** 中山美穂 **

 "美人女優"の復権なるか?今後の動向に注目!

中山美穂といえば、80年代アイドルの代表格であると同時に、90年代以降もその人気は衰える事なく、現在に至るまで常に業界をリードし続けてきた、今や芸能界を代表するビッグネームである。
そんな順風満帆ともいえる彼女の芸能キャリアだが、要所要所でカベはあった。 
まず、レコードデビューが、時ならぬ「おニャン子ブーム」とバッティングしてしまった。
このブームの余波で潰れたアイドルは数多いが、彼女はドラマ『毎度おさわがせします』でブレイクした時点で、既に同性の支持を獲得しており、ハナっからファン層が「おニャン子」のそれとは微妙に異なっていたし、映画『BE-BOP-HIGHSCHOOL』のカラミなどで、ヤンキー層までをもファンに取りこむ事に成功。
直にブームのあおりを食らう事は無かった。 
さらにその後も、勢いに乗ってアイドル展開を推し進め、化粧品のCM出演とか、多くのドラマに主演することで、トップアイドルにまで登りつめ、デビュー時に纏わりついていた"ヨゴレ感"を完全に払拭してしまった。 
ここまでを僅か1〜2年ほどで成し遂げてしまったのだから、かなりのスピード展開だ。

こうして確固たる地位を築いた彼女だが、90年頃からアイドル人気も下火になり、20歳という年齢面でのカベも重なり、彼女も転機を迎えた。
当時は、彼女自身が築いたといっても過言では無い、アイドルドラマブームが終焉し、替わってトレンディドラマが全盛を極めた。
しかし彼女も、トレンディドラマ『君の瞳に恋してる』の主演や、同じく主演ドラマ『卒業』(これはトレンディではないか)などの成功で、スムーズにブームに便乗することが出来た。 演技も上達し、女優としての印象が完全に定着。
しかし、トレンディドラマブームも長くは続かず、このジャンル解体後、連続ドラマは複雑に生々発展・生々流転を成し遂げ、多様なジャンルのTVドラマが生まれた。
それに合わせて主演女優の数も飛躍的に増え、そのタイプも千差満別となる。
彼女にとっては、「おニャン子」以上に厄介な現象だったと思う。
例えば、当時彼女が出演した『ローソン』のCMでは、松本明子・大塚寧々らに混じって"大勢の中の一人"的な扱いだったし。 今じゃ絶対こんな仕事は引き受けないだろう。
この頃は、順当に主演ドラマをこなす一方、歌手業にも再び力を入れて、タイアップ効果も奏して大ヒットを連発するようになる。 この女優・歌手の両輪という強みを生かし、ドラマ戦国時代をも乗りきった。

そして多くの主演女優が淘汰され、無事生き残った感のある現在。
彼女の長いキャリアの中で、現在が最も重要、というか意義深いと思う。
というのも、ココ数年の彼女を見ていると、まるで"美人女優"の座に到達したかのようなのだ。
いや、もともと彼女は美人ではあるのだが、ここでいう"美人女優"とは、演技力・キャラクター・ファッションセンスとかではなく、あくまでも"顔の美しさ"をメインに消費させる(売りにする)女優、ということである。
美しく在り続けることが仕事、と言ってもいい。
生粋の美女ではあるし、元々キャラが強い人ではないが、これまでの長いキャリアで、彼女がこのような扱いを受けてきたことは無いだろう。

思えばいつの時代にも、この手の"美人女優"は存在してきた。
戦前の入江たか子・高峰三枝子、戦後の原節子・山本富士子、70年代の大原麗子、80年代の松坂慶子・・・・
ただ、ココ10数年、この"美人女優"の座は空席状態だった。
モデル小林麻美・アイドル小泉今日子以降、女優もキャラクター重視で、ただ美人であるだけでは女優として成立が難しくなってしまったのだ。
同性ファンの支持は、その女優が時代に即したキャラクター・センスを持ち合わせていない限り、獲得し難いのだ。
その美しさで前評判の高かった沢口靖子が、今一つ煮え切らなかったのも、その一端だろう。
トレンディブーム以降、人気女優といえば、W浅野・山口智子に代表される「元気系」、和久井映見・飯島直子の「やすらぎ系」「癒し系」、菅野美穂・葉月里緒奈の「不思議系(?)」などなど、あくまでもキャラクター偏重志向であるのが特徴。 もはや"美人女優"は絶滅したといってもイイくらいだ。
ただし、この10数年は、後藤久美子などの「美少女」が、「美人女優」の肩代わりを担った感はあるが(宮沢りえは別物)。

かように形骸化した"美人女優"だが、何故か現在、中山美穂の手により復活の兆しが。
おそらく、映画『Love Letter』が好評を博し、"卒業します"と宣言して紅白歌合戦を出場辞退した、95〜96年頃が転換期と思われる。
これ以降、彼女の女優業は、映画『東京日和』・ドラマ『眠れぬ森』などだが、その本数は極めて少ない。
で、いずれも、とりたてて演技力が要求されない役ばかりなのだ。
「ただただ美しく居てくれればOKです!」的な役どころ。 作品も映像美志向だし。
十八番の歌手業も、ココ数年は停滞(もう力を入れる必要がないのだ)。
逆にCM露出は、今がピークともいえる状況。
『コーセー化粧品』のCMでは、輝くばかりに美貌を強調した作りで、"美人ぶり"を駄目押しする一方、『一番絞り』のCMでは、居酒屋とか舞台にして「美人の日常」を描くような作りにしている。
この「美人の日常」CMというのは、今や彼女にしか許されない感があるかも。
他の女優だったら、即、反感買いそう。

このような状況でありながら、雑誌(ノンノか?忘れた)の好感度調査では、ココ数年トップなのだ。
しかも、支持する理由の大半が、「キレイだから」「美人だから」。
"美しさ"を武器に、キャラ系女優を抑えてのトップ支持! しかもバッシング皆無!
これはスゴイことだと思うのだ。
こうした彼女の"美しさの再評価(?)"は、実のところ何が契機なのかよく判らないし、なぜ今更"美人女優"が復活し、そして支持されるのか、その理由・意義自体も謎である。
とりたてて彼女がイメチェンを断行したとも、急に美しくなったとも思えないんだけどなぁ。
まぁとにかく、松坂慶子以来(たぶん)の"美人女優"復権の兆しであることは間違い無い。
ただ、彼女が"美人女優"としてこのまま定着するのかどうかが、現時点ではまだ判断を下せないので、あくまでも"兆し"としているのだが。(今後、女性誌バッシングとかあるかもしれないし)
う〜ん、この件に関しては考察しがいが有りすぎて、キリが無いのでこの辺にしておく。
今言える事は、今後の彼女の動向は要チェック!ということ。 目が離せないですね。

(1999.12.28)

 


「C」

作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:萩田光雄


 松本隆が初めて本格的に手掛けた"性典ソング"

中山美穂のデビュー曲。  なんでも彼女の歌手デビューに関しては、松本隆が並々ならぬ意欲を見せたらしい。
松本自ら、わざわざ筒美本人の下へ作曲の依頼に押しかけたほど。
でも、彼のそうした気持は、なんとなく判る気がする。
というのも、美穂はデビュー前からドラマ『毎度おさわがせします』でブレイク済みで、最初からA級扱いだったから、作詞家にとっては"勝算アリ"のおいしい仕事だったハズ。
しかし、そうした算段以上に、美穂のキャラクターは、松本にとって魅力的に映ったと思う。
これまで彼が手掛けた80年代の女性アイドルといえば、松田聖子・薬師丸ひろ子・斉藤由貴・・・・
どちらかといえば、文学チックな作風が要求されるラインナップだ。
まぁ歌謡曲らしからぬ文学性が松本の売りだから、当然なのだが。
しかし、こうして仕事をこなす一方、松本にも「今風の不良キャラに楽曲提供して、新境地を開拓したい!」という、職業作家としての欲求は当然あったと思うのだ。
これまでにも、スターボーに"不良ソング"を作ったりしたけど、やはりあれはジャンルの異なるキワモノだろうし、"ブッ飛び"小泉今日子にも楽曲提供したが、何故か"ブッ飛び路線"外ばかり廻って来るし。(「迷宮のアンドローラ」B面、「DUNK」は除く) そこに来て美穂の出現!そりゃあ力が入ろうというモノだ。

で、松本隆・入魂の一作となったこの作品だが、歌詞は"ツッパリ"というより、『毎度〜』の内容に合わせた"性典モノ"だ。 タイトルからしてそのまんま。 沖田浩之か。
主題は「夜の海辺で初体験を迎えた少女の、歓びと不安が交錯した微妙な心理」。
結構キワドイ内容なのだが、そこは松本御大。
トパーズ・水晶・ほうき星・ガラス等、得意のヒカリモノを駆使して、非常に抽象的に、かつロマンティックに描写しているのは見事!
「C」最中(?)の不安定な心理を、♪さそり座の赤い星 涙で曇る〜 と表現するあたりなど、ジャンルを変えても相変わらずの仕事っぷりだ。

曲はマイナー調でアップテンポ。
所々リズムを変化させていて、ノリ易くしてはいるものの、全体的に符割りが細かく、アイドルのデビュー曲としては結構難易度が高い。 特に♪抱きしめて ささやいて〜 の部分はかなりキツい。
美穂はディスクですら、ココはまともに歌えていない。 でも、新人アイドルじゃしょうがないかも。
アレンジは独特で、且つ相当に凝っている。
おそらく全体的な骨組みは、ローラ・ブラニガン「セルフ・コントロール」あたりを参考にしていると思うのだが、リズムセクションはスネアを利かせた打ちこみ系で、「セルフ〜」と比べるとかなりスピーディーだ。
適宜シンセ類も多用していて、「セルフ〜」よりは軽めの仕上がり。
さらに、細かいギターのカッティングなどの導入で、元歌には無い"ファンク調"を加味しており、結構オリジナリティに富んでいる。
しかも、浜辺のシチュエーションを表現すべく、所々で「サーッ」という"擬似さざ波(?)"を導入したりと、仕掛けも多い充実ぶり。

この作品は、キワドイ主題をオブラートに包んで表現しているのもさることながら、主題をスピーディーで独特なサウンドに乗せたおかげで、そのキワドさが一層カムフラージュされた感もある。
結果、『毎度〜』で築いたイメージを逸脱することなく、かといって没却もせず、絶妙なバランス感覚で「C」を表現した成功作となった。

(1999.12.28)

 

生意気

作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀


 "超15歳級"な生意気ぶりが興味深い作品

前作「C」では、『毎度おさわがせします』が啓蒙する"性典"のイメージを強調した作りをしたが、今回はソレに付随する"生意気なツッパリ"がテーマ。 タイトルもそのものズバリだ。
ただし、中森明菜「少女A」のような"ツッパリ歌謡"ではなく、生意気度が高くてツッパリ度は低い。

曲・アレンジ、サウンド面はハッキリ言って、ライム「思いがけない恋」のパクリ。 結構似ている。 有名な話だが。
曲は「C」同様、マイナー調のアップテンポだが、符割りは大まかだし、キーも低めで、「C」に比べれば歌いやすいメロディだ。 そういう意味では、歌い手にマッチした曲といえよう。 アレンジはディスコサウンド。
要所要所でティンパニーっぽいオカズなどを取り入れて、結構細かいリズムセクションなのだが、メインのキーボードが大らかなため、全体を通して聞く分には、流れるように心地よい、上品なディスコサウンドに仕上がった。

で、歌詞だが、主題は『恋人と別れた少女が、後悔の念を吹っ切って、強く生きていく決意』である。
この勝気な様が"生意気"というわけだ。
とりわけ珍しいテーマではないが、まぁ美穂にマッチした主題だとは思う。
しかしこの歌、主題とは別の部分でホントに"生意気"なのだ。
松本隆が主題の凡庸さを嫌ったのか、舞台設定が当時15歳の美穂にはおよそ不釣合いな、"超15歳級"とでも言うべき羽振りの良さなのだ。 なんたって、「一人少女が異国で失恋の痛手を癒す」のだから。
 ♪私寝椅子で夕陽を見てる〜 ♪ギター弾く異邦人 もっと陽気な歌に変えてよ〜
う〜ん、ゴージャス。 完全な絵空事。 しまいには、♪一人異国で優雅に泣くわ〜 だし。
こっちのほうがよっぽど"生意気"だろう。 生意気の駄目押しか?
具体的な場所は匿名だが(シンガポールなのか?)、たとえ舞台が台湾であろうが、ニューヨークであろうが、いずれにしても浮世離れしたゴージャス振りであることには変わりない。
これほど特異なシチュエーションにもかかわらず、聴いていてそれほど違和感が無いのは、美穂自身が"超15歳級"な大人っぽいキャラだったせいか?

こういった側面を、松本がどこまで計算したのかは、知る由もないのだが、おかげで平凡な主題にもかかわらず、結構面白い作品に仕上がった。

(1999.12.28)

 

BE-BOP-HIGHSCHOOL

作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:萩田光雄


 アナクロな不良像が微笑ましい、"ツッパリ歌謡・外伝"

美穂が出演した、同名映画のテーマソング。 原作は同名のマンガ。
この原作は"ツッパリ賛歌"の感がある、青少年向けコミックなのだが、歌詞もそのテイストに追従している。
これは偶然だと思うが、『毎度おさわがせします』のイメージのうち、"性典""生意気"は前2作で消化されたが、残りの"ツッパリ"がようやくココで、それも『毎度〜』とは無縁な形で取り上げられた。
これで美穂が『毎度〜』で築いた"持ち札"は全て使い果たした。
そういう意味では、「C」「生意気」、この「BE-BOP〜」は『毎度〜』三部作といえるかも。

で、その歌詞だが、「少女A」派閥には属さない"ツッパリ歌謡"に松本が挑戦している。
「少女A」との最大の違いは、ツッパってるのが主人公自身ではなく、あくまでも彼氏だけという点。
具体的な描写は無いが、その彼氏のツッパリぶりも、凶暴性はなく、いたって可愛いレベル。
"ヤンキー"というより、どっちかといえば正義感の強い"番長"っぽいのだ。
主人公はそのヤンチャぶりを、母性を持って好意的に見つめている。
♪おやすみ私のSteady-Boy 大きなBaby〜
これは男からみれば、"理想の彼女像"といってもイイくらい、たまんない魅力だろう。
作品世界は『BE-BOP〜』というよりも、ちばてつや『ハリスの疾風』に近いかも。 国松とおチャラみたいだ。

曲はソフトなメジャー調。 音域は高めで、主題に合わせて、美穂の可愛らしい声を聴かせる作りだ。
歌い出しが、曲とは無関係にマイナー調なのが耳を引くけど、彼氏に対する愛情を逆説的に綴る歌詞に呼応すべく、ココだけはメジャーとは正反対のマイナーにしたのだろう。
アレンジを含めて、全体のサウンドは70年代アメリカンポップス調。
スチールギターの導入が、カーペンターズ「見つめあう恋」を想わせる。
この郷愁漂うサウンドが、歌詞のアナクロな不良像と絶妙にマッチしている。 ということは、この歌は詞先?

この作品、"ツッパリ歌謡"本来の定義(詳しくは中森明菜「少女A」を参照)からは大きくズレていて、実質的には"ツッパリ歌謡・外伝"ともいえる内容だが、この"ちばてつや"的な世界観は好感度大で、主人公のマドンナぶりと相俟って、ヤンキー層の支持も獲得。
ちなみに、映画『BE-BOP〜』で美穂はお嬢様役だったが、これも『毎度〜』で築いたイメージを損なわず、かといって引きずらない、かなりオイシイ役だった。
映画・主題歌、いずれにしても美穂にとって、この『BE-BOP〜』は粗利の大きい仕事となった。

(1999.12.28)

 

色・ホワイトブレンド

作詞・作曲:竹内まりや 編曲:清水信之


 中山美穂の最高傑作

美穂本人が出演した、化粧品のCMソング。
なぜか作家陣が総入れ替えとなり、竹内まりや・清水信之が起用された。
クライアントの意向か? 知らないけど。 ちなみに、このコンビは河合奈保子「けんかをやめて」と全く同じ。

まずは曲だが、春のキャンペーンにふさわしく、ソフトなメジャー系。
オールディーズ風で郷愁を誘う、まりやらしいメロディだ。
全体のテンポがモンキーズ「デイドリーム・ビリーバー」・カーペンターズ「遥かなる影」を想わせる、弾むようなリズムで、これも春っぽい。 頭サビで始まる点も、コマソンらしいキャッチーさだ。
所々マイナー調を加味して、明朗ながら品の良い仕上がり。
「BE-BOP〜」同様、比較的高音域で、美穂の可愛らしい声質も堪能できる。 曲作りは満点の出来映え。

アレンジも「けんかを〜」では失敗した清水だが、ココでは水準に達している。
チェンバロの導入、シンプルなコーラスワークは相変わらずだが、適宜シンセ類・ブラス系を取り入れ、柔らかながらも躍動的な音作りだ。
延々とサビを繰り返すエンディングが「けんかを〜」と共通しているが、今回はリズムをブレイクさせたりして、趣向を凝らしている。 満点とは言い難いが、「けんかを〜」に比べれば厚みのあるサウンドだ。

かようにサウンド面は充実しているのだが、一番スゴイのは歌詞だ。
化粧品のコマソンは何かと制約が多いのだが、ココでは「ホワイトブレンド」のキャッチコピーに基づいて、「White spring」「White lips」「White night」などなど、ホワイトがらみのキーワードを多用することで、クライアントの要望を見事にクリア。
コスメのCMソングとして合格点なのはもちろんだが、アイドル歌謡の定型をしっかり押さえているのも見逃せない。
主題は「春の訪れが新しい恋を運んでくる予感、そして出会い」。 アイドル歌謡としても水準的。
化粧品のコマソンは、往々にして、ゴロ・キャッチコピーの偏重で歌詞が無内容になりがちだが、その点この作品はキチンと主題がある上に、筋道が通っていて、意味も判り易い。
しかも、『毎度〜』で築いたイメージを前作「BE-BOP-HIGHSCHOOL」で終焉させ、ネタが手詰まりになったところで、上手いタイミングでイメチェンを果たす役割をしている。
CM映像と共に、彼女のフェミニンな魅力を萌芽させ、トップアイドルの仲間入りを果たした、記念碑的作品となった。
それでいて、竹内まりやの個性も発揮されているのだから、ホントに恐れ入る。

美穂には他にも傑作がいくつかあって、どの作品をマスターピースに認定するのか、結構悩むのだが、

 (1) 化粧品コマソンとして合格点
 (2) しかも、アイドル歌謡として水準レベル
 (3) 美穂のイメチェン・格上げに対する貢献度
 (4) 歌詞・曲、共に作家の個性が充分に発揮

これだけプラスの要素が揃えば、やはりこの作品を最高傑作に推さないわけにはいかない。
総合点でトップに踊り出た感じだが。

(1999.12.28)

 

クローズ・アップ

作詞:松本隆 作曲:財津和夫 編曲:大村雅朗


 歌詞とは裏腹に、地味なアレンジで存在感に欠ける作品

今回は松本隆&財津和夫という、松田聖子でお馴染みのコンビ。
このコンビはこの頃、芳本美代子にも数曲提供している。
さらに松本は、同時期に山瀬まみにも、やはり聖子でお馴染みだった呉田軽穂(ユーミン)とのコンビで楽曲提供している。
当時聖子は結婚休業中だったが、こうした現象って、なんだか地主に無断で勝手に土地に入り込んで、温泉でも掘り当てようと目論む、山師的発想だと思うが。 ゴールドラッシュか? 猟解禁か? よく判んないけど。
まぁ実質的な権利者は聖子じゃなく、松本なのだから、こうした乱開発(?)も全て彼の采配なんだろうけどさ。

それはともかく、まずは曲。
曲作りにおいて、財津和夫という人は、チューリップ「青春の影」「心の旅」に代表される"メロディ重視型"と、「虹とスニーカーの頃」に代表される"リズム重視型"の二極化傾向にあると思う。
ココでは、その両方をブレンドさせたような作りをしている。
全体的にはメジャー調で、「A→A→サビ」という、聖子作品でも常套のシンプルなメロディ展開だ。
それぞれのパートもキャッチーで、なかなか覚え易い旋律である。
一方ではリズミカルな作りもしていて、歌い出し♪YOU〜 での唐突なリズムブレイクとか、♪Close up〜 や、♪存在感 大きな人ね〜 の箇所での"タメ"など、いろんな仕掛けを施してある。
覚え易いうえにノリ易い、曲作りに関しては文句なしだ。

歌詞は前作「色・ホワイトブレンド」の成功を受けて、大人びた内容になっている。
 ♪髪の滴が色っぽいでしょ〜 ♪過激なポーズしてあげる〜
などなど、異性を挑発するような"艶っぽさ"も全面に押し出している。
そこそこメロディに上手く言葉を嵌めこんではいるが、
 ♪人気をひとりじめよ〜 ♪恋の熱は〜 の部分がちょっと無理アリ。
しかし、全体のコンセプトが美穂のイメージ、リリース時の季節感と程好くマッチしていて、そんなに悪くない出来だ。

歌詞・曲はいずれも問題ないのだが、アレンジが今一つ。
聖子作品で常連の大村雅朗が担当しているが、同じ聖子で財津と組んだ「チェリー・ブラッサム」「夏の扉」のような派手さ・華やかさに欠けるのだ。
「クローズ・アップ」というタイトル通り、まるで焦点を絞ったかのように、タイトなサウンド作りをしている。
打ちこみ系だけどシンプルなリズムセクションだし、シンセ類は低音域で、ベースラインを強調していて、全体的に低音強調傾向だ。 それでいて、得意のブラスもおとなしめだし、コーラスも地味。
マラカスっぽいパーカッションの導入で、夏らしさを醸し出そうとしているものの、いつもの疾走感・高揚感が不足していて、物足りないアレンジだ。
♪存在感キラキラでしょ〜 と言われても、このアレンジのおかげで、存在感が希薄な作品になってしまった。
この作品、アレンジがもっとイカしてたら、彼女の代表作に成り得たのでは?

(1999.12.28)

 

JINGI・愛してもらいます

作詞:松本隆 作曲:小室哲也 編曲:大村雅朗


 意欲作だが、結果としてはツッパリ歌謡の"徒花"

作曲に小室哲也が起用された。
渡辺美里「MY REVOLUTION」の大ヒットを受けて、一躍コンポーザーとしての注目が集まった直後の作品。
それも相手が、売りだし中のトップアイドルとくれば、否が応にも力は入ろう。
そういう意味では、TKにとって重要な作品だったハズ。

で、曲だが、「MY〜」同様のメジャー系。
しかし、「MY〜」で見られた斬新さ・TKらしさはあまり感じられない、オーソドックスな曲だ。
でも、音域のアップダウンが激しく、リズムを強調した作りであるのは、お馴染みの"コムロ調"ではあるかも。
アレンジはTKではなく、大村雅朗。
手弾き系楽器で音作りをしているものの、シンセ類の多用で、全体としてはテクノポップ調。
このシンセがかなり凝っていて、賑やかなリズムセクションと相俟って、どこかコミカルなサウンドに仕上がった。
このアレンジ、他人任せであるにもかかわらず、機械的な音作りが曲以上に"コムロ的"なのが不思議。
まさか当時は、サウンド作りで主導権持つほどの権力は、哲にぃさんには無かっただろうし。

歌詞は「BE-BOP-HIGHSCHOOL」の系譜で、"ツッパリ"がテーマ。
もう"ツッパリ"は卒業したかと思いきや、いきなりの回帰。
この歌のリリースは、前作との間隔が2ヶ月で、次作との間隔が僅か1ヶ月。
緊急リリースの感が強いが、タイアップとか一切無かったように記憶している。
となると、これは彼女に"ツッパリテイスト"を強く求める、熱心なファンへのサービス?
そう考えると、この"ツッパリ"への回帰は納得がいく。

で、内容もサービス精神たっぷりで、"これでツッパリは見納め!""在庫一掃処分!"と言わんばかりの現品大放出ぶりだ。 今回も「BE-BOP〜」同様、自分はツッパリじゃなくて、相手がツッパリ。
ココでのツッパリ君は、「BE-BOP〜」の不良とは違って、
 ♪月面で宙返りした顔〜 ♪眼差しをナイフみたいに鋭くして〜 ♪眉間には縦皺深く刻み込んで〜
といった具合に、問答無用のヤンキーである。
一方、主人公も「BE-BOP〜」とは異なり、母性的ではなく、学園のマドンナ(?)的な大姉御。
 ♪腕ずくで抱き寄せるならひっぱたくから〜 ♪コラ少年聞いてるの〜
相当気が強いが、美穂のキャラとはまぁまぁ合ってるかも。
テーマは「斜に構えて強引に自分を口説くヤンキーに対する戒め」。 中森明菜「十戒」以上の手厳しさ。
しかし、そんなにおっかなくは無く、結構コミカルに描いている。
サウンドのコミカルさも含めて、「BE-BOP〜」以上に、こっちのほうがマンガ『BE-BOP〜』に近い雰囲気。

それにしても、このベタベタなツッパリ描写。
ここまであからさまに"ツッパリ"をテーマにした女性アイドル作品は、これがラストだろう。
しかし、あくまでも明菜的"ツッパリ歌謡"に属する事を避けて、独自の"ツッパリ歌謡"を構築しようと模索した松本。
意欲は買いたいし、作品の出来も上々なのだが、いかんせん時代が遅すぎた。
歌詞でも言ってるように、当時既に ♪ツッパリは時代遅れの見本〜 だったのだ。
結果、コテコテな松本流"ツッパリ歌謡"は定着することなく、松本自身、後の立花理佐などでは、明菜的"ツッパリ歌謡"に改宗を余儀なくされる。 「BE-BOP〜」がツッパリ歌謡の"外伝"なら、こっちは"徒花"といった感じだ。

(1999.12.28)

★ 追記 ★

「ツッパリへの回帰?」とか云ってたら、実はこれ、映画『BE-BOP HIGHSCHOOL』のテーマソングでした(^^;
sachiさんをはじめ、数名の方から御指摘いただきました。 ありがとうございます

 

ツイてるね ノッてるね 

作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:大村雅朗・船山基紀


 中山美穂・筒美京平、それぞれに新境地を開拓

「色・ホワイトブレンド」同様、コレも化粧品のCMソングだ。
それにしても、86年資生堂キャンペーンで、春・秋の両キャンペーンを制覇するとはスゴイ。
この活躍振りこそ、まさしく「ツイてるね ノッてるね」だろう。
それはともかく、この作品、化粧品コマソンらしい"いかにも"なあざとい企画性が希薄だ。
言われなければ、化粧品のCMソングだとは気づかないだろう。
見方を変えれば、このあたりから"いかにも"な化粧品コマソンは流行らなくなってきた、と言えるかも。

で、その歌詞だが、主題は「イイ女の自意識過剰なナルシスぶり」。
化粧品コマソン的な色合いは薄いものの、この無意味な主題はCMソング向きではある。
のっけから ♪Lucky Girl〜 という無意味さ。 インパクト重視で、この際、内容はどうでもいいのだろう。
とりあえず、作品世界は阿木耀子的だ。 ♪鏡に見知らぬ私・・・女だわ〜 等、そのまんまである。
こうした自意識過剰で屈折したフェミニズムは、化粧品そのものの意味と共通しているかも。
この女性像を構築するのが、女流作家ではなくて、オッサンの松本隆であるという事実も、よくよく考えたらスゴイ!
・・・・というか、怖いよ。

曲・アレンジ、共にサウンド面は「C」の系譜だ。
「C」をベースに、より派手に、よりファンキーに、よりダンサブルに発展させたのがこの作品だろう。
曲作りは「C」以上に凝っていて、♪見知らぬ私・・・女だわ〜 の"タメ"や、サビでヴォーカルがオーバーラップするあたりなど、いろいろ工夫している。
しかし、リズム隊を乗せる前の段階で、かなりノリ易い曲作りをしているおかげで、「C」よりは歌い易いメロディだ。
アレンジも一流どころの共作なだけあって、かなりの出来映え。
シンセ類の多用、打ちこみ系のリズムセクションは、「C」を継承しているが、加えてSEの使用、デッド・オア・アライブ的な男性コーラス、活きのいいギター、多種多様なパーカッションなどなど、「C」以上に趣向を凝らしている。
とにかく派手なサウンドで、音作りに関しては、美穂の作品中トップクラスだろう。

この作品で完成された"打ちこみ系のファンキーサウンド(?)"は、筒美自身よほど気に入ったのか、美穂の「派手!!!」でも流用し、さらに、ユーロビートを軸とした形で再構築し、少年隊・田原俊彦、そして美穂の「WAKU WAKU させて」へ繋げていく。
筒美にとって最重要作品であると同時に、美穂(というかスタッフ)もこのファンキー路線がお気に召したのか、今後、筒美以外の作家とも組んで、「CATCH ME」「Rosa」など、あれこれ趣向を変えて、この手の作品を多作することになる。
この成功が二人にとって、それぞれに新境地を開拓した結果となったのは興味深い。

(1999.12.28)

 

WAKU WAKU させて

作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀


 ウンドの完成度に対して、歌詞の凡庸さがイタい作品

前項で述べたように、「ツイてるね ノッてるね」で完成された"打ちこみ系ファンキーサウンド"を、ここではユーロビートを下敷きに再構築している。 モチーフとなった作品は、ラナ・ベレー「ピストル・イン・マイ・ポケット」。
まずは曲だが、前作同様にアップテンポなマイナー調だ。
曲自体に洋楽っぽさは、あまり感じられない。 むしろ、ドメスティックと言ってもいい。
彼女には珍しい、頭サビで始まる曲なので、余計に"歌謡曲然"と感じるのかもしれないが。
リズムも「C」「ツイてるね〜」とは根本的に異なり、やはりユーロビートに乗り易いようなメロディに仕立てている。

アレンジは相当に凝っている。
打ちこみ系なのは当然だが、SEの多用、パーカスの多彩なオカズなどが加わり、細密なリズムセクションだ。
シンセ類もふんだんに取り入れ、コーラスワークも丁寧だし、とにかく趣向を凝らしている。
しかし、全体をハデハデにしているのではなく、パート毎にカラーを変えているのがポイント。
聴き続けているうちに、次から次へといろんな仕掛けが飛び出してくる感じだ。
「ディスコで踊りつづける」という、歌詞の内容とは裏腹に、むしろ遊園地・ゲーム感覚。
その点は、小泉今日子「迷宮のアンドローラ」に通じるものがある。
そういえば、全く同じ作家陣だ。 とにかく、全くリスナーを退屈させない、見事なサウンド作りだ。

歌詞は、「何もかも忘れて、一晩中踊ろうよ!」というのがテーマ。
♪頭ん中Upside-down 空っぽに消去して〜 とか言ってるけど、ホントに無内容だ。 見事な空っぽぶり。
この作品世界の"どうでも良さ"加減は、「ツイてるね〜」以上だろう。
まぁこの作品はサウンド重視で作られたのだろうから、歌詞がメロディに嵌まっていて、聴覚の邪魔にならなければ、それでイイのだろうけど。
その点も「迷宮の〜」と同じだが、あっちのほうがコズミックでSFチックだった分、個性はあった。
それに対して、コレはただ幼稚で凡庸なだけ。

かようにこの作品は、見事な"ユーロビート歌謡"の傑作となった。
前作以上の出来栄えで、サウンド面では美穂の真骨頂とも言える完成度だ。
これで歌詞にもっと内容・個性があれば、パーフェクトだった。
松本の才能であれば、それが可能なハズなのに・・・・残念。

このあたりになると、美穂の楽曲制作に関する主導権は、完全に松本から筒美にバトンタッチされた感がある。
松本自身、作詞業のみならず、この頃になると小説執筆・映画制作など、別ジャンルでの活躍が目立ち始めた。
美穂を手掛け、それが成功したことで、歌謡曲に対する執着が失せたのだろうか?
それはともかく、松本・筒美の両御大に、それぞれ力量のあるうちに目をかけてもらえた彼女は、まさしく"Lucky girl"だった。

(1999.12.28)

 

「派手!!!」

作詞:松本隆 作曲:筒美京平 編曲:船山基紀


 大きな犠牲の上に成り立つ、見事なサウンド

前作「WAKU WAKU させて」は、フジテレビ系ドラマ『なまいき盛り』の主題歌で、今回はTBS系ドラマ『ママはアイドル』の主題歌。 どちらも美穂の主演で連続モノだ。
間に日本テレビ系『セーラー服反逆同盟』を挟んで、3クール続けて主演を張って、しかも、自分で主題歌までこなすという活躍ぶり。 いかに当時の美穂人気が凄かったを、如実に物語っている。

それはともかく、まずは歌詞。 主題は「不相応に"イイかっこしぃ"な彼氏の暴走をたしなめる」といった内容。
ドラマとは全く無関係なテーマだ。 しかし、ドラマ主題歌ということを意識したのか、結構企画色の強い仕上がり。
タイトルからして「派手!!!」と来ている。 なんなんだ、この( 「 」 )( !!! )は。
シブがき隊か? うしろゆびさされ組か? 詞の描写もかなりコミカルだし。
秋元康っぽい作風なのが気になるが、同じドラマ主題歌でも「WAKU〜」よりは断然面白い出来ではある。

曲は"歌唱重視"ではなく、完全に"サウンド志向"で作られている。
「ツイてるね〜」「WAKU〜」とは異なり、メジャー調。
全体の構成は「A→B→A→B'→サビ」となっているのだが、サビ以外はそんなにキャッチーではない。
とてもリズミカルで、ノリ易くはしているが、非常に独特な旋律だ。
符割りが細かい、音域の移動が激しい、というよりも、音程そのものが取りづらい作りになっている。
ノリはいいが、歌い易いメロディではないのだ。
しかし、サビメロは凄くキャッチーで、おいしいサビを引き立てるかのような曲作りだ。
アレンジは、さすがに"サウンド偏重"で曲作りをしただけの事はあって、ものすごく充実している。
「ツイてるね ノッてるね」同様、打ちこみ系のファンキーなサウンドだ。
快活なリズムセクション、ブラス系・シンセ類の多用、目いっぱい力の入った女性コーラス、思い付く限り導入したかのような、パーカス系のオカズなどなど、文字通り"派手!!!"な仕上がり。
サウンドの完成度では、「WAKU〜」と双璧を成す出来映えかも。

で、こうした"歌い手不在(?)"なサウンド作りをした結果、歌唱はイマイチ。
A・B・B'メロの部分は、ディスクで聴いても、全然上手く歌えていない。
もし「採譜してみろ」とか言われても、絶対出来なさそうな、微妙な音のハズし方。
♪カー・ラジオに合わせてる 音符がほら風に舞うわ〜 とか言ってるけど、「おいおい、自分だろ自分!」って感じだ。
しかも、曲が進行していくにしたがって、だんだん息絶え絶えになっているのが不思議。
特に2番のサビに至ってはボロボロで、とてもサビを引き立てるどころの騒ぎではない。
ディスクなのに、なんでだろうか? 一発録りか?生録りか?
まぁいずれにしても、これはホントに難しいメロディだろう。 彼女には同情します。

この作品、完全なサウンド重視型で楽曲制作されていて、非常にクウォリティの高いサウンドを聴かせてくれるが、その見事さも、歌唱の代償で成立している事を考えれば、素直には評価できないだろう。
傑作ではあるが、ちょっと美穂には難しい作品だった。
「メロディ&歌唱」を取るか、「メロディ&アレンジ」を取るかで、意外と評価・好き嫌いが分かれる作品かもしれない。

(1999.12.28)

 

50/50

作詞:田口俊 作曲:小室哲也 編曲:船山基紀


 歌謡界では珍しい、ラテンとテクノの異種交配

これまで美穂の楽曲制作において、陰日向で主導してきた松本隆が、この作品から完全に外れる。
"松本学校"を卒業した第一弾の作詞は、田口俊が起用された。
過去には原田知世「どうしてますか」のヒットがあったくらいで(たぶん)、ソレ以外は余り目立った実績の無い新進作家を起用するとは、"ブレーン・松本隆"が抜けた大事な時期であるにもかかわらず、思い切った采配である。
しかし、この作品と、同時期の南野陽子「パンドラの恋人」が成功したおかげで、一躍田口は注目を集める結果となった。

で、その歌詞だが、「夏の水辺(海?プール?)で、プレイボーイとの恋の駆け引きを楽しむイイ女」が主題。
「ツイてるね ノッてるね」とも共通するテーマだが、むしろ中森明菜「サザン・ウィンド」に近いかも。
リゾートっぽさは希薄だけど。 当時の美穂にしては不相応に大人びた内容だが、
 ♪ばかにしないで子供じゃない〜 と、"背伸び感"を強調する事で、違和感を相殺している。
まぁ平たく言えば、それほど見るべき点は無い、割りとありがちな歌詞なんだけど。

作曲には、再び小室哲也が起用された。
「JINGI・愛してもらいます」では、曲作りの面で、正直それほどTKらしさが開花していなかったのだが、1年経って今回は、ようやくあの独特な"コムロ節"が堪能できる仕上がりとなった。
で、その曲だが、メジャーとマイナーが複雑に絡み合ったメロディだ。
後の、篠原涼子「恋しさと 切なさと 心強さと」にも通じる曲作りで、いかにもTKっぽい。
頭サビで始まるのも「恋しさと〜」と共通しているし、音程の上下移動が慌しいのも"コムロ的"。
ただしキー設定は、「恋しさと〜」に比べると、さすがに美穂に合わせて低めにしている。
アレンジはカリビアン・テイスト。
おそらく、今回の楽曲制作においては、先にサウンド作りをしてから歌詞を乗せたものと思われるが(たぶん哲にぃさんは、詞先で曲作りできないだろう)、曲自体にラテンっぽさは無いのに、いきなりのカリビアン。
何故? かなり強引な発想だ。 主題だけ先に決まっていたのか?
特にAメロ部分は、リズムそのものをカリブ風に変化させてまでの強行手段。
全体的にも、ラテンテイスト溢れるパーカスのオカズ、独特なブラス系などで、カリブっぽさを強調。
まぁ嵌まっているのが凄いけど。
しかし、こうしたサウンド作りを、手引き系楽器ではなく、打ちこみ系・シンセ類主体でこなしているのが面白い。
結果、"ラテン・テクノ歌謡(?)"とでも呼ぶべき、興味深い作品に仕上がった。
テクノとラテンの融合というのは、ヨーロッパやUKモノではいくらか存在したけど、日本の歌謡曲では結構珍しいと思う。 でも、聴いてる分には違和感ないし、まぁまぁの出来映えでしょうか。

それにしてもこの作品、「JINGI・愛してもらいます」同様、TKアレンジでは無いのに、またしてもテクノ調だ。
美穂でテクノ系楽曲になると、哲にぃさんに御鉢が廻ってくるような感じ。
その人選は正しいけど、あくまでも曲しか任せてもらえないのが不思議だ。
テクノ系のサウンド作りをするなら、TKがアレンジも手掛けたほうがスッキリすると思うが。

(1999.12.28)

 

CATCH ME

作詞・作曲・編曲:角松敏生


 筒美派閥とは一味違う、斬新な「ファンキー・ユーロビート歌謡」

今回、作詞・作曲・アレンジ、全てを角松敏生が一人で担当。
職業作家を完全に排除した楽曲制作というのは、おそらく美穂の「脱・アイドル計画」の顕れだろう。
しかし何故、角松敏生なのか? TKにも任せなかった"楽曲制作一任"という大仕事を、何故角松に?
過去にシングルB面、およびアルバムで、彼は作品提供しているから、その実績を買われたのか?
まぁそれはともかく、そもそも、角松自体が僕にとっては謎だらけだ。
僕が彼の歌をほとんど聞いた事が無い、ってのもあるけど、それ以上に存在が独特。
自身のヒット曲なぞ皆無にもかかわらず、90年代に入ってからも、『VOCALAND』と称したプロジェクトで、多数のガールポップ群をプロデュースしたりして(ただし、全部不発)。
さらに、唐突な『ユニマット』のCM出演や、長野オリンピックの「WAになって踊ろう」とか、時代の要所要所で顔を出すという、その実績を鑑みると過剰とも思える「VIP待遇」「チヤホヤぶり」が、事情の判らない僕にとっては、どうにも理不尽なのだ。 何ら前説無しで、事後承諾のような形で、いきなり"大物然"とした立ち居振る舞いを見せられても・・・・
「それほどのモンなのか?」って感じ。

まぁここで角松の事ばかり考えてもしょうがないので、まずは曲。
マイナー調でアップテンポだけど、起伏は乏しい。 サビもそんなにキャッチーではないし。
しかし、この起伏に乏しい旋律に歌詞が乗っかると、とたんにリズム感が出てくるのが不思議。
角松といい、玉置浩二といい、歌い手が曲作りをすると、時折こういう作品が産まれるのは興味深い。
歌謡曲らしくない出来で、職業作家には難しいだろう、こういうのは。
アレンジは打ちこみ系のディスコサウンド。
ファンキーさが「ツイてるね ノッてるね」と共通するが、基盤はユーロビート調で、むしろ「WAKU WAKU させて」に近い。
もっと具体的に言えば、筒美調というよりも、デッド・オア・アライブ的な打ちこみサウンドに、ブラコンっぽいファンク味を加えた感じか。
全編リズムを強調した作りで、結構凝ったリズムセクションだが、同じセクションのまま、最後まで突っ走る。
そういう意味では仕掛けに乏しく単調なのだが、フェイド・アウトで終わるのは彼女には珍しいかも。
しかし、ファンク味溢れるコーラスが非常に充実していて、コレにサックスソロ・シンセ類などが加わり、ファンキーなフィーリングは十二分に醸し出されていて、退屈することは無い。
曲と合わせて、サウンド面はなかなか格好イイ仕上がりだ。

歌詞は難解。 主旨が今一つよく判らない。
そんなに難しい言葉を使っているわけではないのだが、どうも主人公は、「惰性で生きてきた日常に、ピリオドを付けたい」・・・らしい。 で、そうした心境を、「夜の街で踊りつづけることで表現している」・・・らしい。
だから、「あなたにもこの気持が判るでしょ?」と啓蒙したい・・・らしい。
う〜む、精一杯深読みしても、この程度しか解析できない。
まぁコレもサウンド主体で楽曲制作されたのだろうから、「細かい内容なぞお構い無し!」なんだろう。
とりあえず雰囲気重視で、大人のイイ女っぷりさえ出ていればOK!ってトコか。

結果、これまでのアイドル歌謡とは一味違った、斬新な「ファンキー・ユーロビート歌謡(?)」に仕上がった。
主題の不透明さが気になるが、「WAKU〜」と比べれば、幾分マシかも。
歌謡曲的な俗っぽさが希薄な上に、適度な大人っぽさもあるし。
前作「50/50」でのアイドルっぽさと、次作「You're My Only Shinin' Star」のアダルトさを、上手くブリッジする作品となった。

(1999.12.28)

 

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