ロスト・イン・ラ・マンチャ

2003年・アメリカ
LOST in LA MANCHA
テリー・ギリアム:監督

 テリー・ギリアムが長年温め続けてきた企画、すでに「フィッシャー・キング」や「バロン」の中でも描いたような人物像を持つ男、ドン・キ・ホーテの映画、『ドン・キ・ホーテを殺した男』。

 制作費はヨーロッパ映画ではかなりの大金、50億円!
 主演はフランスの大物、『髪結いの亭主』で主演しているジャン・ロシュフォール、その脇を固めるのはジョニー・ディップという豪華さ、素晴らしい衣装が用意され、素晴らしいセットも用され、幻想の世界を映像化するために選ばれたエキストラもいい働き!
 フランス人のロシュフォールは高齢にもかかわらず、7ヶ月もかけて英語をものにした努力をみせて、ドン・キ・ホーテ映画は製作されるたびに頓挫を余儀なくされるなどというジンクスもなんのその、のはずだったのだけれども。

 なんと、クランク・インから6日で映画は頓挫してしまうのです!

 というわけでこの映画は、メイキングを撮影していたものが、図らずもドキュメンタリーになったしまった映画です。

 ロシュフォールは腰痛を悪化させてしまうし、どうもほかの役者のスケジュールもまんじりとせず、さらには自然災害までもが撮影クルーを襲うのです。しかも戦闘機の飛ぶ音がなくなるのを待って撮影せねばならなかったり。

 絶対に素晴らしい出来になるはずの映画が頓挫してしまうことを知った上で見るので、素晴らしい衣装やセット、素晴らしい撮影に全身で喜ぶかのようなテリーに寂しさを感じなくもないですが、それでいてなお、テリーの持つ力強さをも見せてくれる映画です。

 不運に見舞われながらもいきいきと映画を撮影しているテリーの様子が、一番に印象的。まあ、徐々にトーンダウンしていき、最後にはかなり萎れてしまうのでしたが。
 ちなみに映画撮影の保険についてなどの映画製作の裏話なんてものも分かる一本です。

 最終的に力なく語るテリーの様子が写りますが、それでもまだなお、テリーの中に広がる素晴らしい世界が映像化される日はきっとやってくる、やってきてくれなくてはいけない、と思ってしまいます。