世界遺産巡りを始めてから、「小笠原諸島」が110所目となる。今回の旅で、初めて世界自然遺産なるものを口にてしまった?という世にも奇妙な体験をした。ある種の強い好奇心と矛盾を感じながらも、小笠原で話題のアオウミガメを食べたのである。
それも現在、アオウミガメは国際自然保護連合(IUCN)「レッドデーターブック」の絶滅危惧」類として登録され、貴重な海の生き物として保護されているものである。それが何と小笠原では、合法的に食べられるカメの数は限られているものの、日常的に食べられているのである。郷土の伝統料理であり、昔から不足するタンパク源として、お祝い事やお祭りがあると振舞わられてきた食文化がある故である。
アオウミガメは1800年代の後半から1900年にかけて乱獲により激減してしまった。現代では海洋汚染、誤って飲み込みこまれるゴミ、漁業による混獲、護岸工事による産卵場所の減少など、ウミガメにとって住みにくい環境から絶滅の危機に直面している。
現在、自治体や関係機関は、カメの生態調査や研究、人口孵化、稚ガメの飼育など、保護活動に力を入れている。アオウミガメは5月には砂浜で産卵し、約2ヶ月後にふ化すると、ある夜いっせいに海に向かうという。
父島には約30ヶ所、母島列島には約20ヶ所の産卵場所が確認されている。昔は産卵のため海岸にあがってくるのを簡単に捕獲し、食用にしでいたのであるが、現在、この方法での捕獲は繁殖の観点から禁止されている。
現地の何人かの人に、カメ料理で1番美味しいお店は?と尋ねてみたが、一般の家庭ではお店でカメ肉を買って来て、ステーキにしたり、刺身や煮込みにしたりして食べているので、実際にお店で食べた体験がなく、返事に困る様子であった。仕方なく適当な居酒屋に入り、恐る恐るアオウミガメの「刺身」と「煮込み」を注文した。店は夕暮れの開店時でまだ来客は少なく、幸いカメの解体から料理までをやっている店の主人から、話を聞くことが出来た。
父島の「煮込み」は伝統的に何も使わない塩味になっているが、母島の「煮込み」は醤油と砂糖の味付け、これは戦前のサトウキビ栽培が盛んに行われた関係から、砂糖を加えた味になったという。しばらく話を聞いていると、父島と母島にはアオウミガメを捕獲できる公認の漁師が、それぞれ1名しかいない。なんとそのうちの1人が偶然に飲みに現れたのである。
彼の話しによると、現在、アオウミガメの捕獲は6~8月を除けば年間を通じて捕獲出来るようだ。カメの産卵時期である5月が、油が乗っていて美味しく、毎年3月になると、小笠原に来遊し、交尾している姿が見られる。私も残念ながらクジラやイルカは見られなかったが、アオウミガメが交尾しながら海上に遊泳しているのを、見ることが出来た。
先ず1人乗りの小さな漁船で、交尾のため海上に浮上してくるガメを探し、カメが1番油断しているので捕獲し易いという。しかし、あまり近づき過ぎると、エンジンの音などに敏感で、カメは素早く海に潜ってしまという。
カメも捕獲されれば、昔からの習性や学習で人間どもに食われてしまう事を知っているのではと?用心深くなっているのではと漁師はいう。出来るだけ近づいたら、静かな泳ぎに切れ変えて、漁船に結ばれているロープ付き銛をカメにめがけて突き刺す。すばやく漁船に乗り込むと、ロープ繋がれて逃げまくるカメと格闘すること約30分、弱ったところ、船に引き揚げる。
しかし、重量約200キロのカメを、小さな漁船に持ち上げるのは大変な作業になるという。多い時は日に4~5頭を捕獲できるという。また年間の捕獲頭数は138頭と決まっており、1頭の値段は約10万円、加工や処理料に約3万円、肉などは、島内の年間の需要賄うため、マイナス60度で冷凍保存しているという。
●小笠原諸島の世界自然遺産:2011年登録
小笠原諸島は30あまりの島々の総称である。島の中で、世界遺産の区域になっている島は、北から聟島列島、父島列島、母島列島、火山(硫黄)列島の内北硫黄島と南硫黄島、西之島である。父島、母島では、集落地などを除いた地域と、一部周辺の海域が世界遺産の区域になっている。その面積の合計は79.38km2である。陸域が中心で緩衝地帯(バッファーゾーン)はない。
●小笠原諸島の歴史
1675年に江戸幕府が調査船を送り、碑を設置し、「無人島(ブニンジマ)」と名付けた。
1921年:日本陸軍要塞地帯となり、約1万7千名が守る。
1944年:米軍の空襲が激化、約7400名居た住民の強制疎開はじまる。
1945年:米軍の統治下に置かれる。
1946年:欧米系住民129名が帰島
1968年:日本に復帰
現在、母島に約500名、父島に約2000名の一般住民が生活。
魅惑の小笠原グルメとしては
●島寿司:サワラなどの白身魚を醤油付けにしたにぎり寿司。 ワサビの代わりに洋を使うのが特徴。
●アカバの味噌汁:「アカハタ」をブツキリして、味噌汁に仕立てたもの。風味豊かな魚の香りとタマネギの甘さが絶妙
●くだもの:パッションフルーツ
●カメ料理:伝統的な郷土料理で、一般的にお祝い事やお祭りがあると振舞われる。
居酒屋での値段:
アオウミガメのお刺身 ¥900
アオウミガメの煮込み ¥800
そんなに美味しいものにはみえなかったのでカメのステーキは食べるのを遠慮した。
5月7日(月)晴れ
東京竹芝桟橋に停泊中の小笠原丸からも、はるか遠方にスカイツリーが見える。朝10時に出港した小笠原丸は、多くの船が行き交う東京湾を航行すること約3時間、ようやく千葉の館山沖に出た。船が大きく揺れ出した午後2時ごろ、右舷の前方に大島が大きく見えて来た。続いて三宅島、八丈島沖を通過した。
夕食が終わり、ベッドに横になり読書をしていたのだが、どうやら深い眠りに入ってしまったようだ。8日の午前1時、東京から570キロ離れた鳥島沖を定刻通り通過するというか船内放送で目が覚めた。まだ二見港(父島)まで、10時間余り残して、ゆりかごに乗ったような長い航海が続いている。
小笠原諸島は東京から1000キロの距離にあり、船で延べ25時間半をかかる。航空機で飛べることが出来れば2~3時間の距離である。しかし、現在、飛行ルートはなく、また将来の飛行場の建設計画はないというから、将来も航路が唯一の手段となろう。同じ日本の国内でありながら、片道丸1日以上の長時間がかかる長い旅である。
飛行機が使えれば、地球の反対側のブラジルあたりまで行ける距離である。亜熱帯性気候のジャングルと紺碧の海が広がる小笠原は、まだまだ日本でありながら遠い海洋島なのである。
この長い船旅も、幸い今回は世界遺産に憧憬の深い仲間がいる。船上でのホットな情報や天気予報と相談しながら、ブッツケ本番の旅は楽しいものになろう。
5月8日(火)晴れ
朝7時、船内レストランでの朝食。
船内放送があり、9時頃船の左舷前方に、小笠原の最初の島である聟島列島が見えて来るという。いよいよ父島にあと2時間も経過すれば、長かった航海も終わり、定刻通り11時半に二見港に接岸する。
急に船内がざわざわし始めると、港の桟橋には大勢の出迎えの人々が見えている。迎えの車に乗ると、ホテルは直ぐ港の側である。チェックインを済ませて、港近くのお店に向かった。
早速、海鮮丼を注文したが、魚の種類の少なく期待はずれ。あとでわかったことであるが、小笠原では海に囲まれるといっても、漁船で獲った魚は直接築地へと運ばれて、港へは魚の量や種類も限られているようだ。新鮮な魚が沢山食べられると期待する人には、落胆することになるかも知れない。
午後から、ドライバー兼ツアーガイドが運転するワゴン車で島内を見聞して廻ることになった。乗客は4名、午後1時にホテル前を出発してから、最初に車を止めたのは、小笠原丸が停泊している二見港を見下ろす事が出来る、小高い右に曲がった崖の淵である。続いて3日月山展望台へ、眼下に、烏帽子岩、その先に南島、50キロ離れた遠方には母島がかすかに見える。
連休は悪天候が続いたが、今日は晴れで見晴らしが良いと、ガイドも熱の入った説明が続く。宮之浜、旭平展望台、初寝浦展望台、コぺぺ海岸、境浦の沈没船など観て廻り、帰宅は4時。3時間の行程で島を一巡したことになった。
父島の海岸線は約52キロであるが、しかし車の走れる道は島の半分ぐらいで、時雨山(217m)や赤旗山(265m)のある西海岸方面はジャングル地帯、徒歩でガイド付きでの散策になるという。
5月9日(水)曇り時々強い雨
小笠原で最も景色がよいと云われる「南島の洞門と扇浦」へ向かう。朝8時半、船長を含めて、小さなモターボートには6名が乗り込む。クジラやイルカは見ることは出来なかったが、さすがは船長、船の前方にアオウミガメが発見知らせる。交尾のため海に浮いているのだ。エンジンの音を小さくして近づくが、警戒心が強いためか、すぐに海中に姿を消してしまった。永年にわたり人間に捕獲され食べられていることを考えれば、彼らにもその怖さにたいする遺伝子が組み込まれているのかも知れない、とは船長の話。
1)南島の接岸は写真のごとくサンゴの岩をよじ登って上陸する。
2)洞門と扇浦
3)産卵のためカメが海岸に残した足跡
午後:「小笠原ビジッターセンター」にてビデオ等を見る
5月10日(木)晴れ
母島は父島からさらに南に約50キロ更に東京から遠くにある。朝8時半に二見港を出港すると、約2時間の航海で島民約500人が住む母島へ10時半に着く。帰りの船は午後の2時、島での滞在時間は約3時間半、急いで観光スッポットを廻ることになった。
1)沖港から近くの「小剣先」に登る。
2)島で最近オープンした一件のレストラン
3)ロース記年館
4)ウミガメ産卵施設
5)鮫が崎展望台
居酒屋でアオウミガメを食べる
5月11日(金)晴れ
午前中、歩いて、「小笠原海洋センター」でアオウミガメの飼育を見学
「小笠原水産センター」
午後2時、小笠原3泊の旅が終わって、二見港の別れは印象的でした。港では船に乗る人とこれを見送る人が、別れの挨拶をかわしている。レイの花飾りやハイビスカスの花があちこちに見られる。
埠頭には両面打ちで有名な小笠原太鼓が鳴り響き始めた。いよいよエンジンの音がして、船は岸壁を離れた。港の片隅からどことなく、クル―ズ船が大小9隻、小笠原丸を見送ろうと集まって来た。「ありがとう」、「また来るよ」こんな言葉が、お互いの船から大きく聞かれる。こんな素敵な見送りシーンはおそらく世界中、どこの港を探しても見当たらないであろう。船の白い航跡と心を込めて作ってくれたレイの花飾りが、この別れのドラマを一層盛り上げていた別れであった。
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