平成9年1月17日、この日は、阪神・淡路大震災が起こった日です。あの日一瞬にし6434人の尊い人命が失われました。いいえそれだけではありません。数知れない鳥類、犬、猫、その他の畜類、魚類、昆虫等、そして草木の生命も失われたのです。また家屋、ビル、建築物等も用を為さなくなったという事は、生命を失ったという事になるのだと考えてゐます。

 私達は生きています。その身体を保ってゐるもの、それは食べ物です。人は食べ物が口に入らなくなると死を迎えます。毎日口にする肉、魚、野菜等によってこの身体があることに気づいて欲しいのです。私達の身体は数えきれない生命をいただいて生きてゐるのです。振り返ってみて下さい。それらの生命に対して有り難いと感じ、心から感謝の念を起こしたことが何度あるでしょうか・・・・・・。
 
 走れなくなった競馬馬は殺されます。その際いざ輸送の車に乗せようとすると強く抵抗するそうです。本能的に死を知るのでしょうか。また屠殺場に連れ行かれようとする牛や豚も同様だそうです。「フォアグラ」という珍味があります。それは鵞鳥を小さな小屋に入れて動けないようにし無理に
えさを食べさせて肝臓を太らせ、それを食べるのだそうです。狂牛病やインフルエンザに罹って処理される牛や鶏等、美食等人類の飽くなき欲望から生みだされては滅してゆく生命達・・・・・・。
 
 今、ボルネオ島の森林は一秒間にテニスコート20面分の森が失われてゐると知りました。伐採やそれによる土砂崩れが原因だそうです。そして森の人と言われるオランウータンは世界でこの島ともう一つの島にしか生息しておりませんが、間もなくこの地上から消えることになるだろうと心配されてゐました。また地球上の酸素が失われる量は、わずか1秒間で710トン、それは140万人の酸欠者が出ると計算されました。人が快適な生活を求め求めた結果が現在の環境をつくり、結局は自分達の首を絞めてゐることにようやく気づき始めました。時すでに遅しの感ですが未来の為に努力しなくては、と思います。
 
 私はこの30年間、縁のあった方に魚鳥畜類への慰霊と感謝のための供養を呼びかけてまいりました。一年に一度その供養会を行ってをります。今年もその日が近づきました。食べ物を口にした時、この身体は数えきれない生命をいただいて生かされてゐるという事を思い出して下さい。その心が本当に一人一人に伝わった時、人心の乱れもなく温かい和やかな世が出現すると思っております。それには、親が子にそして子が孫へと伝えてゆくことが大事だと考えてをります。




 
私共の処では食事の時に食法(じきほう)というものを唱えてをります。以下ご紹介申し上げます。
   
                  
  食法
 
『我等今安(やす)んじてこの飯食(はんじき)を受く。皆これ本佛(ほんぶつ)の慈悲(じひ)なり。願わくはこれによって心身を養い、以(もっ)て信行(しんぎょう)を成就し、佛恩、国恩、同胞(どうほう)の恩に報ぜん。 いただきます。』



 
唱えてゆきますと次第に「たくさんの生命をいただいて生き生かされている、有り難さ」が感じられ、食事も一層おいしく頂けます。

失われる生命

老尼のお話の部屋
妙心寺教会