012.



ギルバードは城の廊下を歩き、中庭へ出た。


中庭は、普段はちゃんと整備されているのだろう。


綺麗なはずが、今はグチャグチャにかき回されたようになっていた。


微かに魔物の気配も残っていることから、きっとここに魔物が現れたということだろう。


まだ少し焦げたような匂いが残っているこの場所で、ギルバードは落ち着きたいと思った。


この国がどうゆう場所かは知らないが、


あまりにも平和すぎる場所もギルバードにとっては居辛さを感じさせるものにしかならなかった。


ミスト以外の人間をあまり好まなかったというのもギルバードの理由だった。


ネスやブライア、グラッグと言う連中はギルバードの仲間で、


特にネスは自分と話そうと努力している。


ネスに応えられない理由が、ギルバードは自分でも分からなかった。


ゆっくりと歩を進め、魔物の気配が一番強く残っている場所で立ち止まる。


ちょうど中庭の真ん中に位置する場所で、そこにはミストの気配も残っていた。


ギルバードはミストもここに来たのだと考え、早くミストと合流したいと思った。


ついさっきまで、本当にさっきまで戦いが頻繁な世界にいたギルバードは、


こんな平和な世界が胡散臭くも思え、夢のようにも思えて仕方がなかった。


だから居心地の悪さを感じるのだろうか。


とは言え、先程の魔物はただの魔物には思えない。


明らかに鏡を持っていた彼らを狙っていたように思える。


ギルバードはこの鏡に封印されている少女、


アリシアが持つ平行の力というものを狙っている輩たちなのだろうか。


背筋を何かが這う感覚に襲われ、ギルバードは寒気を覚えた。


「怖いの?」


「何ッ?貴様、何者だ?」


突然背後から聞こえた声に、ギルバードは驚きを隠せず振り返る。


気配というものを感じなかったその人物は、黒い翼を背中に生やした少年だった。


翼の色と不釣合いな、真っ白の服を着ている少年はギルバードを真っ直ぐに見据えている。


ギルバードが見る限り、少年は翼があるだけでそれ以外には何もないように思えた。


口元を緩めている様子から、敵意がないようにも思える。


何より人の背後に堂々と立てるのだから、敵意は全くないと考えてもいいだろう。


「ゴメン、いきなりじゃ怪しいよね。僕はリク。ねぇ、君は怖いの?」


「何がだ?」


「平和な世界にいることの恐怖。


 長くこの世界に居続けたら、自分の世界に帰った時、


 目の前に広がる光景が受け入れられなくなるんじゃないのか。


 その時、自分は戦えるのか。


 怖い?」


図星を言い当てられ、ギルバードは黙る。


リクと名乗った少年は口元を緩めたまま、柔らかな動きでギルバードへと手を差し伸べる。


行動の意図が分からないギルバードに、少年は微笑を湛えたまま口を開く。


「僕は君にお願いがあって来たんだ。君の力を、僕は借りたい。」


「生憎だが、俺は貴様のような輩に貸す力は持っていない。


 貴様の言う俺の恐怖は、この世界の平和に対する恐怖だけじゃない。消えろ。」


一瞬の間を持って、ギルバードは剣を抜く。


「ウィンドソード」と呼ばれるその剣は、ギルバードの敵意を感じ取りその剣に風を取り巻く。


その切っ先を、ギルバードはリクに向かって叩き付ける。


だが手ごたえはなく、リクの体は宙に舞い上がっていた。


軽やかな動きで小さく1周するリク。


風の刃を剣から放つが、リクは軽々と避けて宙をクルクルと回る。


睨みつけるようにリクを見上げるギルバードを、


リクは変わらない微笑のままギルバードを見下ろした。


「君が光の聖域に行くまでにまだ時間はある。


 それまでに、もう一度考えてくれたら嬉しい。悪い話じゃないよ。ばいばい。」


最後にニッコリと微笑み真っ黒い翼をばさつかせて飛んでいくリクを、


ギルバードは姿が見えなくなるまで睨みつける。


いつになく力を込めて握る剣は、手の汗で湿ってしまっていた。


らしくないと、ギルバードは既に何もいない空を睨みつけた。


一人で落ち着こうと思って出てきたのに、


逆に気分が悪くなってしまったギルバードはとりあえずネス達の元へ戻る事にした。


廊下を歩き、階段を上る途中で小さな紙の破片を見つける。


拾ってみれば、千切られて捨てられたのか何も書かれていないように見えた。


捨てる。


リクという少年が何者なのか気になって仕方がないギルバードは、


とりあえずこの件をネス達に話しておこうと思った。


そろそろブライアも起きているだろうと思い、無駄に大きな扉を開ける。


ちょうど、起きたブライアとネスがボーっとしているところだった。


「気分は晴れたか?」


「リクって奴を知ってるか?」


「・・・グラッグー・・・腹減ったー・・・。」


寝ぼけているブライアを叩き起こそうとして止められ、ネスが曖昧に微笑む。


どうやらグッスリと眠っていたブライアは、起きたら何か食べないと力が出ないようだ。


後でご飯を食べさせてもらおうと、ネスがそう言って立ち上がる。


グラッグも立ち上がる。


デデデが戻ってくるまで時間があるからと、ネスはこの時間をどうするか3人に問う。


城の中を勝手に動き回るのもいけない事なので、待つしかないとグラッグは言う。


グラッグの意見に賛成して、デデデが戻ってくるのを待つ事にした。