『 クモ ノ イト 』
今日も彼、梧桐勢十郎は双眼鏡で生徒の監視にあたっていた。
彼はそれを生徒会長の務めとして当然の事だと思っている。
「オレのもの」の状況を常に把握していなければ、遊ぶ事も、叱る事も、そして守る事も出来ない。
今日の明稜高校は平穏無事。
彼は安心すると共に、不謹慎にも退屈だと感じた。
生徒会の方も行事の無い今の時期は忙しくない。
生徒会室では役員達が多少慌しく動いている気配はあるが、生徒会長である自分には全く関係がない、と彼は思っている。
今日は快晴。
外は眩しいくらいに晴れていて、双眼鏡を覗いている彼は少し目が痛い。
晴れている、という事は…。
「今日もあいつはあの場所か…?」
彼は双眼鏡を、日の当たっていない校舎の裏へと向けた。
「やっぱりな」
彼の思った通り、そこにはいつもの場所に体を預け寛ぐ一人の生徒がいた。
今日の清々しい気候とは対照的なイメージを受ける、何とも不健康そうな生徒。
あんなに止めろと言ったはずのタバコを燻らす旧友の姿が、彼には些か不服である。
「あいかわらず暇そうだな。そろそろ遊んでやるか。」
彼が暇つぶしの対象をこの生徒に決めかけたその時。
その生徒、半屋工の視線が斜め下、利き腕とは逆の右手の方へと下ろされた。
「ん?何だ?」
彼が双眼鏡を、その視線と同じ方へと向ける。
「蜘蛛か。」
視線の先には蜘蛛がいた。
体を支えている手の指先に近付いて来ている、一匹の蜘蛛。
半屋の表情は全く変わらない。
が、体の重心を反対に移し、その手は銜えていたタバコをとった。
「タバコ?焼く気か。」
その手がゆっくりと下がる。
灰がパラパラと蜘蛛の傍へ落ちる。
彼の予想は外れることなく、タバコはやはり蜘蛛へと向っていた。
「だが、殺さない。」
彼に命じられたかのように、タバコを持つ手は止まった。
その手は何故だろうか、そのまま動かない。
時が止まったような半屋のその手から、灰だけが落ち、煙だけが上がってゆく。
「殺せない」
彼は思う。
殺さないのではなく、殺せないのだと。
それは恐らく彼にしか分からない。
彼だけが知っている。
半屋工という人間の本質。
半屋の表情は変わりはしない。
でも何処か淋しげに。
その手からは静かにタバコが落ちた。
「そういうやつなのだ、あいつは…。」
そう呟く彼の口元は、無意識の内に緩んでいた。
誰も知らない、軟らかな表情。
他人の気持ちには鋭い彼も、自分の些細な変化には気付けないらしい。
今日の空の様に、退屈な彼の心はこんなにも晴れたというのに…。
足元に落ちたタバコからは、まだ細い煙が上がっている。
それを気に留めず、半屋は目線を上げた。
彼とは反対に、半屋はあいかわらず暇そうなままだ。
「やはり…、これから会いに行くか。」
彼は歩き始めた。
いつもより少し足早になっている自分にも、やはり彼は気付かないらしい。
「会ってやる」から「会いたい」へ、気持ちが変化した事も。
end
という話なのです。
私の絵と展開が下手過ぎて全く伝わってないとは思いますが…(自虐)
シリアスっぽいですが、梧桐さんちょっとのろけ?(笑)
もう一つのマンガが半屋くん赤面しっぱなしの激甘マンガだったので、こっちは梧桐さん視線でシリアスに!
と思ったのですが……失敗?
とりあえずこれで内容は理解していただけたでしょう。って解説が無いと理解してもらえないマンガなんて失格よーーーーー(号泣)
すみません…。精進します……。
ちなみにタイトルは例の文学作品から付けたのですが、これにも自分なりに意味があって付けたのです。
「蜘蛛を殺さなかった半屋くんに、神様からご褒美(=梧桐さん)が」という(笑)
というか殺そうとした時点で、どちらかと言えば罰が与えられるだろう、自分よ…(一人ツッコミ)
あ、そういえば蜘蛛一コマしか出てきませんが、あの蜘蛛はかたしろはせる様に描いて頂きました(笑)
だって私が描くと…何度描いてもダニになったんですもの……(死)
半屋くんの指に対して、かなり巨大な蜘蛛になってますが(笑)それを言うとかたしろさんが怒って落ち込むので、ツッコミは無しにしてやって下さい(^^;)