あの日から、一体どれくらいの時が過ぎたのでしょうか。
お姫様のお城には時計もカレンダーも何もなく、それを知る手段はありません。
ただ、お姫様は生きていました。
あの日から、ずっと。

そして、今日で17歳になります。
お姫様はほとんど何も食べていませんでしたが、それでもただ体だけが望みもしないのに成長していました。
意味もなく、ただただ成長していく、体。
お姫様は忌々しく思います。
ドレスは着られなくなり、ずっと眠っていたベットも小さくなってしまいました。
とても惨めな気持ちです。

それでも外へ出ようとは思いません。

ただ、気になる事が一つだけ。
あれ以来現れない少年は、今どうしているのでしょうか。
それともあれは夢だったのでしょうか。
どちらにしても、それは自分が外へ出ていかなければわからない事です。

お姫様が悩んでいる事はただそれだけ。
それだけを考えて、何となく生きてきたのです。

17歳を迎える朝。
包まっていた毛布から出てみると、凍るような寒さでした。
毛布を肩からかけたまま、何年かぶりに窓を開きます。
外は真っ白でした。
この国では珍しい、雪が降っていたのです。

ふと、その窓から下を見下ろすと、一人の少年が壁の前に座っていました。
すっかり穴の塞がってしまったその壁の前で、震えながら座っています。
このお城の周りには、森しかありません。
ですから人が通りかかる事もないのです。
この少年は、このお城に何か用があるのでしょうか?

お姫様は、もちろん無視をしようとしました。
壁を再び壊す気などありません。

大体2時間くらい経ったでしょうか。
少年はまだ座っています。
さすがのお姫様にも、こんなに寒い日にただただ座っているその少年が可哀相に思えてきました。
このままではそのうち死んでしまうかもしれません。

お姫様は、階段を降り始めました。
冷たい石の階段を、1歩1歩。
そして重い扉を開き、白い地面を素足のまま進みます。
歩く事さえ稀なその柔らかな足はたちまち赤く染まり、針が刺さっているかのように痛み出しました。
お姫様は顔をしかめます。
痛みを感じるのもあの日以来の事。
それでも負けず嫌いなお姫様は平気だと自分に言い聞かせて歩き続けます。
そして辿り着いた壁にもたれ、「おい」と声を掛けてみました。

少年ははっと立ち上がり、半屋さんですか?と訊ねました。

壁越しに話を聞いていると、この少年はどうやら人に頼まれて来たのだと言う事が分かりました。
お姫様に渡すものがあるようなのです。
それを渡さなければ帰れない、と少年はお姫様に訴えました。
お姫様はあまりにも弱々しいその少年を気の毒に思い、壁の中に招き入れる事にしました。

少年はお姫様に手紙らしき物を渡しました。
中にはこのように書かれています。

「もう少しで迎えに行ける。壁を壊して待っていろ。  梧桐勢十郎」

お姫様にはこの「梧桐勢十郎」という名前に覚えがありません。
少年に誰なのかを尋ねると、様々な事を教えてくれました。
この「梧桐勢十郎」という人間が、とある国の王子様であるという事。
強く恐ろしい王子様として人々には恐れられているが、本当は優しくて立派な人間だという事。
色々と細かい事を話し続ける少年の言葉をぼんやりと聞いていたお姫様は、ある言葉にとても驚きました。

その「梧桐勢十郎」という王子様には「セージ」という呼び名があるというのです。

お姫様は少年にその王子様に会わせろと言いました。
少年はそれは出来ないと答えました。
お姫様は、それなら自分で会いに行くから居場所を教えろ、と言いました。
少年はそれも出来ないと答えました。

あの日からずっと気になっていた、その謎が今解けそうなのに。
お姫様は苛立ちました。
そして昔と同じように、思わずその苛立ちを少年にぶつけてしまいました。
お姫様に蹴られた少年は、あまりの痛さに涙をうかべ、よろよろと逃げて行きました。

何故こんなことをしてしまったのか、お姫様には分かりません。
気が付いた時には、もう少年の姿はありませんでした。
ただ苛立って、無意識に暴力を振るってしまいました。
いつもこうして、お姫様は人を傷付け、嫌われてしまうのです。
一人ぼっちで生きてきたお姫様の不器用な心は、昔のまま成長できていませんでした。

ただ会いたいと思っただけ。
壁を壊して自分の中に踏みこんで来た、あの日の少年にまた会いたいと思っただけ。
その気持ちの強さが、苛立ちを生んだのだということに、お姫様はまた気が付けずに。
少年を傷付けた事にぼんやりと心を痛め、また壁で城を厚く閉ざしました。


すみません…何を書いてるんだか分からなくなってきました(死)
何とか原作にそって青木君を出そうと頑張ったら…。
色々と無理の多い話なので、ツッコミ所も多いと思います…。
ドレスが着られなくなった半屋君が一体どんな姿で生きているのか?というのが一番危険なツッコミですね(笑)

次はいよいよ成長した梧桐王子が登場!
クリフや伊織ちゃんなんかも出てきます♪お楽しみに♪
(誰が楽しみにするか…。)