赤い星が落ちた日         

青樹 星

 

 

○志季の家・屋根の上(夜)

 貴緒(少年・13)の隣で志季(少年・13)が天体望遠鏡を覗き込んでいる。

志季「(望遠鏡から顔を離し志季の方をみながら)貴緒!今の見たか?」

貴緒「うん!桜の森の方が一瞬燃えたように赤くなったよね!」
志季「うん。赤く光った!間違いない!宇宙船だ!」
 二人は顔を見合わせて頷き合う。
志季「行ってみよう!」

○閑静な住宅街

 自転車に乗った志季と少し送れて自転車に乗った貴緒。
志季「(振り向きながら)貴緒!急げ!」

○桜の森・獣道の始まる手前

 自転車から降りる二人〜森に足を踏み言える二人〜奥へと向かう二人

志季「(目を輝かせながら)なんか、わくわくするな!」

貴緒「そうだね。志季は小学生の頃から宇宙人に会いたいって、言っていたからね」

志季「(胸を張りながら)そうさ!俺のロマンだ!」

貴緒「それ、いいね。確か引っ越してきたばかりの時、初めてこの森に来て迷ったのを宇宙人に助けられたんだよね」

志季「(少し驚いて)貴緒は頭がいいな」

貴緒「(不思議そうに)どうして?」

志季「それ、話したの小学生の時だよ。あんな与太話(照れくさそうに口篭る)」

貴緒「(満面の笑みで)ロマンなんだよね」

 

○桜の森・奥

前方が明るく、赤く蜃気楼のように揺れている。

志季「貴緒、あそこだ」

貴緒「うん。」

志季は赤く暖かい方へと歩を進める。

志季「あ」

志季の視線の先に人影が動く。

志季「あ!」

人影がゆらりと倒れこむ。

志季は人影に向かって走り出す。

貴緒「志季!」

志季が人影を抱きとめる。

貴緒「志季・・・」

志季の後ろから貴緒も走りよる。

志季「か、かるい・・・」

貴緒「軽い?」

二人は志季の腕の中を覗き込む。

志季「女の子だ・・・」

志季「女の子だよ、貴緒」

志季と貴緒は顔を見合わせた。

志季「どうしてこんな所に・・・」

貴緒「どうしてって・・・。それよりも志季、この子、怪我をしているよ」

志季「え?」

貴緒の視線を志季は追う。

志季「本当だ」

少女の左肩から胸まで真っ赤に染まっている。

貴緒「お医者さんに連れていかないと」

志季「そうだ・・・行こう」

志季は少女を背負う。

歩き出す二人。

貴緒「大丈夫?重くない?」

志季「大丈夫。重くないよ」

 

○桜の森・入り口付近・一本の八重桜の下

花びらが志季、貴緒、少女に降り注ぐ。

男1「待ちなさい」

声だけが響き渡る。

志季「誰だ?」

木の陰から数人の男が現れ3人を囲む。

男1「それをよこしなさい」

志季「よこすってなにを?」

男2「何ってわかっているだろう?」

志季をかばうように貴緒は前に出る。

貴緒「何が欲しいか解らないけど、どいてください急いでいるんです」

男1「鈍い子供たちだな、お前たちの持っているそれだよ」

男1が少女を指で示した。

志季「それ、それってこの子は物じゃない!」

男1「(にやりと笑って)子か・・・。いいとも、じゃあ、その子を我々によこしなさい」

貴緒「あなた達は、この子の知り合い?」

男1「(男2と顔を見合わせる)勿論、知り合いさ。でなきゃ、渡せなんていわない」

貴緒「・・・解りました、お渡しします。でも、この子は怪我をしています。早く手当てをしてあげてください」

男1「なかなか、素直な子供だな」

少女を受け取ろうと男2が志季に近づく。

貴緒「志季!走れ!」

貴緒は正面の男1に体当たりする。

志季は倒れた男1の横をすり抜け、一目散に走り出す。

男1「追え!」

一斉に男たちが志季を追う。

男1「面白い冗談だ」

男1、貴緒を後手にして地面に押し付ける。

貴緒「わ、笑えました?」

男1「今度は俺が笑わせてやろうか?」

 

○桜の森・暗い洞穴

洞穴で横たわる少女とその横で座り込む志季。

志季「うまくここまでこれたけど・・・」

少女「う・・・」

志季「大丈夫か!」

少女「ここは・・・?」

志季「大丈夫?」

少女「こ、ここは?」

少女が志季の腕を掴む。

少女「ここはどこ?」

志季「ここは桜の森で、君はそこで怪我をして倒れていたんだ。怪我は大丈夫?痛くない?」

少女「け・・が?」

志季「そう、怪我をしているんだ。痛くない?」

少女「あ・・・これ?すぐ直る。それよりここは地球なの?地球人の言葉は多いけど、わたしはあなたと同じ言葉が好き」

志季「君は何を言っているんだ?怪我で混乱しているみたいだ。そんなに血が出ているのに」

少女「ち?あ・・・あ、血なの?これが血というの?怪我は痛いのね」

志季「君はいったい・・・」

少女「君はいったい?あなたの疑問はそれ?わたしの疑問はここは地球かどうかということ。そして混乱しているのはあなたよ」

志季「(語調が強くなる)心配して助けたのは俺たちだぞ!」

少女「やっぱり混乱しているのはあなたよ。感情が高ぶっているもの。地球人はみんなそうなの?」

志季「地球人って・・・」

少女「地球は綺麗だけど、地球を支配している生物がとても下等だと聞いていたけど、本当ね」

志季「地球人って・・・じゃあ、おまえは何何なんだ?」

志季は少女の胸倉を掴む。

志季「そうか!さっきの宇宙船に乗ってきたのはおまえだったんだ!」

少女「宇宙船?あ、あれね。さっき落ちてきたのはさっきの者たちが乗っていた宇宙船。わたしのは、やっと見つけたのに・・・動かなくなっていたわ・・・やっと、地球人の研究所から逃げることが出来て自由になれたのに。これでは使命が果たせない」

志季「使命って・・・使命って何?」

少女「勿論、我々がこの美しい星に住むために、愚かで醜い地球人を排除すること」

志季「そんな・・・そんな・・・」

少女「混乱している」

志季「・・・うそだ・・・。じゃあ、あのお前を追いかけていた男たちは?」

少女「あれは、我が軍の敵の者。着陸に失敗して地球人に捕まってしまった私を消す為にやってきた者達」

志季「じゃあ・・・貴緒は・・・?貴緒はどうなる?」

少女「たかお?」

志季「お前を助ける為にあいつらに捕まったかもしれない・・・」

志季の頬に涙が伝わっている。

少女「それはなに?」

志季の涙に触れる少女。

志季の体が行き場のない悲しみと怒りで震える。

志季「しかも、地球人を排除するってヤツのために・・・」

少女「これはなに?」

少女は頭を抱えたまま泣きじゃくる。

少女「いやあああ」

志季「いったい・・・」

少女「パパはわたしをいらないって!」

小さく丸くなって泣きじゃくる少女。

少女「ばけものだからいらないって」

志季「なんで・・・」

志季は震えながら泣く少女を抱きしめた。

志季「どうして、泣くの?」

少女「どうして・・・どうして、あなたは、ママのように優しく抱きしめてくれるの?」

志季「それは・・・解らない、俺はおまえのことが嫌いだけど、今はこうしなきゃって思ったから・・・」

少女「(志季の目を見つめて)わたしは化け物なのに・・・。あなたはトモダチのタカオの事で頭が一杯なのに・・・わたしのために心の中をとても柔らかくて温かくしてくれているのは、なぜ?わたしの知っている人たちの心の中はいつも痛く刺さって、小さいマリタはいつも傷ついていたの」

志季「マリタ?」

少女「マリタは類いない超能力の持ち主、そしてわたしのオリジナル」

少女が志季の手を自分の手で包み込んだ。

 

○朽ちかけた家・居間らしき部屋(少女の回想)


小さな女の子と母親がソファーに体をしずめている。その向かいの椅子には女の子の父親。

母親「お金の為に、血も涙もない兵器を売るような人間にあなたは、自分の娘を売れるの?」

父親「おまえは反対なのか?こんないい話し、二度とない。いつまでもこんな化け物の娘と一緒にいても幸せになれないだろう?自分と引き換えに大金が入ってくれば、自分のせいで村八分になっている可愛そうな両親が幸せになれるんだぞ。最初で最後の親孝行だと思って、この子だってきっと解ってくれるよ」

母親「ええ、そうでしょうね。あなたの口から出た言葉は、この子の心に永遠の傷となってのこるでしょう」

娘を抱き寄せる母親。

父親は椅子から立ち上がり寝室へ向かうが戻ってくる。

父親「・・・変だな」

母親「あなたの探しているのはこれかしら?」

母親は銃を父親に向けて構えていた。

父親「(苦笑いを浮かべ)撃てるのか?」

母親「撃てると思う?」

引き金をひく母親。

銃声。

倒れる父親。

母親「恨むなら自分を恨みなさい」

母親は娘を抱きしめる。

母親「マリタ・・・ごめんね!」

再び銃声。

娘を抱いたまま前に倒れこむ母親。

男「面倒を省いてくれてありがとよ」

母親の下で、泣きじゃくる小さなマリタ。

マリタ「ママァ!」

男「げ・・・」

男の銃を持った腕が弾ける。

その後ろからやってきた女がすかさずマリタを撃つ。

女「だめじゃない。すぐに麻酔銃で仕留めないと。こんなに小さくても化け物なみの超能力を持っているのよ」

 

○桜の森・洞穴の中
少女「これが可愛そうなマリタの記憶」

志季「(青い顔をして)今の・・・」

少女「これが化け物の力・・・あなたの名前もわかる。志季・・・」

志季「今見た映像は本当にあったこと?」

少女は黙って頷いた。

 

○宇宙船の中・広い部屋
二人の男に挟まれて椅子に座っている、囚われた貴緒。
男1「さあ、子供。おまえの仲間はあれをどこへ連れて行ったんだ」

貴緒「ぼくは子供じゃないし、アレって言われても何の事だか解らない」

男2「子供じゃなきゃなんなんだ?」

男1「そんなことはどうでもいい!あれを逃がすと言う事は地球人すべての問題になるんだ!どういうことか解るか?あれは地球人を地球から排除するためにきたんだ。それでもあれの見方をするのか?」

貴緒「地球人を排除?いったい・・・」

男1「平和ボケしている地球人には解らないだろうが、あれは我々の星の反乱軍の兵器だ。反乱軍は我が星から独立をするために、あれを使って新天地を探している。我々としても反乱を起こされるぐらいなら、出て行って欲しいところだが、やり方がまずい。反乱軍はあれを使って今まで数百の星を滅ぼしてきた。我が星は反乱軍の行ないによって宇宙平和機構から、やつらをこれ以上野放しにするようなことがあれば、我が星を消去すると言われている。あれを見つけて地球を守らなければならないのだ。そして、あれが最後の一体・・・あれさえ消せば我々も平穏無事でいられるのだ」

貴緒「それを僕に信じろというの?」

男1「殴ったのは悪かった」

貴緒「あの女の子が本当に・・・星ひとつ滅ぼす力をもっているのなら・・・志季も危険だと言うことなんだ」

男2「そういうことだ。さあ、どおする?隠れている場所をいうのか?いわないのか?」

貴緒「ここから出してくれるのなら」

 

○桜の森・洞穴の中
少女「マリタは反乱軍の超能力開発センターに連れて行かれたのだけど・・・彼女は彼女の母親が言っていたとおり、心に負った深い傷が原因で生きていくことができなかったの」

志季「それは・・・」

少女「マリタは類いない超能力の持ち主だった・・・だから、マリタは死ぬ事が許されない。死んだのはマリタの心だけ・・・肉体は今でもきっとどこかで生かされている。そして、彼女の細胞は何百という超能力の戦士を生み出したの。そして、反乱軍は新しいマリタに邪魔者を排除するために必要な作られた記憶と知識を備え付けられた・・・」

少女は志季を抱きしめた。

志季「マリタ・・・俺・・・マリタのことを知っている」

マリタ「ありがとう・・・志季。志季の優しい感情が、悲しみで隠れていたマリタの心を開放してくれたの。これ以上、わたしに、わたしたちに悲しい事をしてはいけないと、解らせるために」

志季「小さい頃、俺を助けてくれた宇宙人は、マリタだったんだ」

 




  2 話 へ つづく