日本における星の信仰(妙見信仰についての分布・特徴)

星の地名の由来より、
妙見菩薩を祀る「妙見信仰」が、その由来の多くを占めていたことがわかりました。

妙見菩薩とは、
北極星を神格化したもので、星の中の最尊とされており、
その名の通り「妙なる見」で、優れた眼力を持っています。

そこで『妙見』を含む地名の分布はどうなっているのか、調べてみました。

「妙見」を含む地名分布図

【「妙見」を含む地名分布図】
<出典>
◆角川日本地名大辞典編纂委員会編
「角川日本地名大辞典 1北海道−47沖縄県」角川書店,1978-1991
◆平凡社地方資料センター編 「平凡社日本歴史地名大系 北海道の地名−沖縄県の地名」平凡社,1979-2005
◆「国土地理院地図閲覧サービス『ウォッちず』」
◆「日本コンピューターグラフィック株式会社『ちず丸』」

◇全215件

分布の特徴は、関東、および近畿から九州にかけての西日本に多く見られます。
その内訳としては、「妙見山」が最も多く、全地名の4割を占めています。
由来をみると、その山頂・山腹などに、妙見神社や妙見宮が存在するためです。

また、山のみならず海の周辺にも妙見地名は存在し、
「妙見岬」「妙見浦」などの地名が、瀬戸内から九州にかけてのみ分布しています。
これは妙見菩薩を「航海安全」を祈願し、祀ったことに由来すると考えられます。

これらの海に関する地名は、注目すべき妙見菩薩の信仰なのですが、上記分布図の作成に使った出典を併せても
12件と少ないため、確固たる関連づけは難しく、今後の調査対象のひとつです。


「妙見神社」の地名分布

次に妙見地名の内訳の中で、最も多かった「妙見山」の事例より、
その由来となる「妙見神社」の地名分布について見てみます。
出典に、新たに「神社名鑑」を加えています。

妙見神社の地名分布図

【妙見神社の地名分布図】
<出典>
◆角川日本地名大辞典編纂委員会編
「角川日本地名大辞典 1北海道−47沖縄県」角川書店,1978-1991
◆平凡社地方資料センター編 「平凡社日本歴史地名大系 北海道の地名−沖縄県の地名」平凡社,1979-2005
◆「国土地理院地図閲覧サービス『ウォッちず』」
◆「日本コンピューターグラフィック株式会社『ちず丸』」
◆神社本庁調査部編「神社名鑑」神社本庁,1964

◇「妙見神社」「妙見宮」「妙見社」、
および、これら神社名が記載されている地名の由緒において、
当該地名内に建立されている(いた)場合をカウントしています。
(例:「○○」という地名の由緒に、妙見神社の記載があり、
当地内にその神社が存在している。)

◇全760件

分布の特徴は、「妙見」を含む地名分布をほぼ踏襲しているといえますが、
より際だった分布を浮き彫りにしています。

東北南部から関東、北九州では、武家・千葉氏の一族の信仰が、
山口県では武家・大内氏の信仰がみられ、
これら武家による妙見信仰により民衆へ広められたようです。

そのほかの主な集中域である、
山口県をのぞく中国地方、和歌山県、熊本県においては、いつ誰がこの信仰を広めたかは定かではありません。



妙見神社の祭神について

以下の表は、「神社名鑑」および「平凡社日本歴史地名大系」よりまとめた、妙見神社の一覧です。

妙見神社一覧(神社名鑑より)
現社名旧社名主祭神創祀年所在地
降松(くだまつ)神社北辰(ほくしん)妙見社天御中主神推古5(597)年山口県下松市
人見神社二総六妙見天御中主命白雉元(650)年千葉県君津市
香下神社(注1)造化三神(←天御中主神含む)養老3(719)年大分県院内町
御祖(みおや)神社妙見宮造化三神(←天御中主神含む)天平7(735)年大分県中津市
多賀神社妙見大明神伊邪那岐命,他天平8(736)年福岡県直方市
御祖神社足立の妙見造化三神(←天御中主神含む)他神護景雲3(769)年福岡県小倉市
大星神社妙見宮天之御中主神延暦11(792)年青森県青森市
八代神社妙見宮天御中主神,国常立尊 熊本県八代市
妙見神社大恩智妙見宮天之御中主神延暦23(804)年佐賀県唐津市
日高神社妙見宮天之御中主神,他弘仁元(810)年岩手県水沢市
広瀬神社妙見宮造化三神(←天御中主神含む)延長4(926)年愛媛県小田町
天御中主神社北辰神社天御中主命,他寛弘3(1006)年鹿児島県国分市
葛城神社妙見宮造化三神(←天御中主神含む)他承保3(1076)年福岡県椎田町
千葉神社妙見様天之御中主神,経津主命,他大治元(1126)年千葉県千葉市
太田神社太田妙見天之御中主大神元享3(1323)年福島県相馬市
末広神社妙見宮天之御中主神,大山積之神永禄9(1566)年大分県玖珠町
九戸神社北辰妙見社天之御中主大神,他寛文3(1663)年岩手県九戸村
相馬小高神社妙見大明神天之御中主命福島県小高町
秩父神社秩父妙見宮八思金命(配祀に天之御中主神埼玉県秩父市
星神社妙見大明神造化三神(←天御中主神含む)他高知県十和村
星神社妙見大明神天之御中主神,明星尊,他高知県春野村
天御中主神社妙見神社天御中主命鹿児島県高城町

※所在地は出典記載のものをそのまま記しています。
注1:妙見との関連は、この神社を前身とする寺院が創建に合わせて「妙見山」を名乗ったことによる。


妙見神社一覧(平凡社日本歴史地名大系より)
現社名旧社名主祭神創祀年所在地
妙見神社天御中主神大永元(1521)年徳島県鳴門市
明建神社妙見宮国常立尊承久3(1221)年岐阜県大和町
小松神社星田の妙見天御中主尊大阪府交野市
星神社三社妙見造化三神(←天御中主神含む)高知県北川村
星神社三体妙見宮造化三神(←天御中主神含む)高知県土佐山田町
刈田神社妙見稲荷社保食神,大物主神,日本武尊1780年代北海道登別市
西舎(にしちゃ)神社西舎妙見神社天御中主神明治43(1910)年北海道浦河町
興田神社妙見社造化三神(←天御中主神含む)推古天皇3(595)年岩手県大東町
奴可(ぬか)神社妙見宮天照皇大神,国常立尊,月読命広島県東城町
今泉神社妙現社天御中主神宮崎県清武町
本島神社妙見神社素戔鳴尊長崎県豊玉町
国津意加美(くについかみ) 神社妙見宮素戔鳴尊,大己貴命,稲田姫命長崎県郷ノ浦町
大祖大神社元永妙見社造化三神(←天御中主神含む)福岡県行橋市
志度石(しどいし)神社北辰妙見宮国常立尊,大多満流別命,他推古天皇3(595)年山口県大島町
阿智神社妙見宮宗像三神(多紀利毘売命,他)岡山県倉敷市
久保神社 久保妙見保食之命,句句廼馳之命岡山県久米町
星辻神社妙見堂天御中主神,宇迦之御魂神,他秋田県男鹿市

※所在地は出典記載のものをそのまま記しています。


上記のように、旧社名は妙見を名乗れど、現社名に変更されているものが多くあります。
また、妙見神社であれば、妙見菩薩を祀っているはずですが、
実際は「天御中主神(あまのみなかぬしのかみ)」を祀っている例が多く、妙見菩薩の例が見当たりません。

天御中主神(あまのみなかぬしのかみ)とは、
日本神話で天地が誕生したとき、高天原に最初に現れた「造化三神」の一神で、
天の中央に座して、宇宙を主宰した神です。

もともと、奈良時代の頃より、神仏は融合し習合されており、
天の中央の天御中主神と、北極星の妙見菩薩が、
同じく天の中心を比定しているものとして、
まとまったひとつの信仰の対象となっていたと考えられます。

しかし、明治初期の『神仏分離令』および『廃仏毀釈』により、
それまでの神仏習合に対して、これらを分離し、仏教は排斥されてしまいました。

妙見菩薩を祀る寺社も例外ではなく、妙見菩薩はおもてから姿を消さざるを得なくなります。
これが現在、祭神には天御中主神が主に祀られ、社名も変更された理由と考えます。

これより、現在において、妙見信仰を探る手がかりのひとつに「天御中主神」があげられます。



妙見神社の性格

神社を建立し、神を勧請するに当たっては、
御利益を得るため、厄除けなど、何かを願って行うはずです。
では、妙見神社はどのような理由でその地に祀られたのでしょうか。
以下に、その一例をあげます。

◇末尾の(K)(H)は、参照出典を表す:(K)…角川日本地名大辞典,(H)…平凡社日本歴史地名大系

このように、星の神といえども、
交通から安産、牛馬と幅広い御利益対象となっていました。
しかし、ここまで多岐にわたる理由は、残念ながら定かではありません。
今後、さらに調べてみようと思います。



妙見寺院の分布
神社につづいて、寺院についても調べてみました。
まずは妙見寺院の分布図です。

妙見寺院の分布図

【妙見寺院の地名分布図】
<出典>
◆角川日本地名大辞典編纂委員会編
「角川日本地名大辞典 1北海道−47沖縄県」角川書店,1978-1991
◆平凡社地方資料センター編 「平凡社日本歴史地名大系 北海道の地名−沖縄県の地名」平凡社,1979-2005
◆「国土地理院地図閲覧サービス『ウォッちず』」
◆「日本コンピューターグラフィック株式会社『ちず丸』」

◇妙見〜「寺」「院」「菩薩」「観音」「堂」「尊」を含む。

分布の特徴は、関東や近畿地方にまとまりがあります。
しかし、神社の分布と比較すると、中国・九州地方には大きな差があります。

まず、寺院の宗派について特徴はないか考えてみました。

大阪と兵庫の府県境に位置する妙見山には、「能勢妙見」ともいわれる『真如寺』があります。
もともとは真言宗寺院でしたが、のちに日蓮宗に改宗し、妙見大菩薩を祀っています。
これより、西の身延山として広い信仰を集め、以来日蓮宗に受け入れられ、
広く流布するようになりました。

また、真言宗、天台宗の密教系寺院にも妙見菩薩を祀っています。

星を対象とした菩薩には、この妙見菩薩と、もうひとつ
虚空蔵(こくうぞう)菩薩があります。


真言宗の祖である空海は、この虚空蔵求聞持(ぐもんじ)法という修行を達成にあたり、
明星天子という星が降臨して、修行を成就したとされています。
この明星天子は虚空蔵菩薩の化身であり、空海は虚空蔵菩薩の信仰がありました。

そして空海は虚空蔵菩薩のみならず、妙見信仰との関わりもあり、
空海により招き出された星が流星となり、地に落ち、その後妙見信仰を生み出した例もあります。

空海が妙見信仰も持ち合わせていたかは定かではありませんが、
妙見とのつながりは、興味深いものがあります。


日蓮も虚空蔵求聞持法を修者です。また、日蓮の前に妙見菩薩が示現したとあり、
日蓮宗と妙見信仰の関わりは、鮮明なものがあります。


以上より、妙見寺院の分布においては、
日蓮宗、および真言宗・天台宗の密教系寺院に妙見信仰を見いだすことができます。

しかし、途中で改宗があったり、
サンプル数が少なかったこともあり、地域性など確固たる理由付けには至っていません。
こちらも、今後さらに調べてみようと思います。



妙見を含む地名から、妙見神社の分布や性格の特徴、妙見寺院について考えました。
次に、少し範囲を狭めて、具体的な事例を現地調査などを含めて見てみます。

〜日本における星の信仰(妙見信仰についての事例)へつづく〜



参考文献:
◆金指正三『星占い・星祭り』青蛙房,1984
◆ベルナール・フランク著,仏蘭久淳子訳『日本仏教曼荼羅』藤原書店,2002
◆金岡秀友編『空海辞典』東京堂出版,1980
◆宮崎英修『日蓮辞典』東京堂出版,1982
◆中尾堯『日蓮』吉川弘文館,2001
◆石川修道『日蓮聖人「立教開宗」における妙見尊と虚空蔵菩薩の関係』日蓮宗現代宗教研究研究所 現代宗教研究 1998 175-209頁
◆角川日本地名大辞典編纂委員会編
『角川日本地名大辞典 1北海道−47沖縄県』角川書店,1978-1991
◆平凡社地方資料センター編 『平凡社日本歴史地名大系 北海道の地名−沖縄県の地名』平凡社,1979-2005
◆神社本庁調査部編『神社名鑑』神社本庁,1964

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