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雑記(ニュースなど) − 神経科学

作成:仲田崇志

更新:2006年02月15日

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泳げ神経芽細胞(2006.02.15)

哺乳類の成体の脳内において、脳室下帯で生まれた神経芽細胞が 離れた位置に存在する嗅球に移動していくことが知られています。 Sawamoto et al. (2006) は、脳室表面にある上衣細胞の繊毛が作る脳脊髄液 (CSF: cerebrospinal fluid)の流れが、物質の濃度勾配を形成し、 神経芽細胞の移動がこの勾配に従っていることを示しました。

まず、マウスの側脳室内部にインクなどを注入することで繊毛の作る流れを観察しました。 続いて、固定した神経芽細胞の多くがこの流れにそった移動中であったことが確認され、 繊毛が流れを形成し、細胞がこの流れに沿って移動することが示唆されました。

次に著者らは繊毛が正常に形成できないマウスの変異体(Tg737orpk)を用いて、 細胞の正常な移動に繊毛が必須であることを示しました。一応、神経芽細胞に変異の影響が出た可能性もありますが、 その可能性は、野生型の神経芽細胞と変異細胞を、それぞれ変異体と野生型の脳室に入れて、 正常に動くかどうかで評価されています。この結果、脳脊髄液の流れに問題がある場合、 いずれの神経芽細胞もうまく嗅球へ移動できなかったため、やはり繊毛の作る流れが必須であることがわかります。

さらにシグナル物質を入れた場合の挙動も調べられており、 側脳室内に物質の濃度勾配ができる様子も観察されました。

流れに流されるのではなく、流れの方向性を認識して神経細胞が移動している、というのも興味深い話ですが、 なにより神経や脳に関わる研究で、実際に生き(てい)た動物を用いた研究が少なくなってきており、 今回の論文で比較的古典的でしっかりした観察が行われているのはいいことだと思います。

Sawamoto, K. et al. New neurons follow the flow of cerebrospinal fluid in the adult brain. Science 311, 629-632 (2006).


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オキシトシンは信頼をもたらす(2005.07.03)

「信頼」は人間社会で暮らしていくには欠くことのできない要素です。 社会との関係という意味においては、動物にも似た要素はありますが、 これをオキシトシンというホルモン兼神経伝達物質が促進することが見いだされました (Kosfeld et al., 2005)。

彼らはオキシトシンが行動に関与する脳内の各部位で働き、 人以外の哺乳類で社会参加を促すように働いていることから、オキシトシンが人間において「信頼」 の促進に働いているとする仮説を立てました。そして、心理学的な実験によってこれを証明しました。

被験者は、それぞれオキシトシンかプラシーボ(偽薬;対照実験のため) を鼻からの噴霧により与えられました(この方法では、オキシトシンは血液脳関門を通過できる)。 その後、被験者は実際に報酬として現金がもらえるゲームを行います。 ゲームの中で、被験者は投資をする側とされる側に分けられます。被験者がある額(0, 4, 8, 12 から選ぶ) を投資すると、これを三倍した額が被投資者に渡ります。それから任意の額が投資者に返されます。 投資者の側は、投資をしなければ利益を得ることが出来ませんが、見返りは相手が自由に決められるので、 相手をどの程度「信頼」するかによって投資額を選ぶことになります(リスクをどう捕らえるかということです)。

さて、このときオキシトシンを投与された被験者は、そうでない場合に比べて有意に多額の投資をしました。 これが単に気が大きくなっただけ、という可能性もあるので、 ゲームの相手が人間ではなくランダムな判断をするコンピュータに変えたところ、 この場合にはオキシトシンの影響はでませんでした。Kosfeld et al. (2005) はこの他の対照実験や心理テストに基づいて、オキシトシンの投与が「信頼」を促進すると結論付けました。

この研究から、「信頼」という行動決定の重要な要素が神経科学的に解明できる可能性が開けてきました。 物質的基盤が見つかったことにより、「信頼」に関与する神経系、オキシトシンの上流や下流の因子、 などが調べれらることになるでしょう。著者らは悪用の心配も上げていますが (心理学的な方法の方がよほど効果があるので、当面悪用の心配はないだろうとは Damasio, 2005 の見解)、 人間不信などの理由で社会参加が出来ない症状の患者(流行の引篭もりも含まれるんでしょうか) の治療に将来応用できるようになる可能性もあります。

Kosfeld, M., Heinrichs, M., Zak, P. J., Fischbacher, U. & Fehr, E. Oxytocin increases trust in humans. Nature 435, 673-676 (2005).

News & Views より
Damasio, A. Brain trust. Nature 435, 571-572 (2005).


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音を通すイオンチャンネル(2004.12.10)(→分子細胞学)


グリアがよれば文殊の知恵(2004.06.04)

Scientific American の4月号からです。 日本語訳は日経サイエンスの7月号(発売中)に掲載されています。

この号の表紙を飾ったのがグリア細胞のイラストでした。 脳の情報処理機能はニューロンが専属的に担っているというのは,ほとんど常識になっていたように思います。 ところがここ数年の研究から,グリア細胞が記憶や学習に重要な役割を演じていることが示唆されてきました。 この記事ではグリア細胞がニューロンと共同しつつ, 異なった方法で情報伝達を行っているとする研究がレビューされています。

これらの研究が正しければ,私たちは脳の役割のかなりの部分を見落としていたことになります。

ちなみに,アインシュタインの脳にはグリア細胞が常人より多かった,なんて話も出てきます。

Fields, R. D. The other half of the brain. Sci. Am. 290(4), 26-33 (2004).

日本語訳のタイトルは,「思考をつかさどる陰の立役者 グリア細胞」です。 日経サイエンス7月号を参照してください。


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胎児に耳あり、幼児にメモリー(2004.04.11)(→その他)


眠り姫にはオレキシンの口付けを(2004.04.02)(→医学)


男と女の性と脳(2004.04.01)

男女の性差は,脳科学だけでなく一般人の興味を集めるところでもあります。 そんなわけで,Nature Neuroscience に掲載された論文に触れておきます。 (しばらく前にニュースでも紹介されていたので)

この論文では視覚的な性刺激(visual sexual stimuli)が, 脳のどの部分を活性化するかについて男女別に調べています。 視覚的な性刺激とはつまり,モデルポーズの魅力的な異性のヌード画像 (attractive opposite-sex nudes in modeling poses)や 明示的に性的な活動を行っている異性間カップルの画像 (heterosexual couples engaged in explicit sexual activity)などのことです。 この時,被験者は男女共に一定の性的興奮を感じるわけですが,何故か, 脳の活性化のパターンが異なっていることが発見されました。

従来,感情の昂ぶりに関わっていると考えられていた扁桃体の活性化と, 性機能に関わっているとされた視床下部の活性化が, いずれも男性のみで起こっていることがわかりました。 しかもこれは,女性の方が高い性的興奮を感じていると申告している場合においても成立しました。

ただしこの結果の解釈は非常に難しく,因果関係については無数の可能性が考えられるように思われます。 重要なポイントをいくつか指摘しておくと,まず被験者の数,質に問題がある可能性があります。

実際に被験者になったのは男女いずれも 14 人に過ぎず,しかも事前に選別が行われています (初めの母集団は男性 34 人,女性 45 人)。 技術的な問題などで選別された場合については止むを得ないとしても, それ以外の選別については疑問が残ります。男性から 4 人(12%),女性から 16 人(36%)は, 同姓に対する欲求もしくは経験が報告されたために除外され, さらに女性から 7 人(16%)は,性描写(erotica)に対して不十分な応答を示したために除外されています。 (この数字自体が一つのデータな気がしますが,怖いので細かくは突っ込みません) 実験の主旨から考えると,この選抜が適切な処置であるかどうかは議論の余地があるでしょう。

次に,性的興奮の基準についてですが,女性と男性の性的興奮の度合いを比べることがそもそもできるのか, ということが疑問に思われます。 (実際に性交渉を誘発できるかどうかを調べられれば比較可能なんでしょうが,倫理的に問題があります)

また news & views を読むと, これまでの観察結果と必ずしもきれいな整合性を取れていないように見受けられます。

男女間で認められた差が,遺伝的差異によるのか,社会的環境の差異によるのか, 片方の性で扁桃体の活動する年齢,性周期におけるタイミングが限定されていないのか, など,結果の解釈についても問題が付きまとうでしょう。

一方で,とにもかくにも何らかの性差が存在する可能性を示した点において, またそれを調べるキーワードとして扁桃体と視床下部を絞り込んだ点において,この実験は評価できそうです。 しかしこういう研究はどこに発展していくんでしょうか。 不感症の治療などに関連してくるかもしれませんけど。

Hamann, S., Herman, R. A., Nolan, C. L. & Wallen, K. Men and women differ in amygdala response to visual sexual stimuli. Nat. Neurosci. 7, 411-416 (2004).

Canli, T. & Gabrieli, J. D. E. Imaging gender differences in sexual arousal. Nat. Neurosci. 7, 325-326 (2004).


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遺伝子再構成によらない嗅覚受容体の選別(2004.03.30)(→発生学)


神経核だって分化全能性があるんだぞ(2004.03.04)(→発生学)


致死的な編集ミス(2004.02.27)(→医学)


脳は治せるか(2004.02.19)(→医学)


対称な脳は忘れっぽい?(2004.02.12)

ショウジョウバエの脳に,普通は右側だけに存在する構造が見つかりました。 著者らはこの構造を Asymmetrical Body: ‘AB' と名付けています。

ところが,野生株の 7.6 %はこの構造を両側に持つ対称な脳をしていることもわかりました。 この,対照的な脳を持った個体群では,短期記憶は正常にもかかわらず,長期記憶が出来なくなるそうです。

対称性と記憶の関係というと格好よさそうですが, 単に左側に AB ができたせいで,本来そこにあった構造が潰されただけでは?,とも思えます。 どうなんでしょうね。

Pascual, A., Huang, K.-L., Neveu, J. & Préat, T. Brain asymmetry and long-term memory. Nature 427, 605-606 (2004).


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カエルさん。このリセプター,ちょっと試してもらえます? (2004.02.11)(→医学)


脊椎動物の脳の起源(2003.07.18)(→発生学)



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