第二話

○桜の森(夕方)・志季の回想

志季「どうしよう。まよっちゃったあ!」

小さい男の子・志季は緑の生い茂る森の中で一人さ迷っている。

志季「(泣き声で)暗くなってきちゃったよ」

一瞬、目の前が真っ赤になる。

目の前に赤く光る宇宙船。

志季「これって・・・うちゅうせん?」

壊れた宇宙船から人影。

人影がゆっくりと倒れる。

人影に駆け寄る志季。

志季「だいじょうぶ?けがしたの?」

志季は人・少女の頬を掌で包みこむ。

志季「どこかいたいの?」

志季の目から心配と不安のせいで涙がこぼれる。

志季「おねえさん大きいからぼくたすけられないよ!」

志季の手に少女の手が重なる。

志季「ごめんね。でも、一緒にいるからね」

少女「・・・だい・・・じょうぶ」

志季「え・・・」

少女「言葉が・・・まだ、わからないの」

志季「だいじょうぶなの?」

少女「大丈夫・・・ありがとう。もう少しすれば傷も治るから」

志季「じゃあ・・・直るまで一緒にいるから安心して」

少女は志季に微笑んだ。

少女「志季は心の中がなんてやわらかいの?」

少女は起き上がった。

志季「もう、だいじょうぶ?」

少女「大丈夫」

志季が泣き出した。

少女「心配してくれてありがとう」

少女は顔をぐちゃぐちゃにして泣く志季の手を握った。

 

○桜の森・入り口にある公園(志季の回想)
志季と少女は手をつないでいる。

志季「ありがとう・・・おねえちゃん・・・あの・・・」

少女「わたしの名前はマリタよ、志季」

志季「マリタ!あの、また会えるかな?」

少女「志季が地球にいるかぎり・・・わたしが志季のいる地球を守るから」

志季「え?」

志季はマリタを見つめた。

 

○桜の森・洞穴の中
志季「不思議だよ・・・あれから何年もたっているのにマリタはあの時のままなんだ」

マリタ「多分、地球人とわたしたちは時間に対しての周期が違うのかもしれない」

志季「そのほうが・・・(少し照れながら)おれは嬉しいけど・・・。(話題を意識的に変える)それに宇宙人のくせに日本語が上手だよね」

マリタ「ありがとう。でも、それは化け物だからこそ出来ることなのかもしれない。でも、志季・・・志季のおかげでわたしは間違いを犯さずにすんだ・・・本当に多くの地球人を殺していたら・・・わたしは本当に怪物になっていたはず・・・」

志季「マリタは怪物なんかじゃない!」
マリタ「志季、あなたと出会えなかったら、

わたしは志季も地球のすべての人間をも殺してしまうところだった・・・」

志季「マリタ・・・」

マリタ「志季と会って・・・別れてから

 

○桜の森・入り口にある公園

後手に手錠をはめられている貴緒。
その両脇に二人の男がいる。

貴緒「宇宙人には解らないかもしれないけど、トイレにいきたんだけど」

男2「なんだそれ?ここにくる前に地球のことは一通り勉強してきたがそんなこと知らないぞ」

男1「生理的なことだ・・・子供はがまんができない生き物だからな。行けばいい」

男1を睨む貴緒。

貴緒「それじゃあ、この手錠を外して欲しい」

男1「それは出来ない」

貴緒「これをはずさなければ何も出来ない!」

男1「なんてことだ・・・。はずしてやれ」

男2「え?」

男1「早くはずして、あれを捕まえて早く国にかえるんだ」

男2は貴緒の腕についていた手錠をはずす。

 

○公園内・公衆トイレ
貴緒トイレの個室に入っている。

貴緒「志季が隠れるとしたらあの洞穴しかない」

携帯を上着のポケットから取り出し、電話をかけるが通じない。

貴緒「やっぱり、洞穴だ・・・(メールを打ち始める)シキ、ウチュウジンニツカマッタ。ナントカニゲル・・・洞穴だと届かないかもしれないけど・・・」

トイレの扉のカギを静かに外し、貴緒はトイレの2つの個室のしきりに上によじ登り、上から扉を開く。

ギギーと鈍い音がトイレに響く。

男2「出たのか?」

暗がりを歩く男2。

息を潜める貴緒。

トイレの個室を一つ一つ覗く男2。

男2「いない(外に向かって叫ぶ)逃げた!」

 

○公園内・公衆トイレの外
男2「消えた!」

男1「消えた?地球にも超能力を持った者がいるのか?」

男2「あの子供・・・今度は(懐から銃を取り出し)これで!」

男1「何を言っている?我々は仮にも地球人を助けにきているのだぞ?」

男2「後一息であれを捕まえることができたのに!」

 

○公園内・公衆トイレの中〜外

貴緒、しきりから降りてくる。

貴緒「よし」

外の様子を伺う。

宇宙人はどうやらいない。

 

○桜の森・入り口付近〜洞穴

貴緒、身を隠しながら歩いている。

 

○桜の森・入り口付近
男1「やっぱり・・・この辺に隠れているようだ(貴緒らしき人影を指差して)」

男2「子供だな(銃をかまえる)」

男1「やめろ!殺してはだめ・・・!」

男2、男1を銃の柄で殴る。

男1前のめりに倒れる。

 

○桜の森・洞穴近く
貴緒「・・・(背後の気配に気が付いて)さあ、どうする?」

 

○桜の森・洞穴の中
志季「マリタ・・・俺、貴緒のことが気になるから・・・一人でも大丈夫だよね?」

マリタ「志季。一緒に行く」

志季「え?」

マリタ「わたしはもうこれ以上、逃げることはできない!わたしのせいで志季の大事なトモダチを犠牲にはできない!」

志季「マリタ・・・」

マリタ「わたしは・・・」

志季「マリタ?」

マリタ「敵が・・・近くにいる・・・。志季、貴緒もいる!」

 

 

○桜の森・洞穴近く
貴緒「どうすればいい?」

男2に銃を向けられている貴緒。

男2の足元で男1が倒れている。

男2「大体・・・(男1の体を蹴飛ばす)こいつは規則に従いすぎだ。早くおまえのような子供は殺すべきだったんだ」

貴緒「どうする?」

男2、仰け反る。

貴緒「志季!」

志季「貴緒!」

貴緒「今・・・何があったの?」

志季「(後ろに振り返りながら)マリタの力で倒したんだ・・・(頭をさげながら)それより、助けに来るのが遅くてごめん」

貴緒「(笑って)そんなことないでしょう」

志季「貴緒、顔が腫れてる」

貴緒「そこで伸びている(男1に視線を落とし)おじさんに軽く叩かれたんだよ」

志季「なんで、こいつのびてんの?」

貴緒「どこの星にも上下関係ってあるんだね」

志季「ふーん?あれ?」

貴緒「どうしたの志季?」

志季「(きょろきょろしながら)マリタ?」

貴緒「マリタ?」

志季「俺たちが助けた女の子だよ。(嬉しそうに)マリタっていうんだ・・・俺の恩人の宇宙人・・・(不安げに)でも、どこに行ったんだろう?」

貴緒「!志季!危ない!」

貴緒は志季を地面に押し倒した。

二人の後ろにあった木が煙をだして倒れる。

志季「いて・・・な、なんだ?」

立ち上がる貴緒。

貴緒「あれが・・・マリタ?」

志季も立ち上がる。

志季「え?」

貴緒「彼女が・・・今、僕らを狙ったんだよ」

貴緒と志季の目の前に赤いオーラを従えた少女が仁王立ちしている。

志季「なぜ?マリタ!!どうして?」

貴緒「危ない!志季!」

貴緒は志季の手首を掴み走る。

志季「マリタが・・・どうして、俺たちを狙うんだ?」

さっきまで二人のいた場所が燃え上がっている。

貴緒「志季。しっかりして!走って」

志季「おかしいよ!さっき、貴緒を助けたのはマリタなのに!」

志季は貴緒の腕を振り払い、マリタの方へふらふらと歩みよっていく。

貴緒「志季!」

マリタの赤く染まった目が笑う。

貴緒「志季のばか!」

貴緒は志季を押し退け、志季の前に出る。

マリタから発せられる力が志季の左肩にあたる。

志季「う・・・」

志季の前で仰け反り地面に叩きつけられる貴緒。

志季「貴緒!」

我に返る志季。

志季「マリタ!」

マリタに飛びつく志季。

その場で二人はもつれ合いながら倒れる。

志季「マリタ!どうしてあんなことを!」

マリタの上に跨り襟ぐりを掴む志季。

志季「マリタ!」

マリタの手が志季の両手首を掴む。

志季「い!」

志季の体が弾け飛ぶ。

志季「ううう・・・」

貴緒、起き上がり倒れている志季まで歩く。

貴緒「マリタに嫌われているのは僕だけかと思った・・・」

貴緒の手助けで志季が起き上がる。

志季「それはないよ。貴緒の方が女の子うけるじゃん・・・(貴緒の血だらけの肩を見て)それ・・・」

貴緒「大丈夫でしょう。生きているんだから」

志季「貴緒あの大きな木まで走れるか?」

10メートルほど離れた場所にある大木に視線を移す貴緒。

貴緒「大丈夫。走れるよ」

志季「じゃあ、走れ!」

貴緒「ちょっと、待ってよ。まさか、一人であの強い女の子と戦う気じゃないの?」

志季「まさか。抱きついて仲良くなるんだよ」

貴緒「ふざけてる時じゃないよ」

志季「いいや。本気」

貴緒「本気って・・・志季」

志季「頼む・・・マリタを助けたいんだ」

貴緒「志季。じゃあ、走るから」

貴緒は一目散に10メートル先の大木に走る。

マリタが一瞬、貴緒に気を取られる。

志季はマリタにしがみ付く。

志季「マリタ!」

勢いあまって志季とマリタは倒れこむ。

志季「マリタ!どうしちゃったんだよ?」

マリタ「マリタ?なぜ、わたしのことをそう呼ぶ?わたしはアルファ1だ。それは、わたしのオリジナルだ」

志季「マリタが消えたのか?」

マリタ「マリタは死んだ。あれは、単なる力の源だ。消えたのではない」

志季「マリタは戻ってくるはず!きみはマリタだ!自覚を持てば、埋め込まれた兵器としての記憶が消えるはずだ!マリタ!しっかりするんだ!」

マリタ「地球人は滅びるのだ」

 

○桜の森・大木の陰

大木によりかかりながら二人のやりとりを見ている貴緒。

貴緒「(痛みに耐えながら)志季・・・」

 

○桜の森
志季「ああああああああ!」

マリタの上に覆い被さった志季の背中から真っ赤な血が飛び散る。

 

○桜の森・大木の陰
貴緒の目に志季の血が映っている。
貴緒「志季!」

貴緒は大木の陰から飛び出した。

何かに足をひっかけ転ぶ。

そこにはマリタに倒された男2と銃が転がっていた。

銃を拾う貴緒。

動かなくなった志季の体を払いのけている赤く染まったマリタ。

貴緒とマリタ、目が合う。

銃を構える貴緒。

貴緒に向かって真っ直ぐ歩いてくるマリタ。

貴緒「志季はきみを信じていのに」

貴緒の目から涙が溢れ出している。

貴緒「僕らはこんな所で、こんな形で死ぬはずはないのに」

マリタは表情ひとつ変えずに貴緒に歩みよってくる。

貴緒「志季・・・ごめん。彼女を撃つよ」

マリタの指先が貴緒の頬に触れた瞬間。

銃声。

マリタの左胸から赤い血が飛び散る。

志季「マリタ!」

志季は懇親の力を振り絞り倒れていくマリタに走りより抱きとめた。

貴緒「志季!」

志季「貴緒!後ろだ!後ろを撃て!」

踵を返す貴緒。

銃を構えた男1の姿が目にはいる。

男1「言ったとおりだろう?そいつは人間を滅ぼす為に来た兵器なんだ。だから、おまえたちを殺そうとしたんだ」

躊躇う貴緒。

志季「一瞬でも、マリタにもどったんだ!殺さなければもとに戻ったかもしれないのに!」

男1「助けてもらって文句を言われては、困る。さあ・・・その兵器、我々に返してもらおうか?」

志季「貴緒・・・撃て!撃ってくれ!」

銃声。

倒れる貴緒。

志季「たかおおお!」

男1「もう、邪魔はさせない。我々が宇宙平和機構から独立するためにどうしてもそれが必要なんだ。我が星から独立しようとした反乱分子はオリジナルを機構に没収されてしまった・・・それが、最後の怪物だ」

男1は志季に銃口を向けた。

志季「おまえたちの為に、貴緒が死んだのか?マリタも?許せない!」

赤い涙が志季の目から溢れ出す。

男1「なんとでも言うがいい」

志季の涙がマリタの青ざめた顔にひとつ、またひとつと落ちてゆく。

マリタの目がゆっくりと開く。

男1が笑う。

爆音。

男1の腕が弾け飛んだ。

男1「うわああああああ」

ゆっくりと起き上がるマリタ。

志季「マリタ・・・」

マリタ「志季・・・」

がくりと倒れる志季。

マリタ「今度はわたしが志季を助けるから。怪物だからあなたを助けられる・・・わたしは、怪物でよかったのかもしれない」

マリタは志季の焼け焦げた胸に手をかざす。

マリタ「志季!死なないで!」

青ざめた志季の顔に唇をあてるマリタ。

マリタ「志季・・・」

マリタは志季から離れ、動かなくなった貴緒の体を抱き起こす。

マリタ「こんな目に合わせてごめんなさい・・・志季の大事な友達」

銃弾の打ち込まれた左胸にマリタは手を当てた。

マリタ「大丈夫・・・大丈夫。死なせないから」

志季は目を明けた。

貴緒のぐったりとした姿が目に映る。

志季「た・・・貴緒」

マリタ「志季・・・気が付いたの?」

志季「貴緒は?」

マリタ「解らない・・・暖かくならないの」

志季は立ち上がり貴緒の側へ座り込んだ。

貴緒の左胸に耳を当ててみる。

 



 最終話につづく