脚本・「ポイント・ゼロ」

 

登場人物

アキラ:本編の主人公。ごく普通の高校生。

殺し屋三人組

社長:仕切りやさん。態度がでかい。

おかま:がたいのいいごっついオカマ。「エレガンス」がモットー。

メガネ::謎の暗視ゴーグル(らしきもの)と、アーマーで武装したケルベロスみたいな男。喋らない。

謎の男(ミズウチ):アキラを今回の事件に巻き込んだ張本人の仲間。

先生:アキラに零点答案を返した先生。実は某国スパイ。

母:アキラの母。

父:同父。

 

F.I

 

隠れ家らしきところにいる、殺し屋三人組。おのおのが勝手なことをやっていて、暇そうである。

電話が鳴る。

社長、めんどくさそうに取る。

社長「はい」

社長「これ通常回線ですよ」

社長「わかりました」

おかま「なんなのよ」

社長、無視して、電話。

社長、受話器を置き、

社長「仕事ですよ、皆さん」

メガネ、手入れしていた銃をがちゃりと鳴らす。

おかま「どんな仕事なわけ?」

社長「とある機密書類の奪還と、持ち主の始末、だそうです」

おかま「機密書類って、どんな?」

社長「それがわからんから機密なんでしょう」

メガネ、さっさと出動準備している。

メガネ「(ボソッと)ターゲットは?」

社長「追って連絡が来るそうだ」

そのとき、ピンポン、と呼び鈴なる。「郵便ですがア」

社長「そら来た」

メガネ、出ようとする。

社長「あなたは出ないの」

と言って、フレームアウト。玄関の方からやたら能天気に受け答えする、社長の声が聞こえてくる。

もどって来た社長が持っているのは、CDロムの付録つきダイレクトメール。

おかまに渡す社長。

おかま、封筒を破ってCDを取り出し、パソコンにセット。

パソコンをなにやらいじくると、標的の写真と、書類のコードネームが出てくる。標的はまだ高校生の少年である。

おかま、写真見て、「何よ、まだお子ちゃまじゃないの」

社長「こんな餓鬼でも、スパイの奪った機密書類の運び屋ってわけか」

おかま「本人は、自覚なんてしてないのかもよ」

社長「こんな若いみそらでねえ」

その言葉をさえぎるように、銃のスライドを引くメガネ。

おかま「デ、書類のコードネームって言うのが」

社長、おかまの傍らからキイをたたいて、

「えー、コードネーム…“ポイント・ゼロ”」

 

モニタに映し出された「.0」の文字。その文字がアップになって、タイトル。

 

その文字が、そのままテストの答案に書かれた「0点」の字にかぶる。

ところ変わって、ここは学校。

複雑な表情の、先生。

アキラ、答案を受け取って、「え」

 

F.O

 

モノローグ「俺は生まれて始めて、テストで零点を取ってしまった。」

自分の家の前ではいるのをためらっているアキラ。

アキラ、ボソッと「まずいよなあ…」

モノ「しかも、高校のテストなのだからなお悪い。もし、ばれたら良くて勘当、さもなきゃあ」

アキラ「半殺しだな…」

アキラ、大きくため息。

アキラ「ただいまあ…」

下の階、茶の間でで新聞を読んでいる母親。視線を新聞からそらさず、

母「アキラ、小包来てるわよ」

玄関はいったすぐのところの、下駄箱の上においてある小包。

アキラ、なにこれ、という顔で、それを手にとる。予想以上に重い。

母「あんた、テスト返されたんでしょ、今日」

返事が無い。

あれ、と新聞から顔を上げる母。しかし、視線の先にアキラはいない。

アキラが階段を昇る音がする。

 

アキラ、自室。

アキラ「ふう」

 

階下の母、テレビをつける。映し出されたのは、二時間モノのミステリーの再放送。

新聞のアップ、そこには「真昼に漂う殺意!美貌の人妻に仕掛けられた罠…犯人は再び現れる」

つまらなそうに見ていながらも、なんだかんだいって最後まで見ちゃう母。

 

アキラ自室。

学ランをいすにかけて、ひと段落、小包を見る。

裏返してみるが、差出人は書いてない。

アキラ「何これ」

包みをといて、中の箱を開ける。でてきたのは、なにやら重い包み紙にくるまれたもの。

がさがさ、とやって、出て来たのは銃と弾薬。

アキラ「オオッ」うれしそう。

箱のしたには、なにやらメッセージカードのごときものが。

アキラ、カードを見る。

そこには、「じぶんのみはじぶんでまもってください」

と書いてある。

アキラ「モンタナジョーンズかよ」

カードの裏に、簡単な地図と、「5:00にここ」とかかれたメモがあるのを見つけ、

アキラ「は?何だ?小学校じゃん、ここ」(ぽい、とベットに投げ捨てる)

ふーん、とか言いながら、銃をもてあそぶ陽。

弾を装てんして、スライドを引く。いい音がして、弾がチャンバーに入る。

アキラ「よくできてんなー」

ふざけて、壁に銃を向けてみる。

アキラ「(ふざけて)地獄であおーゼ。ベイビイ」

 

茶の間の母。ドラマ見てる。

そのとき、二階からバクチクのような(しかしはるかに大きい)音がする。(ばあん!)

続いて「オワアアアアッ!」というアキラの大声。

母、怪訝な顔して「何何々…」

と言いつつ階段を昇る。

 

アキラ自室。

ドアを開けて母登場。

母「あんた、何やってんの。」

母、目線がベットに投げ出された銃に行く。

母「あんたもいい年してねえ。近所迷惑だから外でやんなさい、外で」

すぐ後ろの壁の、弾丸によってぽっかりあいた穴には気付かない母。

アキラ「ううう、うん。はい。わかった。」

母「もう」

バン、と勢いよくしまるドア。

アキラ、脱力。

ベットの銃を見て、

アキラ「ほん・・・もの?」

泣きそうである。

壁の銃痕からは、煙が漂っている。

 

アキラの家の前に立つ、三人の男。例の殺し屋三人組である。

おかま「ここでいいわけ?」

社長「ここでしょ」

メガネ、無言で銃を構える。

 

茶の間。母がテレビを見ている。

そのすぐ隣の廊下を、どやどや通り過ぎる三人組。

最後の社長が、母に向かって

社長「お邪魔しマース」

母、目線をテレビからそらさず、

母「はーい」(誰が来たかわかってない)

 

アキラ自室。

呆けたまんまのアキラ。

とりあえず隠さなきゃ、と思い、銃をベットの中に隠す。

そこにどやどやと三人組が入ってくる。

我に返るアキラ。

アキラ「なに・・・?なに?なに?な」

いい終わらないうちに、メガネが無言で銃を突きつける。メガネは口元に人差し指で、「しー」

他の二人は、部屋の中を探し始める。

アキラ「あうあうあうぁ」

おかま「ないわねえ」

社長「おい、君」

アキラ、口パクで「(俺?)」

社長「そう、君。あのさ、機密文書って持ってない?」

アキラ「んんんん」(首をすごい勢いで横に振る)

社長「持ってなきゃいけないんだけどねー」

アキラ、大きく首を横に振る。

メガネ、「ふーーーーーーっ」と息を吐く。

アキラ、びびってメガネの方を向く。

おかま「あら、何かしらこれ」

と言って、机の上の、零点の答案を取る。

アキラ「ア、それは」

と言って、反射的にひったくる。

メガネ、すかさずアキラの額に銃を突きつける。

アキラ「ひい」

社長「それがそうなの?」

アキラ「はい?」

社長「だから、機密文書」

アキラ「はいいいいい?」(びびりまくってる)

おかま「ちょっと、よこしなさいよ」

と言って、アキラの手から無理やり答案を取ろうとする。

アキラ「ちょ…」

おかま「いいからよこしなさいってゆーの!」

無理に取ろうとして、ビリ。

答案の、点数の書かれた部分だけがアキラの手の中に残る。

社長「アッ!」

おかま「ああん、もう」

社長「何どうしたのもう」

おかま「・・・」

社長「あーあーあーあー」

おかま「ただのテストの答案よ」

アキラ、銃を向けているはずのメガネの目線が、二人にいっているのに気付いて、そおっと、ベットの銃に手を伸ばす。

そこにかぶって社長の声

社長「だってあなたねえ、それが暗号化された機密文書だったらどうするの?え?」

アキラの目線は、窓に移る。

アキラの行動に気づかず言い争っている社長とおかま。

おかま「はっつければいいじゃない。」

社長「それじゃダメなの」

おかま「どうしてよ」

アキラ、意を決して窓から飛び出そうとする。

メガネ「あ」

 

茶の間、テレビ見てる母親。

そのとき二階から銃声と、ガシャーンと、ガラスの割れる音。

母、憤然として立ち上がり、階段を昇りながら

母「アキラ!いいかげんにしなさい!何やってんの!」

と怒鳴る。

母、アキラの部屋まで行って、勢いよくドアを開けると、

「逃げられちゃったじゃないの、え?」とか言ってる三人組と目が合う。

ベットの上から「5:00にここ」のカードを拾うメガネ。

そのとき。

おかま「あら」

母「あら」

社長「おっ」

母「あの…どちらさまで…」

メガネ、無言で銃を構える。

母、叫ぼうと、大きく息を吸い込んだところで、

 

茶の間。誰もいなくて、TVだけがつきっぱなし。

二階から、ボグ!と言う音と、ドサ!と言う音。

 

階段をおりながら、

おかま「ねえちょっと、あのおばさんだいじょぶ?」

社長「大丈夫でしょう、ミゾだから」

おかま「ああ、ミゾ」

三人が階段を降りる音が、にやけたような顔でぶっ倒れて気絶している母親にかぶる。

 

外。

靴下のまま逃げているアキラ。靴下は、ガラスを踏んだので血で紅い。

アキラ「なんだよなんだよなんだよー」(半泣き)

 

おかま「どこいっちゃったのかしらねもう」

社長「あなたのせいでしょ?でしょ?どうしてくれんの、これから」

アキラ、無言でカードを差し出す。

社長「何これ」

裏をめくって、にやり。

 

アキラ、銃を持って走る、走る。

 

通りすがりの時計は4:30を指す。

 

アキラの家。

母親が警察に電話している。

母「だから!強盗ですって言ってるでしょう…いえ、何にも取られてませんけど……でも、窓が割られてて、その…拳銃!拳銃持ってたんですよ!……だから!息子の友達にはいませんよ!あんな人相の悪い連中は!…落ち着けますか!!…え?そりゃア、息子は友達をうちに連れてきたことは無いですけど。…は?サバイバルゲームですって?なんですかそれは。銃声がしたんですよ!…モデルガンじゃないですよ!…いえ、あの、本物は聞いたことないですけど…とにかく、今すぐ来てください!…え?・・・・・・・・なんですって!…なんですか!そのたいどは!もう結構です!!!!」

思いっきり受話器を置く母。

ふと、映りっぱなしのTV画面を見て、

母、回想「(新聞の)犯人は再び現れる!」

決意の母。

たなから何か探し出す。がっしと手に構えたそれは、南部鉄のすき焼きなべ。

 

アキラ「ひいひいひい」

走るのをやめ、あたりを見回す。

どうしようか考えて…

アキラ「警察…警察だ!」

時計を見ると、もう4:50である。

回想。「5:00にここで」

少し迷って、小学校の方に方向を変え、走り出す。

 

隠れ家らしきところの、三人組。

時計を見ているおかま。

おかま「もうすぐ五時よ」

社長「行きますか」

メガネ、無言で銃のスライドを引く。

 

夕方。アキラの自宅。

父親、帰る。

ドアに、カギがかかっているのに気付く父親。

父「誰もいないのかよ」

ポケットからカギを出して、ガチャガチャと鍵穴に差し込もうとする。(ここまでは外から写す)

玄関。それを、ドアのすぐ後ろで聞いている母親。夫だと気付かずに、すき焼きなべを構えている。

母「来たわね…」

がちゃ、とカギがあき、(ここまで母は側から)

外から。父が「ただいまー(独り言)」と家のなかに入る。

一瞬、なべを振り下ろす母のインサート。鬼のごとき顔で「!」

夕方の家。玄関から「ゴイン!」と言う音と、ドサ!と言う音。つづいて母の「あなたーーーっ!」

 

夕方、下校時刻の小学校。

帰り行く児童の流れに逆らって、一人校内に入ってゆくアキラ。

 

小学校の裏口、三人組が到着。

なにやら指示を出す社長、三人はばらばらの方向へ走り出す。

手にはそれぞれ銃を持っている。

 

三人組が来ているとも知らずに、校舎の中を散策するアキラ。

アキラ「なんなんだよ…」

一瞬、後者の廊下の暗がりに差し掛かったところを、闇の中から伸びた手が、アキラを捉えて闇の中に引きずり込む。

アキラ「!」

謎の男「しーーーーーーっ!」

アキラ、暴れてみる。

謎の男「違います!私は追ってじゃありませんて。差出人ですって。ね、おちついてくださいよ!」

アキラ、一瞬動きが止まる。

それを見計らって、男は抑えていた腕を緩める。

怪訝そうなアキラ。

アキラ「なんなんだ、あんたは…」

アキラ、尻の後ろにあるはずの銃に手をこっそり伸ばす、が、無い。

アキラ「あれ?」

銃は男が持っている。

男「ちゃんと持ってきてくれた様ですね、プレゼント」

アキラ、はっとなってあとずさる。

男「大丈夫ですよ、何にもしません。はい」

男、アキラに銃を返す。

ますます怪訝そうなアキラ。

すかさず銃を男に向け、

アキラ「説明、してくれるんでしょ?」

男、手をあげつつアキラの銃口を下に降ろし、

男「だから、なんにもしないって言ってるでしょ?」

男、銃を出す。

引き金を握るアキラ。

男、無言で銃のマガジンを出し、チャンバーの一発も出す。

マガジンをしまいつつ、銃をアキラに渡して、

男「丸腰ですよ、これで」

と言いつつ両手を上げる。

眼飛ばしつづけるアキラ。しかし、足は震えっぱなし。

男、それを見てにやりとしつつ、

男「じゃ、何から話しましょうかねえ」

 

校内各所を探し回っている三人組。

教職員と間違われる社長、

怪訝そうに見られるおかま、

児童生徒に「カッコイイ!」と言ってたかられるメガネ。

 

階段下の倉庫、男がアキラに成り行きを話し出す。

男「今日、あなた期末試験の答案返却日だったでしょ」

アキラ、なぜそれを、と言う顔をして、同時にいやなことを思い出す。

男「それで、担任のキシモト先生から、答案を受け取った、と」

アキラ、はっとなって男の事をにらむ。

男「別に、点数までは聞きませんよ」

アキラ、顔を下に落としつつ「(ボソッと)知ってるくせに」

男、無視。

アキラ「それとこの騒ぎと、何の関係があるんだよ」

男「……単刀直入に申しますと」

一呼吸おいて、

男「あなたのクラスの担任、キシモト先生は、東欧にある某国のスパイなんですよ」

アキラ「…はあ?」

 

三人組、校舎を一回りしてきて、階段の踊り場で鉢合わせする。

おかま「いた?」

メガネ、無言で首を横に振る。

社長「書類の受け渡しに、組織の方から一人、来てるはずなんですけどねえ」

おかま「もう終わって、帰っちゃったんじゃないの?」

社長「この小学校の周りの建物に、何人か隠れて監視してます。どこからでも、抜けだしゃすぐこっちに連絡が来るはずなんですけど」

と言いながら、腰に差した無線機をこんこんたたく。

 

倉庫。

男「信じられないのはわかりますが。でもあの先生、残業なんかしたこと無いでしょ。有休もいっぱいいっぱい取ってるでしょ。あれは別にあの先生が遊び好きだから、ってわけじゃないんですよ」

アキラ、もはやあきれている。

男「で、この前の休みのときに、かねてからその奪還が任務だった、とある機密書類を手に入れることに成功したんですよ」

アキラ「…奪還?」

男「今回の機密書類というのはもともと、わが国に所有権があるんですよ」

アキラ「なんだよ、日本人の癖に“わが国”って」

男「私、国籍は日本じゃないですよ。もちろん隠してますけど」

アキラ「どこの国?」

男「それはいえません」

アキラ「何で」

男が黙ってしまったので、アキラ、仕方なく続ける。

アキラ「で、その奪った書類と、俺のこのテストと、どういう関係があるのよ」

男「あなたの答案、ちょうどその点数書いてあるとこのワッカの中にですね」

アキラ「ワッカって…あんたやっぱり俺の点数知ってんじゃねえか!」

男、無視して「ワッカの中に、ミクロ文字で暗号化されたその文書内容が、特殊なインクで転写してあるんですよ」

アキラ、破れた答案をポケットから出して、明るい方にかざしてみる。(男には、あくまで見られないように)

男「ある特定の波長の光を当てないと出て来ません。出て来たところで暗号を解読しないと読めません」

男「ほんと、あなたが破った方が肝心な部分でよかったですよ」

アキラ、答案を無言で男に渡そうとするが、

男「まだ、それはあなたが持っていてください」

アキラ「やだよ、もう。こいつのせいで俺は」

男「まだ私には任務が残ってるので」

男、立ち上がって明るみの方へ行こうとする。少し明るくなって見えたその全身像は、ジャージにポロシャツ、と言う典型的な「小学校」の先生。

アキラ「何だよ、そのカッコ。スパイなんだろ、あんたも」

男「スパイがみんな黒いスーツにサングラスかけてるとでも思ったんですか。私、今回の任務のためにここに教師として潜伏してたんですよ。いい子達ですよ、私のクラスの子達は」

アキラ「スパイがよく言うよ」

男、かすかに笑って、「んじゃ」

アキラ「何しに」

男「あなたを追ってきた連中の“掃討”ですよ」

アキラ「ころ…すの?」

男「あなたも殺されかけたでしょ。私たちがやってるのはね、(真顔)“戦争”なんですよ」

男、ジャージのポケットから、先ほどの銃を出してマガジンを入れ、弾を装填する。

アキラ「あんた・・誰なの?」

男「ミズウチと申します」

アキラ「どうせ本当の名前じゃないんでしょ」

男、にやりと笑って、さっさと行ってしまう。

アキラ「…」(何か言おうとする)

 

職員室前

社長「わかりましたよ、組織の人間が」

おかま「写真あんの?」

社長「はいこれ」

運動会のとき、生徒と一緒に玉入れをしている、ミズウチの写真。

社長「三ヶ月前に、なぜか中途採用になってます」

開けっ放しの職員室から、他の教師が怪訝そうに覗いている。

おかま「だっさい男ねえ」

社長「スパイはだっさいからこそ勤まるんですよ」

おかま「ンじゃ、まずこいつからいきますか」

といった矢先、物音。三人が振り返ると、そこには写真と同じ男、ミズウチが立っている。手には、銃。

 

倉庫

アキラ、回想。

ミズウチ「この小学校の周りは、多分もう囲まれてるでしょう。私が帰ってくるまで迂闊に外に出ないようにしてくださいね。狙撃されますから」

アキラ「狙撃ってあんた」

回想終わり。

暗い倉庫の中で、一人ため息をつくアキラ。

 

誰もいなくなった廊下。

用務員のおばさんが使うような、大きな掃除用具入れのロッカー。

に、がたんと無造作に放り込まれるミズウチ。ボロボロ。

その前には、三人組。メガネが、ミズウチから奪った銃を弄んでいる。

もはや抵抗できず、しかし目は三人を睨んだままのミズウチ。

社長、銃をおかまに渡して、

社長「じゃあ、ちょっと聞いてきます」

といって掃除用具入れの中に入っていく。

がた、と閉められるドア。

タバコに火をつけて、一服するおかま。

 

もはや、日はどっぷりと暮れている。三人組のいる廊下だけに、電気がともっている校舎。あたりはうら寂しい。

 

倉庫

アキラ「……遅すぎる…よなあ」

こっそり、倉庫から顔だけ出すアキラ。どこまでも暗い廊下が続いているだけ。

 

掃除用具入れ・前

三本目のタバコを、廊下の床材の上に落とすおかま。

火の粉が散る。

そのとき、用具入れのドアが開いて、社長が出てくる。

その服が全然乱れてない。それでもエリをなおしつつ、

社長「なーんにも、教えてくれませんでした」

おかま「なにがあったは聞かないけどさあ、あんた、ほっぺたに血がついてるわよ」

社長「オオット。汚いな、もう」(拭う)

おかま「もっとエレガンスにやんなさいよ」

社長「余計なお世話です」

そんな三人を倒れたままでまだ睨んでいる、ミズウチ。さっきよりのズタぼろの血だらけになっている。

社長、そんな彼には目もくれず「行きましょうか」

三人、方向を変えて歩き出す、その矢先に、

社長「ああ、紅一クン、後始末よろしくね」

メガネ、立ち止まって、用具入れの中のミズウチに向き直り、こともなげに銃を構える。

睨むミズウチ。

 

校舎に響き渡る、銃声。

ミズウチの死体に、彼の持っていた銃をぽんと投げて返すメガネ。

 

銃声を聞いて、倉庫から顔を出してみるアキラ。

 

そのとき。暗い廊下に放送が入る。

 

「ぴんぽんぱんぽーん。機密文書を持っている、かとうあきら君。かとうあきら君。至急職員室へ来てください。でないと大変なことになりますよー」

それは社長の声である。

 

アキラ「ひい!」

恐怖に駆られて、倉庫から飛び出す。銃を持ちながら、暗い廊下を走り回るアキラ。

そのとき、窓の外から赤いパトランプの光が見える。それも沢山。

アキラ「警察だ!(笑う)」

そのとき。

またもや放送。

「ぴんぽんぱんぽーん。機密文書を持っている、かとうあきら君。もしかして、警察を見て希望が沸いているかもしれませんが、念のために言っておくと、あれは私たちの仕事の“後始末”をしてくれる皆さんです。なるべくあの人たちのお世話には、ならないよーに」

 

アキラ「・・・・・・・・!(あまりの不条理に、泣き出す。)」

 

放送室。

で、くつろいでる三人。

社長「ほら、皆さん、そろそろ行きますよ」

おかま「残業手当出るのかしら。こんな夜まで働かされて。お肌荒れちゃうわ」

社長「その顔でそんな事、言わないでください」

 

アキラ、走っているうちに、蛍光灯のついた明るい廊下に出る。さっきまで三人組がいた、掃除用具入れの前である。

さっさと通りすぎようとしたアキラ、用具入れから何かが滲み出ているのに気付き、用具入れの扉をあける。

アキラ「!」

ミズウチの死体を前に立ち尽くすアキラ。

 

回想

ミズウチ「私たちがやってるのはね、“戦争”なんですよ」

 

現在。廊下。

呆けたようにへたり込むアキラ。

 

階段入り口。

階段を昇る三人組。思い思いに銃を構えている。

 

廊下・用具いれロッカー前

アキラ、かすかな「声」がするのに気付く。それは、ミズウチの死体から聞こえてくる。

恐る恐る近づくと、ミズウチの破れた上着の中から、小型のラジオのようなものがこぼれている。

そのイヤホンから、声は漏れていたのだ。

アキラ、引っ張り出して聞いてみる。

イヤホンを耳に入れた瞬間、聞こえてきたのは、なんと…

アキラ「…キシモト先生の声だ…!」

イヤホンのキシモト「あー。もしもしい。キシモトです。そっちはうまくいきました?まあ、私がこうして通信してるんだからうまくいったんでしょうねえ。どうせ傍受専用で、私の声しか聞こえないですけど。どうですか。陽動作戦は。おかげで私は書類を持って帰ることが出来ますよ。」

アキラ、何?と思って、ポケットから答案を出す。

イヤホンのキシモト「ミズウチ君、そういえば、アキラ君どうしました?死んじゃってますか?いやあ死んじゃってるでしょうねえ。でも、いい情報かく乱作戦だったと思いませんか。案の定、私はほとんどノーマーク状態でしたよははは。必死に逃げ回ってたアキラ君には悪いことしましたけどね」

アキラ、答案を握り締める。

アキラ「(口の中で)捨て駒ってわけか」

ミズウチの死体。

イヤホンのキシモトの声をかき消すように、廊下に響く三人組の足音と、声。

社長(どこにいるかわからないアキラに呼びかけて)「いいかげんに、出て来て下さいよう」

 

廊下・用具入れロッカー前

アキラ、しばらく下を向いている。怒り。

アキラ、はっと顔をあげて、おもむろにミズウチの死体からでている血を手にべっとりつけて、シャツの上から腹と背中にべたべた塗りたくる。

アキラ、無言、無表情。

「“戦争”なんですよ」

 

階段を昇る三人組。明るい光に差し掛かり、角を曲がると用具入れ前、というところで突如、アキラの叫び声が聞こえる。

アキラ「うああああああああああああああああ!」

その直後に、銃声。

三人、その叫び声を聞いて、顔を見合わせ、明るみに向かって走り出す。

 

三人がその場所で見たものは、

血まみれで転がっているアキラ。動いてない。

片手には銃を持っている。近くには薬莢が落ちている。もう片方の手には、破れた答案。

それを、何の感慨も無く見ている三人組。

おかま「自殺?」

社長「不憫にねえ」(無感情)

おかま「ア、あれだわ。」

社長「何?」

おかま「書類よ、書類」

三人、アキラに近づく。

アキラの頭の方にまわりこむメガネ。

おかまは、手から答案をもぎ取ろうとしている。(汚らしそうに)

社長「今度は破らないでよ」

おかま「わかってるわよ」

メガネ、死体を確認しようと、アキラの体を足でゴロン、と仰向けにする。

血にまみれ、目を見開いたままのアキラ。

と、その目が突然まばたきする。

メガネ「!」

ばん!

銃を構えるまもなく、メガネはちょうど、股間の部分を真下から撃ち抜かれ、倒れる。

すぐ手前で答案を見ていた二人、はっとなって振り返る。

そして銃を構えるが…

グアッと上半身を起こしたアキラが、一瞬はやく銃を撃つ。(落ちていたミズウチの銃と、自分の銃を両手に持って)

ばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばんばん!

たちまち、蜂の巣になる二人。

アキラ「おがああああああああああああアッ!」

そのとき、アキラの腹のあたりがポン、とはじける。

飛び散る血。たちまち、にじんだ血がアキラのシャツを赤く染める。

アキラ、ゆっくりと後ろを振り向くと、メガネが、死にそうになりながらも銃を向けている。その銃口からは、煙。

撃たれた、と悟るアキラ。しかし、

アキラ「ああああああああああああああああ!」

メガネに向かって、銃を撃つアキラ。

ばばばばん!

ドサ、と倒れるメガネ。

アキラ「いて…いててててててて」

といいつ、よろよろと立ち上がる。

血の足跡を残し、昇降口に向かっていくアキラ。

殺し屋三人組と、ミズウチの死体。

 

昇降口の出口では、警官隊が隊列を作っている。

隊長らしき男に、背広の男が話しかけている。

背広の男「…対外問題なので、なるべく穏便に済ましてくれよ」

隊長「穏便、ねえ」

警官隊、ざわめく。

投光機の照らし出した先には、小学校校舎から出てきた、血だらけのアキラ。

隊長、めんどくさそうに「武器を捨てておとなしく」

アキラ、銃を構えて、遮るような大声で、

アキラ「戦争やってんだろ!おれたちは!………なア!!

そして、思い切り引き金を引く。

 

ばあん!

 

 

アキラの家。

茶の間で、母と、頭に包帯を巻いた父が、すき焼きをしている。しかし、すっかり煮汁も蒸発し、肉は乾ききっている。

母「あなたって、石頭ねえ」

へこんで不安定なすき焼きなべ。

父、落ち着かない。

食卓の上には、すき焼きしか用意されてなく、隅に、一通の封筒がある。

封筒には、「外務省公安6課調査室別室」

母、なかば自虐的に「アキラの担任の先生ねえ、スパイだったんですってよ」

父。

母「アキラ、機密書類もって逃げてるんですって」

父。

乾いたすき焼き。

すき焼きをぼんやり見ながら

母「…早く帰ってこないと、冷めちゃうのに」

父「…ああ」

 

 

エンドロール。

 

終わり。