シャーロック・ホームズの叡智
技師の親指
 この頃ワトソンはパディントン液の側で開業しているのですが、そのおかげで駅員の贔屓が出来、駅員が患者を連れてきてくれたりもしています。そんな中、駅員が親指を肉切り包丁で落とされた水圧技師を連れてきます。明らかに事件に巻き込まれた、両親のいない若い技師ですが、両親がいないことを確認された上で雇われた先で、殺されかけたというのです。ワトソンは青年を、ホームズの元に連れて行きます。
 ドイツ人だというスターク大佐に雇われて行った先は寂しい屋敷でしたが、とある部屋でまたされていると美しい女がやってきて、この家では悪いことが行われているから逃げなさい、と告げます。怖気づいたものの留まった技師は、故障した水圧機が教えられた用途に使うには立派過ぎる事から用途を探ろうとしましたが、気付いたスタークに機会室にいる間に機械を動かされてしまい、命からがら逃げ出します。その途中で警告をくれた女性に再会し庇われますが、スタークに親指を落とされて気絶してしまうのです。気付くと駅まで運ばれていました。
 技師が殺されずに済んだ謎、スタークのしている悪行の謎を追うこととなります。事件が終わり、大金を貰い損ねた上に親指を失ったことを嘆く技師に、ホームズが言います。
「経験は間接的に役立つものです。それをただ言葉にして話しさえすれば、今後一生あなたはすばらしく面白い人だという名声が得られるのです」
 
緑柱石の宝冠
 ワトソンは窓の外に様子のおかしな男を見つけて、あんな人を外へ出すべきではないなんて感想を漏らしますが、ホームズはその男はここを訪ねてくると言い当てます。
 男は銀行家のアレグザンダー・ホールダーで、さる高貴なお方に貸したお金の担保として預かった緑柱石の宝冠から宝石が三つなくなり、その時に放蕩癖のある息子が宝冠を手にしていた、自分は息子を警察に引き渡したが宝石が出て来ないと、相談に来たのでした。ホールダーは息子のアーサー、メイド三人、ルーシー・パーという第二小間使い、ホールダーの兄の忘れ形見であるメアリーと暮らしています。息子の悪行に憔悴するホールダーでしたが、ホームズは息子が犯人ではないと推理して、見事に真相へ行きつきます。
ライゲートの大地主
 ホームズが体力を消耗し、ライゲートへワトソンと共に療養に訪れていた先での事件です。
 ワトソンの旧友でヘイター大佐は、サリー洲のライゲートに居を構えていますが、かねてから逗留してくれと言われていたこともあってワトソンはホームズを連れて行きたい旨を手紙に書き了承を貰い、ホームズも、大佐は独身貴族だから行った先でも自由に振舞えると言いくるめ、大佐の家での療養が決まります。大見聞も広く、ホームズと仲良くなります。佐は
 さて、大佐から近所のアクトン老人という有力者の家に泥棒が入った話を聴いたホームズは、妙なものばかり盗まれていることから興味を示しますが、療養に来ているのだからとワトソンに押し留められます。
 しかし翌朝になって、アクトン老人と同じく地方の有力者、カニンガムの家に泥棒が押し入り、主人の財産を守ろうとした御者のウイリアムが打ち殺されたという事件が入って来ます。
 カニンガム親子はウイリアムを撃った輩を目撃したと証言しますが、決定的なものは何も見ていません。ウイリアムズの手には、ちぎれた紙切れが握られていました。
 危機一髪の目に合いながらも、握られた紙切れの謎も犯人も、ホームズは解決します。
 
ノーウッドの建築士
 ジョン・ヘクター・マクファーレンという事務弁護士の青年が、慌しくベーカー街の下宿を訪れます。
 彼は殺人容疑者にされてしまい、身の潔白を証明して貰うために駆け込んできたのです。ノーウッドの建築士であるジョナス・オールデカー殺害容疑が掛けられている県を青年が話しているうちにレストレードが追って来ますが、ホームズはレストレードを押し留めてマクファーレンの話を聞きます。オールデガーは殴り殺された上に放火された家で焼死体となって見付かったのです。
 マクファーレンによれば、オールデカーに頼まれて遺言状を作成したが、一部を除いた全財産を自分に譲るという奇妙な内容であったこと、オールデガーとは面識はなく、若い頃にマクファーレンの両親と懇意にしていたという話しがあるだけだということなどを話します。レストレードはマクファーレンが犯人であると確信しており、しかもホームズの調査にも、マクファーレンに不利な証拠ばかりが出てきます。
 しかしホームズは、確実にマクファーレンのものである血でついた親指の指紋が発見されたことで勝利を確信し、不幸な青年を救い出し、レストレードの名誉の失墜を防ぎます。
 
 
三人の学生
 1895年のある時期、ホームズとワトソンはある研究のために、ある有名大学町でアパートを借りて暮らしていたことがあります。
 そんな時期に、面識のあったヒルトン・ソームズという、カレッジで講師兼指導教員を勤める男から事件を依頼されます。三人の生徒が明日、奨学金をかけた試験を受けることになっているのですが、ソームズの受け持つギリシャ語試験の問題用紙が何者かに書き写されてしまった痕跡があったのです。執事のバニスターは何も見なかったと証言します。
 ソームズの部屋には、疵ひとつなかったはずの書きもの机には何かで切り付けたような疵と粘土のかたまりが、窓際のテーブルには鉛筆の削りかすが残されていました。
 容疑者の学生は、スポーツマンで頭の良い、しかし経済的には苦しい家庭のギルクリスト、インドの学生で学科も良くできる真面目な、しかしギリシャ語が苦手のダウラット・ラス、指折りの秀才だが自堕落で不品行なマイルズ・マックラレン。
 ホームズはとある学生の行った不正を突き止めて、学生に言います。
「君は一度だけ過ちを犯した。君が将来どんな成功を収めるか、私たちは楽しみに見守っているよ」
 
スリークォーターの失踪
 ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジのシリル・オヴァートンからひどく慌てふためいた電報が来て、すぐそのあとに本人がやってきます。
 オックスフォード大学との大切なラグビーの試合の前に、名スリークォーターのゴドフリー・ストーントンが失踪してしまったというのです。ゴドフリーは英国でも有数の金持ち、マウント・ジェームズ卿の甥であり、両親がいないため叔父の保護を受けています。ゴドフリー自身は叔父をあまり好いていないので、叔父のところへ自分から出向くことはなさそうなものの、叔父の金目当ての融解ということも考えられました。
 さらに失踪前日にゴドフリーが、頬髭のある荒っぽい男から受け取った手紙にしりもちを付くほど動揺して、「後生ダカラ僕タチヲオ助ケ願ウ」という返信を出していることが分かっています。他に、ゴトフリーが以前にお金を支払っていたという、アームストロング博士にも怪しい動きがあります。
 ホームズが行きついた真相は、悲しい結末でした。
 
ショスコム荘
 雇い人のサー・ロバートの気が触れたと、ジョン・メースンという男がホームズのところに相談に来ます。サー・ロバートは、未亡人で、一台限りで譲り受けたショスコム荘を所有している妹のビアトリスに寄生する暮らしぶりでしたが、このところ様子がおかしいという相談です。
 サーロバートとビアとリスは仲の良い兄妹で、お互いに競走馬好きでもありましたが、ジョン・メースンの相談に訪れた日より一週間ほど前に、大喧嘩をしています。サー・ロバートは妹の大切にしていた犬をよそにやってしまい、毎晩寄っていた妹の部屋にもいかなくなりました。妹のほうでもすっかり馬に興味をなくした様子です。
 さらにサー・ロバートは夜になると納骨堂に出かけて行き、誰か男と共に骨を掘り返していたり、納骨堂に以前は無かったはずの千年は昔のミイラが現れたり、焼却炉から焼けた骨が見付かったり、おかしなこと続きなのです。
 ショスコムを訪れたホームズは、奇怪なサー・ロバートの行動に隠された謎を暴きます。
隠居絵具屋
 事件の依頼に来たジョサイア・アンバリーの感想を、入れ違いで帰って来たワトソンにもとめたホームズは、「哀れな、つまらない敗残の徒だね」ということ答えに、「そうさ、哀れなつまらない男だ。だが人生ってすべて哀れなつまらないものじゃないだろうか?あの男の身のうえも、人生の縮図に過ぎないのじゃないだろうか?手を伸ばして何かをしかと握る。その手の中に残るものは何か?影だ。いや、影ならまだいいほうで苦悩だけだ」と言います。
 アンバリーがどのように哀れなのかといえば、絵具屋をたたんで楽隠居、二十も年下の美しい嫁も娶って、さあ第二の人生という段になってから二年後に、妻を友人のレイ・アーネストという若い医者に奪われ、しかも妻には長年に渡ってコツコツ溜めた蓄えを持ち逃げされてしまったのでした。
 ホームズは抱える事件が会ったので、ワトソンが代わりに捜査をすることになりましたが、行って見るとアンバリーは気を紛らわせるためだと、家のペンキを塗りなおしているところでした。妻がいなくなるその夜、芝居に誘っていたのだが妻は頭が痛いと一緒には来ず、残ったチケットをワトソンは見、憔悴した老人が妻の写真をビリビリに破く様子を目の当たりにします。
 さて、一方でアンバリーのことを調べている、バーカーという私立探偵も登場します。
 ホームズは隠された真相を暴きます。
 ちなみにホームズは地元の警官に、「私はもし探偵にならないとすれば、気さえ向いたら泥棒になっていたでしょう。しかも泥棒で大いに頭角を現し得たと確信します」と言っています。