第一回 いつもの風景

  作者 チョコナ

  原作 策吉








  すーっ…すーっ

  チュン…チュンチュンチチッ

  …ん…鳥のさえずりが聞こえる…もう朝か…そろそろまどかが起こしにくるな…じゃあそれま
  でもう少し寝「お兄ちゃ〜ん、朝だよ〜」
 
 「…なんだよ、もう少し朝の惰眠を貧ろうと思ってたのに…」

  まったく我が妹ながら恐ろしくすばらしいタイミングだな。

  そんなことを思いながらもそもそと起き出す。

 「も〜!そんなこと言って昨日も遅刻ギリギリだったじゃない!」

  こいつはおれの妹のまどか。おれのいっこ下の学年だ。今は両親が海外出張中なのでこの家に二人で暮らしてる。学校も一緒なので毎朝一緒に行ってるんだがなぜか毎日遅刻ギリギリだ。

 「ふははははっ!そこで遅刻をしないのがおれの才能さっ!」

 「はぁ…そんな事にお兄ちゃんの数少ない才能を使わないでよ…」

 「む…相変わらず手厳しいな〜まどかは。しかし!おまえもこの才能のおかげで遅刻をしないで
  すんでるじゃないか!!」

 「お兄ちゃんがもっと早く起きてくれればわたしももっと余裕をもって登校できるんだよ?」

 「わかった、わかったからその哀れむ様な目はやめてくれ…」

 「もうっ……。…わ!もうこんな時間!早く朝ごはん食べよう!すずちゃんが来ちゃうよっ!」

 「ん、ああそうだな。ところで着替えたいんで出て行ってくれるとうれしいんだが…」

 「…あっ(ボン)ごめんなさい!」

  バタン!パタパタパタ…

  いやー毎朝毎朝ああも反応してくれるとからかいがいがあるってものだな。

  さて着替えて…と、いつものように立ち鏡の前に立つ。
  中肉中背、身長は高くも低くもなく少し色白。よし!今日も美少年を地でいってるな!

 「お兄ちゃ〜ん!まだ〜!?」

  はいはいわかってますって、そろそろ下に降りますか…。













  リビングに降りるとトーストの香ばしいにおいが…サラダやハムエッグなど朝の定番が並んでいる。

 「いや、しかし最近まどかは料理がうまくなったな」

 「うん!すずちゃんに教えてもらってるからね!」

  そういえばすずちゃんは料理が得意だったな。そんなことを考えながらトーストを一口かじる。
  うん、いい味だ。


  ピ〜ンポ〜ン


 「あ、きっとすずちゃんだよ。わたしは片付けてるからお兄ちゃんは先行ってて!」

 「ん、悪いな」

  玄関に向かいバイト代をはたいて買ったお気に入りの靴を履き外に出るとすずちゃんが待って
  いた。

 「あ、おはようございますお兄さん。あれっ?まどかちゃんはどうしたんですか?」

  この子は『鹿島すず』ちゃん、まどかと同じクラスで中学も同じだ。
  おれにとっては…かわいい後輩ってところか。

 「ああ、まどかなら寝坊してしまってな。今おれが必死に起こしたと「お兄ちゃん!逆でしょ!」

  おれを怒鳴りながらしっかりと鍵をしめる。なんてしっかりした子だ。しかもつっこみのタイ
  ミングもばっちり、おれの教育の賜物だな!

 「一人で満足そうな顔してないでよ、気持ち悪いでしょ」

 「ぐっ…相変わらず毒舌だな、おれは人生においての偉業をだな…」

 「はいはい、わかりました。さっ、すずちゃん行こ!」

 「あっおい!さらりと無視するな!」

 「お兄さん、あんまりふざけてると摩耶ちゃんが来ちゃいますよ?」

 「くっ…あの子か。確かに神出鬼没だからな…」

 「…呼んだ…?」

 「のわっ!!いつの間に!」

 「…ふふっ…すずちゃんと一緒に来たのよ…」

  このぱっと見、物静かなお嬢様みたいな子は『倉橋摩耶』ちゃん、この子もまどかと同じクラ
  スでこの三人は仲が良い。

 「そうなの?」

  すずちゃんを見る―――ふるふる。

  首をふってるところを見るとまた勝手についてきたんだろうな…。

 「…お兄様、あんまり変な事を考えると近々自分にとってよくない事が起きるわよ…?」

 「アハハー、ヤダナーボクへンナコトナンテカンガエテナイヨー」

 「ほらほら、あんまりお兄さんをいじめちゃだめだよ」

 「こんなのでも肉親なんだから廃人にしないでね摩耶ちゃん」

  ありがとう二人とも!しかし年下に守られるってのもなー、まどかはまどかでさらりと毒はい
  てるし。

 「…さぁ…それじゃあ学校に行きましょうか…」

 「そうだな、ほんとに遅刻しちまう」

 「すっかり忘れてた!もう誰も通ってないよお兄ちゃん!」

 「よし!急ぐぞ!みんな!」

 「あ、ちょっと待って下さいよー!」






  それにしても女の子三人に対して男一人とは…よく考えたらおれハーレムじゃん!
  (…変な事考えないの…すずちゃんは私のものなんだから…)

 「うわっ!」

 「どーしたの?お兄ちゃん」

 「いやなんでもない…」

  どこからか毒電波が…やっぱり変な事は考えない方がいいな…。

 「…クスッ」

 「摩耶ちゃんどーしたの?」

 「…なんでもないわよ…。すずちゃん…」










 「それじゃお兄ちゃん、わたし達こっちだから!」

 「おう!遅刻すんなよ!おまえんとこの担任恐いんだから!」

 「わかってるよぉぉ〜…」

  おお、ドップラー効果。

  さーて、おれも行きますか!









  ガラッ

  ふぃーなんとかアーストは来てないな…。

  アーストというのはおれのクラスの担任でホーネスト・アーストという人だ、一言で言うと優
  しいんだがある人の前では鬼となる。それがまどか達のクラスの担任サブ・ボップだ。絵に表
  した様な犬猿の仲だが、なんだかんだいってよく一緒に飲みに行ってるらしい。どうやらまだ
  アーストは来てない様だ…。

 「ふぅ…ぎりぎりセーフか」

 「いっつもお前はぎりぎりだなぁ」

 「うっさいわ、遅刻しないだけマシだろ?」

 「そんなもんかね?」

  おれに話しかけてきたこいつは寺岡拓人だ。中学の頃からやたらと一緒にいた、まぁ親友って
  やつかな?

  パッと見はなかなかかっこいいと思うんだが、彼女がいたって話は聞いた事がない。まさかコ
  イツは最近流行りのホ○か?

 「なんだ?おれの顔じーっと見やがって。ホレたか?」

 「おまえ!やっぱりおれ狙いか!?」

 「は??なに言ってんだ?」

  そう言いながら○モの手がおれに伸びる…。

 「やめろ!おれはそっちに興味はない!」

 「今日はいつもにましてますます言ってる事がわからんぞ?」

 「ふん!とぼけやがって!このホ○が!!」

  シーン…クラスの空気が止まった…。

  そして―――――

 「「「え〜〜っ!!」」」

 「寺岡君ってそうだったんだ…」

 「ホントにそういうのってあるんだ…。だいじょうぶ!わたしは応援するよ!」

 「おまえら妙に仲がいいとは思ったが…」

 「今度詳しく教えてねっ!(ぽっ)」

  周りにいたやつらが一斉に騒ぎ出す。てかおれは違うぞ、おれは。しかも教えてってなんだ!

 「おい!政貴!変な事いうんじゃねぇ!!」

 「事実だろうが!」

 「んな訳ねぇだろ!」

 「証拠におまえは彼女をつくった事がない!!」

 「う…それは…その」

 「やっぱりか…」

 「確かに彼女はつくった事がないが伝説(?)のホ○は違うって!」

 「じゃあなぜつくらない!!」

 「そ…それは…」

 「ふっ…もういいんだよ、弁解しなくても。周りの目を見てごらん?」

  優しく諭すおれ、辺りを見渡す寺岡…そこには好奇の視線やら白い目が突き刺さっていた。

 「ちっ違うんだぁぁぁ〜!!」

  ガラッ!ドダダダダダッ…

 「見事なダッシュだ…ホ○の世界ではなく陸上の世界を目指せばよかったものを…」

  くっ!惜しいヤツを失くしたな…。

  そんなことをしてると担任のアーストが入って来た。

 「はい、おはよう。HRを始めるよ」

  途中の出席確認で寺岡は欠席にされていたが問題はないだろう。

  さて一限目は国語か…うーん…寝ますか。

  すーっ…すーっ(この間2秒)








  キーンコーンカーンコーン


  …ん、終わったか。時間は、と…。
  は…?12時40分!?おいおい!おれ何時間寝てんだよ!

 「お、起きたか!」

  いつの間に戻ってきた寺岡め…。

 「おれずっと寝てたか?」

 「ああ、休み時間も起きなかったぞ?」

  なんで誰も起こしてくれんのだ…。先生も先生だろ…。ま、いいか。さ、ご飯ご飯!

 「おまえってやつは…ちなみに独り言もほどほどにな…」

 「…喋ってたか?」

 「ああ、バッチリ」

  ごくたまにあるんだよな…思ってる事を喋ってる事…。

 「まぁいいや!めしだ!」

 「おまえはいいよな…弁当作ってもらって、おれもあんな妹ほしーよ」

 「ふふん!これがおれの特権さ……て、あれ?あれれ?」

 「どーした?」

 「弁当が…ない…」

 「やらんぞ?」

 「開口一番それか…友達がいのないやつめ、だからホ○だと言われるんだ」

 「関係ないし蒸し返すな!」

 「あ!今日は確かおれの分もまどかが持ってっちゃってるはずだ!」

 「取りに行くのか?」

 「ああ、なんも食わんと午後がつらいからな、行って来る」

 「午後も寝てるだけなんだから別に平気だろう…」

 「余計なお世話だ!」

 「まぁ一応行って来い!」

  にやにや笑いながらおれを見送る寺岡。にゃろう、寺岡の分際で!後でとっちめてやる!









  ふー、違う学年の教室に入るのは緊張するな…。

  とりあえず近場のかわいい子に声をかけるか…いやいや!まどかを呼んでもらうか。

  お、ちょうど出て来た子がいるからあの子でいいか…。

 「あ、ごめん。まどかいるかな?」

 「あ…いますけど。失礼ですけど先輩は?」

 「ん、まどかの兄だよ」

 「あっ、はいわかりました。ちょっと待ってて下さいね?」

  うーん、礼儀正しい子だな〜。

  ん、なんかクラスから異様に視線が向けられてるな…まぁ違う学年だからだろうな。

  なんとなく居づらい…。

 「お兄ちゃん?これでしょ?用っていうのは」

  しばらくボーッとしてるとまどかが教室から出てきて少し大きめの弁当箱を手渡してきた。

 「おお!愛しのマイ弁当!!」

 「…ねぇ、恥ずかしいからあんまり大きな声で叫ばないでってば…」

 「実の兄を恥ずかしいとは、そんな妹に育てた覚えはないぞ!」

 「はいはい、わかったからさっさと自分の教室帰ろうね〜」

 「幼稚園児にはなしかける様な口調はやめれ」

 「もう!お腹すいてるんでしょ?お昼終わっちゃうよ?」

 「なに!?もうそんな時間か!?ではまた放課後だ!妹よ!」

  おれは光の速さを越え教室に戻った。





 「まーどーかっ!」

 「ひゃあっ!なに!?千恵ちゃん?」

 「どこがかっこわるいお兄さんなのよ〜!なかなかカッコイイじゃない?」

 「千恵ちゃんはお兄ちゃんの性格を知らないからね…」

 「なに?性格わるいの??」

 「いや〜、優しい事は優しいんだけど、ちょっと変っていうか…」

 「あたしはあれだけかっこよかったら性格がちょっと変でもいいな〜」

  はぁ…お兄ちゃんてば無駄にかっこいいからな〜…。

 「まどかちゃ〜ん!御飯たべよー!」

 「…ふふっ…すずちゃんてばかわいい…」

 「わかった〜、今行くね〜」

 「すずちゃんはともかく、摩耶ちゃんは相変わらずね…」

 「ははは…」









 「っくし!だれかおれの噂をしてるな(ニヤリ)」

 「だれもおまえの噂なんかしねぇって」

 「うるせーな、いいんだよ!」

 「それよりも早く食べちまえよ、次は移動教室だぞ?」

 「マジかよっ!」

  しゃかかかかっ!

  光の速さで食べるおれ。

 「ごほっ!げふっ!」

  むせた……。

 「おいおい、せっかくまどかちゃんの手づくりなんだからちょっとは味わえよ」

 「おまえは言ってる事がめちゃくちゃなんだよ!急がせたいのか遅刻させたいのかどっちだよ!?」

 「もちろんおもしろい方」

  この野郎…さらりとのたまりやがって!

 「あ、おれ先行くわ。ごゆっくり〜」

 「んっ!ふぇめっ!ふぁちやがれっ!(んっ!てめっ!まちやがれっ!)」

 「ばっはは〜い」

  …電気アンマ15分間の刑にしてやる…!












  キーンコーンカーンコーン

  ふぁー…今日も一日ごくろーさまっと!

  さて!今週は掃除当番もなんもないし帰りますか…。





  校門をくぐると前の方に見慣れた後ろ姿が見えた。
  あれは…まどかか…。だめだ!おれの血が騒ぐ!なんかしろと轟き叫ぶ!
  よし!


 「だ〜れだ?(裏声)」

 「ひゃん!お…お兄ちゃん?」

 「うむ、さすがだまどか!よくおれの裏声を見破ったな!」

 「………」

 「だーかーら、その呆れた目はやめなさいってば、お兄ちゃんが寂しくなっちゃうでしょ」

 「お兄ちゃん…もうなにも言う気がしないよ…」

 「まぁそんなことは置いといて「置くな!」まったくまどか、人の話は最後まで聞きなさい」

 「…なに?」

 「うわーごっつ不機嫌!」

 「で?」

 「そうだそうだ。いつもの二人は?」

 「すずちゃんは部活だよ」

 「そういえば弓道部だったな…」

 「で、摩耶ちゃんは『…すずちゃんの袴姿…ふふふっ…』とか言ってどこか行っちゃったよ?」

 「まぁ…どこに行ったかは想像がつくな…」

 「うん…そうだね…」

 「ところで今日は買い物あるのか?荷物持ちとしてついてってあげるぞ?」

 「うわっ…いきなり優しい…なんか企んでるでしょ?」

 「う…ちょっとひどいよまどかさん…」

 「わー!うそだよ!うそ!ありがとう、だけど今日はまだ買わなくて大丈夫だよ」

 「そか。んじゃ帰りますか」

 「うん!そうだね!」

 「ん、なんかやけにご機嫌ね?」

 「そう?気のせいだよ」

 「そっか」

 「そうだよ」

  夕暮れのなか二つの影はだんだんと遠ざかっていった…。
  それはきっといつもの風景…。













  おまけ




  夜中…一つの部屋に響き渡る声…

 「んっ…あん…はぁっ!…くすぐったいよ…お兄ちゃん…きゃふっ!」

 「ん?そうか?…じゃあこうだ」

 「ひゃあ!…ん…あふっ…ああっ…」

 「まどか…そろそろ…」

 「…うん…いいよ…。」

 「いくぞ?」

 「いっ!…痛い…よぉ…お兄ちゃん…!」

 「悪い…優しくするから…」

 「うん…んっ…あんっ…あああっ…!」

 「よし…!そろそろ最後だ!」

 「あっ!お兄ちゃん!もっと!もっと中まで!」

 「ふぅ…耳掃除おわりっと」

 「あ〜気持ち良かった…ありがとう!お兄ちゃん」

 「しかしもうなれたけど耳掃除の度その声あげる癖なおらんかねぇ?」

 「しょ!しょうがないじゃない!お兄ちゃんが上手いんだもん!」

 「いやいやまどかさん、そのセリフも厳しいんですけど…」

 「もうっ!いいの!気持ちいいんだから!」

 「はいはい、それじゃおやすみ」

 「うん、おやすみ…お兄ちゃん」


  これもとある兄妹のいつもの風景。


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