◎フィルター◎
バンコクの画像で誰も表現できていない事がふたつある。ひとつは「音」。癇にさわるようなけたたましい2サイクルバイク(今は4サイクル・モペッドが主流になっているので、一時よりも幾分静かになっているような気がする)とトゥクトゥクの加速音。1日に何回も耳にする自動車の急ブレーキの音。マフラーの部品を付け忘れたかのような腹に響くトラックやバスの轟音。それらがサラウンドとなって襲ってくる様は画像で感じる事は不可能だ。ふたつめは「匂い」。ヤワラーや狭い路地に入るとわかる日に焼けかけたナマモノとそれらを調理する煙、香辛料の匂い・・・。それらにディーゼル・エンジンの煤、トゥクトゥクのプロパン2サイクルの排気煙がミックスされた最強な匂いは、やはり画像では表現不可能。昔に読んだ前川健一氏の「バンコクの匂い」をふと思い出し、書棚の奥からひっぱりだした。一部引用『こうして高い所からバンコクを眺めると、美しい街でもなければおもしろそうな街でもない。暑さも感じなければ、騒音も耳に入らない。排気ガスに目とノドを痛められることもない。汁ソバの屋台もパンツ屋の露店も、白シャツと紺スカートという制服の小学生も、宝石屋も銀行も棺桶屋も、タイ語と中国語と英語の看板も、すべて映画の一場面のように見えてくる。映画には汚水もなければ、ニンニクを炒める香りもない・・・』前川氏がそう綴った場所「バイヨーク・タワー」がホテルの窓のカーテンを開けると目に飛び込んできた。窓はすぐ抜け落ちてしまいそうなくらい頼りなく、しかも1ミリたりとも開ける事ができなかった。窓越しに撮った画像は、あたかも大気に漂う目に見えない物質を映し出しているようだ。私はその窓を「バンコク・フィルター」と名付ける事にした。
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