ルリルラ小説 光魔騎士団 〜マサト〜



それは突然であった。
英雄を迎えるべく、集まった歌姫達の集会場に奇声蟲【ノイズ】が
大挙して押し寄せたのだった。
闇蒼の歌姫の結界に守られ、安全と思われたこの地への奇声蟲達の奇襲は
ポザネオ島を混乱に陥れるのに充分過ぎた。
ある者は戦って死に、ある者は捕まり、蟲を生む為の苗床にされてしまった。
硝煙と爆薬の臭いが立ち込める大聖堂の廊下を一人の歌姫と
数人の兵士が駆ける。
「どうして・・・このポザネオ島に蟲が!!」
兵士の隊長とおぼしきショートヘアーの女性が声を荒げる。
最初は六十人居た彼女の部隊はもう彼女を含めて3人にまで減っていた。
他の二人の兵士は歌姫を守るように左右に盾を構えながら走る。と、突然。
歌姫の右側に居た兵士が消えた。
いや、瓦礫から伸びた数本の触手に絡めとられ、そのまま持ち上げられたのだ。
瓦礫の間から伸びた触手、それは明らかに奇声蟲の物である。
奇声蟲が女性を捕らえた後、何をするか。そしてその後の女性はどうなるか
その兵士は知っていた。
「い・・・いやぁぁぁ!た、隊長!助けて下さい!隊長ぉ!」
絡めとられた兵士は必死に叫びながら剣を振り回す。
「トニア!くそ!」
隊長と呼ばれた女性は腰から剣を抜くと、触手に切りかかろうとしたその時。
突然彼女等の後ろの壁が弾けた。
煙の中から姿を現したのは長い胴体に何十本もの足を生やした奇声蟲。
蟲の変異種と呼ばれる物だ。
「た・・・隊長!」
左側に居た兵士が戸惑いの声を上げる。
「た・・・隊長!助けて下さい!たいちょ・・・
 いやぁぁぁぁ!・・・助けて!・・たす・・ん・・んん・・・・。」
絡めとられていた兵士は触手と共に瓦礫の隙間に消えていった。
もう彼女の助けを求める声は聞こえず、ただくぐもった声と
粘液質な音しか聞こえない。
「くっ・・・!」
隊長と呼ばれた女は苦虫を噛み潰したような顔をしながら兵士が消えた
瓦礫を見、今自分達の前に現れた蟲にその視線を戻した。
「行け!」
女は自分の後方に居る自分の部下と歌姫に言った。
「しかし、隊長!」
「いいから行け!」
渋る兵士に女は喝を飛ばす。
「お前には歌姫を守る役目があるだろう!今、この場で我等が全員倒れれば
 誰が歌姫を、このアーカイアの未来を守るのだ!」
彼女が言い終わるが早いか突如、奇声蟲が耳障りな声を上げ、突っ込んで来た。
「くっ!!」
女は素早くこれをかわすと、すれ違い様に剣を蟲の目に付き立てた。
「キィィィィィキキィィィィ!!!」
蟲は目から緑色の体液を滴らせながらもんどりをうつ。
「今だ!行けえ!」
女の言葉に弾かれるように兵士は歌姫の手を引き、その場から駆け去った。
後ろから聞こえる女の罵声と蟲の鳴き声、これが彼女の後ろ髪を引いていた。
しばらく彼女は駆けて、ようやく安全と思える場所を発見した。
歌姫を座らせ、自分も腰を落ち着ける。
今日はいろんな事があり過ぎた。
歌姫達の晴れ舞台の為の特別警護任務、突然の襲撃、戦友の喪失、そして・・
「隊長・・・・たい・・・ちょう・・・・。」
自分達の憧れ、最も敬愛していた女性の安否。それが今の彼女の一番気に
かかる事であった。
涙で潤む目を先程から一言も喋らない歌姫に向ける。
英雄とリンクしている歌姫は普通なら歌唱中もある程度の活動は可能である。
しかし、今の彼女は通常とは違う遠い遠方から英雄を呼び寄せる事に集中
しているため、誘導されれば付いて歩く事は出来るが自分では何も出来ない
と言った人形のような状態なのだ。彼女等兵士が居なければこの歌姫は
とっくに蟲の苗床になっていただろう。
「お前さえ・・・お前さえ居なければ隊長は・・・!」
兵士は何処かにこのどうしようもない気持ちをぶつけるしかなかった。
そうしなければ自分がどうかしてしまう。
彼女が歌姫の首に手を掛けようとしたその時。
爆音と共に彼女の後ろの壁が崩れた。
現れたのは蟲。
長い胴体とおびただしい数の足。そして、
「あ・・あれは・・!」
彼女は絶句した。
蟲の目に突き刺さっているのは彼女達の隊長の剣。
そして血で濡れた蟲に口。
「き・・・貴様ぁぁぁぁ!」
兵士は激昂した。
例え適わなくてもいい。せめて・・・せめて一太刀浴びせれれば!
剣を構える兵士をあざ笑うかのような声を蟲が上げる。
「行くぞ!!」
兵士は蟲に斬りかかる。
次の瞬間、形勢は逆転していた。
天から神の鉄槌の如く振り下ろされた巨大な剣が蟲に頭を潰していたのだ。
「キィ・・・アア・・・キィィ・・・」
蟲は弱々しく鳴くとそのまま倒れ伏した。もう動かない。
兵士は蟲を倒した巨人を見る。
太陽光を反射する赤い巨人。
「絶対・・奏甲・・・・?」
鉄槌を振り降ろした巨人の名前は絶対奏甲【シャルラッハロートU】。
そして絶対奏甲の操縦席から姿を現したのは別世界から召喚された機操英雄。
英雄を乗せたシャルラッハロートUは彼女と歌姫をその手に乗せると。
歩き出す。
聖地を蹂躙する蟲を一掃する為に! つづく