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| 見えないものは,見えるものの戦列のうちにあり,それは見えるものの虚焦点であり,それは見えるもののうちに(透かし模様で)描きこまれているのである.
『見えるものと見えないもの』 M.メルロ・ポンティ:瀧浦・木田訳(みすず書房) |
昔の洗濯機には手回しの脱水機が付いていた。洗い終わったものを2本のローラーの間に入れて、ハンドルをぐるぐる回すと、シャツもパンツもみんな平らな煎餅のようになって出てくるのが妙に面白かった記憶がある。
ポリ塩化ビニール樹脂(PVC)フィルムは、これと似た仕組みで製造される。まず、ミキサーの中でPVCと安定剤、充填剤などの各種添加物を混合し、「コンパウンド」を作る。これを加熱ローラーの間に流し込んでから冷却ローラーを通してフィルムが出来上がる。この『カレンダー加工』と呼ばれる圧延の行程で、フィルムにはかすかな木目状の模様(業界ではバンクマークまたはフローマークという)が生じる。したがって、フローマークを調べるとフィルムの収縮方向がわかる。しかし、私が発見(!)した細かな縞模様の成因はわからない。
本題の主旨からみると反則行為だが、“落射光微分干渉顕微鏡”で観察してみた。(こんな器械が買えた時代もあった…今は昔。だが、50年以上は現役で使えるスグレものだ。)わずかな屈折率の違いが色と明暗の差に現れ,縞が内部に埋め込まれているのがわかる。おそらく、コンパウンド成分のばらつきがローラーによって引き延ばされたものであろう。
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| 【透明ビニール傘の組織(通常光で撮影)】 | ||||
粘性の大きい物質同士を混ぜ合わせるのはとても難しい。マーブル模様のケーキやアイスクリーム、樹脂板などはこの性質を逆に生かしているのだ。大理石を始めとする変成岩の模様も、じつは巨大な自然界のミキサーの働きによっている。
ところで、ラップフィルムはポリ塩化ビニリデン(PVDC)かPVC,あるいはポリエチレンでつくられるが、光の延びは見られない。その薄さによるのかもしれない。またポリプロピレンシートでは、延びた光は青みがかった冷白色をしている。成分の違いを反映しているのだろうか?“散乱光による分光解析”の導入として、興味深い一例である。
『ビニール傘と天使の輪』のお話も、そろそろおわりに近づいてきたようだ。
かつて私は、赤外線や紫外線などの見えない光、高速度写真などの見えないものを可視化する現代科学に興味を持ち、各種の教室で取り上げてきた。昨今の科学ブームでも、そういった“見えないものの科学”は人気テーマになっている。だがここで私は、“見えるものの科学”を提案し、大いに宣伝したい。その本意は、これまでお読みいただけた方ならばおわかりであろう。身近な自然現象に興味と問題意識を持ち、“自ら進んで解決”しなければならないのは、まず、教師の方なのであり、決して子供たちに対する押しつけであってはならない、と思う。
ここ数年、現代化と称する、新しい理科教育課程を提案する動きが活発になってきた。曰く、基礎的、総合的、統合的,融合的理科。多くは、進化や環境といった壮大かつ時代の要請に応じたテーマを軸に展開されている。二十数年前、私も高校生にそのような物語を熱く語ったことが、今は懐かしい。どのようなプランがあったとしても、教えるのはあくまでも、個々の教師なのだ。マニュアル化した授業は役に立つかもしれないが、面白味に欠けることだろう。
『ビニール傘と天使の輪』で、私は、物化生地工業技術の各分野に関わる内容に触れた。身近なことがらであっても、総合化できることの一例を示したかったのだ。個々の専門分野については浅学のため、誤りがあれば、ぜひご指摘いただけるとありがたい。
------------(おわり)(戻る)