みさちゃんと妖精 



 みさちゃんは小学5年生の女の子。

今週末はカレンダーの数字の赤い日がならんで久し振りの連休でした。

みさちゃんは連休にお母さんと一緒に新幹線に乗って少し遠い所に住む、お母さんの妹のおうちに泊まりに行く予定でした。

おばさんはみさちゃんに、いろいろな所へ連れて行ってくれる約束をしていてくれたのに、みさちゃんは風邪をひいて熱を出してしまったのです。

とても、楽しみにしていたのに。

みさちゃんは、ベッドの中で冷たい枕におでこをこすりつけながら少しだけ鼻をすすりました。

「せっかく楽しみにしていたのに」

それに、この旅行を楽しみにしていたのはみさちゃんだけじゃなかったことを、みさちゃんは知っていました。

「お母さん、とっても楽しみにしていたのに・・・」

みさちゃんは、久し振りに仲良しの妹と会えるはずだったお母さんもとってもがっかりしていることが分かっていたので、とてもつらく思いました。

でも、お母さんはいつも素敵な笑顔でいてくれたのでみさちゃんもがっかりした顔をしないようにしていました。

「お母さんが笑っているからみさは早くよくならなくちゃ」

みさちゃんは言いました。

すると。

「えらいなぁ」

だれもいないはずの部屋から声が聞こえてきたのです。

「だあれ?」

みさちゃんが言うと。

「ここだよ!」

本棚に飾ってあった真っ白なうさぎのぬいぐるみのうしろから妖精が飛び出してきました。

「やぁ!」

妖精は掛け声を出すと、ぴょんとみさちゃんの掛け布団の上に飛び乗ってきました。

「泣いていたの?」

妖精はみさちゃんの顔を覗きこみました。

「な、泣いてなんかいないよ」

「ホント?」

ちっちゃい人間はそう言いながらみさちゃんのほっぺについたしずくをぺろりとなめます。

「なみだの味がするよ。どうして泣いているの?」

「あのね。みさのせいで、お母さんをがっかりさせちゃったの」

妖精はにっこりと笑って言いました。

「やさしいんだね。でも、ぼくは知っているよ。みさちゃんも旅行を楽しみにしていたことを」

「ほんと?」

みさちゃんはおどろきました。

「うん。だって、みさちゃん。毎日、お母さんと一緒に旅行の計画を考えていたでしょ」

「すごい、何でそんなことを知っているの?」

妖精は自慢げに言います。

「そりゃぁ。妖精だからね」

「そうなんだ」

みさちゃんが胸を張っている妖精を見てくすりと笑いました。

「旅行には連れて行けないけど。みさちゃんとお母さんを星空の旅に連れて行ってあげられるよ」

「ほんと!」

みさちゃんは喜びましたが、すぐに自分には熱があることを思い出しました。

「でも、みさ・・・熱があるから。外に出たらもっと悪くなっちゃうよ」

妖精は首を横に振りながら言います。

「大丈夫。みさちゃんもお母さんもベッドの上に乗ったまま空を飛べるんだよ」

そう言うと妖精が不思議な言葉で呪文をとなえると、みさちゃんのベッドがふんわり浮かび上がったのです。

気づくともう星空と同じ高さにみさちゃんはいました。

「さぁ。後ろを見てごらんよ」

みさちゃんが後ろを振り返ると。

「お母さん!」

「みさちゃん!」

お母さんのベッドがみさちゃんのベッドの後ろに並んでいたのです。

「お母さん!一緒に乗ろうよ!」

みさちゃんが、言うとお母さんはジャンプをしてみさちゃんのベッドに乗りました。

「素敵!」

お母さんが満天の空に両手を広げて叫びます。

「北極星がダイアモンドみたい!」

みさちゃんはダイアモンドなんて本当はみたことなかったのですが、きっと北極星のようにきらきらしたものだろうなと思ったのです。

「本当ね」

お母さんがみさちゃんを掛け布団ごと抱きしめてくれました。

「星が手にとどくよう・・・」

天の川の上をベッドが、小船のように揺れるように走ります。

天の川にお母さんが片手を伸ばしました。

「冷たくない・・・みさも手を伸ばしてみて」

みさちゃんはおかあさんの言ったとおり手をきらきら光る天の川に手を差し伸べました。

「わぁ〜」

天の川に手を入れると、水のかわりにぴかぴか光るスパンコールのようなちっちゃな星が手にくっついてきました。

「素敵、素敵!ありがとう妖精さん!」

みさちゃんのベッドのはしっこで、鼻歌を歌っていた妖精がにっこりと笑います。

「よろこんでくれて、うれしいよ」

「ありがとう妖精さん。ところで、どうしてこんなに親切にしてくれるのかしら?」

お母さんが妖精に質問をすると。

「みさちゃんが前にぼくを助けてくれたから。覚えている?学校の帰り道に小さなスミレを助けてくれたことを。道の真ん中で間違って咲いてしまったぼくをつぶされないように、大きな木下に植え直してくれたこと」

妖精がにっこり微笑みました。

「ありがとうって言いたかったのはぼくのほうだよ」

そう言うと妖精はきらきらしながら姿を消してしまいました。

そして、気がつくとみさちゃんは自分のお部屋にいたのです。

なぜかお母さんがみさちゃんと一緒に寝ていました。

「みさ?」

お母さんは目を覚ますと起き上がりながらみさちゃんのおでこに手の平にあててうれしそうに言います。

「よかった、熱が下がったんだね」

「うん」

そう言うとみさちゃんも起き上がります。

「ねぇ。お母さん見て」

みさちゃんはお母さんの手と自分の手にきらきら光る星のかけらが輝いていることに気づきました。

二人は顔を見合わせにっこりしました。

スミレの妖精さんのお礼のかけらがきらきら光っています。