宇佐見義之 カンブリア爆発の謎:チェンジャンモンスターが残した進化の足跡 (技術評論社, 東京, 2008).

1,659 円(2008年04月発行)

前回紹介した「澄江生物群化石図譜」と比較すると,より一般向けに執筆された澄江生物群の紹介書です。 同書の大まかな内容としては,前半で概論とカンブリア紀以前の動物進化について触れ, 後半で澄江生物群の主立った動物について,進化的な話と絡めながらの各論が行われています。 前半のエディアカラ生物群に関する解説から澄江生物群に関する研究の経緯の紹介などは, これまで日本語での資料がごく限られていたため貴重な一冊となっています。 装丁などからはあまり本格的な印象を受けませんが,実際には文献参照まで含めて,最新の進歩を反映した質の高い解説書です。 後半の書く生物の解説がマニアックになっていると言えばそうですが,十分に楽しく読める内容です。 残念なのは生物の名称がカタカナ表記だったことで,興味を持って検索しようとしても学名の綴りがわからないのは問題です。 以前なら一般読者向けにはカタカナ表記の方がよかったかも知れませんが,今やインターネットで画像検索なども容易にできるわけで, そのためには学名の原綴りを載せた方が絶対に良いと思います。さて,本書の最終章は著者自身の研究紹介になっています。 具体的には適応的な形態を理論的に明らかにし,化石の解釈に適用していていくような話でしたが, 本書の中では異色の話題で面白く読めます。ただこれもページ数が少ないのが残念でした。
(2008年06月13日)

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2008年05月

ホウ, X. ほか 澄江生物群化石図譜:カンブリア紀の爆発的進化 (朝倉書店, 東京, 2008).

9,975 円(2008年03月発行)

動物の化石記録はカンブリア紀に飛躍的に増加します。この現象はカンブリア紀の進化の爆発とも表現され, 様々な啓蒙書などのおかげで古生物学に興味を持つ多くの人に知られるようになってきました。 軟体部が保存された優れた化石産地としては,有名なバージェス頁岩(カナダ),グリーンランドのシリウス・パセット, そして中国雲南省の澄江(チェンジャン)の 3 ヶ所が主に知られています。この内シリウス・ パセットについては化石写真を中心とした書籍は出版されていませんが,バージェス頁岩についてはブリッグスらによる 優れた紹介書があります(Briggs, D. E. G., Erwin, D. H. & Collier, F. J. バージェス頁岩化石図譜 (朝倉書店, 東京, 2003).5,670 円)。 同書に掲載されたバージェス頁岩の化石の保存状態も素晴らしいものがありますが, 澄江の化石の保存状態はそれを超える良好なものです。このことは澄江生物群を扱った中国の書籍の多くがフルカラーであることにも 現れています。澄江生物群の本は中国語で書かれたものがほとんどでしたが,2004 年になって,澄江生物群の発見者である候先光 (Hou, Xian-Guang)を筆頭著者として英語で書かれた書籍が登場しました。本書はその邦訳になります。 本書は日本語で読めるものとしては,澄江生物群を扱った唯一にして最も包括的な文献であり, 他の中国語の文献と比較しても学術的な正確さ,写真・復元図の質,いすれの点でも優っていると思います。 カンブリア紀の化石を巡る一般向けの書籍の多くは,復元図が中心で少数の化石写真しか含んでいないことがほとんどです。 しかし澄江生物群の魅力は化石の抜群の保存状態です。奇跡的な保存状態の美麗な化石は写真で見てこそ価値があります。 皆さんも是非,本書を手に 5 億 3000 万年前の海を想像してみてください。
(2008年05月22日)

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2008年04月

藤倉克則, 奥谷喬司 および 丸山正 編 潜水調査船が観た深海生物: 深海生物研究の現在 (東海大学出版会, 秦野, 2008).

7,140 円(2008年02月発行)

本書は海洋研究開発機構による深海生物研究の成果を中心に日本近海の深海生物の姿をまとめた大著です。 本書を手に取ったほとんどの読者は,本書の 6 割程度を占める第 III〜V 部に目を奪われるはずです。 この 3 部は深海生物の写真図鑑であり,日本近海で見られる深海生物が生息環境ごとに 1 種 1 種簡単な説明と共に紹介されています。 素晴らしいことに全てがカラー写真で,生き物好きの全ての読者にとって魅力的な作りになっています。 第 I,II 部は深海生物学の概論ということで,深海生物学に関心のある研究者,特に学生のために有用な内容です。 第 VI 部はいわば第 III〜V 部の補足で,主な分類群の一般的な特徴が解説されています。第 VII 部では国内・海外の潜水調査船が紹介され, 機械好きな人に嬉しい内容かも知れません。深海の生物はしばしばグロテスクな形態などがクローズアップされますが, 本書では独特な形態のものもそうでないものも含めて多数の生物が写真付きで紹介され,他の一般向けの深海生物の本とは一線を画しています。 一般にカラー写真を多用した書籍では内容が専門的でないものが多く,逆に専門書では味気ないイラストしか与えられないことが多いのですが, 本書は写真,内容が両立している点で大変珍しいと言えるでしょう。全編フルカラーであることを踏まえればこの価格もむしろ割安でしょう。 「本書を読むにあたって」には「海洋生物学,動物分類学,海洋学の基礎的な知識を修得している読者」を想定している旨が記されていますが, 写真だけでも十分に魅力的ですので,是非一般の読者にもお勧めしたいと思います。
(2008年04月24日)

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石川良輔 編 バイオディバーシティ・シリーズ 6:節足動物の多様性と系統 (裳華房, 東京, 2008).

6,615 円(2008年04月発行)

バイオディバーシティ・シリーズは 1996 年に発行された 1 巻に始まる 7 巻完結予定のシリーズでした。 そして開始から 10 年以上,今回の 6 巻で遂に待望のシリーズ完結巻が出版されました。 その 6 巻はそのサブタイトルの通り節足動物を扱っています。節足動物は最も多様性の高い動物群であり, 5 巻の無脊椎動物の巻から特に分けて扱われました。例によって構成はシリーズの他の巻と同様で,初めに総論, そしてグループごとの各論,最後に分類表となっています。節足動物は素人目にはどのグループも互いに似ていますが, このような横断的な解説は大変勉強になります。特に節足動物については昆虫や甲殻類などメジャーなグループの解説書は 色々と出版されていますが,逆にマイナーな生物については日本語での解説がほとんどないこともあります。 本書(シリーズ)の特徴として,必ずしも有名でない小さいグループについても平等にページが割かれているため, マイナーな生物の情報を得ることができる貴重な教材となっています。 7 巻全てを通じて同様の解説がなされているおかげで,全生物の網羅的な解説書が完成しました。 分子系統解析が活発になされるようになった現在,グループの名前は耳にするけれどもどんな生物かわからない, そんな時に本シリーズは大変ありがたい存在であると言えます。 ただ,残念ながら 1 巻が出てからの十数年の内に分子系統解析の伸展は著しく,また重要な分類群の発見や, 過去の分類の見直しなども相次ぎました。これをフォローする補遺などが出版されれば,なおありがたいのですが, さて予定はあるのでしょうか(あわせて通巻の索引も欲しいですね)。もちろん研究者であれば, 自力でその後の展開を調べる能力も必要ですが。
(2008年04月22日)

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2008年01月

山岸高旺 淡水藻類:淡水藻類属総覧 (内田老鶴圃, 東京, 2007).

52,500 円(2007年12月発行)

少々マニアックな本の紹介を。分類学においては最新の研究のみならず,これまでの研究の系譜が重要な意味を持っています。 特に分類群の最初の記載(原記載)はその分類群の基準を設立すると同時に命名規約上の優先権にも関わることから, 常に比較の対象となります。一方で古い時期(19世紀やそれ以前)に記載された分類群は原記載を見つけるのが大変な場合もあります。 これまでは特定の分類群を記載・総説したモノグラフや,特定の地域の藻類を網羅的に扱った植物誌などを参考にしていましたが, いずれも扱う生物に偏りがあり,淡水藻類全体を網羅した「データベース」が望まれていました。本書はまさにそのような 「データベース」としての役割を果たすもので,2000 年までに記載されたほぼ全属の淡水藻類を網羅的に紹介しています。 また本書は単なる書誌情報の「データベース」に止まらず,個別の属に関する形態的,歴史的な解説が与えられています。 通常,このような書籍は既存の洋書の焼き直しであることが多いのですが,本書は著者による長年の情報収集の成果をまとめたもので, 他の洋書では学名しか出てこない正体不詳な属についても図付きで紹介されるなど,独自性にも富んでいます。 一方で,淡水藻類の分類は分子系統解析の導入によって大きな変化を迎えています。本書の採用している分類体系はその点で古典的で, 属より上位,一部属の階級においても現在では受け入れがたい分類体系が用いられていることについては注意が必要です。 また,データが 2000 年までに記載された属に限定されているため,それ以降の情報については読者がフォローする必要があります。 もっとも 2000 年以降の情報についてはインターネット上で入手できるものがほとんどですから, さほどの労力は要求されませんが。
(2008年01月30日)

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フリックヒンガー, K. A. ゾルンホーフェン化石図譜[I]:植物・無脊椎動物ほか (朝倉書店, 東京, 2007).

14,700 円(2007年05月発行)

フリックヒンガー, K. A. ゾルンホーフェン化石図譜[II]:脊椎動物・生痕化石ほか (朝倉書店, 東京, 2007).

12,600 円(2007年07月発行)

張弥曼, 陳丕基, 王元青 および 王原 編 熱河生物群化石図譜:羽毛恐竜の時代 (朝倉書店, 東京, 2007).

9,975 円(2007年11月発行)

現在の地球上と似た生態系が成立したのは新生代ですが,有胎盤哺乳類,鳥類,被子植物など多くの生物群の起源は, 中生代の白亜紀前期からジュラ紀後期に遡ります。中生代にはまた,今や絶滅した恐竜や翼竜などの生物群も同時に存在していました。 そこで白亜紀初期やジュラ紀後期の生態系の研究は,現在の生態系の要素の始まりを理解するために重要になってきます。 紹介する 3 冊は同じ監訳者(小畠郁生)によって同じ出版社(朝倉書店)から立て続けに出版された化石図譜の翻訳書です。 いずれもそれぞれの時代における最高の化石産地として知られるゾルンホーフェン(ジュラ紀後期,ドイツ)とかつての熱河省, 現在の遼寧省西部,河北省北部,内モンゴル南東部に渡る化石産地(白亜紀前期,中国)を扱った書籍です。 これらの化石産地の特徴は,その抜群に良い化石の保存状態です。多くの化石において軟体部が保存され, ゾルンホーフェンからは鳥類の起源に迫る始祖鳥化石が,熱河からは多数の羽毛恐竜や原始的な哺乳類, 最古級の被子植物などが報告され,NatureScience など一流学術誌の紙面をしばしば賑わせています。 個々の化石については論文や他の媒体で目にすることが多いかと思いますが, 生態系を学ぶためには同じ産地からの化石を総覧することにも大きな意義があります。 これらの本はそのような目的に適う内容で,無数の美麗な化石写真が掲載されています。いずれの本も化石産地に関する概論から始まり, 次に分類群ごとに写真を軸にした解説がなされています。ただし主眼はあくまで写真に置かれているようですので, 学術的議論については別の資料を参照した方がいいかもしれません。むしろ様々な生物の化石写真を楽しむのに良いでしょう。 なお,ゾルンホーフェンは潟湖の地層であるのに対して,熱河は陸生の地層と考えられています。 そのため含まれる生物の様子もがらりと変わっていますので,その辺りの違いも楽しめるのではないでしょうか。 全て集めると少々値が張りますが,オールカラーで化石写真が楽しめるわけですから妥当な価格と言えるでしょう。 ちなみに原著の価格と比べても同等あるいは安いくらいです。
(2008年01月25日)

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Alberts, B. et al. Molecular Biology of the Cell, 5th Edn. (Garland Science, New York, 2007).

約 16,000 円(ペーパーバック版)(2007年12月発行)
約 17,000 円(ハードカバー版)(2007年12月発行)
約 28,000 円(参考版)(2007年12月発行)

もはや定番の教科書「細胞の分子生物学」の原書第 5 版が出版されました。生体分子から多細胞生物の発生に関わる分子機構まで, およそ分子生物学に関するあらゆる課題が解説されています。この教科書では豊富な図版(ほとんど全てのページに図版あり) によって解説も平易で非常に詳細になっています。全体は 5 つの Parts に別れており,順に "INTRODUCTION TO THE CELL", "BASIC GENETIC MECHANISMS","METHOD","INTERNAL ORGANIZATION OF THE CELL","CELLS IN THIER SOCIAL CONTEXT" となっています。 それぞれの part は複数の chapters からなっており,通して 25 chapters から構成されています。 各 chapter は基本的には独立した作りになっているため,関心のある chapter だけを読むことも可能です。 また各 chapter は複数の大見出しが含まれており,各大見出しの最後に要約が記されています。 図版の説明文も充実しており,本文を読み通す時間がない場合には,図と説明文,そして大見出しごとの要約を中心に読めば, 一通りの学習ができるかと思います。旧版との違いがどの程度なのか細かいところは分かりませんが, 章構成には目立った違いはないようです(一部の章の合併や独立はあり)。ただし旧版の出版以降エピジェネティクスやゲノム研究。 幹細胞の研究などは著しい進展を果たしていますので,大きく改訂されているものと思われます。 また,第 4 版までとの最大の違いは,第 5 版では多細胞生物の発生や免疫などに関する第 21〜25 章が付録の DVD-ROM に PDF の形で含まれており,通常の版では印刷されていません。どうしても全て印刷板で必要な場合には,高くなりますが, 参考版を購入してください(ハードカバーのみ)。なお,DVD-ROM にはプレゼンテーション用に本文中の図版や, 関連する動画なども含まれています。試験勉強などの目的で利用することもあるでしょうし, 研究の過程で新しい分野の知識が必要になったときにも役立つことでしょう。常に最新版が必要かどうかは断言できませんが, とりあえず旧版をお持ちでない方にはお勧めです。第 4 版では日本語版は 3 年遅れでニュートンプレスより出版されていますので, 英語版を購入するか日本語版を購入するか(あるいは両方!?)も検討の余地ありです。
(2008年01月22日)

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Round, F. E., Crawford, R. M. & Mann, D. G. The Diatoms: Biology & Morphology of the Genera (Cambridge, Cambridge, 1990).

約 10,000 円(2007年12月ペーパーバック版発行)

厳密には新刊ではありませんが,珪藻の教科書の廉価版です。珪藻は様々な環境から採集される上,化石記録も豊富な微細藻類です。 旧来の分類は主としてガラスの殻に基づいて行われてきましたが,電子顕微鏡はさらに微細な殻の形質比較を可能にしました。 本書では現生の珪藻の 250 属以上を電子顕微鏡を用いて観察し,さらに従来余り用いられていなかった葉緑体の形態など, 細胞自体の形態も含めて全面的な分類の見直しを行っています。本書が出版される以前は珪藻を中心目と羽状目の 2 目に分類するのが一般的でしたが,ここでは 40 目以上に細分化しており,その後の珪藻の分類に大きな影響をもたらしました。 細分化した分類体系はその後の分子系統解析の結果に基づいて修正されていますが,現在の分類の土台になっています。 本書は前半で珪藻の形態形質などを詳細に紹介し,さらに生態や進化などにも触れています。 この部分は珪藻の生物学の教科書と言えるでしょう。そして後半部分で珪藻の属の各論を与えています。 各属には 2 ページが割り当てられ,左ページの半分でその形態などを記載し,残りを光学・電子顕微鏡写真が占めています。 この顕微鏡写真が圧巻で,そのほとんどは著者ら自信のサンプルに基づいているそうです。 多くの分類群(特に高次分類群)の記載も本書で行われているため,珪藻の分類学者にとって必携の書であるばかりでなく, 珪藻の教科書として現在でも通用するのではないかと思います(出版から 17 年経過しているため,情報はやや古いかも知れません)。 藻類の研究者で未だ本書をお持ちでない方は,ペーパーバック版の出版を機に購入を検討してみてはいかがでしょうか。
(2008年01月21日)

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Brodie, J. & Lewis, J. Eds. Unravelling the Algae: The Past, Present, and Future of Algal Systematics (CRC Press, Boca Raton, 2007).

$113.10(2007年11月発行)

藻類とは酸素発生を行う光合成生物の内,陸上植物を除いた「原始的」なものの総称です。 そのため藻類には系統的,形態的あるいは生理的に極めて多様な生物が含まれています。 このような多様性を把握するにあたって分子系統解析や電子顕微鏡のような手法は大きな威力を発揮し, これまでの藻類の分類学を一新するかのような進歩をもたらしました。 この本では現在発展著しい藻類の進化・分類学に関するシンポジウム(2006年)の内容を論文にしてまとめています。 総論およびほとんど全ての藻類群を網羅する各論が与えられており,それぞれ最新の動向を知ることができるでしょう。 やや分類研究に特化している印象はありますが,藻類進化の研究者であれば目を通したい一冊かと思います。 特に各藻類群の各論はいずれも最先端の研究者による最新のレビューですから,ここ数年の最新論文をチェックし切れていない研究者や, これから藻類の進化・分類学の研究を始めようとしている学生には一読の価値があるはずです。
(2008年01月15日)

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2007年12月

日本植物分類学会 国際植物命名規約邦訳委員会 訳・編 国際植物命名規約(ウィーン規約) 2006 日本語版 (日本植物分類学会, 上越, 2007).

2,500 円(2007年11月発行)

以前に原著(英語版)を紹介しましたが,植物の学名を決めるためのルール,命名規約の日本語訳です。 国際植物命名規約の場合,正式版は唯一英語版だけですので原則として英語版を参照する必要があります(後に出版され, 日本語版にも反映された訂正を除く;McNeill, J., Turland, N. J. & Wiersema, J. H. Corrections to the Vienna Code. Taxon 56, 585-586 (2007))。しかし命名規約の表現は,曖昧性を排除するため,あるいは特殊な状況を表現するため, など様々な理由から独特で難解になっている場合があります。そんなときに役立つのが日本語版です。本書は国際植物命名規約の最新版 (ウィーン規約)の日本語訳で,日本植物分類学会の国際植物命名規約邦訳委員会によって翻訳されたものです (筆者も参加しました)。保存名のリストなどは翻訳には含まれず,直接英語版を参照する必要がありますが (オンラインでも公開されている;INTERNATIONAL CODE OF BOTANICAL NOMENCLATURE online),日本語版独自の「植物命名法用語集」 (原著にもある「用語解説」とは別物)が追加されています。また "epitypy"(エピタイプ)に対して「解釈基準標本」 という新訳語がつけられるなど,命名法に関する訳語も更新されています(「日本語版あとがき」を参照)。 植物分類学に携わる研究者や興味のある学生まで,手元に置いておきたい書籍かと思います。なお,前回の「セントルイス規約」 の日本語版は完売していますので,ウィーン版についても必要な方はお早めにご購入下さい。
(2007年12月25日)

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2007年10月

ギボンズ, A. 最初のヒト (新書館, 東京, 2007).

2,520 円(2007年08月発行)

人間の起源はダーウィン以来,進化学の大きな課題の一つであり続けています。 現在では分子系統解析や初期人類の化石の比較などから,ヒトの現生の姉妹群はチンパンジーであり, 600〜700 万年前ごろのアフリカで両者が分岐したことが定説になっていますが, ここに至るまで長い研究の紆余曲折を経ています。本書はそんな古人類学研究の歴史を綴ったドキュメンタリーです。 著者のアン・ギボンズ(Ann Gibbons)は Science 誌のライターで,主に人類学の話題を紹介しています。 そのため正確な知識に恵まれていて,しかも現場に近いと同時に直接の研究からは離れている,という, ドキュメンタリーを執筆するために最適な立場で執筆されています。 古人類学の紹介にも様々な切り口がありますが,本書は特に化石の発掘に携わった研究者たちを軸に歴史を追っています。 最古の人類化石は研究者のみならず一般大衆の興味をもかき立てる話題であることから, その研究者は特殊な立場に置かれることになります。最古の人類化石の発見とその解釈を巡っては, 研究者のグループ間で激しい競争と論争が繰り広げられているそうです(ほとんど泥沼に陥っているようです)。 特に近年の新しい化石の発見ラッシュの裏側にどのような人間関係,立場の違いがあったのかは論文からは読み取れません。 本書を読んで研究の背景をのぞき見れば,古人類の研究についての理解も深まるかもしれません。 もちろん読み物としても面白い本ですので,太古のロマンや研究者の現実に興味があればぜひ一読のほどを。
(2007年10月10日)

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2007年08月

アームストロング, H. A. および ブレイジャー, M. D. 微化石の科学 (朝倉書店, 東京, 2007).

9,975 円(2007年06月発行)

微化石とは顕微鏡で見なければ観察が難しいような微小な化石のことです。微化石は古生物学的に興味深いだけでなく, 地層の堆積環境や堆積した時代の推定,変成の過程を推定するためにも活用できることから,多くの研究者の関心の的となっています。 しかしながら恐竜や大型哺乳類とは異なり,微化石そのものは決して華々しいものではないため, 日本語での解説書はこれまでほとんど出版されてきませんでした。本書は微化石の専門家 2 人によって初学者向けの教科書です。 大学学部生から大学院生向けとのことで,非常に分かりやすく執筆されています。第 1 章から第 8 章までは概論になっていて, 微化石研究の基礎から応用,手法など(1-5 章)と,地球生命の歴史の中での微化石の位置づけ(6-8 章)について紹介されています。 第 9 章から第 21 章までの残りの章では,微化石が見つかる様々な生物群について個別に紹介しており, 特定の生物群の微化石に関心がある場合にはこちらを読めば簡単な知見が得られるでしょう。 教科書としては,付録として微化石の抽出法が解説されていて,実験的手法を学ぶためにも使えるようになっています。 原書は第 2 版にあたり,2005 年に出版されたもので比較的新しい知見を取り入れていると評価できます。 とはいえ微化石の研究も日進月歩の分野ですから最新の情報には常に注意を払う必要があるでしょう。 さて,現生の単細胞真核生物の大系統が分子系統によって明らかになってきたのはごくごく最近のことです。 分子系統に基づく真核生物の大分類と微化石の対応は実のところまだ十分には検討されておらず,これからの課題になっています。 本書でも紹介されているように,微化石の中には系統的所属が不明のものが少なからず存在します。 そのような微化石には真核生物の進化上重要なものが含まれているかもしれません。 また微化石から真核生物の大系統群の分岐年代の推定も行われており,今後益々微化石への興味は増していくことでしょう。 というわけで現生の真核生物の大進化に興味がある方にとっても本書は手助けになるかと思います。
(2007年08月23日)

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2007年07月

Hall, B. G. Phylogenetic Trees Made Easy: A How-to Manual, 3rd Edn. (Sinauer Associates, Sunderland, 2007).

約 5,000 円(2007年07月発行)

系統解析の手法を初心者向けに解説したマニュアル本です。系統解析は通常コンピュータを使用して実施しますが, 現在広く使われている幾つかのプログラムの使い方について,本書ではわかりやすく解説されています。 系統解析のプログラムは新しいものが次々と出ているため,版が変わるごとに紹介されているプログラムが変わっています。 今回の第 3 版では著者が絶賛する MEGA と呼ばれるプログラムを中心に簡単な系統解析のやり方が紹介されています。 また最尤法の系統解析には PHYML を,ベイズ法による系統解析には MrBayes を紹介しています。 もちろん系統解析にまつわる用語の解説や原理の簡潔な説明も囲み記事の形で与えられているため,初心者の勉強にもなるでしょう。 日々系統解析を行っている研究者にとっても新しい解析プログラムの使用法を習得するにはかなりの労力を要するものです。 そんなときに本書が手元にあれば大きな手助けとなることは請け合いです。分子系統解析を行うのであれば,初心者だけでなく, ある程度の経験者であっても購入しておくとよいでしょう。ちなみに MEGA は無料で使うことができますが, Windows 用のプログラムなので Mac ユーザーは Virtual PC を購入するなど何らかの対策が必要です (このあたりの対策についても解説されています)。
(2007年07月25日)

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2007年06月

福岡伸一 生物と無生物のあいだ (講談社, 東京, 2007).

777 円(2007年05月発行)

「生命とは何か?」という素朴で最も難しい疑問に対して,動的平衡というキーワードを元に考える新書(講談社現代新書)。 分子細胞学の研究現場を非常に読みやすく書いた一般向けの本となっています。「本」という雑誌に連載したものをまとめたようで, 章ごとにテーマが行きつ戻りつしている気もしますが,特に分子細胞学の歴史に触れる部分が中々面白かったです。 肝心の「生命とは何か?」という問いに対してはいまいち学術的な解答が与えられていませんが, 「動的平衡」は生命の本質の一面を確かに捉えているとは言えるでしょう。 もっとも生物の研究者であれば誰もが直感的には理解していることのような気もしますが。 一般向けの新書ですので,専門家には釈迦に説法な話がほとんどですが,軽く読み流すには悪くないかもしれません。
(2007年06月05日)

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2007年04月

松本淳 および 伊沢正名 粘菌: 驚くべき生命力の謎 (誠文堂新光社, 東京, 2007).

3,675 円(2007年04月発行)

真正粘菌(変形菌)の写真集と言うべき本です。小さいために普段は目立たない変形菌ですが, 彼らのサイズに立ってみると非常に多様で美麗な生き物であることがわかります。 本書ではそんな変形菌の魅力が余すところなく再現されています。 同時に解説文や巻末のトピックスなども専門家によって執筆されていて, 変形菌の学問的側面にも触れることのできる構成になっています。 菌類や変形菌に興味がある人だけでなく,生き物が好きなあらゆる人にお勧めできる本です。 なお,本書は図鑑ではないため掲載種数は他の図鑑に比べると控えめで, 学名も学名索引に掲載されているのみです(和名から学名が引けないのは不便)。
(2007年04月27日)

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2007年03月

斎藤成也 ゲノム進化を考える:系統樹の数理から脳神経の進化まで (サイエンス社, 東京, 2007).

1,500 円(2007年01月発行)

月刊「数理科学」誌の連載を 1 冊にまとめた本。著者は系統解析法の一種,近隣結合法の開発者で, 系統樹からゲノム解析,脳神経の進化に至るまで著者の興味の向くところが紹介されています。 いずれの分野についても専門的な教科書というよりは,初学者向けの比較的簡単な紹介になっています。 一方で系統解析など各分野の知識を持つ人にとっても,研究の背景を概観するのに有用かと思います。 特に近隣結合法の開発の経緯などは一度読んでおくと,系統解析法の開発社の発想法に触れるためにも役立つでしょう。 著者の個性なのか,数学肌の研究者に共通したことなのかはわかりませんが,一部に違和感を感じる表現, 議論などもあります。しかし異なる切り口から生物学を見てみることも時には面白いことかもしれません。 普段系統解析を道具として用い,原理などに触れる機会が少ない方にも取っつきやすい書き方になっていますので, 是非一度読んでみて欲しい本です。
(2007年03月14日)

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2007年01月

胡鴻鈞・魏印心 編 中国淡水藻類:系統,分類及生態 (科学出版社, 北京, 2006).
(Hu, H.-J. & Wei, Y. The Freshwater Algae of China: Systematics, Taxonomy and Ecology (Science Press, Beijing, 2006))

約 10,000 円(2006年10月発行)

中国で出版された淡水藻類学の教科書です。淡水藻類の図鑑と言ってもいいでしょう。本文は 3 つのパートからなり, 第一章では緒論として藻類の分類,進化系統,形態などについて簡単に触れ,第二章から第十四章(本書の中心) が中国産の種を中心とした図鑑になっています。そして第十五章は特別に生態と水生環境についてあてられています。 これは近年の中国の水質汚染の問題などと関わっているようです。図鑑としては過去の文献の引用も多く見受けられますが, 一部,別の論文で出版中の新種も扱われているので藻類の分類学者にとっては興味があるかもしれません。 過去に「中国淡水藻類誌」というシリーズが出版されており,これの改訂,まとめの本という位置づけのようです。 ただし一冊の本にするために種数は網羅的ではなく,代表種に限られているようです(それでも 1500 種以上扱われています)。 本文は全て中文で書かれているため抵抗があるかもしれませんが,漢文を習ったことがあれば,意外に読めるものです (辞書は時々必要ですが)。淡水藻の分類学マニアとしては外せない本ですが,内容に比べて値段が手頃なので, 淡水藻の同定に興味のある一般の方にもおすすめできるかと思います。
(2007年01月29日)

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Nelson, J. S. Fishes of the World, 4th ed. (John Wiley & Sons, Hoboken, 2006).

約 16,000 円(2006年02月発行)

魚類の分類の大著。魚類の全てを科以上のレベルで分類しており,現生の全ての科について詳細な解説が与えられています。 著者が単名ということもあって異論を受ける部分もあるかもしれませんが,しばしば魚類の標準的な分類体系として引用されています。 まず本書の驚くべきところは,現生・化石を問わず網羅的な解説が与えられているということです。 そして多くの科について簡単なイラストが与えられていて,グループごとの違いをイメージする手助けをしてくれます。 魚類の図鑑は日本にも数多くありますが,図鑑の場合は体系だった解説が与えられていなかったり, 日本周辺に分布しない魚類が省かれていたりと情報が限られることもあります。本書はそれを補完する教科書と言えるでしょう。 各科ごとに所属する属も羅列されており(ただし数が多い場合には一部省略されている), 特定の属が所属する科について調べることも可能になっています。魚類の分類学の専門家はもちろん, 魚類の進化などに興味のある方にとっても嬉しい本です。このような網羅的な分類の教科書は日本では中々出版されません。 どうしても日本産の生物に限定した図鑑か,著者の苦手な分類群への言及が避けられているような場合が多いようです。 もっと日本の分類学が成熟し,日本人の手により世界的に通用する書籍が増加するといいのですが。
(2007年01月15日)

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2006年12月

宮道慎二 ほか 編 微生物の世界 (筑波出版会, つくば, 2006).

12,600 円(2006年07月発行)

ウイルス,原核生物から菌類,藻類まで,あらゆる微生物を扱った写真集です。 電子顕微鏡写真,光学顕微鏡写真,生態写真,など観察方法も多岐にわたっており, 電子顕微鏡写真などを除き,可能なものについてはカラー写真が使われています。 国内では中々写真を伴って紹介されることの少ない種類も多数含まれています。 また,解説は日英のバイリンガルで与えられています。 微生物は,通常の教科書ではイラストで紹介されることが多く,生きた姿のイメージが難しいことがあります。 この本は,顕微鏡観察と教科書などに掲載されている線画をつなぐ手助けになることでしょう。 残念ながら写真に比べて解説が簡潔に過ぎるため,教科書として単独で使用するには適しません。 また扱われた微生物の採集記録や詳細な記載が記されていないのも残念です。 とはいえ,これほど広範囲な微生物(特に原核生物)の,しかも美麗な写真が集められた例は他になく, 手元に置きたい書籍です。
(2006年12月27日)

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2006年11月

塚谷裕一 ドリアン: 果物の王 (中央公論新社, 東京, 2006).

1,029 円(2006年10月発行)

ドリアンのありとあらゆることを扱った新書です。「臭い」と言われるドリアンですが,これは食べ頃を間違えた場合の話で, 本当のドリアンが如何においしいかについて全編で熱く語られています。そんなドリアンの選び方から食べ方, ドリアンにまつわる植物学,ドリアンと日本人の関わり,等々,幅広いテーマが紹介されています。 著者の紹介するエピソードも非常に面白く,読者を飽きさせません。特にプロフィールに「日本文学と植物の関わりも興味対象の一つ」 とあるだけに,4 章「ドリアンの果物史」では昭和初期からの日本人の果物感が文学を通じて詳しく紹介されています。 著者は現役の植物学者(葉の形の進化の専門家)なので,内容の学術的な正確性は確かです。 写真もフルカラーで掲載されていて現地の雰囲気や,ドリアンの「おいしそうな」姿が楽しめます。 ただ 6 章「ドリアンの栄養成分と香気成分」は単なる化学成分の羅列の感が否めません。 もう少し話題を拡げて丁寧に解説があってもよかったかもしれません。 ドリアンをきっかけに植物学に接してみたいという方に特にお薦めの本です。読めばドリアンが食べたくなること請け合い。 と言いたいところですが,食べたくなっても簡単に食べられるわけでもないので困りものです。
(2006年11月15日)

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ハート, T. 恐怖の病原体図鑑: ウイルス・細菌・真菌完全ビジュアルガイド (西村書店, 東京, 2006).

1,890 円(2006年07月発行)

タイトル通り病原体の図鑑です。1 種につき 1〜2 ページを割いて簡潔な解説を載せています。 しかし何より特徴的なのは,全ての種にカラフルな写真がついていることです。カラフルといっても, ウイルスは全て電子顕微鏡写真ですし,光学顕微鏡で見える種類も無色のものがほとんどなので,基本的には後から着色されたものです。 着色はお遊びとして,解説の方は簡潔な中にも要点が押さえられており,初学者や病原体についての基礎知識が必要な人にも有用でしょう。 解説中には医学・病理学的な記載の他に興味深いエピソードも満載されているので,専門家以外にも楽しめる内容です。 残念ながら病原体の学名が示されていないため,英文の資料との照らし合わせが出来ないという大きな欠点がありますが, ウェブ上で検索することでフォローできるでしょう。なお,プリオンをウイルスとする考えは現在受け入れられていません。 その他,黄色ブドウ球菌の記載者と年(正しくは Rosenbach,1884 年。本書では発見者と混同した上,年代がまるで異なっている), 結核で死んだ著名人にカミュを含めている点(結核に罹ったのは事実だが,回復。後に自動車事故で亡くなった) など小さな間違いもありましたが,表紙から受ける印象に反してしっかりとした書籍でした。
(2006年11月04日)

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2006年10月

McNeil, J. et al. eds. International Code of Botanical Nomenclature (Vienna Code) Adopted by the Seventeenth International Botanical Congress Vienna, Austria, July 2005 (A.R.G. Gantner Verlag, Ruggel, 2006).

€ 48(2006年10月発行)

日本語では国際植物命名規約のウィーン規約と呼ばれています。植物の学名(藻類,菌類とシアノバクテリアも含む) が正式に発表されたとはどういうことか,と言うことなどを決める国際ルールです。6 年ごとの国際植物学会議に併せて改訂され, 今回のウィーン規約が最新版になります。ウィーン規約では規約の本質に関わる改正は行われませんでしたが, 重要な変更は多岐に及んでいます。正式記載や組み替えの条件などが幾つか加わったり明確になっていることが, 特に重要な点と言えます。保存名(発表の日付が遅くても優先的な使用が認められる学名)も多数追加されていますので, 分類学者は注意が必要です。分類学に直接関心のない方には, 学名を認めるのにそんなに複雑なルールがいるのか疑問に思われるかも知れません。しかし命名規約を手に取ってみれば, 分類学者がいかに労力を払い,それだけの労力を払う必要があると考えていることが伺い知れることと思います。 ちなみにこの本は Koeltz Scientific Books から購入できますが, 普通に注文すると船便で到着に数ヶ月かかりますので,急ぎの場合は航空便にしてもらいましょう。
(2006年10月24日)

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松井正文 編 バイオディバーシティ・シリーズ 7:脊椎動物の多様性と系統 (裳華房, 東京, 2006).

5,775 円(2006年09月発行)

バイオディバーシティ・シリーズ,待望の 6 冊目です(あと 1 冊ですね)。本書は脊椎動物の進化・系統・分類がテーマで, シリーズの他の巻とほぼ同じ構成になっています。国内の執筆者のみからなっているため一部に弱点もあるようですが, これほど広い観点から書かれた書籍は洋書でも稀かと思います。構成は脊椎動物全体の系統や進化に始まり, 各綱ごとの概論,そして各綱ごとの詳細な解説,そしてお約束の分類表で締められています。 ここのグループごとの解説は,和書でも良い教科書がいくつかあり,また訳書には単名の著者による類書もあります。 しかしこの本 1 冊で脊椎動物の進化の大枠が理解できる,という本が存在するのは非常にありがたいことで, また著者が一人の場合にはどうしても観点が偏ってしまいがちですが,本書のように各グループをそれぞれの専門家が担当する, というスタイルではその心配もないでしょう。しかし脊椎動物の進化系統や古生物学は日進月歩のジャンルであり, そのためか新旧の情報が中途半端に混じっている点も見受けられます。意欲のある読者にとっては, 最新の情報を追いかける土台としても,本書の価値があることでしょう。
(2006年10月04日)

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2006年08月

根井正利 および クマー, S. 分子進化と分子系統学 (培風館, 東京, 2006).

7,350 円(2006年07月発行)

分子系統解析は現在の生物学研究の必須のツールになってきています。同時に様々な系統解析の手法が開発され, あるいは改良され,専門家でなければどの系統解析方法が目的にかなっているのか, それぞれの結果をどう解釈するべきかは理解できなくなってきています。そんなときに参照したいのが教科書ですが, 現在日本語で読める教科書はいずれも一昔前のもので,進展著しい分野にあっては使い勝手が悪くなっています。 洋書では幾つか分子系統学の教科書がありますが,やはり日本語で読みたいという方が多いのではないでしょうか。 本書は 2000 年に原著が出版されたものの翻訳・改訂版です。原著者の一人(本文のほとんどを執筆)が日本人で, 監訳に携わっているため翻訳についても信頼は置けますし,原著の出版以降の進展についても加筆されており, 5〜6年分の時差も心配する必要がなくなっています。 系統解析の実際の作業を扱った実用書ではありませんが,分類・進化の研究者に必要な,系統解析の方法・ 原理に関する知識が網羅されており,この分野の書籍としては分かりやすい作りになっていると思います。 ともあれ分子系統を実際に利用するには原理・特性を理解するべきで,その目的に最適な教科書だと思います (ちなみに私も勉強中です)。
(2006年08月10日)

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2006年07月

三中信宏 系統樹思考の世界: すべてはツリーとともに (講談社, 東京, 2006).

819 円(2006年07月発行)

系統解析方法の理論的側面を研究している著者による新書本です。系統解析について勉強できるかと思って購入しましたが, 系統「解析」ではなく,タイトル通りに系統樹「思考」の本でした。まず系統樹を描くことがどのような「科学」であるのかについて, 著者の考えを展開しています。そして系統を念頭に置くことで学問領域のあり方についても議論しています。 系統解析の方法論については第 3 章で事実上初めて触れており,初歩的な基本的な内容にとどまっていました。 しかし系統樹について一度も勉強したことがないという方は,一読してみてもいいかと思います。 最後に系統樹から派生したいくつかのアイデア(例えば系統ネットワーク)について触れています。 総じて系統樹の方法論を軸にしながら,著者の趣味と思想を語っている新書でした。 系統解析についてもう少し具体的な内容を期待していたため,物足りないところもありました。 一方で系統推定の背景にある「科学」的な正当性についての議論には興味深い点もありました。 好き嫌いが分かれる内容かもしれませんので,中身を軽く見てからの購入をお勧めします。
(2006年07月31日)

犬塚則久 恐竜ホネホネ学 (日本放送出版協会, 東京, 2006).

1,071 円(2006年06月発行)

夏に恐竜展が開かれるのに合わせた企画のようです。恐竜の骨学を扱った,意外に本格的な本です。 多くの一般向けの番組や書籍では,恐竜の生態が中心に語られることがほとんどです。 しかし恐竜の証拠は,そのほとんどが化石化した骨なので,恐竜の生態は推測に過ぎません。 復元とは骨から恐竜の生態を探る作業であり,実は恐竜学の中核ではないかと思います。 本の内容としては,やや骨の名前が難解で,しばしば絵を参照しないと覚えていられないのが厳しいかもしれませんが (恐竜の全身と各部の骨の名前が説明されている絵が,44・45 ページで漸く出てくるのはいかがなものかと思います), 丁寧に読めば非常に勉強になるのではないでしょうか。私もこれからじっくり読んでみようと思います。 ちなみに巻末に「恐竜ミニ図鑑」という資料がありますが, 実際にイラストがついている種が 1/5 にも満たないのはご愛敬でしょうか。
(2006年07月07日)

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2006年06月

石川雅之 もやしもん 3 (講談社, 東京, 2006).

560 円(2006年05月発行)

「農大物語」。マンガです。主人公はなぜか肉眼でデフォルメされた菌(細菌,真菌など)を見ることができます(!)。 「もやしもん」と言うタイトルは主人公の実家が「もやし屋」(種麹屋)であることに由来するようです。 マンガとして普通に面白いのはさておき,発酵食品の話や酒類などの醸造の話が各所に出てきて勉強にもなります。 また,登場する微生物も豊富で,この 3 巻ではボツリヌス菌なども印象に残りました。 A. オリゼー(Aspergillus oryzae)や S. セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)も中々かわいらしいです。 息抜きも兼ねて 1 巻から通読してみてもよろしいかと。そのうち藻類も出てこないかと密かに期待しているんですが, ちょっと難しいかもしれませんね。
(2006年06月21日)

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2006年05月

講談社サイエンティフィック 編 理系のためのフリーソフト (講談社, 東京, 2006).

1,260 円(2006年04月発行)

コンピュータで作業をするに当たって,目的にあったプログラムが高額すぎて揃えられないことはよくあると思います。 そんなときに役に立つのがインターネット上などで公開されているフリーソフトです。 しかし有用で安全なフリーソフトを探すのは手間でもあります。そんなときに役に立つのが本書(?)です。 理系の学生,研究者にとって必要,あるいは便利なプログラムが紹介されています。 イラスト作成,写真の編集,グラフ作成,数式計算,分子構造の描画,プレゼンテーション,などなど, 理系の人なら一度は欲しいと思ったことのあるようなプログラムが計 27 本紹介されています。 中にはメジャーなプログラムの代替として充分機能する(と紹介されてる)ものも多数含まれています。 そのうち 21 本は付属の CD-ROM に収録されているため,気軽に試すこともできます。 ラインナップを見た印象では,これ一冊あれば一通りの用途には耐える用にも思えますが, ほとんどの方は,この中から数本を選んで使うのかな,と思います。 私の場合は分子構造式の描画ソフトなどを使ってみたいところです。 書店で手に取ってみて,幾つか興味を引かれるプログラムがあれば購入してみるのも良いかと思います。 特に必要なプログラムがなくても,意外なもので使えるものがあるかもしれませんし。 なお,Windows 2000/XP の使用が前提になっています。念のため。
(2006年05月17日)

高橋正道 被子植物の起源と初期進化 (北海道大学出版会, 札幌, 2006).

8,925 円(2006年03月発行)

被子植物がどのような祖先から進化してきたのかについては,ダーウィンの時代から現在に至るまで解決しない難問です。 被子植物が誕生した頃の植物化石が乏しいことが,この問題の解決を困難にしています。 しかし本書では,植物の「小型化石」の発見と研究(著者も日本で小型化石の研究を行っている)が, 最初期の被子植物の姿を少しずつ明らかにしている様子が描かれています。 これまでの,化石を中心とした研究では取っ掛かりがなく,議論を構築することが困難でした。 しかし最近の分子系統学の発展に伴って,被子植物の進化の仮説に骨組みを通すことが出来るようになりました。 分子系統学を踏まえた被子植物の進化に関する和書はこれまでありませんでしたが, 本書は分子系統と化石の情報をまとめた,おそらく初めての和書になるかと思います。 本書では序論において研究手法などを概説した後,被子植物の起源以前,陸上植物の起源から話が始まり,裸子植物の起源と発展, そして被子植物の出現へと話が進みます。さらにここから被子植物の初期進化,果ては新生代の被子植物へと話が進みます。 つまり,陸上植物の歴史を総括した本になっているわけです。本書のもう一つの特徴は,とにかくデータが充実していることです。 本文の引用文献も重要で最新の文献が的確に押さえられており,また補論として膨大な植物の化石資料の情報が整理されており, また最新の被子植物の分類体系が紹介されています。その他にも有用な情報が各所にまとめられています。 今後しばらくの間,本書は被子植物の起源と進化についての最良の教科書になるかと思います。
(2006年05月13日)

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2006年04月

池原健二 GADV 仮説―生命起源を問い直す (京都大学出版会, 京都, 2006).

1,575 円(2006年04月発行)

生命の起源については RNA が触媒と遺伝子を兼ねた RNA ワールドから始まったとする仮説が有力とされています。 しかし RNA ワールドには多くの欠点が知られており,むしろ RNA の成立以前に, 自然生成したアミノ酸がランダムに重合して触媒として機能していたとするアイデアも出ています。 本書では特に自然生成しやすかったとされるグリシン・アラニン・アスパラギン酸・バリン(GADV)の 4 種類が自然に重合してできた「タンパク質」が最初の酵素として働いたとする [GADV] タンパク質ワールド仮説を紹介しています。 [GADV] タンパク質の成立から RNA,遺伝暗号の進化までを一つのストーリーとして纏めているところにこの仮説の特徴があります。 現時点ではまだ論理に飛躍が大きく,多少の無理や,実験的な検証が必要なところも多いですが, 基本的なアイデアは説得力もあり,RNA ワールド仮説の弱点を補完する仮説となりそうです (著者らは RNA ワールド仮説と [GADV] タンパク質ワールド仮説を対立する仮説と位置づけて議論していますが, 両者は部分的には両立できるように思われます)。
(2006年04月27日)

桜井弘 編 生命元素事典 (オーム社, 東京, 2006).

5,250 円(2006年03月発行)

生体を構成する元素といえば,「CHONSP」すなわち,炭素・水素・酸素・窒素・硫黄・リン, がタンパク質や核酸などの主成分として頭に浮かんでくるのではないでしょうか? 本書はそれ以外の元素を扱った書籍です。生体内に微量で働く元素(必須元素やそれに準ずるものも含む)や, 医療目的で使用される一部の放射性元素まで 38 種類の元素について個別に解説が与えられています。 本書の 2 章が元素の個別解説に充てられており,各元素にまつわるエピソードや地球上での存在量,生体との関わり (毒性や役割など),その元素と相互作用するタンパク質などの生体分子,などなど詳細な情報が紹介されています。 1 章と 3 章では生体微量元素についてのより一般的な解説が与えられ,4 章では定量法と構造解析法が扱われています。 薬学系の執筆者が多く含まれているため,やや情報がヒトに偏っていますが,他の生物を扱っている方にも有用かと思います。 特に,各項目について参考文献が与えられていることが高く評価できます。 装丁に比して値段が高めに見えますが,内容を考えれば妥当な価格設定でしょう。 本屋で見かけたら一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
(2006年04月13日)

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2006年03月

平野弘道 絶滅古生物学 (岩波書店, 東京, 2006).

3,990 円(2006年02月発行)

恐竜(本サイトでは鳥を含めません。念のため)を絶滅に追いやった白亜紀末の大量絶滅が, 巨大な天体衝突だとする仮説は非常に有名です。しかしながらその実態については未だ研究が進行中です。 同時に地球の歴史の中では大量絶滅と呼ばれる現象が何度も起こっていることが次第に知られてきています。 本書はその大量絶滅に関する知見を総括した,「大量絶滅学」の教科書です。 大量絶滅の研究は非常に学際的な側面が強いため,知見をまとめた教科書が必要だと著者は考え,この本を執筆したそうです。 I 部で大量絶滅の総括的な解説を始め,II 部で顕生累代の 5 つの大量絶滅について個別に詳細な解説を与えています。 そして III 部で II 部を踏まえて総論の見直しを行うようなつくりになっています。 地球上の生命の歴史は大量絶滅とその後の適応放散の繰り返しと見ることもできます。 ですから本書は地球史の骨子を図らずもまとめているものと見ることもできるでしょう。 古生物に関心のある方は目を通してみてもいいかもしれません。
(2006年03月08日)

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2006年02月

遠藤秀紀 解剖男 (講談社, 東京, 2006).

756 円(2006年02月発行)

すごいタイトルですが,動物の解剖学の専門家による一般向けの新書です。 解剖というと高校や大学の授業では,カエルなどよく知られた生物についてスケッチをして, 時に結果の予想できる簡単な実験を行う程度しか行われておらず,あまり面白いという印象はないかと思います。 しかしこの本の著者は体のつくりがあまり分かっていない生物の解剖を行い, あるいは解剖の結果から未知の機能を推定したりと,新しい発見のあるエキサイティングな解剖研究を行っています。 大きいものでは例えばゾウから,小さいものではコウモリなどの生き物まで, 幅広い生物のとても興味深い観察,エピソードが紹介されています。 基礎科学の面白さをもう一度思い出させてくれる本だと思います。
(2006年02月20日)

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2006年01月

井上勲 藻類 30 億年の自然史:藻類からみる生物進化 (東海大学出版会, 秦野, 2006).

3,990 円(2006年01月発行)

藻類の自然史を扱った大著。藻類学の教科書として,また藻類学の最前線を知りたい方にもお薦めです。 藻類の歴史(進化)と多様性を軸とした内容になっていますが, それだけにとどまらず生態や生理についても豊富な解説が盛り込まれた総合的な教科書になっています。 また,カラー写真や図も非常に豊富で,専門家以外は中々目にする機会のない生物についてもイメージがしやすくなっています。 真核藻類(および他の真核生物)の進化についてはここ数年の研究の進展が著しく,分類体系も大きく変わろうとしています。 その辺りの情報が読める邦書は他に例がなく,また著者らの研究室により昨年発表された, ハテナと呼ばれる「半藻半獣」の生物に関する最新の話題も紹介されています。 値段が一見高めに見えるかもしれませんが,内容の質・量と比べるとむしろ安すぎるといっても過言ではなく, 藻類学,あるいは真核生物の進化などに関心のある方は購入しても損はないでしょう。
(2006年01月16日)

ファーブル, J.-H. C. 完訳 ファーブル昆虫記 第 1 巻 上 (集英社, 東京, 2005).

2,940 円(2005年11月発行)

かの有名なファーブル昆虫記の新訳です。集英社の創業 80 周年記念企画とのこと。全 10 巻(各上下巻で計 20 冊)で, 隔月で出る模様。もともとは「すばる」の連載をベースにしているそうです。絵も綺麗で,また写真なども補足されているため, 古典としても,昆虫の本としても楽しめそうです。 買えない価格ではないので,少しずつ本棚に並べていくのにも良いかと思います。ためずに読まないといけませんが(笑)。 なお,第 1 巻の下も昨年の 12 月に発行されています。次は 3 月予定です。
(2006年01月02日)

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2005年11月

杉山純多 編 バイオディバーシティ・シリーズ 4:菌類・細菌・ウイルスの多様性と系統 (裳華房, 東京, 2005).

7,140 円(2005年11月発行)

総論を扱った 1 巻目から,植物(2 巻),藻類(3 巻),無脊椎動物(5 巻)と各生物群の進化系統について, 優れた教科書を出版してきたシリーズの待望の新刊です。 無脊椎動物が出版されてから 5 年,第 1 巻が出てから 9 年以上を経過してのことで, その分非常に充実した内容になっています。 菌類や細菌の分類はここ数年,進歩が激しく 1 冊の本にまとめるには大変な苦労があったと想像されますが, 最新の研究(例えば細菌の分類については今年出版された教科書)を踏まえており, 安心して手に取れる内容になっていると思います。5 年間楽しみにしていた甲斐がありました。
(2005年11月28日)

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