短編アニメーション

「月光機械」

企画書

Ver.1,5

 

12B072-0

加藤陽

1.  なにを

本作品は、「友情の力」をテーマに、少年とロボットの交流の物語を描いたアニメーション作品です。

 

友情の物語であること

(1) 友情とは?

本企画は、ある意味において物語では使い古された「友情」というテーマを掲げています。友情、と一口に言っても年代、性別、国によって様々な形の「友情」が存在します。

では、そんな様々な形の友情を、どのように物語に形作っていけばよいのでしょうか。

 

(2) 友情=生きる力

「友情」をもった互いの間には、不可分の「絆」が存在します。

どんなに離れていても互いの事を思う事が出来る力。それを自分の生きる力に変えていく力。友情から生まれた絆は、己が進むための力になります。そんな絆をもてることは、成長し生きていく上で非常に大切な事ではないでしょうか。

 

お互いが相手に触れ合う事で生まれる「友情の絆」がどれだけ大切さ、力を、今を生きる子供たちに気付いてもらいたい、と考えています。

 

アニメーションであること

  本作品は、実写素材を大胆に使い込んだデジタルアニメーションです。実写素材と言っても人形アニメではなく、実写で撮った素材をすべて2Dの素材としてコンピューター上でレイアウトし、アニメートさせる事によって、インパクトのある画面を作り、尚且つ説得力のあるオリジナルな世界観を提示する事が出来ます。

 

 

2.なぜ

なぜ、使い古されたテーマを、あえてアニメーションという手法で描かねばならないのでしょうか。

 

(1) 少年の頃

人間が成長する過程で、それまでに経験してきた親子の絆だけではなく、曖昧だった自他の区別がつき人との関わりを学ぶのが児童期です。その時に生まれた友情、絆は、その人のその後におおきく影響を残すものとなるでしょう。

 

(2) コミュニケーション不全な子供たち

ネットやゲームの普及により、子供たちは他人との関わりよりもより「個」の世界へと没入してる傾向があります。代だからこそ、面と向かってお互いの存在を確かめ合い、自分の活力にフィードバックする、そんな形の「友情」そして「絆」を子供たちに訴えかける必要があります。

 

(3) アニメーションの新しさ

この作品がもつテーマは極めてスタンダードなものです。今までどおりの「見たことのある」画作りをしていては、対象である子供たちはたちまち飽きてしまうでしょう。子供にも間口の広いアニメーションという手法を取りながらも求心力を持って作品を見せるためには画面の面白さ、新しさが必要になるのです。

 

以上が本作品の企画の根幹を成す部分です。

ではそれを具体的にどのように作品にしていくのでしょうか。

 

 

3.  どのように

 

(1) 友情と別れ、そして絆

物語は少年とロボットの交流を描いたものにします。

遊び相手であったロボットが捨てられてしまった少年、ゴミ捨て場で昔を懐かしむロボット、という設定で、離れ離れになった二人の思いが最高潮に達した時にささやかな奇跡が起こります。

友情の絆を忘れなかった少年は、その奇跡を思い出し、励まされ、強く生きていくという過程を通して、友情の持つ強さ、絆の深さを見るものに印象付けます。

 

(2) デジタルアニメーション

前項の「なぜ」で触れたように、今まであまり馴染みのなかった形でアニメーション表現をしなければならない本作品は「実写で撮影した素材をセルアニメの手法でアニメーションにする」という手法を採用します。

具体的には、実景や実物の道具・環境などをカットに応じて静止画で撮影し、それをコンピューター上(Photoshopなどの静止画加工ソフト)2D3Dの両方の技術を駆使して動きをつけ(AfterEffectLightwave3Dなどのモーショングラフィックソフト・3DCGソフト)見ているものに「実写かアニメーションかよく分からない」不思議な印象を与える画面を作り出します。この場合、ロボットはスモールスケールの模型を作ります。

このように、実写の素材をセルを重ねるように配置し、アニメーションを作ります。それにはコンピューターの力を大いに活用する事になりますので、全編デジタルのアニメーションになります。

 

 

4.  物語

具体的な構成案です。時間は約7分、クラッシックの楽曲にあわせた時間になっています。

 

欠けた月の夜空。街の家はみな寝静まっていて暗い。

しかしその中に、一軒だけ明かりの灯った家がある。その二階建の家の一階の窓には、カーテン越しに、なにやら言い争っている夫婦の影が映っている。

その家の中。言い争っている夫婦のいるリビングのドアの向うで、その様子を聞いているロボット。ドアの向うから聞こえるガチャン!という食器の割れた音を聞いて、首をうなだれながら二階に上がっていく。

二階の子供部屋では、7歳くらいの少年がベッドで身を起こしている。その顔は心配そうだ。ロボットが子供部屋に入ってくる。少年の顔は少し明るくなるが、ロボットがうなだれたままゆっくり首を振るのを見て、悲しい顔になってしまう。

階下からは時々ものの壊れる音がする。そのたびにビクついてしまう少年に、ロボットはゆっくり近付く。

頭を軽くなで、何かを言い聞かせるようにやさしく少年をベッドに横たえるロボット。

不安そうな顔の少年を優しくなでると、少年はゆっくり微笑む。

ロボットはそれを見て部屋の電気を消すと、子供部屋の窓から優しい月明りが差し込む。

眠りにつく少年。それを見守っているロボット。

 

朝日が子供部屋に差し込んでいる。

突然ドアが開いて子供部屋に少年の母親が入ってくる。なぜかこぎれいなカッコをしている母親。手には大きなカバンを持っている。

起きたばかりの少年を無理やり着替えさせると、母親は少年を連れて家を出て行こうとする。少年はロボットにすがりつこうとするが、母親に無理やり引き離され、ついに車に乗って何処かへ行ってしまう。(実家に帰る)

玄関の前で呆然と立ち尽くすロボット。そのロボットを突き飛ばして、父親もどこぞへと去っていく。

取り残されたロボット。

その日の夕方、見知らぬ人間がやってきて、家に「売家」の看板を立てる。

 

夕陽の差し込む子供部屋に佇むロボット。部屋はがらんとしている。

天井からは、ロケットのおもちゃが吊り下げられているが、それを見て喜ぶ少年の姿はもう無い。

ロケットのおもちゃで遊ぶ少年の姿を思い出すロボット。

天井からおもちゃをはずして、部屋を見渡す。

ロケットのおもちゃを少年に作ってあげたロボットのインサート。

部屋で遊んでいる少年の姿が一瞬、誰もいない子供部屋に重なる。

ロボットはゆっくりと歩き出す。

ロケットのおもちゃを手に夜まで歩いて、「スクラップ置き場」とかかれたゴミの山までくる。他のゴミの山を見るロボット。捨てられた掃除機、冷蔵庫などの要らなくなった家電製品。

少しの間佇んだロボットは、ゆっくりとそこのガラクタに腰を下ろす。

 

ゴミ捨て場にいるロボット。夜中の寂しい空気に独り身を浸している。

窓の外、曇ってぼんやりと光る三日月を不安そうに見ながらゆっくりとベッドに入る少年。

 

独りきりのゴミ捨て場にいるロボットの元に、野良猫がやってくる。

野良猫を撫でていると、ロボットはふと、昔の事を思い出す。

少年と仲良く遊んでいた頃。

時を同じくして少年もまた、夢の中で二人で楽しかった頃を思う。

 

しかし、両親の離婚によって必要とされなくなったロボットは、今の状況に思い至り、悲しくなるだけの少年との思い出をメモリから消そうとする。手に持っていた少年との思い出の品=ロケットのおもちゃを後ろのゴミ捨て場に投げ捨てて、いよいよ想い出をメモリから消そうとするロボット。画面の中で「これらの記憶を削除しますか?」というメッセージとともに次々に少年との想い出を残した映像が再生される。

消そうとして再生する記憶の中の少年は、いつも笑顔である…。

逡巡しているロボットを見て、ロボットに寄り添っていた野良猫は、頭上の隠れた月にお願い事をする。

 

すると雲が割れ、欠けていたはずの月が一気に満ち、満月がその身を表す。月に照らされて明るくなるゴミ捨て場。

その地面がゆっくりと持ち上がり、ロボットの足元からゴミのガラクタで作られた大きなロケットが姿をあらわす。そのロケットは、少年との思い出のおもちゃが大きくなったものである。

びっくりしているロボット。しかし野良猫の真意を知ったロボットは、少年の住む家まで走る!

 

驚く少年と一緒にロケットに乗ったロボットは、そのまま月の夜空を自由に飛びまわる。

少年の顔には、昔の笑顔が戻っていた。月と野良猫の魔法は一晩中続いた…

 

そんな夢を描きながら、微笑みながらぐっすり寝ている少年。

ベッドに寝ている少年の頭上には、いつの間にかロケットのおもちゃが吊り下がっている。

ゴミ捨て場では、心なしか少し笑ったような顔のロボットが、野良猫を抱いたまま眠りについている。

そんな二人を映し出す月。

 

 

登場人物

ロボット:万能家事手伝いロボットとして開発されたロボット。しかしあまり高級品ではない。共働きで忙しい少年の両親に代わって、子守り役として少年のそばにいる。そのせいか少年はこのロボットにとてもなついている。電池は半永久的に持つが、自分の判断で電源を切ることは可能。学習機能も搭載して、自我を持った人間と似た「こころ」を持っている。高級なロボットと違って無骨なデザインだがその分頑丈にできている。仕えている家の夫婦が別居する事になった際、自分が必要とされていない事を悟り、自らゴミ捨て場に行く。

 

少  年:七歳。小学一年生。物静かな性格で口数も少ない。両親の度重なる夫婦喧嘩は自分のせいであると思い込んでいるため、両親の前では過剰に「良い子」であろうとする。そのため成績もいいし外面的には立派な少年だが、内側は非常にもろく、他人と付き合いが非常に苦手で、クラスに親友もいない。特に両親に対しては敏感になっている。唯一心を許せるのは、小さい頃から子守りをしてくれていたロボットだけで、ロボットの事を「ただの機械」ではなく心の友だと思っている。両親が別居する際に母親に引き取られるが、ロボットと引き離された事で決定的に自分の中に閉じこもるようになってしまい、ロボットとの楽しい思い出だけに生きている事を見出している。

 

両  親:母親は高校の教師、父親はやりての会社員である。共働きで家事をやらせるために、結婚したらすぐに家事手伝いようのロボットを購入、家のことはほとんどこのロボットに任せきりにしていた。しかし少年が小学校に入学する頃を境に、父親は会社のビッグプロジェクトに抜擢され、母親も管理職に昇進し、突如として忙しくなる。それにくわえて少年の教育に関して(こればかりはロボットには任せられないので)考えなければならない事が増え、母親のストレスはたまっていく。そんな折、あまりに子供の面倒を押し付ける父親に対して母親が怒り、そこから毎晩のように夫婦喧嘩をするようになってしまう。また、少年が「良い子」にはしているが決して自分達に心を開かない事にも気付いており、そのことに関して責任のなすり合いをしたり、ここにきて少年が心を許しているロボットを心のどこかで邪魔者扱いしているふしもある。ある晩の決定的な言い争いによって別居する事が決まり、父親は会社に近い都会の近郊のアパートに、母親と少年は隣町にある実家に帰っていく。

 

金目銀目:白い野良猫。実は魔法使いで、優しい心で接してくれたロボットに奇跡を起こす。目は左右で色が違い、金色と銀色をしている。ミステリアスな雰囲気の猫。

 

 

 

 

参考文献(制作のためのノウハウ関連)

「アニメーション実践法」 湖川友謙・著

「アニメを作ろう!」 北爪宏幸・著

「アニメがデジタルに変わる可能性」 Webページ

「遠い声・デジタルアニメメイキング解説ページ」 Webページ

「月刊GraphicWorld」 各巻

「月刊CGWorld」 各巻

「ハイパーハンドブック AfterEffects5.5

LightWave3Dバイブル」

 

 

以上が、短編アニメーション企画「月光機械」の企画概要です。