日本人の平均寿命は女性87歳、男性81歳で 「人生100年時代」と言われています。また、健康に長生きを
願う「健康寿命」と言う言葉も生まれました。

 充実した心で老後を過ごしていくために、富山県の布教師会長の谷川上人は次のような心構えを説いていま
す。
 
人間が年をとって一番辛いのは、「自分が誰の役にも立っていない」という孤独感に包まれる事だそうです。
人は一人で生きて行くのではありません。自分の命は、人と人はもちろんの事、人と他の全ての生命を生かし
生かされている命なのです。その意味で、人は人のために生きなければなりません。そして、「自分が何かの
誰かのために力を尽くす事が出来た」という満足感の中に幸せがあるのです。

 当教会にも、老年の方が増えてきました。行事の時などに顔を出してくれます。しかし、忙しく動いている若い
方たちの様子を見て
「私には何の手伝いも出来ずに申し訳ありません。」
と肩をすぼめてしまうのです。
「いいえ、あなた達が昔手伝ってくれたからこそ今があるのよ。ここに座って、見えた方の話し相手をしてくれる
と有難いのよ。」
と頼みます。顔見知りの参拝者と昔話などをしていると、自然と心が休まるようです。

【四門出遊と縁起の法】
 釈尊が太子の頃、城の東西南北の四つの門から城外に出た時に老人・病人・死者・修行者の姿を目の当た
りに見て心を痛め、「生老病死」の苦しみを越えた真実の世界を求めるために、出家する決意をされました。
 6年間の苦行を積みましたが、苦行によって「生老病死」は解決できない事を悟り、苦行を捨てて乙女の乳
粥の供養を受けたのです。
 そして、「生老病死の四苦の解決は『縁起の法』 を悟る事である」とされ、苦の源である「老・死」を出発点と
して縁起の法を説かれました。「縁起」とは、他との関係が縁となって物事が起こる事で、因縁因果とも言いま
す。
 縁起の法とは、「苦悩の根源を突き詰めていくと、『真実に対する無知』 と『無明(生老病死などの全ての苦
をもたらす原因)』である」 という教えです。

【お題目と縁起の法】
 「元品(がんぽん)の無明を切る大利剣。生死の長夜を照らす大燈明。南無妙法蓮華経」との教えがあります。
「南無妙法蓮華経と唱えることにより苦の根本を知り、その苦しみから脱け出す事が出来る」という教えです。
 現在の私は「生老病死は動く事のない真理である」と分かったような気持ちになっております。

※元品の無明:諸々の煩悩の根源。
※大利剣  :鋭利な剣。煩悩を破り砕く仏智を譬えて言う言葉。
※生死の長夜:凡夫が煩悩に迷っている状態を闇夜に譬えて言う言葉。 


《四門出遊の様子。立体的な絵本です。》
平成30年5月1日
妙心寺教会
老尼のお話の部屋
老いて