はじめに

アニメソング(オープニング編)


今回のお題はアニメソング。 いささか唐突ではあるが。
僕自身、アニメそのものにはさほど関心はないが、アニソンは結構好きなのだ。
というのも、予算や表現等において、アニソンの製作条件は制約が厳しく、その締めつけの中で、スタッフたちは作品に個性を出すべく、その才覚を結集して知恵や趣向を凝らさねばならず、結構クリエイティブな姿勢が要求されるはずだし、それ故に、スタッフの才能・情熱は歌謡曲と同等だと思うから。

まず、TVアニメは主な視聴者層が子供であるという点。 これが様々な制約を生むのだ。
特に歌詞の面では顕著で、子供でも理解できるように、意味明瞭にして簡潔でなければならず、しかも、アニメ本編がどういうものなのか、その情報もキチンと記載しなくてはならない。
一方、曲もやはり子供に親しまれるような作りでないとマズイ。
キャッチーで覚えやすく、しかも1番あたりの長さが、オープニング映像に収まる程度の短さにしなくてはならず、相当にハイレベルな技術を要する。さらに、作品世界を巧みに表現すること、子供に与える影響力等を考慮すれば、必然的にアニメ歌手にも高度な歌唱が要求される。
その分、アレンジには制約が無く、いろいろとアイデアを凝らして、必要最低限ながらも個性的な音作りを試みており、サウンド的には非常にバラエティに富んでいる。
ジャズあり、ロックあり、演歌あり、ワールドミュージックあり、という"何でもアリ"な状態で、その雑食性は歌謡曲顔負け。 いや、それどころか、ヒット歌謡を巧みにパクる楽曲も多い。
パクリの多さは歌謡曲並みで、商業ポップスとは違ってチェックが甘いのか、手口は大胆かつユニーク。

こうしてアニソンは、子供を対象にして様々な条件下で制作されるわけだが、制作側としてはちゃんと採算ベースに見合うことが大前提だという。
つまり、ある程度のヒットは狙っているわけだが、当然、視聴者層である児童には自由になる金もなく、ここはやはり親御さんを取りこまなくてはならず、それにはある程度、大人の鑑賞にも堪えうるレベルであるほうがベターだ。
しかし、余りに大人向けであってももちろんダメで、子供の情操教育面にも適った作品でなければいけない。
要するに、子供が親に「欲しい」とせがんで、親も「これならいいだろう」、もしくは「自分も聴いてみたい」と思えるものでないと商売にならないと言える。

こうした諸々の条件を見事にクリアしたものが、商品として流通されるのだから、アニソンが面白くないわけが無い。
しかし、ここまで制約が厳しいと、ネタ不足になるのも必至で、70年代中盤以降は、がんじがらめな悪条件下で個性を追求しすぎて、とんでもない珍作・怪作も多く産まれる。
今回は個人的に"変"だと思う、アニソンの珍作・怪作を紹介すればイイかな?と思ったのだが、アニソンの歴史を紐解いていくと、主にサウンド面でいくつかの系譜が存在することに気づき、まずこれらを系統立てる必要があると思った。
強引なジャンル分けだが、先にそちらの視点に立脚した切り口で、作品をご紹介します。

(2000.2.1)

 


作品レビュー

鉄腕アトム

作詞:谷川俊太郎 作・編曲:高井達夫 歌: コロムビアゆりかご会


TVアニメ第1号にして「ヒーロー物主題歌」の定型が既に確立

TVアニメ第1号「鉄腕アトム」の主題歌で、作詞に谷川俊太郎が起用されている。
作詞家ではなく詩人を起用するあたり、「TVアニメ第1号主題歌」という重責に対する気合が感じ取れるか。
それも新進気鋭の若手(当時は)というのが、手塚治虫っぽい。
詳しい事は知らないが、手塚は生前、才気溢れる若手芸術家を相当に意識していたらしいから。
ある時はその才能を育てたり(トキワ荘)、ある時はその才能と手を組んだり(富田勲など)、またある時はその才能をライバル視したり(楳図かずお等)と。
いろんな意味で若手を積極的に意識することで、自身の実力に磨きをかけるべく奮闘したり、業界の地位向上を目指すべく切磋琢磨していた向きはあったようだ。

それはともかく、歌詞は簡潔にして意味明瞭な仕上がり。
しかも、番組タイトルや、主人公の特性・力量・存在意義など、本編に関する必要な情報がキチンと網羅されている。
♪十万馬力だ〜 ♪七つの威力さ〜 ♪人間守って〜
詩人の作った歌詞にしては、ポエティックな文学性なぞ皆無で、あくまでもメインの視聴者である児童を対象に、判り易く作っているのが好感持てる。
ただ、♪こころやさし〜 ♪こころただし〜
といった具合に、活用止めしているあたりは、詩人のこだわりなんでしょうか? それもと、単に時代が古いだけ?

サウンドはメジャー調のマーチだ。
至ってオーソドックスな作りで、楽器の編成はごく普通のブラスバンドだし、せっかくの合唱団なのに、コーラスワークは斉唱のみという簡素さ。
しかし、キャッチーで覚え易い曲調だし、とりあえず幼児(男児)が勇気や希望を持てるような音作りで、情操教育的にも合格点だろうし、公平に見て名曲かも。
まぁ大人が考える「子供向け唱歌」のイメージを、そのまま体現したかのような楽曲ではあるが。

この作品、TVアニメ第1号にもかかわらず、歌詞・サウンド両方の面で、既にヒーロー物主題歌の定型として確立されているのがスゴイ。 まぁこれ以前のラジオドラマや実写ドラマの主題歌で、既に雛型はあったかもしれないけど。
歌詞の面では言わずもがなだが、サウンド面でも"マーチ風"というのは、以降の「鉄人28号」「ビッグX」「レインボー戦隊ロビン」などに受け継がれ、70年代の「勇者ライディーン」に至るまでその影響を与えて、明らかに一ジャンルを築いたわけだし。 やはり、手塚治虫の影響力は多大ということなのか? 1963年作品。

(2000.2.1)

 

スーパー・ジェッター

作詞:加納一郎 作・編曲:山下毅雄 歌:上高田少年合唱団


アニソンにサウンドの流行を取り入れた最初の作品

「鉄腕アトム」で構築された「ヒーロー物=マーチ風」という概念は根強く、昭和40年代初頭までは、ヒーロー物の大半を"マーチ風サウンド"が占めたが、一方では「狼少年ケン」など新ジャンルへの挑戦も、徐々にではあるが萌芽した。
この「スーパー・ジェッター」も同様で、今回はウェスタン調を基盤とした音作りなのだ。
判り易く例えるならば、山本コータローとウィークエンド「走れコータロー」とよく似ている。
アップテンポのメジャー調で、所々セリフが入る仕掛けが共通しているうえに、慌しいフォークギターのストロークや、ドラムス抜きのリズムセクションもそのまんまだし。
まぁ「スーパー〜」の方が早いリリースだし、この「スーパー〜」を下敷きにしてコミックソングとして再現させたのが、「走れ〜」なのか? だとしたら、アニソンが歌謡曲をパクるケースが多い中、珍しい逆パターンである。

音作りに関しては「スーパー〜」のほうが凝っている。
「鉄腕〜」とは異なり、合唱団の特性を生かしたコーラスワークだし、間奏に導入される、主旋律とは全く無関係な口笛の音色が妙にカッコイイ。(この口笛というのが、これまたウェスタン調)
メロディの弱い部分を補う形で、セリフを挿入しているのも上手い。
♪マッハ15のスピードだぁ〜 「エネルギー全力噴射!」  甲高い明朗な早口口上が、なんとも心地よい。

しかし、なんといっても、一番耳を引くのはエレキギターだろう。
主人公ジェッターの乗る"流星号"のスピード感を表現するのに、エレキの♪テケテケテケテケ〜 が効果的に使用されているのだ。
ベンチャーズやGSのように、全編エレキサウンドというのではなく、あくまでも効果音としての最低限な利用が、今聴くと逆に新鮮に感じる。 サウンドの流行を取り入れたアニメソングは、おそらくこれが第1号では?
エレキを強調するために、フォークギターのサウンドは弱めに処理されており、その点は「走れ〜」とは大きく異なる。

この作品、セリフの挿入を除けば、歌詞はごく普通のヒーロー物だが、ことサウンド面に関しては非常に興味深い作りをしている。 この作品以降、アニメソングには大きな2つの系譜が生まれた。
一つはウェスタンの系譜で、後に「サスケ」「タイガーマスク」といった亜流が誕生する。
もうひとつは、サウンドのトレンドを導入した音作りの系譜で、例を挙げれば枚挙にいとまが無いだろう。
その時代時代に合わせて流行を取り入れる手法は、アニソンでは王道とも言えるほどに、今後は発展していく。
1965年作品。

(2000.2.1)

 

タイガーマスク

作詞:木谷梨男 作・編曲:菊池俊輔 歌:新田洋


ウェスタン調による「ヒーロー物主題歌」の完成

「スーパー・ジェッター」で取り入れられた"ウェスタン・サウンド"は、「サイボーグ009」や忍者物の「サスケ」などで、下敷きとして流用されたが、大っぴらに全面採用された作品はこれが最初だろうか。
メロディもマイナー調だし、「スーパー〜」以上に本格的なウェスタン。
スネアを効かせたドラムスで刻むリズムセクションや、ストリングス・リコーダーの導入など、全編ウェスタンテイスト。
結構スカスカな音作りではあるものの、アニメ本編の主題である、『レスラーとしての孤独な生き様』にはマッチしている。

歌詞はヒーロー物の類型で、♪ルール無用の悪党に 正義のパンチをぶちかませ〜 ♪やつらのきばを折ってやれ〜
といった、勧善懲悪パターンだ。
ただし、舞台がプロレスなだけに、♪フェアープレイで切りぬけて 男の根性見せてやれ〜
のくだりは、ちょっと"スポ根"的要素が入っているかも。

この作品で、ウェスタン調のヒーロー物主題歌という、新しいジャンルが完成した。
以降、「海のトリトン」「原始少年リュウ」「バビル2世」など、多くの亜流を産み出した。
考えてみたら、これらは全部、主人公が人間のアニメばかり。
人間臭いヒーロー物には、この手の哀愁漂うサウンドが作品世界とマッチして、視聴者も主人公に感情移入しやすいのだろう。 まぁ西部劇自体がそういう代物なんだから、当然と言えば当然か。
逆にロボットや異形といった、虚構性の強いヒーロー物には、この手のサウンドじゃ哀愁過剰で、視聴者も作品世界に没頭できないのかもしれない。 主題歌はいわばアニメ本編の"つかみ"だから。

余談だが、歌っている新田洋について。
フジTV系のアニソン番組『うたえモン』(既に放送終了)に新田が出演して、この「タイガーマスク」を歌ったのだが、その正体を知って驚いた。
なんと、「よせばいいのに」の大ヒットでお馴染みの、敏いとうとハッピー&ブルーのメインボーカルだったのだ。
言われてみれば、確かにそうなのだ。
「よせばいいのに」から演歌調のコブシを排除すれば、間違い無く「タイガーマスク」のあの歌声だ。
これにはやられた。 まさしく盲点。 虚を突かれた思い。
当の新田自身も、笑いながら「いやぁ、早く番組から出演依頼が来ないかなぁ、なんてずっと思ってたんだよねぇ」
なんて飄々と抜かすもんだから、観ていた僕は余計に凹んだ。
この『うたえモン』を通して知り得た事実は数多いが、なかでも新田洋の正体は、トップクラスの驚愕物件であった。
1969年作品。

(2000.2.1)

 

ファイトだ !! ピュー太

作詞:ユニ・グループ 作・編曲:萩原哲晶  歌: フォア・ジェッツ


コンセプトをまるごと流行から頂いた初のアニソン

楽曲制作において、サウンド面でトレンドを導入するという手法は、「スーパー・ジェッター」から始まったと思うが、「スーパー〜」が流行(エレキ)を部分的に取り入れていたのに対し、この「ファイトだ !! ピュー太」 は、コンセプトまるごと当時のトレンドからいただいてるのだ。 パクリと言うよりはパロディに近いが、こうした楽曲制作は今作が元祖では?

で、今回はグループサウンズなのだが、ホントにそのまんま。
ブラスが入るものの、楽器編成はシンプルなバンド系だし、お約束のエレキギター主体のサウンド、男性のみで構成されるコーラスワークなどなど、どっからみてもGS。
イントロこそ、アンディ・ウィリアムス「恋はリズムに乗せて」だが、全体の雰囲気としては軽快なメジャー調で、タイガース「シー・シー・シー」に近い。 間奏でリズムがシェイクして盛りあがる作りなのは、「シーサイド・バウンド」的だが。

歌詞もアニソンなのに、GSテイストに溢れている。
 ♪山がある シェイイェイェイ〜 ♪かもめのおしゃべり ノンノノン〜
といった具合に、全編をナンセンスなフレーズで綴って、
挙句の果てに、♪だから最後はファイト ゴーゴゴゴー〜  なんだそりゃ。
要するに"ノリ"を追求した作りにしているのだが、その辺はむしろスパイダース的だ。

ただし、こうした歌詞作りをしているおかげで、詞だけ読んでも、この「ファイトだ !! ピュー太」がどういう内容のアニメなのか、さっぱり判らないのだ。
 ♪空が燃えても飛んでいけ シェイイェイェイ〜 ♪風が凍っても突き抜けろ シェイイェイェイ〜
 ♪火を吹く岩でも ノンノノン〜 ♪こがねの雲でも ノンノノン〜
僕はこのアニメを観たことがないんだけど・・・・なんだろ? 一応ヒーロー物だろうか。 見当が付かん。
制作側が趣味・お遊びに走ったか。 そういう意味ではこの作品、アニソンとしてはあまり出来のいい代物とは言えない。
まぁ作編曲がクレージー・キャッツの座付き作家だった萩原哲晶だし、ハナっからウケ狙いではあったんだろうけど。
往々にして、「鉄腕アトム」のように"文部省推奨"的な楽曲よりは、こっちのほうが子供受けも良かったりするし。
1968年作品。

(2000.2.1)

 

紅三四郎

作詞:丘灯至夫 作・編曲:和田香苗  歌:堀江美都子


● アニソンで歌謡曲調のサウンドを試みた初の作品

サウンドのトレンドを全面的に導入するという手法は、「ファイトだ !! ピュー太」から始まったわけだが、この「紅三四郎」は、まるごとトレンドを導入というよりは、むしろ巷でヒットしている歌謡曲をアニソン流に消化したような感じ。
そういう意味では、「ファイト〜」よりは高等技術だし、完成品もパロディっぽさは希薄だ。

具体的に言えば、今回は黛ジュン・いしだあゆみといった「一人GS」。
マイナー調で演歌チックなメロディだし、エレキギター主体の音作りはモロに「一人GS」。
これにストリングスやフォークギター、オルガンなどを取り入れて、結構凝った作りをしている。
Bメロではリズムがウェスタン調に変化するが、これはアニメ本編のヒロイズムを意識させる仕掛けなんだろう。
このリズムセクションの変化というのが、「太陽は泣いている」を彷彿とさせるし、歌い出しのメロディは、どことなく「恋のハレルヤ」っぽい。 こう書くと、ほとんど大人向けで、子供向けではない?かと危惧されるが、、
♪ヤー! ♪オー! ♪エイッ! といった、子供たちの元気な掛け声が挿入されている事で、アニソンとしての幼児性はちゃんと保たれているのでご心配なく(何をだ)。

歌詞は「ファイト〜」とは異なり、オーソドックスなアニソンの定型だ。
♪いつもこの世は正しいものが勝つぞ〜 ♪その名はぼくらの紅三四郎〜
♪三日月がえしや流星投げに〜 ♪ゆくぞケン坊 ゆくぞボケ〜
ヒーロー物では"お約束"の勧善懲悪や、番組タイトルはキチンと押さえているし、必殺技の名称や、脇役のニックネームまで網羅。 それにしても、"ボケ"とはあんまりな名前ではあるが。

この作品以降、流行している歌謡曲を取り入れるパターンは多数産まれる。
その時々の時流に応じて、ニューミュージック調だの、ディスコだの、テクノだの・・・・
ただ歌謡曲とは違って、アニソンの場合、積極的に最先端のトレンドを導入するようなことはせず、トレンドが歌謡曲として消化され、世間一般に定着してから、その歌謡曲のエッセンスをアニソン流に巧みに取り入れる傾向がある。
まぁ判り易く言えば、パクリ歌謡をさらにパクるという、三段論法というか三すくみというか、結構やりたい放題で、治外法権的な免除があるな。

それはそうと、この作品は「アニソンの女王」こと、堀江美都子のデビュー曲だ。
当時12歳だったそうだが、明朗な声質ながらもビブラート抜きという、アクの無い素直な歌唱で、「ちびっこのど自慢」的な気味悪さは皆無だ。 それでいて大人びた歌謡曲調サウンドを、大人顔負けに巧みに歌いこなしているのはスゴイ!
厭味な感じは全くしないし、違和感も無い。
この人、歌唱力云々というよりは、相当に器用な歌い手と言える。 テクニシャンだ。
"ミッチ"に関しては、個人的に思うところが多々あり、今回は別項のコラムにまとめてみましたので、
そちらも参照していただきたい。 1969年作品。

(2000.2.1)

 

ひみつのアッコちゃん

作詞:山元護久・井上ひさし 作・編曲:小林亜星  歌:岡田恭子


ようやく「少女アニメ主題歌」の定型が確立

少女アニメのTV第1号作品は「魔法使いサリー」だが、主題歌は「狼少年ケン」からの系譜である「ジャングル・サウンド」で、この「サリー」サウンドを受け継ぐ少女アニメ主題歌は、以降見当たらず、定型には成り得なかった。
続く少女物である「リボンの騎士」だが、サウンド的には富田勲による交響曲で、これも後が続かず、これまた定型とは成り得なかった。 で、この「ひみつのアッコちゃん」で、少女アニメ主題歌の定型がようやく完成を見る。

曲はメジャー調のスローテンポで、リズムはワルツ(メヌエット?)。
このワルツというのが、乙女心をくすぐるメルヘンさがあるし、メロディも多少マイナー調加味で、なかなか上品な仕上がりだ。 アレンジはベースラインを軸にしたリズムセクションで、楽器編成は流れるようなストリングスが主体。
これらに鉄琴(?)・ハープが加わり、ヴォーカルもエコーかけてるし、必要最低限ながらも優雅なサウンドだ。

歌詞はメルヘンチックながらも、意外とコミカルで、その点は赤塚不二夫作品らしいかも。
言葉遣いもどちらかといえば、男言葉を多用しているし。
しかし、ギャグで笑いを取るところまでは暴走せずに、少女物としての品位は保っている。
『鏡を使って女の子が変身する』という、アニメ本編の主題も、判り易く伝えているし。

この作品を歌う岡田恭子、彼女は当時女子高生で、渡辺プロ所属のアイドル候補生だったが、数曲吹き込んだだけで、芸能界からは足を洗ったらしい。
他の作品は知らないが、この作品を聴く限りでは、表現力もあるし、声量も豊かで、音程もまぁまぁ。
低音域ではちょっと苦しくなるが、新人アイドルにしては、歌は上手いと思う。
顔写真を見た事は無いが、ルックスも良かったとのことで、この岡田嬢、一体どういう人だったのか、ちょっと気になる。

この作品で完成された、少女アニメ主題歌の定型要素は3つ。

 (1)メルヘンチックな歌詞
 (2)スローテンポ(もしくはミディアムテンポ)で上品なサウンド
 (3)若い女性歌手が歌う(ただし実年齢は問わない、声さえ可愛らしければOK)

以降、これらの要素を踏襲した作品は、「さるとびエッちゃん」「ミラクル少女リミットちゃん」など数多く、80年代の「魔法少女ララベル」に至るまでその影響が見られる。
「キャンディ・キャンディ」「花の子ルンルン」なども、このパターンの変形だろうし。
しかし、この雛型を構築したのが、小林亜星・井上ひさしというのが面白い。
それも原作が手塚治虫作品ではなく、赤塚不二夫作品というのも、これまた「よりによって」という感じだ。
メルヘンなイメージ皆無のオッサン達が織り成す「乙女チックワールド」。
鑑賞の際、作者たちの顔は一切考えたくない。 誰も考えやしないが。 1969年作品。

(2000.2.1)

 

妖怪人間ベム

作詞:第一動画文芸部 作・編曲:田中正史 歌: ハニー・ナイツ


● 後のアニメ界を席巻する、ジャズファンク路線の始祖

厳密にはコレより以前に、「ワンダー3」とかジャズっぽい作品はあったし、「黄金バット」もちょっとだけジャズ入ってるかもしれない。
ただ、今後のアニソン界で隆盛を極める、ジャズファンク路線に繋がる原型は、この「妖怪人間ベム」ではなかろうか?

曲はマイナー調のアップテンポで、リズムはモロにジャズ。
ジャズの事はよく判らないが、これはいわゆる"モダンジャズ"でしょうか?
アレンジは相当に凝っていて、"子供向け"の範疇を明らかに超越している。
スウィングするドラムス・ベースラインに、タンバリンが加わるリズム隊で、これに様々なブラス、リコーダー、ストリングスが重なる。
ただし、このアニメは正義のヒーロー物でありながら、なんといっても妖怪人間なだけに、不気味な異形物としての色合いが強く、サウンド作りも恐怖感を煽るような仕掛けを随所に施している。
イントロからいきなりショッキングなトランペットだし、続いてホラー物ではお馴染みの"カーッ"というパーカス(名称失念)が挿入されたりするし。
さらに、全編で、リコーダーやストリングスは不安定に揺れ動くビブラート奏法という、おどろおどろしさ満載。

歌詞も、ヒーロー物と異形物をミックスさせたような作りをしている。
異形フレーズとしては、♪闇に隠れて生きる 俺たちゃ妖怪人間なのさ〜 ♪人に姿を見せられぬ獣のようなこの体〜
正義フレーズとしては、♪悪をこらして人の世に 生きる望みに燃えている〜 ♪正義のために闘って いつかは生まれ変わるんだ〜
作詞は第一動画文芸部が担当しているが、♪俺たちゃ〜 というのがどうにも素人っぽい。
漣健児的と言えなくも無いけど。
まぁこの作品にいかなる特徴や欠点を見つけて、目いっぱい考察をしたところで、♪早く人間になりたい!〜 の必殺フレーズを耳にした瞬間、一切の煩悩は払拭されてしまうが。
まさにインパクト大賞! これを思い付いた人はエライと思う。
どんな子供も、オープニングでこのセリフを聴かされちゃあ、本編を見ないわけにはいかないだろう。

この作品で完成されたモダンジャズ路線(?)だが、「妖怪人間〜」のサウンドをそのまま継承した作品というのは、おそらく「山ねずみロッキーチャック」くらいで、あとは全然見当たらない。
しかし、これをベースに、ラテン調・ロック調でファンク味を加えて再生した作品は数多く生まれる。 1968年作品。

(2000.2.1)

 

みなしごハッチ

作詞:丘灯至夫 作・編曲:越部信義  歌:嶋崎由理


アニソン界の一大ジャンル、ジャズファンク路線の第1号

「妖怪人間ベム」で完成されたモダンジャズ路線(?)に、ラテン調のファンキーさを加味して再現したのが、この「みなしごハッチ」である。 ジャンル的には、"ジャズファンク"でしょうか?
曲はアップテンポなマイナー調で、メロディそのものはドメスティックな歌謡曲調。
しかし、アレンジは、独特なベースラインでスウィングするジャズのリズムに、ラテンっぽいボンゴのオカズや、ブラス隊・ストリングスが加わり、実にファンキーなサウンドである。
間奏でハーモニカが挿入されるのは、『生き別れた母親を探しつづける』という本編の主題が有する、郷愁や憧憬を表現するための小技。

このアニメは、少年物とも少女物ともつかない動物アニメで、しかも"昆虫物"。
当時にしては異色だが、歌詞もこのアニメが珍しい"昆虫物"であることを、目いっぱい強調している。
 ♪ゆけゆけハッチ みつばちハッチ〜 ♪姿やさしいモンシロ蝶々 おどけバッタにテント虫〜
 ♪怖いやつだよ カマキリ ムカデ 憎いヤツだよスズメ蜂〜 ♪オケラ コオロギ 子守唄〜
それでいて、妙にゴロの良い演歌チックな「お涙ちょうだいフレーズ」も出てくる。
 ♪母さんほしかろ 恋しかろ〜 ♪泣くな我慢だ男は強い やがて会えるぞ母さんに〜

歌うのは嶋崎由理で、彼女は後に『Gメン'75』の挿入歌である、「面影」をヒットさせたことでも有名(こちらは"しまざき由理"名義だが)。
当時彼女は中学一年生だったそうだが、このファンキーなジャズ歌謡を、年齢不相応にカッコ良く歌いこなしている。
彼女は堀江美都子のようにテクニックで聴かせるのではなく、持ち前のパンチの効いたハスキーボイスで、リスナーを作品世界に引きこむタイプ。
この作品、洋楽的センスと演歌的泥臭さが融合したような楽曲で、しかも子供向けという、結構独特な作品なのだが、嶋崎のヴォーカルが、洋楽・演歌、どちらにもフィットするタイプなので、対極的なテイストが見事にブリッジされて、聴いていて違和感が無い。 ちなみに、後年大人に成長してからは、ハスキーだった声質がややクリアになっている。

この手のジャズファンク・サウンドは、少年物・少女物を問わず、どちらにもマッチするようで、両ジャンルで多作された。
少女物では「魔女っ子メグちゃん」「キューティー・ハニー」な等に受け継がれ、少年物では「科学忍者隊・ガッチャマン」「新造人間・キャシャーン」等に受け継がれた。
さらに、「マジンガーZ」のように、このジャズファンク・サウンドにロック調を加味した"ブラスロック"的手法で再現された作品も多く、同系統の作品は、ヒーロー物では"お約束"だと言わんばかりに濫作された。 ものすごい影響力。
1970年作品。

(2000.2.1)

 

うる星やつら 〜ラムのラブソング〜

作詞:伊藤アキラ 作・編曲:小林泉美 歌:松谷祐子


● アニソン概念を打ち破り、商業ポップスに近づいた第1号

70年代以降、アニメ主題歌はサウンド面で、3つの大きな柱を軸に生成発展していった。
 (1) ジャズファンク、ブラスロック調(主に少年物)
 (2) メルヘンチックな上品系(主に少女物)
 (3) トレンド・歌謡曲導入型(ジャンル問わず)

一方、歌詞の面では特に大きな流れは見当たらず、「簡潔にして意味明瞭」「本編の内容を判り易く直喩」といった、ごく基本的な要点だけ押さえていればOK!という感じだ。
まぁアニメの主な視聴者層が子供なんだから、歌詞は制約が多くて当然だろうし、そんなに実験的な冒険なぞ出来ないのだろうが。 ところが、70年代末期から、歌詞の面で、こうした"お約束"を打ち破るような作品が萌芽する。
「赤毛のアン」「宇宙海賊キャプテンハーロック」「未来少年コナン」といった、本編に関する情報が一切記載されていない主題歌である。 曖昧にイメージだけは伝わるけど、具体的な直喩は無し!というパターン。
しかし、こうした作品でも、サウンドはあくまでも本編に追従したテイストで、作品全体としては本編の雰囲気が上手く視聴者に伝わるようには配慮しており、アニソンとしての体裁は一応保っている。
しかし、この「ラムのラブソング」は、歌詞に『うる星やつら』を直喩するものが皆無なうえに、微妙な恋愛感情がテーマで、しかもサウンドがラテン系という、明らかに従来のアニソンの常識を逸脱した作品なのだ。
一聴すると、完全なる商業ポップスで、何ら予備知識が無ければ、これがアニソンだとは気づかないだろう。
この手の一線を超えた「ご禁制破り」(大げさ)な作品は、これが最初だと思うが。

曲はメジャー調主体だが、所々マイナー調加味で、頭サビで始まるキャッチーな作り。
メロディそのものはニューミュージック的だが、リズムセクションはアップテンポなラテン(カリブ)系。
しかも、要所要所でリズムを変化させていて、結構凝った作りだ。
これにテクノポップ調のキーボード、ラテン系のSE・パーカスのオカズが加わり、さらに、シンセドラム・女の子の笑い声も挿入されるという・・・もうこれは完全に歌謡曲的な楽曲制作の手法である。
歌詞は文字通りラブソングで、アニメ本編に関する具体的な記述はゼロ。
主題は『浮気性の彼氏を一途に愛する女性心理』で、本編のテーマとは一致している。
だが、それはあくまでも予備知識があるから判ることで、いきなりこの歌詞だけ見せられても、アニソンだとは思えない。
この作品、歌謡曲にもありがちな主題だし、これでもっとサウンドに厚みを加えて、タイトルを変えれば、普通の歌謡ポップスとして充分にヒットが狙えたかも。

そもそも、アニソンのこうした動きは、松本零士アニメに代表される、70年代後半のアニメブームから始まった流れだとは思う。
これまでの「テレビまんが」が「テレビアニメ」へと格上げされるのに伴い、アニメファンの年齢層もUPし、アニソンもこうした状況変化に応じて、より大人の鑑賞に堪えうる作風が要求されたのだろう。
その辺から、アニメファンの音楽に対する嗜好もレベルアップしたのかもしれない。
実際、『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』なんて、サントラまで制作されて、しかもそれらがヒットしたわけだし。(まぁ映画サントラだけど)

それとは別に、TVアニメの本編そのものも、大きく変革したという点も見逃せない。
80年代以降、従来の漫画には考えられなかったような、ニューウェーブ感覚に溢れた原作がアニメ化され始める。
この『うる星〜』にしたって、これまでの概念を打ち破った斬新なギャグ漫画で、そのアニメ化作品のテーマソングとなれば、既存のアニソン的な楽曲制作では画期的な作品世界に対応しきれなかった、とも言えるだろう。
本編に追従した楽曲を作ろうにも、原作はギャグ・SF・ラブコメ・バトル・異形物など、様々な要素が複雑に入り乱れてるので、軸となるイメージが把握しづらかったと思う。
"それならいっその事、従来のアニソンとは全く違った手法でやってみよう"、という動きになったのも必然といえば必然。

これ以降、アニソン界には"商業ポップス然"とした楽曲が飛躍的に増えて行く。
その系譜を開拓したのは、やはりこの曲を作った小林泉美だと思う。
彼女は元々シンガーソングライターだったと思うが、『うる星やつら』以降、フジテレビ系TVアニメのテーマ曲を多作(時には自演)することになる。 TBSにおける城之内ミサみたいなもんか(違うか)。 1981年作品。

(2000.2.1)

 

CAT'S EYE

作詞:三浦徳子 作曲:小田裕一郎 編曲:大谷和夫 歌:杏里


アニソン初のメジャーヒット作品

『うる星やつら』以降、アニソンの(作風面での)商業ポップス化は、生成発展の一途をたどったわけだが、その結果、完全に商業ポップスとシンクロしてメジャーヒットしてしまった作品が、この「CAT'S EYE」である。
アニメや原作が、ものすごいブームを呼んだわけでもないし、杏里も当時はアーティストパワー皆無のB級歌手だったし、この大ヒットの背景には、特別な附加価値なぞ一切無く、純粋に楽曲のキャッチーさでブレイクしたのだ。

曲はマイナー調で、アレンジは打ちこみ系のディスコサウンド。
ドナ・サマー「情熱物語」をベースに、より軽めに、よりスピーディーに処理した感じの作風だ。
まぁ作曲が小田裕一郎なだけに、他に元ネタがあるのかもしれないけど。
しかし、ギターやブラス等を排除して、ここまで打ちこみに徹したディスコサウンドは、これまでの歌謡曲には見られなかったタイプではある。
詳しい事は知らないが、おそらくアニソンは商業ポップスに比べたら、予算・時間等、制作面での条件は恵まれていないハズだ。
そのためにやむを得ず、全編お手軽な打ちこみ系でテキトーにアレンジを済ませたのだろうが、これが逆に結果としては画期的な作品を産んだように思われる。 早い話、この作品は「ひょうたんから駒」だと思うのだ。
このメロディでヒットを狙って、気合満々に楽曲制作していたら、意外と陳腐で凡庸な出来になってたかも。

実際、歌詞もお手軽そのもの。
ちゃんと本編のタイトルである「CAT'S EYE」はフレーズとして押さえてあるが、具体的に本編の内容を直喩するものは一切無し。
それどころか、歌詞に主題すら存在せず、都会的な雰囲気を醸し出す無意味なフレーズが延々と綴られているだけだ。
英語の多用も、ディスコティックな気分を表現するだけだし。
ここでの「CAT'S EYE」は本編の直喩というよりも、むしろ宝石のキャッツ・アイとして意味を置き換えて利用されており、大人の女を演出するための小道具といった感じなのだ。
もし、原作のタイトルが違ったら、ここまでのヒットにはならなかっただろう。

しかし、この作品が大ヒットした一番の勝因は、杏里を起用したことだと思う。
先天的に洋楽センスに富んだ"ノリ"のいいシンガーだし、一応英会話も出来たらしいから、この英語多用の歌詞も難なくクリア出来たし、歌唱力もあるから♪扉がどこかで開くよ〜 といったシンコペーションもサラリとこなせた。
しかも、彼女の都会的でナチュラルなイメージが、流行りの打ちこみ系ディスコサウンドにマッチしたし、「イイ女でありながらキャラは弱い」という彼女の個性も、作品世界の大人っぽさ・無意味さとフィットした。
つまり、本業のアニソン歌手ではなく、"アニメ臭"が皆無な、アダルティなポップス歌手を起用した事が功を奏したのだ。
実際、TVの歌番組で観ていてもアニソンらしさが希薄で、無意味な楽曲なのに、彼女が歌うと結構カッコ良かった。
普通のアニソン歌手だったら、こうはいかないだろう。 彼女自身、当時は軽い気持でこの仕事を引き受けたという。
「ねぇ杏里、アニソンの仕事が来てるんだけど、どうする?」「いいよ別に、やるよー」 そんな調子だったらしい。
しかし、人生何が幸いするか判らず、この大ヒットで彼女も一躍注目を集め、さらに「悲しみが止まらない」の連続大ヒットで、一躍トップシンガーの仲間入りを果たした。
まぁ彼女を起用したというのも、実情はギャラが安かったからだろうし、やはりこの大ヒットはいろんなラッキーが偶々重なった「ひょうたんから駒」だ。

この作品と『みゆき』のエンディングテーマ、「想い出がいっぱい」がメジャーヒットしたおかげで、アニソンの楽曲制作にも大変革が起きた。
一つはアニソンのロック・ニューミュージック志向で、これ以降、中原めいこ・TMネットワーク・小比類巻かほるといった、気鋭のアーティスト達を積極採用していく。
もちろん、これには「CAT'S〜」「想い出〜」で、アニソンが商売になることが立証されて、それを目論んでのタイアップという計算も多いにあったとは思うが、彼等の楽曲はとりあえず本編のイメージにマッチしたものだったし、この動きはアニメファンの音楽的嗜好の成長(?)に呼応したものだったと思う。
もう一つは、ひたすら利潤を追求したアニソンのタイアップ化で、この動きは80年代後半のおニャン子クラブが、最も顕著に反映していた。
一時はフジテレビ系アニメというと、本編の内容なぞお構いなしに、とにかくおニャン子系の新曲をタイアップさせるという戦略が常套だった。
「奇面組=うしろゆびさされ組」というのはともかく、エスカレートして「名作劇場=新田恵利」という、とんでもない物件まで誕生する始末。
90年代に入ると、この2つの流れが合流し、「スラム・ダンク=大黒摩季」「るろうに剣心=JUDY AND MARY」という、往年のアニソン全盛期(いつだ)を知るものにとってはなんとも理解し難い、訳の判らないタイアップが横行することになる。「CAT'S EYE」が業界に与えた影響は計り知れないほど多大で、功績も大きいが、一方では、以降のアニソンに従来の幼児性が希薄になってしまい、個人的にはその点が寂しくもある。 1983年作品。

(2000.2.1)

 

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