サンホラ考察メモ


■Elysion
〜楽園幻想物語組曲〜
 ├ はじめに
 ├ ループ考察
 ├ 箱舟
 ├ 3-1+1-2
 ├ 盲目のうちに
 └ 肩に座る少女


■Chronicle 2nd
 ├ はじめに
 ├ クロニカとノア
 ├ ルキウスとイリア
 ├ ルキア
 └ 書の魔獣

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ルキウスとイリア。ルキアの両親という曖昧な存在を(反逆者と逃亡者という設定までつけて)名前を出すことで確固たるものにしたのですから何も無い筈がないと思います。「<ハジマリ>のChronicle」は定説どおりルキウスがイリアに語りかけてる歌だと考えています。子供を産む年頃としては声が幼すぎる気もしますが、「雷神の系譜」で結婚する年齢になった少年と少女も幼い声でしたので無いとは言えません。最初は途中の「咳のような声」で病死したイリアだと思っていたのですが、黒の教団に疑問を持ち逃亡を続けている(恐らくはルキウスと同じ志を持っている)イリアが「書の記述を真似したごっこ遊び」なんてものを小さなルキアに教える筈が無いと思い至って考えを改めました。ルキウスとイリアがまだ黒の教団に疑問を持っていなかった小さな頃にしていたごっこ遊びなのでしょう。追っ手から受けた傷がもとで瀕死の状態だった場合だと少し元気すぎる気もするのでルキウスもまた病気だったのではないでしょうか。そして「キミが白い鳥になるのなら」という歌詞で白鴉はイリアという可能性が出てきます。ついでに言えば「黒の予言書」の「詠いたい詩があるんだ〜」も同じ声ですのでルキウスなのでしょう。

ノアと洪水と言えば連想するものは箱舟、終焉の洪水から身を守る為のものがある筈です。箱舟に乗れるのはクロニカとノア、そして黒の教団員。聖書のノアの箱舟ではノアは家族達を箱舟に乗せているので、ルキアと娘達も恐らく乗って(自分で乗るとは思えないので乗せられて)いると考えてもよさそうです。ノアは既に魔獣が暴れている状況で「いつでも掛かっておいでなさい」と言っていますから、文字通りいつでも掛かっていける、ノアと同じ洪水から逃れられる立場なのだということなのではないでしょうか。地下大聖堂が箱舟に当たるものなのかもしれません。ということはルキアが箱舟に乗る=世界の最初に戻るということになり、必然的に次の世界からは(別のかたちでは生まれるかもしれませんが)「ルキアの両親」としての「ルキウス」と「イリア」は存在しないことになります。ルキアの両親としてのルキウスとイリアの物語は予言書から抹消された筈です。だからこそルキウスの物語が「抜け落ちた」頁なのではないでしょうか。歴史からは削除された物語、それが「<ハジマリ>のChronicle」なのです。

「<ハジマリ>のChronicle」がルキウスなら「キミが生まれてくる世界」はやはりイリアでしょう。ルキアと見ても不自然ではないのですが、まず「黒の予言書」や「書の魔獣」でのルキアとは歌声が違います。少女、女性、老女と声の変化のあったルーナから考えれば、ルキアが将来子供を産む年齢になった時に「キミが〜」の声になっていたと考えることも可能ですが、ルキアの物語は「書の魔獣」で終焉を迎えてしまっています。その時点では「キミが〜」とは声も違いますし、まさか「黒の予言書」より以前に子供を産んでいたということはないでしょう。そしてルキアが終焉から逃れた後の物語だとするなら「クロ」や「ソラ」が存在することはないでしょうし、黒い背表紙に黒い文字で書く必要がありません。これが私がルキアではなくイリアだと考える理由です。

クロは全てを裁き...全てを流すのだろうか?
ソラはこの世界を...この世界を包むだろうか?

この歌詞を見た時になんとなく気になったのが、「クロ」と「ソラ」の対比です。今までずっと教団、邪神は「黒」、それに対する白鴉の「白」として書かれていたのに、ここで「クロ」と「シロ」ではないのは何故か。先ほども可能性として提示しましたが、この「キミが〜」を書いた本人、イリアこそが「シロ」だからではないでしょうか。と言ってもイリア=白鴉という考えではないのですが、そのあたりは後述します。

直接は関係無いですが収録曲の中で「ソラ」(「空」ではなく)という言葉が出てくる曲は「黒の予言書」「書の魔獣」「キミが生まれてくる世界」「<ハジマリ>のChronicle」の4曲です。「ソラ」という言葉を使っているのはルキア、ルキウス、イリア3人のみなのです。「<ハジマリ>」は抜け落ちてしまった頁です。「ソラになる」と言ったルキウスの物語、これが抜け落ちてしまっている為に「ソラ」という存在自体をイリアと(それを母から聞いた)ルキアしか知らない(書いたノア自身も覚えていない)のではないでしょうか(クロニカは知っているのでしょうけどね)。

「結局彼女は運命の手から逃れられませんでした」

「キミが生まれてくる世界」最後のこのセリフは「書の囁き」の最後部分の「彼」を「彼女」に変えただけのものですが、「書の囁き」は「運命から逃れたが結局は運命に絡め取られた」男の物語をクロニカが語って聞かせてくれるものです。「結局」彼は運命から逃れられませんでした。の「結局」は「一度は逃れた」という部分にかかっているのでしょう。ということは恐らく「彼女」も「一度は運命から逃れた」のではないかと考えることが出来ます。

ここでもうひとつ「クロ」と対比されるべきもの、雷神の民に触れてみます。「雷神の右腕」「雷神の左腕」「雷神の系譜」と、邪神と戦ってきたのは(邪神を書の魔獣とするならば)雷神の民であるという歴史が語られています。3曲あることから聴き手もそれを強く認識しますし、少なくとも1度目(「雷神の右腕」)、2度目(「雷神の左腕」)は「雷神様」の力で邪神を打ち倒した筈です。私は3度目(「雷神の系譜」)の祖母が少女本人なのだと考えていますし、雷槍を持つパーシファルも一族の人間だと思っているのでやはり再封印に成功したと見ています。「雷神の血は受け継がれた」と強く思わせる物語。しかし最終頁を控えた「書の魔獣」には雷神の民のような存在は見受けられず、いつの間にか魔獣vs(それまでは歴史の傍観者にも見えた)白鴉になっていることがわかります。そしてその後の「キミが生まれてくる世界」「<ハジマリ>のChronicle」まで、魔獣を思わせるものは繰り返し出てくるのに雷の一族を窺わせる描写は出てこないのです。

私は雷神=白鴉とは考えてはいません。雷神の民は実際に歴史に存在した人間達ですが、白鴉は(別の項でも書きましたが)歴史の「諦めなかった」者達の想いを具現化したモノではないかと思っているからです。

もう一つ思ったことがあって、雷神の民の力は邪神を「封印」するに過ぎないのではないか、ということです。ルキア達の求める「予言に無いハジマリ」は黒の予言書の存在しない世界、即ち「魔獣の存在しない世界」の筈です。邪神の復活を「引き延ばす」だけでは永遠にその「ハジマリ」はやって来ないのではないか、そしてそれが出来る可能性があるのは白鴉だけなのではないか。という点から、雷神と白鴉は違うものだと考えています。

「雷神の系譜」の「雨も宿ればいづれ過ぎ去る」
「<ハジマリ>のChronicle」の「僕は絶対赦さないよ」

この2つはメロディが同じであると読んだことがあります。残念ながら音楽の才能ゼロの私には似ていることは分かっても同じメロディなのかそうでないかの判断が出来ないのですが、それを読んで私は(「<ハジマリ>のChronicle」がルキウスの物語であるなら)ルキウスは雷神の民の直系の末裔なのではないかと思ったのです。

本当は、たまにはボクも鴉を演りたかったんだけど
そうじゃなかった。鳥でも獣でもなかったんだ

本当は邪神を打ち倒したかった(鴉を演りたかった)けれど、本当に自分でするべきはそれではなかった。この曲での「白い鳥」「ソラ」は実際にルキウスがソラになったりイリアが白い鳥になったわけではなく比喩表現だと考えています。白い鳥が「希望」ならソラは「愛」であるのでしょう。邪神を打ち倒した雷神の力も2度目、3度目は「愛の力」と言えますし、希望を持つ為には不可欠なものです。希望を受け継ぐ為に身を挺してイリアの逃げ道を作ること、それこそが役目だった。

先程「彼女」、つまりイリアが「一度は運命から逃れた」と書きました。ルキウスがイリアを追っ手から護り、道を示した(ソラになった)ことで本来はそこで死んでしまう筈だったイリアの運命が変わり、逃げのびる(羽ばたく)ことができた、そしてルキアが生まれた…という考えはどうでしょうか。イリアは「結局」運命から逃れられずに死亡しましたが、運命から逃れた結果生まれたルキアは、本来途切れてしまう筈だった「諦めない約束」と「雷神の血」を受け継ぐ最後の少女、なのかもしれません。

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