1【追われている神谷】
◆1工場地帯の路地裏
何者からか逃げている神谷ジュン。路地のスキマに逃げ込んで一息。ベッ、と口から血を吐き出す。
神谷「なんなんだ、あいつ…」
辻から顔を覗かせて逃げてきた路地をコッソリと見る神谷。真っ白なスーツが現れる。焦って身を隠す神谷。逃げ道を探すも塀に囲まれている。しばしの逡巡の後、意を決して塀に向って飛ぶ神谷。
神谷「痛っ!」
着地の瞬間足をいためる神谷。それでもなんとか前進しようとする。
白狼、神谷のいた隙間に追いつき、塀を見上げると踵を返す。
神谷、また別の塀を越えて逃げている時につまずき、転倒。ひっしに隠れようともがくが、いつのまにか白狼がすぐ背後まで迫っている。
神谷「うわああ!」
白狼「これ以上、手間をかけさせるな」
神谷、遮るように白狼に挑みかかるが、しかし掌ていを叩き込まれる。
神谷「ぐふっ」
神谷の意識、混濁。
神谷(MONO)「(薄れ行く神谷の意識)……ちきしょう……いったい、なんだってんだ」
暗転。
◆2ギルド本部・入江部屋(仮)
目を覚ます神谷。椅子に座らされている。しかしその目は焦点が定まらない。必死で体勢を立て直そうとするも力が入らない神谷。
入江が入ってくる。その脇に白狼。白狼を認識する神谷の目。
入江「お目覚めですか、神谷ジュンくん? 部下が大変失礼したようで。」
神谷、必死に顔を上げ、入江と白狼を睨もうとする。
神谷「僕に……何をしたんだ」
入江「ああ。お越しいただいたのに、すぐお帰りになるというのもなんでしょう? ゆっくりしていただけるように、少々取り計らわせていただきました」
白狼は神谷に興味を持っていないように爪の先を無意識に眺めている。
入江「心配無用ですよ。一時的に痺れるだけで、後々の身体に害はないはずです」
神谷「くっ……お前ら一体」
問いかけを無視する入江。
入江「そこはおいおいお話しましょう…」
ハンカチで神谷の額を拭ってやる入江。
入江「さて――本題に入らせていただいても?」
自分の椅子に座る入江。
入江「あなたには子供の頃生き別れになったお兄さんがいますね。覚えていますか?」
神谷、はっとして睨むのを止める。神谷の脳裏に一瞬フラッシュバックする写真。よく似た少年二人がならんでいる。
神谷「兄さんを知っているのか!?」
入江「ええ。知っています。実は、あなたのお兄さん――神谷マコト君は私の部下でしてね」
神谷、驚愕の表情を浮かべる。無表情の白狼がちらりと神谷を見る。
入江が心痛の表情で、
入江「お兄さんの事で……お知らせしなければならない事がありまして」
怪訝そうな顔の神谷。
入江「……あなたのお兄さん、殺されました」
神谷の表情が見る見る凍りつく。
2【タイトル:ブロウクン野郎2(仮)】
3【樋口】
◆1商店街。
雑踏の中をすり抜けるように歩く樋口。
◆2樋口の隠れ家A
がちゃん、と重たいドアの音がして樋口が帰ってくる。上着を脱いで、持っていた刀を壁に立てかける樋口。無機質な部屋の片隅に武器が無造作につるされている。(神谷兄の)銃を取り出し、テーブルに置く。外は夕暮れで、窓から差込む光をうけて、銃が黒光りする。
◆3樋口の回想。
銃と日本刀がぶつかり合うイメージ。神谷ジュンとよく似た兄、マコトと戦っている樋口。印象的なバトルにかぶりながら、
マコト「お前は組織の敵。そして俺はその組織の番犬だっ!」
樋口「神谷ぁっ!」
激しいバトル。銃弾が樋口の肩を貫く。
◆4樋口の隠れ家A
回想終り。無意識に撃たれた左肩を掴んでいる樋口。我に帰ると銃をしまい、カレンダーを見る。カレンダーには赤丸がついており、そこに向って×印がついている。樋口、マーカーで今日の日付に×をつける。樋口、カーテンを閉めて外からの光を遮断。暗転。
4【白狼の特訓1】
◆1組織の長い回廊
決意のこもった表情で足早に歩いている神谷。ショルダー式ホルスター、グローブなどを装着しつつ、回想。
廊下を照らし出す明かりに現れては消える入江とのやり取り。
神谷「殺されたって……どういうことだ? 兄さんが?」
入江「言葉どおりの意味です。残念ながら」
息を呑む神谷。
神谷「無理やり連れて来られて、兄さんが殺されただと?!いい加減なこと…」
入江「これはお兄さんに間違いありませんね?」
神谷の目の前に映し出される兄の亡骸。激昂する神谷。
入江「私はあなたにやっていただきたいのです」
神谷「なんだと…?」
入江「お兄さんを殺したこの男が…どうやらまた動き出したらしい」
樋口の写真。回想終わり。
廊下を歩いている神谷、険しい表情。
廊下の突き当たりに白狼が立っている。緊張した面持ちの神谷。また回想。
入江「この男はあなたにこそ…」
嗚咽をこらえている神谷。
入江「倒されるべきだ」
神谷、入江を睨む。
入江「……復讐したいでしょう」
回想終わり。白狼のテーブルの前に並べられた拳銃と弾丸。
弾丸をマガジンに込めるインサート、構え方を教え込まれる神谷などなどの映像にかぶり、回想。
入江「ここにいる白狼くんが面倒を見てくれますよ。ここであなたは、樋口に復讐できるだけの、力を――手に入れるのです。そしてあなたの手で――」
回想終わり。
神谷「(前シーンの入江台詞にO.Lして)樋口を殺す…!!」
銃を撃ちまくる神谷。ドン!ドン!と連続して銃声が響いている。
ターゲットがすさまじい勢いでぼろぼろになっていく。
なれない様子で引き金を引いている神谷。その表情には怒りが宿っている。傍らには白狼。
白狼「まだまだだな」
無言の神谷。銃を一心に見つめている。
白狼「そんなに憎いか……兄を殺した男が」
神谷、当たり前だ、といわんばかりに今度は白狼を睨む。
白狼「復讐か……」
神谷「あんたたちはそれをやらせたいんじゃないのか?」
神谷、銃をテーブルに置く。白狼、答えず、神谷が置いた銃を取る。
白狼「残弾はいつくだ?」
虚をつかれたような神谷。
白狼「……二発だ」
無造作に撃つ。ターゲットのど真ん中に二発当たる。
白狼「一秒でセンターに二発。残弾数は常に数えておけ」
白狼、弾薬のケースをテーブルに置く。白狼はさっさと出て行ってしまう。残された神谷、マガジンを交換してひたすら撃ち始める。
イメージカットの連続。音楽にあわせて刀、銃、武術など様々な特訓を受けている神谷。指導する白狼。
ズン!と地面に叩きつけられる神谷。すぐさま跳ね上がり白狼に挑むも、白狼に関節をとられる。
神谷「ぐあっ!」
すんでのところで力を緩める白狼。疲れた様子も無くすっと立ち上がる。痛みが引かずに寝たままの神谷。
神谷「……樋口はあんたより強いのか?」
白狼「やつと直接戦ったことは無い。樋口はお前の兄を含めたオレの部下たちを殺した後、オレと戦う前に逃亡したからな……だが――」
神谷、白狼を見上げて先を促す。
白狼「仮に闘ったところで、いかなる状況下でもオレが99%の確率で勝っただろう」
神谷「……エライ自信だな」
白狼「当然だ。戦って勝利するため――そのためだけにオレは『作り直された』のだからな。組織によって」
驚き、そして戸惑う神谷。倒れっぱなしの神谷に手を差し伸べる白狼。引き起こされる神谷。
白狼「……もう一度だ」
再度、訓練に入る二人。木刀での打ち合い。激しい攻防。
そこにかぶって二人のモノローグ。
神谷(MONO)「あんた、いかなる状況でも99%って言ってたな。最後の1%は、なんだ?」
激しさを増すぶつかり合い。白狼の木刀が神谷の喉元で止まる。
白狼(MONO)「――生身の人間だけが持つ、理を超えた不確定要素だ」
白狼の腹に、神谷の木刀が寸止めされている。少しニヤリと笑う神谷。無言でうなずく白狼。
練習場を後にする神谷にかぶって、白狼のモノローグ。
白狼(MONO)「弱さであると同時に強さでもある人間の力。樋口や、おまえや、そして入江 も…」
5【狩りをする樋口】
◆1とある森の中
森の中で組織の構成員と思しき人間の死体がある。その脇で、急にINしてくる構成員A。グサリと構成員Aの太ももに突き刺さる刀。
見下ろすように刀を突き立てている樋口。
構成員A「ぐああ!」
刀は大腿を貫通し地面に突き刺さる。無言の樋口。
構A「殺すか? だがもう遅い。きさまの情報は既に本部へ送信済みだ! 貴様はもはや捕捉されたも、同然!」
樋口、刀を引き抜く。Aの大腿からほとばしる鮮血。サングラスを刀でなぎ払い、破壊。
樋口「帰って入江に直接報告しろ。俺のことを。必ず行くと伝えろ」
よろけるように立ち上がるA。
構A「裏切り者め……こんなことをして、無事に済むと思うなよ!」
樋口、すでに刀を鞘に納め、Aに余裕の背中を見せながら。
樋口「思ってないさ」
樋口、去る。
6【樋口vs神谷】
◆1ギルド本部・入江部屋
資料とディスプレイに映し出される地図を神谷に見せる入江。
入江「ヤツを補足しました。十分前に部下が樋口と遭遇――が、先ほど連絡が途絶えました。大丈夫ですか?」
神谷「ああ」
入江「そこに用意した武器と装備があります。お持ちください」
神谷が振り向くと奥のテーブルには軽装のアーマーと拳銃、サングラスがある。
入江「急いでください。ヤツが移動しないうちにね。バックアップの人員を送りますから、それまで耐えて――」
神谷「そんなものはいらない!」
装備一式をつかんで走るように部屋を後にする神谷。不敵な笑みで見送る入江。
入江「がんばってくださいね」
入江を凝視している白狼。
◆2郊外の森の中
木の陰に隠れて、返り血と汗をぬぐう樋口。ガサ、と音がして一瞬身をそらす。直後、弾丸が樋口の肩を掠める。新たに身を隠すべく別の木に移動する樋口だが、追撃が無い。不審に思いじわりと後退する樋口。突如、地を蹴る音がして神谷が一瞬にして樋口の前に踊りでる。瞬時に刀を凪ぐ樋口。しかしすんでのところで交わした神谷は樋口の背後に回りこむ。それに負けじと一回転して神谷に向き直る樋口。銃口を向ける神谷。刀を振り下ろす樋口。ふたりがぴたりと止まり(1の時と同じね)、はじめて二人は目線を合わせる。薄いスモークのサングラスの下に、懐かしい瞳を見出す樋口。戸惑う。
神谷「樋口ぃ!」
それをスタートの合図にするように発砲する神谷。弾丸をかわし弾きながらも間合いを広げない樋口。
樋口(MONO)「まさか……いや、そんなはず」
神谷「ぼーっとしてんじゃねえッ!」
銃を使えないほどに肉薄した神谷が今度はナイフで襲い掛かる。樋口、神谷の目を見る。ナイフを見る。樋口、ナイフを捌いて片手で間接を極める。
樋口(MONO)「神谷――いや……」
樋口「違う」
神谷「……違う? なにが違う?! お前が殺したんだろうがっ!」
愕然とする樋口。神谷、極められつつも空いてる方の手で発砲、思わず神谷から離れる樋口。
以下、攻防のアクション。樋口が優勢になっていく(考え中)。
◆3ギルド本部・入江部屋。
PCのディスプレイ上に神谷の主観映像がモニターされている。それを黙って見ている入江。
◆4郊外の森の中
拳銃を弾かれる神谷。思わず拳銃を取りに行こうとすると樋口が立ちふさがる。
神谷「うおお!」
それでも樋口に殴りかかるが峰打ちでボコボコにされる神谷。倒れる。樋口が近寄って刀を向けるが、トドメを刺さない。
樋口「やはり――違う」
樋口、刀の切っ先を外す。
樋口「あいつは、おまえのように弱くなかった」
しばし見詰め合う二人。おもむろに神谷。
神谷「やれよ。僕を殺せよ! ……兄さんと同じように(唇噛みながら)」
樋口「……お前。あいつの……そうか。神谷の、弟……」
しばし神谷の視線を受け止めた後、樋口、ふところから拳銃を出す。噛み付きそうな顔の神谷。しかし、樋口はそれを反転させ、神谷に差し出す。反射的に受け取り、構える神谷。
樋口「それは、あいつの――マコトの銃だ」
手にした銃を見る神谷。
樋口「俺があいつを殺した――それは確かだ。言い訳はしない。俺は、たった一人の友だった男をこの手で殺した」
樋口の言葉にキレる神谷。立ち上がり、顎に銃口を押し付ける。
神谷「――友? それが本当なら、なぜ殺した!?」
樋口、神谷の目を見て話す。気おされ、銃口を顎から外す神谷。
樋口「……お互い譲れなかった。戦うしか、なかった。」
銃口を掴み、自らの額に向ける樋口。
樋口「だが……他の道もあったかもしれない」
しばしの沈黙。困惑顔になっていく神谷。
樋口「――撃たないのか?」
神谷「……わからなくなった。考えてたヤツと違いすぎて。どうすりゃいいのか、今の僕には。だから……今は、撃てない」
神谷、ゆっくりと銃をおろす。
神谷「くそ!」
と、地面を蹴る。
◆5ギルド本部・入江部屋
入江「おやおや……」
笑みを浮かべながらディスプレイの通信映像を見る入江。
入江「いけませんねえ…迷って獲物に噛み付かない犬は、歯抜けの猫にも劣りますよ、と」
入江、エンターキーを押す。
入江「残念です」
◆6郊外の森の中
突如、カウントダウンのような電子音が鳴り響く。
神谷「……なんだ」
樋口が神谷を倒すとサングラスをむしりとって空中へ放り投げる。
次の瞬間、サングラスが爆発四散する。
樋口「飼い犬を始末するために……やつらの良く使う手だ」
神谷「……フフッハハハハハッ。なんだってんだ! 何もかも――」
神谷、おもむろに樋口に銃を向ける。が、一瞬後、軌道をわずかにずらして発砲する。その先で、潜んでいた構成員が弾丸を食らって倒れる。神谷を見る樋口。
森の奥で次々と構成員の足音が聞こえてくる。
枯れ草を蹴散らしながら走る構成員の脚。
樋口「……こっちだ」
迅速に動く樋口。呆然と樋口の背中を見る神谷。一瞬後、同じ方向に走り出す。
7【樋口と神谷の交流(決戦前夜)】
◆1樋口の隠れ家B(何ヶ月も無人のような、薄汚れた部屋というか倉庫)。夕。
たくさん鍵のついたキーホルダーで扉を開ける。部屋の中に入ると、コートを脱ぎ、武器を置き、左手の拘束具も外す樋口。それらを注意深げに端に押しやる神谷。
樋口「ここはまだ見つかってないと思う。明日まではゆっくりできるはずだ」
何ヶ月も前の月で止まっているカレンダーを発見して、めくっていく樋口。
樋口「明日になったら――」
神谷「帰れ、なんて言うんじゃないだろうな? 勘違いするな。まだあんたを許したわけじゃないし、あんたを見極めたわけでもない。逃げようったってそうはいかない」
赤ペンを物色する樋口。色の出るものを見つけると、今月のカレンダーの一日から次々に×印を書いていき、潰していく。
樋口「そうじゃない。だが、明日俺は行かなくちゃならない。たぶん、そのまま帰ってこれない」
神谷「あいつらの所へか? 明日――?」
それには答えない樋口。
神谷「……聞かせろよ。なぜあんたはあいつらと戦ってる? それに……なぜ兄さんを殺したのか。……聞かせろよ」
◆2樋口の隠れ家B。夜1。
蛍光灯の灯りに目を細める神谷。部屋には神谷しかいない。テーブルの上に置かれた×と○の書き込まれたカレンダーを見詰める神谷。
◆3回想(◆樋口の隠れ家B。夕。の続き)
樋口「俺は元々あいつらの組織で働く殺し屋だった。君のお兄さんも」
先をうながす神谷。一瞬躊躇してから語りだす樋口。
樋口「俺たちは、施設で出会ったんだ」
神谷「兄さんは――いや(しばしの逡巡の後、言い直す)、僕は、親戚の家に預けられた。でもその家には一人しか養う余裕がなかったから」
小さく頷く樋口。
樋口「その施設で俺達は――メシと一緒に殺しの技術を詰め込まれた。犬のように蹴られ、命令された。そんな犬小屋の中で、あいつだけが、心を許せる唯一の友だった。だから、俺たちはいつも一緒にいた。……そこが兵士を育てる為の施設だと気づくころには、すっかり殺し屋としてできあがってしまっていて――俺たちはそのまま、組織の犬になった」
カレンダーに×印を付け続ける樋口。
神谷「なんで組織を裏切ったんだ?」
樋口「……妹が居た。事件に巻き込まれて、重度の薬物中毒症だった」
回想される過去。空っぽのベッド。怒りの樋口。
樋口「妹は組織の犯罪の生き証人だったんだ。それで……」
カレンダーに×印を付け続ける樋口。
神谷「兄さんは――」
樋口「マコトは、俺の妹を組織から救おうとしてくれていた。だが、あの時――組織への道の途中で出会ってしまった」
神谷「だからって殺し合うのかよ!」
樋口、首を振る。
樋口「そうしなければ、お互い先に進めない――二人ともそういう生き方しか知らなかった」
樋口の手元に目線を落す神谷。
樋口「――あいつと戦ったとき、不安は無かった。どちらが倒れようとも、残った方がお互いの遺志を継いでくれる。そう信じていたからな」
神谷「遺志?」
樋口「先に逝った者は、あっちで妹を守る。残った者は組織とのケリをつけ、前に進む。そして俺が生き残った」
神谷「復讐じゃないのか?」
樋口「それもある。だが、怒りではなく約束のために。残った俺が先へ行くために、行くんだ。決着を付けに」
しばし沈黙。カレンダーに×印を付け続ける樋口。
樋口「全ては、明日。……明日は妹の、そしてマコトの、命日だ」
カレンダーに最後の×印を書き込み、その次の日に、ゆっくりと丸を書きこむ。
樋口が左腕を普通に使っていることに今更に気づく神谷。
神谷「そういえば、あんた左腕、使えるのか? なんで使わなかった?」
樋口「元の左腕はマコトに持っていかれて、これは作り直された腕」
マジックペン破壊してみせる。あちこちに赤インクが飛び散る。
樋口「未完成品でな、加減ができないんだ。それに、使うと、ひどく痛む。――だが、この痛みが俺に言うんだ。約束を果たせ、ってな」
◆4外(駅前商店街)。夜。
軽めの変装をして雑踏の中をあるく樋口。片手にはマックの袋。
神谷(MONO)「一年前、夢の中に兄さんが出てきたことがあるんだ。その時の兄さんと同じニオイがするよ、あんた。兄さんとの約束と共に生きているっていうのは嘘じゃないんだなって。同じ場所にいる――そう言ったろ? きっとその場所のニオイなんだな。」
◆5樋口の隠れ家B。夜2(夜1の続き)。
帽子をかぶって変装した普段着の樋口がマックの袋(夕飯)を持って帰ってくる。
神谷「……連れて行ってくれ。僕も、僕なりに答えを見つけに行かなくちゃいけないんだ。僕も――兄さんと同じ場所に立ちたい。そうしなきゃ、それこそあんたを怨むか、やつらを怨むか、それさえも決められない。それに――」
神谷を見据える樋口。
神谷「一年前、ひょっとしたらあったかもしれないもう一つの道。兄さんに代わって、僕が……あんたと一緒にいきたいんだ」
マックの袋をテーブルにおき、樋口、無言でロッカーを開く。並ぶ弾薬、武器など。そこから空のマガジンと弾薬を取り出し、テーブルに置く。最後に銃を取り、神谷に渡す。
樋口「出発は夜明けだ」
銃を受け取り、弾丸を込める神谷。
マックの袋をちら見し、
樋口「夕飯、そんなんで悪いな」
樋口は刀を持って、外へ出る。
8【入江と上層部】
◆1組織本部(ゼーレ?)。会議室。
闇の中心(そこだけスポットライトが当たっている)に入江が腰掛けている。
声「――キミを上層幹部に、つまりそういうことかしら」
入江「はい。これからの組織の在り方を考えますと、我々の権限の強化はあって然るべき。その時、私以外に勤まる者はおりません。全てお任せを」
声「その言葉、表も裏も、信じていいんでしょうね」
入江「もちろんです」
満面の笑みの入江。
声「あなたの仕事振りを楽しみにしてるわ…くれぐれも、粗相のないように、ね」
最後の一言で笑みが凍りつく。目が笑っていない入江。
◆2組織本部・回廊。
白狼を従えて歩く入江。
入江「まったく――そろいもそろって小うるさい」
白狼がとがめるような目線で入江を制す。意に介さず入江、
入江「ところで白狼さん……神谷くんにどこまで仕込みましたか?」
白狼「……気になるか?」
入江「少しだけ興味が、ね。まぁ、樋口くん共々、明日のお楽しみにしておきましょうか」
白狼「明日? ……ああ」
入江「……人は死者と時を敬うことで脆い肉体に理を越えた力をそなえることができる――そういうことを身体で知っているのですよ」
かすかに笑う入江。顔は動かさずに目のみで入江をにらむ白狼。
入江「サイクロナスを召集してください。総力で出迎えてあげようじゃありませんか」
白狼、その言葉にぴくりと反応する。そして、胸元から携帯電話を取り出し、どこかにかける。
9【決戦前夜→夜明け】
◆1樋口の隠れ家B
隠れ家の裏手で素振りする樋口。月明かりを頼りに弾を込める神谷。
◆2ギルド本部
刀を鞘におさめる白狼。スーツの上着に袖を通す入江。
樋口、神谷、入江、白狼がO.L、最後に朝焼けが空を照らし出す。
10【2人vsサイクロナス】
◆1ギルド本部(決闘場)
朝日の中を駆け抜けてくる樋口、神谷。
ゆっくりと歩いてくる入江と白狼。
入江「これはこれは……樋口くん。神谷くんも。これは、楽しくなりそうだ」
その声が合図であるかのように、入江と白狼の脇をサイクロナス、そして大勢の構成員がすり抜けてゆく。
神谷「手厚い歓迎だな」
雑魚戦闘員の最前線に立っているサイクロナス。不敵に笑う。
ウィドー「あら坊や。生きてたんだねえ(ケラケラ」
ナックル「……」
ダブル「おいおい二人だけかよ?! なめられたもんだぜぇ?」
樋口「言っておくが、自分の身は自分で守ってくれ」
神谷「足手まといにはならないさ」
うなずく樋口。駆けてくるサイクロナスと構成員。
樋口「行くぞ!」
二人の歩調がどんどん早くなり、走り出す。
雑魚戦。樋口の周囲を取り囲む雑魚を相手にしている樋口。雑魚の合間を縫ってできた隙を狙い、すかさずダブルが銃撃。
樋口は瞬時によけるが周囲に居た雑魚は巻き添え死亡。ダブルは持っていた狙撃ライフルを捨て両手にマシンガンで樋口を銃撃。
樋口は流れるような動きで避けつつダブルに肉薄。
軌道上に居た戦闘員みんな巻き添え。
樋口は地を蹴る。一瞬でゼロ距離!の瞬間ダブル弾切れ。
ダブル「たまぎれッ?!」
ダブル斬殺。
ウィドー「んー」
茶化すように目をそむけるウィドー。
ウィドー「やあねえ男って」
ぎゅいっと袖口からワイヤーをひきだし、あやとりのようにクロスさせるウィドー。
神谷と雑魚戦闘員。銃と刀をたくみに使い雑魚は排除、一心にナックルに突進する。
神谷「うおあっ!」
刀を振りかぶる神谷。
ナックル「ぬんッ!」
ものすごい勢いのナックルの拳が神谷にヒット。神谷吹き飛ぶ。
群がる戦闘員に再び手を焼く神谷。
樋口vsウィドー。空間を裂いてワイヤーが次々に飛んでくる。かろうじて避けている樋口。
外れたワイヤーが戦闘員に絡みつき、ものすごい勢いでウィドーに引きずられる戦闘員。
ウィドー「あら、はずれね」
絡めとった戦闘員を蜘蛛の牙のごとき二本のナイフでなぎ払う。
神谷、雑魚戦闘員をなぎ払い、再びナックルの元へ。ナックルは拳を振るうが、神谷は寸でのところで避ける。
神谷「読めたぜ!」
ナックル「があッ!」
拳を振るうナックル。しかしことごとく避けられる。神谷反撃の猛ラッシュ。
神谷「ああああああ!!!」
ゆっくりとナックルが倒れる。
樋口とウィドー。
刹那さらに伸びるワイヤー。樋口の左腕から胴体に絡みつくワイヤ。すかさず引き寄せるウィドー…
だが、左腕でワイヤーを伸ばし、ウィドーの首にワイヤをからめ背中越しに飛び越えると、そのまま背負い(必殺仕事人)。
ウィドー「がふッ!」
ウィドー死亡。
樋口のもとに走りよろうとする神谷。しかし背後でナックルがゆらりと起き上がる。
神谷の背後のナックルに気付く樋口。神谷のもとにダッシュ。
「してやったり」な顔を向けた神谷をすり抜け、ナックルにとどめの一撃を刺す樋口。
驚いて振り向く神谷。樋口はじゃっかん咎める様な目で神谷を見る。複雑な表情の神谷。
樋口「行くぞ」
神谷「……ああ」
11【神谷vs白狼】
◆1ギルド本部(決闘場2)。林の中(?)。
二人が次の決戦場につくと、白狼が刀を鞘から抜きはらったところ。
一歩前に出る樋口を神谷が制す。
神谷「ここは俺にやらせてくれ」
刀を抜きながら一歩前に出る神谷。並々ならぬものを感じ、神谷に譲る樋口。
円を描くように歩きながら白狼。
白狼「……何をしに来た? 復讐はどうした?」
首を振って否定する神谷。
神谷「……答えが無かった。だから、ここへ来た。僕は、自分で答えを見つけるために先へ行く」
白狼「負け犬に先へ行く資格など、ない」
切り結ぶ両者。
神谷「なら、あんたを倒してその資格を手に入れてみせる!」
無言で神谷を睨みつける白狼。
剣戟、擦れ違いざま、神谷の耳もとに小声で、
白狼「この程度では――越えられん」
振り向きざま銃を抜き神谷の刀を破壊する白狼。あわてて銃に持ちかえる神谷。
助けに入ろうするが、なんとか思いとどまる樋口。
白狼「攻撃も行動も、全て予測の範囲内。決まった動きしかしないつまらんゲームをしている気分だ」
樋口を見る白狼に、
神谷「俺を見ろよ!」
銃を撃つ神谷だが、白狼の刀と銃身で全てはじかれてしまう。
白狼圧倒的優勢の戦闘。神谷、銃を撃ったり、銃のグリップを握ってミニトンファーみたいにして殴ったり、また撃ったり。だが、白狼には効かない。
やられそうになる神谷(弟)に神谷(兄)を重ねてしまう樋口。
樋口「神谷!」
神谷「あんたは出て来るな!」
肩で息をする神谷。神谷を見下ろす白狼。銃を見下ろしている神谷。兄の姿を見る神谷。振りかぶる白狼。
12【上層部からの電話】
◆1ギルド本部(決闘場外)
入江の携帯電話が鳴る。出る入江。声を聞いて顔色が変わる。
入江「これはこれは――はっ?」
風の音で全ての会話は聞こえない。
入江「――」
怒りの表情の入江。
入江「――お言葉ですが――私を切り捨てるおつもりですか?」
電話が切れる。
イライラ入江。携帯電話を握り締め、
入江「この私を……」
決闘場2のほうを睨む。
13【白狼戦→入江戦】
◆1ギルド本部(決闘場2)
白狼の攻撃を神谷が捌き始める。やがて、完全に見切ってみせる。相変わらず攻撃は効かないが、白狼の攻撃をくらわなくなった神谷。
神谷「分かってきたよ。複雑に見せてはいるが、いくつかのパターンの繰り返し。決まった動きしかできないのはあんたの方も同じだな」
白狼「……それが分かったところで、お前に勝ち目は無い」
たしかに疲弊している神谷、しかし笑う。白狼の攻撃を受け止め、受け止めきれず神谷吹っ飛ぶ。吹っ飛ばされる最中、二連射を連続。二発目の弾丸が前の弾丸を弾いて弾道を変える。撃った瞬間の銃口の角度からでは予想不可能の変化。白狼にかする。
神谷「なら、マニュアルにない攻撃はどうする?」
落ちている石や、刀やマガジンや薬莢を経由しての跳弾攻撃。自分にも掠ったりするが、ともかく、白狼へ当たる。狼狽する白狼。神谷、その好機を逃さず、駆け寄りざま刀で突き。白狼の腹部を貫通する刀。しかし白狼もまたその状態で反撃を試みるが…神谷が刀を抜きざま回し蹴り一閃、吹き飛ばされる。
倒れながらも任務達成困難と判断し、下がろうとする白狼。
そこへ乱入してきた入江が止めを刺す。
14【入江戦】
◆1ギルド本部(決闘場2)
心なしか息を切らせている入江。次第に呼吸が整っていく。笑顔に。
神谷「貴様ァッ!」
神谷の放った弾丸を難なくかわす入江。
入江「――ここは暗い。せっかくの天気だというのに。もう少し明るいところにいきましょうか」
踵を返す入江。追う二人。
◆2ギルド本部(決闘場3)。太陽の下。
入江「神は我々人に、尊き太陽を与えたもうた。そして犬には、光を忌んで、闇をば好むは人のサガを与えたもうた。狭くて暗い路地裏を、一列に並ぶ犬の群れ」
顔を見合わせる神谷と樋口。
入江「彼らは皆、自らの凶器を握り締め、目の前の背中を睨みつけ、撃鉄の音を背後に聞いて、声を上げて泣くのです」
入江に武器を突きつける二人。肩をすくめ、眉を寄せる入江。
入江「ジョークくらい最後まで言わせていただきたいものだ。ここからが傑作なのに――まあいいでしょう。始めましょうか」
入江、トンファー出し、戦闘開始。
樋口と神谷、同時攻撃。押される入江。
入江、小声で、
入江「調子にのるな」
二人を吹っ飛ばす入江。すぐ起き上がる二人。おどけてみせる入江。
入江「――なんてね。つい興奮してしまった。なにせずいぶんと久し振りなものでね」
闘ううちに次第に入江優勢に。
神谷の攻撃を軽くいなす。
入江「十分愉しんだでしょう? 脇役は、さっさと退場しろ」
神谷を片手で吹っ飛ばす。大ダメージで立ち上がれなくなる神谷。
樋口と入江の対決。
入江、樋口を打ち据え、上気した顔で見下し、入江を見上げる樋口の目の前で、入江変身(強化服?)。
樋口の渾身の攻撃。しかし入江には効かない。
入江「野良犬の牙が私に通用すると?」
刀を弾き飛ばされる樋口。
入江「思えばあなたも可哀想な人だ樋口君。戻ってきませんか? 再び飼い犬となりなさい。今なら君の戦闘能力を高く買っても――」
遮るように樋口、
樋口「俺は、お前を倒すために来た。妹と、アイツと一緒にな」
半身前に出して入江を睨みつける。
入江「私を倒しに? 大歓迎だ。けれど、それはお門違いですよ」
樋口「なに?」
入江「あれは、あなたのせいなんですから」
樋口が怪訝そうな顔をしつつ徒手で構える。神谷、銃のマガジンを交換しながら隙をうかがっている。
入江「……おとなしく飼われていればよかったんですよ。それをたかだか一人の肉親のために」
神谷が、反応する。樋口、拳を握り締め、右手は無意識に左腕を解放しようとしている。
入江「何の不自由も不都合もなかった筈だ。それなのに、組織を抜けるなんて――全部あなたのせいでしょう!?」
一瞬、思考停止状態の樋口。
樋口「入江ぇ!」
樋口キレ、全開モード。足手刀を救い上げてまわりながら右手でキャッチ。高速格闘開始。
何度かの打ち合いの末に、再び刀を弾かれてしまう。それをきっかけに、樋口、左 腕解放。驚く入江。
樋口の両手ラッシュ。次第に防御するしかなくなる入江。樋口の攻撃が入江の装甲を砕いていく。
ついにトドメ! という所で樋口の左腕から出血(壊れる)。反射的に左腕を一度引こうとする樋口。この機を逃さぬ! と入江、掴みかかろうとする。そこへ、隙見たり! と神谷が入江の装甲へ二発づつ四連弾。入江の両腕を弾く。
その一瞬を逃さず、樋口、刀を拾って胴を薙ぎに行く。しかし、入江、両腕の鉄鋼で刀を受け、骨で止め、こらえる。二人の動きが止まる。
神谷、声にならない叫びと共に立ち上がり、駆け出す。
刀を押し戻す入江。左手が崩壊していく樋口。そこへ神谷の、飛び回し蹴り。刀を後押しする。
入江「おおおおおおお!」
樋口「おおおおおおお!」
神谷「おおおおおおお!」
入江、上半身と下半身まっぷたつ。
入江「そんな……」
入江絶命。
◆3ギルド本部(決闘場3)
空を見上げながら神谷、
神谷「僕は――兄さんと同じ場所、立てたかな」
樋口、いたわるようなやさしい笑顔。
樋口「どうする? 俺を殺すか?」
いや、と首を振る神谷。言葉にしてもう一度言う。
神谷「いや。――大丈夫。僕も先へ行けた」
神谷、やすらかな顔。
O.Lして帰路につく二人。
15【ラストシーン】
◆1T字路。
岐路で立ち止まる二人。
樋口「俺は行く。お前はどうする?」
神谷しばし悩んで、
神谷「僕は、僕の道を。――でも、ひょっとしたらまた会うかも(はにかむ)」
樋口「道が重なればな」
神谷「(樋口に背を向け前を指し)僕はこっちへ行きます。(背後、樋口の方を指差して)あんたは向こう。――昔、映画で見て、一度やってみたかった」
苦笑し、背を合わせる樋口。
樋口「わかった」
神谷「いい? 合図と同時に全力でダッシュ。決して振り返っちゃ駄目だ」
樋口「ああ」
頷く神谷。
神谷「ok。じゃあ、いくぜ」
一度空を見上げる神谷。深く息を吸い込み、
神谷「Goッ!」
二人、別々の方向に走り出す。
【了――エンドロール】