シャーロック・ホームズの帰還

空家の冒険
 ライヘンバッハの滝で死んだと思われていたホームズが、3年後、ロンドンに戻って事件を解決する一編。
 ロナルド・アデヤ卿が殺された事件を自分で推理してみようとするワトソンでしたが、なかなか進展出来ずにいます。そんなある日、古本屋で老人にぶつかってしまったワトソンは、落とした本を拾ってあげたものの、気分を悪くした老人に汚い言葉を投げかけられます
 しかしその数分後、老人がお詫びをしたいと再び目の前に現れます。
 ホームズは再会を、劇的に演出します。
 モリアーティ一家の残党を捕まえる事、そうしてアデヤ卿殺しの謎を、ホームズが解決します。
 
踊る人形
 ホームズの元に送られてきた、ノーフォークの地主からの手紙には、妻の様子がおかしくなった頃に出現した、踊る人形が描かれています。ワトソンには子供のいたずらにしかみえなかった人形には、実は重大な意味が込められていました。人形の意味を解き、地主のところへ行こうとしていたホームズとワトソンの元に、間に合わずに悲劇が起きたという連絡が入って来ます。
 悲劇は起きてしまいますが、不思議な人形の絵を解読して犯人へ偽の暗号を送ったホームズは、事件を解決するに至るのでした。
 ちなみにこの話には、悲劇がその後どのようになったか、少しだけエピローグが付いています。
美しい自転車乗り
 美貌のヴァイオレット・ハンターには、南アフリカの鉱山へ行ったきり音信普通の叔父がいますが、その叔父がそちらで死んだ時にヴァイオレットの面倒を見るように頼まれたという二人の男が彼女の元へやってきます。ヴァイオレットの家はすでに父も亡くなり、経済的に困窮状態。渡りに船の申し出です。
 しかしでも、二人組みの片方はたいしてイヤな感じではありませんが、もう片割れはぞっとする様な男で、ヴァイオレット嬢は辟易しています。さて、イヤ名感じではないほうの男の娘にピアノを住み込みで教えて金を貰うことにして、週末にはロンドンへ帰る生活を始めます。しかし、田舎道で自転車に乗っていると、必ず誰かが後を付けて来るのです。たまらずホームズの元へ相談に行きます。
 忙しくしていたホームズが初期捜査をワトソンに任せたり、得意のボクシングを役立てたりする一本。
プライオリ学校
 やたらと沢山の肩書きを持ったソーニクロフト・ハクステーブルは、私立プライオリ学校の校長です。ホームズのところへ尊大な様子で入ってきたものの、卒倒してしまいます。なぜそんなにも慌てていたのかといえば、プライオリ学校の生徒で、陛下の重臣である元内閣閣僚、ホルダーネス公爵の息子、十歳のサルタイヤ卿が行方不明になってしまったためでした。
 ちなみにサルタイヤ卿の両親は別居中、塞ぎこんだ卿の気持ちを盛り立てる意味もあっての学校入学でした。
 サルタイヤ卿と同時に行方不明になった人気の無いドイツ人教師と事件の関連は果たして?
 シャーロック・ホームズの、常人よりも鋭い観察眼が事件を解決へ導きます。
 
黒ピーター
 1895年、ワトソンはこの事件の起きた年を、シャーロック・ホームズの肉体と頭脳が最高潮だったと記しています。ちなみに、シャーロック・ホームズの芸術家のような仕事ぶりについても述べています。ロンドン市内に少なくとも5箇所の隠れ家を持っていることも、ここに書かれています。
 ある朝、ホームズがモリを小脇に抱えて帰宅したのをみたワトソンは、その格好にまず仰天し、肉屋で吊るされた豚肉を突き刺していたと聞いてさらに仰天します。そこへホームズを尊敬する若い警部のホプキンズがやってきて、黒ピーターと呼ばれる船長、ピーター・ケアリーがモリで一突きにされ殺された事件についてをホームズに相談していることが分かります。
 ブラック・ピーターは、顔色や髪の色だけではなくその気質からも、「ブラック」とあだ名されている男です。
 現場に落ちていた「P.C.」のイニシャルが入った煙草入れと、「J.H.N.」のイニシャルの入った、株券のリストが書かれた手帳が落ちていて、警察は殺害現場にやってきた「J.H.N.」の頭文字を持つネリガン青年を逮捕します。
 しかしホームズは、ネリガンのような細くひ弱な青年がモリで人を殺せるはずがないと、実験で得た感触から判断して、真犯人を見事に捕まえます。
 
犯人は二人
 ホームズとワトソンは、夕方、「いつもの散歩」というものを習慣にしているようなのですが、帰宅するとテーブルの上に、「代理業・チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン」という名刺が乗っていました。ホームズはいかにも不快そうにその名刺を床に投げ捨てますが、ワトソンが拾って読んで見ると、裏には「六時半にお訪ねします。C.A.M.」と書いてあり、もうすぐやってくると分かります。ホームズ曰く見るヴァートンは、ヘビのような男。今までに関った殺人者と比べても誰よりも嫌悪を感じる男で、恐喝の王者なのです。しかし今回の訪問は、ホームズのほうで呼び出しを掛けたもの。
 今度結婚する、社交界デビューを果たしたばかりの令嬢が軽率に出した手紙で恐喝を仕掛けてきたミルヴァートンを説き伏せるためでしたが、決裂。
 この回、「え?いくら事件解決のためとはいえ!?」という、ホームズのびっくり行動が出て来ます。
 
六つのナポレオン像
 レストレード警部がベーカー街の下宿を訪ねるのはよくあることでホームズも歓迎している、というところから話が始まります。いつものように夜分に訪れたレストレードは、抱えている事件はホームズ向きではなくむしろワトソン向きの病者の犯罪だと思いつつ、ナポレオン像が次々と破壊される事件について語ります。最初は、単なる精神病者の犯行だと興味を示さないホームズでしたが、そこに窃盗事件が絡むと知って、俄然やる気を出します。ちなみに、自分向きだと思われた事件を聞いたワトソンも、医者らしく心理学者の言葉を使って推理をしてみせたりしますが、ホームズに即否定されます。
 翌朝、ナポレオン破壊事件がとうとう殺人事件へ発展します。レストレードは被害者の身元と殺人者の逮捕をしますが、それではまだ、ナポレオン像の謎が残ります。
 そうしてもちろん、ホームズがナポレオン像破壊事件の謎、殺人事件の裏側を解決します。
 
金縁の鼻メガネ
 この事件の起きた1894年、ホームズはフランス大統領から自筆の礼状と共に、フランス大勲章(レジヨン・ド・ヌール)を贈られる事件の解決をしていますが、これはまた別のお話。
 11月も終わる頃の嵐の夜、これまでにもホームズが力添えして上げたことのある、スタンリー・ホプキンズ警部が訪ねてきます。
 ケント洲チャタム市にあるコーラム教授邸で、秘書の青年が刺し殺される事件が起こるのです。青年は死ぬ間際に、「先生、あの女です」と言い残しますが、教授は「あの女」に心当たりは無いと言います。青年は犯人から、金縁の鼻メガネをもぎ取って死にましたが、鼻メガネの特徴から、ホームズは持ち主の女の容貌を見事に言い当てます。
 ホームズは教授に勧められた煙草をふかしまくり、実はそれで最終的に事件を解決に導いていきます。
アベ農園
 これまたホプキンズ警部から持ち込まれた事件です。ちなみにホプキンズから持ち込まれた七回目の事件。
 この話の中でホームズは、ワトソンの物語の書き方を非難していて、暇になったら必ず自分で書くと言っています。
 さて、事件ですが、ケント洲でも指折りの富豪、サー・ユーステス・ブラックンストールが火掻き棒で頭を割られて殺されます。強盗に襲われた、というのです。生き残った完璧な美しさを有した妻も、殴られたあとも痛々しく、しかし美しさを保ったままです。妻は、仲が悪かったことを隠しませんが、果たして真相は?
 ホプキンズは連続して起こっている三人組の連続強盗事件として捜査をしますが、ホームズは現場に残された証拠から真相を突き止めます。
第二の汚点
 実はワトソンは、『アベ農園』でホームズの冒険譚を書くことを打ち切ろう、と思っていたそうです。
 ホームズが物語の発表を嫌がりはじめたから、という理由ですが、さて、この『第二の汚点』、あとがきに訳者の延原謙さんが書いているところによりますと、『帰還』は『アベ農園』でペンを置くことにしていたドイルに、読者たちから催促が強くあって、それまでの作品に「書かれざる事件」として出てきた『第二の汚点』を物語として発表したのだということです。
 ちなみに「書かれざる物語」として、『第二の汚点』は数回、他の物語で言及されているのですが、研究者によっては、それぞれ別物の『第二の汚点』事件が3つあるのだと考えているそうです。
 とある秋の火曜日、大英帝国総理を二度もつとめたことのあるベリンジャー卿と、ヨーロッパ省大臣のトリローニ・ホープ伯爵がベーカー街を訪れて、重大な外交文章で、公表されれば戦争も起きかねない手紙が盗まれたから取り戻して欲しいと言う依頼を受けます。
 さて、盗んだと目される人物が殺されてしまいます。殺人事件と書類紛失の裏に隠された事情を、ホームズが機転を利かせて解決します。