赤い星が落ちた日II

 

le myosotis〜 勿忘草〜

 

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スクリーンに流れるエンドロールを見ながらわたしは大きく伸びをした。上映された映画は90分近く私の心も身体も支配していたのが今、流行の歌手の歌で解き放たれたのだ。

歌は残念ながらスポンサー側の要望でもあった。仕方ない、昨日今日なった作家の小説を映画化するのはやはりそれなりにリスクもあるのであろう。売れている旬の歌手が主役を兼ね歌を使えば客の出足もそれなりに期待が持てる。

だが、思ったより出来も役者も悪くは無かったと思う。

「なかなか、よかったじゃない」

左隣に座っていた浦沢貴緒がわたしの方を見て言う。彼は相変わらずあの頃と同じ同姓でさえも魅了する目をきらきらと少年のように輝かせている。これで、世界を走るレーサーなのだから、人は見かけによらないものだ。

「新鋭の作家大先生はこの映画をどう思います?」

もう片方の隣では機械技師になった広瀬(みやび)がとぼけた様子でわたしを冷やかす。

「新鋭たって・・・今じゃティーンエイジャーが作家になる時代だよ。おれはもう、30近いんだぜ」

「夢を叶えるのに年なんて関係ないでしょうが」

雅は眼鏡を拭きながら反論する。

「そうだよ、志季。すごいじゃないか」

すごいのはわたしより先に夢を手に出来たおまえじゃないかと、万年少年の貴緒め。

「おまえな〜。少しは喜べよ。新人賞をとった小説が映画化にもなったんだよ」

「それが問題なんだよ」

雅にのせられて思わず口がすべってしまった。

「ほら、本心!言えよ!」

雅がせっつくその逆隣で貴緒の表情が曇ったのが分かった。

「あ・・・あれは・・・」

気づけば私たちの周りに雑誌記者やテレビのリポーターが群がっていた。わたしは席を立ちあがり、二人に肩を竦めてみせる。

 

あれは、マリタじゃない・・・

 

あの大事な思い出を世に出し、自分の生活の為に商品化してしまった自分が呪いたくなるほど・・・自分自身が嫌な存在になっていた。

 

「・・・ちゃん、可愛いですね。赤い髪なんかにして。でも、ここまで赤いとかなり勇気がいるんじゃない?」

黒い髪を真っ赤に染めた偽者のマリタがリポーターの向けたマイクに向かって嬉しそうに答えている。

・・・これがわたしの思い出?

なんてチープなんだろう。

「・・・し、でも、あたし、原作者の立花志季さんが新人賞とった時から大ファンなんで、映画に出れるだけでも幸せだったんです!なんだってやれちゃう!」

「わ〜、立花さんこんなこと言ってますよ」

いきなりリポーターにマイクを向けられしどろもどろになっているわたしの腕に、赤毛のアイドルがいきなりしがみついてきた。

「続編が出来たら出してくださいね」

軽いめまいを感じながらわたしは気を落ち着かせて答えた。

「秋庭るりさんありがとう。そこまで言ってもらえて・・・この小説を書いてよかったと心から思えるよ。でも、君をヒロインとして選んだのは監督だからね。感謝するなら監督にするべきだよ」

遠巻きでわたしのことを見つめている貴緒と目が合う。わたしは秋庭るりから身体を離してその場を立ち去った。

 

わたしの試写会はこれで終わった。あとは映画が興行成績を上げてくれればそれだけでいい。

わたしは唇を噛み締めた。

 

 

 



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