赤い星が落ちた日II
〜le myosotis 勿忘草〜
Afar Off 2
(はるか遠くに)
*12話のシーンから
興奮した雅の言葉を理解することはアメリアにはとても容易であった。
「ふっ・・・センチメンタルなことばかりいう坊やね。これだから・・・やりにくいのよ・・・」
アメリアの赤い唇は皮肉な笑いを浮かべた。
「地球人の感情に流されたマリタの気が知れないわ。勿論、わたしもさすがにきついのよね。この女の身体が・・・いいえ、心が!どういうことなのか分からないけど身体は支配できても、心が感情がコントロールできないのよ!!」
異様なアメリアの変貌に雅は二人の女性の前に立ちはだかった。
「人間は・・・」
アメリアは左胸を押さえながら言う。
「ここで考えるの?」
右手をジャケットの内側に手を差し込みながら頭を横に振るアメリア。
「いいえ!違うわね!ここよね!」
アメリアの頭が弾ける。
それは一瞬の出来事であった。
美しい白い顔が半分になっているにも関わらず、アメリアの身体は雅に向かって笑っていた。
「見栄えは悪くなったかもしれないが・・・これで、わたしも自由になったわけだ」
雅はアメリアの右手の銃口を注視しながら廊下へつながる扉へ詩織とエマを誘導する。
「見栄え?確かに・・・酷い顔だね!ははは・・・化け物だ!」
恐怖と吐き気が雅を襲う。しかし彼には守らなければならなかったありったけの勇気を振り絞り言葉を続ける。
「頭が吹っ飛んでるのに動いているあんたはいったい何者なんだよ?」
「わたしはせん滅する者だ。マリタの計画が失敗した為に新たな地球人を滅ぼすためにやってきた。地球人を滅ぼすのに破壊能力者マリタではダメだということがわかったマスターは、寄生のできる能力を持つわたしを使うことにしたのだ。わたしは地球人に寄生し中から蝕むように命じられた。人間同士で殺し合いをさせる計画・・・。しかし・・・わたしがやってきた時にはすでに遅かった。あいつが能力者として目覚めていたのだ。あいつはわたしをこの女の身体に閉じ込めた。しかし・・・どういうわけだか、あいつの力が急に弱くなって・・・わたしは解放されたんだよ!小僧!」
口角の上がった唇から発せられた声はアメリアの声ではなかった。
「あ、あいつって?」
そう問いながらも雅には答えが分かっていた。
「アメリアの恋人だった真柴孝治を自殺に追いやった犯人・・・おまえの愛すべき友だよ。あいつはすっかりマリタと同様・・・いいやわたしと同様、化け物だよ」
肩越しに雅は扉の前に移動したことを確認した。
「貴緒は化け物なんかじゃない!」
雅は扉の蝶番のある方を右足で蹴った。
「二人とも!逃げろ!」
破壊音に怯んだ敵の胸元に雅は飛び込み細い身体を抱え、銃を持った右手を掴み後ろ手にする。
「雅!!」
エマは雅に駆け寄り化け物の白い細い手から銃を奪い取る。
「ばか!エマ!!なんで逃げないんだよ!」
「逃げられるわけないでしょう!!」
化け物に銃口を向けながらエマはアメリアのジャケットのポケットに手を突っ込む。
「な、何してんだよ?」
「車の鍵!!」
「詩織さんの車があるじゃないか」
「追っかけてこられないようにするの!」
雅はエマの澄んだ目を見つめた。
「な、なるほど・・・」
二人はどちらともなく顔を赤らめた。
「っていうか・・・こいつ動かない・・・」
「え?し、死んだの?」
二人は同時に顔の半分亡くなった化け物から身体を離した。
「って・・・これって・・・あいつの身体じゃないんでしょう?の、乗り移るって事だったら・・・」
異様な空気にエマは雅に身体を寄せる。
「あたりね」
雅の壊した扉の外側から見慣れた顔が笑っていた。
「アメリアの頭が吹き飛んだ時に・・・詩織は半ば気を失いかけていたので・・・お借りしたわ。返せるかどうかはわからないけど」
笑顔の詩織の後ろから数人の男が現れ雅とエマに向かって歩み寄ってきた。
「人間だろ?こんな宇宙人野郎の言いなりになるのか?」
雅はエマの楯になりながら言う。
「真柴宇宙生物研究所の後援者であるアメリア・真柴の父親であるロバート・ガーランドの部下とでもいえば、納得できるんじゃない?でも、まぁ・・・こいつらのように信念の無い金で動く人間を片手まで血で支配するのは簡単だったけど」
炎のように揺らめく髪と血のように赤い眼のし少女が雅の目の前に音も無く立ちはだかっていた。
「お、おまえは?」
雅はエマをかばいながら聞く。
「わたしはマリタ・リギル。名もないせん滅者のくせに、よくもマリタを役立たず呼ばわりしたわね。わたしの力が無くては研究所の中にも入り込めなかったでしょうよ」
マリタ・リギルと名乗る少女は一瞬にして雅の目の前から消え、詩織に寄生したせん滅者の前にいた。
「残念ね・・・もう、あんたの役目はおしまいよ。マリタといい・・・あんたといい・・・みんな役立たずばかり。マリタの母体のお陰でマスターなんかわたし達の母星とともに宇宙の塵になっちゃたんだから」
詩織の口から赤い液体がぼとぼとと零れ落ちる。
「詩織さん!!」
雅とエマが叫ぶ。