『ときめきトゥナイト』のいわゆる“第一部”の連載がりぼん誌上で始まったのは1982年ごろ。連載と同時に人気も上昇、ほぼ同時期にTVアニメにもなり(もっとも、こちらは成功したとは言いがたかったが)、“第一部”だけで都合16巻にもおよぶロング・ヒットシリーズにまで成長した、まさに「りぼん」を代表する作品なのはご存じの通り。
 さて、『姫ちゃんのリボン』の連載が開始されたのは1990年の夏。
 原作者・水沢めぐみと言えば『ポニーテール白書』や『空色のメロディ』等、90年代の「りぼん」を代表する作家の一人であり、当時既に多くのファンを獲得し、その人気は多少のカリスマ性さえも感じられる程だ。
 そしてこの『姫ちゃん』の基本的なフォーマット──ひょんなことから変身能力を身につけたヒロインと、その秘密を知る頼りになるボーイフレンド。そして、彼にぞっこんのお邪魔虫でイヤミなライバル。その三角関係のラブコメディーを主軸とした学園ドラマ──は『ときめきトゥナイト』第一部のそれであり、かつての「りぼん」の代名詞的作品を90年代のりぼんを代表する作家がリメイクするという基本的な企画意図は、その段階で既に成功を約束されていたと言っても過言では無い。
 事実、『姫ちゃん』は連載開始直後より予想通り人気を博し、ついに待望のアニメ化に至ったわけだ。が、その企画要素や魔法少女的設定から考えても、アニメ化はもっと早くに実現してもおかしくなかった。それだけにファンからみれば、まさに「満を持して」の期待感が強かったことは想像にかたくない。
 ところが、アニメ版がその作品的なパワーを発揮しだすのは、スタートから四ヵ月以上過ぎた2クール目中盤以降なのである。

 アニメ版の『姫ちゃん』は明らかにオリジナル要素の強い、ある種「原作から逸脱した」異なる世界観を持っていると言えよう。それは、とりもなおさずアニメ版『姫ちゃん』の本質が、アニメオリジナルのエピソードが主流となる3・4クール目にあったということだ。
 シリーズスタート当初は、おおむね忠実に原作をトレスしていた『姫ちゃん』であるが、実は細かい部分で原作とは違った方向付けがなされ、かつ原作のストーリーをある意味においてT消化Uするような展開を見せている。例えば、ストーリーの重要なポイントとなる#6「秘密がばれちゃう」と#7「誘拐犯にな〜れ」は、原作においては一本のエピソードとして成立しているわけだが、これをあえて独立した2つの話に作り直しているといった点などは好例だが、このほかにも挙げれば、枚挙にいとまがない(詳細は各話解説を参照されたい)。
 さらに、作画レベルの高さ(イコール渡辺はじめor音地正行作監)だけを主眼にして話をチョイスすると、なんと3・4クール目では原作の話をモチーフにしたものよりオリジナルのエピソードの方が圧倒的に多いのだ。もっとも4クール目以降は、原作には登場しない新しい魔法のアイテムが初登場する2つの前後編での登板が基本なので、単純には言い切れない部分もあるわけだが、しかしながらシリーズ後半は全体として、原作を忠実に再現するエピソードは皆無に近くなる。

 アニメ版『姫ちゃん』の驚くべき点は、ここまで原作から逸脱しながらも、原作の雰囲気を崩すことなく、その世界観や内容的な統一感を失わないことだ。もちろん構成的には、原作トレス編とオリジナル編というように分けることは可能だが、それはトータル的なイメージの変容にはつながらない。これはひとえに、原作版『姫ちゃんのリボン』がラブコメであると同時に学園コメディの可能性を多分に含んでいたためだ。

 こうしてアニメ版『姫ちゃんのリボン』は原作とは違った“ラブストーリー要素を散りばめた学園コメディ”としての形を整え、それでもなお原作のイメージを崩すことなく、最終回(#60)を迎えてしまう。そして、この「ラブストーリー」としての結末を期待していたファンは、この#60で大きく裏切られることになる。

 ところで、『姫ちゃんのリボン』という作品のテーマはなんだろうか?
 それは、そのフォーマットが示すとおり、学園ラブコメであり、魔法というアイテムはストーリーを展開していく上での、いわば二次的要素に過ぎない。
 そして、当然その主軸は姫子と大地の関係の変化のドラマだから、ストーリーは二人がある種の究極目標──プラトニック・ラブであるからして、それがキスであることは自明の理──へ向かうことであり、原作では事実そうなった。
 ところが、アニメではそうはなることなく番組の最終回を迎えてしまう。しかし『姫ちゃん』を通して見てみると、シリーズ初期の頃から巧みにテーマ性のすり替えがなされていて、この段階ではもはやラブストーリー作品とは言い切れない。
 実際に3クール目以降では、それ以上姫子と大地の関係は具体的に一切進展することはなく、辛うじて、姫子が内面的に大地のことをよりポジティブな存在として捉えるようになるだけだ。それでも『こどものおもちゃ』のほうがよほどTらしいUあたりが、ポイントで、即ち、辻初樹監督の目指したものは純然たる学園シチュエーションコメディであり、それ故に、ラブストーリーそのものより、そうした姫子たちの日常のエピソードと、その面白さを狙ったドラマ作りに主眼が置かれていたわけだ。
 「魔法の国からの闖入者」が姫子たちの日常へと入ってくることで成立しているエピソードが、原作よりもはるかに多いのもそのせいだ。そしてこれこそが、アニメ版最大の特徴にして魅力なのだ。
 学園コメディの立場からすれば、#60は一つのスマートな結末であり、そこにスタッフの狙いがある以上、大地について姫子がひかるに対して堂々と「宣戦布告!」と言ってのける(原作では、ここは聖結花登場前後のシチュエーションなのダ!)だけで、精一杯だったに違いない。
 学園コメディとしての秀作『姫ちゃんのリボン』は、かくしてラブコメディとしては甚だ不満の残る結末を迎えて、幕となったのである。

 ……とは言うものの、アニメ版『姫ちゃんのリボン』が、作品的に真に評価されるのは、原作の呪縛から解かれた時に違いない。


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