白い帰り道
さくさく、さくさくと雪が言う。
静かな空気。
冷たい道にただ一人。
他に歩く人も無く。
吐く息は白く消え、雪は肩で消えずに残る。
早く何処かへ辿り着きたいのに、それが何処なのか分からない。
分からないまま歩いている。
知らない家から漏れる暖かな光。
その暖かさは、けれど手に入らず。
一体何処へ帰れば、この寒さから救われるのか。
その先にある何かを求めて。
独り歩く、白い帰り道。

 

昼に降り始めた雪が、校舎を出る頃には白く積もっていた。
歩きづらい地面を鬱陶しく思いながら、校庭へと視線を向ける。
そんな自分を殺したくなる。
期待通りそこにいる、雪が嫌いなはずの男。
いつも初雪の日には子供のようにはしゃぎ、誰よりも先に校庭で暴れる。
そんな馬鹿。
今日も周りを巻き込んで、積もった雪を固めて投げながら。
大声で叫び、笑っている。
誰よりも楽しそうに、笑っているのだ。

 

去年の冬の初雪の日。
やはり同じように彼は笑っていた。
白く積もった雪の中、帰ろうと歩く半屋にまで笑い声が届く程。
それなのに「雪は嫌いだ」と言った。
数時間後、まだ降り続く雪の中。
あの騒がしさが嘘のように、一人静かに現れた梧桐は。
暗い夜道の白い道で、半屋を抱きしめ、言ったのだ。
「雪は嫌いだ。だから抱かれろ。」と。
訳の分からないその理屈。
別人のように弱々しいその腕から、逃れる事など容易かった。

だが、半屋はあの日、朝まで梧桐の傍にいた。

 

去年の事を思いながら、校庭の梧桐をぼんやりと見ていた。
その事に気が付き、視線を逸らそうとした時。
笑顔が消えた一瞬を。
見てしまった。
その手に握る雪の塊が、指の隙間からぼろぼろと零れ落ちる様を。
呆然と見ていた梧桐を。
そのほんの一瞬を。

 

逃げるように門を出て、街で意味も無く時間を潰した。
早く止んでくれ、と願いながら。
それでも雪は止む事なく、店の明かりも消えていく。
何処にも、居場所がなくなる。
人の消えた、静かな街。
肌に触れては体温を奪い去る、無数の雪にも。
「帰れ」と促されている。
そう感じる。

 

独り歩く、白い帰り道。
その道の先にある、曲がり角で。
待つ人の存在を知っている。
何故歩いていくのだろう。
騒ぎ疲れたかのように、笑顔の消えたあの表情を。
見たくはないはずなのに。
寒さのせいなのか。
気付けば何か大切な、強さのような部品が欠けて。
さくさく、さくさくという音が近づいてくる事を。
待っている。

雪の嫌いなその人に、必要とされることを。

 

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