赤い星が落ちた日II

 

le myosotis 勿忘草〜

 

Afar Off 6

(はるか遠くに)

 

 

「大丈夫・・・このまま二人で地球から消えてしまえばいいんだ。一緒に!」

貴緒の瞳が深い深い宇宙の色に染まり、マリタ・シーターの貴緒の額に埋まった手が青白く光る。

「ひゃぁあああああ!」

赤い髪の少女は得体の知れない恐怖に悲鳴をあげる。

その恐怖は、少年の強い意志。

驚愕する少女の腕を掴んだまま貴緒は心で叫んだ。

 

一緒に消えてしまおう。

マリタ・シーターとともに。

この少女と同じ力を持った自分も何れ、地球人の脅威の対象になるやもしれないという、悲しい思いも貴緒を刹那的にさせていた。

 

「マリタ・・・二人なら怖くはないさ」

貴緒の唇が自然と動く。

 

ダメ!!

ダメ!!

 

「だめ!!!!」

 

赤い炎が星空で青く発光した貴緒とマリタ・シーターの身体を取り巻いた。

 

「だめよ!貴緒!あなたの超能力(ちから)とマリタ・シーターの力が一つになれば、その熱で北極の氷が溶けて地球が海に沈んでしまう!!」

赤い炎が人影になり貴緒とマリタ・シーターの間に入り込む。

「き、きみは・・・」

掠れた貴緒の声。

「貴緒・・・わたしはマリタ・リギル・・・このシーターと同様、マリタのコピー。あなたの戦いは終わった」

そう言うとマリタ・リギルは貴緒の額から手首まで埋まったマリタ・シーターの腕を引き抜く。

「おまえの役目は終わったんだ。シーター」

マリタ・シーターの腕を掴んだままマリタ・リギルは言う。

「自分を殺せるの?リギル」

戦意を奪われかけているマリタ・シーターの顔は青白くなっていた。

「わたしは相手が誰であれ、敵と認識すればすべて消す。それが同じ顔、同じ細胞を持った者であっても」

赤い髪を横にゆるゆると振りながらマリタ・シーターの口角がゆっくりと上がってゆく。

「それはわたしも同じよ・・・リギル。この地球人とわたしの力がぶつかると、北極の氷が溶けると言っていたけど・・・だから、この場所を選んだのよ、マスターは。地球人の行動をすべて予測しての命令。貴緒とわたし・・・どちらも滅びるためにここに送られてきたのよ。二人のエネルギーがぶつかり合ったわせ、洪水を起こさせるのがわたし達のやくめだったの」

「それじゃぁ!地球が滅んでしまう!きみたちは地球人を滅ぼすためだけに来たんじゃないのか?」

額の傷から赤い血を流している貴緒の言葉にマリタ・シーターは笑った。

「あははは・・・。そうよ、わたしたちは地上に住まなくても構わないの。地球人よりも遥かに高度な科学を持っているのだから。新しい大陸や島をつくることなんて簡単なのよ・・・。地球は海が生命の源であることも分かった・・・新しい生物を造ることだって・・・この海さえあれば問題ないのよ!!」

マリタ・リギルはマリタ・シーターの勝ち誇った顔を一瞥した。

「驕り過ぎだ、シーター。マスターたちも・・・。すぐれた科学で何でも出来ると本当に思っているのか?」

「マスターたちはなんでも出来ると言ったわ」

「間違っている!そんなにすぐれた科学を持った文明が何故滅びる?」

マリタ・リギルはマリタ・シーターの襟ぐりを掴みかかる。

「滅びる?」

マリタ・シーターはマリタ・リギルを見た。

「滅びるって?」

「滅びた・・・もう、わたしたちに帰る場所も・・・待っている者もいない・・・。まぁ、マスターたちが待っているというのもある意味違うが」

マリタ・シーターはマリタ・リギルの手を振り払う。

「マスターは?いなくなったの?」

「そう、すべて無くなった。マリタ、わたしたちの母体が全て消し去った。彼女はマリタ・アルファの意思によって地球を愛した。地球を地球人を愛したから・・・裏切った」

「うそ・・・こんな原始的な星と生物の為に・・・?」

陽炎のようにゆらゆらとマリタ・シーターの周りが揺れる。

「マスターはもういないと?」

マリタ・リギルは頷いた。

「もう、地球人を全滅させることも、貴緒と戦うこともする必要はないんだよ」

マリタ・リギルの言葉にマリタ・シーターを取り巻くオーラがゆらゆらと炎に変わる。

炎は大きく水面の波紋のように広がっては消えてゆく。

炎はやがて脳を切り裂くような悲鳴をあげた。

「マリタ!危ない!!」

赤い炎はマリタ・リギルを狙って飛んでくる。

「マリタ!!」

炎の力で身動きが出来なくなっていたマリタ・リギルの前に貴緒は自らの身体を楯にして立ちはだかった。

「貴緒!!!」

マリタ・リギルの目の前で貴緒の身体が小枝のように二つに折れた。

まっさかさまに冷たい海にに落ちてゆく貴緒の身体をマリタ・リギルは抱きしめた。

「貴緒!」

「これなら・・・氷山も・・・溶けない・・・」

貴緒は超能力ではなく自らの生身の身体でマリタ・リギルの楯になったのだ。

「貴緒!!」

熱い貴緒の血がマリタ・リギルの頬を濡らしていた。

 



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