開かれる扉

ある所に、高い塀に囲まれたお城がありました。
そこには一人の真っ白なお姫様が住んでいます。
このお話は、そのとてもかわいそうなお姫様のお話です。

そのお姫様はとても不器用な性格でした。
人と接する事がとても下手なのです。
言葉は汚く乱暴で、自分の気持ちを上手く伝えることも出来ません。
お姫様はどんどん人から嫌われてしまいました。

その上、お姫様には武術の才がありました。
お姫様は日々が上手くいかない苛立ちを家臣にぶつけ、その力で傷つけてしまいます。
人々は更に恐れて、お姫様から離れて行きます。

お姫様の周りからはどんどん人がいなくなり、ついにお姫様は一人ぼっちになってしまいました。
広くて大きなお城の中、お姫様は本当に一人ぼっちです。

「皆…オレヲ見ルト逃ゲテイク…」
「皆オレノコトヲコワガッテ近ヅコウトシナイ…」
「誰モ オレニ本音ヲ言ワナイ…」

お姫様は一人ぼっちのお城で、どんどん心を閉ざしていきます。
そしてお姫様の心の壁はそのままお城を囲う壁となり、ついにはお城は高い高い壁ですっかり外部から閉ざされてしまいました。

お姫様はそれからもう何年も一人ぼっちで生きてきたのです。

今日もお姫様は一人で一日を過ごしました。
この何の喜びも、何の感動もない日々が永遠に続くのだろうと、ぼんやり考えていました。

その時、お姫様は何年も聞いていなかった人間の声が聞こえた気がしました。
驚いたお姫様は、何年ぶりかに重い窓を開き、外の世界を見ました。

高い高い壁の前では、何人かの少年達が大騒ぎをしていました。
お姫様と年の近そうなその少年達はとても楽しそうです。
お姫様は無意識の内にその少年達に見入っていました。

「おまえ友達一人もいない半屋ってやつだろ。何見てんだ。オレの事うらやましいか。」

その少年達の中心で、なんとも偉そうにしていた少年がお姫様に向って言いました。
お姫様は心臓が止まるほど驚きました。
人間とは思えないほどの大きな声。
その声が、忘れかけていた自分の名前を呼んだ事。
こんなに高い所にいる自分の視線、自分の気持ちに気が付いた事。
何に驚けば良いのか分からないほど驚きました。

羨ましくなんかない。
淋しくなんかない。
お姫様は自分の気持ちに気が付きたくありません。
自分の弱さを知りたくないのです。
お姫様はそんな自分を悟られないように、誰もが恐れたその目で少年を睨み付けました。

「おいセージ、そいつ相手にすると、すぐ殴るんだぜ。」
「みんな無視してるやつだよ。早くいこうぜ。」

周りの少年達は、セージと呼ばれているらしいその少年を止めました。
お姫様のお城から離れていった人間達と同じ事を言っています。

「ギャハハ おもしれ〜〜 仲間ハズレ者ー きらわれ者〜〜」

驚いた事に少年はまたお姫様に向って悪口を飛ばしました。
周りの少年達の言う通り、何処かへ離れて行くのだろうとお姫様は思っていました。

驚きながらも、お姫様は向けられた悪口に仕返しをしようと傍にあった蝋燭台を少年に向って投げました。
蝋燭台は見事にその少年にかすり、少年の額からは少しの血が流れました。
お姫様はざまあみろ、と思いながら、窓を閉めようとしました。
この高く厚い壁がある限り、絶対に人間は城内には入れません。
だからお姫様の方からは仕返しが出来ても、少年はお姫様に指一本触れる事が出来ないのです。

この窓を閉めてしまえば、またお姫様は一人ぼっちになってしまいます。
お姫様は少し躊躇いました。
そしてそんな躊躇う自分に気が付かないふりをして、窓を閉めました。
お姫様の部屋は、また薄暗く静かになりました。

と、その時、信じられない事が起こります。
すさまじい音に驚き、お姫様が窓を再び開けると、なんとその壁の一部が崩されていたのです。
そしてセージと呼ばれていたあの少年が一人、ずかずかと城の庭を歩いていました。

お姫様はうろたえました。
まさかあんなに厚く築いた壁が壊されるとは。
この城に再び他人が踏みこむ日が来ようとは。
もうどうして良いのか分かりません。
とにかくその少年が自分の方へ向ってきている事は確かだと思ったお姫様は、一生懸命上へと逃げました。
そして最上階へと辿りついたお姫様は、扉に鍵をかけ、更に部屋の隅まで逃げました。

お姫様は酷く痛む胸を押さえ、息をひそめて、扉の向こうに意識を集中しました。
あの壁を壊すなんて、きっとあの少年は人間ではないのです。
この扉もあっさりと壊されてしまうでしょう。
どうすれば…。
どうすれば……。

ついに扉の向こうから、階段を上る足音が聞こえてきました。
もう少しであの少年が来てしまいます。
お姫様は恐くて仕方がありません。
自分のお城、自分の心に踏み込まれる事が恐いのです。
お姫様はその恐怖に絶えきれず、窓の淵に足をかけ、飛び降りようと目を閉じました。

「半屋!」

鍵をかけたはずの扉を意とも簡単に開き、少年はついにお姫様の前へ現れました。
お姫様は振り向きません。
恐ろしくて振り向けないのです。
自分の壁を打ち壊し、中に踏みこんできたその少年から逃げ出す為に、
お姫様は窓の外へと飛び降りました。

今まで何の為に生きてきたのだろう。

お姫様は思います。

自分は誰からも必要とされていない。
自分は誰の中にも存在しない。
なんて無意味な命。

もっと早くこうしていれば良かった。
もっと早くに捨ててしまえば良かった。
こんな、命。
こんな、自分。

一人で生きる人間など、この世に存在する意味はないのに

どうして
生きていたのだろう。

確かに窓から身を投げたのに、気が付くとお姫様は自分のベッドで眠っていました。

今までの事は全て夢?
いつもと同じ部屋の様子に、お姫様はそう思いました。

けれど胸の痛みは消えず、お姫様を苦しめます。
今までは感じなかったこの胸の痛みは何なのか。
お姫様はもしやと思い、窓を開きました。
すると、予想通り壁には穴が開いています。

お城の壁は心の壁。
その壁を壊され、心に踏み入られたからこんなに胸が痛むのだと、お姫様は知りました。

夢でなかったのなら、どうして自分は生きているのか。
あの少年は何処へ行ったのか。
お姫様は疑問だらけです。

そして、その疑問と同時に沸きあがってくる気持ち。

死んでしまっても良かったのに。
死んでしまいたかったのに。
死んでしまえば良いのに。

競り上がってくる死への誘惑は治まらず、お姫様の心を支配します。
お姫様は命を絶とうと、自分の手首に目を向けました。
すると、その手首が痛んでいる事に気が付きます。
その手首には痣が出来ていました。
そう、
この痣は人に強く握られた時にできるもの。
身を投げたお姫様を少年が助けた痕でした。
けれど、お姫様はそんな事には気が付けません。
人から与えられる痛みというものを知らないからです。
ただ鈍く残るその痛みを不思議に感じているだけです。

その痛みの意味を知らないお姫様は、それでもわずかな暖かさの記憶を感じました。
そして、その不思議な痣をながめて、また一日を生きたのでした。

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何なんでしょう…この話…。
メルヘン童話風梧半…?
半屋姫って…………………(死亡)
何でこんな話になってしまったのか自分でも困ってるんですが(苦笑)
最初は梧桐さんと半屋くんの初恋物語(爆)をシリアス調に書く予定だったのですが…、何処でこんなことに…。
「原作のセリフを使って書く」というコンセプトしか守れていません…。
半屋姫と梧桐少年(まだ正体は不明)の出会い編で今日は力尽きてしまいました…。
そんな「〜編」とか付けるような大層な話じゃないだろ自分!
あー…本当にどうしよう…。
所々無理があるし…(そういう問題ではない)
ちょっと自分で収拾つかなくなってしまいました。
とりあえず折角何日もかけて書いたので載せときます(死)
そんでもってまだ続きます…(-_-)
あの…次回続きを更新する時にはもうちょっと落ち着いた頭で収拾つけますので…すみません………(屍)