サンホラ考察メモ


■Elysion
〜楽園幻想物語組曲〜
 ├ はじめに
 ├ ループ考察
 ├ 箱舟
 ├ 3-1+1-2
 ├ 盲目のうちに
 └ 肩に座る少女


■Chronicle 2nd
 ├ はじめに
 ├ クロニカとノア
 ├ ルキウスとイリア
 ├ ルキア
 └ 書の魔獣

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「Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜」の中で、「Sacrifice」だけ他の曲とは違った印象を持つ人は多いと思います。

冥府の番人だろうと相手が肖像画だろうと親子だろうと兄妹(?)だろうと女同士(?)だろうと不倫だろうとDVだろうと令嬢と使用人だろうと、事情は様々ですが「Elysion」の物語はその殆どが「恋愛感情」に起因するものです。しかし「Sacrifice」に見られる愛情の種類は家族愛、姉妹愛しかありません。それだけではなく、他のABYSS4曲は「自分の手で愛する人を殺害した」にも拘らず「Sacrifice」の姉が愛していた妹は姉が手をかけたわけではありませんでした。私はABYSS少女達の共通項を、先程も言いましたが「愛する人を自分の手で殺害した女性」と解釈していて、単なる「愛する人を失った女性」とは考えていません。それなら「StarDust」の見知らぬ女、「Yield」の相手の女性など、他にも連れ去られそうな人間が出てくるからです。ならば「愛する人を失い(心に傷を負う)、尚且つ人を殺した(心に闇を飼った)」ならどうかと考えましたが、果たして村人を殺したことで条件を満たすのかという疑問が残ります。

この曲は楽園パレードでは「妹を犠牲にされた姉」、Side:Aでは「多大な犠牲を盲目のうちに払い続け」と、前者では被害者、後者では加害者のような表現をされています。これもまた他の4曲とは違うものです。前者はそのままで「Sacrifice」を聴けば妹が村の平穏の「犠牲」になったことは明白でしょう。では後者はどうでしょうか。まず盲目とは物理的に目が見えなかったわけではないでしょう。「一人では何も出来ない」「他人と違う」という表現が妹だけであることや、「お姉ちゃんが助けてあげてね」と言われることからも姉は健常者であったと見られます。では妹を盲目的に信じていたということでしょうか。

姉は当然誰もが考える「誰かと間違いがあったのではないか」という可能性を思いつきもせず、妹が聖母マリアのように罪を犯さずに子を身篭ったと信じました。嬉しくなった姉は「妹は神の子を身篭った」と村人や神父様に報告し、そこで発覚したのでしょう。「村の女達は次第に冷たくなっていった」からは、女達は男達の行為に薄々気付いていたと窺えます。そこで妹の妊娠で決定的になった、夫の不貞を信じたくない妻もいたでしょう、ショックを受けた女達の矛先が妹に向いて暴力を受ける。それだけならまだしも、男達が何も言い出さなかった為に妹は(姉を除いた村中の誰もが村の誰かの仕業と知っているにも関わらず)「誰もガブリエルを目撃していない」(ガブリエルはマリアに処女懐胎を告げたとされています)という理由で、子供が出来たのは「悪魔と契った」からだ、このままでは村に「災い」が起こる、「火炙りだ」とまで発展してしまうのです。

しかしそこまで事が進んでも姉は若女将や神父様の言っている意味がわからない、最後まで妹は神の子を身篭っていて「悪魔達」に殺されたと信じていたのではないでしょうか。「罪深き者は全て等しく灰に還るがいい」の言葉通り、姉は罪深い悪魔とその住処を焼き払い、そして罪深い(妹の死を願ったこともありましたから)自分も一緒に灰に還ったと私は解釈しています。

問題は「楽園パレードへの参加条件を満たした姉の罪はなんなのか?」と言うところです。姉は犠牲を払い「続け」ていた、犠牲になり続けていたという表現が当てはまるのは姉の愛する者、慰み者にされ続けていた妹だけです。妹にそんな事が起こっていたと姉は知らないでしょう。妹がそんなことをする筈がない、だけではありません。「される筈がない」とも考えていたのです。姉が盲目的だったのは妹だけではなく、村の人間達のこともそう信じていたのです。姉は村人が妹にそんな行為をすると考えたこともなく、優しい言葉をかけられるままに妹の世話や仕事の手伝いなどを頼んでいたのでしょう。家にいる妹にも気を配れというのは朝な夕な働く姉には酷かもしれませんが姉に少しでも疑う気持ちがあったなら男達を受け入れずに遠ざけ、女達に頼むことも出来た筈です。しかしそれをできかった、後ろめたい男達は食べ物を分けてくれたりもしたかもしれません。それで姉はささやかな幸せを噛み締めながら妹と暮らしていた、それが偽りの楽園とも知らずに。

間接的にですが愛する者を死なせてしまっていますし、「罪も無き囚人」という言葉もぴったりです。姉は何も知らず、知ろうともせず、取り返しのつかない場面まで来ても気付かず、妹を死に追いやった。それが姉の罪なのだと考えます。

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