1999年9月13日。月に棄てた不要核物質が突然爆発した。月は人類の宇宙基地・ムーンベースアルファをのせたまま、宇宙をさまよい始めた……(第2シーズン・日本語版OPナレーション)
What's SPACE:1999...
1975年〜76年にかけてイギリスで制作放映(日本では1977年・81年に放映)されたSFTV『スペース1999』(原題:SPACE:1999)。『サンダーバード』をはじめとしたスーパーマリオネーション作品で知られる、ジェリー・アンダーソン制作による作品だ。残念ながら日本ではかなり知名度は低く、インターネット上でのファンサイトもほとんどない。しかし、アメリカやイギリスでは現在でも『スタートレック』シリーズに勝るとも劣らぬ、根強い人気を誇るSFTVで、実際、映画版『スタートレック』や『新スタートレック』(TNG)が登場するまでは、『宇宙大作戦』(TOS)と人気を二分していたのだ。
70年代といえば、日本では第2次怪獣ブームを端に発した「変身ブーム」のまっただ中で、特撮ヒーロー作品がまさに百花繚乱していた訳だが、アメリカやイギリスでは本格的な宇宙SF特撮が、TV・映画を問わずトーンダウンしてしまっていた時期であった。そんな中で、1話あたり24万ドルもの予算を投じて撮影された『スペース1999』は、毎回のようにゲストメカが登場し本格的な特撮シーンが楽しめる、唯一気を吐く存在だった。ちなみに『スターウォーズ』ショックは77年である。『スターウォーズ』がもう1年早かったら、『1999』のストーリー・センスも変わっていたかもしれない……。
設定的には、先のOPナレーションがほぼすべて(笑)と言ってもいい。無限の宇宙を放浪する月に残された、ムーンベースアルファで生活する300名のメンバーが宇宙で出会う驚異の体験を描いてゆく、サバイバル・アドベンチャーだ。全2シーズン・計48話(日本は46話分のみ放映)が作られた。
だが、ちょっとSF好き・特撮好き・外国TV好きな人ならば、本作がTOSや『サンダーバード』のような“傑作”とは決して言えない作品であることは、ご存じだろう。しかし『スペース1999』は、一般に思われているような単に「メカ・デザインだけが優れた凡作」ではない! 確かに「失策」な面も多々あるには違いないのだが、その一言で糾弾してしまうにはあまりにも乱暴すぎる。
ここでは、本作の優れた点・失策点をふまえた上で、その真なる魅力に迫ってみようと思う。
優れた特撮スタッフ
アンダーソン作品といえば、まずメカ特撮というほどだが、『スペース1999』でもふんだんに楽しむことができる。
特撮スタッフは、それまでのボブ・ベルやデレク・メディングスといった顔ぶれに代わり、『サンダーバード』のころからメディングスの下で働いていたブライアン・ジョンソン(この後『帝国の逆襲』での、スノースピーダー等のミニチュア特撮で脚光を浴びる)や、同じく『UFO』でボブ・ベルをサポートしていたキース・ウィルソンが独り立ちして、トラディッショナルなアンダーソン特撮の流れを持ちつつ、よりシャープな──ミニチュアデザインを含めての──特撮を展開していった。
例えば、イーグル宇宙船の離着陸シーンは、従来通りのワイヤーによる操演を使い、宇宙空間での飛行シーンは、プロップを固定しカメラを動かして撮影する、いわゆるモーションコントロールを使うなどケースバイケースな手法が採られている。また離着陸時の圧搾火薬による噴射炎に加え、軌道修正時には圧縮エアーをノズルから噴射させる描写を加えたり(さらにコクピット内のクルーの顔にもエアーを当てて、苛烈なG描写まで入れるという徹底ぶり!)と、より視覚的でガジェット感あふれる特撮をみせている。
さらにスタッフ的には、アンダーソンに自分のオリジナル・プロップを売り込んで、この『1999』で見事ジョンソンの片腕としての地位を得たマーチン・バウワーの存在を忘れることはできない。『1999』で制作されたゲスト・メカ関係のミニチュア・プロップは、デザインも含めほとんどがバウワーの手によるものなのだ。特に#3「宇宙船団大戦争」に登場したホーク・マークIXや#13「宇宙の破壊者・核爆弾船」のボイジャー1号(ジョンソンとの共同デザイン)などは、まさにバウワー・デザインの傑作といえるだろう。
『1999』の代名詞:イーグル・トランスポーター(宇宙船)
メカ特撮的な魅力が大きい『スペース1999』だが、その中でも特筆すべきは、主役メカとも言えるイーグルだ。
正式にはイーグル・トランスポーター。アルファに残された唯一の他惑星への移動・探索手段として、また対宙防衛戦力として大活躍をする宇宙船だ。トランスポーター、という呼称の通り、イーグルは基本的には戦闘用ではなくむしろ作業用メカといったおもむきを随所に持っている。
イーグルの最大の特徴は、船体中央部のポッドを換装することで各種のバリューを生み出すという点だ。また、船体にマジックハンド型のアーム・クレーンを装着し、いわゆるスカイクレーンと同等の運用ができる。ある意味でTB2の系統にあるメカだといえるだろう。
鏃と卵の中間形のようなコマンドモジュール(コクピット部)と、直方体の籠を思わせる船体中央部のポッド(コンテナ)、ランディング・ギアやステアリング・モーターが内蔵された左右計4つのブロック、そして船尾にセットされた巨大な4基のブースターノズルをフレーム構造でつなぎ合わせたそのデザインは、SFメカ史上たぐいまれなる、もっとも美しい芸術的なラインをみせている。各部の構造が、そのまま機能をみせるデザインは、まさに“機能美”! 全体にメタルホワイト、ポイントに黒を使ったその塗装もシンプルで、イーグルの個性を際だたせている。
このデザインラインそのものは、『キャプテンスカーレット』のゲストメカ・月面用ビークルや『UFO』のムーンホッパーからの流れを見ることができるが、全体に球形を基調にしたメディングスのデザインとは明らかに一線を画した、トータルとして流線型を持つイーグルのデザインのカッコ良さとは、少々乱暴だが、「TB1のボディラインを持ったTB2」と言ってもいいかもしれない。
イーグルのデザインはブライアン・ジョンソンが担当し、125cm・55cm・25cmの3タイプのプロップが作られ、これらが主に撮影に用いられている。また遠景用には15cmのモデルが使われた。ちなみに各プロップは、パネルラインやコマンドモジュールの“えらの張り具合”が微妙に異なるので、本編中でも割と簡単に判別できる。
125cmのモデルは、完全にアップショット専用といってよく、劇中でもっとも活躍するのは55cmのモデルである。ポッドのバリュー(設定では5タイプということになっているが、実際のプロップは4タイプ)も、この55cmモデル用のものが一番多く作られたようである。
これらポッドの登場具合には、シーズンによってかなりムラがある。
一番派手で外見も大きく異なるタイプCと呼ばれる張り出しのある偵察用ポッドを装着したイーグルは、1シーズンにはわずか2回、それもほんのちょっと画面にでて来るのみで、縦横に活躍するのは2シーズン目である。しかもよくタイプCポッドとセットと思われがちな追加ブースターは、2シーズンのみのアイテムだ。また#1をはじめとして、1シーズンではかなり登場回数の多い無蓋のタイプBポッド(マグネットクレーン・ウインチを装備したタイプ)をつけたイーグルは、2シーズンではまったく登場しなくなる。赤いストライプが目を惹く救急イーグル(タイプDポッド)も、1シーズンでの活躍の方が印象度が高い。なお、通常イーグルが装着しているポッドはタイプA(人員輸送専用)と勘違いされているが、実はタイプAポッドは、#1でコーニッグ指揮官が着任時に乗っていたシーンしか、本編中には登場していないのだ。本編で登場するイーグルに装備されているポッドは、ほぼタイプEと呼ばれる研究用ポッドなのである。この二者は外装が同一であるため、多くの場合混同されている。
なお、イーグルのコマンドモジュールの内装は、1シーズンと2シーズンでは大きく異なっている。1シーズンに比べ2シーズンの内装の方が、顕微鏡を思わせるインテリジェントスコープや、シート脇にもう一台モニタが追加されるなど、より充実した装備になっている。
『1999』のフューチャー・デザインとは
このイーグルに代表される『1999』の優れたデザインは、いかに『1999』を酷評する人々も認めざるを得ないだろう。
だが実はもっとも優れたデザインセンスというのは、ブライアン・ジョンソンのイーグルではなく、キース・ウィルソンの手によるアルファ基地の各施設やイーグルのコクピットなどのインテリアデザインに他ならない。
白を基調にした、各部のエッジにカーブド処理を施したインテリアは、一見『UFO』でみせていたものの単なる延長のようにも見受けられる。だが、ディテール面はより洗練され、『UFO』ではどこか払拭し切れていなかったコンソール類での人形劇っぽさも、完全になくなっている。さらに、器具類にも及ぶカーブド処理デザインは、エルゴ・デザインに通底する“未来的な優しさ”を持った、見事なインダストリアルデザインの域にまで達している。巧みに使われたシンボリックなマーキングも、それっぽい。
おそらく、当時一世を風靡したミニコンやコンポ・オーディオのデザインを大きく──『2001年宇宙の旅』風に(笑)──拡大解釈したコンソール類は、75年当時一般的だったコンピュータのイメージ(明滅するランプ類、電動タイプライタのような機械音とともに回転するオープンリール・テープ)から大きく逸脱した、それでいて未来のコンピュータの代名詞・HAL9000とも違う、現代=現実の1999年的な仕上がりとなっている。
すなわち、アジャスタブル風やテンキー風のキーボードにマルチ機能のCRTディスプレイの組み合わせ、コンポーネント・ボード内部に収納された多数の基盤……もちろん、ユーザインターフェイスはキャラクタベースであるし、出力されたパンチカードを読む描写もあったりしてしまうわけだが、ほとんどのプロップにモノクロながら本物のCRTディスプレイが仕込まれている(アルファの通路に多数設置されたコミュニケーション・ポスト内蔵のモニタから小型通信機のコムロックの画面に至るまで!)こともあって、かなりリアルで、当時としては斬新すぎるデザインとなっている。
ベージュのキーボードとモニタの組み合わせのデザインが画期的だった──そして今でも継承され続けている──アップル][の登場が77年、それをさらに推し進めたMacやMacIIが登場するのが80年代中盤であることを考えると、キース・ウィルソンのセンスがいかに優れたものであったかが分かるだろう。
そして、その統一感あふれるインテリアデザインは、おそらく21世紀になっても褪せることのない、フューチャーデザインであり続けるに違いない。