囚われの代償

※前回までのあらすじ
天宮殿を統べる三神官の一角《蜘蛛》イセリアに敗北した倉嶋綺亜。
駆けつけた御月七色も、イセリアの呪毒を受け、倒れてしまう。
囚われの身となった綺亜は……





霞む白さは、陽光の明るさだった。
ぐらりぐらりと揺らぐ視界の中、七色は、目を覚ました。
うっすらと光が射し込んでくるその眩しさに、七色は、目を細めた。
ベッドに横になっている自分を把握して、
(……っ……)
全身を駆け巡り続ける、じくじくとした痛み。
(そうか……私、《蜘蛛》の毒針を受けて……)
拘泥の体の全身。
身体が熱い。
指に、暖かさを感じた。
包み込む様な柔らかい手。
「彼方……さん?」
彼方は、微笑んだ。
「綺亜さんは……?」
「向こうで休んでる」
「……」
「大丈夫。ここにいるよ、七色」
そっと手を握る。
汗ばんだ七色の手は、熱い。熱はひく様子はない。
「はい……」
安心した表情をみせた七色は、また眠りについた。





ぱたんと扉を閉め、廊下に出た彼方を、倉嶋家の執事である時田が待っていた。
「どうだ。御月七色の容態の方は?」
「大分落ち着いたようです」
「そうか」
「ありがとうございました」
彼方は、深々と頭を下げた。
「峠は越えたようだな。血清が、少しずつだが、効いてきているのだろう」
「ええ」
ほんの僅かな沈黙。
「綺亜は……何処ですか?」
「……」
彼方の問いかけには応えず、その横を通り過ぎようとする時田に、彼方は、
「行かないと……僕が……!」
時田は、一瞥をくれただけで、踵を返した。
「綺亜に、伝えないといけない」
彼方は、空を握る指に力を込めた。
「綺亜に、どうしても伝えないといけいない想いがあるんです」
ほう、と時田は言った。
「言葉だけは、大きく出たものだな」
時田は、背を向けたままだった。
「お嬢様は」
時田の表情は、彼方の方からは見えない。
「綺亜様は、お話の度に、君のことを話された」
「……」
「お顔を綻ばせて、君の至らないところを、私にとうとうとお話になる……辟易ものだ」
「……」
「君のことを呆れたと言われては、君のことを見直したと言われ、君のことが気に入らないと言われては、どうしても気になると言われる」
「……」
「そんなちぐはぐなお話を、嬉しそうに、話されるのだ」
寒気が、一際増したように感じられた。
「私自身は、君については、気に入らないし、信用の置けない人物だと思っていた」
しかし、と時田は続けた。
「お嬢様の心の中の、君の占める割合が、どんどんと大きくなっていくのを、私は感じざるをえなかった」
「……」
「……《蜘蛛》の居場所が、ようやく突き止められた」
「え?」
「幾重もの強固な魔術プロテクトが張られていた故、時間がかかったが」
時田が素早く空に印を刻むと、魔方陣が、ぽうっと浮かびあがった。
「時田さん。貴方は……」
「魔術の大家たる倉嶋家に仕える身ならば、これくらいのことは、造作のないことだ」
彼方に向き直る時田。
「この場所だ」
魔方陣に示された場所。
「この三箇所が、《蜘蛛》のいる空間へと繋がる結界だ」
「三箇所……?」
「無論、ダミーが含まれているだろう。《蜘蛛》のことだから、罠ということも十分に考えられる」
彼方は、頷いた。
「順に廻ってる時間はない。僕と時田さんそれぞれが、同時にあたっていくべきだと思います」
「そうだろうな」
時田も、反論しなかった。
「私は今も、君のことは嫌いだ。だが」
と、時田は言った。
「信頼している」
時田は、
「お嬢様は、君に信頼以上の気持ちを寄せている」
「……」
「どうか、お嬢様のことをよろしく頼む」
「……行きましょう」
と、彼方は短く言った。





薄暗い光の中に、イセリアは、優雅に佇んでいた。
瀟洒なワイングラスをすぅっとあおると、心地よい芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、深みある香りが喉を潤していく。
順調に事態は動いている、その確信に、
「ふふ」
笑みが零れる。
不意に、目の前に、気配が生じる。
……ふわ
空間が、ぐらりと揺らいで、一つの少女の影を成した。
「……」
巫女装束に身を包み、杓杖を手にした少女。
天宮殿の主、尽き詠みの巫女だった。
「……イセリア」
「あら。これはこれは、巫女様。どうしたのかしら?」
「……倉嶋の少女を捕えたと聞いた」
無機質な視線をイセリアに向けるルトワ。
その瞳は、何の感情も込められていないかのように、静かな光を湛えていた。
「ええ、その通りよ」
イセリアは続けて、
「夜伽の儀は、もう済んだの?贄は、十体程都合したはずだけれど」
「もう終わった……」
「あら。お盛んなことねぇ」
「……」
「どうする、ルトワがご所望なら、新たな供物を、《夜伽の間》に召喚するけれど?」
「……いい」
ルトワは、短くそう言って、
「遊びが過ぎないようになさい、イセリア」
「ふふふ。わかってるわよ、巫女様」
ルトワの像がぼうっと揺らいで、やがて闇に溶け込んでいった。
「さて」
イセリアが向き直った先には、金髪の少女が、拘束されていた。
「気分はどうかしたら、倉嶋綺亜」
髪は乱され、服は剥ぎ取られ、お尻を突き出す恰好になってしまっている。
その臀部を隠すものも、桜色の下着のみだった。
「……っ……」
もぞもぞと身体を動かす綺麗だが、その拘束の事実は変わらず、そのことが綺亜に圧倒的な羞恥心をもたらしていた。
「ふふ。可愛らしいお尻だこと」
ねめつける様に、綺亜を見下ろしたイセリア。
「……この変態」
「敗者の戯言は、心地よく響くわねぇ」
「……っ!」
枷が、ちゃりちゃりと音を立てた。
「この私の拘束の魔術を施された者は、指一本たりとて動かせないはずなのだけれども、流石は、魔術大家の家系、倉嶋の血をひくだけあるわね」
イセリアは、妖艶な笑みを浮かべて、
「もっとも、その本人は、溢れんばかりの魔力の本流を活かしきれていない、二流の魔術師のようだけれども。折角の血統が泣くわね」
「うるさい……」
押し殺した綺亜の声。
「癇に障るのはわかってて挑発しているのよ、お嬢さん?」
つぅっと綺亜の顎に手をそえたイセリアは、囁くように、
「興味があるのは、倉嶋家に伝わる秘宝よ」
「素直に話すと思ってるの?……ばっかじゃない」
睨みつける綺亜。
「でも、生意気なことばかり吐くお口には、お仕置きも必要ね」
おもむろに、綺亜の口内に、指三本を突き入れるイセリア。
「……ぁ!」
呼吸が苦しくなり、咽ぶ綺亜。
ちゅぱ
「貴女の唾液、美味しいわ」
それから、自身の液体と綺亜のそれとが混ざった粘液を、綺亜の頬に擦りつけた。
べとー つつぅ
「んっ!?」
必死の気丈さを保つ少女。
不完全すぎる純粋さ。
全て、壊してしまいたい。
少女が絶望し苦痛に身を震わせる、もっとも屈辱的な方法で、その身を破壊してしまいたい。
(そうね)
乙女の証を残酷に散らしてやって、被虐の刻をその身に刻み込んでやるに限る、とは思う。
だが、それでは、つまらないし、味気なさ過ぎる。
純潔を保ったまま、快楽を貪る卑しい雌犬に堕とし込んでやろう。
黒く濁った欲望。
「決めたわ」
イセリアの指が、臀部のある一点で止まる。
綺亜の身体が、びくんと跳ね上がる。
「へ、変なところを触らないで……っ!」
「変な……それは、どこのことかしらね」
くすくすと受け流すイセリア。
「〜〜」
瞬く間に、綺亜の顔が紅潮する。
最も恥ずかしい部分の一つを嬲られているのだ。
恥ずかしくない訳がもなく、綺亜は俯き加減に、きっと睨みつけた。
「あら、怖いわねぇ」
時折ちゃりちゃりとずれる手枷の音が、静かに響く。
くっ
イセリアの指が、ふっと軽く押し込まれる。
「……ひぅ!?」
びくんとしなる綺亜の肢体。
「きゅっと引き締まった可愛らしい孔ね」
「黙りなさい……!」
「心外ね。褒め言葉よ」
イセリアの指が、窄まりをなぞるように、くるくると円を描く。
「な、何をするの……?」
「言わなくても、わかるでしょう。行為のままよ」
「ん……」
その動作は、ゆっくりとしながらじんわりとしたもので、綺亜を、追いつめていく。
ぬぷぬぷぬぷ
まもなく円を描く動きから、前後の抜き差しの運動に変化した。
「ふぁぁぁぁっ……!?」
「少し、解してあげないと、ね?」
「……ぁふぅ!」
ぬぷっぬぷっぬぷっ
「……ひ……あ……ふっ」
イセリアの指のリズムに合わせて、綺亜の喘ぎが漏れ出る。
「随分と小慣れた声を上げるのね、綺亜ちゃん」
「……黙りな……さい……んぁ!」
自分でも触れたことの場所に、他者に未経験の行為を無理やり押し付けられる、その背徳と羞恥とが混ぜ合わせられた感情が、綺亜の心を、ゆっくりと確実に引き裂いていった。
ぬぷりとした恥音は、繰り返されて、
「あ……あっ……あ!」
綺亜の口が、だらしなく半開きとなる。
「頃合かしら、ね」
ずっ
唐突に。お尻の孔に、ひんやりとした感覚。
「ひぁっ……!?」
綺亜は、思わず声を上げた。
「な、何……?」
「蜘蛛よ」
イセリアは、短くいった。
「く、も……」
「貴女を、確実に天国へと誘ってくれる蟲よ。淫獄という名の楽園にね」
「……や……」
慣らされはじめていた綺亜のその部分に、蜘蛛の腹部からびゅるりと伸びたドリル状の突起管が、あてがわれる。
その接触に、
「や……やだやだ……!」
ぷりゅぅ
異物が注入される感覚に、端正な綺亜の表情には、未体験が故の恐怖の色が、張り付いている。
孔はきゅうきゅうとすぼまって、蜘蛛の管をくわえ込む。
じっとり汗ばむ白い桃に脚を食い込ませ、固定させた蜘蛛がぶるぶると振るえ、ドリル管が、より一層押し込まれていく。
ぷりっ ぷりぃっ
耳を塞ぎたくなる恥ずかしい圧迫音に、綺亜は、精神そのものが引き裂かれているように感じた。
耐え難い羞恥地獄の中、必死に頭を振る。
「ほら。どうしたの、気持ち良いのでしょう?もっと、素直になりなさい」
「……ごめんだわ……!」
それでも、遠慮と恥じらいに染め上げられた乙女のしなやかな締め付けは、少しも弱まることもなく、それが蜘蛛を喜ばせた。
耕す甲斐があるというものと言わんばかりに、ぐいぐいと管が前進した。
「……っぅぅぅ……っ!」
苦痛に身を捩る綺亜。
ふむ、とイセリアは肩を竦めた。
蜘蛛の管は、潤滑液を分泌し、その粘液のには、瞬時に『雌をそういう気にさせる』成分が含まれている。
(この段階で、堕ちないこと。その精神に強さは、評価に値するようね)
でも、とイセリアは考える。
「もっと、それっぽくよがってくれないと、私も楽しめないわ」
イセリアが、詠唱すると、指先に、紫の魔方陣が灯る。
「……な……に?」
「安心して?貴女の想いを育むおまじないよ」
綺亜の額に、魔方陣があてられ、怪しい光が、綺亜の脳に侵食していく。
ばしゅぅっ
「……あ……ぁ?」
頭の中に靄がかかったような、そんな感覚。
「さて」
朦朧とした意識の中、くらくらと《蜘蛛》の声が、響いてくるのを、綺亜は感じた。
「綺亜ちゃんが今想い描いている影は、誰かしら」
(……ぁ)
呟いた名前は、
「……かなた……」
ふうん、と満足そうに微笑んだイセリア。
「そういえば」
「……」
「《織姫》の使い手のこと」
「……!?」
「朝川彼方くん、だっけ?」
「……かなた……」
「彼方くんは、綺亜ちゃんが今こうしてこんなに酷い目に遭っているというのに、何をしているのかしらねぇ?」
「……か……なた……」
「そいつが助けにきてくれるとでも?」
……
アタシ、彼方に、ひどいこと言った。
自分の気持ちだけ、強引な一方通行だって、そうわかってながら、彼方を傷つけた。
……
(……アタシは……)
「……ぁ……」
イセリアは、ほくそ笑んだ。
(私の幻想魔術に対する耐性は、心の方は、お子様そのものねぇ)
「かなた……すき……だいすき……きらい……だいきらい……ちがう……ごめんなさい……ごめんな……さい」
(ふぅん。意外と、早く堕ちそうね)
綺亜の中で、幾つもの繊細な瘤を抱えた細長いドリル管が、進んでは後退し、更にまた進んでいく、その感覚を、刷り込まれる。
ぶじゅるる ぶゅる ぶゅる じゅる
じゅるるると、液をかき混ぜながら進んでいく。
突然、その管が回転しはじめた。
それは、揃えられた歯車が一斉に回転したようであり、穿つドリルそのものであった。
ひだを抉られる痛みと、得たいの知れない快感に、綺亜の声に甘い色が混ざりはじめていた。
「な……んで……私……おしりで……お……しりで……こんあ……こんあ……気持ちいいぃ……んんんぅ!」
しゅくいいいいいいっ
「ふぁぁぁぁん!……まざって……すごい……かきまぜられている……私のなか!」
耳を塞ぎたくなるような台詞が止めどもなく溢れ出てくる。
回転が、徐々に回転速度を落としながら、ゆっくりと止まっていく。
がくんと、綺亜の頭が垂れる。
「ほうら。どうなの?貴女が今してほしいことは、何かしら?」
柔らかく優しく問いかける。
その残酷な問いかけに、
「……くだ……さい」
「私を、もっと……穿って下さい!」
すでに。
少女の瞳からは、生気が失われてしまっていた。