「年上の余裕」

ざざーん ざざー
「はぁ〜〜」
ざざーん ざざー
「いい風が吹いてるわねー。波の音も、とっても心地良い……」
ざざーん ざざー
「海さいこー」
ちゃぷん ちゃぷん
「水は、少し冷たいけど、気持ち良い……」
「……」
「……ちょ……」
「……」
「何でさっきからだんまりなのよ。先に進まないでしょうが」
ゆっくりと、促すツインテールの少女を見た少女……御月七色。
「御月七色、まともに始めなさいよっ」
ざざーん
「って言うか。あたし達、今海に来ているのよ?もっと楽しもうよ!?」
「ウサギさんロゴ入りの浮き輪に身を包んでいる貴女に言われたくありませんね」
「ちょっ!折角、小説、文章のみだから、触れさえしなければ問題ないことに、わざわざ触れないでよ!」
「……皆さん、こんにちは。御月七色です。日頃は、『floating pallet』をご愛顧いただき、ありがとうございます」
七色は、ゆっくりとお辞儀をした。
「今回も、突発版SSということで、お楽しみいただければ、幸いです」
「この倉嶋財閥が才嬢、倉嶋綺亜も、わざわざ出向いてあげたのよ。感謝することね」
あまり膨らみのない胸を強調するような、そんな腕組をしながら言ったのは、倉嶋財閥の一人娘、倉嶋綺亜だった。
「……べ、べつに御月七色だけだと、司会進行大変だろうな……とか、そんな心配して出向いた訳じゃないんだからね!」
「見事に、テンプレートな台詞ですね、綺亜お姉ちゃん」
ちょこんと座っていた少女は、綺亜に、にっこりと笑いかけた。
「む……秋乃こおり。アンタまで、いた訳?」
「出席すれば、バームクーヘンが振舞われると聞いたので」
ほわほわと微笑んだこおりは、続けて、
「はい。こおりだけじゃないですよ。何と、ボスである尽き詠みの巫女さんまで、来てくれているのです!」
「……見せてもらいましょうか、フロパの座談会の性能とやらを」
桜色の髪の少女は、一拍置いた後に、そう言い放った。
「のっけの挨拶から、大佐調!?」
「今日は、日頃の感謝を込めまして、超必殺技の解説などをしたいと思います。コーナー名は、『あの技を小説風に語ってみよう』です」
「どの辺りに、日頃の感謝が込められているのか、良くわからないけれど、まあ良いわ」
「それで、超必殺技って言っても、登場キャラも結構いるし、どれをピックアップするつもりなの」
「読者アンケートの結果を尊重して、第一位を採り上げたいと思います」
「……読者アンケートなんて、なかった気がするけれど、まあ良いわ」
「わくわく」
「見せてもらいましょうか、超必殺技の解説とやらを」
「……アンタはアンタで、それでしか、振れない訳?」
「見せてもらいましょうか、、『あの技を小説風に語ってみよう』のコーナーの解説とやらを」
「……少し言い換えただけ!」
「すべらなければ、どうということはない」
「いや、思い切りすべってるでしょ……」
「とにかく、解説を始めたいと思います」

「こおりは、うまくやっているのかしら」
秋乃あずきは、隣の部屋で行われている座談会に参加している妹のことを思って、そう呟いた。
「向こうは、尽き詠みの巫女も来ているというし、大丈夫かしら……?」
それから、手元の書類を見て、
「それで、私は、こっちの部屋で座談会、か」
机上の名簿を見る。
「籠原能登さん……私より年上の人か。後は、町村麻知子さん。うん、落ち着いた座談会になりそうね」
「ふぇぇ」
言った傍から、間の抜けた弱々しい声が、聞こえた。
不思議に思ったあずきの視線は、自然にその方向へと動いて、
「?」
「ふぇぇぇ〜」
頭を抱えて、何か悩んでいる状態の少女が座っていた。
籠原能登が、頭を抱えていた。
「……ええと、どうされたのですか?」
「……宿題です」
「え?」
「ですから、宿題が終わっていないんですぅっ……!」
弱々しくも悲痛な叫びが、室内に響き渡った。





「……事情は、わかりました。宿題が終わっていないので、座談会は適当にこなして、さっさと片付けろ……との指令を『組織』から受けた、と」
「ぅぅ……その通りです」
見れば、参考書を開いているものの、進捗度は芳しくないようだ。
あずきは、能登に申し訳なさそうに、
「ですが、私が教えられることはないと思いますよ。籠原さんの方が、1つ学年が上な訳ですから……」
「その点は、問題ないです!」
きりっと言い切った能登。
「○学生の内容らしいです」
「え?」
「組織の方には、『こんなものもできないで、どうするつもりなんだ、あぁ!?』ってメンチきられる始末です……」
(ど、どういうことかしら?)
差し出されたドリルの表紙には、可愛らしいキリンの絵と、『漢字覚えちゃおうシリーズ』の文字。
(な……に……?)
ぺらぺらとドリルを捲ると、確かに、簡単なものだった。否、信じられない程、簡単すぎていた。
「こんな難しいものを、明日までに仕上げてこいって言うんですよぉ……」
(……難しいとかどうこう言うよりも、どう考えても、こおりくらいの子でも、解けてしまうレベルだわ)
「ふゅゅー、レベル高すぎますよぉ」
(……年上の人なのに、年上にはとても見えな……ううん、そんなことを考えてしまうのは、失礼だわ)
話題を、変えようと、あずきは、尋ねた。
「そ、それで、数学もあるって言ってましたよね?」
「その点は、問題ないです!」
またも、きりっと言い切った能登。
「数学は、1問を除いて、既に終わらせましたから」
「え?」
「組織の方には、『国語はカスレベルの癖に、数学はできすぎるとか、チグハグすぎんだろうが、あぁ!?』ってメンチきられる始末です……」
差し出された問題集の表紙には、幾何学文様と、『応用論』の文字。
(な……?)
ぺらぺらとページを捲ると、確かに、難解なものだった。
(大学の内容……かしら?……とても、難しいわ)
「ふふ。呆れたでしょう?数学は大学修了以上、国語は○学生。滅茶苦茶ですよ」
見れば、いつからそこにいたのか。悠然と微笑を湛えている少女が、すぅっと立っていた。
「貴女は、籠原さんの……」
「一応、部下、の町村麻知子です。よろしく」
「ま、麻知子ちゃん。遅いですよぅ」
救世主が来たと言わんばかりに、ひしと抱きつく能登。
「むっ……それは、子供っぽいからお止めなさいといつも言っているでしょう!」
びしっ!と袖を振られる。
「ひぅっ」
「こんな感じですから、いつもこの私が、一々助け舟を出してやっているんです。本当に、面倒なことですよ」
酷い言い様だった。
「ふむ。先輩」
「は、はいっ」
「とっておきの勉強法、お教えしましょうか?」
「え!?そ、そんなのあるの?」
「ありますよ。この麻知子が、独自に仕入れた極秘情報ですから。かの倉嶋財閥に代々伝わる、秘中の秘の学習法です」
「ふわぁぁー、さ、流石、麻知子ちゃんです」





「と、時田……こ、これで良いのかしら」

「……彼方さんの食べかけのアイス……」
ぼんやりとした眼差しをアイスに向けて、
ちゅ
「……!」
アイスを掬い取る。
「ちょっと!何をやっているのよ、御月七色!」
「?アイスを舐めただけですが……」
「それは、見ればわかるわよ。その……」
「間接……キス……になっちゃうじゃない……」
「すみません。聞き取れませんでした。あの……」
「う……な、何でもないわっ」
倉嶋家の邸宅の一室にて、数学の参考書を手にした倉嶋綺亜は、戸惑い気味に訊いた。
「結構でございます、お嬢様」
執事の時田は、いつもの丁寧な調子で、応えた。
ううーと俯く綺亜。
無理もなかった。
綺亜は、スカートを身に付けていなかった。
桃色の下着を本で隠すようにした綺亜は、
「……本当にこんな恰好でやる意味があるの?」
「ございます」
「信じられない。こんな破廉恥な……恰好で……勉強だなんて」
「倉嶋家の今の繁栄の途には、歴代当主の方々の比類なき知恵があったこと、綺亜様もご存知でしょう。これぞ、倉嶋家に代々伝わる学習法、パ○チラ学習法でございます」
「名称まで、破廉恥な!」
「私的には、チラというよりもモロと命名したいところでございます」
「どっちにしろ、酷い呼称!」
「下半身が、少々冷え込むでしょう、お嬢様」
「……スカート穿いてないんだから、当たり前でしょう。……とっても、スースーする……」
「その寒さは、緊張感でございます。その緊張感が、集中力を引き出すのです」
「歴代当主って言ったわね、時田?」
「はい」
「だったら、お父様や叔父い様も、この学習法を……?」
「……」
「何で黙るのよ?何故、黙りこくるのよっ?」
「……さて、そろそろはじめましょう。お嬢様」
「軽く流されたっ!?」
時田の有無を言わさぬ鋭い眼光にあてられたのか、綺亜はしぶしぶ机に向かったが、
「気に入らない。とても気に入らないわ」
「お気に召さないようでしたら、別の方法もございますが」
「え、そうなの?」
「ノーパ○学習でございます。今お召しのものを脱いで頂きまして……」
「それって、今の状態より酷いわよねぇ!」
「寧ろ、私にとっては、ウェルカムでございますが」
「ウェルカムしなくて良いわよ!歓迎するのはおかしいところでしょ!」
「……さて、そろそろはじめましょう。お嬢様」
「またもや軽く流されたっ!?」
「先ずは、シャーペンをお持ち下さい」
「持ったわ」
「それを、そのまま、そう、お腹まで持ってきて、それからもっと下の方に持っていきます」
「……え?……ぁ」
「そう。そのままお召し物の先端の方まで……はい、そこで止めてください」
「ちょ……時田、このペンの位置、おかしいでしょ?」
「おかしくございません」
「変なとこ……ろに当たっちゃってる……ぁ」
「変とは、異なこと。お嬢様の、可愛らしい花芯、の間違えでございましょう」
すうっ
「……ん、あ……」
「そう。そのまま静かに柔らかく、芯の先を上下にスライドさせて下さい」
「と、時田ぁ……これじゃあ、ん、しゅ、集中なんて……」





「全く。二人とも、際限なくはしたないのですね。ヒロインをはっているキャラとは、到底思えません」
「インストールばっかりしてるヤツに言われた!?」

「……という情報を入手いたしました」
「ふぁぁー、凄い学習法ですねー」
「先輩も、試してみますか?」
「ま、麻知子ちゃんが手伝ってくれるなら……」
「今の話は、冗談に決まっているでしょう!今のところは、ツっこむところでしょう。そんなことも、わからないのですかっ!」
びしっ!と袖を振られる。
「ひぅっ」
肩を震わせた能登は、
「な、なんでやねん〜〜……?」
「今更遅いわっ!」
びしっ!と袖を振られる。
「ひぅっ」
二人のやり取りを目の当たりにしたあずきは、言葉を失っていた。
「……」
「ふふ」
邪悪な笑みを張り付かせた麻知子は、
「こんな感じですから、いつもこの私が、どSなんです。本当に、面倒なことですよ」
酷い言い様だった。
「それで。どの問題が、わからないのですか?」
「うん……先に数学を教えて欲しいんだけど……」
「な……」
「?どうしたの、少し顔色悪いよ……?」
「このレベルの問題となると、ふむ、変身するしかないようですね」
「へ、変身ですって……!?」
あずきは、驚いた。
天地星霜のように、戦闘力が上がるのか、と。
「安心なさい。貴女のような、タイツの上からでも食いこみがわかってしまうような、はしたない変身ではありませんので」
「……さりげなく、さらっと酷いこと言われたような気がするわ」
「ええ、気のせいではないでしょう。では、いきますよ……」
麻知子の身体が光った!(様な雰囲気だった)
そして、その身体全体が、禍々しいオーラに包み込まれていく!(様な雰囲気だった)
「はぁぁぁぁぁぁ……!」
ごごごごご!という炸裂音が、響き渡る!(様な雰囲気だった)
「ふふ……お待たせしましたね。では、問題を解きましょう」
「……ええと、どの辺が、変身?」
「『必勝!』の鉢巻を身に付けました」
(……変わった人ね)
「でたー!麻知子ちゃんの変身!これで、問題解けちゃいますね!」
(……喜んでいる籠原さんも、変わった人ね)
風変わりな変身とは裏腹に、麻知子は、大学相当の数学の問題を、さらさらとこなしていく。
「……ありのままに思ったことを口にしてしまうと、おかしな変身だけれども、凄い学力アップですね」
「ふふ、貴女方には、更なる恐怖と絶望を与えてあげましょう」
あずきの、賞賛に気を良くしたのか、麻知子は、
「この町村麻知子は、変身をする度に、学力が大幅に圧倒的に変化する!」
「な……!?」
「そして、その変身を、後2回も残している。この意味がわかりますか?」
「そんな……!?」
「見ていなさい。大サービスですよ!」
麻知子の身体が光った!(様な雰囲気だった)
そして、その身体全体が、禍々しいオーラに包み込まれていく!(様な雰囲気だった)
「はぁぁぁぁぁぁ……!」
ごごごごご!という炸裂音が、響き渡る!(様な雰囲気だった)
「……お待たせしましたね。第2ラウンド再開といきましょうか?」
「……ええと、どの辺が、変身?」
「ぐるぐる眼鏡をかけました」
(……やっぱり変わった人ね)
「はじめて見たー!麻知子ちゃんの第二形態!これで、ますます問題解けちゃいますね!」
(……喜んでいる籠原さんも、やっぱり変わった人ね)
「さあ、問題を」
「う、うん。よろしくね、麻知子ちゃん。それで、この問題なんだけれど、『?を長くして待つ』……何だろう?」
「眼鏡、ですね」
「そうなんだ。眼鏡……と。じゃあ、『?を切る』……何だろう?」
「それも、眼鏡、ですね」
くるりと向き直る麻知子は、
「ふふ。圧倒的すぎて、言葉も出ないようですね。それ程までに、恐ろしいのですか、大幅に圧倒的に変化したこの学力が」
「確かに、大幅に変化しましたねぇ!圧倒的に、前より下回りましたよねぇ!」
「では、最後の変身もお見せしましょうか」
「もう次!?」
「スペシャルサービスですよ!」
麻知子の身体が光った!(様な雰囲気だった)
そして、その身体全体が、禍々しいオーラに包み込まれていく!(様な雰囲気だった)
「はぁぁぁぁぁぁ……!」
ごごごごご!という炸裂音が、響き渡る!(様な雰囲気だった)
「……お待たせしましたね。第3ラウンド再開といきましょうか?」
「……ええと、どの辺が、変身?」
「リュックを背負いました」
(……最早訳がわからないわ)
「でたー!麻知子ちゃんの第三形態!これで、さらにさらに問題解けちゃいますね!」
(……喜んでいる籠原さんも、何か訳がわからないわ)
「ふふ。さあ、問題を」
「う、うん。よろしくね、麻知子ちゃん。それで、今度は、社会のこの問題なんだけれど……何だろう?」
「3日目については、このサークルとこのサークルを先に回ったほうが、B案よりも32.4%新刊を手に入れられる可能性が高いですね。それから……」
くるりと向き直る麻知子は、
「ふふ。圧倒的すぎて、言葉も出ないようですね。それ程までに、恐ろしいのですか、大幅に圧倒的に変化したこの知識量が」
「確かに、大幅に変化しましたねぇ!圧倒的に、何か既に、違う方向の知識が圧倒的ですよねぇ!」