「少欲知足」とは、欲が少なくて、僅かなものを得ても満足する事を言います。しかし、今の世の中を見ると、食物
・衣類・遊楽等、何事にも欲を煽りたてる事ばかりが宣伝され、充満しています。人は、満足する事を知らずにれら
を追い求め、そのために身を滅ぼす方もいます。

 田中日淳上人(48代日蓮宗管長・立正大学総裁)は、「法華経講話」の中で次のように述べられています。
「人間が人間として生きてゆくためには、むろん欲望もなければなりません。人間は無欲では生きられないからで
す。生きるためには食べなきゃいけないし、睡眠も必要です。また、性欲が無ければ種の保存ができず、人類は
滅亡してしまいます。しかし、欲望というものは野放しにすれば限りがありません。そこで、欲望をコントロールする
すべとして、あらゆる宗教は存在しているんです。
 動物は、腹一杯に食べればもうそれで充分、決して必要以上に他の生き物を殺す事はありません。ところが人
間はどうかといえば、もう手当たり次第です。到底食べきれない物に、さらに手を出して、結果どうなるかといえば
ゴミとして捨ててしまう。それもこれも、みんな欲望のなせる事です。どうしてそうなるかというと、それは一人一人
に確たる宗教が無いからです。
 欲望をしっかりコントロールする宗教が身についていないから、欲望を野放しにしてしまい、いつまで経っても解
決のめどが立たないのです。
 少欲知足、限りない欲望にきっちり始末をつけて足る事を知らなければ、人間はいつかとんでもないしっぺ返し
をくう事になると思います。
 『少欲知足にして能く普賢の行を修せん』
少欲に知足する事が、普賢菩薩の行を修する事であり、お釈迦様の教えを実践する事が大欲(本当の願い)を手
にする事なのです。
 どうかこの事をしっかり心に銘じていただきたいと思います。」
 「三毒」とは、人の善心を害する根本的な煩悩・迷いの事で、次の三つです。
①貪(とん・どん):自分の欲するものに執着し、むさぼる心。
②瞋(しん):自分の心にたがうものを怒り恨む心。
③癡(ち):愚痴。ものの道理に迷う愚かな心。

 「五欲」とは五種の欲望を言い、眼・耳・鼻・舌・身の五つの感覚器(五根)によって、色・声・香・味・触の五つの対象をむさぼり、享楽しようとして起こる欲望です。
①眼→色欲:色彩や、男女の姿形などに対する欲望。
②耳→声欲:楽器の出す音や、男女の歌詠などに対する欲望。
③鼻→香欲:芳香に対する欲望。
④舌→味欲:一切の飲食、美味に対する欲望。
⑤身→触欲:男女の肌や衣服に触れたいという欲望。
現代では、財欲・色欲・飲食欲・名誉欲・睡眠欲などとも言われています。
平成30年11月1日
妙心寺教会
老尼のお話の部屋
少欲知足
  妙法蓮華経普賢菩薩品の中に、「少欲知足」という一偈があります。そこには、
「少欲知足という事を心に入れて日常の生活を過ごせば、苦しみの元である『三毒』や『五欲』と言われる煩悩から離れて、平穏の日々を送る事が出来る」
と説かれています。