SENSITIVE TEARS 1   

 

 

銃声

 

「また、密猟者だ」

目深に被った帽子のつばの下から真っ黒なサングラスをかけた男が、ジープの運転席の男に言う。運転席の男もまた帽子とサングラスをつけていた。

「センシティブ・ティアーズの噂が広まってから、水を飲む時間もないよ」

運転席の男は口に運びかけていた、ミネラルウォーターを後ろのシートに投げ込んだ。

 

 

この星は日差しの強い“ソーラII”から発せられる紫外線B波は破壊力がA波よりも3000倍強いと言われる地球よりもさらに高い破壊力を持っており、地球人にはとっては、この惑星オアシスの“ソーラIII”紫外線B波は遺伝子に大きな影響を与える恐れがあった。

そして、地球では大気圏に存在するオゾン層で反射され地上に到達する量が微量な紫外線C波が惑星オアシスでは、大気中で吸収されることがなく地上の到達していた。

C波は地球上の生物に最も有害な紫外線であった。

実際に、地球人が宇宙へ移住をするために、惑星探査の調査団の半数以上を皮膚癌で失っていた。

惑星オアシスが発見された当初、地球と瓜二つの星と思われていた。

惑星探査船から送り出した惑星探査器からの情報では地球上と変わらない生物の映像が送られてきていた。

しかし、その中に人間は存在していなかった。

宇宙船での長い旅で地球という地上に恋焦がれていた調査団の一人が、オアシスの地球と見紛うばかりの自然の美しさに、軽率なことに防護服も着用せずに船外に出たことが事の発端であった。

惑星オアシスの地上の空気は、彼らの住む地球よりも遥かに澄んでいた。

“まさに、この惑星は宇宙のオアシス”

その一言で、恐れや不安を知らない18人の若い調査団員たちは、オアシスに足を踏みいれた。

しかし、彼らの多くが数日後、直接、日を浴びた露出した皮膚に異常をうったえたのである。

サンバーンというよりも、重傷な火傷になっていた。

多くが無防備な顔に火傷を負っていた。

惑星探査団の乗った宇宙船の医療班では手に負えなくなった為、惑星オアシスに一番近い地球からの入植者が住む惑星ディアで彼らは治療を受けることになるが、治療のかいがなく18人がすべて死亡。

この時、惑星オアシスでの調査は一時打ち切られる。

遺骸は、惑星ディアの大学病院で惑星オアシスの研究、調査の対象として、18人は地球に帰ることはなかった。

大学においての研究の結果は地球の化学繊維の企業へと送られ、惑星オアシスでの調査が再開。

なぜなら惑星オアシスは地球で化学繊維の会社として評価の高い企業ハード・クロスに買収されためであった。

ハード・クロス社は紫外線C波の透過率0%の科学繊維を開発することに成功したためである。

今まではA波、B波の透過率0%の繊維は地球がまだ、緑を多く懐に抱き、容易に水を口に含むことが出来た頃にすでに開発されてはいた。

しかし、100年ほど前から、急激な人口増加そして、地球の“寿命”が騒がれ始め、地球外に新たなる星を求め何百という惑星探査機が飛ばされ始めた。

惑星探査機の殆どは、新天地へ到達することなく朽ちていったが、僅かな探査機から“希望”が送られてきたのである。

最初に移住が始まったのが惑星ディア。

惑星ディアは地球の含まれた2千億個の恒星が存在する銀河系から約15億光年離れた場所にある第2銀河系の中に含まれている。

惑星ディアは第二銀河系の太陽“ソーラII”から、ほぼ地球と同じ位置にあった。

最初の移住は成功に終わった。

人類は更に新天地を求めた。

そして、第3の地球となるであろうと白羽の矢が立てられたのが惑星オアシスであった。

惑星オアシスは、第2銀河系から1億光年も離れていない場所で発見された。

しかし、調査段階でオアシスは多くの問題を抱え始め、地球政府は巨額の借金を多くの企業からすることになる。

地球政府は、大きなリスクを生んだ惑星オアシスをハード・クロスという巨大企業に調査権利を手渡した。

この地球の大きな荷物をあえて背負うハード・クロスの意図は汲み取れなかったが、地球政府はそれ以上に惑星オアシスから受けた経済的ダメージの方が、重要であった。

ハード・クロスは自社製の化学繊維“ハード・ライン”で作った耐火性のスーツを、ハード・クロスの調査員に着用させ、地球からの2度目の惑星調査団を送り込む。

ハード・クロスの調査団の調査結果により、惑星オアシスは人類を受け入れられる惑星であることが証明されたのは、惑星探査機がオアシスを発見してから15年という月日が経っていた。

しかし、ハード・クロス社は入植を認めなかったのである。

ハード・クロス社は第2銀河により近いことに最初から目に付けていたのであった。

なぜなら第2銀河系に属する惑星ディアに移住してきた人々をターゲットとした惑星リゾート開発を目論んでいたのである。

地球“寿命説”において、多くの人間が移住を惑星ディアに希望したが、移住をするに当たり多額の費用が掛かるということで、ブルジョアまたは著名人などの地位のある人間のみだけが可能であった。

ディアへの移住の際に必要な光速客船の費用は普通の人間が何十年も貯蓄しなければできない金額なのだ。

惑星ディアに移住したのが富と名誉を手にした者達であったことに、ハード・クロス社は着眼していた。

そして、ハード・クロス社に幸運を導いたとも言える事件。

それが、紫外線C波によって重度の火傷を追った惑星調査団の事件である。

以前から開発していた“ハード・ライン”がここで役に立とうとはまさに有卦に入るというとはこういうことであった。

 

 

再び銃声。

 

「よし、南西の方だ」

ハード・クロス社のロゴの入ったジープが走り出す。

「しかし、追うほうも追われる方も、得体の知れない物の為に命がけとはね」

スタンドカラーのジャケットに顔を埋めて助手席の男がぼやく。

 



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