§8.根税制の詳細
以下の説明では、数学的な厳密さよりも分かり易さを優先した。
その意味で、数学の得意な人は、かえって煩わしく感じるかもしれない。
それは、ひとつには数学に不得手な人もいることを配慮した為だが、
ひとつには私自身が数学から長く遠ざかり、忘れたことが多い為でもある。
先ず、出発点となる平方根型の税制は、次のような数式になる。
T(A)=A−B(A) ……Tは税額、Aは所得額、Bは手取り額
B(A)=m√[A/m]=m{(A/m)**(1/2)} ……mは課税最低限
今、簡便の為に課税最低限をm=100万円として、
幾つかの所得額に対する手取り額を計算すると次のようになる。
100万円……100万円×√1=100万円
200万円……100万円×√2=142万円
1000万円……100万円×√10=317万円
つまり、平方根型は相当きつい累進率になることが分かる。
そこで、累進率を変える為に累進係数R(0〜1の実数)を導入する。
B(A)=m{(A/m)**R}
よって、R=1/2 で平方根税制、R=0 で悪平等税制、R=1 で定率税制となるが、
この方法ではRが1の時に税額も零になるなど、税収総額を決めることが出来ない。
そこで次に、基準手取り率S(正の実数)を導入する。
B(A)=Sm{(A/m)**R}
更に、課税最低限で0=T(m)=m−B(m)となるように、第二項を加える。
B(A)=Sm{(A/m)**R}+m(1−S)
=m+S{(A**R)(m**(1−R))−m}
その時、3種のR値についての実際の数式は次のようになる。
R=0(悪平等税制)……B(A)=m
R=1/2(平方根税制)……B(A)=m+S(√[Am]−m)
R=1(定率税制)……B(A)=m+S(A−m)
あとは、Rの決定後に、所定の税収が得られるようにSを修正するものとする。
Rが0に近づく場合、mを変える操作も必要になるが、
R=1/2 で既にあれだけの累進率となる以上、その可能性は小さいだろう。
実際の運用では、例えば三年毎の参議院選挙と同時に国民投票をやり、
その結果に従ってRの値を動かすことにする。
その時、出発点となるRの値を決める必要があるが、
それには消費税導入以前の累進税率のグラフに最も近い値を採用するのが良いだろう。
概算では、およそ R=3/4=0.75 (m=330, S=1.35)で同等の累進率となる。
便宜上、A−mを横軸にとってグラフを描くと
税額グラフと
税率グラフはこのようになる。
エクセルをお持ちの方は、これを使えばRとSを適当に変えて
税額グラフと
税率グラフを描くことも出来る。
因みに、以上で言う税率とはあくまで所得の各部分毎にかかる限界税率のことであって、
所得全体にかかる通算税率とは異なる。
そこで今、便宜的にn=1000Rとし、nを0〜1000の整数と考える。
よって、出発点はn=750 となるが、投票結果に従ってこの値に1を加減することにする。
技術的な問題として、当初はなるべく速く累進率を国民の総意に近づける必要がある。
その意味で『暫くの間は国民投票を毎年やる』というのが一つの方法である。
また『投票結果が前回と同じ場合、nに加減する値を倍に増やす』手もある。
或いは『格差過大の得票率が格差過少の得票率を5%上回る毎に、
nに加減する値を2、3と増やす』という方法も考えられる。
後は、周辺的な問題を詰める必要がある。
第一に『家族単位の課税方式』を採用するものとする。
つまり、両親と子供・老人の扶養家族を前提にして、次のように計算する。
先ず、両親の所得を合計して、家族の総所得を求める。
その場合、妻のパート労働や、子供のアルバイトによる収入は除外しても良い。
次に、家族の総所得を次の比率で、各人に割り当てる。
両親は各々1、扶養家族は各々1/2とする。
最後に、各人に割り当てた所得に対して上述した累進税率で税額を計算し、
各人の税額を合計して家族の総税額を求める。
ここで一つの重要な問題は、出生率の増加を促す為の動機付けである。
今、家族の総所得を割り当てる時の比率で、子供の割合を1/2から1に増やす。
こうすると、例えば親子4人家族の所得は4人分に均等分割されるから、
累進税率の性格に伴って、家族の税額は大幅に減ることになる。
つまり、子供を沢山作るほど税額が減る効果が生まれるから、
夫婦はより積極的に子供を生むようになるだろう。
ただ、これに対しては『子供を産む可能性のある若い夫婦は元々、所得が余り多くないから、
こうした減税の効果も限定的なものに過ぎない』という批判があり得るだろう。
ならば、さらなる優遇策として『子供を生んだ夫婦は、
生涯に渡って減税を受けられるようにする』のが良いかもしれない。
例えば『子供が独立した後も、子供1人当たり1/2人位の割合で、
幽霊家族数を割り当てる』といった方策が考えられる。
残された問題は『仮に子供が死んだり、夫婦が離婚したりした場合も尚、
優遇策を続けるのかどうか』という点に絞られるだろう。
その減税効果は、特に累進税率の高い金持ちにとって大きいから、
金持ちほど沢山の子供を作る必要に迫られることになる。
こうして、比較的に優秀な遺伝子を持つ金持ちの子供が増えれば、
将来的には日本人全体の水準が上がる効果も期待できるだろう。
結局『長引く不況を一掃して瀕死の日本経済を救い、共産主義の愚かな暴力主義を根絶し、
少子化問題を解決して将来への不安を取り除き、更には日本国民の知的水準を引き上げる』
という意味において、この税制は一石四鳥の起死回生策と言えるに違いない。
その他で重要な点は以下の通りである。
第一に、消費税は廃止する。
それは根税制を導入する主要目的の一つでもあった。
第二に、配偶者控除や扶養控除は廃止する。
家族単位の課税方式では、既にその点が考慮されているからである。
第三に、サラリーマンの納税に関しては、自己申告と源泉分離の選択制とする。
その場合、税務署が忙しくなり過ぎることを避ける為には、
源泉分離方式に充分な優遇処置を付ける必要があるだろう。
第四に、上述した累進税率は、所得税だけでなく相続税にも適用するものとする。
その場合、所得税と相続税のバランスを決めるのは国会の仕事となるだろう。
最後に断っておきたいのは、私は税制の専門家ではないということである。
よって、以上の説明はあくまで概念としての根税制の根幹を示すことに主眼があり、
その内容も実際の税制を作る上での叩き台と見なして欲しい。
その意味で、細部の修正と肉付けは、理念に賛同してくれる実務家の検討を待ちたいと思う。
他方、数学に得意な方々には、国民投票で貧富格差を決めるという意味で、
もし根関数より優れた関数をご存じなら、是非それを提案して頂きたい。
以上で『悟るとはどういうことか?』の本文を一応終了する。
長い間、つき合ってくれた方々には心からお礼を言いたい。
実際問題として、現在の日本が抱える課題は多岐に渡っている。
しかし、その中でも税制の問題はそれが政治の根幹をなすものであることを考えれば、
世直しに於いて何を差し置いても先ず手を付けるべき所だろう。
その意味で、ここでは税制の問題を最優先したが、
他にも重要な問題が多々あることは事実である。
そこで、次回以降は幾つか語り残した緊急問題を付録としてまとめたいと思う。
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