未来世紀ブラジル

1985年・アメリカ/イギリス
BRAZIL
テリー・ギリアム:監督・脚本
マイケル・ペイリン:出演(ジャック・リント)

 ずいぶん前からその評判は知っていたものの、未来ものって苦手かも、というので見ていませんでした。
 見てびっくり、素晴らしい!
 やっぱり評判って当てになるものなのね、と。同監督ソロ作品の、今まで見たものの中では一番好きな話です。

 主人公サム・ラウリーは、がちがちに管理された社会を退屈に感じ、秀才なのにまるで上昇する気がありません。社会を管理する側の情報局で働いてはいるものの、出世の見込みのない部署でくすぶっています。
 空想の世界の美しい女性に恋焦がれ、そこで自由に空を飛びまわることを夢想して生きているのです。

 マイケル演じる友人ジャックは、すでに妻を娶り、三つ子の父親でもあり、サムより優秀ではなかったものの世渡り上手なので、出世の階段を上っていま す。
 ジャックには、なぜ優秀なサムがくすぶり続けるのか理解不能です。サムの母親も、この世界の有力者とのコネもあるのに、それを使おうとしない息子を苛立たしく見ています。
 その母親はといえば整形マニアで、絶えず整形を繰り返しています。
  
 ある日、情報局のコンピューターが一匹の虫のせいでおかしくなって、罪のない男を捕まえて処刑してしまいます。それを目撃して情報局へ抗議に来た女トラック運転手、ジル・レイトンを見たサムは、夢の中の女性とあまりにも似た彼女に恋をして、情報局でのし上がって彼女のことを調べる決心をします。
 ジルの秘密を 握る最初のカギとなる人物を訪ねると、そこには血まみれの白衣を着たジャックがいたのでした。

 といった感じで話は進みます。
 あとはもう、見て下さい。この社会では、上司が妻の名前を呼び間違えたら、その場だけではなく、後日もずっと、上司が間違えた名前で妻を呼び続けるジャックが普通の人なのです。
 とっても普通、使命のためなら拷問も出来るけれど、もちろん心を痛めないわけではない、三つ子の名前を きちんと本人=名前で結べないおとぼけ父さんでいながらも、妻が買い物に行くときにはオフィスに子供(テリー・ギリアムの実の娘さんがやってます)を預 かったりする優しいパパが、ジャックです。

 一方、社会にあからさまに反発する男、タトルという存在が出てきますが、彼を演じたロバート・デ・ニーロは、 当初、ジャック役をやりたがったそうで、なるほど、かなりキーポイント、という人物。その社会では普通でも、誌名のためにならば恐ろしく歪んだことも出来てしまう人間の業とでもいう存在です。

 主人公サムは、言いたいことは分かる、ものすごく分かるのだけれど、でも好きにはなれないかな、という男。分かりすぎるからイヤというか、自分の駄目な部分を見せられているとでもいうのか、なかなか苛立たしい男です。

 最初に見た時にはDVD化されていなくて、TSUTAYAで何度も借りて見たのでしたが、DVD、メイキングも入っていてお得です。

 さて、この映画は映画会社側とテリーの意見の相違から生じた争いも有名で、争い自体も本や映像になっているのでしたが、現在、買ったり借りて見られるものとは違って、映画会社ではハッピーエンド版を作ることを強要したのです。

 まず、この話がハッピーエンドで終わることの不自然さに気付かない映画会社側の感覚に驚くし、なんでもハッピーにして置けば観客は満足だとでも思っているような馬鹿にした態度にも驚きます。映画を見ればテリーの判断のほうが正しいと誰でも納得すると思います。