「ダメだ。そんなこと美甘、お前に任せられるわけない」
「そんなことないよ!私だってファランクシア家の人間だよ?私だって戦えるよ!」
「武器も属性術も使えない、まして私達のような魔物でもない。
美甘、何度もいうがお前はこの中で純粋な人間だ。私はそんなお前を愛してる。危険に晒したくはない」
屋敷のエントランスで、シェミアは先程から同じやり取りを繰り返していた。
美甘はどこから持ってきたのか、サラベリアが使っている解剖用のナイフを数本手にしていた。
その表情は真剣で、シェミアを睨むように見上げている。
「私だって、今の状況わかってる!でも守られるだけじゃなくて、自分の身は自分で守りたいの!」
「何度もいうが無理。屋敷にはシュニーナが残る。シュニーナなら十分だ。そうだろう?」
「ちーがーうーのーっ!シェミアのわからずやっ!私はみんなに守られるだけじゃなくて、ちゃんと自分で戦いたいのっ!
ファラナさん達敵になっちゃったんでしょ?!
だったら、レイディアさん達はセイジさん達守らなきゃならないんだから、私なんかに構ってられないはずだよ?!シュニーナさんも連れてくべき!」
「だからってここに置いていくわけにいかない。がら空きになったところを襲われたら美甘は死ぬ。私はそんなお前の姿は見たくない」
シェミアの言葉に、しかし美甘は引き下がろうとはしなかった。
ナイフを手に睨み上げる美甘を、シェミアはどうするべきか考える。
これから長くなるだろう戦いは、美甘のような人間は連れていけない。
それはレイディアの決定であり、さらにレイディアは屋敷を管理することも視野に入れてシュニーナを置くことにした。
カリンやユナもすでに出ていっている。
この屋敷には今、シェミアを除いて子供達しか残っていない。
子供達の能力はあてにできないので、美甘はシュニーナに守らせるべきだとシェミアは考えていた。
「……シェミアさん、美甘の声うるさいけどどうかした?うるさくて眠れないんだけど……」
「あっ!ミラセ!ミラセからも言ってよ!私もシェミアについていきたいのに、全然聞いてくれないの!」
「当たり前だ。外はここより危険だし、ここにいる限りはシュニーナが守ってくれる。私が美甘を守りきる自信がない。
今度のことは、それだけ大きなことだから」
寂しげな笑みを浮かべるシェミアに、美甘はそれでも引き下がろうとしなかった。
階段を降りてきたミラセは、部屋から眠そうな目を擦りながら出てきたレミンへ視線を向けてから、シェミアと美甘に目を向ける。
「別にシュニーナさんだけじゃないと思うけど……あ、シェミアさん私達のこと信用してないでしょ?
レミリアはシェミアさんが教育してるみたいだけどさ、私だって本気出せばシュニーナさん以上に美甘守れるよ」
「信用できないとかの問題じゃない。貴方達はまだ子供だ。至らない部分もある」
「そこら辺はレミリアにカバーしてもらえるから大丈夫。ねぇ美甘、美甘の決意はわかったから屋敷にいようよ。
屋敷の外がどうなってるかなんてわざわざ知る必要ないでしょ?」
「う……で、でも……」
「シェミアさんが心配なのはわかってるからさ。シェミアさんも、だからなかなか美甘突き放せなかったんでしょ?早くしないと出遅れちゃうよ」
「……よく見てるな」
「褒めてくれてありがとう、シェミアさん。ほら、美甘。私達と一緒にいよう。命を懸けて守ってあげるから」
笑みを浮かべて手を差し出すミラセを見て、美甘は折れたのか大きく溜息をつく。
美甘が納得してくれたことにやっと安心できたのか、シェミアは肩の力を抜くと美甘の頭を優しく撫でた。
「帰ったらどんな要求も聞く。だから待ってて」
「……うん。帰ったら、いっぱいいっぱい愛してねwwそれまで私、我慢して待ってるからww」
「わかった。ミラセ、レミン。美甘とリーリャを頼む」
「はーい。いってらっしゃい」
笑顔を見せる美甘に微笑みを浮かべてから、シェミアは扉を開けて出ていった。
扉が閉まってから、美甘はシェミアの足音が遠ざかるまでじっと扉を睨みつけている。
やがてシェミアの足音が完全に聞こえなくなったとき、美甘はミラセに振り返ると、当然とでも言うかのようにこう告げた。
「シェミアも行っちゃったし、私達も行こうかww」
「…………美甘、レイディアさんに怒られるのはシェミアさんだよ?わかってるよね?」
「そんなこと知らないwwシェミア頑固なんだもんwwそれに私達だってできることあるんだから、頑張ろうよww」
「……わかったわかった。私もレミリアとそうしようって話はしてたから、早速シュニーナさん出し抜いて行こうか。どこ行く?」
「うーん……と……タンクレインブルー、かなwwあそこにはレイディアさん達が守らなきゃいけない人達いっぱいいるからww」
「了解。じゃあレミリアと話つけてくるから、美甘は待ってて」
「うんwwよろしくね、ミラセww」
「……元気な子達ね。でも怒られるのは私なんだけど……でも、そうね……レミリアとミラセなら、美甘を守ることできそうだし……
リーリャは私が見ていれば問題ないわね……」
エントランスでのやり取りを扉の影に隠れて観察しながら呟き、シュニーナは笑みを浮かべた。
美甘が自ら危険な橋を目指すことは予測の範囲内で、ミラセ達がおとなしくいるはずがないことぐらいわかっていた。
それでも口を出さないでいたのは、ミラセとレミリアの能力の高さをシュニーナが買ったからだ。
まだ子供で荒削りな戦い方しかできないが、彼女達は十分な戦力になる。
シュニーナの視線の先で、美甘はミラセを待つことに飽きたのか、階段の前に座り込むと歌いはじめた。
聞いたこともない、子供をあやすような優しいその音色がシュニーナの耳にも届く。
けしてうまいとは言いがたいその歌を聴きながら、シュニーナはミラセとレミリアの部屋の方向へと視線を向けて、その瞳を一瞬だけ揺らがせた。
「死なない程度にやりなさい。そして……無事で帰ってきて……」
願うような、祈るようなその呟きは、しかし誰にも届かず消えていった。