第3回中国公演と中国ギター事情・コンクールについて


石田 忠


■今年も10月13日から22日まで家内と共に二重奏で中国を訪れることができた。今回は南京市と鎮江市で1回ずつ、そして上海市で2回の計4回の演奏会だ。
■今回の南京公演も前回同様飛音ギター音楽学校校長の趙長貴先生のお骨折りで実現したわけであるが、ここで趙長貴先生の紹介をしておこう。校長といっても若干29才のギタリストで、1991年の中国全国規模で行われた第1回ギターコンクールで優勝し、実力をかわれ、前の校長先生が深せんで学校を作るにあたり後を引き継いだそうである。前回の訪中で私はこの学校の名誉校長の栄を頂いた。今中国のギター界はここ3年程前から非常に活発でこの学校は年に1000人以上の学生が入学してくるそうである。人数が多いのでグループレッスンが主体らしいが、ギター学校の生徒は今までで延べ15000人居るとの話だ。最初は信じられなかったが、彼が週2時間ラジオでギター専門の番組を担当しその80%はクラシックギタ―関係の話やレコードであると聞き納得した。最近は経済開放で豊かな人が増え、手軽に手に入るギターを学ぶ人が多いようである。去年1年間に、南京だけでもクラシックギターが7000本売れたそうである。
サウスポーのギタリスト趙長貴さん

■さて私達2人は南京に到着した次の日の15日に南京ラジオ局で収録、飛音ギター音楽学校を訪れて5人の公開レッスンをした。最初の受講者王強君がアグアドの序奏とロンドをかなりのテクニックで弾きはじめたのにはびっくり、後の受講者はさぞかしと思いきや、だんだん初級者になっていった。最後に女性5重奏で息の会った演奏を私達に聞かせてくれた。最初の受講者は緊張していたのか楽器の限界を超える音が多かったり、付点音符や間の取り方など気になるところも幾つかあったが、4日後の19日にあるコンクールに出ると聞き、少しばかりの注意と、可能性は十分との励ましを聞き大いに安心したようだ。

飛音ギター学校の女性合奏団

■結局彼がコンクールで優勝し20日のお披露目演奏会で私達の二重奏と一緒に演奏する事になった。私としても他人事でなくとても嬉しかった。
次の日16日、南京芸術院(日本で言うと総合芸術大学に当たる)のホール、南京では唯一マイクがなくても音楽会が出来る会場でおよそ300人の満席のギター愛好家が熱心に静かに聞いてくれて反応もよく、終わった時には中国では珍しい事だがアンコールが出て私達も一安心。中国の演奏会では私達にとって欠く事の出来ないマネージャーであり通訳の張涛さんが演奏中に写真を撮っていたら静かにしろ。と怒られた、中国では珍しい事よ。と笑って私達に報告してくれた。
■ちなみに中国での私達の主な演奏曲目紹介します。

◎ディベルティメントop62 /ソル
◎アダージョ/ マルチェルロ
◎ソナタ第5番 /チマローザ
◎コルドバ/ アルベニス
◎ゴエスカスの間奏曲/ グラナドス
◎カノンとアリアNO1・4 /クレンジャンス
◎スペイン舞曲第1番/ ファリャ
◎オリエンタル/ グラナドス

■次の日17日は中国では歴史のある町鎮江、日本では金山寺味噌で有名な金山寺がある市へ移動してここでも公開レッスンをしたり、数曲弾いたりで1日が終わった。次の18日は鎮江青年宮での演奏会。ここでの演奏会は彭来柱先生というギタリストの計らいで実現。事前にはかなり大きなホールでの演奏会のはずが100 人程の会、どうしたのか尋ねたところ何と日本の尖閣諸島や橋本首相の靖国神社参拝問題で政治的に不安定な時期でもあり外国人である日本人の演奏会は取りやめになり、彭先生はチケットの回収や信用問題で大変だったそうである。決まっている演奏会が御上の一言でつぶれてしまうのも中国的なのかなと変に納得。演奏会の夜ピアノバーに招待されて鎮江のギター事情等詳しく意見交換する事が出来たが、ここでもやはり生徒さんは多く年に800人は入学すると聞いて又びっくり。当然レッスンもグループレッスンが主体で1回に30〜50人で一部個人レッスンもしているとの事。中国のギタリストは裕福!

■次の日19日は出来たばかりの高速道路を使って上海に向かう事になるがハイウエーから見た上海の町は東京と変わらないほど発展しているのに先ず驚かされる。早速日本の【現代ギター】にあたる【ギターの友】社を訪問した。【ギターの友】社は上海出版社というビルの中にありこじんまりとした一室にあり今回我々の上海での演奏にお骨折り頂いたギタリストの馬志敏さんと対面。彼は日本語も話し来日もした事があるそうである。
■その後コンクールの為に審査員や専門家が上海に集まっているので その人達を集めギター講座が開かれており私も30分程話すことになった。本来話の苦手な私だが、通訳してくれている間に次の事を懸命に考え何とか切り抜け一安心。日本と中国ののギター界の事、夫婦のデュエットの事等を話し、その後3曲程演奏。聴衆がほとんど専門家といっても急に何を話そうかと結構緊張した。

上海のギター講座

■その夜は馬さんの招待で中国式バキングをごちそうになりいろいろな話を聴く事が出来た。【ギターの友】の発行は1989年創刊で部数は年4回発行の季刊誌、13000部ということである。今の中国ギター界の活況を思えばまだまだ増えそうである。中国のギターコンクールについては後で述べたい。

■翌20日は今回の目的の一つであるギターコンクールの授賞式と一位入賞者・前回入賞者の演奏・そして中国音楽をギターに取り入れて活躍している有名ギタリストの殷さんの演奏。そして特別ゲストとして私達二重奏の演奏(20分程) という事になるホールは中国で1番といわれている上海音楽庁中国のギタリストや中国音楽家協会の会長や会員愛好家の1000人以上の観客の前で演奏出来た事に感謝するとともに、ギターの二重奏やアンサンブルという分野は中国では大変少なく私達の演奏が刺激となってギターのアンサンブルも盛んになって欲しいと感じた次第である主催は上海音楽出版社上海音楽家協会上海ラジオ局ギターの友社

上海音楽庁にて

■ところで中国のギターコンクールについてギターの友社の馬さんより伺った話しであるが中国の大きなコンクールは過去に2回あり1つ目は趙先生が優勝した中国全土を対象としたコンクール。2つ目はギターの友の会員を対象にした華東6省1市(上海を中心とした6省)のコンクールそして今回のコンクールもこの上海を中心としたコンクールである。内容は日本のシステムとはだいぶ違っていて大きくクラシック部門と弾き語りの部門そしてクラシック部門は小学生までの部と一般の部とに分けられているとのことだこの弾き語りの部門はギターの技術3割、歌唱力7割、とのことである今回クラシックの一般の部門は60数人参加し14人が本選に残ったとのことで前述の王君が優勝したわけである。
■今回訪中目的のメインステージも終わり翌21日は上海外国語学院(大学)の日本語学科の主催で大学内の講堂での演奏会。この日は日本語がわかる学生も多いとのことで私の話しを入れながらリラックスムードで進行、途中趙先生にも飛び入りで演奏し私達に横尾さんのさくらをプレゼントしてくれた。
■今回は毎日何等かの形で演奏をしていて自分としては十分楽しんだが唯一気がかりは家内の健康で実は今年初めに体調を崩し1ヶ月近く入院し10日間の旅は少々きつかったようだ中国の人達が随分と気を配ってくれ心より感謝している謝謝!
■前回の現ギターの報告でも書いたことだが、中国のギター界は日本が30年かけて培ってきた事をほんの数年或いは10年ほどで成し遂げてしまいそうな予感がする。


このレポートは後日現代ギター誌に掲載されました。

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