赤い星が落ちた日II
〜le myosotis 勿忘草〜
Afar Off 5
(はるか遠くに)
マリタ・シーターは貴緒の額に手を当てながら微笑んだ。
「お楽しみはもうお終いよ。その正義感も義務感もここからすべてわたしが引き抜いてあげるから」
細い指が貴緒の額にめり込む。
貴緒の青白い額はまるで粘土のように柔らかくマリタの指を受け入れた。
「気分はどう?他人に頭の中をかき混ぜられるのは?はやくその心を開放してしまいなさい。そうすれば楽になるから」
貴緒は気が遠くなるのがわかった。
それでも貴緒は自分の精神を保つために目を開き美しく輝く満天の星を湛えた地上からのその情景を目に映した。
それは、貴緒の過ちに繋がった。
柔らかな光を放つ星が貴緒の確固たる地球を守るという魂を揺るがしたのだ。
あの美しい星の中にもこの地球人を滅ぼしにやってきた使者の棲む星があり、そこで滅び行く母星から平穏無事に移住をするために、新しい母星を見つけた使者からの朗報を待つ生命が生活をしている。
彼女は少なくとも自分の星の仲間の為にやっている行為に自分の人生を費やし、そして戦っているのだ。
彼女に同情?
こんな時に?
貴緒の心は情と自分自身に降りかかったこの苦しみから逃れたい、このまま自分の心も機能も止めてしまいたい、はやく楽になりたいという気持ちに駆られた。
しかし、それは違う。
違う・・・違う・・・
遠のいてゆく自分自身に否定した。
貴緒は自分の額に深く入り込んだ手を掴む。
「最初に・・・言ったよね?刺し違えてもぼくは・・・人間を守るって」
貴緒の強い力にマリタ・シーターは怯んだ。
慌ててその手を貴緒から引き離そうとしたが貴緒の手がマリタ・シーターの手を捉えたまま離さなかった。
「大丈夫・・・このまま二人で地球から消えてしまえばいいんだ。一緒に!」
貴緒の瞳が深い深い宇宙の色に染まり、マリタ・シーターの貴緒の額に埋まった手が青白く光る。
「ひゃぁあああああ!」
自分が消えてしまえ。
貴緒はそう心で叫んだ。
ダメ!!
ダメ!!
「だめ!!!!」
赤い炎が星空で青く発光した二人の身体を取り巻いた。
「だめよ!貴緒!あなたの超能力とマリタ・シーターの力が合わさったら北極の氷山が溶けて地球が海に沈んでしまう!!」
赤い炎が人影になり貴緒とマリタ・シーターの間に入り込む。
「き、きみは・・・」
掠れた貴緒の声。