最終話

 

 

 

志季は貴緒の左胸に耳を当ててみた。

志季「貴緒・・・」

心臓の音だけが響く。

志季「安心して・・・マリタ。貴緒は大丈夫だよ」

両手で顔を被うマリタ。

マリタ「ごめんなさい。こんなことになってしまうなんて。わたしは地球に来るべきではなかったんだ」

志季「そんなことない!マリタがいなかったら、俺はこの森で迷子になって・・・死んでいたかもしれない」

首を横に振るマリタ。

マリタ「わたしは・・・あの時、小さいあなたと別れた後・・・不時着した宇宙船に戻ったところで地球人に捕まったの。そして、研究所に連れて行かれて・・・いろいろな事をされたわ。怖かった・・・マリタは怯えていた・・・。でも、マリタは逃げなかった。また、志季、あなたと会うために正気でいようとした。でも・・・ある日、わたしはとうとう解剖されることになったの。光ったモノがわたしを切り裂こうとした瞬間・・・マリタは消えたの・・・。そして・・・再び地球人を排除する為の道具に戻った・・・そして、わたしと一緒に回収されていた宇宙船に乗り込み・・・また、落ちたの。志季と出会った場所に」

志季「マリタ・・・」

マリタは志季の腕を取った。

マリタ「志季。わたしは危険だわ。いつまたどこで、マリタが消えて兵器になるか解らないの・・・しかも、わたしの星の政府もわたしを探している。わたしをまた兵器として使う為に!わたしはもう、道具に戻りたくない!だから・・・」

見つめ合う志季とマリタ。

志季「だめだ・・・マリタ」

マリタは首を横に振った。

マリタ「わたしのいる所はもうないの」

志季「マリタ。俺がマリタを守るよ。だから、ずっと、一緒にいよう」

マリタ「志季・・・無理だと解っているのに、どうしてそんなこと言えるの?」

志季「解っていても・・・嫌だ!」

マリタ「志季には貴緒がいるから・・・わたしは志季が、わたしのことを貴緒と同じぐらいに大事に思っていてくれているだけで、この世界に存在してよかったって思っているから。だから・・・兵器としてこの世界から消えるのではく、マリタとして消えたい」

愕然とする志季。

志季「(無理矢理微笑みながら)マリタ。俺には超能力なんてないけど、マリタの気持ちが解かるよ」

マリタ「ありがとう」

貴緒「・・・し・・き」

気が付いた貴緒。

志季「貴緒」

貴緒「志季・・・僕は」

志季は貴緒を抱き起こしそのまま両腕でしっかりと抱きしめた。

貴緒「え?(赤面)ちょっと・・・」

志季「俺のために死ぬなんて貴緒はばかだ」

貴緒「ばかかな?」

マリタ「ありがとう・・・二人とも」

貴緒から離れる志季。

志季「貴緒・・・紹介するよ。マリタだ。俺の恩人だ。ずうっと昔からの恩人だ」

貴緒「見つけたんだね。志季のロマン」

志季「(赤面して)見つけたよ」

マリタ「志季」

志季「マリタ・・・」

マリタ「志季。マリタが再び兵器としてのアルファ1に支配されるかは時間の問題だと思うの・・・。わたしがマリタでいられる間に、宇宙船に戻って出発しなければ・・・」

志季「マリタ。何もしてあげれなくてごめん」

マリタと志季はお互いを抱きしめた。

マリタ「志季。逢えてよかった。もし、志季と出逢っていなかったら、わたしは本当に怪物になってしまっていたはずだから」

二人は見つめあい、身体を離した。

マリタ「宇宙船を探さなくては」

志季「探す?」

マリタ「わたしが乗ってきた宇宙船はもう飛べないから、政府の宇宙船を使うの。地球に塵は置いていかないから」

マリタは目を閉じて深呼吸をする。

 

○桜の森・奥(マリタの映像)
銀色に光る宇宙船がある。
そこには数人の男の姿が。
そこには、さっき片腕を失った男1がいる。

男3「今度こそ捕まえないと政府から大目玉を喰らうぞ」

男4「だから最初から研究所ごとあれを消してしまえばよかったんだ」

男1「政府はあれを欲しがっている」

男3「宇宙平和機構に逆らってなんの得があるんだ?」

男1「宇宙平和機構がなければ、我が星の天下だ。われわれの計り知れぬ叡智があればすべての星を支配できるはずだ」

男4「ばかばかしい」

男4は耳から小さなイヤホーンを外して捨てた。

男4「もう、地球の言葉なんて必要ないだろう!あれをこいつで消して帰ろう!」

男3「そうだ!」

男4は大きなレーザー光線の出る機械を持ち出してきた。

男1「ばかが、政府に叛く気か?」

男3「政府より宇宙平和機構の方が怖いね」

男1「そうか、残念だな」

男1は躊躇うことなく男3と4を立て続けに銃で撃った。

男1「誰か政府に叛かおうという者はいるか?」

 

 

○桜の森・奥

目を開けるマリタ。

マリタ「いたわ。(悲しそうに)本当にさようならね」

志季「マリタ!」

一瞬のうちにマリタの姿が志季と貴緒の目の前から消える。

志季「マリタ」

貴緒「志季!」

二人は走り出す。

貴緒「きっと、あいつら見つからないような場所に宇宙船をおいているはずだよ」

立ち入り禁止の看板に目もくれずに二人は走る。

 

○桜の森・奥

宇宙船の前に瞬間移動してきたマリタ。
マリタ「一緒に故郷に帰りましょう」
男1「自らやってくるとは」

マリタ「必要なんでしょう?マリタの超能力が」

男1「そうとも、その化け物の力があればな」

マリタ「じゃあ・・・帰りましょう」

宇宙船に乗ろうとするマリタを制する男1。

男1「宇宙船に乗る前に眠ってもらわなければ。おっと、その前に地球人を排除するという仕事も残っているぞ」

マリタ「な・・・それは、反乱軍の命令であって政府とは関係ないはずよ」

男1「ここで地球人を皆殺しにすれば、我が星の政府も反乱軍も宇宙平和機構に抹殺される。そして、生き残ったわたしがここで地球の支配者として君臨し、その化け物の細胞でもっと多くの兵器を造り、星という星を支配するのだ」

マリタ「ひどい・・・」

男1「わたしのために働いてくれ。マリタ。妻に裏切られた可哀相な男を助けてくれ。おまえがいなければわたしは妻に裏切られることもなかった」

マリタ「あなたは誰?」

男1「おまえが反乱軍に連れ去られた後、妻に撃たれたわたしは、政府に国家反逆罪で捕まった。死んだ方がましだったよ・・・牢獄での生活はとても酷いものだったよ。だが、運がいいことに、おまえたちの活躍によって政府がわたしに目をつけた。娘を捕らえ、娘に会って政府の見方になれと説得しろと言ってきたのだ・・・。だが、我が星よりもこの地球はかなりすばらしい。ならば、この星のを拠点に他の星星を侵略をしていけば・・・政府などに頼らずとも、おまえのその超能力があれば親子共々、幸せになれるというわけだ。ここまで、言えば、わたしが誰だかわかるだろう?」

後退りするマリタ。

マリタ「いやあ」

マリタの周りが赤く揺らめく。

マリタ「近寄るな!」

 

○桜の森・奥(志季と貴緒)

走る二人。

志季「あっちだ!赤くなっている!マリタになにかあったんだ!」

 

○桜の森・奥(宇宙船の前)

銃を持った男たちがマリタを囲んでいる。

マリタ「裏切ったのはママじゃない。おまえだ!マリタも死んだ。おまえのせいで、マリタはもう、ずうっと昔に死んでいる」

マリタの父「だが、その細胞の半分はわたしがおまえにあげたものだ。わたしにはその力の恩恵を受ける権利はある」

マリタの父親は銃を持った仲間に目配した。

マリタの父「安心しろ。麻酔銃だからな」

一斉にマリタに向かって銃弾が放たれる。

よろよろと倒れるマリタ。

マリタの父「次に目覚めるときは、二度とマリタが目覚めないように・・・楽しく仕事が出来るようにしてやるからな」

男5「ああああ」

男5の首が飛んでいる。

男6「ぎゃー」

男6の四肢が飛び散る。

次から次へと男たちの断末魔が森にこだまする。

 

○桜の森・奥(志季と貴緒)

悲鳴に足が竦む二人。

貴緒「すぐそこだよ」

志季「(不安げに)ああ」

 

○桜の森・奥(宇宙船の前)

赤く揺らめくマリタに次々と倒されていく男たち。

マリタの父「なんて破壊力だ!」

マリタ「楽しそうね?パパ?わたしはとても胸が苦しいのに・・・でも、止められないの。もう一人のマリタが許さないって言っているから」

マリタの父「おおお。マリタもうみんな死んだよ・・・やめるんだ。パパがおまえを大事にしてあげるから」

銃を片手に男はマリタに近寄ってきた。

マリタ「往生際の悪い男だな。自分の手で父親を殺さなきゃいけないなんて・・・可哀相なマリタ」

マリタの赤く燃えた腕がマリタの父親だった男の左胸に吸い込まれるように入っていく。

マリタ「沢山の星で、わたしはこうやって沢山の生きている者たちを殺してきたの。(心臓を握りながら)これがわたしの心の痛み・・・わかる?パパ、あなたはこれで死んでしまえば痛みは終わるけどわたしは」

銃声。

マリタ「すべてを失ったときからこの痛みは途絶えることなく続いた。でも、今、ここでこの痛みも消せる」

マリタは父親だった男の身体から自分の手を引き抜いた。

マリタ「不思議ね・・・もう一人のマリタが優しくわたしに微笑んでいるの。もう、やめようって・・・」

マリタは自分の左胸に触れた。

マリタ「わたしたちの身体の中にもこんなに暖かいものがあったんだね」

地面に膝をつくマリタ。

その背後から志季の声。

志季「マリタ!マリタ!あああ、なんてこと」

マリタを抱き寄せる志季。

マリタ「志季。また、あえるなんて」

志季「早く自分でその傷を治して」

マリタ「・・・出来ない」

志季「どうして?」

マリタ「マリタの心で沢山、殺してしまったから」

志季「マリタ・・・」

マリタ「志季、お願い・・・わたしをあの宇宙船に運んで」

志季はマリタを抱き上げた。

志季「マリタはとても軽い・・・。マリタは本当は宇宙人じゃなくて天使なんじゃないのかな」

 

○宇宙船の中・コックピット

コックピットの座席にマリタをのせる志季。

マリタ「ありがとう、志季、貴緒」

志季「マリタ」

マリタ「早くこの森から出て行って。宇宙船を消去するから・・・少しだけ森を傷つけてしまうかもしれないけど。あの沢山の死体とこの宇宙船は消えるから・・・何もなかったように。」

志季「何もなかったように?」

マリタ「志季。さようなら」

志季はマリタの横たわるシートから離れた。

 

○宇宙船の外

宇宙船を見上げる志季と貴緒

貴緒「平和ボケした地球人なんだ」

志季「え?」

貴緒「こんな悲しみばかりじゃ耐えられないもの。平和ボケでもいいよね」

宇宙船を後に歩き出す貴緒。

貴緒「志季、早く」

振り向く貴緒。

立ち止まったまま動かない志季。

志季「だめだ・・・俺。マリタを放っておけない」

貴緒「だめだよ、志季。まだわからないの?

マリタが自分の命を捨てても守りたかったのものを。地球人なんかじゃないだ!志季、きみなんだよ!」

志季に駆け寄り腕を掴む貴緒。

志季「助けたかった。マリタを助けたかったのに」

志季の目から涙が零れ落ちる。

貴緒「志季。きみがなにもできない自分を恥じて泣いていても、僕は知っているよ。きみがぼくを命がけで守ってくれた事も、そして、マリタを救おうとしたことも・・・だから自分を責めないで」

貴緒は志季の腕を引っ張り早歩きで歩きだす。

志季「貴緒・・・。おまえ、いいやつだな」

貴緒「今ごろ気付いたの?」

志季は貴緒の肩に腕をまわした。

志季「知っていたけど、くやしいから認めたくなかっただけさ」

肩を強く抱きあう二人の背後で赤い炎が揺らめいていた。

 



  最 終 話