ブロウクン野郎・脚本 Ver1,2

 

 

 

薄暗い部屋。

ベッドと電話以外は何も無い。

ベッドに横たわる少女。傍らに付き添う男、樋口。

時計。

樋口は身を乗り出して少女の額にかかった髪を優しくなでる。彼のスーツの中に隠れた銃がちらりと見える。その銃を気にしながら、精一杯の笑顔を樋口に向ける少女。しかし、その笑顔には生気が感じられない。

枕もとには錠剤のパッケージ。残り少ない。

時計。

 

部屋の外。

廊下に音も無く忍び込んでくる殺し屋軍団。

部屋の中。

水を持って少女に近寄る樋口。

ドアの隙間から、殺し屋たちが動く影がかすかに入り込んでくるが、彼は気付かない。

傍らに一輪差しが置いてある。

部屋の外で、突撃態勢に入る殺し屋軍団。

  たった一人、スーツを着た男が彼らをを脇にどけながらドアの前に立つ。

部屋の中。

少女の枕もとに水と薬をおいて、樋口が薬を飲ませようとしたその刹那―

こんこん、とノックの音がする。

とっさに振り返る樋口。ワンアクションで銃を抜く。

 

瞬く間に部屋に流れ込んでくる殺し屋軍団。刀から銃まで、その武器は様々。

次々に攻撃体勢に構える。

銃を向けたままにらみつける樋口。

 

同じく武器を向けたまま動かない殺し屋たち。その人垣を分けてスーツの男・入江が入ってくる。

入江「(銃を抜きつつ)あなたと妹さんの物語が―」

少女、毅然と入江をにらむ。

入江「ハッピーエンドを迎えられるとでも思っていたんですか?」

ブン…と入江の銃のレーザーサイトが紅く光る。

   ゆっくりと赤い点が樋口の額に移動する。

   入江。にらみ返す樋口。

   向かい合う銃口。

   突然、樋口の銃に真っ白な手が伸びる。少女が樋口の銃を押さえるように握る。

   驚いて振り返る樋口。反射的に武器を構える殺し屋軍団。それを片手で制する入江。

   少女はゆっくりと樋口の銃を自分の額に当てる。

少女「(ポソッと)もういいよ…もう、終わりになるんだったら…」

   樋口、少女が何をしようとしているのかを悟り

樋口「やめろ…」

   言い終らないうちに銃声!樋口の顔の前をゆっくりと薬莢が横切る。

   銃を握ったままの少女の手がたおれる(一緒に握っている樋口の腕も)

   それを冷徹に見下ろす入江。殺し屋を止めていた腕を降ろし、眼鏡を上げ、

入江「(さもかわいそうに)…我々と妹さんの間には、どうやら心のすれ違いがあったみたいですね…。…彼女が死んでも、実のところ問題は何も解決されんのですよ、残念ながら」

   殺し屋軍団が再び攻撃態勢になる。

   樋口、銃と妹の手を握ったまま歯を食いしばっている。口から一筋の血が流れる。

   握る銃に力がこもる。入江。

樋口「アアアアアアアアアアアアアアァ!」

瞬間、冷たくなった少女の手から銃を引っこ抜き入江に向ける樋口。

銃声。

 

 (以下、Tでメインスタッフ)

灼熱の日差しが降り注ぐ正午。何も無い野原を、樋口が独りで歩いてくる。服はぼろぼろで腰には日本刀を携えている。

(OFFで男の声)「この電話を聞いてる奴―だれでもいい。用水地の赤水門まで来い」

   陽炎の中の樋口。

   どくん!という鼓動と共に、留守電を告げる電話機のフラッシュバック。死体の真ん中に、空になった銃を持って座り込む樋口。

(OFF)「俺は、そこにいる。本当に、これで終りにしよう(ピー・ガチャ)

陽炎で樋口の姿が揺らぐ。

どくん!という鼓動と共に、フラッシュバック。銃を捨てて死体の持っていた日本刀を無造作につかんで部屋を出て行く樋口。

樋口、その目には決意が浮かんでいる。

 

野原のど真ん中に立っているサングラスの男、神谷。遠くからやってくる樋口に気が付き、不敵に笑う。

対峙する二人。

神谷「お前が来ると、思ってたよ…」

銃を樋口に向ける神谷。

無造作に刀を構える樋口。

神谷「はじめようか」

と言うなり続けざまに引き金をひく神谷。

銃声!

 

T「ブロウクン野郎」(タイトルの間、ずっと銃撃音と兆弾の音)

 

バキン!と最後の一発を刀で弾く樋口。兆弾した弾丸が地面をえぐる。

弾を撃ち尽くした神谷、目線をそらさず銃を捨てる。

刀を薙いだままの樋口。

神谷「ひとつ、いいか?」

無言の樋口。

新たな銃を取り出す神谷。

神谷「妹さん…どうした?」

樋口の目に殺気が走る。

刀の柄を握る樋口の手。

樋口「今は・・・遠いところにいる。遠くて近い、所にな」

すべてを察した様子の神谷。手にした銃のスライドをゆっくりと引きながら

神谷「なら…思い残す事は何も無い、だな?」

樋口「ああ…!」

ゆっくりと刀を構える樋口。

銃の照準を樋口にあわせる神谷。

しばしの対峙。見えない気圧が二人の空間を圧迫する。

神谷が引き金をひくと同時にまっすぐ突進してくる樋口。

弾丸を避けつつ恐ろしいスピードで肉薄する。

刀を回転しつつに振りかぶり、一閃。

神谷、刀を銃身で受け止める。

バキィン!という音と共に火花が舞い飛び、衝撃波が空間をゆがめる。

渾身の力をこめて押し合う二人。

神谷の銃を樋口の刀がサバいてそのままの勢いで樋口は突きを繰り出す。

とっさに避けた紙屋は樋口の後ろに回りこみ、後ろ蹴り一発。

樋口は吹っ飛ばされ一気に間合いが広がる。即座に発砲する神谷。

バランスを戻し、弾を避けるように迂回しつつ間合いを詰める樋口。弾丸が地面をうがつ。

弾丸が地に被弾すると同時にジャンプする樋口。神谷に飛び掛る。神谷はすんでのところでかわすが、地面に着地した樋口はそのままの勢いで刀を横に薙いで足払いする。ジャンプして避ける神谷。樋口はそのままの勢いで低い位置から突きを繰り出してくる。ジャンプして樋口の刀を挟み込み、組み伏せる神谷。間髪入れずに刀の柄を起こして掌手をあごに叩き込む樋口。神谷、吹っ飛ばされる勢いを使って間合いを取る。

刀を構える樋口。銃を構える神谷。

 

銃撃―近接戦の激しい応酬(この辺は殺陣を決めます)

振り下ろされる刀をぎりぎりでかわす神谷。しかし銃口が樋口からそれる。

一瞬の隙を突き、刀を逆手に持ちかえて振り上げようとする樋口。

が、神谷は左手でもう一挺の銃を抜き樋口の額で寸止め。

一瞬の、間。

樋口「殺らないのか?」

言うが早いか、刀を持ったまま神谷の銃を頭上へ弾く。

樋口の頭髪を弾丸がかすめる。

同時に二人は飛びのいて間合いを広げる。

肩で息をする二人。汗がしたたりおちる。

神谷「ガキの頃から、お前はいつも俺のずっと先を走っていた…」

刀を構え、微動だにしない樋口。

神谷「今回も、お前が先に千春さんの所へ逝っちまう…か?」

樋口「手前ェを先に、送ってやるよ…」

神谷「そう簡単には…逝かせねえぜ」

二挺拳銃をくるりと回し、狙いを定める神谷。

と、銃を地面に落とす。素手で構えをとる神谷。

神谷の意図をくんで、刀を後ろ手にもち、地面に突き刺す樋口。同じく構える。

一拍おいて、

神谷「!」

声にならない掛け声と同時に素手で格闘をはじめる二人。

 

蹴り、拳の激しい応酬。

 

二人の拳があたるごとに、周囲の空気に衝撃が走る。(この辺も殺陣決めます)

刹那、二人が同時に放った「掌」が互いの水月に入り、二人同時に吹っ飛ぶ。

 

受身を取りつつ着地する神谷、バランスを崩しよろめきながら後退する樋口。

樋口、地面に刺さっていた刀を引き抜く。

 

どくん!という鼓動と共にフラッシュバック。青空の下、土手にいる千春と樋口。

 

神谷、落ちている二挺拳銃を拾う。

 

どくん!という鼓動と共にフラッシュバック。樋口の千春、そして神谷の三人が仲良く歩いている。

 

どくん、どくん、と鼓動が早くなっていく。樋口。神谷。

それに伴って激しいフラッシュバック。土手で昼寝している千春、その顔のすぐそばに咲く花、花を見つめる神谷、花の入った花瓶、樋口、二人の部屋、死体の山、ベッドから投げ出された千春の腕、一筋の血、樋口の血、神谷。

 

二人は咆哮を上げて突進する。

ズドッという重い音がして、

樋口の刀が神谷の左肩にめり込む。

神谷、何とか左手の銃で刀が切り抜けるのを防ぎつつ発砲。

弾丸は樋口の左肩をえぐる。

お互い弾き返されるように間合いを取る。

刀を抜かれて、左肩から血が流れ出す神谷。

左肩の弾痕から血が吹き出ている樋口。

 

息が切れている二人。しかし、まったく意に介さずお互いをにらんでいる。

樋口、己と相手の左肩を見比べて

樋口「やっと、同じスタートラインに立ったな、俺たち」

神谷「ああ。この瞬間、世界で唯一対等なのは…」

樋口。

神谷。

血で紅い刃。

血が滴り落ちる銃。

神谷「俺と、お前だけだ」

瞬間、すべての音が消える。

刀を片手で構えて走り出す樋口。

かまわず発砲しまくる神谷。

被弾しながら突進する樋口。

撃つのを止めない神谷。

樋口、神谷の寸前で大きく跳躍し、神谷の銃を蹴り上げる。

天に舞い上がった銃が太陽にかかる。

着地しざまに大きく刀を薙ぎ払う樋口。刃が神谷の堂を一閃する。

神谷、声にならない叫びをあげ、自分の左腕を右手で持ち上げて、もう一挺の銃を樋口に向ける。

天から、蹴り上げた銃が落ちてくる。

樋口、一挙動(ワンアクション)で刀を地面に突き刺し銃をキャッチする。

銃を神谷に向ける樋口。

神谷、銃を向けたまま、ふと笑う。

樋口。

夏の雲と野原にこだまする二発の銃声。

倒れる神谷。腹を押さえて崩れる樋口。

息をしていない神谷。

肩で大きく息を吐く樋口。その腹からは血が流れ続けている。

地面に刺さった刀に映る、血まみれの樋口の顔。自分が持っている神谷の銃に目を落とす。

樋口の脳裏に、銃を押さえた千春の姿がよぎる。

そこにかぶって、自分の銃を樋口に差し出す、瀕死の神谷。

神谷「後の事、よろしく、な」

   樋口、銃を受け取り、

樋口「どうせ俺が倒れたら、おまえがやってたことだ…まかしとけ」

神谷「…んじゃ、もう逝くわ」

力尽きる神谷。

安らかな神谷の死に顔。

 

ぴりりりり、とどこからとも無く電話が鳴る。

 

神谷の懐から、血がこびりついた携帯電話を取り出す樋口。通話ボタンを押すと、入江の声が聞こえる。

入江「あ。つながった。もしもし?つながったってことは、勝負はもうついたんですね?この電話を聞いてる人―あ、どっちでも構わないんですけど―あなたにチャンスを与える、と組織は言っています。過去を清算してもう一回ウチでやり直すか、それとも…」

樋口の目に、新たな決意が宿る。

樋口、電話の向こうの入江に向かって何か言うが声は聞こえない。

入江「…いいお返事を期待してたんですけどねえ」

入江が言い終わらないうちに携帯をきる樋口。

よろよろと立ち上がり、片手で刀を腰に差す樋口。

神谷の銃を拾ってクルリと回すとベルトに差し込む。

血を流しながら、ゆっくりと歩き出す樋口。その瞳には一点の曇りも無い。

その姿にかぶって、先ほどの電話のやり取り。

入江「もう一回ウチでやり直すか、それとも…」

樋口「貴様ら、全員潰す。覚悟しとけ(ガチャ・ピ)

神谷の亡骸に添えられたもう一挺の銃が、日の光を受けて鈍く光る。

そのはるか向こうに、小さく消えていく樋口のシルエット。

 

エンドロール。

 

吹きすさぶ風の中、大きな建物の前に立ち尽くす隻腕の樋口。腰の日本刀に手をかけ、建物に向かって走る樋口。

 

暗転して、銃撃戦の音。

END