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◆ 凡作だが、男性歌手による和製ボサノバのヒット曲は貴重 五十嵐浩晃といえば、何と言っても「ペガサスの朝」(オリコン3位/42.3万枚)が有名だが、私は「ペガサス〜」よりも、この「愛は風まかせ」が好きだったので、今回はこちらを取り上げたい。 曲は「A→A’→B→A’」というシンプルな構成で、マイナー調が軸だが、Bメロはメジャー加味。 アレンジは物憂げな旋律を生かすべく、アコギ・ラテンパーカッションを主体にシンコペーションを刻むという、ボサノバ・タッチ。 これにフルート(?)、女性コーラス、エレキギターが加わり、サウンドに厚みを与えている。 歌詞は主題を特に設けておらず、なんとなく気だるい雰囲気が出ればイイかな?といった按配。 この作品、結構ファッショナブルで、ムード溢れる楽曲ではあるが、傑作と云うレベルでも無い。 五十嵐は「ペガサス〜」以降、コレといったヒットに恵まれず、地道に音楽活動を続けていたものの、一発屋の典型として世間には認知されてしまったようだ。 (2000.7.29) |
◆ 原曲をベースに個性を出す事に成功した、洋楽カバーの理想形 元々アイドルとしてデビューした小林麻美であるが、70年代中盤以降は活躍の場をモデル業へとシフトし、80年代になると女優業との両立で、「同性が憧れる女性」の代表格として注目を集めるようになり、こうして再脚光を浴び始めた頃に、およそ8年ぶり(!)でシングルリリースされたのがこの曲である。 曲構成はオリジナルをそのまま流用していて、「A→B→C」の構成で、Cメロがサビ。 一方アレンジだが、旋律そのものは元歌に倣っているし、イントロでのシンセ音こそ違えど、打ちこみ主体に生ピアノ加味という、楽器構成もリズムセクションも元歌にほぼ倣っている。 小林盤の訳詞はユーミンが担当しているが、元歌の大意を大まかな骨組としながらも、独自性をキチンと発揮している。 また、小林の歌唱が、こうした訳詞の特性を遺憾無く発揮させてるように思える。 この作品、サウンド・歌詞の両面で、元歌をベースにしつつ、全く異なる個性を醸し出す事に成功している。 (2000.8.2) |
◆ 退廃したデカダンス漂う、香気溢れたイタリアンポップス 「雨音はショパンの調べ」ついでに、オリジナル歌手であるガゼボも一曲。 曲は明かに「アイ・ライク〜」の系譜であり、「A→B→サビ」という構成も同じだし、A・Bメロはメジャー調だが、サビはマイナー加味して哀愁漂うという曲想も前作同様。 「アイ・ライク〜」が中学生の英作文の如く、稚拙な歌詞だったのに対し(いかにもヨーロッパ人が作った英詩って感じ)、こちらの歌詞は難解。 この作品、優雅なサウンドに載せて、エグい官能を"怪奇"をモチーフに表現している風情で、洋楽全体を通しても珍しいコンセプトだと思われる。 一種の退廃的なデカダンスであるが、やっぱりヨーロッパならではの感性という気がする。 それから、先述のアルバム『幻想のガゼボ』であるが、収録曲はいずれも似通った作風ばかりである。 (2000.8.4) |
◆ ある意味、和製フレンチポップスの正解とも云える作品 "和製シルヴィ・バルタン"をキャッチフレーズに掲げ、昭和40年、直球勝負にバルタンのカバー「私を愛して」でデビューした奥村チヨであるが、第1弾は小ヒットに留まり、オリジナル作品となる、第2弾「ごめんネ・・・ジロー」でブレイクを果たした。 まず曲は「A→A'→B→A''」という珍しい構成で、全編メジャー調のバラードタッチ。 歌詞の主題は、愛しいジローへの求愛であるが、コレといったストーリー展開は無く、ただ闇雲にラブコールを送ってるだけ。 アレンジはドラム・ベース・チェンバロを主体に、スウィングするムーディーなテンポを緩やかに刻み、コレにサックス・ピアノ・アコーディオン等がソフトに絡む按配。 この作品、サウンドや主題面で明かにバルタンを意識した向きがある一方、詩の描写やタイトル等では、相反して泥臭い雰囲気が漂う。 (2000.8.7) |
◆ ベンチャーズらしからぬ"低エレキ度数"で曲の良さが表出 「ごめんネ・・・ジロー」でブレイクを果たした奥村チヨであるが、名は上げたもののヒット連発とはいかず、2年後に発売された「北国の青い空」で、ようやく再ヒットの陽の目を見た。 作曲はなんとベンチャーズで、原題が「Hokkaido Skies」(!)という、要するにカバー盤である(ですよね?書き下ろしじゃないと思う)。 歌詞は「空」「湖」「野バラ」をモチーフにして、一人の女が北国を舞台に悲恋に浸る様子を描いている。 事実、アレンジも、この独特な歌唱を邪魔しないよう配慮されている。 エレキ歌謡の名作として名高い「北国の〜」であるが、サウンド面でのエレキ度数は低く、ベンチャーズ名義がなければ、エレキ歌謡として成立すらしないだろう。 ベンチャーズブランドに目くらましされてしまうが、魅力の本質は優れたメロディラインと、独特の歌唱である。 (2000.8.8) |
◆ 洗練されたサウンドと、屈折した官能の見事な融合 「北国の青い空」で久々にヒットを放った奥村チヨであるが、コレ以降、「涙いろの恋」(オリコン21位/11.3万枚)の小ヒットはあったものの、チャート上では再び低迷。 大雑把な曲構成は「A→B→C」で、全編マイナー調。 サウンドだけでも相当ハイレベルであるが、最も優れているのは歌詞だろう。 ♪あなたの膝に絡みつく 子犬のように〜 ♪だからいつもそばに置いてね 邪魔しないから 悪い時はどうぞぶってね〜 ♪右と言われりゃ右向いて とても幸せ〜 NHKでは放送禁止の憂き目に遭ったという、当時としてはインモラルなエグい内容ながらも、どこか文学的香気が漂い、凄く深みのある歌詞だと思う この作品、キャッチーな曲・洗練されたアレンジ・画期的な主題と、全ての面で水準の高い、高品質な作品である。 それらに加えて、奥村が主題の屈折した官能を、歌唱で上手く表現してると思う。 (2000.8.12) |
◆ 百恵のボツ作品? だとしたら、これは有効な廃物利用 今回ご紹介したいのは、第1回「ホリプロ・タレント・スカウトキャラバン」準優勝者である、荒木由美子。 そんなA級だかB級だかハッキリしない荒木であるが、この作品はスタッフを見ても判るように、先輩の山口百恵を意識した楽曲で、少なくとも作品の出来に関してはA級レベルに仕上がった。 アレンジは馬飼野康ニで、宇崎同様、百恵作品を数多く手掛けているが、シングル曲で宇崎と組んだ事は無い。 作詞は阿木耀子で、テーマは「斜に構えたオンナの、粋がった恋愛模様」(?)とでも云うべき内容で、阿木得意の世界だし、百恵作品とも共通している。 でも、その分、百恵よりもやや若い、荒木にはフィットする歌詞ではある。 冒頭で述べた通り、私はコレ以外、彼女のシングルは覚えていないのだが、以降もこの手の百恵路線で攻めて行ったんだろうか? 湯原昌幸との結婚後は、百恵とは対照的に、夫婦揃ってTVに出て円満ぶりをアピールしていたけど。 結局、私は荒木由美子に対して、歌手業のみならず、タレントとしてもさほど印象に無いわけだが、それでも今回彼女を取り上げたのには理由があって、それは「何故『スカウトキャラバン』で荒木が準優勝で、榊原郁恵が優勝したのか」、その裏事情をココでお伝えしたかったからである。 全国各地で素人のオーデションを行い、その代表を東京に集めて決戦大会をテレビで中継するという企画が芸能界の話題を呼んだ。 もちろん、優勝者はホリプロの新人タレントとして売り出すわけだが、別に副賞として、百万円の現金とヨーロッパ旅行、さらに正月の山口百恵主演映画に出演させるという条件がついていた。 当時、ぼくは百恵映画の座付作家の立場にあったから、審査員として出席した。 会場は中野の「サン・プラザ」であった。 審査の結果、二人の少女が残った。 榊原郁恵と荒木由美子であった。 審査員の一人、平尾昌章委員は歌の上手い荒木を推薦したが、ぼくは動きの良い榊原を推した。 平尾委員はレッスンを引き受けてもよいと、荒木に太鼓判を押したが、彼女は九州の出身で強い関西なまりがあったので、すぐには映画には出せないとぼくは反対した。 それに引きかえ、榊原は生き生きとした動きが現代的ですぐにも映画に出せると主張した。 ついに社長裁定ということになり、堀社長は「必ず映画に出すという公約があるので、榊原郁恵にきめよう」と決断した。 そして荒木は審査員賞のかたちで準優勝ということになった。 ところが、肝心の正月映画の企画は二転三転して、『春琴抄』に決まった。 これは関西が舞台の物語である。 ちょうど、手頃な少女の役があったのだが、郁恵をそれにあてるわけにはいかなかった。 当時の郁恵は丸々と太っていて、和服も髷もまるで似合わないのであった。 扮装をしただけでスタッフが笑い出してしまう始末で、困ったすえ、ぼくは彼女を春琴の生徒で、友達と一緒にただコロコロ笑いころげるだけの役にした。 一方の貧しい少女の役は、児童劇団から関西弁の喋れる少女を探さなければならなかった。 荒木由美子にしておけばぴったりだったのになぁ、とつくづく後悔した。 その後の榊原郁恵の大活躍を見るにつけ、ぼくは複雑な心境であった。 ちなみに、この『西河克己映画修行』であるが、氏は百恵以外にも、浅丘ルリ子・吉永小百合・舟木一夫・小泉今日子など、あらゆる役者・アイドルと仕事をしており、こうした彼らの裏話やエピソードが満載で、非常に面白いです。 (2000.10.21) |
◆ おニャン子クラブの先駆者、ビッグ・マンモスの代表曲 今回ご紹介する"ビッグマンモス"であるが、名前だけ聞いてもピンと来ない方が多いと思うので、このグループについて説明します。 まず曲は「A→B→C→D」という構成で、メジャー調を軸としながらも、ややマイナー調が加味。 アレンジもすぎやまが担当しており、「銀河〜」と同様、ストリングスのイントロで幕を開ける。 こうした了見は歌詞の面でも大いに反映されている。 今作は珍しくロマンティックな作風で、"元気路線(?)"の多いビッグ・マンモスにとっては異色に属するが、その分、美しいハーモニーが堪能出来るし、旋律自体も甘美という、文句無しの音作りである。 ここで楽曲とは別に、私が重要視している点があって、それはビッグ・マンモスの後世に与えた影響である。 (2000.11.3) |
◆ 百恵フォロワーというよりも、明菜路線を先取り(?) 昨年、Pヴァイン・レコードから『お・し・え・て・アイドル』というコンピレーションCDが発売された。 作詞は女性アイドルにも多数楽曲提供している阿久悠。 ♪死んだ蝶を見つめながら さめた愛をピンでとめて 心を翔ばしている〜 少々エグいながらも卓越した描写で、さすがの安定ぶりである。 作曲の奥慶一は、後に高橋真梨子「桃色吐息」(編曲)・岩崎宏美「決心」(作曲)など手掛けており、エキゾティックなサウンドには定評のある作家で、今回は一応スペインをテーマに据えているのだから、フィットした人選である。 この作品、異国情緒漂うサウンドに大人びた主題という、「美・サイレント」「謝肉祭」辺りの山口百恵を意識したであろう事は誰の目にも明白。 ところで、田中といえば当代随一の人気女優で(まだ一応)、今や大御所とも呼べるベテランであるが、「スペイン〜」発売時は御年24才の新進女優であった。 (2001.05.02) |
◆ 歌手ならではのソングライティング術が冴え渡る傑作 先日、田中美佐子「スペインへ行きたい」を取り上げたが、それ以外にも『お・し・え・て・アイドル』シリーズには興味深い音源が幾つも収録されており、この「デジタル・ナイト・ララバイ」も、そんな筆者の琴線に触れた一曲である。 作詞・作曲の伊藤薫はシンガーソングライターで、欧陽菲菲「ラブ・イズ・オーバー」の作者として有名だが(伊藤も競作)、甲斐智枝美・香坂みゆき等、アイドルにも多数楽曲提供している。 こうした個性は、実際に石坂の歌唱を聴けば一目(聴)瞭然。 歌詞の主題は「大人びたアバンチュールに戸惑う、勝気でウブなお姐ちゃんの心模様」で、曲に見合ったテーマだと思うが、描写は凡庸。 大村のアレンジは、伊藤の曲・詩に忠実に追従している。 この作品、当時の流行だった"デジタル"にこだわり過ぎて、タイトルやコンセプトはかなり痛いのだが、メロディが単調ながらも随所にメリハリが利いていたり、詩も描写が平凡ながらもゴロだけは良かったりと、伊藤のソングライティング術にシンガーならではの資質が随所に垣間見えるのが非常に興味深い。 (2001.05.05) |
◆ 斬新さは無いが、大胆な方針がインパクトを与える異色作 レアな音源が多数復刻された「お・し・え・て・アイドル」シリーズ(引っ張る引っ張る)。 作詞の故・安井かずみは女流作家の大御所で、手法としては主題を捻らず忠実に表現するタイプである。 作曲は安井のダンナ、加藤和彦。 それはともかく、上記の弱点は加藤も重々承知しているのか、自身によるアレンジも相当趣向を凝らしてはいる(演奏はムーンライダースだが)。 この作品、ムーンライダースがバックという事で、一部で「ニューウェーブ歌謡の傑作」との声も訊くが、サウンド的にシンセ等を導入してはいるものの、僕はそんなに斬新だとは思わない。 こんなに個性的な作品であるが、高見のビジュアルはそれを凌駕していた。 (2001.05.13) |
◆ 光GENJIの雛形(?)、男性アイドル史に残る画期的作品
先日、「2ちゃんねる」のジャニーズスレッドにて、拙サイトがネタとして取り上げられた。 まず「いなずまロック」の曲について。 構成は「A→A'→B→C」で、Bでマイナーコードが加味されるものの、他は快活なメジャー調で展開。 今作では「君に何かあったら僕が助けに行くから、安心したまえ」みたいな事を延々と綴っているが、この「僕」ってのが とまぁ、かようにBMと光GENJIの作風は似ているのだが、かと云って、各々グループの本質が異なる両者を結びつけるのもどうか?とは思った。 いくら大所帯同士とはいえ。 しかし、ジャニーズ系作品を俯瞰したところ、光GENJI以前に同系統の作品は見当たらないのだ。 (2002.06.18) |