mother
青樹 星
その1 啓太くん
おばあちゃんから、啓太くん宛てにピカピカ光るランドセルが届きました。
「啓太、よかったねおばあちゃんからの入学お祝いだよ」
お父さんがにこにこして言いました。
でも啓太くんはこんなすてきなプレゼントをもらっているというのに、浮かない顔です。
「どうしたの?学校へ行くのあんなに楽しみにしていたのに」
お母さんが心配そうに言います。
啓太くんは少し泣きそうな顔になっていました。
「学校へ行きたくないの?」
啓太くんを自分の方へ引き寄せお母さんはやさしく聞きます。
「学校はきっと宝島よ!沢山の友達をつくって、いろいろなことを勉強して、いっぱい、いっぱい遊んで、大きくなる場所なんだから。そんな顔をしないで」
お母さんはそう言うと啓太くんを抱きしめてくれました。
啓太くんはたえられなくなって、とうとう泣き出してしまいます。
「啓太、学校は楽しいぞ!野球やサッカーが出来るぐらい友達が出来るんだからな!」
お父さんも啓太くんに優しく言います。
「でも・・・お母さん・・・」
啓太くんは潤んだ目でお母さんを見上げました。
「でも?」
くすん、と鼻をならして啓太くんはこう言いました。
「でも、お母さん。学校はお母さんのお弁当が食べれない所でしょう?お母さんのお弁当は世界一なのに・・・食べれなくなるのは嫌だよ」
啓太くんの言葉にお母さんとお父さんは顔を見合わせて笑いました。
その2 ななちゃん
ななちゃんは今年の春から小学校3年生になります。
でも、ななちゃんは少しだけゆううつな気持ちでした。なぜなら、3年生にはクラス替えがあるからです。
ななちゃんは、仲良しの春香ちゃんと別々のクラスになってしまうのではないかと考えると、夜も眠れなくなってしまいます。
ある夜、ベッドの中でさびしくて泣いていると、お母さんがやってきました。
最近、元気のない、お母さんはななちゃんに気づいていたのです。
「どうしたの?ななちゃん」
お母さんはベッドの端に腰をおろして、ななちゃんの頭をやさしくなでてくれました。
「お母さん・・・」
ななちゃんはベッドから起き上がりお母さんの腕の中に小さな身体を埋めました。
「どうしたのかな?」
「お母さん、3年生になるのがいやなの」
「あら、どうして?」
お母さんは、優しく聞きます。
「だって、春香ちゃんと別々のクラスになっちゃうかもしれないんだもの」
お母さんはななちゃんの両肩をしっかりと掴んで言いました。
「あら、そんなことなの?二人の仲は、それぐらいのことで、終わってしまうのかしら?」
お母さんの顔を見上げてななちゃんは、気付きました。
そう、そんなことはありません。
お母さんのいうとおりだと、ななちゃんは思いました。
その3 勇気くん
勇気くんは、学校でよくけんかをします。
今日も後ろの席のただしくんとけんかをしてしまいました。
「どうして、勇気くんはすぐけんかをするの?」
担任の多田先生に質問されても、勇気くんは口を開きませんでした。ただ、だまったまま、下を向いているだけです。
「明日、お母さんに来てお話しますからね」
多田先生は美人だけど、すぐ、お母さんをよびたがるので、勇気くんはあまり好きになれませんでした。
その日、勇気くんが家に帰ると、お母さんが鬼のような顔をしていました。
「勇気!あれほど、けんかはだめだって言っているのに!!」
幼稚園の頃から、喧嘩っ早い息子に常々お母さんは口に梅干を沢山入れているような顔で言ってたのです。そのせいか、小学校へ入学したての頃はとても大人しくてよい子で過ごしていたんです。でも、勇気くんは、小学校2年生に進級してから、また、けんかばかりするようになりました。
「今日こそ、けんかの理由を話してもらうから!!」
お母さんは、居間のソファーに座り、勇気くんを手招きして隣に座らせると、口を開きました。
「お母さんも、多田先生苦手だから・・・あんまり学校へ行きたくないんだよね」
「ほんと?!おかあさんも!!」
勇気くんの目が嬉しそうに輝きます。
「そう。だから、けんかの理由をちゃんとお母さんに言ってよ。どうせ、勇気のことだから・・・理由があってけんかしてるんでしょう」
お母さんの言葉に頷く勇気くん。
「後ろの席のただしが、僕の隣の席の香織ちゃんのみつあみを後ろからひっぱるんだよ。だから、注意したら・・・ただしの奴が、香織ちゃんにもっと意地悪をはじめたんだ」
勇気くんの小さい肩に腕を回して、お母さんがにやりと笑う。
「勇気、やるじゃん!」