人生雑感(16)

最近、古い書物を改めて読んでいる。その中で、次の二冊は、特にこのホーム.ページに関連して興味深いと思うので、一読をお勧めしたい。

その一つは「ルルドへの旅と祈り」、著者はフランスのアレクシス.カレルという著名な医学者。ノーベル医学生理賞をも受賞している生粋の科学者である。この書物は、大概の図書館にあるので簡単に読める。大分昔に読んで印象に残った書物の一つであるが、ふと目に止まって再読した。純粋の医学者である著者が、期せずして超自然的な末期患者の治癒に直面して、相当の混乱と内心の葛藤を経て、真理を悟るに至る伝記である。

嘗てルルドの一少女に聖母マリヤが現れ、その地に湧き出た泉に奇跡的な治癒力があることで,現在も世界的に有名な巡礼地であるが、カレルの場合、瀕死の重病人の願いで、ルルド巡礼の旅に付き添う。
精神的な病いであれば、その場の異様な興奮状態が作用して、病いの癒えることもあるかもしれない。然し、器質的な臓器の病いに、単なる泉の水が瞬間的な治癒を起こすことはあり得ないと確信している。水の科学的分析では何の特効成分も無い。自然科学の原理に反するのである。

ところが、この結核性腹膜炎の末期症状で、複数の医師が死期の近いことを確認している中で、患者に奇跡が起きる。此の水に触れた直後に、瞬時にあらゆる病状が消えて健康体に戻る。どんなに著者がショックを受け、その答えを見出すために格闘したか、面白いので読んで下さい。

「自然界で我々が知っていることは、ほんのわずかである。従って、知らないことが起こっても謙虚に受け止めなければならない」カレルの言葉である。彼は、他にも「人間、この未知なるもの」の名著があるが、深く人間とは何かを分析している。

もう一冊は、少し難しいが、やはりフランスの数学者であり思想家であるパスカルの名著「パンセ」である。
学生時代に読んだが充分理解しておらず、断片的にその言葉を憶えている程度であった。
人間は考える葦である」などは超有名な言葉である。パスカルもやはり身内の奇跡的な治癒を実体験して、最終的に聖書の伝える真理に到達する。全宇宙の創造主なる真の神と人間の魂の不滅の存在、キリスト・イエスによる救済の福音を受け入れる。彼の場合面白いのは、「賭ける」という選択のわざである。

彼は言う。死後に天国や地獄が在るか、神が存在するかどうか、此の世に生いている間はよくは判らない。
要は、信ずるか信じないか二者択一の選択になる。仮に、信じていて死後になにも無ければ、それはそれでよし、特別な弊害はない。然し、若し不信を貫いて、死後に聖書の記述している姿が真実であった場合はどうなるか、
手遅れ以外の何ものでもない。永遠の滅びの運命である。だから、一種の「賭け」が出発点にある。パスカルはこう考える。そして、信ずる道に賭けて、そこから探求を始め、ゴールに至る。

キリスト教徒として、希望ある人生をスタートするのに、入り口は各人いろいろであり、上記のケースは、特に理性的思考がともすれば邪魔し勝ちな人々への一つのヒントを与える

人生は長いようで短い。悠久とも思える此の宇宙的時空の中で、まことに線香花火のように終わる。
希望を持って余生を生きたい。何のための人生なのか。忙しさの合間にちょっと思いを馳せたいものである。