近頃の私は,「眼」が気にかかる.近点距離はますます遠ざかり,40cmを超えようとしている.すべては,年齢による細胞の老化のせいであり,どうしようもない.先日も,たまたま見上げた弦月がだぶって見え,目をこすったり,見開いたり,片目で見たりと,あれこれやったものである.

 眼の話題の一つに,「星にヒゲが見えるのはなぜですか?」という疑問があり,観望会の折,たびたび質問される.これには,「それは,あなたのまつ毛のせいです.指でまぶたを開けてみればわかりますよ!」と答えることにしている.点光源からの光が隙間を通る時,その隙間の形によっていろいろな模様が見える.この現象は“フラウンフォーファー回折”と呼ばれている.瞳孔をさえぎる一番大きなものが,まつ毛なのだ.しかし.さらに詳しく観察すると,どんなにまつ毛を排除しても,細いヒゲ光が消えることはない.明るい人工光で試すと,細い線が実は無数の点の集まりから成ることに気づく.これは,何だろうか?

 観望会の帰りは,どうしても遅くなる.遠距離通勤者の私にとって,凍てつくような冬の夜はつらい.そんな時,清冽な光を放つ月の周りには,黄白色と緑色の2重のコロナが見え最縁部に虹の輪が認められる.何十年も前から,このことは気になってはいたが,大気が生み出す“かさ”の一種だろうとしか考えなかったのだ.しかし,これほど澄み切った空に,氷晶やダストのようなものが浮かんでいるだろうか?“疑問を感じたら試してみる”べきだった.電柱などで月の本体を覆うと,コロナは消え失せてしまう!他の人工光でも同じである.星のヒゲも,“偽の暈(光冠)”も私たち自身の眼に起因する現象だったのである.私は,各種光源のコロナの半径を測り,眼の構造を調べ始めた….傘をさして自転車を漕ぎながらも,夜の街灯の光が気になっていたのには,そんな訳があったのだ.

【月のアイコロナ(眼の生理現象のため、写真には撮れない)】 【月の光冠(コロナ)-『ビニール傘と天使の輪1』参照】

 私たちがものを見るとき,光が網膜に到達するまでには様々な関門がある.無機質のガラスではなく,いずれも生きた細胞なのである.涙膜-角膜-眼房-水晶体-硝子体の順に光は進むが,ややこしいことに各部位のほとんどが多層構造になっている.いったいどこが,回折光を生みだしているのだろうか?

黒い厚紙に2mm位の穴をあけ、この穴に目を近づけて光源を観察しよう.かさの輪の一番外側,上または下部に向けて上下に動かすと,左右方向に虹のスペクトルが見える.輪の左右をねらうと,今度は上下方向に虹の帯が見える.この事実から,眼のどこかに回折格子の働きをする放射状構造があって,虹のでる角度から繊維細胞の間隔は10μ前後,と推定できる.おそらくは水晶体の繊維状構造が効いているのだろう.一方,内側の輪ではこのような虹は見えない.こちらは角膜の細胞配列があやしいが,これ以上はどうしても眼の専門家の助けが必要で,ただいま調査中である.いずれにしても,解剖することなく眼の内部構造をあれこれ議論できるというのが,愉しい.

 ところで,ビニール傘の一件は,どうなったか?

ビニール傘は厚さ0.1mm程のポリ塩化ビニールフィルム(PVC)でつくられている.傘の表面をルーペで観察すると,細かなリップル状の平行縞が認められる.これが入射した光束を細長く引き延ばしているに違いない.ビニール傘一筋ウン十年という会社をイエローページで調べ,電話してわかったのは,フィルムの裁断方法だけであった.もちろん,細長い三角形を互い違いに組み合わせた無駄のでない型取りをしているとのこと.となると,ロールで押し出している製造工程に問題がありそうである.プラスチック関係の協会を3つほどたらい回しされた後,あるメーカーの親切な担当者にたどり着き,ようやく.解決の糸口をつかんだのであった.(つづく

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